第2話 戦車道を選べだぁ?寝言言ってんじゃねぇよ!
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<龍Side>
場所は茨城県 大洗市の学校である”大洗学園”の学園艦の一角にある学生寮の一室……。
ピッ!ピピピピッ!!
と、およそ6割の人は聞きたくないであろう無機質な電子音が鳴り響き、部屋の主を容赦なく心地良い夢から覚醒させていく。
「……んだよ、もう朝か?」
そうして起こされた主……もとい、この作品の”主人公”である俺……|喜多川龍《きたがわりゅう》は、なかなかエンジンの掛からない頭を無理やりフル回転させつつ、ベッドから起き上がる。
あー……くそが……。
それ並みに寝たはずなのに、未だに疲れが取れてねぇ……なんか派手に疲れる様なことしたか、俺?
重い頭と体を無理やり動かそうする間にも、容赦なくなり続ける目覚まし時計の無機質な電子音。
普段なら、何な大した事のない電子音だが、今の俺には少なからず癪に障る音声だ。
「分かってますよ……、おきますよ……」
電子音を立てる目覚まし時計に対し、帰ってくるはずもない返事をしつつ、ベッドから起き上がるが、この間にも目覚まし時計は容赦なく電子音を上げ、俺に起床し、次の行動に出る様に告げる。
そんな目覚まし時計を止めるべく、俺はベッドのすぐ傍にある棚の上に手を伸ばすが、よっぽど目覚まし時計は鳴っていたいのか、俺の手が届くよりも先に床に落ち、ガチャン!と言う音と共に転がっていく。
んでもって、目覚まし時計は、こんな結構なダメージを受けつつも、相変わらず深いな電子音を立て続ける。
「チッ!」
少なからずカチン!と来た俺は枕元に置いてあった”シグP220……もとい、9ミリ拳銃(※エアガン)”を手に取るなり、スライドを引き、目覚まし時計に銃口を向けるなり、1発ズガン!と撃ち込んでやる。
この一撃が効いた……基、ぶっ壊れたのか、目覚まし時計は一気に静かになる。
「メカのくせして、人間舐めた事すんじゃねよ!コノヤロー!!」
ようやく静かになった目覚まし時計に対して、大物お笑い芸人が主演・監督を務めたレイジなヤクザ映画の登場人物の様にキレつつ、ようやく回り始めた頭と体を動かして、朝の身支度を整える。
んでもって、日本中の学生が毎朝やっている様に歯を磨き、寝癖を直し、寝巻からハンガーにかけた制服に着替えた後、スマホやら、財布やらを教科書やノート等が入ってるカバンに突っ込み、登校の準備を終える。
終えるや否や朝食にしようかと思い、冷蔵庫の中を開けるが……よりによって、こんな時に何もないのだ。
「あー、クソが……」
昨日の内に冷蔵庫の中身を確認しておくべきだったな……。
そんな後悔の念が湧いてくるが、こればかりは仕方ないので、素直に諦める事にした。
ま……不幸中の幸いと言うべきか、この寮の近所には評判の良いパン屋がある。
そこでパンでも買って食べつつ、登校するか……。あそこの明太フランス、滅茶苦茶美味いんだよな~。
そんな考えが頭の中に浮かんだ俺は、さっそく実行するべくリュックサックを背中に掛け、寮を出た。
そうして、出た外は雲一つない晴天が広がる心地の良い天気だ。
天気が良いと、自然と気分が良くなり、足取りも軽くなる。
なんか良い事あるかもな~……。
何処ともなく、ふとそんな考えが湧いてくる中、目的のパン屋にたどり着いた俺はドアを開けて店内へ。
ドアを開けると同時にカラン、コロン♪と景気良くドアベルが鳴り、店内で焼けたパンを棚だししていたパン屋のおばちゃんが「あらー!」と笑顔で俺の方を振り向きながら、こう言い放つ。
「龍君、来たのー?丁度、明太フランス焼けたわよー!!」
「じゃあ、それ1つお願いします。あと缶コーヒーも1つ」
「はい、ありがとうねぇ~!オマケにレーズンパン付けてあるからね」
「あぁ、どうも」
そう手短に顔なじみの客と店員といった感じの会話を交わしつつ、店を出た俺は買った缶コーヒーを手に取り、景気良い音と共に開けつつ、コーヒーを喉へと流し込む。
瞬間、体中に糖分とカフェインが染みわたっていくのを感じながら、明太フランスを手に取り、朝食にしようとした……その時だった。
「ぶへっ!?」
と、安いギャグ漫画の吹き出しにでも書かれていそうな声が聞こえてくるので、その音がした方向に顔を向けると、そこに居たのは、幼馴染の”西住みほ|《にしずみ》”が電柱並びに看板に正面衝突していた。
「痛てて……」
「バカかオメーは?」
「りゅ、龍君!?」
俺の超ド!ストレートな指摘に対して、額をさすっていたみほが赤面しつつ、何か言おうとするが、混乱の余り言葉が出ないらしく、「あわわわっ!」と慌てている。
うーん……近くに穴の開いたマンホールでもあったら、そのままホールインワンしそうだな……。この幼馴染……。
っていうか、|コイツ《みほ》は昔っから、こんな感じだったよなぁ……。
事ある度にアワアワしていて、俺が出てきて何とかする……って感じで……。
良くも悪くも昔通りと言うべきか……、変わってないと言うべきか……、全く学習してないと言うべきか……うん。
トまぁ……色々と考えれば、考える程、何が何だか良く分からなくなってくる状況を前に”どーでも良くなってきた”俺は、頭の中の思考回路を強制的にシャットダウンして、みほに呆れつつも、話しかける。
「とりあえず無事か?無事なら、学校行くぞ!!ったく、もー!!!」
「う、うん!そうだね!!」
そう言って俺の指摘に対して、改まった様子のみほと一緒に俺は学校へと向かうのだった。
とまぁ、言った感じで幼馴染のみほと合流した所で、俺とみほの経緯&なれそめに関して、少し話せてもらおう……って、何?
「そんなものいらねーよ、主人公」だって?
ウルセー、バカヤロー!!黙って聞いとけ、ボケェ!!!
えー……トまぁ、軽く吠えた所で説明させてもらうぞ。
俺の家系は曽祖父の代から軍人並びに自衛官の家系で、俗に言う”軍人家系”と言う奴である。
曽祖父は旧日本陸軍の砲兵隊の司令官として硫黄島の戦いに動員された職業軍人である。
その息子である俺の爺ちゃんは、警察予備隊及び保安隊の隊員として従事した後、創設間も無い陸上自衛隊のパラシュート部隊……後の第1空挺団の空挺団長を務めていた。
そんで、その息子である親父は自衛隊の”機甲部隊(戦車部隊)”の幹部自衛官として、福岡に新設された機甲部隊……第12機甲大隊の大隊長を務めている。
で、その第12機甲大隊に関して、少し簡単に説明すると、かつて新潟に存在した陸上自衛隊の師団……第12師団内に編成されていた”第12戦車大隊”の復活ではない。
今現在、陸上自衛隊が進めている南西諸島防衛を主眼とした再編成の中における一環として創設された機甲部隊だ。
その陸上自衛隊は、今現在、かつての対ソ連に対する防衛計画から、南西諸島への進出を図ろうとする某国及び、統一の末に日本の仮想敵国となる可能性が”大”の某国との軍事的衝突の発生を想定し、そのリスクに備えた防衛計画を進めている。
その中で今現在の軍事的情勢及び主戦場となる事が想定される九州沖縄地区の離島諸島の防衛には、軽装備かつ少数精鋭の特殊部隊及び無人機による戦いがメインとなり、|戦車《機甲》や|大砲《特科》と言った重装備が向かないと想定し、今現在、これらの職種の削減に当たっている。
そんな中で時代の流れ及び方針に逆行するかのように第12機甲大隊は新設された。
その編成内容は本部管理中隊を始めとする3個戦車中隊、2個の機械化普通科中隊、1個の偵察小隊、そして1個整備中隊で編成されており、他の第7師団と言った機甲大隊と比較すると比較的コンパクトな編成となっている。
これはどういうことを意味するのか?
先に述べた様に、今現在、戦場の主役は軽装備かつ少数精鋭の特殊部隊及び無人機である。
しかしながらも、戦車や装甲車、火砲と言った重装備の有効性が消えた訳では無く、いざと言う時には切り札として活用する事が想定される。
だからこそ、コンパクトにまとめて動かしやすくしつつ、いざ特殊部隊や無人機だけでは、どうにもならない……って時に、素早く展開可能ながらも、反撃に有効な機動力と打撃力を兼ね備えた機甲部隊として、第12機甲大隊が新設されたのだ。
さらに言えば、陸上自衛隊の南西諸島防衛計画の切り札ともいえる……日本版海兵隊こと、水陸機動旅団の装甲・火力支援の役割も兼ね備えていると言われている。
んで、その第12機甲大隊の新説を唱えたのが、俺の親父……もとい、|喜多川英雄《きたがわひでお》一等陸佐である。
幼い頃から、そんな親父の姿を見て育ってきた影響なのか、俺も将来は陸上自衛官……それも機甲部隊の幹部自衛官を目指している。
勿論、俺自身も自衛官になりたいからだ。言っておくが、決して親に強要されている訳じゃない。
そもそもの話、親父は自衛官として尊敬は出来ても、父親としては尊敬できないからな……。
まぁ……俺個人の話だ。ディスプレイの前のお前たちは、気にしなくていいぞ。
んでもって、次に隣にいる幼馴染の美穂に関して、俺の方から少し説明させてもらう。
まず最初に、みほは俺の幼馴染である事は既に何度も書いた事だよな……っていうか、誰だ「リア充爆発しろ」とか言った奴!?
とまぁ、それは後でぶちのめすとして……話を戻して説明するが、みほと幼馴染になった理由は彼女の”実家の家系”にある。
みほの実家の家系は日本でも数ある”戦車道”の流派の中でも、名門とされる”西住流”の家元であり、数ある戦車道の流派の中でも有数の歴史を持つ戦車道の流派として名が知られている。
んで……この時点でディスプレイの前に座る読者諸君は大体は予想が付いていると思うが……、俺の親父がこの西住流を受けていた家門生だった訳よ……。
そんな縁で出会った俺とみほは、俺の親父が陸自の再編成で福岡に新設された第12機甲大隊の司令官に任官したのを機に引っ越すまで、家族ぐるみの付き合いをしていたのが、先に述べた様に親父が新設された第12機甲大隊の大隊長として任官を機に福岡に引っ越しして以降は、離れ離れになってしまい、たまに年賀状のやり取りや夏休み等の纏まった休暇を利用して会いに行く程度の付き合いになっていた。
まぁ……半場、諦め状態で、そんな感じの付き合いが続くと思っていた矢先にみほは”ある事件”から親との関係がギクシャクしている為、それから逃げるような形で突然、俺の在学している大洗学園に転校してきたのよね。いやぁ~、マジでイキナリ転校してきた時は一昔前のギャグマンガか、アメコミなんかで見る様に”目が飛び出る”かと思ったわ……ってか、軽く飛び出て、おまけに心臓も耳から飛び出したわ!
んで、個人的にはこの”事件”に関して言わせてもらうならば、俺はみほの行動は間違っていないと思う。
逆にみほを罵詈雑言の限りを尽くして、非難する西住流の家元&その関係者に対して正直言って嫌悪感を感じる程だ。(※なぉ、これはあくまで個人の意見です。by龍)
とまぁ、こんな感じで知り合い、再開した幼馴染のみほと共に俺は通っている学校……大洗学園の門をくぐるのだった。
…
……
………
数時間後……。
「数学は死ねば良い……」
ふと物騒な事をボヤキ筒、無い知恵を絞りに絞りまくり、完全にオーバーヒート&白煙を吹き出している頭を冷やしつつ、迎えた昼休み……要は昼食時間。
教室に居る生徒達は皆、退屈な授業を終えた解放感を感じつつ、鳴いている腹の虫を静かにするべく食堂へと足を向けていく。
そんな中、未だにオーバーヒートした頭から白煙、口から魂を濛々と吹き出しつつ、机の上で完全に屍と化した俺に対して、話しかけてくる奴が居た。
「大丈夫か?」
「あ゛?見て、分かんねぇのか?」
そう俺が怒りマークを浮かべつつ、言葉を返すのは、”一応、俺の友人兼クラスメート”である|神崎裕也《かんざきゆうや》だ。
特技は空手&柔道(※黒帯)を始めとした、ボクシング、剣道、合気道、テコンドーと言った各種格闘技であり、俺が知る限りでは、この学校でコイツとタイマン張れる奴は数人……いや、片手で数えられるぐらいだろう。
んでもって、こいつを紹介するに当たって絶対に欠かすことができない事がある……それは、こいつが筋金入りのシスコンと言う事である!
コイツの姉貴は、現在、全国区で活躍する大人気セクシーアイドル……|神崎千晶《かんざきちあき》なのだが、まぁ~……とんでもないシスコンである。
元々、共働きで一緒に過ごす時間が多く姉弟仲が良いと言うのは、大変結構な話ではあるが、その影響をモロに受けた為か、家庭に関する話が出たかと思えば、殆ど姉貴に関する話だし、暇さえあれば学校で姉貴の写真集を見てるという、まぁ~……斜めぶっ飛んだシスコンぶり。
おまけに”中学1年生(※お姉さんは当時大学1年生)まで、一緒に風呂入っていた”と言うから、もー、何が何だか……っていうか、「羨ましい!」を取り越して、ガチで引くんだけど!?
つーか、この前も「姉貴の友達のアイドルのCDの売り上げが悪いから、買え!」と言ってきた。お前は姉貴の事務所の回し者か!?
そんな感じの裕也との馴れ初めだが、まぁ~……所謂、進路相談って奴だ。
ほら、この作品読んでるお前らも学生時代に少なからず経験しただろ?
ザックリ言うと、あれよ……先生から「将来はどこの大学にするんですか?それとも就職するんですか?」と聞かれる奴よ。
んで、その際に俺が事前に渡された紙に『防衛大臣』と書いて、渡した後、同じ学校を志願した生徒たちを集めて、進路相談する事があったんだけど、その際にいた”5人の内、俺を除いた4人の1人”が|コイツ《裕也》だったわけよ。
んで、んで、まぁ、そんな感じでお互い同じ進路希望&同じクラスと言う事で、ダラダラとした今どきの男子高校生らしい友人関係となり、今に至る訳だ。
因みに裕也に自衛隊での、希望職種に関して聞くと、陸上自衛隊が誇る精鋭最強にして、唯一無二、精鋭無比の存在……陸上自衛隊が唯一公式に存在を認める特殊部隊『特殊作戦群(※以下、特戦群)』との事らしい。
よー、そんな所を志願するよ……戦車一筋、機甲科志願の俺からすれば、想像もできない場所だぜ……。
そんな特戦群志願の裕也は、俺のキレ気味の返事に対し、呆れた様な口調でこう言い放つ。
「キレるなよ……頭の血管、切れるぞ」
「もうとっくに8本ぐらい、ブチブチ切れてるわ!」
「……大丈夫か?腕の良い脳外科医、紹介するぞ!!」
「うるせー、バカヤロー!!」
この裕也の発言に対し、俺が頭にデカデカと怒りマークを浮かべつつ、裕也に対して、キレていた時だった。
「なぁーに、アンタはキレているのよ?」
と言った感じで、今度は別の声……女子の声が俺の耳に飛び込んできた。
その声の掛けられた方向に俺が顔を向けると、そこに居たのは、俺の中学時代の同級生にして、所属していた戦車道チームのチームメンバーだった……|織田碧《おだみどり》(※以下、織田)だ。
ま~……彼女に関して、紹介するとなると先に述べた様に”中学の時の同級生”と言う事に加え、”所属していた戦車道チームのメンバー”だったと言う事以外、何もないが、彼女の名誉の為(?)に少し付け加えると……。
織田とは、中学時代に所属していた戦車道チームの同期であり、同じ偵察班のメンバーであり、さらに詳しく言うと俺が偵察班の副班長を務めており、織田はそのメンバー……所謂、部下に当たる立場だった。
ま、一言に部下……と言っても、あくまでも形式的な物が強く、立場的に殆ど同じ位置にあったと言えるだろう。
んで、そんな感じでお互いに練習やら、ブリーフィングやら、試合の度にギャー、ギャー言い合いながらも、数々の激戦・死線を潜り抜け、何時しかお互いに『相方』と認め合う中って訳よ。”一応”ね!
そんな一応、相方の織田は呆れた様な口調でこう続ける。
「中学の時に比べりゃ、マシになったかと思ったけど難も変わってないねぇ~……アンタは」
「ウルセ、コノヤロー!一発派手にやったろか!?」
「やめなさいっての!」
俺の言葉に対し、織田が生死を掛けてくる傍で、裕也が織田の方を見つつ、同情する様な表情を浮かべつつ、一言。
「……織田も苦労してんだな」
「ホント!中学の時から、こんな感じよ!!」
そう言って裕也の言葉に返しつつ、織田は呆れやら、怒りやらが色々と混じった口調で織田は「まったく!!」と呟きながら、こう言葉を続けた。
「……とりあえずお昼食べに私は食堂行くけど、二人はどうするの?」
「どうするも何も……お前と同じだよ」
ぶっきらぼうに織田に返事を返しつつ、俺が席から立ち上がった時、ふと俺の視界にみほの姿が映る。
みほは落とした筆箱とノートを拾った後、一人ポツンとため息をつきながら、椅子に座り込んでいた。
元々、引っ込み思案な性格だったが、|此処《大洗学園》に転向してきてからは、それにより一層磨きが掛かってしまっている……。
まぁ……一応、俺が定期的かつ、事ある度に話しかけているので、完全にクラスで孤立している訳では無いんだが……。
え?何?「自分で言うな!」って? ウルセ、バカヤロー!!
まぁ、それは置いといてだな……このまま話せる関係の奴が俺だけというのは、みほにとって色々と良くない……はず!
なので、その状況を打開する為にも、此処は幼馴染として、一肌脱がないと……って、だから「自分で言うな」と言うんじゃねぇよ、バカヤロー!!
とまぁ、本日3回目(※知らんけど)の「バカヤロー!!」を炸裂させつつ、俺は織田と裕也にこう告げる。
「なぁ、みほも一緒で良いか?」
「みほって、お前さんの幼馴染の?」
俺の言葉に対し、確認する様に問いを投げ返してくる裕也に「そ」と手短に言葉を返した瞬間、織田がこう口を開く。
「良いわよ、裕也も問題ないでしょ?」
「あぁ、構わんぞ」
「OK、じゃあ呼んでくるわ」
と、二人から許可を貰えたところで、俺はみほの元に向かう。
そうして、やってきた俺に気付いたみほは、俯いていた顔を上げつつ、こう口を開く。
「あ、龍君……」
「おう!みほ、一緒に飯食いに……」
といった感じで、みほを昼食に誘っていた、その時だった。
「ヘイ!そこのボーイ&ガール!!一緒にお昼……「人が話している最中に割り込んでくるんじゃねよ、バカヤロー!!ブッ飛ばすぞ!?」ちょ、ちょっ、ごめんってば!!」
「ハイ。アンタは一回黙りなさい!!」
「ぶぇあらぁ!?」
と、突然割り込んできた女子の声に本日4回目の「バカヤロー!!」が炸裂したの同時に、俺の頭に織田の愛用のエアガン(※本日はS&W M29)のグリップがめり込んだ……っていうか、マジで痛いんですけど!?
その余りの痛さに人間の出すような声では無い声を上げてしまう中、割り込んできた女子とは別の声が聞こえてくる。
「ほら、沙織さん。人の話に割り込むから……」
と、割り込んだ女子を諫める様に言い放つ女子の声のする方に対し、頭をさすりながら、俺が顔を向けると、そこに居たのはクラスメートの女子である武部沙織|《たけべさおり》と五十鈴華|《いすずはな》の姿があった。
そんな二人に対し、俺が視線を向けると沙織が申し訳なさそうにこう言ってくる。
「ご、ごめんね……。割り込んじゃって……」
「あぁ、気にしなくて良いわよ。こいつ、中学の時からこんなだったし!」
「ウルセ、バカヤロー」
余計な事言う織田に対して、本日5回目のバカヤローを言いつつ、ふとみほの方に視線を向けると、みほはアタフタした様子で俺達の様子を伺っている。
そんな、みほを気遣う様に華がこう言い放つ。
「ほら、みほさん困っていますわ」
「あぁ、ごめんね。それで……改めて、一緒にお昼どう?」
「ん?それって、|コイツ《龍》以外にも、俺や織田も入っているのか?」
そう提案する沙織に対し、裕也が問いかけると、沙織は「うん!」と笑顔で頷きつつ、傍にいた華がこう言葉を続ける。
「えぇ、皆さんでお昼一緒に食べましょう」
「それじゃ、レッツ・ゴー!」
と、沙織が音頭を取る形で俺達は食堂へと移動するのだった……。
…
……
………
んでもって、やってきた食堂。
周りを見まわしてみると、学園の男女が一斉に集まって、昼食を食べつつ、会話を交わしつつ、各々の時間を過ごしている。
同時にこの大洗学園が結構最近になって共学化した名残りとして、男女比の差……圧倒的に女子の方が多いのも分かる。
そんな状況の中、注文を済ませた俺達は開いていた席に座り、昼食を取り始める。
因みに華が絵に描いたような大和撫子の外見なのに食事の内容が”酢豚+ラーメン+ご飯大盛り+味噌汁”と言う内容には、ここだけの話、若干引いた……。
いや、マジで男の俺や裕也でも、これだけのボリュームは食いきれないぞ……。さらに言えば、メインは酢豚か、ラーメンのどっちか1つだよ、普通は……。
っていうか、華の奴、結構な細身でスラっとしているスタイルだぞ……。
そんな細身の体の何処にこれだけの飯&それが生じさせるエネルギーをため込める場所があるってんだよ……?
え?何、「胸じゃないの?」って?バカヤロー!!(※本日6回目)
性欲溢れて、常にムラムラしているチンパンジー状態の中学2年か、オメェーは!?
とまぁ、それは置いておいて……各自昼食をとりつつ、各々の話に花を咲かせている内に、自然と話の内容は俺とみほとの関係についての話に……。
その話をまず最初に持ち出したのは、今、俺の目の前で納豆をかき混ぜている沙織だ。
「んで、龍とみほは幼馴染なんだ?」
「そ!」
沙織に対し、チーズハンバーグを箸で切りながら、手短に答える俺に続く様にみほが答える。
「親の仕事の都合からくる、家族ぐるみの付き合い……って所かな?」
「龍さんのご家族は何のお仕事を?」
「ん?母さんはどこにでもいる専業主婦、親父は陸上自衛隊の幹部自衛官で、福岡の方で戦車部隊の隊長やってる」
そう華の問いに返しつつ、みそ汁をかっ込んでいると沙織と華は感嘆した様な声を上げる。
「凄~い!!」
「立派なお父様ですねぇ~……」
「……そうか?」
感嘆の声を上げる二人に対して、俺は甚だ疑問溢れる口調で言葉を返す。
というのも、遺伝子半分入っていると言う事に加え、息子だからこそ、近くで見てきたから分かる……親父は間違いなく変人の分類に頭突っ込んでいる存在だと……。
なぉ、どこが変人なのかを説明すると、それだけで一話終わりそうだから、省かせてもらうぞ……って、誰が手抜きだゴラ!?
トまぁ、それは置いといて……。
理解不能な表情を浮かべる俺に代わる様に台湾風まぜそばを食べていた織田が興奮した様子で口を開く。
「いや、ガチでお父さん凄いと思うよ!?だって、お父さんが率いている第12機甲大隊って、お父さんの提案した部隊でしょ?」
「まぁ……骨子案は親父だけど……」
「いやぁ~……本当に凄いわー!だって今の防衛計画は戦車を300両にまで削減する物でしょ!?そんな中で、新規の機甲部隊を新設させるって相当なもんだと私は思うよ?」
「……そうか?(※2回目)」
「っていうか、お前ら、周り見ろ。お前らと俺以外のメンバーは殆ど付いてこれてないから……」
「「へ?」」
裕也のこの指摘を受け、俺と織田が周りを見渡すと裕也の言った通り、俺と織田、裕也を除き、みほ達が「何の事やら、さっぱり」とでも言わんばかりの表情でポカンとしていた。
その様子を見ながら、俺は織田に向けて、こう言い放つ。
「お前、中学の時から、スイッチ入ったらマシンガントークになる癖あるよな……」
「事あるごとにキレる癖のあるアンタよりは、マシな癖よ」
「自分で言うか?っていうか、事ある度にキレてるって何だコノヤロー!?」
「ほら、今、キレてんじゃん!」
「んだと、ゴラァ!?やるかあっ!?」
「あー、コラ。二人して、やめなさいっての!」
と、俺と織田が乱闘寸前になるのを裕也が制しているのを見て、「「「アハハハ……」」」と苦笑いしている。
そんな苦笑いしている3人のうちの一人である華が話題を変える様にして、話しかける。
「それで龍さんもお父様と同じ様に自衛官を目指しているのですか?」
「まぁな……一応、親父と同じ機甲科目指してる」
華の問いかけにそう返しつつ、味噌汁を啜りつつ、隣でカレー食ってる裕也を指さしながら、こう続ける。
「あと、こいつも自衛官志望」
「へぇ~……裕也君も、そうなんだー」
「あ?あぁ……」
そう俺の言葉に対し、サバの味噌煮を箸で掴みつつ、みほが感嘆した様な声を上げるのを聞き、当の本人である裕也が突如、話を振られた事に驚きつつも、カツカレーにスプーンをブッ刺しつつ、こう言い放つ。
「まぁね、こいつとは目指している所は違うけど」
「ふーん、どこを希望しているの?」
「特殊作戦群、通称、特作群ってとこ」
「と……特殊作戦群?」
裕也の言い放った”特殊作戦群”と言うワードに対し、頭に?を浮かべつつ、裕也の顔を見つめる|3人《みほ、華、沙織》。
まぁ~……そりゃミリオタでもなけりゃ、特殊作戦群と聞いて、「なんじゃそりゃ?」となるのが、世の常識だろう。
だが、俺のすぐ左隣に居る様な、|筋金入りのミリオタ《織田》なんかは、水を得た魚の様に目が輝いてるぜ……。
そんな織田はキラッキラッに輝く目で、|3人《みほ、華、沙織》の内の誰が求めた訳でもないのに、特殊作戦群に関する説明を始める。
「ま~……一言でいうならば、陸上自衛隊初にして、唯一となる特殊部隊よ。元々、陸上自衛隊には、第1空挺団とか、冬季レンジャーみたいな特殊部隊に当たる存在はあったんだけどね、だけどソ連崩壊及び東西冷戦終結を受けて、世界中でテロ活動が行われるようになると、戦場における特殊部隊の重要性が高まって、自衛隊でも特殊部隊の創設が求められたの!んでもって、90年代後半になり、陸上自衛隊はアメリカ陸軍の特殊部隊である”デルタフォース”とか、イギリス陸軍の特殊部隊である”SAS”等を参考にした特殊部隊を設立を研究・検討した末に平成16年に習志野駐屯地内に創設されたのね。んでもって、通称、Sと呼ばれ……」
「その辺にしろ、バカヤロー!一話まるまる使う気か!?」
「えー?せっかく乗ってきたのに!!」
「うるせぇ!黙れ!!」
スイッチが入り、『もうどうにも止まらない』状態の織田を強制的にストップさせていると、目の前で再びポカンとなっている|3人《みほ、華、沙織》を横目に呆れた様子の裕也がこう言っていくる。
「お前ら、相性良いんだが、悪いんだが分からんな……って言うか、龍、”一話まるまる”って何だ?」
「あ゛?お前は気にしなくていい!世の中、知らなくてもいい事もある!!」
「どういう事!?何、そんな無駄にスケールデカい話なの!?」
俺の問いに対し、全力で疑問符を頭に浮かべつつ、絶叫にも近い声を上げる裕也。
その反対側……俺の左隣にいる織田が乗ってきた調子を俺にへし折られた事に対し、ブー、ブー言っている。
んで、そんな俺達3人を見ながら、再び「「「アハハハ……」」」と苦笑いしている|3人《みほ、華、沙織》。
そんな3人の内の1人であったみほが、話題を変える様に今度は織田に話しかける。
「あの……所で、龍君と織田さんってどんな関係なの?」
「ん?中学の時の同級生」
「っていうか、中学の時に所属していた戦車道チームのチームメイト……更に言っちゃえば、同じ小隊の副隊長と部下の関係だったわね」
「え~と……何というか、その……、凄いね……」
と、みほからすれば、予想もしなかった回答を告げる織田の言葉に対し、困惑した様な表情を浮かべるみほの様子を見て、俺は間髪入れずにこう告げる。
「安心しろ、みほ。お前が思っている様な事は一切ねぇよ。俺も|コイツ《織田》も、お互いにたまたま所属したチームが一緒で、更に同じ小隊のメンバーとして3年間一緒に居ただけ……って感じ。そんな深い物は1ミリも無い」
「そうそう、強いて言えば……戦友的な?」
「あー……、そんな感じだよな」
「何処の戦場からの帰還兵だ、お前らは?」
俺と織田の言葉に対し、ツッコミを入れてくる裕也。そんな裕也は続け様に「っていうか……」と一言呟きながら、こう聞いてくる。
「お前ら、なんで戦車道のある学校に進学しなかったんだ?黒森峰とか、サンダースとか、結構な有名な所あるだろ?」
「あぁ、確かに……聞いて事ありますわね」
「私もー!この前、テレビで見たよ!!」
そう裕也の発言に対し、肯定する様な発言をする沙織と華に対し、俺と織田は「「んー?」」と呟きつつ、お互いの顔を見合わせた後、こう返す。
「「学年主任を殴り倒して、進学できなくなった」」
この俺と織田の発言を前に裕也は「……はぁ?」と呟きつつ、信じられないような表情で俺と織田を見つめ、みほ達は予想の斜め上行く俺と織田の回答にポカーンとしていた。
「まぁ……、普通はそんな反応なるよねぇ~」
「あぁ、予想通りだな」
ある意味、予想通りの反応を見せた裕也達の反応に俺と織田が納得していると、裕也が「いやいやいやいや!」と呟きつつ、手を左右にブンブンと振りながら、こう言葉を続ける。
「学年主任を殴った!?お前ら、それ下手したら……つーか、普通に高校進学できなくなる奴だぞ!?なんで進学できたの!?」
「あ゛ー?んなこと言ったって、俺と織田が殴り倒した学年主任、バリバリの極左&共産主義で、大の自衛隊&戦車道嫌いで、戦車道なんかやってる奴の成績を勝手に改悪していた様な奴だぞ?事あるごとに『これだから戦車道なんて野蛮な事をやっている奴は……』なんて言ってたしな!」
「っていうか、龍の場合は、父親が現役の自衛官と言う事で、学年主任から目の敵にされていたしねぇ~……」
「あ~……、なるほど……。一応、学年主任の方にも非はあったね……」
「「非しかないわ、あのヤロー!!」
とまぁ、裕也の発言に対して、ハモりながら返す俺と織田。
そんな俺達の様子を見て、みほ達は本日、三度目となる苦笑いである。
因みに殴り倒した後、俺と織田はみっちり他の教師たちに絞られた挙句、大量の反省文を書く羽目になったけどね♪
んで、そして俺と織田に殴り倒された学年主任だが、元々、先に述べた左に偏り過ぎた思考&そこからくる業務違反に当たる行為等がしばしば教師達の間でも、問題になっていた事もあってか、教育委員会主導の下、調査が行われ、もう何度も述べた思考&思想からくる業務違反以外にも、単純に女子生徒へのセクハラまがいの行為等も判明し、物の見事に学校をクビ&教員免許を剥奪されたと言う……ざまぁ(笑)
まぁ……それもあってか、俺と織田に与えられた処分が先に述べた、仕出かした事に比べて、比較的軽い物になった訳である。
んでもって、これ故に中学時代は学年主任に散々辛酸をなめさせられた生徒たちの中には、俺と織田の事を英雄扱いする奴もいたねぇ~……。高校生となった今じゃ、斜め上良く武勇伝程度にしかならんけど!
……とまぁ、中学時代の思い出を振り返っていると、今度は沙織が話を変える様に織田に話しかける。
「それで……織田さんは、龍君や裕也君の様に将来は自衛官に?」
「いやぁ~、私はそこまでは考えてないよ。まぁ……少なくとも、何かしら戦車道に関わる仕事には着きたいと思ってはいるわ」
「へぇー、家族や親戚に戦車道の経験者が居るの?」
そう織田の言葉に次の問いを投げかける沙織に対し、織田は台湾風ラーメンを啜りながら、こう答える。
「まぁね。母が昔、戦車道の日本代表の強化選手だったのよねぇ~」
「えー、それ凄いじゃん!」
織田の回答に対し、沙織が上げる感嘆の声を聴きつつ、今度は俺が付け合わせのミックスベジタブルを箸で転がしながら、織田に問い掛ける。
「っていうか、それが縁でお前、小学4年まで台湾に居たって話だったんじゃ?」
「あー、そうそうそう。母が元日本代表強化選手って事で、台湾の大学の戦車道チームの雇われコーチだったの。んで、そんな訳で小学校4年生まで、台湾に住んでいたの」
「そうなんですねぇ~。この前、テレビの旅行番組で台湾の特集があってみたんですが、その中で紹介された小籠包がとっても美味しそうでしたわぁ~♪」
そう言って少し前に放送された旅行番組の中で紹介された、台湾でも屈指の名店として知られる小籠包の店の小籠包を思い出し、今現在で食事中だと言うのにヨダレを垂らしそうになる華。
オメェの満腹中枢、ぶっ壊れてねぇか?腕のいい脳外科医、紹介してやろうか?
とまぁ~……脳内でチラッと、そんな考えが湧いてくる中、突然だった。
「あれぇー?龍先輩達じゃないですか~!」
「ん?あぁ……アキか」
此処に居る誰の物でもない声が俺達に掛けられ、その声に俺達が振り返ると、そこに居たのは俺と織田の中学時代の後輩にして、同じチームのメンバーだった|円谷アキ《つぶらや》の姿があった(※以降、アキ)。
「アキも今から、お昼なの?」
「少し遅くないか?」
アキの姿を確認した俺と織田が二人して、問いかけるとホットドッグセットが載ったトレーを手に佇むアキは「はい♪」と返事をしながら、こう続ける。
「ちょーっと……、先生に頼まれごとされましてねぇ~……。食事時間、少し遅れちゃったんですよ♪」
そう言ってニコッと笑うアキだが、その背後には顔の表情とは正反対のドッッッッス黒いオーラがムンムン!漂っていた……。
んで、俺と織田はそんなアキの漂わせるドッッッッス黒いオーラに対し、俺と織田を始め、裕也やみほ達も呆然としている中、俺はこう言う。
「そ、それは災難だったな……」
「えぇ、全くですよ♪あ、龍先輩、席開いてるんだったら相席良いですか?」
「あぁ……俺は構わんけど、お前達も良いよな?」
「ん?別にいいぞ」
「ほら!座って、座って!!」
そう言って哀惜の許可を求めてくるアキに返事をしつつ、裕也&みほ達に一応、聞いておくと裕也達も「ぜんぜん構わない」と言って感じで、アキを席へと招き入れる。
こうして、招かれたアキはホットドッグセットを載せたトレーを机に置きながら、俺と織田以外のメンバーに対して、軽く自己紹介をし始める。
「どうも初めまして、私、龍先輩と碧先輩の中学の後輩で、同じ戦車道チームのメンバーだった円谷アキと申します。以降、アキと呼んでください♪」
「おぅ、神崎裕也だ。以降、宜しく。龍の戦車道チームの後輩で、メンバーだったとは、苦労しただろ?」
「そりゃもう♪」
「んだと、コノヤロー!?」
「やめなさいっての!コラッ!!」
「ンボァッ!?」
アキの自己紹介に、同じく自己紹介で返しつつ、中学時代の事を聞いてくる裕也に対し、満面の笑みで俺のことをディスってくるアキに対して、俺はブチ切れる……前に、俺は頭に本日2度目となる織田のM29のグリップがめり込んで、強制停止させられる。
いやぁ~……一日に2回もエアガンで殴られるのって、俺だけか?
ってか、誰だ?「二度ある事は三度ある」って、言った奴は?
そんな事をふと思いつつ、痛む個所をさすっていると、今度は沙織達が自己紹介を始める。
「私は竹部沙織!んで、こっちが……」
「五十鈴華です。以後、お見知り置きを」
この沙織と華の自己紹介に「はい♪」と可愛らしく答えるアキに対し、沙織がニヤケながら、続けざまにこう言い放つ。
「いやぁ~……アキちゃん可愛いねぇ~♡モテるでしょー?」
「えー?そんな事ないですよぉー!そう言う先輩こそ、どうなんですかぁー?」
「え゛っ?」
まさかの予想だもしない質問返しに豆鉄砲喰らった鳩の様な表情になる沙織。
そんな沙織に対して、アキは容赦なく、更に傷口を抉って、塩を塗りたくる様な”追撃”をブチかます。
「だって、そんな事を聞くぐらいなんですから、モテるんですよねぇ~?」
「あ゛~……、その~……、ん~……、まぁ~……」
「えー、どうしたんですかぁ~?」
もう困り果て、困惑・動揺しまくっているの隠し切れない様子の沙織を見て、チョーーー悪ッい笑顔を浮かべているアキ。
はい、もう皆さんお察しの通り。この後輩、可愛らしい見た目に反して、腹の中真っ黒です!
そんな腹の中真っ黒なアキにグサグサと刺されまくり、もう完全にライフが0&「ぴえん」となっている沙織は隣にいる華に対し、助け舟を求めているが、流石にこの状況を前にしては、華も助け舟を出すに出せないと言わんばかりに「アハハ……」と若干ひきつった様な笑顔を浮かべるばかりだ。
んでもって、そんな沙織達の様子を見て、「「うわぁ……」」と言わんばかりに、完全に哀れむ様な表情を浮かべつつ、思いっきりドン引きしている裕也とみほを見て、俺と織田は深く「「はぁ~……」」と息を吐きながら、相変わらず絶好調に腹黒さを隠すことなくおっぴろげているアキに告げる。
「アキ」
「なんですか、龍先輩?」
「”察しろ”」
「あ~……、要は”そう言う事”ですかぁ~……」
「そう、要は”そう言う事”よ」
「しれっとトドメ刺すな、戦車道トリオ」
俺の言葉を聞きつつ、察したアキが「なるほどぉ~」と頷きつつ、セットのトマトジュースを飲んでいく中、裕也が呆れた様に突っ込んでくる。
そして、さっきまで思いっきりアキの腹黒の矢面に立たされていた沙織は完全に魂が抜きって、真っ白に燃えてきている……ご愁傷様です。
そんなカオスを極めに極めまくった俺達の様子を見て、とりあえず「アハハ……」と笑う事しか出来ないみほであったが、とりあえず、この状況が一段落したのを見て、アキに対して、自己紹介を始める。
「それで私が……」
「知ってます。西住みほさんですよね?」
「えっ?私の事、知ってるの?」
このまさかの予想だにしなかったアキの言葉を前にキョトンとした表情を浮かべるみほ。
同様に、この展開を予想だにしていなかった裕也や沙織達も「え?」と言わんばかりの表情でアキに視線を向ける中、俺と織田は共に顔を見合わせていた。
あるぅえー?俺、中学の時にみほの事、話した事あったっけ?
そんな事を思いつつ、織田に視線を向けるが、俺の考えを察した織田が首を横に振って否定する中、アキはこう言葉を続ける。
「だって、去年の全国戦車道大会に出場していたじゃないですか~。私、あの時、プラウダの戦車道チームに居たんですよ」
「あ、そう言えば、お前、プラウダから転校してきたんだったか?」
「そうですよ」
「忘れてた?」
「忘れてたわ」
織田の指摘に対し、間髪入れずに返事を返す俺の言葉を聞きつつ、アキはこう言葉を続ける。
「と言っても、その時、私は予備戦力だったんで、試合そのものには参加してないんですけどね♡」
「……あぁ、そうなんだね」
そう言って笑顔を見せるアキに対して、表情こそ笑顔ながらも、何処か後ろめたそうに……と言うか、何処か遠い目で返事を返すみほ。
そりゃそうだ……あの試合が原因で色々とゴタゴタになった末に在籍していた黒森峰を事実上の退学になり、それどころか、実家すら追い出されているんだからな……。
|コイツ《アキ》……腹の中が真っ黒と言うのは、中学の時から見てきたから、よーく知っていたが、こんな人の古傷を抉って、塩を塗る様な事するとは……。後で一回派手に〆とくか(※物理的に)。
ふとそんな事を思いつつ、片方の目でアキを見つつ、もう片方の目でみほの方に視線を向けると、当のみほは表情が暗くなり、顔を俯けていた。
そんな、みほの様子を見て、ただならぬ気配を裕也、沙織、華、織田の4人も感じ取るなり、みほに対し、心配の視線を向けると同時に並々ならぬ空気が流れ始める。
「あー……アキ、お前後で〆るからな」
「うん、それが良いわね」
この並々ならぬ空気から、そう決めた俺の判断と、それを肯定する織田の言葉に対し、素で「えーっ!?」と驚きの声を上げるアキ。うん、コイツ、天成の腹黒だわ!
「なんで私、いきなり死刑宣告を喰わらないといけないんですかー!?」
「周りの光景見てから、言え。バカヤロー、コノヤロー」
「「「………」」」
「……」
納得できない&不満満々な口調で答えるアキに対して、もう本日何度目になるか分からない「バカヤロー&コノヤロー」をブチかましつつ、俺は俺とアキ 織田に視線を向けてくる裕也、沙織、華に対して、相変わらず俯いたままのみほを横目で見ながら、こう言葉を続ける。
「あー……とりあえず、この空気で分かると思うが……、みほは今、実家とちょっと揉めてるんだよ。んで、此処まで言えば、後は分かるよな?もし分からなかったら、頭をハンマーで叩き割ったうえで、脳内に直接叩き込むからな!?」
俺のこの言葉に対し、思いっきり困惑した様な表情を浮かべつつ、「お……、おう……」と答える裕也の傍では、沙織と華がみほの方を向きながら、話しかけていた。
「ご、ごめんね。気が付かなくて……」
「本当にごめんなさいね……」
こ様に謝罪を述べる沙織と華に対して、みほは俯けていた顔を「ううん!」と言いながら上げると、二人に笑顔を向けつつ、こう述べるのであった。
「二人共、気にしてないから大丈夫だよ」
「………」
そう言って沙織と華に笑顔向けるのみほを見て、思わず俺は胸が詰まるような気分になった。
俺がみほの幼馴染として、古くから知っているからこそ分かる……。こう言っているが、内心は今にでも泣きたいんだろう……。
みほは決して強い存在では無い事はよーく知っている……、無茶しなければ良いんだが……。
再び笑顔で織田や沙織、裕也達と会話を交わすみほを見つつ、そう思った俺は気が気でなかった……。
…
……
………
<?Side>
その頃、大洗学園の生徒会室では生徒会会長である角谷杏|《かどたにあんず》
生徒会副会長の小山柚子|《こやまゆず》、生徒会広報の河島桃|《かわしまもも》がこう言葉を交わしていた。
「会長、それは一種の情報操作では無いでしょうか……?」
「大丈夫、大丈夫♪」
角谷の提案に柚子は、あんまり乗り気では無くむしろ否定的とも言える返事を返すが、角谷は大好物の干し芋を片手にそう返す。
そして角谷の言葉を聞いて、角谷の傍にいた河島はこう言い放つ。
「畏まりました、直ちに実行します」
この時、この生徒会で決定した計画がこの後、龍・みほ達を巻き込んだ大騒動になるとは、誰が予想できたであろうか……。
…
……
………
<龍Side>
昼食を終えた俺と織田以外の2年生メンバーは教室に戻り、高校生らしく放課後の予定を会話を交わしていた……って、え、何?
「お前と織田は何やってるんだ?」って?
|さっき《食堂》の件でアキに説教すると同時に|修正《フルパワー拳骨》してやったわ!(※ソンナオトナ!シュウセイシテヤルー!!)
先輩だぞ、文句あるか!?コノヤロー!!
そんな感じでアキへの説教を終えた俺と織田は休み時間が終わるまでに、教室へと戻る……と言っても、まだ10分以上あるんだが。
「ったく!アキのヤロー、もう1発頭にゴン!とやっておくべきだったか!?」
「やめなさいっての。それ世間だと、パワハラ、暴力行為。お互いを良く知る先輩・後輩関係だから、許されている様なもんよ」
手短にそう言葉を交わしつつ、教室のドアを開けると、教室の中では、みほ・裕也達が和気あいあいと会話を交わしていた。
「あ、戻ってきたか」
「おう」
そう言って裕也の言葉に短く返した瞬間、沙織が目を輝かせながら、こう言い放つ。
「ねぇねぇ、放課後、皆でお茶しない?」
「うわぁ~、高校生みたい」
「私達は高校生ですよ」
沙織の提案に対して、返したみほの返事に対して華がそう言うが、全く華の言う通りである。
今の俺達が高校生じゃなければ俺達は一体何なんだよ?
っていうか、逆に高校生であるはずの俺らが高校生じゃなければ、何が高校生になるんだ?
……トまぁ、考えたらキリが無いっていうか、”考えるだけ無駄な事が分かった瞬間、思考停止する1ミリも深い事を全く考えられない脳みそ”が入った頭の中をしれっとを過る中、軽く笑うみほの傍で、みほと同じ様に沙織が軽く笑いながら、こう言い放つ。
「実は相談があってさぁ~」
「何だ?」
如何にも猫やら、キツネやら、タヌキやら、なんやらかんやら被った口調でそう言い放った沙織に対し、裕也が問いかけると、沙織は深くため息を一回付くなり、こう言い放つ。
「ちょっと悩んでいて、私って罪な女よねぇ~……」
「人でも殺したのか?」
「なんで!?どういう事!?そこまで重罪は犯してないわよ!!!」
裕也の冗談なのか、本気なのか、分からない言葉に対し、漫画で見る様な『ムキーッ!!』と言う赤い文字がバックに見えそうな勢いで、怒る沙織の様子を見て、笑っている裕也を横目に見ていると、側にいた華が微笑みながら、怒りマークを頭に浮かべている沙織をなだめる様に話しかけた。
「また、その話ですか?」
「うん!いろんな男の人から声掛けまくられてさぁ~、どうしたら良いの?」
「知らんわ、バカヤロー」
「はい、出た。バカヤロー」
沙織の本気なのか、冗談なのか、まーったく分からないピンキーな沙織の発言に対し、本日、恐らく8回目ぐらい(※知らんけど)のバカヤローを炸裂させ、それに対して、間髪入れることなく織田が突っ込んでくる。うん、流石は一番の戦友だ。
っていうか、沙織の脳みそ本当にどうなってんのやら?
何をどう間違えたら、地平線の果てまで、キレイな真っピンクなお花畑脳が出来上がるんだよ?
しれっと、そんな考えが湧いてくる中、俺は沙織に向けて、こう言い放つ。
「ただの挨拶だ、バカヤロー。自意識過剰過ぎんだよ、オメェーは」
「龍さんの言う通りですよ」
俺の言葉を肯定する様に言葉を続けた華の言葉に対し、沙織は「いやいや!」と首を横に振って、否定するとこう言い放つ。
「だって!3日連続だよ!?これって気がある以外に何があるのよ!?」
「あぁ?性癖と性欲を派手にこじらせたストーカーまがいの性犯罪者か、お前に対して、殺したい程の恨みを持つ奴とかじゃないのか?」
「いや!私、恨みを買う様な事してないよ!?」
俺の言葉に対して、マジで困惑した様な表情を浮かべながら、反論してくる沙織。
そんな沙織に対して、織田が呆れた様子で俺に続く様にこう言い放つ。
「貴方、ぜーったい!想像妊娠するタイプよ」
「妊娠!?えっ、私、まだそういう相手は……」
「想像妊娠!普通の妊娠とは違うわよ!!」
織田の『想像妊娠』と言うワードに対し、”ナニ”を想像したのか、思いっきり顔を真っ赤にしながら、織田に言葉を返す沙織。
その”余りにも斜め上を行く突拍子の無い沙織の想像”を前に、織田が声を荒げながら、その想像を否定する。
うん……|コイツ《沙織》、”欲求不満”なの?溜まってんの?
いや、本当にお前の脳みその中を見てみたいよ……。
っていうか、医学が驚異的に発展したこのご時世に想像妊娠なんて、ある意味ではスゲェな……。
ある意味で荒ぶっている沙織に対し、そんな考えが湧いてくる中、沙織への説教(?)を終えた織田が「ったく!」と呟いた後、話を変える様にこう言い放つ。
「まぁ、それは置いておいて……。所、昨日の『マジでっかテレビ!?』見た?」
「あぁ!見た、見た!!」
といった感じで、違う話題で再び6人で話し始めたその時、突如として、クラスメート達が一斉にガヤガヤと騒ぎだした。
「え、あれって生徒会長だよね?」
「なんでこんな所に?」
「おい、お前何か知ってるか?」
「そんな知る訳ないだろ」
ふとクラスメート達のガヤに耳を傾ければ、その様な声が聞こえてくる中、クラスメート達が視線を向ける先に、後を追う様にして視線を向けると、そこに居たのは、この大洗学園の”ボス”に当たる存在の生徒会長と、その右腕的存在に当たる副会長と広報の3人組だ。
「沙織さん、あの人達は誰?」
「生徒会長、それに副会長と広報の人」
その事を知らないみほが沙織に問い掛け、沙織が手短に回答する中、クラスメート達のざわめきはより一層大きくなっていく。
そりゃそうだろうな……。何の前触れも無しに普段なら、間違っても訪ねてくる事の無い、生徒会会長達がクラスを訪ねてきたのだから。
クラスメート達の動揺にも似た、ざわめきを聞きつつ、俺達もクラスメート達と同じ様に生徒会長達に視線を向けた瞬間、逆に会長達が俺達の方を指さしたかと思った次の瞬間には……。
「や~!西住ちゃ~んに、喜多川ちゃ~ん!!」
……とまぁ、初対面だと言うのに、凄まじく馴れ馴れしい様子で俺とみほの名を呼びつつ、俺らの元にやってくるのだった。
え、こんなのが|ウチ《大洗学園》の会長?頭、大丈夫?
っていうか、この学校自体が大丈夫なの?
余りの馴れ馴れしさに、そんな考えがチラッと湧いてくる中、会長と共にやってきた広報担当がこう口を開く。
「少々、二人に話がある。廊下に出てもらいたい」
「はい……?」
「はぁ……」
そう手短に答えつつ、言葉通りに廊下に出る俺とみほ。
一体、生徒会が俺とみほに何の用があるんだってんだ?全く想像がつかないぞ。
とりあえず言葉通り、頭の中でそんな考えが湧いてくる中、廊下に出る。
んでもって、廊下に出た俺とみほ同様に廊下に出た会長は開口一番、こう言い放つのだった……。
「必修選択科目だけどさぁ……。二人共、戦車道とってね♪」
この会長の言葉に対する、俺の正直な気持ちは次の通りです。
『馬鹿なんじゃねぇのか、この会長?』
シンプルに何の捻りも無く、そんな考えが俺の頭の中に湧いてくるのと同時に、この会長の言葉から、俺とみほ達の”運命の歯車”が大きく回り始めたのだった……。
場所は茨城県 大洗市の学校である”大洗学園”の学園艦の一角にある学生寮の一室……。
ピッ!ピピピピッ!!
と、およそ6割の人は聞きたくないであろう無機質な電子音が鳴り響き、部屋の主を容赦なく心地良い夢から覚醒させていく。
「……んだよ、もう朝か?」
そうして起こされた主……もとい、この作品の”主人公”である俺……|喜多川龍《きたがわりゅう》は、なかなかエンジンの掛からない頭を無理やりフル回転させつつ、ベッドから起き上がる。
あー……くそが……。
それ並みに寝たはずなのに、未だに疲れが取れてねぇ……なんか派手に疲れる様なことしたか、俺?
重い頭と体を無理やり動かそうする間にも、容赦なくなり続ける目覚まし時計の無機質な電子音。
普段なら、何な大した事のない電子音だが、今の俺には少なからず癪に障る音声だ。
「分かってますよ……、おきますよ……」
電子音を立てる目覚まし時計に対し、帰ってくるはずもない返事をしつつ、ベッドから起き上がるが、この間にも目覚まし時計は容赦なく電子音を上げ、俺に起床し、次の行動に出る様に告げる。
そんな目覚まし時計を止めるべく、俺はベッドのすぐ傍にある棚の上に手を伸ばすが、よっぽど目覚まし時計は鳴っていたいのか、俺の手が届くよりも先に床に落ち、ガチャン!と言う音と共に転がっていく。
んでもって、目覚まし時計は、こんな結構なダメージを受けつつも、相変わらず深いな電子音を立て続ける。
「チッ!」
少なからずカチン!と来た俺は枕元に置いてあった”シグP220……もとい、9ミリ拳銃(※エアガン)”を手に取るなり、スライドを引き、目覚まし時計に銃口を向けるなり、1発ズガン!と撃ち込んでやる。
この一撃が効いた……基、ぶっ壊れたのか、目覚まし時計は一気に静かになる。
「メカのくせして、人間舐めた事すんじゃねよ!コノヤロー!!」
ようやく静かになった目覚まし時計に対して、大物お笑い芸人が主演・監督を務めたレイジなヤクザ映画の登場人物の様にキレつつ、ようやく回り始めた頭と体を動かして、朝の身支度を整える。
んでもって、日本中の学生が毎朝やっている様に歯を磨き、寝癖を直し、寝巻からハンガーにかけた制服に着替えた後、スマホやら、財布やらを教科書やノート等が入ってるカバンに突っ込み、登校の準備を終える。
終えるや否や朝食にしようかと思い、冷蔵庫の中を開けるが……よりによって、こんな時に何もないのだ。
「あー、クソが……」
昨日の内に冷蔵庫の中身を確認しておくべきだったな……。
そんな後悔の念が湧いてくるが、こればかりは仕方ないので、素直に諦める事にした。
ま……不幸中の幸いと言うべきか、この寮の近所には評判の良いパン屋がある。
そこでパンでも買って食べつつ、登校するか……。あそこの明太フランス、滅茶苦茶美味いんだよな~。
そんな考えが頭の中に浮かんだ俺は、さっそく実行するべくリュックサックを背中に掛け、寮を出た。
そうして、出た外は雲一つない晴天が広がる心地の良い天気だ。
天気が良いと、自然と気分が良くなり、足取りも軽くなる。
なんか良い事あるかもな~……。
何処ともなく、ふとそんな考えが湧いてくる中、目的のパン屋にたどり着いた俺はドアを開けて店内へ。
ドアを開けると同時にカラン、コロン♪と景気良くドアベルが鳴り、店内で焼けたパンを棚だししていたパン屋のおばちゃんが「あらー!」と笑顔で俺の方を振り向きながら、こう言い放つ。
「龍君、来たのー?丁度、明太フランス焼けたわよー!!」
「じゃあ、それ1つお願いします。あと缶コーヒーも1つ」
「はい、ありがとうねぇ~!オマケにレーズンパン付けてあるからね」
「あぁ、どうも」
そう手短に顔なじみの客と店員といった感じの会話を交わしつつ、店を出た俺は買った缶コーヒーを手に取り、景気良い音と共に開けつつ、コーヒーを喉へと流し込む。
瞬間、体中に糖分とカフェインが染みわたっていくのを感じながら、明太フランスを手に取り、朝食にしようとした……その時だった。
「ぶへっ!?」
と、安いギャグ漫画の吹き出しにでも書かれていそうな声が聞こえてくるので、その音がした方向に顔を向けると、そこに居たのは、幼馴染の”西住みほ|《にしずみ》”が電柱並びに看板に正面衝突していた。
「痛てて……」
「バカかオメーは?」
「りゅ、龍君!?」
俺の超ド!ストレートな指摘に対して、額をさすっていたみほが赤面しつつ、何か言おうとするが、混乱の余り言葉が出ないらしく、「あわわわっ!」と慌てている。
うーん……近くに穴の開いたマンホールでもあったら、そのままホールインワンしそうだな……。この幼馴染……。
っていうか、|コイツ《みほ》は昔っから、こんな感じだったよなぁ……。
事ある度にアワアワしていて、俺が出てきて何とかする……って感じで……。
良くも悪くも昔通りと言うべきか……、変わってないと言うべきか……、全く学習してないと言うべきか……うん。
トまぁ……色々と考えれば、考える程、何が何だか良く分からなくなってくる状況を前に”どーでも良くなってきた”俺は、頭の中の思考回路を強制的にシャットダウンして、みほに呆れつつも、話しかける。
「とりあえず無事か?無事なら、学校行くぞ!!ったく、もー!!!」
「う、うん!そうだね!!」
そう言って俺の指摘に対して、改まった様子のみほと一緒に俺は学校へと向かうのだった。
とまぁ、言った感じで幼馴染のみほと合流した所で、俺とみほの経緯&なれそめに関して、少し話せてもらおう……って、何?
「そんなものいらねーよ、主人公」だって?
ウルセー、バカヤロー!!黙って聞いとけ、ボケェ!!!
えー……トまぁ、軽く吠えた所で説明させてもらうぞ。
俺の家系は曽祖父の代から軍人並びに自衛官の家系で、俗に言う”軍人家系”と言う奴である。
曽祖父は旧日本陸軍の砲兵隊の司令官として硫黄島の戦いに動員された職業軍人である。
その息子である俺の爺ちゃんは、警察予備隊及び保安隊の隊員として従事した後、創設間も無い陸上自衛隊のパラシュート部隊……後の第1空挺団の空挺団長を務めていた。
そんで、その息子である親父は自衛隊の”機甲部隊(戦車部隊)”の幹部自衛官として、福岡に新設された機甲部隊……第12機甲大隊の大隊長を務めている。
で、その第12機甲大隊に関して、少し簡単に説明すると、かつて新潟に存在した陸上自衛隊の師団……第12師団内に編成されていた”第12戦車大隊”の復活ではない。
今現在、陸上自衛隊が進めている南西諸島防衛を主眼とした再編成の中における一環として創設された機甲部隊だ。
その陸上自衛隊は、今現在、かつての対ソ連に対する防衛計画から、南西諸島への進出を図ろうとする某国及び、統一の末に日本の仮想敵国となる可能性が”大”の某国との軍事的衝突の発生を想定し、そのリスクに備えた防衛計画を進めている。
その中で今現在の軍事的情勢及び主戦場となる事が想定される九州沖縄地区の離島諸島の防衛には、軽装備かつ少数精鋭の特殊部隊及び無人機による戦いがメインとなり、|戦車《機甲》や|大砲《特科》と言った重装備が向かないと想定し、今現在、これらの職種の削減に当たっている。
そんな中で時代の流れ及び方針に逆行するかのように第12機甲大隊は新設された。
その編成内容は本部管理中隊を始めとする3個戦車中隊、2個の機械化普通科中隊、1個の偵察小隊、そして1個整備中隊で編成されており、他の第7師団と言った機甲大隊と比較すると比較的コンパクトな編成となっている。
これはどういうことを意味するのか?
先に述べた様に、今現在、戦場の主役は軽装備かつ少数精鋭の特殊部隊及び無人機である。
しかしながらも、戦車や装甲車、火砲と言った重装備の有効性が消えた訳では無く、いざと言う時には切り札として活用する事が想定される。
だからこそ、コンパクトにまとめて動かしやすくしつつ、いざ特殊部隊や無人機だけでは、どうにもならない……って時に、素早く展開可能ながらも、反撃に有効な機動力と打撃力を兼ね備えた機甲部隊として、第12機甲大隊が新設されたのだ。
さらに言えば、陸上自衛隊の南西諸島防衛計画の切り札ともいえる……日本版海兵隊こと、水陸機動旅団の装甲・火力支援の役割も兼ね備えていると言われている。
んで、その第12機甲大隊の新説を唱えたのが、俺の親父……もとい、|喜多川英雄《きたがわひでお》一等陸佐である。
幼い頃から、そんな親父の姿を見て育ってきた影響なのか、俺も将来は陸上自衛官……それも機甲部隊の幹部自衛官を目指している。
勿論、俺自身も自衛官になりたいからだ。言っておくが、決して親に強要されている訳じゃない。
そもそもの話、親父は自衛官として尊敬は出来ても、父親としては尊敬できないからな……。
まぁ……俺個人の話だ。ディスプレイの前のお前たちは、気にしなくていいぞ。
んでもって、次に隣にいる幼馴染の美穂に関して、俺の方から少し説明させてもらう。
まず最初に、みほは俺の幼馴染である事は既に何度も書いた事だよな……っていうか、誰だ「リア充爆発しろ」とか言った奴!?
とまぁ、それは後でぶちのめすとして……話を戻して説明するが、みほと幼馴染になった理由は彼女の”実家の家系”にある。
みほの実家の家系は日本でも数ある”戦車道”の流派の中でも、名門とされる”西住流”の家元であり、数ある戦車道の流派の中でも有数の歴史を持つ戦車道の流派として名が知られている。
んで……この時点でディスプレイの前に座る読者諸君は大体は予想が付いていると思うが……、俺の親父がこの西住流を受けていた家門生だった訳よ……。
そんな縁で出会った俺とみほは、俺の親父が陸自の再編成で福岡に新設された第12機甲大隊の司令官に任官したのを機に引っ越すまで、家族ぐるみの付き合いをしていたのが、先に述べた様に親父が新設された第12機甲大隊の大隊長として任官を機に福岡に引っ越しして以降は、離れ離れになってしまい、たまに年賀状のやり取りや夏休み等の纏まった休暇を利用して会いに行く程度の付き合いになっていた。
まぁ……半場、諦め状態で、そんな感じの付き合いが続くと思っていた矢先にみほは”ある事件”から親との関係がギクシャクしている為、それから逃げるような形で突然、俺の在学している大洗学園に転校してきたのよね。いやぁ~、マジでイキナリ転校してきた時は一昔前のギャグマンガか、アメコミなんかで見る様に”目が飛び出る”かと思ったわ……ってか、軽く飛び出て、おまけに心臓も耳から飛び出したわ!
んで、個人的にはこの”事件”に関して言わせてもらうならば、俺はみほの行動は間違っていないと思う。
逆にみほを罵詈雑言の限りを尽くして、非難する西住流の家元&その関係者に対して正直言って嫌悪感を感じる程だ。(※なぉ、これはあくまで個人の意見です。by龍)
とまぁ、こんな感じで知り合い、再開した幼馴染のみほと共に俺は通っている学校……大洗学園の門をくぐるのだった。
…
……
………
数時間後……。
「数学は死ねば良い……」
ふと物騒な事をボヤキ筒、無い知恵を絞りに絞りまくり、完全にオーバーヒート&白煙を吹き出している頭を冷やしつつ、迎えた昼休み……要は昼食時間。
教室に居る生徒達は皆、退屈な授業を終えた解放感を感じつつ、鳴いている腹の虫を静かにするべく食堂へと足を向けていく。
そんな中、未だにオーバーヒートした頭から白煙、口から魂を濛々と吹き出しつつ、机の上で完全に屍と化した俺に対して、話しかけてくる奴が居た。
「大丈夫か?」
「あ゛?見て、分かんねぇのか?」
そう俺が怒りマークを浮かべつつ、言葉を返すのは、”一応、俺の友人兼クラスメート”である|神崎裕也《かんざきゆうや》だ。
特技は空手&柔道(※黒帯)を始めとした、ボクシング、剣道、合気道、テコンドーと言った各種格闘技であり、俺が知る限りでは、この学校でコイツとタイマン張れる奴は数人……いや、片手で数えられるぐらいだろう。
んでもって、こいつを紹介するに当たって絶対に欠かすことができない事がある……それは、こいつが筋金入りのシスコンと言う事である!
コイツの姉貴は、現在、全国区で活躍する大人気セクシーアイドル……|神崎千晶《かんざきちあき》なのだが、まぁ~……とんでもないシスコンである。
元々、共働きで一緒に過ごす時間が多く姉弟仲が良いと言うのは、大変結構な話ではあるが、その影響をモロに受けた為か、家庭に関する話が出たかと思えば、殆ど姉貴に関する話だし、暇さえあれば学校で姉貴の写真集を見てるという、まぁ~……斜めぶっ飛んだシスコンぶり。
おまけに”中学1年生(※お姉さんは当時大学1年生)まで、一緒に風呂入っていた”と言うから、もー、何が何だか……っていうか、「羨ましい!」を取り越して、ガチで引くんだけど!?
つーか、この前も「姉貴の友達のアイドルのCDの売り上げが悪いから、買え!」と言ってきた。お前は姉貴の事務所の回し者か!?
そんな感じの裕也との馴れ初めだが、まぁ~……所謂、進路相談って奴だ。
ほら、この作品読んでるお前らも学生時代に少なからず経験しただろ?
ザックリ言うと、あれよ……先生から「将来はどこの大学にするんですか?それとも就職するんですか?」と聞かれる奴よ。
んで、その際に俺が事前に渡された紙に『防衛大臣』と書いて、渡した後、同じ学校を志願した生徒たちを集めて、進路相談する事があったんだけど、その際にいた”5人の内、俺を除いた4人の1人”が|コイツ《裕也》だったわけよ。
んで、んで、まぁ、そんな感じでお互い同じ進路希望&同じクラスと言う事で、ダラダラとした今どきの男子高校生らしい友人関係となり、今に至る訳だ。
因みに裕也に自衛隊での、希望職種に関して聞くと、陸上自衛隊が誇る精鋭最強にして、唯一無二、精鋭無比の存在……陸上自衛隊が唯一公式に存在を認める特殊部隊『特殊作戦群(※以下、特戦群)』との事らしい。
よー、そんな所を志願するよ……戦車一筋、機甲科志願の俺からすれば、想像もできない場所だぜ……。
そんな特戦群志願の裕也は、俺のキレ気味の返事に対し、呆れた様な口調でこう言い放つ。
「キレるなよ……頭の血管、切れるぞ」
「もうとっくに8本ぐらい、ブチブチ切れてるわ!」
「……大丈夫か?腕の良い脳外科医、紹介するぞ!!」
「うるせー、バカヤロー!!」
この裕也の発言に対し、俺が頭にデカデカと怒りマークを浮かべつつ、裕也に対して、キレていた時だった。
「なぁーに、アンタはキレているのよ?」
と言った感じで、今度は別の声……女子の声が俺の耳に飛び込んできた。
その声の掛けられた方向に俺が顔を向けると、そこに居たのは、俺の中学時代の同級生にして、所属していた戦車道チームのチームメンバーだった……|織田碧《おだみどり》(※以下、織田)だ。
ま~……彼女に関して、紹介するとなると先に述べた様に”中学の時の同級生”と言う事に加え、”所属していた戦車道チームのメンバー”だったと言う事以外、何もないが、彼女の名誉の為(?)に少し付け加えると……。
織田とは、中学時代に所属していた戦車道チームの同期であり、同じ偵察班のメンバーであり、さらに詳しく言うと俺が偵察班の副班長を務めており、織田はそのメンバー……所謂、部下に当たる立場だった。
ま、一言に部下……と言っても、あくまでも形式的な物が強く、立場的に殆ど同じ位置にあったと言えるだろう。
んで、そんな感じでお互いに練習やら、ブリーフィングやら、試合の度にギャー、ギャー言い合いながらも、数々の激戦・死線を潜り抜け、何時しかお互いに『相方』と認め合う中って訳よ。”一応”ね!
そんな一応、相方の織田は呆れた様な口調でこう続ける。
「中学の時に比べりゃ、マシになったかと思ったけど難も変わってないねぇ~……アンタは」
「ウルセ、コノヤロー!一発派手にやったろか!?」
「やめなさいっての!」
俺の言葉に対し、織田が生死を掛けてくる傍で、裕也が織田の方を見つつ、同情する様な表情を浮かべつつ、一言。
「……織田も苦労してんだな」
「ホント!中学の時から、こんな感じよ!!」
そう言って裕也の言葉に返しつつ、織田は呆れやら、怒りやらが色々と混じった口調で織田は「まったく!!」と呟きながら、こう言葉を続けた。
「……とりあえずお昼食べに私は食堂行くけど、二人はどうするの?」
「どうするも何も……お前と同じだよ」
ぶっきらぼうに織田に返事を返しつつ、俺が席から立ち上がった時、ふと俺の視界にみほの姿が映る。
みほは落とした筆箱とノートを拾った後、一人ポツンとため息をつきながら、椅子に座り込んでいた。
元々、引っ込み思案な性格だったが、|此処《大洗学園》に転向してきてからは、それにより一層磨きが掛かってしまっている……。
まぁ……一応、俺が定期的かつ、事ある度に話しかけているので、完全にクラスで孤立している訳では無いんだが……。
え?何?「自分で言うな!」って? ウルセ、バカヤロー!!
まぁ、それは置いといてだな……このまま話せる関係の奴が俺だけというのは、みほにとって色々と良くない……はず!
なので、その状況を打開する為にも、此処は幼馴染として、一肌脱がないと……って、だから「自分で言うな」と言うんじゃねぇよ、バカヤロー!!
とまぁ、本日3回目(※知らんけど)の「バカヤロー!!」を炸裂させつつ、俺は織田と裕也にこう告げる。
「なぁ、みほも一緒で良いか?」
「みほって、お前さんの幼馴染の?」
俺の言葉に対し、確認する様に問いを投げ返してくる裕也に「そ」と手短に言葉を返した瞬間、織田がこう口を開く。
「良いわよ、裕也も問題ないでしょ?」
「あぁ、構わんぞ」
「OK、じゃあ呼んでくるわ」
と、二人から許可を貰えたところで、俺はみほの元に向かう。
そうして、やってきた俺に気付いたみほは、俯いていた顔を上げつつ、こう口を開く。
「あ、龍君……」
「おう!みほ、一緒に飯食いに……」
といった感じで、みほを昼食に誘っていた、その時だった。
「ヘイ!そこのボーイ&ガール!!一緒にお昼……「人が話している最中に割り込んでくるんじゃねよ、バカヤロー!!ブッ飛ばすぞ!?」ちょ、ちょっ、ごめんってば!!」
「ハイ。アンタは一回黙りなさい!!」
「ぶぇあらぁ!?」
と、突然割り込んできた女子の声に本日4回目の「バカヤロー!!」が炸裂したの同時に、俺の頭に織田の愛用のエアガン(※本日はS&W M29)のグリップがめり込んだ……っていうか、マジで痛いんですけど!?
その余りの痛さに人間の出すような声では無い声を上げてしまう中、割り込んできた女子とは別の声が聞こえてくる。
「ほら、沙織さん。人の話に割り込むから……」
と、割り込んだ女子を諫める様に言い放つ女子の声のする方に対し、頭をさすりながら、俺が顔を向けると、そこに居たのはクラスメートの女子である武部沙織|《たけべさおり》と五十鈴華|《いすずはな》の姿があった。
そんな二人に対し、俺が視線を向けると沙織が申し訳なさそうにこう言ってくる。
「ご、ごめんね……。割り込んじゃって……」
「あぁ、気にしなくて良いわよ。こいつ、中学の時からこんなだったし!」
「ウルセ、バカヤロー」
余計な事言う織田に対して、本日5回目のバカヤローを言いつつ、ふとみほの方に視線を向けると、みほはアタフタした様子で俺達の様子を伺っている。
そんな、みほを気遣う様に華がこう言い放つ。
「ほら、みほさん困っていますわ」
「あぁ、ごめんね。それで……改めて、一緒にお昼どう?」
「ん?それって、|コイツ《龍》以外にも、俺や織田も入っているのか?」
そう提案する沙織に対し、裕也が問いかけると、沙織は「うん!」と笑顔で頷きつつ、傍にいた華がこう言葉を続ける。
「えぇ、皆さんでお昼一緒に食べましょう」
「それじゃ、レッツ・ゴー!」
と、沙織が音頭を取る形で俺達は食堂へと移動するのだった……。
…
……
………
んでもって、やってきた食堂。
周りを見まわしてみると、学園の男女が一斉に集まって、昼食を食べつつ、会話を交わしつつ、各々の時間を過ごしている。
同時にこの大洗学園が結構最近になって共学化した名残りとして、男女比の差……圧倒的に女子の方が多いのも分かる。
そんな状況の中、注文を済ませた俺達は開いていた席に座り、昼食を取り始める。
因みに華が絵に描いたような大和撫子の外見なのに食事の内容が”酢豚+ラーメン+ご飯大盛り+味噌汁”と言う内容には、ここだけの話、若干引いた……。
いや、マジで男の俺や裕也でも、これだけのボリュームは食いきれないぞ……。さらに言えば、メインは酢豚か、ラーメンのどっちか1つだよ、普通は……。
っていうか、華の奴、結構な細身でスラっとしているスタイルだぞ……。
そんな細身の体の何処にこれだけの飯&それが生じさせるエネルギーをため込める場所があるってんだよ……?
え?何、「胸じゃないの?」って?バカヤロー!!(※本日6回目)
性欲溢れて、常にムラムラしているチンパンジー状態の中学2年か、オメェーは!?
とまぁ、それは置いておいて……各自昼食をとりつつ、各々の話に花を咲かせている内に、自然と話の内容は俺とみほとの関係についての話に……。
その話をまず最初に持ち出したのは、今、俺の目の前で納豆をかき混ぜている沙織だ。
「んで、龍とみほは幼馴染なんだ?」
「そ!」
沙織に対し、チーズハンバーグを箸で切りながら、手短に答える俺に続く様にみほが答える。
「親の仕事の都合からくる、家族ぐるみの付き合い……って所かな?」
「龍さんのご家族は何のお仕事を?」
「ん?母さんはどこにでもいる専業主婦、親父は陸上自衛隊の幹部自衛官で、福岡の方で戦車部隊の隊長やってる」
そう華の問いに返しつつ、みそ汁をかっ込んでいると沙織と華は感嘆した様な声を上げる。
「凄~い!!」
「立派なお父様ですねぇ~……」
「……そうか?」
感嘆の声を上げる二人に対して、俺は甚だ疑問溢れる口調で言葉を返す。
というのも、遺伝子半分入っていると言う事に加え、息子だからこそ、近くで見てきたから分かる……親父は間違いなく変人の分類に頭突っ込んでいる存在だと……。
なぉ、どこが変人なのかを説明すると、それだけで一話終わりそうだから、省かせてもらうぞ……って、誰が手抜きだゴラ!?
トまぁ、それは置いといて……。
理解不能な表情を浮かべる俺に代わる様に台湾風まぜそばを食べていた織田が興奮した様子で口を開く。
「いや、ガチでお父さん凄いと思うよ!?だって、お父さんが率いている第12機甲大隊って、お父さんの提案した部隊でしょ?」
「まぁ……骨子案は親父だけど……」
「いやぁ~……本当に凄いわー!だって今の防衛計画は戦車を300両にまで削減する物でしょ!?そんな中で、新規の機甲部隊を新設させるって相当なもんだと私は思うよ?」
「……そうか?(※2回目)」
「っていうか、お前ら、周り見ろ。お前らと俺以外のメンバーは殆ど付いてこれてないから……」
「「へ?」」
裕也のこの指摘を受け、俺と織田が周りを見渡すと裕也の言った通り、俺と織田、裕也を除き、みほ達が「何の事やら、さっぱり」とでも言わんばかりの表情でポカンとしていた。
その様子を見ながら、俺は織田に向けて、こう言い放つ。
「お前、中学の時から、スイッチ入ったらマシンガントークになる癖あるよな……」
「事あるごとにキレる癖のあるアンタよりは、マシな癖よ」
「自分で言うか?っていうか、事ある度にキレてるって何だコノヤロー!?」
「ほら、今、キレてんじゃん!」
「んだと、ゴラァ!?やるかあっ!?」
「あー、コラ。二人して、やめなさいっての!」
と、俺と織田が乱闘寸前になるのを裕也が制しているのを見て、「「「アハハハ……」」」と苦笑いしている。
そんな苦笑いしている3人のうちの一人である華が話題を変える様にして、話しかける。
「それで龍さんもお父様と同じ様に自衛官を目指しているのですか?」
「まぁな……一応、親父と同じ機甲科目指してる」
華の問いかけにそう返しつつ、味噌汁を啜りつつ、隣でカレー食ってる裕也を指さしながら、こう続ける。
「あと、こいつも自衛官志望」
「へぇ~……裕也君も、そうなんだー」
「あ?あぁ……」
そう俺の言葉に対し、サバの味噌煮を箸で掴みつつ、みほが感嘆した様な声を上げるのを聞き、当の本人である裕也が突如、話を振られた事に驚きつつも、カツカレーにスプーンをブッ刺しつつ、こう言い放つ。
「まぁね、こいつとは目指している所は違うけど」
「ふーん、どこを希望しているの?」
「特殊作戦群、通称、特作群ってとこ」
「と……特殊作戦群?」
裕也の言い放った”特殊作戦群”と言うワードに対し、頭に?を浮かべつつ、裕也の顔を見つめる|3人《みほ、華、沙織》。
まぁ~……そりゃミリオタでもなけりゃ、特殊作戦群と聞いて、「なんじゃそりゃ?」となるのが、世の常識だろう。
だが、俺のすぐ左隣に居る様な、|筋金入りのミリオタ《織田》なんかは、水を得た魚の様に目が輝いてるぜ……。
そんな織田はキラッキラッに輝く目で、|3人《みほ、華、沙織》の内の誰が求めた訳でもないのに、特殊作戦群に関する説明を始める。
「ま~……一言でいうならば、陸上自衛隊初にして、唯一となる特殊部隊よ。元々、陸上自衛隊には、第1空挺団とか、冬季レンジャーみたいな特殊部隊に当たる存在はあったんだけどね、だけどソ連崩壊及び東西冷戦終結を受けて、世界中でテロ活動が行われるようになると、戦場における特殊部隊の重要性が高まって、自衛隊でも特殊部隊の創設が求められたの!んでもって、90年代後半になり、陸上自衛隊はアメリカ陸軍の特殊部隊である”デルタフォース”とか、イギリス陸軍の特殊部隊である”SAS”等を参考にした特殊部隊を設立を研究・検討した末に平成16年に習志野駐屯地内に創設されたのね。んでもって、通称、Sと呼ばれ……」
「その辺にしろ、バカヤロー!一話まるまる使う気か!?」
「えー?せっかく乗ってきたのに!!」
「うるせぇ!黙れ!!」
スイッチが入り、『もうどうにも止まらない』状態の織田を強制的にストップさせていると、目の前で再びポカンとなっている|3人《みほ、華、沙織》を横目に呆れた様子の裕也がこう言っていくる。
「お前ら、相性良いんだが、悪いんだが分からんな……って言うか、龍、”一話まるまる”って何だ?」
「あ゛?お前は気にしなくていい!世の中、知らなくてもいい事もある!!」
「どういう事!?何、そんな無駄にスケールデカい話なの!?」
俺の問いに対し、全力で疑問符を頭に浮かべつつ、絶叫にも近い声を上げる裕也。
その反対側……俺の左隣にいる織田が乗ってきた調子を俺にへし折られた事に対し、ブー、ブー言っている。
んで、そんな俺達3人を見ながら、再び「「「アハハハ……」」」と苦笑いしている|3人《みほ、華、沙織》。
そんな3人の内の1人であったみほが、話題を変える様に今度は織田に話しかける。
「あの……所で、龍君と織田さんってどんな関係なの?」
「ん?中学の時の同級生」
「っていうか、中学の時に所属していた戦車道チームのチームメイト……更に言っちゃえば、同じ小隊の副隊長と部下の関係だったわね」
「え~と……何というか、その……、凄いね……」
と、みほからすれば、予想もしなかった回答を告げる織田の言葉に対し、困惑した様な表情を浮かべるみほの様子を見て、俺は間髪入れずにこう告げる。
「安心しろ、みほ。お前が思っている様な事は一切ねぇよ。俺も|コイツ《織田》も、お互いにたまたま所属したチームが一緒で、更に同じ小隊のメンバーとして3年間一緒に居ただけ……って感じ。そんな深い物は1ミリも無い」
「そうそう、強いて言えば……戦友的な?」
「あー……、そんな感じだよな」
「何処の戦場からの帰還兵だ、お前らは?」
俺と織田の言葉に対し、ツッコミを入れてくる裕也。そんな裕也は続け様に「っていうか……」と一言呟きながら、こう聞いてくる。
「お前ら、なんで戦車道のある学校に進学しなかったんだ?黒森峰とか、サンダースとか、結構な有名な所あるだろ?」
「あぁ、確かに……聞いて事ありますわね」
「私もー!この前、テレビで見たよ!!」
そう裕也の発言に対し、肯定する様な発言をする沙織と華に対し、俺と織田は「「んー?」」と呟きつつ、お互いの顔を見合わせた後、こう返す。
「「学年主任を殴り倒して、進学できなくなった」」
この俺と織田の発言を前に裕也は「……はぁ?」と呟きつつ、信じられないような表情で俺と織田を見つめ、みほ達は予想の斜め上行く俺と織田の回答にポカーンとしていた。
「まぁ……、普通はそんな反応なるよねぇ~」
「あぁ、予想通りだな」
ある意味、予想通りの反応を見せた裕也達の反応に俺と織田が納得していると、裕也が「いやいやいやいや!」と呟きつつ、手を左右にブンブンと振りながら、こう言葉を続ける。
「学年主任を殴った!?お前ら、それ下手したら……つーか、普通に高校進学できなくなる奴だぞ!?なんで進学できたの!?」
「あ゛ー?んなこと言ったって、俺と織田が殴り倒した学年主任、バリバリの極左&共産主義で、大の自衛隊&戦車道嫌いで、戦車道なんかやってる奴の成績を勝手に改悪していた様な奴だぞ?事あるごとに『これだから戦車道なんて野蛮な事をやっている奴は……』なんて言ってたしな!」
「っていうか、龍の場合は、父親が現役の自衛官と言う事で、学年主任から目の敵にされていたしねぇ~……」
「あ~……、なるほど……。一応、学年主任の方にも非はあったね……」
「「非しかないわ、あのヤロー!!」
とまぁ、裕也の発言に対して、ハモりながら返す俺と織田。
そんな俺達の様子を見て、みほ達は本日、三度目となる苦笑いである。
因みに殴り倒した後、俺と織田はみっちり他の教師たちに絞られた挙句、大量の反省文を書く羽目になったけどね♪
んで、そして俺と織田に殴り倒された学年主任だが、元々、先に述べた左に偏り過ぎた思考&そこからくる業務違反に当たる行為等がしばしば教師達の間でも、問題になっていた事もあってか、教育委員会主導の下、調査が行われ、もう何度も述べた思考&思想からくる業務違反以外にも、単純に女子生徒へのセクハラまがいの行為等も判明し、物の見事に学校をクビ&教員免許を剥奪されたと言う……ざまぁ(笑)
まぁ……それもあってか、俺と織田に与えられた処分が先に述べた、仕出かした事に比べて、比較的軽い物になった訳である。
んでもって、これ故に中学時代は学年主任に散々辛酸をなめさせられた生徒たちの中には、俺と織田の事を英雄扱いする奴もいたねぇ~……。高校生となった今じゃ、斜め上良く武勇伝程度にしかならんけど!
……とまぁ、中学時代の思い出を振り返っていると、今度は沙織が話を変える様に織田に話しかける。
「それで……織田さんは、龍君や裕也君の様に将来は自衛官に?」
「いやぁ~、私はそこまでは考えてないよ。まぁ……少なくとも、何かしら戦車道に関わる仕事には着きたいと思ってはいるわ」
「へぇー、家族や親戚に戦車道の経験者が居るの?」
そう織田の言葉に次の問いを投げかける沙織に対し、織田は台湾風ラーメンを啜りながら、こう答える。
「まぁね。母が昔、戦車道の日本代表の強化選手だったのよねぇ~」
「えー、それ凄いじゃん!」
織田の回答に対し、沙織が上げる感嘆の声を聴きつつ、今度は俺が付け合わせのミックスベジタブルを箸で転がしながら、織田に問い掛ける。
「っていうか、それが縁でお前、小学4年まで台湾に居たって話だったんじゃ?」
「あー、そうそうそう。母が元日本代表強化選手って事で、台湾の大学の戦車道チームの雇われコーチだったの。んで、そんな訳で小学校4年生まで、台湾に住んでいたの」
「そうなんですねぇ~。この前、テレビの旅行番組で台湾の特集があってみたんですが、その中で紹介された小籠包がとっても美味しそうでしたわぁ~♪」
そう言って少し前に放送された旅行番組の中で紹介された、台湾でも屈指の名店として知られる小籠包の店の小籠包を思い出し、今現在で食事中だと言うのにヨダレを垂らしそうになる華。
オメェの満腹中枢、ぶっ壊れてねぇか?腕のいい脳外科医、紹介してやろうか?
とまぁ~……脳内でチラッと、そんな考えが湧いてくる中、突然だった。
「あれぇー?龍先輩達じゃないですか~!」
「ん?あぁ……アキか」
此処に居る誰の物でもない声が俺達に掛けられ、その声に俺達が振り返ると、そこに居たのは俺と織田の中学時代の後輩にして、同じチームのメンバーだった|円谷アキ《つぶらや》の姿があった(※以降、アキ)。
「アキも今から、お昼なの?」
「少し遅くないか?」
アキの姿を確認した俺と織田が二人して、問いかけるとホットドッグセットが載ったトレーを手に佇むアキは「はい♪」と返事をしながら、こう続ける。
「ちょーっと……、先生に頼まれごとされましてねぇ~……。食事時間、少し遅れちゃったんですよ♪」
そう言ってニコッと笑うアキだが、その背後には顔の表情とは正反対のドッッッッス黒いオーラがムンムン!漂っていた……。
んで、俺と織田はそんなアキの漂わせるドッッッッス黒いオーラに対し、俺と織田を始め、裕也やみほ達も呆然としている中、俺はこう言う。
「そ、それは災難だったな……」
「えぇ、全くですよ♪あ、龍先輩、席開いてるんだったら相席良いですか?」
「あぁ……俺は構わんけど、お前達も良いよな?」
「ん?別にいいぞ」
「ほら!座って、座って!!」
そう言って哀惜の許可を求めてくるアキに返事をしつつ、裕也&みほ達に一応、聞いておくと裕也達も「ぜんぜん構わない」と言って感じで、アキを席へと招き入れる。
こうして、招かれたアキはホットドッグセットを載せたトレーを机に置きながら、俺と織田以外のメンバーに対して、軽く自己紹介をし始める。
「どうも初めまして、私、龍先輩と碧先輩の中学の後輩で、同じ戦車道チームのメンバーだった円谷アキと申します。以降、アキと呼んでください♪」
「おぅ、神崎裕也だ。以降、宜しく。龍の戦車道チームの後輩で、メンバーだったとは、苦労しただろ?」
「そりゃもう♪」
「んだと、コノヤロー!?」
「やめなさいっての!コラッ!!」
「ンボァッ!?」
アキの自己紹介に、同じく自己紹介で返しつつ、中学時代の事を聞いてくる裕也に対し、満面の笑みで俺のことをディスってくるアキに対して、俺はブチ切れる……前に、俺は頭に本日2度目となる織田のM29のグリップがめり込んで、強制停止させられる。
いやぁ~……一日に2回もエアガンで殴られるのって、俺だけか?
ってか、誰だ?「二度ある事は三度ある」って、言った奴は?
そんな事をふと思いつつ、痛む個所をさすっていると、今度は沙織達が自己紹介を始める。
「私は竹部沙織!んで、こっちが……」
「五十鈴華です。以後、お見知り置きを」
この沙織と華の自己紹介に「はい♪」と可愛らしく答えるアキに対し、沙織がニヤケながら、続けざまにこう言い放つ。
「いやぁ~……アキちゃん可愛いねぇ~♡モテるでしょー?」
「えー?そんな事ないですよぉー!そう言う先輩こそ、どうなんですかぁー?」
「え゛っ?」
まさかの予想だもしない質問返しに豆鉄砲喰らった鳩の様な表情になる沙織。
そんな沙織に対して、アキは容赦なく、更に傷口を抉って、塩を塗りたくる様な”追撃”をブチかます。
「だって、そんな事を聞くぐらいなんですから、モテるんですよねぇ~?」
「あ゛~……、その~……、ん~……、まぁ~……」
「えー、どうしたんですかぁ~?」
もう困り果て、困惑・動揺しまくっているの隠し切れない様子の沙織を見て、チョーーー悪ッい笑顔を浮かべているアキ。
はい、もう皆さんお察しの通り。この後輩、可愛らしい見た目に反して、腹の中真っ黒です!
そんな腹の中真っ黒なアキにグサグサと刺されまくり、もう完全にライフが0&「ぴえん」となっている沙織は隣にいる華に対し、助け舟を求めているが、流石にこの状況を前にしては、華も助け舟を出すに出せないと言わんばかりに「アハハ……」と若干ひきつった様な笑顔を浮かべるばかりだ。
んでもって、そんな沙織達の様子を見て、「「うわぁ……」」と言わんばかりに、完全に哀れむ様な表情を浮かべつつ、思いっきりドン引きしている裕也とみほを見て、俺と織田は深く「「はぁ~……」」と息を吐きながら、相変わらず絶好調に腹黒さを隠すことなくおっぴろげているアキに告げる。
「アキ」
「なんですか、龍先輩?」
「”察しろ”」
「あ~……、要は”そう言う事”ですかぁ~……」
「そう、要は”そう言う事”よ」
「しれっとトドメ刺すな、戦車道トリオ」
俺の言葉を聞きつつ、察したアキが「なるほどぉ~」と頷きつつ、セットのトマトジュースを飲んでいく中、裕也が呆れた様に突っ込んでくる。
そして、さっきまで思いっきりアキの腹黒の矢面に立たされていた沙織は完全に魂が抜きって、真っ白に燃えてきている……ご愁傷様です。
そんなカオスを極めに極めまくった俺達の様子を見て、とりあえず「アハハ……」と笑う事しか出来ないみほであったが、とりあえず、この状況が一段落したのを見て、アキに対して、自己紹介を始める。
「それで私が……」
「知ってます。西住みほさんですよね?」
「えっ?私の事、知ってるの?」
このまさかの予想だにしなかったアキの言葉を前にキョトンとした表情を浮かべるみほ。
同様に、この展開を予想だにしていなかった裕也や沙織達も「え?」と言わんばかりの表情でアキに視線を向ける中、俺と織田は共に顔を見合わせていた。
あるぅえー?俺、中学の時にみほの事、話した事あったっけ?
そんな事を思いつつ、織田に視線を向けるが、俺の考えを察した織田が首を横に振って否定する中、アキはこう言葉を続ける。
「だって、去年の全国戦車道大会に出場していたじゃないですか~。私、あの時、プラウダの戦車道チームに居たんですよ」
「あ、そう言えば、お前、プラウダから転校してきたんだったか?」
「そうですよ」
「忘れてた?」
「忘れてたわ」
織田の指摘に対し、間髪入れずに返事を返す俺の言葉を聞きつつ、アキはこう言葉を続ける。
「と言っても、その時、私は予備戦力だったんで、試合そのものには参加してないんですけどね♡」
「……あぁ、そうなんだね」
そう言って笑顔を見せるアキに対して、表情こそ笑顔ながらも、何処か後ろめたそうに……と言うか、何処か遠い目で返事を返すみほ。
そりゃそうだ……あの試合が原因で色々とゴタゴタになった末に在籍していた黒森峰を事実上の退学になり、それどころか、実家すら追い出されているんだからな……。
|コイツ《アキ》……腹の中が真っ黒と言うのは、中学の時から見てきたから、よーく知っていたが、こんな人の古傷を抉って、塩を塗る様な事するとは……。後で一回派手に〆とくか(※物理的に)。
ふとそんな事を思いつつ、片方の目でアキを見つつ、もう片方の目でみほの方に視線を向けると、当のみほは表情が暗くなり、顔を俯けていた。
そんな、みほの様子を見て、ただならぬ気配を裕也、沙織、華、織田の4人も感じ取るなり、みほに対し、心配の視線を向けると同時に並々ならぬ空気が流れ始める。
「あー……アキ、お前後で〆るからな」
「うん、それが良いわね」
この並々ならぬ空気から、そう決めた俺の判断と、それを肯定する織田の言葉に対し、素で「えーっ!?」と驚きの声を上げるアキ。うん、コイツ、天成の腹黒だわ!
「なんで私、いきなり死刑宣告を喰わらないといけないんですかー!?」
「周りの光景見てから、言え。バカヤロー、コノヤロー」
「「「………」」」
「……」
納得できない&不満満々な口調で答えるアキに対して、もう本日何度目になるか分からない「バカヤロー&コノヤロー」をブチかましつつ、俺は俺とアキ 織田に視線を向けてくる裕也、沙織、華に対して、相変わらず俯いたままのみほを横目で見ながら、こう言葉を続ける。
「あー……とりあえず、この空気で分かると思うが……、みほは今、実家とちょっと揉めてるんだよ。んで、此処まで言えば、後は分かるよな?もし分からなかったら、頭をハンマーで叩き割ったうえで、脳内に直接叩き込むからな!?」
俺のこの言葉に対し、思いっきり困惑した様な表情を浮かべつつ、「お……、おう……」と答える裕也の傍では、沙織と華がみほの方を向きながら、話しかけていた。
「ご、ごめんね。気が付かなくて……」
「本当にごめんなさいね……」
こ様に謝罪を述べる沙織と華に対して、みほは俯けていた顔を「ううん!」と言いながら上げると、二人に笑顔を向けつつ、こう述べるのであった。
「二人共、気にしてないから大丈夫だよ」
「………」
そう言って沙織と華に笑顔向けるのみほを見て、思わず俺は胸が詰まるような気分になった。
俺がみほの幼馴染として、古くから知っているからこそ分かる……。こう言っているが、内心は今にでも泣きたいんだろう……。
みほは決して強い存在では無い事はよーく知っている……、無茶しなければ良いんだが……。
再び笑顔で織田や沙織、裕也達と会話を交わすみほを見つつ、そう思った俺は気が気でなかった……。
…
……
………
<?Side>
その頃、大洗学園の生徒会室では生徒会会長である角谷杏|《かどたにあんず》
生徒会副会長の小山柚子|《こやまゆず》、生徒会広報の河島桃|《かわしまもも》がこう言葉を交わしていた。
「会長、それは一種の情報操作では無いでしょうか……?」
「大丈夫、大丈夫♪」
角谷の提案に柚子は、あんまり乗り気では無くむしろ否定的とも言える返事を返すが、角谷は大好物の干し芋を片手にそう返す。
そして角谷の言葉を聞いて、角谷の傍にいた河島はこう言い放つ。
「畏まりました、直ちに実行します」
この時、この生徒会で決定した計画がこの後、龍・みほ達を巻き込んだ大騒動になるとは、誰が予想できたであろうか……。
…
……
………
<龍Side>
昼食を終えた俺と織田以外の2年生メンバーは教室に戻り、高校生らしく放課後の予定を会話を交わしていた……って、え、何?
「お前と織田は何やってるんだ?」って?
|さっき《食堂》の件でアキに説教すると同時に|修正《フルパワー拳骨》してやったわ!(※ソンナオトナ!シュウセイシテヤルー!!)
先輩だぞ、文句あるか!?コノヤロー!!
そんな感じでアキへの説教を終えた俺と織田は休み時間が終わるまでに、教室へと戻る……と言っても、まだ10分以上あるんだが。
「ったく!アキのヤロー、もう1発頭にゴン!とやっておくべきだったか!?」
「やめなさいっての。それ世間だと、パワハラ、暴力行為。お互いを良く知る先輩・後輩関係だから、許されている様なもんよ」
手短にそう言葉を交わしつつ、教室のドアを開けると、教室の中では、みほ・裕也達が和気あいあいと会話を交わしていた。
「あ、戻ってきたか」
「おう」
そう言って裕也の言葉に短く返した瞬間、沙織が目を輝かせながら、こう言い放つ。
「ねぇねぇ、放課後、皆でお茶しない?」
「うわぁ~、高校生みたい」
「私達は高校生ですよ」
沙織の提案に対して、返したみほの返事に対して華がそう言うが、全く華の言う通りである。
今の俺達が高校生じゃなければ俺達は一体何なんだよ?
っていうか、逆に高校生であるはずの俺らが高校生じゃなければ、何が高校生になるんだ?
……トまぁ、考えたらキリが無いっていうか、”考えるだけ無駄な事が分かった瞬間、思考停止する1ミリも深い事を全く考えられない脳みそ”が入った頭の中をしれっとを過る中、軽く笑うみほの傍で、みほと同じ様に沙織が軽く笑いながら、こう言い放つ。
「実は相談があってさぁ~」
「何だ?」
如何にも猫やら、キツネやら、タヌキやら、なんやらかんやら被った口調でそう言い放った沙織に対し、裕也が問いかけると、沙織は深くため息を一回付くなり、こう言い放つ。
「ちょっと悩んでいて、私って罪な女よねぇ~……」
「人でも殺したのか?」
「なんで!?どういう事!?そこまで重罪は犯してないわよ!!!」
裕也の冗談なのか、本気なのか、分からない言葉に対し、漫画で見る様な『ムキーッ!!』と言う赤い文字がバックに見えそうな勢いで、怒る沙織の様子を見て、笑っている裕也を横目に見ていると、側にいた華が微笑みながら、怒りマークを頭に浮かべている沙織をなだめる様に話しかけた。
「また、その話ですか?」
「うん!いろんな男の人から声掛けまくられてさぁ~、どうしたら良いの?」
「知らんわ、バカヤロー」
「はい、出た。バカヤロー」
沙織の本気なのか、冗談なのか、まーったく分からないピンキーな沙織の発言に対し、本日、恐らく8回目ぐらい(※知らんけど)のバカヤローを炸裂させ、それに対して、間髪入れることなく織田が突っ込んでくる。うん、流石は一番の戦友だ。
っていうか、沙織の脳みそ本当にどうなってんのやら?
何をどう間違えたら、地平線の果てまで、キレイな真っピンクなお花畑脳が出来上がるんだよ?
しれっと、そんな考えが湧いてくる中、俺は沙織に向けて、こう言い放つ。
「ただの挨拶だ、バカヤロー。自意識過剰過ぎんだよ、オメェーは」
「龍さんの言う通りですよ」
俺の言葉を肯定する様に言葉を続けた華の言葉に対し、沙織は「いやいや!」と首を横に振って、否定するとこう言い放つ。
「だって!3日連続だよ!?これって気がある以外に何があるのよ!?」
「あぁ?性癖と性欲を派手にこじらせたストーカーまがいの性犯罪者か、お前に対して、殺したい程の恨みを持つ奴とかじゃないのか?」
「いや!私、恨みを買う様な事してないよ!?」
俺の言葉に対して、マジで困惑した様な表情を浮かべながら、反論してくる沙織。
そんな沙織に対して、織田が呆れた様子で俺に続く様にこう言い放つ。
「貴方、ぜーったい!想像妊娠するタイプよ」
「妊娠!?えっ、私、まだそういう相手は……」
「想像妊娠!普通の妊娠とは違うわよ!!」
織田の『想像妊娠』と言うワードに対し、”ナニ”を想像したのか、思いっきり顔を真っ赤にしながら、織田に言葉を返す沙織。
その”余りにも斜め上を行く突拍子の無い沙織の想像”を前に、織田が声を荒げながら、その想像を否定する。
うん……|コイツ《沙織》、”欲求不満”なの?溜まってんの?
いや、本当にお前の脳みその中を見てみたいよ……。
っていうか、医学が驚異的に発展したこのご時世に想像妊娠なんて、ある意味ではスゲェな……。
ある意味で荒ぶっている沙織に対し、そんな考えが湧いてくる中、沙織への説教(?)を終えた織田が「ったく!」と呟いた後、話を変える様にこう言い放つ。
「まぁ、それは置いておいて……。所、昨日の『マジでっかテレビ!?』見た?」
「あぁ!見た、見た!!」
といった感じで、違う話題で再び6人で話し始めたその時、突如として、クラスメート達が一斉にガヤガヤと騒ぎだした。
「え、あれって生徒会長だよね?」
「なんでこんな所に?」
「おい、お前何か知ってるか?」
「そんな知る訳ないだろ」
ふとクラスメート達のガヤに耳を傾ければ、その様な声が聞こえてくる中、クラスメート達が視線を向ける先に、後を追う様にして視線を向けると、そこに居たのは、この大洗学園の”ボス”に当たる存在の生徒会長と、その右腕的存在に当たる副会長と広報の3人組だ。
「沙織さん、あの人達は誰?」
「生徒会長、それに副会長と広報の人」
その事を知らないみほが沙織に問い掛け、沙織が手短に回答する中、クラスメート達のざわめきはより一層大きくなっていく。
そりゃそうだろうな……。何の前触れも無しに普段なら、間違っても訪ねてくる事の無い、生徒会会長達がクラスを訪ねてきたのだから。
クラスメート達の動揺にも似た、ざわめきを聞きつつ、俺達もクラスメート達と同じ様に生徒会長達に視線を向けた瞬間、逆に会長達が俺達の方を指さしたかと思った次の瞬間には……。
「や~!西住ちゃ~んに、喜多川ちゃ~ん!!」
……とまぁ、初対面だと言うのに、凄まじく馴れ馴れしい様子で俺とみほの名を呼びつつ、俺らの元にやってくるのだった。
え、こんなのが|ウチ《大洗学園》の会長?頭、大丈夫?
っていうか、この学校自体が大丈夫なの?
余りの馴れ馴れしさに、そんな考えがチラッと湧いてくる中、会長と共にやってきた広報担当がこう口を開く。
「少々、二人に話がある。廊下に出てもらいたい」
「はい……?」
「はぁ……」
そう手短に答えつつ、言葉通りに廊下に出る俺とみほ。
一体、生徒会が俺とみほに何の用があるんだってんだ?全く想像がつかないぞ。
とりあえず言葉通り、頭の中でそんな考えが湧いてくる中、廊下に出る。
んでもって、廊下に出た俺とみほ同様に廊下に出た会長は開口一番、こう言い放つのだった……。
「必修選択科目だけどさぁ……。二人共、戦車道とってね♪」
この会長の言葉に対する、俺の正直な気持ちは次の通りです。
『馬鹿なんじゃねぇのか、この会長?』
シンプルに何の捻りも無く、そんな考えが俺の頭の中に湧いてくるのと同時に、この会長の言葉から、俺とみほ達の”運命の歯車”が大きく回り始めたのだった……。