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前進せよ、M48パットン!!

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M48A3パットン戦車。
東西冷戦真っ只中の1950年代にソ連軍の戦車”T-54/55”に対抗するべく、アメリカ軍により開発された戦車である。
機械的信頼性の高さを始め、機動力の良さ、対戦車戦闘力に優れた主砲の火力と命中率などが非常に評価され、アメリカ軍だけではなく西ドイツ軍、イスラエル軍、韓国軍を始めとする西側陣営の軍隊で広く使用された戦車であり、現在も11カ国の軍隊において使用されている。
またM48には多数のバリュエーションがあり、”M48A3”型もその1つ。
最大の特徴として前のA1、A2型がガソリンエンジンを搭載していたのに対し、A3型はディーゼルエンジンを搭載している事が上げられる。
これによって被弾時の火災発生率が低くなる上、ガソリンエンジンよりも長い時間走行が可能だ。
んで、この様な特徴を持ったM48A3はドロ沼のベトナム戦争にアメリカ軍の主力戦車として投入され、当初のアメリカ軍上層部が予想していた「ベトナムの熱帯雨林では戦車は使えない」と言う予想を否定するかの様にベトナムのジャングルの木々をなぎ倒して突き進み、基地防衛や輸送部隊の護衛を始め、ジャングルや市街地の戦闘における歩兵部隊の支援、ベトコンの地下トンネルを砲撃して吹き飛ばす等と言った大活躍を見せた。
この為、M48A3パットンに対するアメリカ兵たちの信頼は高く「パットンに乗れば生きて帰れる」と言われ、本戦車の”傑作”ぶりを一躍高めている。


そんな傑作戦車にリアルタイムにて俺”アラン・F・ナカムラ”と双子の妹である”エリー・F・ナカムラ”は搭乗し、のどかな田舎道を走行していた。
え?「何でお前らは理由も無く戦車に乗っているんだ?」、「っていうか、名前から見てお前ら兄妹は日本人か?」って?
うっせー、バカやろー)
そりゃ、俺とエリーは共に”日系アメリカ人”で純粋な日本人じゃないけど悪いか?
つーかさー……、「理由も無く戦車に乗っているんだ?」とか言うなよ……、この作品の世界は戦車で通勤、通学と言ったレベルで”戦車が一般的な世界”なんだから……。
文句つけるんだったら、原作者かこの戦車が一般的な世界を作った人に言ってくれ。
あ、ちなみに俺とエリーの在籍する”野良(のら)中学校”は北関東の”ド田舎”にある公立中学校。
だから、戦車で通学するのが認められているのである。
『兄さん、何一人でブツブツと言っているんですか?』
「あ、いや……、何でもない……、ゴホン!!ゴホン!!」
今の考え、思わず全部独り言で言っちゃっていたよ……、恥ずかしい……///
そう胸の内で思いながら、俺は気持ちを切り替える様に咳払いをすると頭からつけているヘッドフォンのインカムマイク越しに操縦席に座るエリーに話しかける。
「エリー、どうだパットンの調子は?」
『大丈夫そうですわ、兄さん』
「よし、ちょっとスピードを上げてくれ。今頃、二人共が揃って待ちくたびれているぞ」
『分かったわ、兄さん』
俺の指示に対して、エリーはそう返すとアクセルを踏み込んでパットンを加速させる。
あ、この行動を読んで「?」となった人の為に説明するが、戦車って言うのは数人居ないと基本的に動かせない代物なんだよ。
基本的なメンバーとして、敵を捜索したりして戦闘指示を出す”戦車長”、戦車長の指示を受けて敵を攻撃する”砲手”、砲弾を装填する”装填主”、戦車を操縦する”操縦主”の4人だ。
更に説明すると第二次世界大戦中の戦車では通信機器が発達していなかったこともあり、無線機を担当する”通信主”って言った役割があったんだが、パットンを始めとする第二次世界大戦後の戦車は通信機器の発達もあって基本的に通信主は戦車長が兼ねている。
そんで俺は戦車長を担当し、エリーは操縦主を担当しているって訳よ。
『兄さん、先ほどから誰に向かって話しているんですか?』
「何でもない!!」
『……そうですか』
俺って考えたことが勝手に口から出てくるタイプなのかなぁ……。
ヘッドフォンから聞こえてきたエリーの声を聞き、俺はそう思いつつエリーの操縦するパットンに揺さぶられる。


それから数分後、俺とエリーの搭乗するパットンは中学校への道のり一つである商店街へとやってくる。
ブルドーザーやトラクターとは比べ物にならない様なディーゼルエンジンの唸りと共にギュラ、ギュラと言うキャタピラと地面に摩擦音を鳴らしつつ、商店街を前進するパットン並びに搭乗する俺とエリーに向けて開店前の準備をしていた乾物屋の店長さんの大畑さんが店前に水をまきながら話しかけて来る。
「よう、アメリカ人兄妹」
「あ、おはようございます」
『おはようございます、大畑さん』
そう言ってパットンを一度とめて、俺とエリーが大畑さんに挨拶を返すと大畑さんはホースを片付けながらこう言い放つ。
「お前らのパットンの搭乗員なら居酒屋 鳳翔(ほうしょう)の前で待っているぞ。直ぐに迎えにいってやれ」
「そうですか、ありがとうございます。では……、エリー、戦車前進だ」
『了解。では、大畑さん失礼させてもらいます』
そう大畑さんに兄妹揃って礼を言うと、俺とエリーは大畑さんの言っていた”パットンの搭乗員”を迎えに行くべくパットンを走らせる。
ちなみにこの商店街だが、俺とエリーがド田舎では珍しい”双子の日系アメリカ人兄妹”と言う事もあってか、なぜか殆どの店の人が俺とエリーの事を知っているんだよね……。
口に出さないように最善の注意を払いつつ、またエリーの操縦するパットンに揺られつつ居酒屋 鳳翔に向かうと、そこには大畑さんが言っていた様に残るパットンの搭乗員2人が首を長くして俺とエリーを待ちわびているのであった。
「ようお待たせ」
「二人揃っておっそいわね!!アメリカ人兄妹!!」
「朝から、そう怒らないの………」
パットンの上からそう言い放った俺に対してブチ切れているのは”沼倉(ぬまくら)タカオ”。
俺とエリーのパットンの搭乗員の一人にして砲手を担当している。
パッと聞いたら大半の人は男の名前と思うが、これでもれっきとした”女子”だ。
どうしてこうなったのかを説明すると、元海上自衛官にして日本海軍マニアの彼女の父親が好きな軍艦だった”高雄型重巡洋艦一番艦・高雄”から因んでこんな男らしい名前になってしまったそうな、つくづく不幸な奴である。
「誰が”不幸な奴”よ、このアメリカ人(兄)!!」
「人の心を読むなよ……」
妙に鋭い勘の持ち主であるタカオは偶(たま)にではあるが、こうして人が胸の内で考えている事を鋭く指摘してくる時がある。
まったくオチオチと冗談も言えない……、と言うか考える事すら出来ないぜ……。
そう胸の内でタカオに感づかれないように思いつつ、俺はタカオを宥める男子に顔を向ける。
男子の名前は”中川正一(なかがわしょういち)だ。
のんびり屋と言える性格で暴走しがちなタカオのストッパーとも言うべき存在だ。
パットンの搭乗員としての役割は90ミリ砲に砲弾を装填する”装填主”だ。
ちなみに二人が待っていた居酒屋 鳳翔は彼のお母さんが営む店でタカオと正一は従兄妹だ。
現在、タカオの両親が共に海外に長期出張しているが為にタカオが正一の家にお世話になっている……、そんな感じだ。


そんな二人は俺との口喧嘩もホドホドにして、パットンに慣れた手つきで乗り込んでいく。
そりゃ一年も乗って居りゃ、自然と手つきも慣れるわけだよな。
胸の内でそう思いながら、二人がパットンの中に入った事を確認するとヘッドフォン越しに俺は話しかける。
「正一、タカオ、準備良いか?」
『えぇ、バッチリよ』
『OK、OK、何時でも行けるよ』
「よし……」
ヘッドフォン越しにそう返しつつ、車内で親指を立てて共に準備が整ったことを俺に知らせる。
その様子を見た俺は一言呟きながら、エリーに向けて戦車前進の支持を出す。
「了解した。エリー、戦車前進だ」
『了解、にいさ……』
エリーがそう言って俺に言葉を返そうとした時だった。
突如として商店街中に「バキッ!!メリッ!!ガキッ!!」と言う凄まじい金属音……と言うか、破壊音が鳴り響く。
『な……、何?』
『多分……、かのんさん達のパンターじゃないかと……』
「あいつらか……」
呆然とした様子のタカオに対して、エリーが若干引きながら答えるのを聴いた瞬間、俺はエリーの言っている女子達の事が頭を過ぎった。
その女子達とは俺達と同じ野良中に通う、もう1つの”戦車登校組”。
名前を戦車長、操縦主、砲手の順に上げていくと”島田かのん、竹内マリコ、野口むつみ”の3人。
ドイツ軍が第二次世界大戦中に生み出した最後にして最強の中戦車”パンターF”のクルー達である。
そんな彼女達と俺達の関係だが、共に”野良中戦車同好会”のメンバーで模擬戦やったり、演劇部の映像作成に協力したりと楽しくやっている幹事だな。
更に詰めて説明すると”部活じゃなくて、同好会”なので、学校からの支援無しで俺とかのん達が個人でやっているクラブ活動だと思ってくれれば良いぞ。


んで、ココで話を脱線させてもらう形でタカオ、正一、かのん達と今の関係になるまでをざっくりばらんながらも説明させてもらうとしよう。
タカオ、正一、かのん達との出会いは丁度1年前の初登校の日だった。
小学校4年までアメリカはカリフォルニアに住んでいた俺とエリーはアメリカ人の父さんが交通事故で無くなった事をきっかけに、母さんの生まれ故郷である日本へとやって来た。
その際に日本に持ってきた父さんの肩身の1つとして、このパットンが含まれていのだ。
「なんで父親の肩身が戦車?」と突っ込みたい人の為に説明すると父さんは若い頃、かの有名なベトナム戦争に”アメリカ陸軍第11装甲騎兵師団”の戦車兵として従軍したのだ。
その時に父さんが乗っていた戦車がパットンであり、父さんにとっては青春の一部とも言える戦車だったのだ。
ちなみに俺達の乗っているパットンも、かつて父さんが所属していたアメリカ陸軍第11装甲騎兵師団で使われた戦車だったらしく、部隊のエンブレムマークである”黒い馬”が書かれている。
んで、上でも書いたように野良中は戦車登校が認められている為、俺とエリーがパットンで登校していた時だった。
新中学生生活が始まった初っ端から遅刻しそうになっていたタカオと正一を見かけ、エリーが声を掛けてパットンに乗せて共に登校した所から付き合いが始まった。
二人は「遅刻しそうな所を助けてくれた恩」と言う事で、戦車長の俺と操縦主のエリーしか居なかった当時のパットンのクルーとなってくれた訳だ。
んで、んで、そんな感じで知り合ったタカオと正一を乗せたパットンで学校にやってきて俺達は揃って驚いた。
戦車登校は俺達だけだと思っていた俺達の目の前にもう一台の戦車が居たのだから。
んで、もうお察しの通りにその戦車がかのん達のパンターFだったのだ。
そんで、共に驚きながらも共に”戦車通学する身”と言う事でシンパシーを感じた俺とかのん達はあれよ、あれよと仲良くなって同好会を設立、現在に至ると言う訳である。
まぁ、そんな彼女達なんだけど……、ちと暴走気味なのが玉に瑕なんだよね……。
「はぁ……。エリー、戦車前進だ」
「了解ですわ」
俺はそう深く溜め息を付きつつ、俺はエリーに前進指示を出してパットンを前進させる。


そうしてタカオと正一を乗せたパットンが前進する事、約数分。
俺とエリー、タカオと正一の視界にはかのん達パンターFと共に”グッチャグチャの鉄スクラップになった高級車(多分、ベンツ?)”が飛び込んで来る。
おおよそ、かのん達のパンターが踏み潰したんだろうな……、裁判沙汰になったら大事ってレベルじゃ無いな……。
『かのん達……、よくやるわね……』
『全くだね……』
『まぁ、まぁ、かのんさん達らしいではないですか』
胸の内でそう思うと同時にタカオと正一の呆れた声とエリーの宥める言葉を聞きながら、俺はかのん達のパンターに無線通信を入れる。
「おい、かのん。聞こえるか?」
『あっ、アラン?おはよー』
若干不満げなとも言える声で話しかけた俺に対して、かのんは能天気極まる声で言葉を返してくる。
お前……、『おはよう』って言っている場合かよ……、今そこで犯罪行為とも事をやっちゃてるんだぞ……。
『ふっ、ふっ、ふっ~……』
パンターFのキューポラから俺に向け、笑顔で手を振るかのんを見て、俺がそう胸の内で思っているとパンターFの操縦主であるマリコが不敵な笑い声で話しかけて来る。
コイツは戦車同好会1の問題児……、と言うか”火にガソリンぶち込む”様な奴だからな……、面倒くさいことにならなければ良いんだが……。
そんな俺の願いも虚しくマリコは問題児らしく、火にガソリンぶち込む様な発言をブチかます。
『戦車で車を踏み潰すのは定番のテンプレートでしょ?』
「そんな問題じゃないだろ……」
マリコの問題児ぶりに思わず頭が痛くなってくる中、パンターFの砲手であるむつみとエリーが俺の様子を察したのか俺とかのんに向けて話しかけてくる。
『そんな事より早く学校に行こう』
『そうですわ、遅刻まであと30分までしかないんだから』
「え?もうそんな時間か?」
むつみとエリーの言葉を聞き、俺は腕時計を確認すると確かに二人の言うように遅刻まで残り30分をきっていた。
「うわ、本当だ!!エリー、全速前進だ!!」
『了解』
『こっちも遅れる訳には行かないわ!!マリコ、全速前進して!!』
そんな俺の言葉を受けて、エリーがパットンを全速力で前進させるとかのん達のパンターも全速力で学校へと向かうのであった……。





……

………



それから約4時間が経った頃合だろうか……、12時を回った野良中では昼食の時間となっていた。
俺とエリー、かのん達は席を固め、昼食を取る。ちなみに今日は給食が無いので弁当持参となっている。
「んっまぁ~い!!」
「昼飯ぐらい品良く食べなさいよ……」
弁当をガツガツと搔きこんで行くかのんに対して、タカオが呆れた様子で正一のお母さんが作ったであろうと思われる弁当の卵焼きを箸で摘みながら突っ込みを入れる。
確かに女子として品良くない食べ方をしているのには違いないよな……。
そう思いつつ俺はエリーが母さんと共に朝早くから作ってくれたルーベンサンドに齧り付く。
ちなみに、このルーベンサンドはニューヨークではド定番のサンドイッチであり、トーストしたライ麦パンに、コンビーフ、ザワークラウト、スイスチーズ、ロシアンドレッシングまたはサウザンドアイランドドレッシングを挟んで作るサンドイッチであり、アメリカらしく無駄にボリューム満点なサンドイッチである。
まぁ、アメリカ在住時代の頃からの俺の大好物なのでペロリと平らげるけどな。
そう思いつつ、ルーベンサンドを食べている俺の側ではエリーがかのんの弁当を見ながらこう呟く。
「それにしても、マリコさんの作ったお弁当、美味しそうですね」
「まぁねぇ~、それ程でもあるけどね」
エリーに褒められて、マリコは少なからず気を良くしながら机の上に置いてあった牛乳を手に取り、ストローを加えて牛乳をのどへと流し込んでいく。
そんなマリコを見ながら、正一がかのんに問い掛ける。
「そういえば、かのん。バイトはじめたんだって?」
「うん、自分の戦車の燃料代ぐらいは自分で稼ぎたいじゃない。正一のお母さんのお店でもバイト募集するんだったら参加するよ?」
「残念ながら、うちは今の所、そんな予定は無いよ……」
「そうなの……」
正一の返事に対して、かのんは少なからずガッカリした様子である。
まぁ……、もし応募していたとしても酒を飲む為の店である居酒屋で高校生のバイトは受け付けないと思うんだけどな……。
そう思いつつ、サンドイッチのパンで無くなった口内の水分を補給する為に自販機で買ってきたオレンジジュースを喉へと流し込んでいると、今度はむつみが正一に変わってかのんに問い掛ける。
「でも、かのんちゃん。何でそこまでして燃料代がほしいの?」
「そりゃ決まっているじゃない」
むつみの問い掛けに対して、かのんは食べていた弁当を間食するや否や弁当箱を机に置いて立ち上がると声高らかにこう宣言するのであった。


「私達は関東最強の戦車乗りを目指すんだから!!!」


何ともまぁ……、スケールのデッカイ夢だこと……。
つーかさー……、「私達」って……、俺とエリー、タカオ、正一のパットン組も含まれていることになるよな?
俺だけではなくエリー、タカオ、正一も多分、そんな事を胸の内で思っているような表情を浮かべる中、マリコが口を拭きながら冷静に突っ込みを入れる。
「無理ね」
マリコにそういわれた瞬間、かのんは間髪居れずにズコーッ!!と言う祇園がバックに見えかね無いほどの勢いでズッコケル。
そりゃあ……、威勢よく宣言して数秒後に全否定されりゃズッコケたくもなるけどな……。
胸の内でそう思いながら、ズッコケたかのんを見つめていると当の本人はすぐさま起き上がるなりマリコに詰め寄る。
「どーして!?」
「だって、うちら同好会だもん。同好会のレベルで戦車2台も維持・運用なんて無理なの。部活に昇進するか、よっぽど太っ腹なスポンサーでも付かない限り、我が校のオンボロのパンター並びにベトナム帰りのパットンに勝ち目は無いわ」
「うぅぅ……」
珍しくまともな事を言ったマリコに対して、かのんがぐうの音も出ない様子&テンションになっている。
そりゃぁ……、俺とエリー、タカオ、正一だって”関東1の戦車乗り”なんて称号が貰えるなら欲しいもんだよ……、あんまり役に立たないとは思うけど。
だけど、マリコの言う通り戦車の維持・運用なんて国家権力である軍隊や自衛隊ですら手を焼く所がある代物だ。
戦闘並びに作戦行動に欠かすことの出来ない大量の燃料や砲弾の調達、修理や整備、戦車兵の訓練等が出来てこそ戦車を使った戦争が出来るわけだ。
それを個人レベルでやるとなると、天変地異でも起きない限りは無理難題なだけだ……。
ぐうの音も出ないかのんを見ながら、そう思っているとかのんを哀れに思ったエリーがかのんの肩を持つようにマリコに問い掛ける。
「でも……、そこを如何にかできない訳でもないんですよね……?」
「まぁー……、ねぇー……、方法が無いわけじゃ……」
そうマリコが少なからず何かしらの言葉を返そうとしたときだった。
突然、教室のドアが勢い良く開くなり一人の男子が息を切らしながら飛び込んでくるなりこう叫ぶ。
「全員、伏せろおぉっ!!」
「「「え?」」」
この男子の発言に俺とエリー、かのん達が訳が分からず呆然とした次の瞬間。


ドガァァァンッ!!


……と言う爆音と共に校舎の一部が吹き飛ばされ、桁違いな爆音と衝撃波が俺達に襲い掛かる。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
「なんだっ!?」
これになす術も無く吹き飛ばされる俺達に追い討ちを掛ける様に次の瞬間、機関銃の銃声が当たり一面に鳴り響くなり、次々と教室にあるカレンダーや黒板消しが銃弾を喰らい宙を舞う。
つーか、何この状況!?テロリストによるテロ攻撃!?中国軍の軍事侵攻!?
「兄さん!!」
「大丈夫だ、エリー!!」
そんな考えが頭の中を駆け巡る中、俺はとっさに妹であるエリーを抱えてエリーを守る。
流石に家族は守らないと男が廃るからな!!


そう自分に言い聞かせた瞬間、俺達に向けて行われていた砲撃・銃撃が止み、代わりにメガホン越しに怒鳴り声が聞こえてくる。
『おらぁぁっ!!聞けぇや、中房共ぉぉ!!うちの可愛い、可愛い舎弟のサブのベンツを潰してくれたなぁ!!あれはサブがこつこつとアルバイトして稼いだお金で買ったベンツなんだぞ!!事故車でお安くだけどな!!』
『一言多いです~……、兄貴ぃぃぃっ~……』
その声を聞きつつ、俺はかのん、マリコ、タカオ達と共に狙い撃ちされないようにそーっと頭を出して外の様子を伺う。
すると、そこには近くの暴走族がソ連製の主力戦車の”T-55”が2両、水陸両用戦車の”PT-76”が2両で合計4両の戦車がグランド中を走り回り、搭載している機関銃を乱射している様子が飛び込んで来る。
どうやら……、この攻撃の主犯は今朝、かのん達が潰したベンツの持ち主である、あの暴走族達で間違いないな……。
それにしてもベンツを潰された被害者とはいえ、軍事攻撃さながらの報復かよ……、無駄にすごい行動力だな……。
胸の内でそう思いながら、グランドを蹂躙するが如く暴れるT-55とPT-76を見ている側でかのんとマリコがこう言葉を交わす。
「な……、何よ!?あのT-55とPT-76!?」
「どうやら2種類とも近くの暴走族の戦車みたいね」
「暴走族って……、私達なにか恨み買うような事したっけ?」
マリコの推測に対して、かのんが腑に落ちない様子でマリコに再び問い掛けるとマリコは不敵な笑みを浮かべてこう言い放つ。
「さぁね?見当も付かないわ」
「言い切りやがったわ……、この女……」
そう言い放ったマリコの言葉を聴いてタカオが半場、絶句した状態でそう言い放つ。
確かに思い切りベンツをペチャンコにしておいて、堂々と無罪主張だもんな……。
これが殺人事件の法廷なら確実に裁判で死刑になりかねんぞ……。
タカオの言葉を聞き、胸の内でそう思っているとマリコが何かアイディアを思いついたらしく「あ」と一言呟くなり、かのんに向けてこう提案するのであった。
「かのん、これはチャンスよ。あの悪趣味なT-55とPT-76を”我々”、野良中戦車同好会が殺れば注目される!!」
「注目されば……、あ!スポンサーが付くかも!!」
おいおいおい……、殺るって……、マリコ……、もう少しマシな言葉は無かったのか?
つーか、「我々」って……、さっきも言ったように俺とエリー達も含まれているって事だよな?
こう言う事は出来れば勘弁して欲しいって言うか、巻き込まないでくれないか?。


っていうか、それに以前に俺達のパットンはベトナム戦争で運用していたアメリカ軍と南ベトナム軍の戦車部隊が実際にT-55、PT-76と交戦して撃破した記録があるよ。
だけどさ、第二次世界大戦中に作られたお前たちのパンターFは第二次世界大戦後に作られたT-55と戦う事なんて無茶としか言いようが無いぞ……。
そう胸の内で思っているとむつみも同様のことを思ったらしく、「今こそチャンス!!」と意気込むかのんとマリコに対して、腰引け気味に話し掛ける。
「あのぉー……、ウチのパンちゃんでT-55とPT-76を相手にするのは無理があるんじゃないかな……、一応相手は腐ってもベストセラーの第1世代MBT……」
「殺らんでかい!!」
「うわーん!!人の話しは最後まで聞いてよぉ~!!」
むつみの言葉を遮るようにして、かのんがマリコと共に彼女の腕を掴んで教室の外、パンターFへと向かって走り出す。
ったく……、本当に無茶するよなアイツら……。まぁ、「頑張って頂戴」とだけ言わせて貰いますよ。
俺達、パットン組は”高みの見物”と洒落込みますかな。
「アラン達も!!」
「Give me a break(勘弁してくれよ)!!」
「あぁ、兄さん!!」
「全く強情な連中ね……」
「とりあえず僕達も強制参加だね、こりゃ……」
そう思った矢先にかのんは教室の窓の外を見ようとしていた俺の首根っこを掴んで強制連行。
この行為に対して思わず英語でそう答えながら、俺は成す術も無く連行されていく。
それを見たエリー、タカオ、正一の3人もしぶしぶ教室を出てかのん達と共にパットンの元へと向かうのであった。





……

………



そうして俺達はT-55、PT-76迎撃の為に階段を駆け下るなり、校庭の駐輪場の隣に停車したパットンとパンターFに俺とかのん達は一斉に乗り込んでいく。
「マリコ、燃料は!?」
「十分よ!!」
そうマリコとかのんが言葉を交わしつつ、パンターに搭乗する側で俺はエリーに対して、かのんと同様にパットンの燃料残量を問う。
「エリー、パットンの燃料は!?」
「この前、給油したから問題ないわよ!!」
「OKだ……、ふぅ……」
エリーからの返信を聞いて、俺は思わず深く息をついた。
正直言わせてもらうと俺は今、緊張している……、今までにかのん達の模擬戦で戦車戦自体は経験している。
だが、それはあくまで”訓練”の領域を出ないもの。現在のような”実戦”では無い。
実戦である以上は俺達、かのん達の戦車が共に”豪華な4,5人用棺おけに早変わり”する事だってありえる。
そうならない様にベストを尽くせ、俺!!エリー、タカオ、正一、かのん達の為に!!
そう自分に言い聞かせた後、俺は目を勢い良く開くと軽く息を吸った後、大声でこう叫ぶ。
「全員、戦車搭乗!!」
「「「了解!!」」」
この俺の号令と共にエリー、タカオ、正一の3人が一斉にパットンに乗り込んでいく。
その様子を見ながら、俺もパットンに飛び乗ると同時にエリー達に対して指示を出していく。
「エリー、エンジン始動!!正一、装填急げ!!弾種、徹甲弾 !!」
『『了解!!』』
怒鳴る様に出した俺の指示を受けた二人は素早く行動に取り掛かる。


まずエリーは各機器のモニターやディスプレイ、メーターを確認して異常が無い事を確認すると大声でこう言い放つ。
『各機器異常なし!!エンジン始動!!』
そう言いながら、エリーはエンジン起動ボタンを押す。
瞬間、凄まじいパットンのディーゼルエンジンが唸りを立てて動き出す。
そんなディーゼルエンジンの唸りを聞きつつ、正一は手馴れた手つきで砲弾ラックより徹甲弾を取り出すなり、90ミリ砲へと装填する。
『砲弾、装填良し!!』
「了解!!タカオ、安全装置解除!!戦闘に備えろ!!」
『分かってるわよ!!』
正一の装填完了の合図を聞いて、タカオに戦闘態勢を取る様に指示を出すと当の本人は「今更分かりきった事を……」と言わんばかりの表情で照準機を覗き込む。
お前さ、基本が世の中大事なの。基本さえしっかりしてりゃ、後はどうなろうとでもOKなんだよ。
タカオの表情を見ながら、そう胸の内で思っているとヘッドフォンよりかのんからの通信が入ってくる。
『アラン、パットンは準備OK!?』
「あぁ、大丈夫だ。何時でも行けるぜ、かのん」
そうヘッドフォンの通信ボタンを押しながら、インカムマイク越しにそう伝えるとかのんはマイク越しに『よぉ~し!!』と呟くとこう言い放つのであった。
『では、あの暴走族共が乗り回す農業トラクターどもに戦車戦を教育してやるわよ!!マリコ、戦車前進!!』
『了解!!』
かのんがそう言い放った後、パンターFが勢い良く走り出す。
「エリー、かのん達の後に続け。A tank, advance!! (戦車前進)」
『Yessir!!(了解)』
その様子を見ながら、俺もエリーに対して前進指示を出す。
瞬間、俺達の登場するパットンもエンジンを高鳴らせパンターの後に続いて前進するのであった……。





……

………



その頃、学校を襲撃中のT-55とPT-76は全力で暴れまくっている。
「オラオラオラ~!!」
「舐めんじゃねぇぞ、中学生の分際共がぁぁ!!撃てぇー!!」
「うわぁぁ!!」
「逃げろおぉぉっ!!」
突然の襲撃になす術も無く逃げ惑う生徒達の後ろではT-55のキューポラから戦車長役の暴走族メンバーが搭載されているソ連製の重機関銃の”SG-43重機関銃”を乱射して、校舎の窓ガラスやら駐車場に停車する先生達の車を穴だらけにしていく。
その側ではPT-76の戦車長役の暴走族メンバーがキューポラからソ連製のアサルトライフルである”AKS-47”を構えつつ、砲手に対して砲撃指示を出し、この指示を受けた砲手は校庭に置かれたサッカーポストにPT-76の砲塔を向けるなり、トリガーを引いて轟音と共に榴弾を放つ。
瞬間、放たれた榴弾はサッカーポストに命中するなり炸裂し、サッカーポストを木っ端微塵に吹き飛ばす。
その様子を見ながら、暴走族のリーダーである兄貴は大声でこう指示を出すのであった。
「おらぁ、お前ら!!校舎にもう一発ぶち込んだれやぁぁ!!」
この指示を受けて、彼の搭乗するT-55を始めとして暴走族グループの全ての戦車が砲塔を後者に向け、いつでも学校校舎を砲撃できる体制を取る。
その様子を見た兄貴は「よし……」と一言呟くと一回息を吸った後、大声でこう叫ぶ。
「お前ら一斉射撃だ、撃てぇぇ!!」
そう兄貴が言い放った瞬間、凄まじい爆音と共に爆炎が巻き起こるのであった。


彼が指揮する2台のPT-76の1台から。


「うわぁぁぁっ!!」
その爆音と共に聞こえて来たPT-76の戦車長の絶叫に気づいて、兄貴が弟分と共に振り返った際に見たものは砲塔を豪快に吹き飛ばしつつ、炎上するPT-76の姿であった。
「あ、兄貴!!」
「い……、一体何だ!?」
彼らにとっては突然起きた”予想もしないハプニング”だが、そのハプニングは俺達にとっては”当然の結果”だ。
双眼鏡越しに暴走族メンバーが慌てふためくのを見ながら、俺は胸の内でそう思いながらタカオにこの事を報告する。
「タカオ、お見事だ。PT-76の撃破を確認」
『別に褒められるまでの事じゃないわ。止まっている標的を狙うなんてバカでも出来るわよ』
俺に顔を向けて、そう言い放ったタカオは続け様に「ふん!!」と鼻に掛けた笑い声を上げると再び照準機を覗き込む。
コイツ、純粋無垢なエリーと比較すると凄まじいツンデレなんだよね。だから、内心は滅茶苦茶喜んでいるんだろうけどな。
日々の射撃訓練とかでたまに標的のど真ん中を撃ち抜いた時なんか、「イヤッター!!」とか言って正一に隣に座る思いきり抱きついていたしな。
ちなみに抱きつかれた正一提供の情報によると学校では”ツンデレ美少女”で通している彼女だが、家では”「乙女プラグイン」実装済み”との事であり、彼女の部屋は凄まじい程のピンク並びに乙女グッズで埋め尽くされているそうな……。
タカオ、お前って「残念な美少女」に分類されるタイプだよな絶対。
照準機を覗き込んでいるタカオを見てそう思っていると、ヘッドフォンからはかのんからの通信が聞こえてくる。
『アラン、タカオに伝えて頂戴「ナイス砲撃」って』
「伝えた所でツンデレで返されるだけだぞ、止めとけ」
『そこウッサイ!!』
俺とかのんの会話が聞こえたらしく、タカオはバックに「ウガーッ!!」なんて文字が見えかね無い勢いで俺に噛み付いて来る。
上でも言ったけどツンデレ美少女並びに乙女プラグイン実装済みの彼女なんだけど、凄まじい肉食系女子でもあるんだよね。
俺に向けられたタカオの凄まじい形相を見ながら、そう思っていると再びヘッドフォンから無線通信が聞こえてくる。
だけど、今度はかのんでは無くパンターの砲手を務めるむつみからだ。
『あのさぁ……、二人共……、戦わないの?』
『勿論、戦うに決まってるんじゃないの!!だから、むつみ1発ぶち込んでやりなさい!!』
『はぁ~……、始めるよ!!』
そう無線機越しにかのんとむつみのやり取りが聞こえてきたと思った瞬間には、パットンの隣に居たパンターが凄まじい砲声と共に砲弾を放つ。


そんで、パンターの砲口から放たれた砲弾は兄貴と弟分のT-55の付近に轟音と共に着弾する。
「うぉぉ!?」
「あ、兄貴!!あの戦車だ!!」
着弾と共にT-55を襲う衝撃波に対して身構えつつ、上に登場する兄貴とサブがかのん達のパンターを指差すのを見ながら、当の俺とかのん達はエンジンの爆音を鳴らしながらT-55、PT-76の前に姿を見せながら、高らかにこう宣言するのであった。
「そこの農業トラクター共!!神聖な学び舎で悪行三昧!!この野良中戦車同好会が成敗並びに戦車戦を教育してやるわ!!」
「Is the one-way ticket of hell and a hospital give? (地獄と病院への片道切符をプレゼントしてやろうか?)」
「こ……、こんの……、ガキ共がぁぁっ!!」
俺とかのんの宣言(挑発?)に対して、暴走族の兄貴はマジ切れで顔に血管が浮き上がっている。
つーか、人ってマジで怒りの沸点に達すると血管が浮き出るんだな……。
胸の内でそう呟いていると当の兄貴達が乗るT-55とPT-76は俺のパットンとかのんのパンターに向けて次々と砲撃を加えてくる。
放たれた砲弾は砲手の腕が悪いのか、主砲の調整が悪いのか、俺達の戦車に命中する事無く、戦車の前や後ろに次々と着弾する。
だが、現に狙われている事もまたの事実であり、これに対応するべく俺は敵弾の着弾で激しく揺さぶられながらキューポラを覗き込んで、外の状況を確認する。
すると俺の視界にはキャタピラの摩擦音と共に同軸機関銃を撃ちまくりつつ、俺とかのん達の戦車に向けて接近してくるT-55とPT-76の姿があった。
「かのん、奴ら食い付いた!!」
『OK、こっちでも確認したわ!!マリコ、戦車全速後退!!A地点に向かうわ!!アラン達はB地点に移動して!!』
「了解、直ちにB地点に向かう!!」
かのんからの報告を元に俺はエリー、正一、タカオの3人に大声で指示を出す。
「エリー、全速後退だ!!正一は次弾装填!!タカオは同軸機関銃をPT-76に向けて撃ちまくれ!!」
『『『了解!!』』』
そう俺が出した戦闘指示に対して、エリー、正一、タカオの3人は威勢よく復唱すると早速指示通りに動き始めるのであった。
まずエリーはギアをバックに入れ、パットンを急速後退させつつ、かのんの言っていたB地点にパットンを走らせる。
そんなエリーの後ろでは正一が砲弾ラックより再び90ミリ砲弾を取り出すなり、勢い良く主砲に装填していく。
直ぐ隣ではタカオが同軸機関銃の発射ボタンを押し、凄まじい銃声を車内に鳴り響かせつつPT-76に銃弾の雨を降らしていく。
「オラオラ、どこまで逃げるんだ!?」
そんな俺達のパットンから銃撃を受けてPT-76が連続した金属音を鳴らす側では暴走族の兄貴が後退する俺達に対して、そう言いながら追撃するのであった。





……

………



それから数分も経たない内に俺のパットンとかのん達のパンターは学校の直ぐ隣にある森の中へと後退していた。
後退するその間にも次々とT-55、PT-76から放たれた砲弾がパットンとパンターを撃破する為に飛んで来ては外れ、飛んで来ては外れを繰り返し、絶え間なく衝撃波を発生させていた。
その衝撃波に激しく揺さぶられるパットンの中でタカオが痺れを切らしたように怒鳴り散らす。
『アラン、何時まで後退しているのよ!?反撃しないの!?このままだと殺されるわよ!!』
「Be silent just for a moment!! (ちょっと黙ってろ!!)」
喚くタカオに対して、俺は英語でそう言い返す。
そりゃ怒鳴り散らしたくなるタカオの気持ちも分かるが、今直ぐに反撃しても勝ち目は無いんだよ!!
胸の内でそう思いながら、キューポラを覗き込むと俺達のパットンはエリーの的確な操縦によって確実にかのんの言っていたB地点へと向かっていた。
流石はこのパットンを長年乗りこなしているエリーだからこそ出来る技だ。我が妹ながら、あっぱれと言いたくなるよ。
そう胸の内で思ったのもほんの一瞬、再びパットンの近くで炸裂した敵弾の衝撃波に激しく俺達は揺さぶられる。
「くっ!!」
それに対して俺はキューポラの両側を全力で押さえて堪えつつ、除き窓越しに外の様子を確認する。
すると俺の視界にはかのんが言っていたB地点の光景が飛び込んでくる。
「よし、エリー。停車だ!!」
『Yessir!!』
そう俺の指示に対して、エリーが手馴れた手つきでパットンを停車させる。
するとパットンはB地点の地形に旨い事”ハルダウン(隠れる)”するのであった。
これで簡単に敵弾は当たる事は無い。だから、有利に戦える訳である。
『アラン、こっちは準備できたわ!!そっちは!?』
ハルダウンしたパットンの車内でそう思っている側で同様にハルダウンしたパンターを指揮するかのんから無線通信が入ってくる。
どうやら、かのん達のパンターもパットンと同様にハルダウン体制を取った様だ。
そう胸の内で思いながら俺はヘッドフォンの通信ボタンを押して、三度かのんとの無線連絡を取り合う。
「かのん、パットンB地点に配置完了だ!!そっちはどうだ!?」
『こっちもOK!!いつでも反撃可能よ!!』
「It is a counterattack start all right!!(オーライ、反撃開始だ!!)」
そう車内で俺は言い放つと続けざまにタカオに顔を向け、こう指示を出す
「タカオ、時は来た。後はお前が頼りだ、頼むぞ」
『ふん!!何を今更、分かりきった事を……、言われなくてもやるわよ!!』
そうタカオは俺に言い返すなり、プイッと振り返りつつ照準機を覗き込んで、手元の発射トリガーに指をゆっくりと掛けるのであった。


その一方で俺とかのん達を攻めるT-55とPT-76は威勢良く次々と俺達の隠れる森に向けて砲弾を撃ち込んでいく。
「オラ、オラ、オラ!!覚悟しやがれ中房共!!」
「なぶり殺しだ!!」
「まてまてお前ら、エンジンを狙うんだ。2台とも吹っ飛ばすなよ」
T-55の戦車長とPT-76の戦車長がキューポラから叫びつつ、AK-47を乱射したり、砲撃する側で彼らを指揮する兄貴は無線機を手に取り、そう不自然な指示を出す。
この不自然な指示に対して、疑問を抱いたサブは恐れ多いような感じで兄貴に問い掛ける。
「兄貴……、何で面倒くさいことを……、最初から吹き飛ばしてしまえば……」
「チッ、チッ、チッ!!分かっちゃ居ないなサブ……、悪い子にゃー、”お仕置き(※女子のオパーイ、モミモミ等など……)”しなきゃらならんだろうが!!(女子のオパーイ、揉んだりとか)」
「流石、兄貴!!アダルト展開っスね!!」
興奮かつ”卑猥な行動”をしながら、そう言い放った兄貴の言葉にサブも共に興奮を覚える。
「きっつーいのをおみまえしてやれ!!」
そんなサブを見ながら、卑猥な欲望を胸に兄貴がそう大声で言い放った瞬間だった。
「Fire!!(撃て!!)」
『撃て!!』
俺とかのんは共に射撃指示を出し、むつみとタカオが共に発射装置のトリガーを引く。
瞬間、パットンとパンターの車内で凄まじい砲声が鳴り響くと共に主砲から勢い良く徹甲弾が放たれ、PT-76を目掛けて飛んでいく。


そして、数秒も経たない内にPT-76はパットンとパンターの放った砲弾を喰らい、ドゴォォーンッ!!と言う凄まじい轟音と共に砲塔を上空に吹き飛ばしつつ、大爆発する。


「なっ!?」
この光景に兄貴とサブが共に驚きを隠せない様子で見つめている側で、俺とかのんは共に操縦主であるむつみとエリーに対して、指示を飛ばす。
『今よ、マリコ!!全速前進!!』
『ヤボール!!』
「Move out!! Go, Go,Go!!(前進!!行け、行け、行け!!)」
『Yessir!!』
そう共に前進指示を出した俺とかのんの戦車は共にエンジンを唸らせ、ダックインしていた場所から飛び出るなり、次の指示を飛ばす。
「むつみ、煙幕発射よ!!」
『ヤボール!!』
この指示に対し、むつみは砲手席で復唱しながら、煙幕発射スイッチに手を掛けると勢い良くスイッチを押し込む。
瞬間、パンターの砲塔両脇に付いているスモークディスチャージャーから次々と空中に向けて放たれるなり、炸裂して白い煙幕が広がっていく。
「あ、兄貴!!」
「落ち着け、サブ!!」
この攻撃に対して、サブが驚きを隠しきれない様子で兄貴に話しかけた瞬間、当の兄貴はサブを落ち着かせつつ、T-55の車内に入り込むとこう言い放つ。
「この素人共が、俺のT-55には赤外線暗視装置が付いているんだよ!!」
「Move out!!(前進!!) 」
『Yessir!!』
そう車内で罵倒しながら兄貴が赤外線暗視装置を起動させた瞬間、俺は全力でエリーに全速指示を出す。
確かにT-55には赤外線暗視装置が付いており、これは確実に敵を狙う事が出来る装置だから脅威なのは間違いない。
だけど、その赤外線暗視装置は時代遅れの代物。だからこそ、この技が出来るんだよ!!


そう思うと共に伝わってくる、エリーがパットンを急速前進させる際の衝撃を体全体で感じつつ、俺は次なる戦闘指示を飛ばす。
「タカオ、サーチライト照射用意!!」
『了解!!』
この俺の戦闘指示に対して、タカオは激しく揺れるパットンの車内で主砲の上に搭載しているサーチライトのスイッチに手を掛ける。
よし、これで準備は整った!!後は一気に決めるだけだ!!
車内の様子を見ながら、俺はそう思うとかのんに対して無線連絡を入れるなり大声で叫んだ。
「かのん、決めるぞ!!」
『OK!!』
そう共に言葉を交わすと俺とかのんは一気に勝負を畳み掛ける。
「いっけぇぇぇ!!」
まず、かのんのパンターが凄まじいエンジン音と共にT-55の脇を抜けて肉薄する。
その後に続く様にして俺達のパットンが全速力で前進し、T-55の赤外線装置の前に立ち塞がると共に俺はタカオに向けて叫んだ。
「サーチライト、照射!!」
『っ!!』
これを受けてタカオがサーチライトのスイッチを回し、サーチライトを赤外線装置に向けて照射する。
瞬間、凄まじい量の光量がサーチライトから放たれ、赤外線装置護身ら放たれ、それを覗き込んでいた兄貴の視界を塗りつぶしていく。
「うわぁぁっ!!目が、目がぁぁぁっ!!目が見えねぇぇっ!!」
「あ、兄貴!!」
最新の赤外線暗視装置なら安全装置が付いているから、強力な光を見ても目が眩む事は絶対に無い。
だが、このT-55に付いている赤外線暗視装置は安全装置の無い旧式のタイプだから目が眩んでしまうんだよ!!
そんな理由でT-55の車内で目が眩み悶える兄貴に対して、サブが駆け寄ろうとした瞬間、彼の視界には肉薄してきたかのん達のパンターが飛び込んで来る。
「もらったぁっ!!」
「うわぁぁっ!!」
ほんの10数メートル先に居て、主砲を向けるパンターに対してサブが身構えた瞬間。


かのん達のパンターの主砲が炸裂、T-55のエンジンに向けて徹甲弾が放たれ、T-55のエンジンを凄まじい金属の摩擦音と共に撃ち抜くのであった。
それと同時に凄まじい爆発音が学校中に鳴り響く。


それから数分も経たないう内だった。
戦車戦で挙がった煙が上空の気圧等を触発したのか、それとも唯の通り雨かは分からない。
だけど、確実に降って来た雨に火照った地上や戦車、体をかのん達と共に冷やしていると目の眩みが納まった兄貴がT-55から出てくるなり、信じられない様子で俺とかのんに向けてこう言い放つ。
「何て奴らだ……、煙幕に隠れて肉薄、赤外線装置をサーチライトで潰すなんて……、お嬢ちゃん……、坊主……、あんた達……、名は?」
相変わらず信じられない様子の兄貴に対して、俺とかのんは共にこう言い放つのであった。
「かのん……、島田かのんよ……、野良中戦車同好会の」
「アラン・F・ナカムラだ。彼女と同じく野良中戦車同好会のな……」
この俺とかのんの自己紹介を聞いた兄貴は「へっ……」と一言呟くと、清清したような顔でこう言い放つのであった。
「同好会かよ……、負けたよ……、完敗だ……」
そう兄貴が言い放つと共にT-55のエンジンは爆発炎上し、”俺達の勝利を示す”のであった。
『『『ワァァァッッ!!』』』
それと同時に俺達の勝利を歓迎するかの様に全生徒達の歓声が俺達を包み込んだ……。





……

………




それから学校の先生達を始めとして、警察の刑事さん、地元新聞の記者等にこの一連の騒動をミッチリ聞かれた数日後。
俺とエリー、かのん達の元に事件前の日常が戻ってきていた。
『それがもう可笑しくて、可笑しくて……』
「確かにそりゃ爆笑だ」
無線機越しにかのんと昨日、テレビで放送されていたコメディ映画の話題で盛り上がりながらパットンとパンターで通学する為に商店街を走っていた時だった。
俺とかのんの視界は商店街の名物鮮魚店の店長さんがせっせと開店前の準備をしており、その中にあの兄貴とサブの二人が働いていた。
あれから何があって鮮魚店で働いているんだろう……、この二人……。
そう胸の内で思いつつ、鮮魚店の近くに通り掛ると鮮魚店の店長さんと兄貴とサブの3人が俺達の存在に気づいて話し掛けて来る。
「よー、嬢ちゃんとアメリカ人!!」
「おー、パンターとパットンの」
「ウィッス!!」
「おはようございます」
3人の挨拶に俺がパットンの上から挨拶に返す側でかのんも一礼すると、パンターの横に書いてあるロゴを指差しながら店長さんに対してこう問い掛ける。
『ロゴ、こんなんでどうですか?』
「うむ、上出来じゃ!!」
『えへへ、ありがとうございます』
店長さんにそう言ってもらったかのんは嬉しそうに頭を下げる。
まぁ、あの騒動の後に商店街の店舗一同が俺達のスポンサーになってくれたからな……、多少なりとも宣伝しないとな……。
そう思いつつ、ふと視線を向けた腕時計の針は遅刻まで後20分を指していた。
「やべぇ……、かのん時間が無いぞ」
『あぁ、もうそんな時間?じゃあ、行って来ますね!!』
「おうっ!!頑張って来い!!」
俺の指摘を受けて、かのんは店長さん達に挨拶しながらパンターを前進させる。
その後に続くように俺もパットンを走らせた時だった。
後ろから学校に向かう俺達を見つめていた店長さんが突如としてこう言い放つ。
「若い者は元気で宜しい!!」
『はい?』
この発言に当のかのんは気づいていない……。
かのん……、この店長さんの発言は正直言ってショーも無いよ……。


だって、お前。”パンツが丸見え(※柄はイチゴ)”だからな……。


そう胸の内で思いつつ、俺はエリー、かのん達と共にパットンで学校に向かうのだった……。