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303高地の英雄

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  3. 303高地の英雄
1943年 ローマニャ公国 アンツィオ前線。

この戦線の一部分である303高地はネウロイ達による一斉攻撃にさらされていた。
「うわぁあぁぁっ!!」
陸戦型ネウロイの攻撃で次々と鳴り響く爆音と共にこの高地を防衛していた”リベリオン陸軍 第32ウィザード小隊”の兵士達が悲鳴を上げつつ、吹き飛ばされる。
明らかに高地の戦況はネウロイに傾きつつあり、この高地が陥落するのは時間の問題とも言えるまでになっていた。
そんな中、生まれつき魔術を使える「ウィザード(魔術師)」の少年にして、指揮官の”ウィーラー・マッカダムス少尉”は作戦司令部にて無線機に対して、撤退許可を求めて怒鳴り散らしていた。
「我が方は数的に不利であり、全滅の可能性あり!!高地の防衛は不可能!!撤退許可をください!!」
『駄目だ、撤退許可はできない!!303高地は我が軍における重要な戦略拠点であり、失う事は我が軍の戦況に多大なる悪影響を与える事、確実。マッカダムス少尉以下24名は次の指示あるまで高地を最後の1兵になるまで防衛せよ!!なぉ、増援にてウィッチを送る!!』
「っ……、了解……、クソッタレが!!」
最高司令部から撤退許可を却下されたウィラードは怒り交じりに無線連絡を終えるなり、無線機の受話器を机にたたき付ける。
そんな彼の居る作戦司令部に対して、次の瞬間、ネウロイの放ったビームが近くに着弾し凄まじい爆音が鳴り響く。
「うおっ!!」
「ウィーラー、無事か!?」
鳴り響いた爆音に思わず作戦司令部内で身構えていた彼に対して、ウィザード用のヘルメットからウサギ耳を生やし、M1カービン銃を手にしたチームの副隊長”ベイカー上級曹長”が駆け寄ってくる。
そんな彼に対して、ウィーラーは自分の銃である100連ドラムマガジンを装填した”トンプソンM1928サブマシンガン”を手に取り、コッキングハンドルを引きながらこう言葉を返す。
「あぁ、無事だ。ベイカー、敵の数は?」
「300は居やがる……、撤退許可は?」
M1カービンを手に司令部の外を指差しつつ、ウィーラーに対してネウロイの数を報告するベイカーはウィーラーに撤退許可が出たかを問い掛ける。
その顔は大量に押し寄せるネウロイの為か少なからず困惑の色が混じっている。
「はぁ……」
そんな顔のベイカーを見て、ウィーラーは深く溜め息を付きながら首を横に振る。
「マジかよ……、くそ司令部が!!」
「一応、ウィッチの応援を送ってくれるらしいがな……」
ウィーラーの様子を見たベイカーはM1カービンを手に怒りを爆発させる。
そんなベイカーを宥めるようにウィッチが応援に向かってきてくれている事をウィーラーは報告すると、続け様に彼に指示を飛ばす。
「ベイカー、俺も塹壕に向かう。無線機を持ってきてくれ」
「了解した!!」
ベイカーの威勢良い返事を聞きつつ、ウィーラーはトンプソンを手に作戦司令部の外に出る。


そんなウィーラーと入れ替わるようにベイカーが無線機を持ってくるべく、司令部の中に入った瞬間だった。
ネウロイの放ったビームが作戦司令部に命中し、作戦司令部は爆音と共に木っ端微塵に吹き飛ばされる。
「うぉぉぉっ!?」
襲い掛かってくる衝撃波に成す術も無く、ウィーラーは吹き飛ばされ近くの地面に叩き付けられる。
「ぐっ……、ベイカー……、ベイカー!!」
痛む体に鞭を打って立ち上がった彼は作戦司令部に入ったベイカーの安否を確認するべく、ベイカーの名を叫びつつ、作戦司令部の方を振り返った。
瞬間、ウィーラーは絶句した。振り返った先には作戦司令部の姿は愚か、ベイカーの死体すら残っていないのだから。
「ベイカー!!ベイカー!!おい、生きてるんだったら返事しろ!!」
「………」
必死にウィーラーは彼の名を呼ぶが、彼の声は聞こえず聞こえてくるのはネウロイの動く音だけであった。
「っ……!!クソッタレがあぁぁっ!!」
これによってベイカーの死を悟ったウィーラーは怒り交じりの大声を上げると同時に魔力を発動、自身の使い魔である”ホワイトタイガー”の耳と尻尾を生やしながら、トンプソンを手に塹壕へと飛び込んでいく。
そうして塹壕に飛び込んだ彼を待っていたのは、彼の指揮する第32ウィザード小隊の隊員たちであった。
「ウィーラー隊長、撤退許可は!?」
「駄目だ、司令部の連中が却下しやがった……」
「そんな馬鹿な……、俺達に犬死しろって事ですか!?」
犬耳を生やした一人のウィザードの兵士”コール軍曹”がM2ブローニング重機関銃のコッキングハンドルを引きつつウィーラーに問いかけ、彼の返した返事に絶句する側では同じ小隊のメンバーである”レッド軍曹”が愛銃のM1ガーランドに弾薬を再装填しながら、こう言い放つ。
「上もネウロイの連中も、こんな何も無い高地がそんなに大事なんですかね!?」
「俺が知るかよ!!それは兎も角、戦闘用意だ!!」
「「「了解っ!!」」」
レッド軍曹の問い掛けに対して、怒鳴り散らしながらウィーラーは言葉を返すと続けざまにメンバー全員に戦闘指示を出す。
これを受けたメンバーは直ちに各自の銃を手に取り、押し寄せるネウロイの大群に突き付ける。
それと同時に第32ウィザード小隊のメンバーと共に高地の防衛に当たっていた第203砲兵隊の指揮官である”アダムス少尉”が、M3グリースガンを手に彼に話しかける。
「おい、ベイカー曹長はどうしたんだ?」
「死んだよ……、司令部ごと木っ端微塵だ……」
「クソが……、連中共め……!!」
ウィーラーから戦友であるベイカーの戦死を聞いたアダムスがネウロイの大群を見ながら毒づく側で、ウィーラーは冷静にこう言い放つのだった。
「ベイカーの死を悔やんでいる暇があったら、直ぐに砲撃用意しろ。生きて帰れさえすれば、いつでもベイカーの死を悔やめるんだ」
「あぁ、分かってるよ!!絶対に生きて変えるぞ!!」
「当然だ!!」
そう言って二人は互いの拳をぶつけ合うと共に己の担当へと戻っていく。
こうして塹壕に飛び込んだウィーラーはメンバーと共に押し寄せるネウロイの大群に向けて、トンプソンを構えると、彼に続くようにウィザード小隊の隊員たちも一斉に各自の銃を構え、迫る激突のときに備える。


そんな彼らに対して、ネウロイは数に任せて真正面から一斉にこの世の元は思えない呻き声を上げつつ、押し寄せてくる。
10m……、20m……、30m……と近づいてくる大量のネウロイを前にしてウィーラーは一回深く息を吸うと大声で叫んだ。
「攻撃開始!!」
彼がそう叫んだ瞬間、第203砲兵隊のM101 105ミリ榴弾砲が豪快な砲声と共に榴弾をネウロイに向けて放つ。
同時にウィーラーを始めとするウィザードチームの隊員達も一斉に各自の銃をネウロイに向けて発砲し、銃弾の雨を降らしていく。
そんな彼らの反撃を喰らったネウロイ達はコアを破壊され、次々と白い破片となって散っていく。
だが、ネウロイ達も負けじと次々にビームを放ち、ウィーラー達を攻撃していく。
「うおぉっ!!」
「くそっ!!」
「怯むな、撃ち続けるんだ!!」
鳴り響く爆音と爆炎に思わず怯んでしまう隊員達に向けて、ウィーラーは怯む事無くネウロイの大群に向けてトンプソンを乱射しつつ果敢に射撃指示を飛ばす。
そんなウィーラーを見て、怯んでいた隊員達も己を振るい立たせ、銃を撃ちまくる。
だが、そんな彼らの奮闘虚しく高地の戦況はネウロイに傾きつつあった。
「3番砲、撃……、うわぁぁぁっ!!」
ネウロイの放ったビームが砲兵隊の陣地に命中、アダムス少尉を始めとする砲兵隊の兵士達は成す術も無く吹き飛ばされ、全滅する。
「砲兵隊が!!」
「くっ、くそがぁっ!!今行くぞ!!」
「待て、マック!!やめるんだ!!」
砲兵達が全滅したのを見て、ウィーラーの静止を振り切って、彼らの元に駆け寄ろうとしてウィザード小隊の隊員である”マック伍長”が思わず愛銃のウィンチェスターM1897ショットガンを手に塹壕を飛び出した。
その瞬間、狙っていたかのようにネウロイが彼に向けて、ビームを放つ。
「うわぁぁっ!!」
「マーック!!」
ビームを放たれたマック伍長はモロにビームを喰らい、見るも無残に”爆散”してしまう。
「うっ、うわぁぁぁ!!」
飛び散った彼の肉片を浴び、真っ赤に染まると共に恐怖に駆られた隊員が思わず銃を捨てて、逃げようとする。


だが、そんな彼もマックと同様にネウロイのビームを喰らい爆散してしまう。
(これ以上の防衛は無理か……っ!!)
そんな隊員達の様子を見て、ウィーラーはこの前線がもう持たない事を確信すると大声でメンバー全員に聞こえるようにこう叫ぶ。
「総員、前線を放棄!!後退するぞ、全責任は俺は負う!!丘の上にあるトラックに乗るんだ!!後退、後退……、うおぉぉっ!!」
「「「うわぁぁぁっ!!」」」
彼が後退指示を出した瞬間、ネウロイのビームが塹壕に直撃。
その部分に居た隊員達は成す術も無く吹き飛ばされ、絶命する。
「くそがぁぁっ!!殺してみやがれ、俺を殺して見やがれってんだ!!」
その様子を見たコールは激情した様子でウィーラーの出した後退命令を無視し、ブローニングを撃ちまくる。
「よせ、コール!!後退するんだ!!」
そんな彼の元に駆けつけようとしたウィーラーだが、次の瞬間にはネウロイの放ったビームが着弾し、凄まじい爆風が彼に襲い掛かる。
「ぐあっ……!!くっ……、コール……、コール!!」
ウィーラーは爆風で吹き飛ばされ、痛む体を必死に動かし、トンプソンを杖にして立ち上がり、コールの居た機銃陣地を見た。
だが、そこにはブローニング機関銃は愚か彼の姿すら無く、代わりにあったのは”彼の履いていたブーツ”だけであった。
「畜生……、畜生!!チクショオォォオォ!!」
その余りにも悲惨な光景を前にウィーラーは悲しみと怒り混じりにトンプソンをネウロイの軍団に向けて撃ちまくりながら、残ったメンバーと共に丘の上にあるトラックに向けて後退していく。


その後、何とかトラックのある場所まで後退したウィーラーと生き残った隊員達だが、ネウロイ達は彼らを完全に殲滅すべく包囲を固めていた。
「隊長、囲まれています!!」
「分かってる!!」
包囲されている事に気づいた隊員がBARを撃ちつつ、ウィーラーに報告する側で当の本人はどのようにして脱出口を開くか考えを巡らせている。
そんな彼の視界に入ったのは丘の上にあった燃料タンクであった。
(これだ!!)
心の中でそう叫んだ彼は生き残りの隊員達に向け、こう言い放つ。
「全員、トラックに乗るんだ!!俺が燃料タンクを奴らに向けて転がすから、その後に続くんだ!!」
「で、でも、それでは隊長が!!」
「俺に構うな、レッド!!先に行け、後で飛び乗る!!」
「わ、分かりました!!おい、全員トラックに乗るんだ!!」
ウィーラーの必死の叫びを聞いた生き残ったレッドが周りで戦闘を行っていた隊員達にトラックに乗るように指示を出し、それを受けた隊員達は直ぐにトラックに飛び乗り、脱出の体制を取る。
その様子を確認したウィーラーは燃料タンクを固定していたロープをナイフで切断すると己の力を最大限に振り絞ってタンクを押す。
「うおおおおおっ!!」
大声でそう叫びながら押した燃料タンクはゴロンと言う音と共にネウロイに向けて転がっていくなり、ネウロイを次々と踏み潰していく。
この攻撃で開いた貴重な脱出路を頼りにウィザード達を乗せたトラックがエンジン音を立てて、走り出す。
その様子を丘の上で見ながら、ウィーラーはトンプソンをタンクに向けてトリガーを引き、燃料タンクを穴だらけにすると続けざまに腰のベルトからぶら下げていたMK.2手榴弾の安全ピンを引き抜き、燃料タンクに向けて投げつける。
瞬間、手榴弾が炸裂すると共にトンプソンの銃撃で開いた穴から出てきた燃料に引火。
燃料タンクは轟音と共に大爆発し、周りに居たネウロイの数々を巻き添えにして燃え上がるのだった。
「よしっ!!」
その様子を丘の上で見たウィーラーは己も脱出するべく先に走り出していたトラックに向けて、走り出す。
「隊長、こっちです!!」
「早く、来てください!!」
彼が丘から下りてくるのを見て、トラックが彼を乗せるべくスピードを少し落とす側でレッドを始めとする隊員達が彼に対して、手を伸ばす。
「ハッ……、ハッ……、ハッ……!!」
ウィーラーは息を荒げつつ、彼らの手を掴もうと自らの腕を伸ばす。


そうして2m……、1m……とトラックとの距離を詰め、あと少しの距離で彼らの手が掴めそうになったその時だった。
別の地点で待ち伏せていたネウロイがウィザード達の乗るトラックに向けて、非情にもビームを放つ。
瞬間、トラックは轟音と共に大爆発し、その際に発生した衝撃波が三度彼に襲い掛かる。
「うぉぉぉっ!!!」
この衝撃波によって成す術も無く吹き飛ばされた彼は地面に強く叩きつけられながらも、必死になって起き上がる。
「くっ……!!ぐはっ!!レッド……、レゲット……、アレン……、皆……!!」
骨やら内臓やらが激しい痛みを発し、口から吐血しながらも、必死で起き上がり、ウィーラーは仲間達の無事を確認するべくトラックの方を見つめる。僅かばかりの希望を求めて。
だが、彼の目の前にあったのは余りにも非情な現実であった。
「うそ……、だろ……」
彼の目の前にあったのは激しく横転すると共に炎上するトラックとその上で戦死した仲間達の姿であった。
「嘘だ……、嘘だ……、嘘だぁぁぁっ!!」
一瞬にして仲間が全滅したと言う事実を信じる事が出来ずに絶叫するウィーラー。
そんな彼を殺す為に一体のネウロイが彼に向け、ビームを放つ。
「うおぉぉっ!!」
この攻撃により、また吹き飛ばされたウィーラーは再び激しく地面に体を打ちつながらも、ネウロイに対して戦友達を殺された怒りを爆発させる。
「ふざけんな……、ふざけんな……、ふざけんなぁぁっ!!うおぉおおおおおおおおっ!!」
叫びながら立ち上がった彼はひたすらに手にしたトンプソンをネウロイに向けて乱射する。
この彼の銃撃によって何体かのネウロイが仕留められるが、数に物を言わせるネウロイは次から次へと押し寄せる。
そんなネウロイ達を撃ちまくっている内に彼の持つトンプソンは弾切れを起こす。
「ちいっ!!」
そう毒づきながらウィーラーは弾切れを起こしたトンプソンを投げ捨てると腰のホルスターから、オートマチック拳銃の”コレットM1911”を引き抜き様に叫びながら撃ちまくる。
「うあああああっ!!」
高地に彼の絶叫とコレットの銃声が鳴り響く中、ネウロイ達は彼に向け、ビームの照準を定める。
そして……、彼の持つコレットが弾切れを起こすと同時にネウロイ達は彼に向けて一斉にビームを放つ。
「ぐっ!!」
この様子を見たウィーラーが身構えた瞬間、高地に凄まじい爆音が鳴り響くのであった……。





……

………



高地に凄まじい爆音が鳴り響いてから、そう短くない時間がたった頃。
ネウロイの大群を相手に一人戦っていたウィーラーが目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
「うっ……、ぐっ……!!み、皆は……」
目を覚ますと同時に体に走る痛みを感じながらも、ウィーラーは必死に仲間達の生存を確認しようとしてベッドの上から起き上がろうとする。
だが、そんな彼の腕を一人の女が掴みこう言い放つ。
「止めなさい!!今の貴方の体は静かにしていないと駄目なのよ!!」
「あ、貴方は……?」
ウィーラーは自身を止めた腕の主である女に対して、話しかけると彼女はウィーラーをゆっくりとベッドに寝かしながら自己紹介をする。
「私は303高地に応援で向かったウイッチ達の指揮官で、カールスラント空軍JG3航空団司令所属のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐よ」
「これは失礼しました……、ミーナ少佐……、自分はリベリオン陸軍 第32ウィザード小隊指揮官の……」
「知っているわ。ウィーラー・マッカダムス少尉」
ミーナと代わる様な形で自己紹介をしようとしたウィーラーに対して、ミーナはウィーラー本人が言うよりも先に彼の名を言う。
この行為にウィーラーは驚きを隠せない様子でミーナに問い掛ける。
「ど、どうして自分の名前を?」
「貴方を発見、救助する際にドッグタグを見せてもらったわ。貴方の内臓や全ての骨はボロボロになっていて、死に掛けていた所をウィザードやウィッチの内臓を移植して息繋いだのよ……」
「そうですか……、助けてくださり感謝します……」
ミーナが自身を助けてくれた事を知り、頭を深々と下げる一方で彼自身の胸の内に恐れ多い考えが沸く。

それは共に戦った”仲間達の無事”であった。

彼女の聞けば真相が分かるのは確実である。だが、それは同時に彼らの死を知る事にもなる。
彼らの死を信じたくない一方で、彼らが無事かどうかも分からない今の自身の現状をどうするべきか。
悩んだが、ウィーラーは覚悟を決め、ミーナに問い掛ける。
「ミーナ少佐……、自分の部下達は……」
「……残念だけど、私達が応援に駆けつけた時には、もう既に貴方を除いて……」
「そ……、そんな……、嘘だ……、嘘だ……、うそだぁぁぁっ!!」
ミーナから告げられたウィーラーを除くメンバーの戦死を聞いた瞬間、ウィーラーは激しく取り乱し、病室内で絶叫する。
「うわぁぁぁあああっ!!」
「少尉、落ち着いて!!気持ちは分かるけど、落ち着くのよ!!」
「うわぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!」
必死に止めようとするミーナの制止を振り切り、腕に刺さった点滴や輸血の針を抜きね無い勢いでベッドの上で絶叫し、暴れるウィーラー。
そんな彼の絶叫を聞き、近くに居た軍医や看護士、憲兵等が病室に入ってくるなりウィーラーを押さえつける。
「き、君!!落ち着くんだ!!麻酔薬を!!」
「はいっ!!」
「うあぁあっぁぁつ!!離せ、はなせぇぇぇ!!うあぁぁぁっ!!」
憲兵や軍医の制止も振り切りかねない勢いで暴れるウィーラーに対して、軍医は看護師から渡された麻酔薬の入った注射をして彼を半強制的に眠らせる。
「はっ……、はぁっ……、はぁっ……」
「………」
麻酔が効き、半強制的に眠りに落ちるウィーラーをミーナはただ黙って見つめる事しか出来なかった……。





……

………



それから半年が経った1944年のある日。
病院を退院したウィーラーを待っていたのは少尉から大尉への昇進と「303高地の英雄」と言う世論であった。
軍が長引くネウロイとの戦争で下がって居た国民の戦意高揚の為に彼を利用したのだ。

「303高地の英雄」
「自らの部下を守る為に殿を買った勇気ある、若き小隊指揮官」
「リベリオン陸軍上層部 唯一の生還者であるウィーラー少尉に2階級昇進、戦死した第32ウィザード小隊隊員全員に名誉勲章を受章する事を決定」

そんな新聞の見出しと共に「英雄」として彼を向かえる世論と軍。
だが、ウィーラーの心はそんな「英雄」とは掛け離れていた。

「俺が英雄……?部下を全滅させた俺が……、英雄だと……?」

ウィーラーは「英雄に休養を取らせる」と言う名目で軍が用意したモーテルの部屋で自身を英雄扱いする新聞を見ながら、己の中に埋めく疑問と戦っていた。
(何故、あの高地から俺一人だけが生きて帰れたのか、どうして部下達は死ななければ無かったんだ……?)
そう答えの出ない自問をしながら、ウィーラーはモーテルの外の様子を見つめていた。
すると、そんな彼の居るモーテルのドアがコンコン!と言う無機質な音を立てて、来客を知らせる。
(一体誰だ?)
胸の内でそう思いながら、ドアを開けるとそこには首に少佐の階級をつけたウィッチと思えし女性兵士が立っていた。
「貴方がウィーラー大尉ね?」
「そうですが……、ウィッチが自分に何の様でしょうか?」
「まぁ、そう焦るな大尉。入っても良いか?」
「……どうぞ」
ウィーラーにそう案内されてモーテルの中に入ったウィッチは椅子に腰掛けながら、ウィーラーに対してこう言い放つ。
「そうそう名を申すのが遅れたな、私は第12技術開発部隊に所属する技術士官の”アリシア・ルーラー”少佐よ」
「はぁ……、それで技術士官が自分に何の用でしょうか?」
アリシアと共に席に着いたウィーラーが彼女に問い掛けるとアリシアは「うむ」と頷きながら、持っていた鞄から一つの封筒を取り出しながら、こう言い放つ。
「お前が303高地での戦いで瀕死の重傷を負った際にお前に施された手術のことは聞いているな?」
問い掛けに対して、ウィーラーは「えぇ……」と呟きながら首を立てに振る。


アリシアの言う手術とはウィーラーが303高地で重症を負った際に彼に施された物であり、ハッキリ言って”前代未聞の手術”であった。
その前代未聞の手術の内容とは、303高地の戦いの際に負った衝撃等で灰が破裂したり、心臓に折れた肋骨が突き刺さる等して滅茶苦茶になったウィーラーの内臓を”各地の前線で戦死したウィッチやウィザードの内臓を移植する”と言う物であった。
この信じられない手術は最新の外科手術技術と魔法医療を組み合わせ、6時間にも及ぶ長時間の末に成功。
結果としてウィーラーが生還すると同時に、本来は弱弱しい魔力しか持たないウィザードである彼がストライカーユニットによる飛行が可能になる程の魔力を有する事になったのだ。


そんな手術が施されたウィーラーに対して、アリシアは持ってきた封筒を開きつつ、自身がウィーラーを尋ねた理由を言うのであった。
「今回、貴方を訪ねたのは、貴方に新型ストライカーのパイロットになってもらう為よ」
「新型ストライカーの……、パイロット……?」
アリシアの言った事が信じられない様に絶句するウィーラーに対して、アリシアは封筒の中に入っていた写真を机の置きながら新型ストライカーについて説明する。
「貴方に担当してもらいたいストライカーは、この”P-59”。リベリオン軍の次世代ストライカー開発計画で開発した、リベリオン初のジェットエンジン搭載のストライカーよ」
「ジェット搭載の……、ストライカー……、頭が痛くなってきましたよ……、少佐……」
アリシアの口から次々と告げられる信じられない様な事実にウィーラーは思わず頭を抱えてしまう。
部下達の死に始まり、軍によって英雄にされ、そして新型ストライカーのパイロットになる……、次々と突き付けられる信じがたい現実を前にウィーラーは頭の整理が追いつかなかった。
そんなウィーラーを見て、アリシアは一回息を付くと続けざまにこう言い放つのだった。
「大尉……、貴方はどうして『自分、一人が何で生きて帰ったのか?』って考えているでしょう?」
「……どうしてそれを……」
「見れば、分かるわよ」
アリシアの指摘に対して驚いたように問い掛けたウィーラーに対し、アリシアは軽くあしらう様に返事を返すと続け様にこう言い放つ。
「それは兎も角……、貴方自身が「何故、生きて帰ったのか」なんて分からないわ。そして、その答えは貴方自身が見つける物よ。その為にも環境を変えると言う手もあるって事を覚えておきなさい」
「答えを見つける為に……、環境を変える……、ですか……」
アリシアの言葉に対し、ウィーラーはそう呟きながら机の上に置かれたP-59ストライカーを見つめるのであった……。





……

………



それから、数週間が経った……。
所は変わってロマーニャのとある場所にある軍事演習場の空に航空歩兵に姿を変えたウィーラーの姿があった。
「あれが噂のストライカーウィザード?」
「本物は始めてみたわ……、凄いとしか言い様が無いわね……」
「えぇ……、それに彼自身だけじゃなくてストライカーも凄いわね……、ジェットタイプなんて……」
演習の合間の休憩中だった各国のウィッチ達の注目を浴びる彼の足には、アリシアが言っていたリベリオン初のジェットタイプストライカーである”P-59”が装着され、ジェットエンジンの轟音をならしつつ稼動していた。
そんなウィーラーに対し、ジェットエンジンの轟音に混じって無線機越しにアリシアからの連絡が入る。
『ウィーラー大尉、聞こえる?』
「こちらウィーラー、聞こえます」
無線機越しに問い掛けてきたアリシアに対して、ウィーラーも無線機越しに復唱を帰すとアリシアはこう言い放つのだった。
『OK、何時もの様に射撃訓練を始めるわよ。B302に向かって頂戴、ターゲットが待っているわ』
航空歩兵になってから、既に”2週間以上は聞いている”アリシアからの射撃訓練の指示を聞いた彼は「了解」と言葉を返しつつ、背中からぶら下げていたトンプソンM1928を手に取ると空中でコッキングハンドルを引きながら、指示されたポイントに向かう。
そうして、指示されたポイントに向かったウィーラーを待っていたのはネウロイをモデルにしたターゲット達であった。
「………」
空中からそれらの姿を確認したウィーラーはごくりと唾を飲み込む。
それと同時に彼の胸の内にはなんとも名状しがたい感情が沸き起こる。
(アイツラが……、殺した……、俺の部下を……っ!!)
怒りに近い感情で思わずトンプソンを握る手がブルブルと震える中、アリシアからの無線連絡が再び入る。
『ウィーラー、ポイントには着いたね?』
「……はい」
怒りに近い感情を押し殺しながら、アリシアに対して返事を返すと当のアリシアは無線機越しに『よし……』と呟くと一回息を吸ってこう言い放つのだった。
『射撃訓練開始!!』
「了解!!」
そうアリシアの指示を聞くと同時にウィーラーは復唱しながら、一気に行動を開始する。


まず己のはいているストライカーを操作し、一気にスピードを上げつつターゲットに接近する。
同時に安全装置を解除し、トンプソンのストックを肩に付けながら、照準をターゲットに定める。
そうして、何時でも発砲できる体制を取りながらウィーラーはターゲットとの距離を詰めて行き、ある程度の距離になった瞬間、ウィーラーは思い切りトンプソンのトリガーを引く。
瞬間、タイプライターの様なトンプソンの銃声が鳴り響くと共に銃口から大口径の.45ACP弾が勢い良くターゲットに向けて放たれ、次々とターゲットに命中し弾痕を開けていく。
「……次はアイツか」
その様子を見ながら、ウィーラーは次のターゲットを確認するなり己の魔力を集中させる。
すると、一気にストライカーはギュイイイン!!と言う音と共に急加速してターゲットに近づいていく。
「っ……!!」
加速の際に体に掛かるGを感じながら、近づいてくるターゲットにウィーラーはトンプソンを向ける。
「うぉぉぉっ!!」
ある程度の距離になった時にウィーラーは加速を止める事無くトンプソンをターゲットに向け、叫びながら撃ちまり、ターゲットとすれ違い様に次々と弾痕を開けていく。
そして、すれ違い終わると同時にウィーラーはストライカーを逆方向に向け、思い切りジェットエンジンを吹かして急停止する。
「っ……!!」
その際に発生する凄まじい反動に思わず歯を食い縛りつつ、急停止した彼は肩で息をしながらターゲットの方を振り返る。
そのターゲットは見るも無残にウィーラーのトンプソンから放たれた銃弾で穴だらけとなっていた。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
そう肩で息をしながら、ウィーラーは銃口から白煙を上げるトンプソンを手にターゲットを空中でホバリングしながら見つめているとアリシアからの無線連絡が三度入ってくる。
『OK、ご苦労様。相変わらず成長が早いねぇー……』
「……ありがとうございます」
お世辞にも近いアリシアの言葉をウィーラーは一礼しながら受け流す。
勿論、彼女が上官なので軽く受け流すことは出来ないが……。


だが、現にアリシアの言う様に航空歩兵になったウィーラーの錬度向上は目に見えて凄い物であった。
P-59のテストパイロットに任命されて、わずか数週間でP-59を使いこなすまでの飛行技術を手に入れた事を始めとして、空中からのトンプソンによる銃撃の腕もメキメキと確実に成長していた。
アリシアはこれをウィーラーが「歩兵並びに小隊長あがり故の確かな実力」から来る物と分析しているが、実際の所ははっきりしないのが現状だろう。


そんなウィーラーに対して、アリシアは次のように指示を出した。
『よし、本日のテスト並びに訓練は終了。着陸次第、休憩に入って良いわよ』
「……了解です」
無線機越しに聞こえてきたアリシアの指示にしたがって、ウィーラーは滑走路へと戻ろうとしたその時だった。
アリシアが『あぁ』と言ったかと思った次の瞬間には、当の本人が少し慌てた様子でこう言葉を続けた。
『そうそう、ウィーラー。大事な話があるから、昼食後に私のオフィスに来て頂戴』
「……?了解です」
発言の意味をウィーラーは理解できなかったが、とりあえず復唱して覚えておく事にした。
この後の出来事が自分の運命を大きく変える出来事がまた起きようとしている事など分からないまま……。





……

………



それから昼食を終えたウィーラーはアリシアに言われた通り、彼女のオフィスへとやって来ていた。
どうして自分が呼ばれたのか、見当もつかない状態で。
(一体なんだろう……?)
そう胸の内で思いながら、ウィーラーはアリシアのオフィスのドアをノックした。
「失礼します、アリシア少佐。ウィーラー大尉、ただいま来ました」
『あぁ、どうぞ。入って頂戴』
「失礼しま……、す……」
ドア越しに帰ってきたアリシアの入室許可を得たウィーラーはドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開けてアリシアのオフィスに入る。
それと同時に彼は思わず言葉を失ってしまう。何故なら、そこには半年前に瀕死の自分を救助した後に各地で転戦し、中佐に昇進したミーナの姿あったのだから。
「えっ……、えっ……?」
どう対応した良いのか分からないウィーラーに対して、ミーナはやさしく微笑みながらこう言い放つ。
「久しぶりね、元気そうでなりよりよ、ウィーラー少尉……。あぁ、今はウィーラー大尉ね」
「こちらこそお久しぶりです、少佐……、じゃなくて中佐……」
ウィーラーの階級を訂正しながら行われるミーナの挨拶に対して、ウィーラーも階級を訂正しながら挨拶を交わす。
そんな二人の様子を見ながら、机の前に置かれた椅子に座っていたアリシアがこう話を切り出す。
「ウィーラー大尉、ミーナ中佐はわざわざブリタニアからお前に会う為だけにロマーニャに来たんだ」
「それは……、ご苦労様でした……」
アリシアの説明を聞いて、ウィーラーは深々と頭を下げる。
そんなウィーラーに対して、ミーナは「気にしないで」と微笑みながら言うと、座っていた席から立ち上がるとアリシアに代わり、自身がロマーニャに来た理由、ウィーラーに会いに来た理由を言い放つのだった。
「今回、私が貴方に会う為にロマーニャに来たのは唯一つ……」
ミーナはそう言って一回息を吸うと、ウィーラーに向けてこう言い放つのだった。


「貴方を新設される”第501統合戦闘航空団”への赴任を命じます」
「え?」


ミーナの言った事に対して、ウィーラーは呆然とした様子だ。
ウィーラーに対して、ミーナは「無理も無いわね……」みたいな表情をして佇んでいる。
そんなウィーラーとミーナを見ながら、アリシアがこう言葉を続けた。
「貴方が驚くのも無理は無いわ……、ウィザードの航空団配備どころか、ストライカーウィザードの存在自体が前例が無いものね……」
「……えぇ、正直に言って心の整理がつきません……」
少し動揺の混じった声でウィーラーがそう呟く側で、ミーナは席に座ると一回鼻で「ふぅん……」と息を吸いながら覚悟の決まらないウィーラーに対してこう言い放った。
「大尉……、アリシア少佐が言っていた様に貴方は『自分、一人が何で生きて帰ったのか?』と言う問いの答えを探しているのよね……」
半年前にアリシアがウィーラーに問い掛けてきた同じ問いをミーナは問い掛ける。
そんな問い掛けにウィーラーが「えぇ……」と返すのを聞きつつ、ミーナはこう言葉を続けた。
「その答えが『必ず見つかる』とは言わないわ……、だけど『何もしないと、絶対に答えは見つからない』わ……」
「絶対に答えは見つからない……」
ミーナの言ったこの言葉をウィーラーはポツリと繰り返すと共に考えをめぐらせる。


(確かに……、俺は303高地の戦いで「部下達は何故、死んだのか。何故、俺だけ生き残ったのか」……、その答えを探して、ストライカーになったんだ……、だが……、その答えはまだ見つかっていない……)


そう自分に言い聞かせるように考えを巡らせたウィーラーは覚悟を決めると、ミーナに対してこう言い放つ。
「分かりました……、ウィーラー・マッカダムス大尉。第501統合戦闘航空団に赴任いたします!!」
「その答えを待っていたわ、大尉……」
ウィラーの宣言に対して、ミーナは微笑みながら彼に手を差し伸べる。
その差し伸べられたミーナの手にウィーラーも手を差し伸べると互いに握手を交わす。


それから数日後……。
ウィーラーはミーナと共にブタリニアへと向かうリベリオン海軍の空母”サラトガ”に乗っていた。
「………」
「船旅は嫌い?」
甲版デッキから海を見つめていたウィーラーに対し、ミーナが問い掛けると当の本人は「いや……」と呟くなり、こう言葉を続けた。
「いえ……、ちょっとアンツィオ上陸作戦参加した時のことを思い出してましてね……」
ウィーラーの発言にミーナは「……そう」と呟くと共に長い髪を手串で溶きながら、こう言い放つ。
「これから貴方が行くのは、アンツィオとは違った戦場……、アンツィオとは別の厳しさが待っているわよ」
「えぇ……、覚悟は決めていますよ……」
そうミーナの言葉に返事を返しながら、ウィーラーは懐に入れていた一枚の写真を取り出す。
それは、アンツィオに上陸した際の記念として撮った第32ウィザード小隊メンバーの写真だ。
(……皆)
「大尉、もうすぐブリタニアよ」
「そうですね……、もうあんなに陸が近くに来てますね」
写真を見て、ウィーラーは戦友達と共に過ごした思い出を思い返しつつ、ブリタニアの方をミーナと共に見つめるのであった。
これから彼が抱いてきた問いへの答えを見つける場所を……。