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出動!!

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  3. 出動!!
場所は、東京武偵校の特殊車両科棟……。


強襲科による多国籍強盗団の一斉摘発作戦における、イザと言う時の応援要請に対処する為、俺達ADレイバー隊は隊員の待機場所(※と言っても、中古のプレハブ)で、昼食を取りながら、待機任務に付いていた。
『豊かな未来は、明日への挑戦。明日への挑戦は、実りある未来へ。バビロンプロジェクト!!』
そこの待機場所に置かれた小さな液晶テレビは『バビロンプロジェクト』の政府広報映像を淡々と流している。
因みに『バビロンプロジェクト』って言うのは、『将来の地球温暖化による海面上昇及び、過密化が進む首都圏の人口処理に備える為に、東京湾全体を干拓と埋め立てによって土地と巨大防波堤に変える』と言う、何気にトンでもない国家事業だ。
つーか……、この東京武偵校がある学園島も元を辿れば、バビロンプロジェクトにおける埋め立て工事のデータ収集で作られた……と、言われている。
んでもって、それは良いとして……。
「最近、このCMよーく流れるな……」
「ん~……?」
マジで最近、バビロンプロジェクトの政府広報映像をやたらとテレビで見かける様な気がするんだが……。
様々なCMに混じって、淡々と放送されるバビロンプロジェクトの政府広報映像に対し、俺は昼食の麻婆豆腐丼を食べながら、そうボヤく。
そんな俺のボヤキを聞き、先に昼食のカニチャーハンを食べ終えた桜井が、愛銃のS&W M19を磨き終えるなり、側に置いてあったM19用のスピードローダーに.357マグナム弾を装填しながら、こう言い放つ。
「そりゃ最近、プロジェクトの一部の工事が完了したらしいからね……、その”完成祝い”って所じゃないかしら?」
「完成祝い……、ねぇ……」
そう言えば、少し前にテレビのニュースで、基礎工事の終わった埋立地をヘルメットを被った首相や国土交通省大臣等と言った政治家達が、監督の説明を受けながら、埋立地を見回す映像と共に『バビロンプロジェクト Bブロック基礎工事完了』と言うニュースが流れていた様な気がする。
確かに、桜井の言う様に、最近よーく流れるバビロンプロジェクトの政府広報映像のCMは、『完成祝い』としての意味もあるかもしれないな……。
脳内でそう思いながら、再び麻婆豆腐丼を食べ始める俺の側で、テレビのディスプレイ端に映し出される時刻を見ながら、東京の超B級グルメであるコロッケ蕎麦を啜っていたマリが「そう言えば……」と一言呟きながら、こう言い放つ。
「もうそろそろ、作戦開始の時間じゃないの?」
「そういえば、そうだね……。確か、13時に一斉突入だった筈だから……」
「あと、10分後に始まるわ」
マリの発言を補足する様に、昴、夕張の二人もカツカレーと、五目あんかけ蕎麦を食べながら、言い放つ。
そして、更に3人の言葉を続ける様に、土屋も肉野菜炒めの付け合せである味噌汁を啜ると、こう言い放つ。
「予定としては、13時に開始、最低でも15時までには終わらせる予定だったはず……」
「それは、予定でしょ?強襲科の作戦が予定通りに進むことなんて、一度も無かったじゃないの」
再確認するかの様に、土屋が言い放った言葉に対して、桜井が苦虫を潰した様な表情で言葉を続けた。
まぁ、確かに桜井が苦虫と潰した様な表情になるのもムリが無い気がする……。


現に、今までに何度も強襲科による作戦が行われる度、俺達レイバー隊は、レイバー出現による応援要請に備えて、ずーっと待機している。
でもって、この待機は作戦が終了し、レイバー隊が完全に「出動の必要は無い」と判断されるまで、続くのだ。
用は、何時来るか分からない出動に備えて、常に作戦中はずーっと、ずーっと待ちぼうけ……、これが地味に辛いのだ……。
一応、作戦プラン等が前もって俺達に渡されるのだが……、|こんな物《摘発作戦》に予定なんて物は無いも同然……。
何時呼び出されるのか、分からない物の為に、常に神経尖らせ、10代の少年少女のメンタルをガリガリと削るのだ……。
まぁ……、作戦終了と言う事で、俺達が気を緩めた瞬間に『犯人グループより押収した違法改造レイバーが、あらかじめ設定されたプログラムに従って、暴走を開始』、それも『コックピット内を調べようとした強襲科の女子を乗せた状態』で……。
んでもって、その女子を救助する為に|俺達《レイバー隊》が呼び出される……なんて事も、多数あるが故に作戦終了後も気は抜けないのだ……。
いやはや……、本当に何が何だか……。


そんな状況に置かれている事を改めて再認識する側で、俺が麻婆豆腐丼の辛さを流すかの様に、湯飲みに入ったお茶を手に取った瞬間だった。
突如として、テレビから「ピンポーン!!」と言う音が流れると共に、画面の上に緊急速報のプロップが表示される。
このプロップに俺だけでは無く、桜井や夕張、マリ、昴、土屋までもが揃って顔を向けた瞬間だった。
テレビの画面に映し出されたのは……、『13時丁度にて、東京武偵校による強盗団の一斉摘発作戦が開始される』と言う、強襲科と強盗団との戦いが始まった事を示す内容だった……。





……

………



所変わって、東京湾に面するコンテナドック。


一昔前は、ココから多くの貨物船が行き来し、日本国内外の貿易の玄関口として活躍した港であったが、バビロンプロジェクトによって開発された新しいコンテナドック等の港湾施設に取って代われ、今となってはスッカリ廃れ、所々に潮風を浴び、錆びたコンテナが置かれただけの場所となった。
ココに今回、東京武偵校・強襲科生徒達の最重要ターゲットである強盗団のアジトがある。
そのアジトを目の前にして、強襲科の生徒達が、警察の機動隊から払い下げ、現在は車両科に配備されている装甲車や放水車、人員輸送車の中で、作戦開始の時を今か、今かと待っており、その中に少し前にレイバー隊に顔を見せていた、アリアの姿もあった。
「なぁ、アリア……」
「何よ?」
愛銃のベレッタM92Fを手にアリアに話し掛けたのは、アリアによって”半場強引”にパートナーにされた探偵科の男子……|遠山キンジ《とおやまきんじ》だ。
入学式の日、”ある事件”に巻き込まれたことをキッカケに、アリアのパートナーになってしまった彼は戦闘を主任務としない探偵科でありながら、彼女の強引さに成す術も無い。
だから、現に今、行われている強襲科による強盗団の一斉摘発作戦に従事しているのである。
そんなキンジは半場、諦め半分で、アリアに対して、こう言い放つ。
「本当に俺が、こんな作戦に従事していいのか?」
「何よ、今更……、もうココまできたら引き返す事なんて出来やしないわよ」
「だけど……、今回の作戦は強襲科メインだろ?探偵科なんて、足手まといでしか……」
「ああ、うるさいわね!!バカキンジ!!少しは黙ってなさい!!」
キンジの愚痴じみた発言を前に、気の短いアリアの堪忍袋の緒が切れた。
それと同時にアリアは、続け様に怒鳴りつける様にこう言い放つ。
「武帝憲章第1条!!『仲間を信じ、仲間を助けよ』でしょ!!忘れたって言うの!?」
「いや……、それは分かっちゃ居るんだが……」
「だったら、黙ってなさい!!」
困惑するキンジを振り切る様に、アリアは半場一方的に会話を打ち切ると愛銃のカスタムコルトガバメントの予備マガジンに.45ACP弾を装填していく。
「はぁ~……」
可愛げの無いアリアの様子を見て、キンジは半場諦めた様子で深い溜め息を付く。
そんなやり取りが、行われた数分後……。
『作戦開始!!総員一斉、突入!!』
装甲車や人員輸送車に搭載された無線機から、今回の作戦の指揮官を命じられた、強襲科3年生の男子の作戦開始の合図が飛び出す。
これを受けると同時に、強襲科の全生徒達は一斉に装甲車や人員輸送車のドアを勢い良く開けて、各々の装備を手にコンテナドックへ向けて走り出す。
その中に勿論、アリアとキンジの凸凹コンビの姿もある。
「行くわよ、キンジ!!」
「言われなくても分かってる!!」
二人はそう口ゲンカとも見て取れるやり取りを交わしながら、愛銃のガバメントとベレッタを手に突入していくのだった。





……

………



それから、数分も経たないうちにコンテナドックは強盗団と武偵達、双方の銃声に包まれていた。
「ガキ共を撃ち殺せぇぇ!!」
「うあああああっ!!」
強盗団のメンバーが罵りながら、武偵達に旧ソ連製のアサルトライフルの”AK-47”や、アメリカ製のサブマシンガン”MAC10”等と言った密輸、盗難銃器で突入してきた武偵達を撃ち殺さんとばかりに撃ちまくる。
「怯むな、撃ち返せ!!」
「撃て、撃て!!」
一方で武偵達も『お返し』と言わんばかりに、オーストリア製のオートマチック拳銃の”グロック17”や、ベルギー製のバトルライフルの”FN FAL”と言った銃器で応戦し、双方共に激しく銃撃を交わしていた。
そんな休む間も無く続けられる激しい銃撃戦の中にアリアとキンジも参加し、ひたすら己の愛銃を撃ちまくっていた。
「これじゃキリが無いぞ、アリア!!」
「そんな事を言ってる暇があるなら、黙って応戦しなさい!!バカキンジ!!」
「ちっ!!」
激しい銃撃戦で弾の切れたガバメントのマガジンを交換しながら、言い放ったアリアの罵声を受けて、キンジは舌打ちをしながら、再びベレッタを撃ちまくる。
同時にリロードを終えたアリアも素早くガバメントを構え、強盗団に向けると.45ACP弾の凄まじい銃声を上げながら、強盗団に対して、次々と銃弾を撃ち込んでいく。
そんな中、二人の側でアリアとキンジ達が居るチームの指揮を取っていた3年生の女子が携帯無線機を片手に大声で叫ぶ。
「こちら、Cブロック制圧チーム!!至急、至急、放水車の援護を頼む!!」
そう無線機越しに彼女が放水車の応援を頼んだ瞬間、突如として鳴り響いた7.62ミリNATO弾の銃声と共に彼女の体から、鮮血が飛び散り、彼女は愛銃の”M1カービン”を手から離し、地面に崩れ落ちる。
強盗団のスナイパーによる狙撃によって、撃たれたのだ。
「リーダーが狙撃されたぞ!!」
「くそっ、何処に居やがるんだ!?」
指揮官が撃たれた事でチーム内に動揺が走るが、それを広げない内にアリアが声を張り上げて叫ぶ。
「全員、落ち着きなさい!!今からアタシが指揮を取るわ!!無線機を貸して!!キンジは、急いでカービンを拾って!!」
「わ、分かった!!」
このアリアの指示に、他のメンバーと共に動揺していたキンジも直ぐに冷静さを取り戻し、アリアの指示通りにM1カービンを拾い上げる。
そんなキンジを横目で見ながら、アリアは1年生の男子から渡された無線機越しに次々と状況の確認と報告を行う。
「こちら、Cブロック制圧チーム!!指揮官が負傷、至急、衛生科の応援を!!それと、さっき要請した放水車はまだ!?」
『こちら作戦本部。了解、衛生科を向かわせる!!それと放水車は5分後に到着する!!』
「急いでください!!」
そう言って作戦本部との無線連絡を終えたアリアは再びガバメントを手に取る。


この間にも、3年生の女子を狙撃した強盗団のスナイパーは、アリア達を撃ち殺さんとばかりに、次々と銃弾を撃ち込んで来る。
「ちっ、これじゃキリが無いぞ!!」
「バカ伏せなさい!!」
これに対して、痺れを切らした様に頭を上げたキンジをアリアが無理やり引き摺り倒す。
瞬間、7.62ミリ弾の銃声と共にキンジのいた場所に銃弾が着弾し、着弾音と共に砂煙が上がる。
「うぉぉ……、マジかよ……」
「何がマジかよ!!少し遅れていたら、アンタの頭が木っ端微塵に吹っ飛んでいた所だったのよ!!」
顔を青くして狙撃された事に肝を冷やすキンジに対し、アリアがまるで説教するかの様に怒鳴り散らす。
だが、そんな説教を中断するかの様に1年生の女子がアリアに対し、こう言い放つ。
「スナイパー発見!!700メートル先、コンテナの上です!!」
「OK……、一気に片をつけるわ……」
この報告にアリアが『今度はこっちの番だ』と言わんばかりの表情で言い放つ。
それを見たキンジが、戸惑いながら彼女に問い掛ける。
「ちょ、ちょっと待てよアリア!!まだ援護の放水車も来てないんだぞ!!危険過ぎるぞ!!」
まるで彼女を心配し、止めようとするかの様に言い放ったキンジに対し、アリアは再び切れた様子でこう言い放つ。
「ガタガタうるさい!!今、アイツを仕留めないと、この先に進むないのよ!!3秒後に接近するから、撃ちまくりなさい!!」
「お……、おいっ!!」
キンジが再び止めようとした瞬間、アリアは一気に隠れていた場所から走り出し、スナイパーの元へと接近していく。
そんな無茶苦茶な行動をしているパートナーの姿を見たキンジは、半場ヤケクソで叫んだ。
「クッソ、仕方ない!!全員、援護射撃だ!!撃ちまくれ!!」
キンジがそう叫んで、先ほど、拾い上げたM1カービンを撃ちまくる側で、他のチームメンバーも揃って各自で持っている銃を次々と発砲し、弾幕を張る。
「ふぅ……」
この弾幕をバックで受けながら、狙撃主の潜むコンテナの近くまで走ってきたアリアは一回息を整えると目を大きく見開き、物陰からスナイパーの位置を把握する。
「あそこね……、覚悟しなさい……、風穴開けてやるんだからっ!!」
アリアは一言呟きながら、コルトガバメントを三度、強く握り締め、一気に走り出すと、近くにあったコンテナの側面を蹴り上げて、飛び上がる。
そして今度は、反対側に置かれたコンテナを蹴り上げ、斜め上に飛んで行く。
これを右、左と繰り返して、アリアはスナイパーが狙撃しているコンテナまで、一気に上っていく。
武偵に与えられる最高ランクのSランクである彼女故に出来る荒業だ。


そうして、スナイパーの潜むコンテナまで到達した彼女は、スナイパーの背後に回りこむとガバメントを突きつけ、大声で警告する。
「武偵よ!!動かないで、動くと容赦無く撃つわ!!」
「黙れぇぇ!!」
アリアの警告に対し、強盗団のスナイパーは、狙撃に使っていたアメリカ製の”スプリングフィールドM14”のセレクターをフルオートにするなり、アリアに対して振り向き様に撃ちまくってくる。
「死ねぇぇぇっ!!」
この罵声と共に飛んでくる多数の7.62ミリ弾をアリアは身軽な動きで回避すると、お返しと言わんばかりに、手にした二丁のコルトガバメントをスナイパーに向けて、次々と発砲。
その数、14発にも及ぶ.45ACP弾がスナイパーの着ている防弾チョッキ(※盗難品)に撃ち込まれ、スナイパーに凄まじい打撃を与えていく。
「ぐあああっ!!」
この凄まじい衝撃に耐えることの出来なかったスナイパーは、そう悲鳴を上げながらコンテナから落下。
下に置かれていた木製パレットをバキバキとへし折りながら、地面に叩きつけられてダウンする。
そのスナイパーは、まだ諦めきれない様にサイドアームの”S&W M10”を引き抜き、アリアを射殺しようとするが、それよりも先に放水車と合流したキンジ達によって取り押さえられる。
「ね、上手く言ったでしょ?」
「何がだよ……」
確保され1年生達によって、負傷した3年生女子と共に、後方へ移送されるスナイパーを見ながら、コンテナから身軽な動作で降りたアリアは、コルトガバメントをクルクルと回しながら、キンジにそう言い放つ。
だが、そのキンジはアリアが何を言いたいのか分からず頭に疑問符を浮かべるだけだ。
そんな、キンジに対して、アリアがムッとした様子で何か言おうとした瞬間だった。
『こちら作戦司令部。強盗団がアジト本部防衛の為、後退している。総員最後の総仕上げだ!!総員、Aブロックに集合せよ!!』
突如として、無線機から呼び出す無線指令が飛び出してくる。
「今の聞いたわね!?」
「あぁ……」
「グズグズしていられないわね……、行くわよ!!」
無線指示に対して、アリアはキンジと言葉を交わした後、急いで放水車に箱乗りすると、指示のあったAブロックに急行する。
キンジも彼女と同じ様に放水車に掴まり、Aブロックへと向かった。





……

………



キンジとアリア達が駆けつけた時には既に、Aブロックでは、最後の抵抗を試みる強盗団と最後の一押しを掛ける武偵達による激しい戦闘が繰り広げられていた。
「死ねぇぇぇぇっ!!」
「くたばりやがれぇぇぇ!!」
アジトに押し寄せる武偵達に対し、強盗団のメンバーは大声で罵りながら、手に持った軽機関銃やアサルトライフル、ショットガン等を撃ちまくって、武偵達を押し返そうと血眼になっている。
それに対して、武偵達も必死になって強盗団を相手に銃撃や放水車の高圧放水で応戦。
強盗団のアジト壊滅に向けて、最後の一押しを休む間も無く繰り返している。
「怯むな、放水車前へ!!」
「ぐあっ、被弾した!!」
「衛生科はどうした!?まだ来ないのか!!」
そんな武探達の大声が繰り返し、銃声と共に鳴り響く中、アリアとキンジの2人は飛び交う銃弾の雨を潜り抜け、作戦指揮官である3年生の下にやってくるなり、声を上げて報告する。
「こちら、Cブロック制圧班。只今、合流しました!!」
「来たか!!状況は見ての通りだ、最後の一押しを掛ける!!お前達は左側に付け、全隊が配置に付き次第、一気に突撃する!!」
「了解。キンジ、今のは聞いたわね!?」
このアリアの問い掛けに対し、キンジが「あぁ」と短く返事を返すのを見て、アリアは自身にも言い聞かせるように大声でこう言い放った。
「作戦の総仕上げよ……、一気に行くわよ!!付いてきなさい、バカキンジ!!」
「あっ、待て、バカッ!!」
キンジが止めるのにも拘らず、アリアは、まるでキンジを置いて行かんとばかりの勢いで走り出す。
そんな彼女の後ろ姿を見て、「はぁ~……」と深い溜め息を付きながら、キンジも一回深呼吸をすると、猛ダッシュでアリアの後に続く。


それから数分が経ち、遂に”総仕上げ”が開始される。
「総員突撃ぃぃぃーっ!!」
作戦指揮官の3年生男子が大声で叫ぶと共に、首からぶら下げていたホイスッスルを勢い良く吹く。
このホイスッスルの音を合図に、強襲科の生徒達や放水車が一気に強盗団に向け、突撃を開始。
対する強盗団も銃撃で、この突撃に応戦するが、もはや”焼け石に水”だ。
強盗団のメンバーは次々と強襲科生徒達の銃弾に倒れ、放水車の高圧放水に吹き飛ばされる等して、マトモに応戦する事も出来ずに次々と確保されていく。
「キンジ、コイツに手錠を!!」
「わ、分かった!!」
「は、離せ!!クソガキ共!!」
「いい加減にしろ!!」
そんな強盗団メンバーの一人をアリアとキンジも確保するが、強盗団のメンバーは必死になって抵抗する。
これに痺れを切らしたアリアが、頭に怒りマークを浮かべながら、ガバメントで思いっきり頭を殴りつける。
瞬間、強盗団のメンバーは「ぐえっ!!」と言う悲痛な叫びと共にダウン。
キンジはコレをあきれた様子で見ながら、広報搬送担当の生徒にメンバーを引き渡す。
こんな調子で次々と強盗団のメンバーは確保されて行き、総仕上げは着々と確実に進んでいく。


そして、遂に強襲科の生徒達は強盗団のボスが潜伏していると思われる倉庫前に到達する。
「これで本当にラストね……」
「あぁ……」
ボスの確保の為に集まった生徒達の中にアリアとキンジもおり、二人がそう言葉を交わすその側で、突入支援担当の1年生男子によって、倉庫のドアを吹き飛ばす爆薬がセットされる。
「爆破準備完了!!」
「よし……、やれ!!」
1年生男子の合図に対し、作戦指揮官の3年生男子が爆破を命じた瞬間、1年生男子は起爆スイッチを押し込む。
それと同時に凄まじい爆音が鳴り響き、倉庫のドアが爆破され、豪快な金属音と共に崩れ落ちる。
「突入!!」
この指示と共に強襲科生徒達が一斉に倉庫内へと流れ込んで行き、その中に居た2名の強盗団のボス……”ケント・ハン”と、”|宇野山実《うのやまみのる》”に次々と銃を突き付ける。
「動くな!!銃を捨てて、投降しろ!!」
作戦指揮官の3年生男子が代表し、二人に警告すると、二人は揃って不敵な笑みを浮かべながら、こう言い放つ。
「日本の武偵校の強襲科は実に優秀だな……」
「あぁ……、敵ながら天晴れだ……」
「何が可笑しい!?」
ハンと宇野山の言葉に対し、3年生男子が怒鳴り散らしながら、聞き返すと、宇野山が強襲科の生徒達に顔を向け、こう言い放つのだった。
「だけどな……、所詮は人間のガキだ……、コイツらが相手では、どうかな?」
宇野山が挑発する様に、そう言った瞬間だった。
彼らの後ろに置いてあったコンテナの屋根を轟音と共に突き破って、”菱井インダストリー製 ブルドック(※腕に鉄骨切断用のエンジンカッターオプション装備)”に”SEJ製 サターン”、”篠原重工製 クラブマン ハイレッグ”と言ったレイバーが姿を見せる。
「れ……、レイバーだ!!」
「なっ!?」
「嘘だろ!?」
「そんな……」
この突然のレイバー出現に強襲科生徒達に同様が走り、キンジは愚か、流石のアリアですら動揺を隠し切れなかった。


その反応を予想していたかのようにハンと宇野山は軽く笑うと、二人は手に”M4カービン”と”M240軽機関銃”を手に取り、こう叫ぶのだった。
「お前達、やってしまえ!!」
「ぶち殺せ!!」
そう二人が叫んで、M4カービンとM240をフルオートとで撃ちまくり始めると同時に3機のレイバーが一斉に強襲科生徒達に襲い掛かる。
「た……、退避!!退避しろぉぉぉーっ!!」
この襲撃に対して、3年男子がそう叫んだ瞬間、サターンの搭載火器である”42ミリオートカノン”が轟音と共に炸裂。
その3年男子を含めた強襲科生徒達を、まるで枯葉の様に吹き飛ばした。
「し、指揮官がやられた!!撤退ー!!」
「させるかよぉ!!」
吹き飛ばされ地面に叩きつけられる強襲科生徒達を見た、女子生徒が声を張り上げて撤退を叫ぶが、それを阻止する様に放たれたハンのM240の銃撃が彼女に命中、彼女は鮮血を撒き散らしながら、地面に崩れ落ちる。
それと同時にブルドックが、近くにあったコンテナを投げつけ、クラブマン ハイレッグが、違法改造で取り付けたM60軽機関銃を撃ちまくりながら、強襲科に向けて突進。
たちまち、強襲科の生徒達は蜘蛛の子を散らす様に撤退を開始し、アリアとキンジも必死になって撤退する。
「な、何で、こうなるんだ!?」
「知らないわよ!!」
そう愚痴を交わしながら、アリアとキンジは必死になって撤退する。
この間にも3機のレイバーは、次々と強襲科の生徒達に向けて、コンテナを投げ付けたり、42ミリオートカノンを撃ちまくる等して、暴れ狂う。
結果……放水車全車が大破炎上、強襲科の生徒50人近くが負傷、捕虜になるという大参事が武偵達に突き付けられるのだった。





……

………



場所は再び、東京武偵校・特殊車両科棟。


この大参事が発生してから、ADレイバー隊に出動命令が発せられるのに、そう時間は掛からなかった。
今までの静寂を破る様に、『ウォーン、ウォーン!!』と”緊急出動命令”のサイレンが、特殊車両科棟内に絶え間なく鳴り響く。
「起きなさい、海斗!!緊急出動よ!!」
「んがっ!?」
このサイレンと共に、至近距離で掛けられた桜井の大声によって、俺は昼寝していたソファの上で飛び起きる。
っていうか……、出動命令発令だって!?先の摘発作戦で、一体何があったんだ!?
桜井に叩き起こされた俺は、まだ眠い頭で脳みそをフル回転させて、一気に意識を覚醒させる。
それと同時にリーダーが、待機場所のドアを荒々しくあけながら、入ってくる。
「全員、揃ってるな!?」
「「「「「「はい!!」」」」」」
リーダーの問い掛けに対し、俺や桜井、夕張、マリ、昴、土屋が揃って復唱を返すと、リーダーは間髪入れる事無く、こう言葉を続けた。
「ついさっき、強盗団の摘発作戦を行っていた強襲科より、緊急の応援要請があった!!強盗団がレイバーを使用して、反撃してきたそうだ!!」
「リーダー、レイバーの種類は?」
話の腰を折る様にマリがリーダーに問い掛けた。
普段の会話なら、絶対に感心しないマリの行動だが、今の様な非常事態では、仕方ないだろう……。
えっ、何でかって?レイバーとガチの殴り合い&撃ち合いをしに行くんだ、相手がどんな奴かを知っておくのは、レイバー乗りとして、当然だろ?
そんな俺の胸の内の一方で、リーダーは「あぁ」と短く言葉を返しながら、現段階で分かっている情報を俺達に伝える。
「現段階で分かっているのは、菱井インダストリー製のブルドックで、腕に鉄骨切断用のエンジンカッターオプション装備しているそうだ。それにSEJ製のサターン、42ミリオートカノンを装備しているとの事だ、そして、篠原重工製のクラブマン ハイレッグ……、この3機だそうだ」
「さ、3機もですか!?」
「それも……、かなり凶暴な奴等ばかりですね……」
夕張が驚いた表情になる側で、昴が苦虫を潰した様な表情になる。
この二人が、こんな反応を示すのも、無理が無くて当然だ……。
強盗団の使用している3機の内、1機であるサターンは最初から、”警察&警備用レイバー”として開発されたレイバーだ。
だから、42ミリオートカノンなんて、ぶっそうな装備を持っている訳で……、これに撃たれよう物ならイングラムですら、大穴が開くのは火を見るより、明らかだ。
でもって、クラブマン・ハイレッグは、従来の車両では作業不能な不整地での作業用に開発された特殊レイバーだが、中東等では軍用レイバーに転化され、使用されている事が明らかになっており、”準軍用レイバー”であるとも、言えるのだ。
用は……、2機も警備用と準軍用のレイバーが居る訳で……。あぁ……、考えただけでも頭が痛くなりそうだ……。
んで残り1機のブルドッグは民間作業用レイバーだが、腕に付けている鉄骨切断用のエンジンカッターが凶暴すぎるだろ……。
鉄骨切る用のエンジンカッターじゃあ、イングラムのFRP装甲なんて、紙同然だからな……、容易にぶった切られるだろう。


ったく……揃いも揃って強盗団は、どんな手を使って、こんなレイバーを入手しやがった?
そんな考えが俺達の脳内を駆け巡る中、リーダーが俺達に向け、こう言い放つ。
「確かに今回の相手は、非常に強力な相手だ……。だが、しかし、今ココで躊躇っていたら、助けを求めている強襲科の生徒達の期待を裏切る事になる……。だから、今の俺達に躊躇っている暇は無い……、全力を挙げて強盗団にツケを払わすぞ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
俺達を鼓舞する様に言い放ったリーダーの言葉に、俺達が威勢よく復唱を返すと、リーダーは続け様にこう言い放つ。
「総員、出撃準備に掛かれ!!」
このリーダーの指示が大声で鳴り響くと同時に、俺達は猛スピードで出撃体制を整える。
待機場所の側に置いてある出撃装備用のハンガーから、無線機の入ったタクティカルベストやヘッドギアを手に取るなり、俺達は大急ぎでそれらの装備を身につけて行く。
これらの装備は他の科には見られない装備……と言うか、レイバー隊は、レイバーや指揮車、キャリア以外にも、他の科と一味違った装備が採用されている。1つ例を挙げるとしよう。
武偵校生徒の命を守る防弾チョッキの代わりにして、武偵校生徒の象徴といえる”防弾制服”だが、これは俺達、レイバー隊&整備班では使用されていない。
その理由としては、レイバー等と言った特殊な装備を専門に扱うだけにあって、学生服の一種である防弾制服は、何かと不自由な事が多い。
なので、代わりに俺達が着用しているのはニューヨーク市警察レイバー隊で使用されている制服を参考に作られた”防弾パイロットスーツ”だ。
赤と白をベースとしている防弾制服とは反対に、青をベースに所々にオレンジが入った、この服は、レイバー等の操縦や整備に支障を来たす事が無い様に作られているのと同時に、意外な程に着心地が良い。
と、言っても……、防弾制服と同じケプラー繊維で出てきているから、通気性は最悪……、この際、気にしている場合ではない。
そんなパイロットスーツの上から、タクティカルベスト等を装着した俺達は、一斉にレイバーやキャリアがあるハンガーへと走り出す。


既にハンガー内では、凄まじい活気と怒号が飛び交っている。
「キャリア、急げ!!」
「リボルバーカノンの用意だ、実包装填!!」
「リボルバーカノン、実包の装填、完了しました!!」
「搭乗用タラップ、回せー!!」
整備員達の怒号が飛び交うハンガー内で、桜井と昴は指揮車、夕張と土屋はキャリア、リーダーは愛車にして、指揮官車の”パジェロミニ”に乗り込むなり、エンジンを始動させる。
そんなメンバーを見ながら、イングラム操縦担当の俺とマリは用意されたタラップを駆け上がり、1号機と2号機のコックピットに到達する。
到達するなり、俺とマリは揃ってイングラムのコックピットハッチ開放レイバーを勢い良く引く。
瞬間、高圧空気の抜ける音と共にコックピットハッチが開き、俺とマリは滑り込む様にしてイングラムに乗り込む。
乗り込んだコックピット内で、俺はイングラムの機動キーを鍵穴に差し込み、ガチャリと回す。
すると、正面にあるディスプレイに、機動開始を示す画面が表示されると共にイングラムが機動を開始し、ディスプレイには次々とOSの起動画面などが絶え間なく表示される。
「システムBE67、機動確認!!」
『システムDE987、起動よし!!』
俺がそれを確認しながら、報告する側で、ヘッドギアのスピーカーからは、俺と同じ様に起動画面を確認するマリの声が聞えてくる。
そんなマリの声にも時折、耳を傾けながら、イングラムが正常に機動した事を確認した俺は、無線機越しに桜井に対し、報告する。
「こちら1号機、全システムの機動を確認!!搭載作業への移行許可を求む!!」
『こちら1号指揮車、了解!!これより搭載作業を開始します!!』
俺の報告に対し、普段の態度からは想像もつかないような桜井の丁寧な口調に注目する間も無く、俺の1号機が納まっていた整備用ハンガーの固定ロックが解除される。
同時に高圧ガスが噴射される音と共にイングラムの背中から繋がれていた、充電用コードが次々と外れ、レイバーのFRP装甲を叩く。
その音に耳を傾ける間も無く、足元のレイバー移動用パレットがレールに沿って、ゆっくりと移動を開始、整備員の指示によって止められた夕張のキャリアへ向けて、進んでいく。
一方で、夕張はキャリアの操縦席にある輸送ベッドのデッキアップボタンを押し込むなり、アクセルを踏み込んでレイバー輸送ベッドを起こしていく。
輸送用ベッドが完全に起き上がると共に、イングラムを載せている移動用タラップが180度回転して、イングラムが輸送ベッドに背を向ける。
この際に、俺の1号機と同じ様な手順で土屋の運転するキャリアの搭載準備が着々と進んでいるマリの2号機が、イングラムのメインディスプレイに表示されるが、それに気を向ける事は出来ない。
何故なら、この後にあるのは、レイバーの数ある操縦の中でも”一番難しい”と言われる、”キャリアの搭載作業”に入るのだから。


前にも言ったようにコンピューターの手伝いがあるとは言え、基本的にはレイバー操縦者の操縦によって、レイバーは動く。
この操縦をミスすれば、一瞬でレイバーはすってんころりん……、あっと今に大転倒……。
その確率が最も高いのが、このキャリアへの搭載作業なのだ……。
「ふぅ……」
搭載作業を前にして、俺は集中力を高める様に深呼吸をしながら、桜井の指示を待つ。
やるぞ……、やってやるぞ……、俺なら1号機を簡単に乗せられる……。
まるで自分自身に催眠術をかける様に、心の中で連呼していると、それを中断する様にヘッドギアのスピーカーから、桜井の声が聞えてくる。
『海斗、搭載準備完了よ、始めて。絶対にミスるんじゃないわよ!!』
「分かってるよ!!」
何時もの口調に戻った桜井の指示に、俺も何時もの調子で返事を返すと、間髪入れる事無く後方ディスプレイに視線を集中させる。
そして、俺はシーソーペダルのフットバーに掛けた足を踏み込んで、レイバーの後進を掛ける。
この操作と同時に1号機の右足がキャリアのデッキに乗っかり、キャリアがズシンと揺れるのを感じながら、今度は残る片側のフットバーを踏み込む。
それによって、残る左足も一気に宙に浮き上ると同時にデッキに収まると共に、1号機がキャリアの輸送ベッドに収まった。
『夕張、乗ったわ!!固定ロックを!!』
『分かったわ!!』
『マリさん、2号機も行きますよ!!』
『OK、昴!!搭載作業、開始!!』
この様子を確認した桜井が夕張に対して、固定ロックの指示を飛ばす側では、マリの2号機が昴の指示によって、土屋のキャリアに載せられえいる事が無線越しに伝わって来る。
だが、この様子を聞き入る間も無く、俺が乗っている1号機の収まる輸送用ベッドが、ゆっくりとデッキダウンを開始、数十秒後には、完全に輸送用ベッドが車台に納まる。


ディスプレイから写る映像で、それを確認した俺は次なる作業に移るべく、コックピット脇にあるボタンを押す。
同時に、足元にあるイングラム用の銃である”リボルバーカノン”の収納ボックスのボタンを踏み込む。
これによって、レイバーの右脚部にあるリボルバーカノン収納ボックスがゆっくり開く。
それを合図として、整備班のリボルバーカノン担当の男女達が”超巨大なコルトパイソン”……もとい、イングラム用の拳銃……”リボルバーカノン”を載せたフォークリフトを脇に止める。
「よーし……、上げろ……、上げろ……、ストーップ!!」
その中のリーダー格が、音頭を取りながら、リボルバーカノンをイングラムへと載せていく。
脇で、その様子を見ていた桜井が整備班から搭載完了の合図を貰うと、間髪入れる事無く、俺に向け、こう言い放つ。
『リボルバーカノンの搭載完了を確認……、全作業の終了を確認……。海斗、降りていいわよ』
「OK……」
そう桜井の指示に言葉を返しながら、俺はハッチを開け、イングラムの外へと這い出る。
って言うかさぁー……、ここら辺の改良って……、出来ないもんかねぇ……?
毎回、毎回、イングラムの外に這い出るのって、じみーに大変なんだよ……、それ分かってる……?
胸の内でそう思いながら、コックピットから這い出た俺は、すぐ隣で行われている2号機の搭載作業に、ふと視線を向ける。
どうやら、マリの2号機も搭載が完了し、リボルバーカノンを丁度積み終えた所らしく、俺と同じ様にマリが、コックピットから這い出てくる光景が、そこに広がっていた。
「マリ、そっちも上手くいったみたいだな」
「お陰様でね!!」
俺とマリはイングラムから、降りながら、そう言葉を返すした後、共に夕張と土屋の運転するキャリアの助手席に移る。
同時に桜井と昴も、エンジンを起動し、待機させていた指揮車へと乗り込んでいく。
これらの様子を確認した整備班長の一人が大声で叫ぶ。
「正面ゲート、開けぇぇぇーっ!!」
この指示に対し、整備班が正面ゲート開閉ボタンを押し、正面ゲートが開くのを見て、指揮官車である、パジェロミニの脇に立っていたリーダーが、こう言い放つ。
「東京武偵校 ADレイバー隊、出動!!」
高らかにそう言い放ったリーダーの乗ったパジェロが、赤色灯を付け、サイレンアラームを鳴らしながら、特殊車両科棟から出動する。
それに続く様に桜井と昴の乗る指揮車、助手席に俺とマリを乗せた、夕張と土屋のキャリアも、赤色灯を付け、サイレンアラームを鳴らしながら、特殊車両科棟から出動するのだった……。





……

………



三度、所変わって……東京都大田区城南島の13号埋立地。
『最果てのパラダイス』と称され、何も無い閑散とした埋立地だ。
誰も寄り付かない、この場所にポツリと存在するのは、ADレイバー隊の兄貴・姉貴分である『警視庁警備部 特車2課』が配備されている、『特車2課棟』だ。
そんな2課棟の中に、東京武偵校ADレイバー隊の”教育係”だった、”特車2課・第2小隊”のメンバーが揃って、緊急速報ニュースの流れるテレビを見つめていた。
『先程もお伝えした様に、東京武偵校・強襲科による強盗団摘発作戦において、強盗団がレイバーを使用、摘発作戦を行っていた、多数の強襲科の生徒が負傷並びに、強盗団の人質になっている事件に関して、番組の予定を変更して、この時間はお送りしています……』
「大変な事になってますね……」
「そうねぇ……」
次々と入ってくる摘発作戦の情報の書かれた原稿を、ニュースキャスターが淡々と読み上げるのを見ながら、第2小隊1号機キャリア担当の”山崎ひろみ”が、心配そうに呟くと、2号機指揮担当の”|熊耳武緒《くまがみたけお》”が、彼の意見に同調する。
その側で、テレビに映るニュースキャスターは、スタッフの渡した新しい原稿に目を通すと、顔を上げて、こう言い放つ。
『たった今、入った情報です。現在、この事件において、東京武偵校のレイバー隊が出動したそうです。繰り返します……』
「あいつら、遂に出動したのか……」
このADレイバー隊出動の速報を聞いた、第2小隊2号機操縦担当の”|太田功《おおた いさお》”が、興味深そうにテレビに食い入る側で、第2小隊2号機キャリア担当の”|進士幹泰《しんし みきやす》”が「えぇ……」と呟きながら、説明する様にこう言い放つ。
「今回は武偵局……更に言えば、東京武偵校がメインで行っていた作戦ですからね……、出来る限り自分達の不始末は、自分達で片付けたいんでしょう……」
「全く……、武偵局も見栄を張る事無く、警察との共同作戦にすれば良かった物を……」
進士の解説に対して、そう大田が武偵局に対する皮肉をぶちまける。
そんな大田の皮肉に対して、第2小隊1号機指揮担当の”|篠原遊馬《しのはら あすま》”が、こう言い放つ。
「それはそれで、銃をドッカン、ドッカン撃ちまくる、何処かの暴力警官のせいで、悲惨な結果になりそうだけどな」
「なんだとぉーっ!?」
「はいはい、二人とも、落ち着いて。こんな所で無駄に体力を消費するんじゃありません」
この遊馬の皮肉に『歩く火薬庫』だの、『瞬間核融合炉』だの、『マッドポリスマン』等と言ったあだ名が付いている大田が盛大にブチ切れるが、直ぐに”学級委員長”である熊耳が、それを宥める。
そんな喧しい光景にも、目を暮れず、第2小隊1号機操縦担当の”|泉野明《いずみのあ》”は、じっとテレビから流れる映像を見つめていた。
彼女の見つめる映像はニューススタジオの光景から、中継ヘリから撮影された、現場の映像に切り替わっていた。
その映像をも、ただひたすらジッと見つめる野明に対して、遊馬が話し掛ける。
「どうした、野明?」
「いや……、ちょっと心配だなぁ……と、おもってね……」
「「「「「………」」」」」
まるで我が子を思う親の様に言い放った野明の言葉に対し、話し掛けた遊馬を含めた第2小隊メンバー全員が黙り込んでしまう。
それもそうだろう……、先に話した様に東京武偵校ADレイバー隊が設立されるに辺り、第2小隊は教育係として、ADレイバー隊の訓練を行った。
なので、ADレイバー隊にとって、第2小隊が『兄貴分・姉貴分』なのに対して、第2小隊にとって、ADレイバー隊は『年の離れた弟や妹達』みたいな存在なのだ。
そんな弟や妹達が、兄貴・姉貴分である自分達を差し置いて、今から悲惨な現場に向かう現状に野明達は胸が詰まる思いだった……。


が……、しかし……。
『さて、ここで突然ですが問題です。この事件は何時間で解決するでしょーか?』
「「「「「ダハァーッ!!」」」」」
「酷い時代になった物ね……」
シリアスな雰囲気をぶち壊す様にニュースキャスターの言い放ったクイズ(?)を前に、突っ込みを入れた熊耳を除く、全員がズッコケタのは言うまでも無い。
因みに、その頃、隊長室では……。
「電話、電話……」
「後藤さん……、貴方って人は……」
同じ様にテレビを見ていた、第2小隊隊長の|”後藤喜一《ごとうきいち》”がクイズに応募しようとし、それを見ていた第1小隊隊長の”|南雲《なぐも》しのぶ”が、呆れ混じりに突っ込みを入れているのだった……。