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イングラム、起動!!

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  3. イングラム、起動!!
強襲科による、強盗団の摘発作戦において、強盗団がレイバーを使用した事を受け、応援に出動した俺達ADレイバー隊。
その現場まで、俺達はリーダーの乗る指揮官車、桜井と昴の運転する指揮車、夕張と土屋のキャリア、そのキャリアの後ろに乗せられた、俺とマリのイングラムのパトランプを点滅させると同時に、サイレンを鳴らしつつ、急行する。
『こちらは東京武偵校です。緊急車両が通ります、道を開けてください!!繰り返します、緊急車両が通ります、道を開けてください……』
現場までの誘導を担当する車両科の覆面パトが、警告しながら緊急走行する後に指揮官車、指揮車、イングラムを搭載したキャリアが続く。
「スゲェ、武偵のレイバー隊だ!!」
「カッコイイ!!」
「現場の鈴野です。えー……、只今、私の後ろで東京武偵校のレイバー隊が……」
その様子を見ていた通行人、待ち構えていた各マスコミが興奮した様子で携帯の写真や、テレビカメラ等で俺達の様子を写していく。
まるで往年の国民的スターを出待ちする熱狂的なファンか、サーカスを迎える子供の様だ。
でも、まぁ……、|俺達《ADレイバー隊》程、素で『正義の味方』と言った風貌をした武偵の部隊も居ないからな……、悪い気はしない。


夕張が操縦するキャリアの助手席で、一斉に焚かれる携帯カメラや報道カメラのフラッシュ、テレビカメラの視線を感じながら、そう思っているとキャリアの無線機から、無線通信が入った事を示す連絡音が鳴り響く。
それに対する「海斗、お願い」と言う夕張の言葉を聞きながら、俺は無線機のマイクを手に取り、こう言い放つ。
「こちら、1号キャリア。感度良好、どうぞ」
『1号指揮車、通信OK、どうぞ』
『2号指揮車、同じく感度良好です。どうぞ』
『こちら、2号機キャリア。聞えます、どうぞ』
無線マイク越しに俺が応答を返すと、続く様に指揮車を操縦する桜井と昴、2号キャリアの助手席に座るマリが応答を返す。
そんな俺達の応答に答える様に無線機からは、リーダーの声が流れてくる。
『今、現場からの追加報告が入った。それによると、強襲科応援生徒と共に、警視庁の機動隊銃器対策部隊が応援で加わったそうだ』
『機動隊が?』
リーダーの言い放った報告を前に、マリが疑問系な声で問い掛ける。
無理も無い。今回の作戦は武偵局……更に言ったら、東京武偵校がメインで行う作戦であり、警視庁はあくまで支援担当だったはず。
ココにきて急にプラン変更とは、少なからず作戦に支障を来たしかねない所がある……。
そんな疑問がふと湧いてくる中、このマリの問いに答える様にリーダーが無線機越しにこう言い放つ。
「計画ではな。だが、今では、参加した強襲科の”3分の2が戦闘不能”になっている。今や武偵もメンツ気にしている余裕は無い状況だ」
『さ、3分の2が戦闘不能!?』
リーダーから告げられた衝撃の事実を前に桜井が驚いた口調で言い放つ。
無理も無い話だ……、現に俺と夕張だって滅茶苦茶驚いているんだモノ。
唯でさえ、タフガイが多い強襲科の中でも、一番のタフガイをかき集めて編成された、チームだぞ。
それの3分の2が戦闘不能……って、どんだけこっ酷くやられているんだ……。
うーん……、俺達、レイバー隊も少なからず無事に帰れなさそうな気がするなぁ……。
ふと胸の内にそんな思いが湧いてくる中、リーダーは無線機越しにこう言葉を続けた。
『総員、今回の現場は相当キツイ物になるはずだ。気を引き締めろ!!』
『『『『『「「了解!!」」』』』』』
そう俺達はリーダーの言葉通り、普段の緩い学校でのやり取りとは、全く違う閉まった声で、復唱を返すのだった……。





……

………



暫くして、遂に俺達レイバー隊は現場入りする。
「第3小隊、3メートル前進!!」
「うわあああっ、いでぇ、いでぇ!!腕が痛てぇよぉぉ!!」
「ノドバイシン200ミリ、投与!!」
「心肺停止!!心臓マッサージ、急げ!!」
強盗団との包囲を狭める機動隊&強襲科の命令、負傷し悲鳴を上げる強襲科の生徒、それを治療する衛生科の生徒及び武偵病院の医者、消防庁の救急救命士達の怒号が飛び交い、まさに戦場……野戦病院の様な状況だった。
「酷いな……」
「今回は特にね……」
この悲惨な光景を前に土屋と桜井がそう言葉を交わす。
確かに……こんな光景なんて、今まで何度か似たような物は見た事があるが、今回は特に酷いと言っても過言ではないだろう。
現に、この現場辺り一面に硝煙や、焦げ、血の匂いが漂っていて、正直気持ち悪い……。
この状態でイングラムに乗ったら、昼飯は愚か、今朝食べた朝飯や、昨日の夕飯まで戻しそうだ……。
衛生科の女子生徒と消防庁の救急救命士によって運ばれている重傷生徒を見ながら、そう思っているとリーダーがこう言い放つ。
「全員、呆然としている暇は無いぞ。作戦本部に向かうぞ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
ケツを叩く様に言い放ったリーダーの言葉に従い、俺達は作戦本部へと向かう。
そして、作戦本部のテントに付くなり、代表してリーダーが報告する。
「ADレイバー隊、只今、到着しました!!」
「おぉ、来たか……」
そうリーダーの報告に真っ先に言葉を返したのは、尋問科の担当教諭である綴先生だ。
どうやら、|俺達《レイバー隊》が出撃準備を整えている間に、先行出撃した強襲科の応援部隊と共に来たらしい。
その理由は言わずも分かるだろう……、先に捕らえた強盗団から情報を聴き出す為に来たのだろう。
普段はやる気0、昼間から堂々と違法薬物(※と言われている)を吸い、偶にウォッカのビンを一気飲みしていたりする粗暴者だが、尋問だけは超一流だからな……。
まぁ、その”唯一の取りえ”と言っても過言では無い尋問も、時折、拷問じみていたりするのだが……。
因みに「法律が変わったら、真っ先に掴まりそうな先生ランキング」で、先生は強襲科の蘭豹先生に続いて、堂々の2位だったりする。


それは置いておいて……、綴先生は応援の強襲科生徒達の指揮官である3年生や、機動隊の隊長にも聞えるような声でこう言い放つ。
「丁度、今、聴きだした情報なんだが、強盗団は今、負傷した強襲科の生徒達をC-7ブロックの1番倉庫に連れて行く計画らしい」
「それって……、強襲科が強盗団の最後の砦に来る事を前提にした計画ですよね……」
綴先生の言い放った情報を前に、マリが問い掛ける様に言い放つと、綴先生は「あぁ」と一言呟くなり、ぷはぁ……と白い煙を口から吐きつつ、こう続ける。
「どうやら連中は、ウチラが攻め込んで来る事を前提にアジトを形成していたみたいだ……」
「まんまワナに嵌ってしまった……と、言う事ですね……」
綴先生の情報を聴き、苦虫を潰したような表情になる昴の側で、桜井が痺れを切らした様にホルスターから、M19を引き抜きながら、こう言い放つ。
「あぁ、もう犯罪者なんて、全員射殺よ、射殺!!手錠なんていらないわ!!眉間にダブルタップで万事OKなのよ!!」
「お前は、アメリカ陸軍のデルタフォース隊員かよ……」
「桜井、武偵法9条、9条だ、忘れるな」
全く……、こんなのが俺の”相棒”なんだぜ……、信じられるか?
そう思いながら、一応の”相棒”である、俺が突込みを入れる側で、リーダーも同じ様に呆れた様に注意する。
うーん……、桜井は元々こんな性格だったけど、第2小隊の2号機操縦担当の大田先輩と出会って以降は、大田先輩の思考が移っているんじゃ無いのか……?
大田先輩も、よーく「この犯罪者がぁぁぁっ!!」とか、「蜂の巣にしてくれるわ、犯罪者めぇぇぇ!!」とか、叫んでリボルバーカノンぶっ放しているし……。
その後、熊耳先輩が階級を武器にお説教しているのが、もはや共同作戦における”お約束”だ。
って言うか……、よくよく考えると、同じく2号機を担当しているマリも”大田先輩化”している一面あるよな……。
この前あった、作業用レイバーの暴走事故の救助作戦でも……、「人が折角心配して、助けに来てやってるのに、このヤローッ!!」とか言っていたよな……。
まぁ、元々、第2小隊の先輩達に訓練されなくても、武偵校の女子は基本的に”男勝り”な奴ばっかりだからな……。
それを考えると、”データマニアの変人”である夕張の方が、世間一般で言う「女らしい女」に当て嵌まるのだろう。
いやぁー……世の中って、つくづく、何が、何だか、分からない事ばかりな物だぜ……。
桜井、夕張、マリの女子3人組を見て、胸の内でそう思っている俺の側で、綴先生は灰皿に違法薬物を押し付け、火を消し、新しい違法薬物を取り出しながら、こう言い放つ。
「とりあえず……、救出作戦はお前達が肝だ。作戦配置図を渡すから、早速準備に取り掛かってくれ」
「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」
綴先生の指示に、俺達は一斉に復唱を帰すと、作戦配置図に視線を向けた。





……

………



そして約1時間は経っただろうか……。
捕虜になった強襲科生徒の救出作戦に向け、武偵と機動隊員隊によって、着々と作戦準備が整えられていく。
『こちら強襲科Aチーム、配置完了。これより待機します』
『こちら3小、突入準備完了。指示あるまで待機します』
『こちら狙撃科B班、配置につきました。指示を待ちます』
そんな強襲科や狙撃科、機動隊員達の無線連絡が飛び交う中、俺達レイバー隊も作戦準備を着々と整える。
『ADレイバー隊各員へ、各無線チャンネル設定をチャンネル356に合わせろ』
桜井と昴の乗る指揮車の脇で、64式小銃を肩に掛けながら、リーダーが無線チャンネル変更の指示を出す。
その指示に応じる形で、キャリアの側で搭乗指示を待っている、俺とマリはヘッドギアの無線機のチャンネルを、指示されたチャンネルに合わせていく。
「こちら海斗、無線チャンネル設定、完了です」
「こちらマリ、同じく無線チャンネルの設定完了しました」
『1号指揮車、桜井です。指揮車の無線チャンネルの変更完了です』
『こちら2号指揮車、昴です。2号指揮車のチャンネルもOKです』
『えー、こちら1号キャリア、夕張。チャンネル変更、終わりました』
『……2号キャリア、チャンネル変更、完了』
チャンネルを合わせた俺とマリが、リーダーに変更完了の報告をすると、続け様に桜井と昴、夕張、土屋達の声が無線機から聞えてくる。
どうらや、桜井達も指揮車やキャリアの無線チャンネル変更を終えたらしい。
そのチャンネルから聞えてくるクリアな音声を聞きながら、その事を実感していると、リーダーが無線機越しに『了解』と復唱しながら、こう告げる。
『桜井と昴は前面に付けろ、海斗とマリはレイバーへの搭乗用意、夕張と土屋はデッキアップ用意』
『『『『「「了解!!」」』』』』
そうリーダーが告げた次なる指示に対し、俺達は復唱を返すと同時に、一斉に指示を実行する。
桜井と昴が指揮車を走らせ、突入に備える強襲科生徒や機動隊員達の前につける。
因みにリーダーは、桜井の指揮車の上で64式小銃を構えながら、第二次世界大戦中におけるソ連軍の”十八番”である戦車騎乗……『タンクデザント』な状態である。


そんなリーダーと桜井と昴の乗る指揮車の様子を見ながら、俺とマリもイングラムに乗るべく、キャリアに上ろうとした時だった。
「アンタ達を呼ぶ羽目になるなんてね……」
と、言った感じで、つい先程、聞いた様なアニメ声での嫌味が聞えてきて、俺とマリが振り返ると、そこには”奴隷”であるキンジを引き連れたアリアの姿があった。
このセリフを聞いた限りでは、彼女は「俺達の応援なんて必要ない」と言う気分だったのだろう。
隠すつもりの無いムスッとした表情で俺とマリ、そしてイングラムに視線を向けながら、言い放つ。
そんなアリアの表情を見ながら、マリがこう口を開く。
「まぁ……、全力で倍返ししてやればいいのよ、アリア」
「えぇ……、分かっているわよ」
「アリア……」
そうマリの言葉に諭される様に呟くアリアだが、その表情には悔しさがにじんでいた。
無理も無い”最強のSランク”である彼女が、無念の撤退……それも負傷した仲間を残してなのだから……。
|腸《はらわた》が煮えくり返る思いでいるのは、当然だろう。
そんな感情爆発寸前のアリアを見て、キンジも掛ける言葉を必死に探している。
俺はそんな二人を宥め、気を引き締めさせる様にこう言う。
「二人共、後悔する暇があるなら、作戦が終わってからにするんだ……、このまま悔んでいても、後悔を増やすだけだぞ」
我ながら、かなりスパルタな発言だな……言い終わると同時に、ふと胸の内でそう思う。
だが、このスパルタ発言はある程度の効果があった様で……、アリアとキンジの二人は顔を上げると、決意を新たにこう告げた。
「その通りね……、奴らを風穴レンコンにしてくれるわ!!」
「お前らしいよ……」
そう何時もの調子で言い放ったアリアを苦笑するキンジも、すっかり元の調子を取り戻したようだ。良かった、良かった。
だが、喜ぶのはまだ早い……、これから本題である救助作戦が始まるのだから……、気を抜くことは出来ない。
アリアとキンジの様子を見ながら、その事を再認識した俺は、二人に向け、こう言い放つ。
「俺達も直ぐにデッキアップするぞ、お前達も配置に付いておけ」
「えぇ、遅刻なんてしたら、蘭豹に殺されるわよ」
「分かってるわよ!!」
「あぁ、頼むぜ!!」
そう茶化すように俺とマリが言い放つのを聞き、アリアとキンジは配置に付くべく走っていく。
俺とマリは、そんな二人の後ろ姿を見ながら、レイバーのコックピット開放レバーを引く。
瞬間、開いたコックピットハッチから、飛び込む様にして、イングラムに乗り込む。


それから数分後だった……。
『こちら青柳。イングラムAD型、1号機、2号機、共に起動及びデッキアップ開始せよ!!』
『『『「了解!!」』』』
ヘッドギア越しに聞えてきたリーダーの起動開始及びデッキアップ命令を受け、イングラムが遂に起動する。
まず俺とマリがイングラムの起動キーを回し、イングラムを起動させる。
瞬間、イングラムのコックピット内にOSやアクエチューターの起動音が鳴り響く。
同時に俺とマリの四方を囲むモニターから、外の映像と共にOSの起動画面が刻々と映し出されていく。
それを見ながら、俺とマリは共にキャリア担当の夕張と土屋に対し、こう言い放つ。
「夕張、良いぞ、起こしてくれ!!」
『了解、固定用ジャッキ展開!!』
俺の呼びかけに対して、夕張がキャリアの運転席で転等防止&固定用のジャッキの展開ボタンを押し、四隅にある固定ジャッキを展開し、キャリアを地面にガッチリと固定する。
『固定完了……デッキアップ、開始!!』
それが完了した事を運転席上部にある専用モニターで確認した夕張は、続け様にそう言い放って、デッキアップ用レバーを引く。
瞬間、凄まじいディーゼルエンジンの轟音と共にゴン、ゴンと言う音を上げて、キャリアの油圧ジャッキが動き、俺の乗る1号機が納まっているレイバー輸送ベッドが、ゆっくりと起き上がっていく。
起き上がっていく1号機の中で、感覚が平衡感覚が水平から垂直に変わっていくのを感じつつ、俺は横のディスプレイに視線を向ける。
すると、そこには俺の1号機と同様に、デッキアップを行っているマリの2号機が写っている。
『ふふふ……、久々に腕がなるわねぇ……』
『……桜井さんみたいだな』
ヘッドギアのスピーカーから聞えてくるマリの高揚とした声と、突っ込みを入れる土屋の声を聞きながら、俺の乗る1号機はガァン!!と揺れる輸送用ベッドの振動と共にデッキアップが完了する。
それと同時にイングラムを固定していた脚部固定ボルト、上部固定ロックが一斉に解除される。
『1号機デッキアップ完了、脚部固定ボルト及び、上部固定ロック解除!!パージ準備完了!!』
「了解。内部電源への切り替え……完了、パージする!!」
俺の乗る1号機が、遂に地面に降り立つ全準備が完了した事を告げる夕張の無線を聞き、俺は内部バッテリー起動ボタンを押し、イングラムの内部バッテリーを起動させるなり、足元のフットバーを踏み込む。
瞬間、チュインと言うモーターの音と共に1号機はキャリアから繋がっている充電バッテリを引き抜きつつ、ゆっくりと右足を動かして、地面にドスンと下ろす。
それをディスプレイ越しに見ながら、左側のフットバーを踏み込み、右足と同じ様に左足をゆっくりと動かして、キャリアから下ろす。
遂に1号機が地面に降り立つったのだ。
「おぉ……」
「スゲェ……」
地面に立った俺の1号機を見て、地上で配置に付いていた強襲科や機動隊員達が一斉に感嘆じみた声を上げる。
まぁ、先にも言った様に、俺達ほど、”正義の味方”な格好した部隊も、早々無いわけで……、レイバーのデッキアップは、そのアニメや特撮ヒーロー物の作品の”出撃シーン”に通ずる所があるからなぁー……。


ディスプレイ越しに、1号機を見上げる強襲科や機動隊員達の表情を見つめながら、思っている側で、マリの2号機もデッキアップが完了し、地面に降り立つ。
それを先に配置に付いた桜井と昴の指揮車の上で、イングラムのデッキアップが完了した事を確認したリーダーが、次なる指示を飛ばす。
『1号機、2号機、前衛に付け』
『「了解!!」』
リーダーの出した、この配置指示に従い、俺とマリは共にフットバーを踏み込み、イングラムを配置ポジションまで移動させる。
「うぉぉ……」
「来た、来た、来た……」
ガション、ガション……と言った感じの、アクエチューターとモーターが醸し出すレイバー特有の作動音。
同時に脚部が下ろされ、ドスン、ドスンと言った独特の振動を挙げながら、ポジションまで進んでいく俺とマリのイングラムの脇に居る強襲科や機動隊員達が、先程とは別の感嘆じみた声を上げる。
いや、これは感嘆と言うより、驚嘆と言ったほうが正しいかな?
『はい、ごめんなさい、ごめんなさいね』
胸の内でそう思いながら、配置に付く俺の1号機の側で、マリの2号機は外部スピーカー越しに強襲科や機動隊員達にお詫びしながら、進んでいく。
「え、女子が乗ってるのか?」
「スゲェな……」
イングラムから聞えてきた、この初々しい女子学生の声に強襲科は兎も角、機動隊員達は拍子抜けした様子だ。
まぁ、普通の女子高生なら、レイバーなんかに乗って激しいロボバトルなんてしていないだろうしな……。
そういう俺も普通の男子学生なら、レイバーに乗らずにバカやっている年なんだろうけど……。
ふとそんな思いが胸の内で湧いてくる中、俺とマリの乗るイングラムは共に配置に付く。
それから数分後……、作戦が遂に開始される。
『作戦開始、総員突入せよ!!』
『1号機、2号機、前進!!』
『「了解っ!!」』
機動隊の隊長が指揮車の上で、ハンドマイク越しに大声で叫ぶと同時に、リーダーが前進指示を飛ばす。
コレに答える様にして、俺とマリは共にイングラムを前進させ、先陣を切る様に、敵陣へと突入していく……。





……

………



俺達が突入して、強盗団及び、そのレイバーと遭遇するのに時間は対して、掛からなかった。
約10分程、経った頃、独特のモーター音と共に、強盗団の操るクラブマンハイレッグが、俺とマリのイングラムの前に立ち塞がる。
先の強襲科生徒達からの、報告であった様に、クラブマンには、違法改造で取り付けられた機関銃が、軍用装甲戦闘車の様に、ギラリとコチラに睨みを効かしている。
本気で撃ってきたら、俺の1号機とマリの2号機は揃って蜂の巣になりかねないな……。
ディスプレイ越しにクラブマンを見て、そう思いながら、俺は桜井達に、無線連絡を入れる。
「こちら1号機、クラブマンを確認!!」
『1号機、2号機、共に警戒しろ!!奴は違法改造済みだ!!』
そう俺の報告に声を荒げながら、警戒を促すリーダーの無線に続く様に、桜井と昴が指示を伝える。
『海斗、銃よ、銃を使いなさい!!』
『マリさん、電磁警棒です!!』
指揮車の中から大声で叫ぶ、二人の指示を聞き、俺とマリは共に『「了解っ!!」』と復唱を返しながら、指示通りにイングラムを操る。
まず俺は、先程の出撃準備の時と同じ様に、足元のボタンを踏み込み、リボルバーカノンを射出する。
瞬間、ガシャ、バコンと重い音を立てて、脚部の収納ボックスが開き、レイバー用の超巨大コルトパイソン……もとい、リボルバーカノンが、収納ボックスよりせり上がって来る。
同時に篠原重工が誇る最新鋭モーターとマニピュレーターからなる、イングラムの手がリボルバーカノンを掴み上げながら、クラブマンに突きつける。
そんな俺の1号機の側で、マリの2号機は左手に装備されたシールドを構える。
同時にマリは、コックピット内の手元レバーの左側にある電磁警棒射出ボタンを握りこむ。
その瞬間、俺の1号機が持つリボルバーカノンと同様に、シールド内に装備されたイングラム用の警棒の電磁警棒が射出される。
ディスプレイ越しに、それを確認したマリは右手レバーを操作し、電磁警棒を掴むと、一気に電磁警棒を引き抜く。
同時に、ブゥォーンと言う独自の放電音を立てながら、電磁警棒を振るようにして伸ばすと片手中段構えで構える。
それを指揮車の中から確認し終えた桜井が、指揮車の外部スピーカーのスイッチを入れるなり、クラブマンに対して、警告する。
『正面のクラブマンハイレッグの搭乗員に告ぐ!!直ちにレイバーを停止させ、降りてきなさい!!繰り返す……』
『うるせぇー!!』
だが、当のクラブマンは桜井の警告を中断させるかの用に罵倒すると、搭載された機銃を俺達に向け、撃ちまくってくる。
「うおっ!?」
『うひゃっ!!』
『退避、退避ーっ!!』
『総員、身を隠すんだ!!』
飛んでくる.7.62ミリ弾から身を隠すように、俺とマリがイングラムを近くのコンテナに身を隠す。
その側で、強襲科生徒や機動隊員達も俺達と同じ様に、近くのコンテナに身を隠したり、桜井や昴の乗る指揮車の後ろに隠れるなりして、銃撃をやり過す。
にしても……、よくもまぁ、クラブマンに機銃乗っけるといった手間の掛かる違法改造を施したものだな……。


飛んでくる銃弾によって、コンテナが飛び散る火花と共に、鳴り響く短い金属音をイングラムのコックピットで聞きながら、俺はタイミングを見計らう。
俺の1号機の反対側のコンテナに身を隠したマリの2号機も同様、|奴《クラブマン》の銃撃が止むのを待っている。
そんな俺とマリの隠れているコンテナに強襲科や機動隊員達を引き連れ、桜井の指揮車が走ってくる。
1号機のディスプレイ越しに、それを確認した俺に対し、桜井がこう話し掛けて来る。
『海斗、無事!?』
「当たり前だろ!!珍しいな、お前が俺に気を使うなんてよ!!」
何時もの”男女”らしく無い桜井の声に対して、俺が茶化すようにそう言い放つと、桜井の癪に触れたのか、何時もの口調で桜井は怒鳴り散らしてくる。
『黙れ、エビフライ!!』
「大声出すなよ、耳が痛いわ!!」
現にヘッドギアのスピーカーから、聞えてきた桜井の大声で、鼓膜が破れたかと思うぐらいに痛いんだけど?
もし本当に鼓膜が破れていたら、労災保健が適用できるのか?
ふとそんな思いが胸の片隅で湧いてくる中、クラブマンの搭載機銃が弾切れを起こし、銃撃が止んだ。
このチャンスを逃すまいと、桜井が再び大声で叫んだ。
『海斗、今がチャンスよ!!機銃を狙いなさい!!』
「了解っ!!」
桜井の言った様に絶好のチャンスを逃すまいと、俺は1号機をコンテナの影から出すと、リボルバーカノンをクラブマンの機銃に向ける。
ディスプレイに写るリボルバーカノンの照準をクラブマンの機銃にあわせ、ロックオンするなり、俺は手元レバーのトリガーを引いた。
その瞬間、リボルバーカノンを握るイングラムの指が、一気にリボルバーカノンのトリガーを引き、ダブルアクションでリボルバーカノンのハンマーが落ち、轟音と共にリボルバーカノンが火を噴いた。
『どひゃっ!!』
『うわぁあっ!!』
このリボルバーカノンの音に強襲科や機動隊員達が思わず腰を抜かしそうになる側で、放たれたリボルバーカノンの銃弾(※砲弾?)は、クラブマンに搭載された機銃に命中、凄まじい威力で機銃をもぎ落す。


もぎ落とされた機銃がガシャン、ガシャンと音を立てて、地面を転がっていく様子をディスプレイ越しに見ていると、今度は昴がマリに対して、指示を飛ばす。
『マリさん、今です!!』
『任せて!!』
昴の指示を受け、マリの乗る2号機が弾丸の様に隠れていたコンテナから飛び出し、電磁警棒を片手に一気にクラブマンへと駆け寄っていく。
このマリの接近に気付いたクラブマンも負けじと、前足(?)を上げて、2号機の頭を狙って蹴り込む。
が、格闘戦に優れるマリの2号機は、素早く左腕につけたシールドで、その蹴りを受け止めると、「お返し」と言わんばかりに、電磁警棒をクラブマンに叩き込む。
『でいやぁぁぁぁっ!!』
ヘッドギアから、大声で叫ぶマリの声と共に電磁警棒を叩き込まれた、クラブマンのFRP装甲が激しい衝突音を上げる。
『まだ、まだぁっ!!』
その音を聞きながら、マリの2号機は再び電磁警棒を振り上げると、もう一撃をクラブマンに食らわすべく、電磁警棒を振り下ろす。
が、対するクラブマンも「同じ手を喰らうものか」と言わんばかりに、マリの電磁警棒を交わすと、今度は右足を振り上げ、2号機の胴体目掛けて、蹴りを炸裂させる。
それを喰らった瞬間、凄まじい轟音と共にマリの2号機が後ろに大きく飛び跳ね、地面に叩きつけられる。
『くっ!!』
『マリさん!!』
このマリと昴のやり取りが、俺のヘッドギアにも飛び込んできた瞬間、クラブマンは2号機に止めを刺さんとばかりに、唸りを上げて、襲い掛かってくる。
「させるかっ!!」
『ちょ、ちょっと海斗!!』
俺は、それを見て、殆ど無意識の内に、桜井の指示も待たずに1号機を走らせると、思い切りフットレバーを踏み込んで、イングラムの脚で地面を強く蹴り上げて、宙を舞う。
同時に両足揃えて、俺の1号機は、思いっきりクラブマンにドロップキックを炸裂させる。
炸裂したドロップキックを喰らったクラブマンが地面に倒れると、同時に俺の1号機も重力に引かれ、地面に叩きつけられる。
「ぐあっ……くっ!!」
その衝撃を体全体で感じながら、俺は1号機のレバーを操作して、1号機を起こす。
だが、それよりも先にダウンから復帰したクラブマンの蹴りが俺の1号機に命中する。
「どはああっ!!」
ったく、篠原重工のオートバランサーは滅茶苦茶優秀だな!!
再び地面に倒された1号機の中で、一瞬そう思いながら、ディスプレイを確認する。
そこに映し出されていたのは、次なる一撃を喰らわせるべく脚を振り上げるクラブマンの姿だ。

クソッタレ、今日は厄日だぜ!!

ディスプレに映し出された映像を見て、そんな考えが一瞬沸いた瞬間だった。
『でやあああっ!!』
大声で叫びながら、マリの2号機がクラブマンの側面に体当たりを炸裂させる。
その体当たりを食らったクラブマンは、激しく転倒しながら、飛んで行く。
『海斗、大丈夫!?』
「あぁ、なんとかな……」
無事を確認する無線を入れるマリに対し、無事である事を告げながら、俺は再び1号機を起こす。
そんな俺とマリのイングラムの数メートル先では、2号機の体当たりで飛んでいったクラブマンが、器用な脚さばきでダウンから復帰していた。
ったく……、さっきも言ったけど、篠原重工のオートバランサーはマジで滅茶苦茶優秀だな、オイッ!!
4本の脚を器用に操作して、ダウン復帰するクラブマンを見て、俺がそう思っている側で、桜井が無線を入れてくる。
『海斗、意識、飛んでないわね!?来るわよ、警戒して!!』
『マリさんも警戒してください!!』
『「了解っ!!」』
警戒を促す桜井と昴の声を聞き、俺とマリは共にイングラムを操作し、次なる攻撃に備えて、身構える。


揃って身構えた俺とマリのイングラムを見て、強盗団の操るクラブマンは、半場ヤケクソ状態だ。
『このクソがき共がああっ!!』
クラブマンの外部スピーカーで、俺達を激しく罵倒しながら、クラブマンは脚部に装着されているタイヤで、俺達に向けて、全力疾走してくる。
『海斗、突っ込んできたわよ!!』
「OK!!」
突っ込んでくるクラブマンを見て、桜井が飛ばした指示を受け、俺は1号機を突っ込んでくるクラブマンに向け、走らせる。
この時点で腕を出してラリアットでも喰らわす事が出来るが、ハッキリ言ってクラブマンの方が頑丈なので、イングラムの腕を壊すだけだ。
現に大田先輩の2号機が少し前にクラブマンに|コレ《ラリアット》やって、右腕を豪快にふっ飛ばしていた。
因みにその後、野明先輩の1号機&機動隊の包囲網を突破したクラブマンを相手に大田先輩は、リボルバーカノンで応戦。
その際に自身の乗る2号機の頭を撃ち抜くと言う”トンでも珍プレー”をした挙句に、何とかクラブマンに命中弾を喰らわし、確保している。
いやはや……、大田先輩……、自身の機体の頭を撃ち抜くなんて……、凄い事しますね……。
これまた因みにだが、その後、特車2課整備班が、後に『火の7日間』と呼ばれる”抗争状態”になったとか……。
うーん……、警察組織って何が何だか良く分からない物だな……。
まぁ、そんな抗争状態に|ウチ《ADレイバー隊》の整備班になるかは、分からないが、ド派手に壊して、整備班から少なからず恨まれる様な事は、俺も勘弁だ。
そんな自体を避けつつ、突っ込んでくる|奴《クラブマン》の動きを止めるべく、俺は”相当な大技”を決める。


先程と同じ様にフットバーを踏み込み、イングラムの脚で、思い切り地面を蹴り上げ、再び1号機を宙に飛ばす。
だが、今度は上半身を操作して、完全に宙を舞うより先にイングラムを倒して、地面に付ける。
そうすると、イングラムは勢いそのままに、慣性の法則で地面を滑っていく。所謂、スライディングの状態だ。
これまた因みにだが、これのスライディングアタックも共同訓練の際に大田先輩が教えた戦闘技術だったりする。
んで、この状態で、俺は思いっきり突っ込んでくるクラブマンの脚目掛けて、滑っていく。
対するクラブマンも、俺の狙いに気付き回避行動を取ろうとするが、それよりも先に俺の1号機のスライディングアタックが、クラブマンに炸裂。
その瞬間、「ドガァァァァンっ!!」……と言う轟音と共にクラブマンが、転倒してド派手に転がっていく。
『マリさん、今です!!下部のエンジンパネル、バッテリー部分を!!』
『任せて!!』
転がっていくクラブマンを見て、間髪入れる事無く昴が、大声で叫ぶと共にマリは2号機を走らせ、一気にクラブマンに接近する。
そして、大声で叫びながらマリは構えた電磁警棒を振り下ろし、クラブマンのエンジンパネルを突き破り、内部のバッテリーを破壊。
瞬間、バチバチッ!!と言うショートする音と共にクラブマンは行動を停止する。
「リーダー、今です!!」
クラブマンの動きが止まった瞬間、強襲科生徒や機動隊員達と共に待機していたリーダーにマリが報告する。
マリの報告に対し、リーダーは『OK』と言いながら、続け様に俺に対し、こう言い放つ。
『海斗、お前も援護に回ってくれ!!』
「了解です!!」
俺はリーダーの出したこの指示に従い、リボルバーカノンを構えながら1号機を、マリの2号機が押さえ込むクラブマンの元に近づくなり、クラブマンに突きつける。
その側で、リーダーはクラブマンのコックピット開放レバーを引いて、クラブマンのコックピットをこじ開けるなり、強襲科生徒や機動隊員達と共に乗っていた強盗団を引き摺りおろして、身柄を拘束する。
これで完全にクラブマンは行動不能となったわけだ……、初戦ながら疲れたぜ……。
ディスプレイ越しに連行される強盗団員を見て、そう思った矢先だった。
突如として、ズドォーン!!と言うリボルバーカノンとは別の銃声(※砲声)が鳴り響き、俺の1号機の側にあった古倉庫の一部が吹き飛ぶ。

一体なんだ!?

そんな考えが一瞬胸の内を過ぎった瞬間、指揮車内のレーダーを確認していた桜井の声がヘッドギアのスピーカーから飛び出してくる。
『海斗、マリ、後方5時の方向に犯人レイバーよ!!』
「っ!!」
この桜井の報告に対し、俺の1号機だけは無く、マリの2号機も振り返った先には、桜井の報告どおり、レイバーが居た。
それも、42ミリオートカノンを構えるサターンと言う”嫌な奴”が……。