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運命が動き出すとき……。前編

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<ウィーラーSide>
303高地の戦い及び、俺の体が人間なのか、機械なのか、分からない存在になってから、暫く経った頃……。

303高地から、そう遠くない場所にある墓地にて、”俺を除く第32小隊の面々”を始めとして、303高地の戦いで戦死した各国全ての兵士、ウィッチ、ウィザード達の追悼式が行われた。
埋葬前の墓穴の前に綺麗にズラリと並べられ、リベリオン、ファラウェイランド、ブリタニア、ロマーニャの国旗が掛けられた棺桶を前にして、俺はリベリオン陸軍・第32小隊の唯一の生き残りとして、陸軍の制服に身を包み、制帽を被り、魔力を発動させ、頭からホワイトタイガーの耳を生やして、参加していた。
まぁ、殆ど軍上層部の命令による強制参加だがな……。はっ、何が「貴官は全滅した第32小隊の指揮官にして、唯一の生き残りだ。指揮官として、生き残った者として、死んだ部下達を見送り給え」だ……。
共に死ぬはずだったのに、一人のうのうと生きている俺の顔なんて、あいつらが見たいと思うのか?
そもそも、今の俺は人間なんだか、機械なんだか、説明しようのないバケモノに近い存在になっちまったんだ……。尚更、あいつらに合わせる顔なんて無いぜ全く……。
おまけに、世間じゃ、俺は「木端微塵に吹っ飛んだ」って言うじゃないか。だから、その「木端微塵」を演出する為に、やる必要もない左腕のギプスやら、包帯を顔の左半分に巻く羽目になってんだから、つくづくやってらんねぇわ!!

そんな俺の胸の内など知る由もないまま、追悼式はプログラムにしたがって、淡々と進んでいく。
「弔砲発射用意……撃てっ!!」
ブリタニア陸軍の音楽隊に所属するウィッチ達の演奏に合わせ、リベリオン陸軍の儀じょう隊指揮官であるウィザードの指示によって、リベリオン陸軍、ファラウェイランド陸軍、ブリタニア陸軍、ロマーニャ空軍のウィザードによって合同編成された、儀じょう隊が|弔銃《ちょうじゅう》を放ち、墓地の空気を鋭い銃声が切り裂いてく。
その銃声に混じって、鳴り響く新聞記者達のカメラのシャッター音が止む事無く鳴り響く。
全く……俺は未開の島から、首に縄を掛けられて、連れてこられた新種の動物じゃねぇんだよ……。

大量にとられる写真の被写体として、そんな事を思いながら、ふと記者達の方に耳を傾けると、記者達が俺に関して話している事が聞こえてくる。
「おい、あの顔面の左半分を包帯で巻いているのって、第32小隊の小隊長じゃないのか?」
「あぁ、間違いない……。最初、体が木端微塵になったといわれていた小隊長だ。木端微塵になったというのは、嘘だったみたいだな……」
「そうだとしても、流石に顔の左半分を派手にやられているみたいだな……」
「軍の発表だと、一応、腕の良い医者達のおかげで視力は残っているみたいだが……。何処から、何処まで本当なんだか……」
「ま、それを抜きにしても、まさに『英雄』と称するに相応しいケガと戦いぶりだな」
どうやら、俺を写真に撮っている記者達は、俺を世間一般が言っている『英雄』だと思っているらしい……。
はっ……、英雄ねぇ……。アンタ達が思っている様な輝かしい物じゃないぜ……ブンヤさんよぉ……。
別に『英雄』なんぞ、なるつもりもなかったよ……。それなのに、気が付いたら『英雄』何て、肩書が知らぬ間に付いているんだ……。
勝手につけられる方からすれば、たまんねぇよ……クソッタレのアホンダラが……っ!!

記者達の話を横目に聞いていた俺の胸の奥底から、怒りに始まり、呆れや、悲観と言った幾つも感情が混じり合い、何とも言葉に合わらす事の出来ない複雑な感情が湧いてくる。
そんな中、追悼式の司会を担当するリベリオン陸軍の士官によって、追悼式の次のプログラムが始まる。
「皆様、墓地の東上空をご覧下さい。今回の追悼式に合わせ、4か国のウィッチによる合同のミッシングフォーメーションを行います。皆様、ご起立をお願いします」
司会者の声に従い、追悼式に参加する全ての軍・報道関係者を始め、ロマーニャ王室の関係者や、303高地の戦いでなくなった全ての者達に追悼を捧げに来た市民達が席から立ち上がり、黙祷の用意をする中、俺は一人、空を見上げた。
見上げた先には、デルタ編隊を組み、墓地上空へと向けて、飛行する4か国のウィッチ達の姿があり、彼女達が墓地上空に差し掛かった時、俺の被っていた軍帽が風で飛ばされる。
それと同時に、編隊を組んでいたウィッチの一人が天高く上昇し、それと一斉にその場に居た全ての人々が上昇していくウィッチを見つめ、中には黙とうを捧げる人も居る中、俺は、飛ばされた軍帽を追う事も無く、ただ上昇していくウィッチを見つめていた……。

あいつらの魂は、無事に天にたどり着いたのだろうか……。
もし生き残った俺を恨むのなら、恨んでくれ……。
俺はあいつらの元に行く資格なんて無い人間なんだ……。
ふっ……そうか、それ以前に、俺はもう普通の人間じゃなかったな……。
今の俺は機械製の体で、白い血の流れるバケモノだ……。
そうさ、俺はバケモノだ……。
バケモノが天国なんかに行く資格なんか無い……。

そうだろ、お前ら?

上昇してくウィッチにベイカー達の事を思い重ねながら、俺は胸の内で呟く……。
そう呟きながら、再び見上げた空には、上昇していくウィッチのストライカーが天に召されるベイカー達の魂を表すかの如く、太陽の光を反射させ、輝いているのだった……。

画像





……

………



欧州へと向けて、航行を続けていたリベリオン海軍の空母サラトガの一角に居ある欧州へ赴任する兵士達を載せた居住ブロックに、担当士官の怒号が鳴り響く。
「あと1時間で、入港!!全員、速やかに下船用意!!」
この士官の怒鳴り声で、後味の悪い夢から、強制的に覚醒しつつ、鉄の様に重い瞼をこじ開けた俺に飛び込んできたのは、三段ベッドの床版だ。
はぁ~……ったく、たまに303高地の戦い以外の夢かと思えば、あの糞みたいな追悼式の夢か……。
本当に303高地の戦い以来、ロクな夢を1つも見た事が無いな……。それでも、|アレ《303高地の戦い》そのものより、1000万倍はマシなんだろうが……。
その思いつつ、俺は夢のせいで、寝たのに全く疲れが取れずに重い体を起こす。
っていうか、海軍の連中は、よーくこんな棺桶じみたベッドで寝れるな……。背中が痛くて、堪ったもんじゃねぇ……。
これだったら、最初から、地面で寝た方が寝れるぜ……。まぁ……俺が元コマンドの人間って事もあるんだろうけど……。
後味の悪い夢に染まっている脳内思考を無理やりチェンジするかのように、そう思いつつ、痛む背中を揉みながら、俺は他の下船予定の兵士やウィザード達に混じって、身支度を整え、荷造りをする。
「「「………」」」
その間、普通の兵士だけじゃなく、同族であるはずのウィザード達からも、大量の視線が俺に飛んでくる。
まぁな……周りに居る殆どの兵士やウィザードが、陸軍の歩兵や戦車兵、砲兵が着る様な野戦戦闘服に身を包んでいるに対し、俺は特注のパイロットスーツに身を包んでいるだから、そりゃ嫌でも目立つし、視線が行くよな……。
「……はぁ」
最早、押し寄せる視線への対応すら、めんどくさい俺は黙々と荷物をダッフルバッグを放り込んで、荷造りを終えると、そそくさと視線とむさ苦しい空気から、逃げる様に居住ブロックを後にする。
そして、流れる様にダッフルバッグを背負いながら、階段を上り、飛行甲板に出る。
サラトガの艦載機であるグラマー社の『F6F ヘルキャット』が、ズラリと並ぶ甲板に出た瞬間、むさ苦しい空気の籠る居住ブロックとは、比べ物にならない様な新鮮な空気が肺の中へ、入ってくる。
潜水艦乗りが「空気がウマい!!」何て、言うのが分かるな……。
「……ふぅ」
そんな新鮮な空気は勿論の事、余計な視線も感じない事もあって、冷めた心でも、少なからず開放感を感じながら、深呼吸しつつ、新鮮な空気を吸い込んでいた時だった。
『発艦準備、発艦準備!!各作業員、配置に付け!!ウィッチ隊及び、戦闘機隊は速やかに発艦準備!!』
と、甲板だけではなく、空母全体に凄まじいサイレンが鳴り響くと同時に、間髪入れずに一斉に看板上に作業員達が飛び出し、作業車が所狭しと走り回る。
この突然の出来事に対して、俺だけではなく、他の甲板に上がってきた兵士やウィザード、陸軍所属のウィッチ達が、思わず呆然とし、ざわつきだす。
そんな中でも、サラトガ乗員と艦載機のパイロット達、そして海軍所属のウィッチ達は迷う事無く動いていく。
「エレベーター上昇!!」
そう一人の作業員が叫ぶと同時に、空母の船底深くに沈んでいたエレベーターが上昇し、そこには足に甲板にボート社製のストライカー『F4U コルセア』を装着した1個飛行小隊のウィッチ達が居た。
彼女達はエレベーターが上昇しきり、ガタンを荒々しくと止まるや否や、周りに居た作業員や作業車やF6Fのパイロット達と共に、素早く発進位置へと付いてく。

(何だ敵襲か?)

慌ただしく、発艦位置に移動するウィッチ達や、F6Fへと乗り込んでいくパイロット達を見ながら、そんな考えが湧いてきた俺は、近くを通る海軍のウィッチに話しかける。
「おい、敵襲か?」
そう真剣そうな表情で問い掛ける俺の傍では、同様な表情を浮かべた陸軍のウィッチ達が、彼女の回答を待っていた。
当然だ。もし、ネウロイの襲撃であるならば、彼女達も直ぐにストライカーを装着して、加勢しないといけないのだから。無論、俺も行くつもりだ。
そんな考えが胸をよぎる中、その話しかけた海軍のウィッチは「いや」と一言呟くと、こう言葉を続けた。
「そんなんじゃないよ。ただ目的地が近いから、ネウロイに対する警戒を厳重にするだけだよ。よーく、このあたりで艦艇が待ち伏せされるからね。ま、君たち、陸軍は大船に乗ったつもりでのんびりしていなよ♪」
と笑顔で、そのウィッチは答えると、「じゃ!」と一言いいながら、先に発艦位置に付く仲間達の元に合流していく。
そんな彼女を見て、少なからずホッとすると同時に、目的地であるブリタニアが近い事を俺は悟る。

そうか……。もうつくのか……。俺の答えを探す場所へと……。

胸の内に、期待とも、悲観とも言えない、ただただ複雑な感情が湧いてくる中、傍では、上空援護の任を受けた、海軍のウィッチ達が勢い良くサラトガから飛び立っていくのだった……。





……

………



それから、数時間後……。

接岸したサラトガから下船した、俺は各基地への、補給物資&補充兵員が集まる補給所へとやってきていた。
補給所を見回すと、辺り一面に所狭しと、隙間なく並べられたガソリンのドラム缶や、山の様に積まれた医薬品やテントと言った兵站物資を始め、損傷した分の代わりに送られてきたM4シャーマン戦車やジープ、榴弾砲なども、並べられ、その周りを多数のトラックや戦車輸送車、砲兵トラクターが走り回っている。
それに混じって補充要因として、リベリオン本国から、やって来た兵士やウィッチ、ウィザード達が、列を作り、人事担当の将校達によって、配置別けが行われており、俺もその列に加わる。
「伍長、貴官は第25砲兵師団だ」
「キャサリン少尉、貴方は第3航空団よ」
「ベン曹長、お前は第8歩兵中隊だ」
と言った感じで、2名の男性将校と、元ウィッチの将校によって、次々と目の間に並ぶ兵士やウィッチ、ウィザード達に配属を伝えていく。
まるでヒヨコの雄雌の判別だな……。俺はヒヨコじゃなくて、|白虎《ホワイトタイガー》だけど。
って感じの感想を抱きながら、段々と進んでいく列の中に居た俺にも、遂に順番が回ってくる。
「軍隊手帳を」
「あぁ」
そう問いかけてくる将校に対して、軍隊手帳を渡すと、すぐさま将校は俺の軍隊手帳を開き、俺の隊員番号、それに基づく配属先を手元の簿記から、調べていく……っても、俺の場合は分かっているんだけどね。
「名前、ウィーラー・マッカダムス大尉。隊員番号、406915406……って、第501統合航空団!?」
と言った感じで、簿記に示された俺の配属先を見て、目の前の人事担当が目を見開き、大きく驚くと同時に、その場に居た全ての視線が突き刺さる。
まぁ、流石に俺の事は色々と噂になっているし、そんな噂に上がっているウィザードが目の前に居るんだから、驚くだろうねぇ……。つーか、ココでも視線を浴びるんだな。
もはや、大量の視線を浴びると言う事に、慣れてきた感すら胸の中にある中、その人事担当の将校は将校らしく、取り乱した物の直ぐにキリッとした表情を浮かべ、俺に対して、こう告げる。
「あー……大尉、君は第501統合航空団の配属だ。関係者が迎えに来るらしいから、3番補給処で待機するように。あ、君、大尉を3番補給処へ」
「了解しました。大尉殿、こちらへ」
「どうも」
将校から、指示を受けた近くの兵士は直ぐにM1カービンを背負いながら、俺を案内する。
その案内に沿って、俺は待機場所へと足を向ける。

んで、そうしてやって来た待機所で、俺はダッフルバッグを地面に置きつつ、持っていた水筒を手に取り、ふたを開けて、中の水を喉へと流し込んでいく。
しっかし……幾ら、エリート集団の第501統合航空団とは言えど、わざわざ関係者が迎えに来るとはねぇ……。コマンドだった頃は、ありえない扱いだな……。
コマンドの頃は、殆ど補給物資扱いで、トラックに燃料やらTNT爆薬と共に乗せられて、配属先まで移動して、下ろされた配属先でひーこら、ひーこら言いながら、配属先の関係者を探したのは、懐かしい思い出だ。
しかし腹が減った……。サラトガで、嗜好品として、支給されたチョコレートでも食うか。
個人的には、普通のより、ミント入りの方が好きなんだが……。糞不味い特殊部隊用レーション喰った後の口直しに持って来いだったからな……。世間からすれば、異常な思考だろうけど。
っていうか、あの糞不味い特殊部隊用レーションの味消しとして、チリソースぶっかけて食っている奴いたな。
俺も一度、試してみたけど、まぁ~……酷い物だったな。最早、ゲロの味だぜ、ありゃあ。もう二度とやんねー……。
とまぁ、ふとコマンドの頃を思い出しつつ、ダッフルバッグの中に入っているチョコレートを探す為、バッグの中を探っていた時だった。
「あら、ウィーラー大尉。もう来ていたのね」
「み、ミーナ中佐!!」
と言う女性の呼びかけに、俺がそこに顔を向けると、そこには数か月ぶりに合うミーナ中佐の姿があった。
その姿を視界にとらえるなり、俺はチョコレートを探す為にバッグに突っ込んでいた手を引き抜きつつ、咄嗟に敬礼しつつ、口を開く。
「いえ、自分も付いたばかりであります!!」
「あら、そんなに硬くならなくて良いのよ。手を下ろして。私も付いたばかりよ」
「はぁ……」
ミーナ中佐が、微笑みつつ、言うの受け、俺は敬礼していた手を下ろしつつ、言葉を続ける。
「しかし、エース集団であるはずの第501統合航空団の隊長自らが……」
「丁度、軍司令部で行われる会議への出頭命令もあったから。ついでにね」
俺とミーナ中佐が、そう会話を交わす中、ふと気が付くと周りには多数の兵士やウィザード、ウィッチ達が集まり、各々がコソコソと話している。
だろうな……片や人類の切り札ともいえる統合航空団の隊長で、もう片や『人類初の飛べるウィザード』に始まり、今何かとホットな噂が絶えないウィザードだ。
そんな2人が顔を合わせて、あーだこーだと話しているのだから、そりゃ目立ってしょうがないわな……。
ミーナ中佐も、そんな周りの視線に気が付いたのか、横目で回りを見つめながら、こう言い放つ。
「ここで話するのも、何でしょうし、移動しながら話しましょう」
「そうですね」
ミーナ中佐にそう言われ、俺は地面に置いてあったバッグを背負いつつ、ミーナ中佐と共に車に乗り込んでいく。


乗り込むと同時に、ミーナ中佐は運転兵に対して、「出して」と一言。この一言で、車は501への基地に向け、走り出す。
走り出してから、数分後、揺れる車内で、ミーナ中佐は再び口を開く。
「欧州への長旅、お疲れ様。大丈夫だった?」
「えぇ……特には問題なく。自分のストライカーは?」
「ちゃんとアリシア中佐から、送られてきているわ。ハンガーにモスボール状態で駐機させているわ」
「それは良かった。アリシア中佐、かなりいい加減ですから」
「そうなの?」
「えぇ……」
ちゃんとP-80が届いている事に、内心、ホッとしつつ、つい直属の上官であるアリシア中佐への愚痴がポロっとこぼれる。
だって、俺の記憶にある限り、もう20回ぐらい泥酔して、警察署の拘置所に放り込まれてる所を何回、俺とナディア少佐で迎えに行ったことやら……。
ま、流石に上官の名誉&己の身を守る為に、詳しい状況は言わないけどね……っていうか、うっかり言った事をアリシア中佐に知られたら、原隊復帰した瞬間に眉間に銃弾を撃ち込まれそうだし。
ミーナ中佐も、少なからず、そこら辺は察してくれたのか、フッと軽い笑みを浮かべながら、こう言い放つ。
「貴方も苦労しているね」
「まぁ、ご理解頂ければ幸いです」
そう言いながら、ふと車内から、外の様子を見ていると、古城らしい建物が目に入った。
偉く年期の入った建物だが、立派な建物……って、まさか、これが第501統合航空団の駐屯地?
段々と近づいていく建物を前にして、そんな考えが胸の内で湧いてくる中、俺の視線に気付いたミーナ中佐が、こう言い放つ。
「あぁ、見えて来たわね。あれが、第501統合航空団の基地よ」
「……マジですか」
いやぁ~……流石はネウロイへの切り札である統合航空団と言った所か、予想以上に立派な場所に住んでやがらぁ……。
コマンドの基地や兵舎なんか、下手したら、馬小屋の方が快適なぐらいのボロボロさだったし、それ以上に野戦訓練で野宿&テント寝する事も多かったし……。
と言うか、それ以上にテントも張らずに完璧に青空の下で野宿した方が多いぐらいだよな……。
そんな事を思いつつ、501の基地を見つめていると、ミーナ中佐がサラッとこう言い放つ。
「まぁ、少し古いけど、我慢してね。それ以外は、特に建物に大きな問題は無いわよ」
「……これで古いんですか」
正直、寝る場所に、屋根があるだけで感動の領域の俺からすれば、顎が外れそうな豪華設備なんですけど……。
ミーナ中佐の説明に対して、色々とツッコミたい事が口から飛び出しそうになるのを、グッと堪えていると、俺とミーナ中佐を乗せた車は基地のゲートを潜り、停車する。
「さぁ、着いたわよ。ここが第501統合航空団よ」
「ここが……」
ミーナ中佐が先に車から、降り立つ側で、俺は車内から、バッグを背負いつつ、第501統合航空団の基地に降り立つ。
ココが第501統合航空団の基地……。えらく立派なこの場所が、俺の新しい戦いの場にして、俺の生きる理由を探す場所か……。
感嘆や悲観等が混じった複雑な感情を抱きながら、俺はミーナ中佐と共に基地の中へと、足を向けるのだった……。





……

………



<?Side>
ここは第501統合航空団の格納庫。

ここに私、シャーロット・E・イェーガーが使用するストライカーユニットのノースリベリオンP-51マスタングを始めとする、ウィッチ達のストライカーユニットが駐機されている。
私は、そんな格納庫の中に一角に新しく設置されたストライカーユニット用ハンガーに注目していた。
だって、私達が使っているストライカーユニット用のハンガーとは、明らかに違う形している……というか、無駄に整備用のクレーンやら、発電機やら、コンプレッサーと言った様な装備が付いてるし、何だこれ?
それに、私達のストライカー用ハンガーが、上からストライカーに足を差し込む形になっているの対して、このハンガーは後ろに壁みたいな物があって、そこにはパラシュートザックやら、耐Gスーツと言った装備が掛けられている。
まるで普通の戦闘機にでも乗り込むかの様な装備達を前に、私を始め、此処に所属するウィッチ達は疑問を抱いていた。
此処にどんなストライカーが配備されるのか、そしてどんな奴が、此処に来て、それに乗るのか……。
これらの疑問を強くする存在として、少し前に、そのハンガーの主となるストライカーユニットが送られてきた。
何の前触れのも無く、ロッキード社から、送られてきた、そのストライカーは、防水シートでモスボールされていて、ハッキリとしたルックスこそ分からないが、そのぼやけたルックスでも、私達の使っているストライカーユニットとは、一線を画す存在感を放っていた。
勿論、隊長にも聞いてみたが、リベリオン陸軍の新技術に関する機密に当たる為、隊長からも、詳しいことは知らないらしい。

(このストライカーユニットは、一体どんな奴なんだ?そんな、未知なるこのストライカーに、一体どんな奴が乗るんだ?)

私は、まるでクリスマスに貰ったプレゼントを開けようとする子供の様に、胸をときめかせていた。
そんな私を現実に引き戻すかのように、私の同僚に当たる扶桑海軍のウィッチ、宮藤芳佳が話しかけてくる。
「あ、シャーリーさん。新しい人が来たみたいなので、紹介するから、作戦室に集合とのことですよ」
「おう、分かった~!!」
この宮藤の言葉に従って、私は格納庫から、作戦室へと足を向ける。

そして、この後、私は己の運命に大きく関わる存在と出会うのだった……。





……

………



<ウィーラーSide>
「ここが貴方の部屋よ」
そういって、ミーナ中佐が部屋のドアを開ける。
ドアが開くと同時に、部屋の様子が視界に入ってきた瞬間、俺は思わず「おぉ……」と感嘆の声を上げる。
そこは決して高級ホテルとまではいかないが、軍隊の兵舎とは思えない様に綺麗な部屋であった。
いやぁ~……これ、まじで何も知らない人に『お手軽に泊まれるホテルの部屋』と言ったら、普通に通用するぞ。
まぁ、俺が元コマンドとして、ボロ屋&野宿生活に完璧に慣れきっている……ってこともあるんだろう。
しかし、ウィッチの扱いって、だいぶ良いんだな……。ウィザードとは、天と地の差があるって事が、ハッキリわかんだね……。
少なからずの感動やら、ウィザードの扱いの雑さに嘆きたくなる気持ちを抑えつつ、部屋のベッドにバッグを放り投げつつ、俺は再びミーナ中佐と共に基地内を歩いていく。
そんな中で、いくつかの小さい会話をしていくうちに、ミーナ中佐の口から、こう告げられる。
「……とりあえず、詳しい説明は|流斬《りゅうき》君にしてもらうわ」
「あぁ……例の噂の、非公式の飛べるウィザードですか?」
「えぇ。彼が現れた時は、本当に驚いたわ……。貴方以外に飛べるウィザードが居るなんて……」
とまぁ、この会話を聞いてわかる様に、どう言う訳だが、知らないが、”俺の次に飛べるウィザードが出現した”のだ……。

名前は|月影流斬《つきかげりゅうき》。扶桑人だが、生まれてすぐにカールスラントに移住している為、扶桑とカールスラントの二重国籍であり、現在はカールスラント軍に所属しているのだが、あくまで”形上”だ。
と言うのも、この流斬と言う奴、”ストライカーユニット無しで飛行できる”というのだ。
いや、そりゃ……「お前は何を言ってるんだ?」となるのは、当然だろう。俺も最初、この話を聞いた時は、そう思ったよ。
だが、現にこの第501統合航空団に自らの脚(?)で飛んできて、今目の前に居るミーナ中佐と出会い、自らの意思で「501に加わりたい」と伝え、それをミーナ中佐が認める形で、此処に居るのだ。
よって、正式な軍属で軍を通じて501に来た俺のとは違い、直接、民間人の立場でありながら、軍を通さずに直接、此処に入隊した変わり者であり、それ故に非公認ながら、飛べるウィザードとしては、2人目にある存在なのだ。
まぁ、さらに細かく言うと、軍の公認・非公認を除いて別けるなら、俺が人体改造手術を受けて、飛べる前から、流斬は飛べていたらしいから、”正式には俺が2人目の飛べるウィザード”になるらしい。
ま……正直な所、一人目だ、二人目だのは、俺には関係ないとは思う……っていうか、どーでも良いがね。

と言った所で、ミーナ中佐がこう話を切り出す。
「まぁ、とりあえず、その流斬君も含めて、私達は家族みたいなものだから、特に硬くならないで。貴方も今日から、家族の一員よ」
「……家族ですか」
そう俺の言葉に「えぇ」と言って、ニコッと微笑むミーナ中佐であったが、俺の口から出たのは、こんな言葉だった。
「ミーナ中佐……貴方の家族には、兵器が居るのですか?」
「えっ?」
「だって、そうでしょ?普通の人間なら、機械の腕なんか持たず、赤い血を持っている。貴方の知る家族っていうのは、そういう物でしょう?だけど、俺は機械の腕を持ち、血は赤ではなく、白色……ハッキリ言って、バケモノと同等だ。こんな奴が、貴方の家族や友人に居たんですか?」
「ウィーラー大尉……」
この言葉に対して、ミーナ中佐は何も言い返せない様子で、何処か困惑と悲しげな表情を浮かべて、俺を見つめる。
これを見て、俺は「ハッ!!」と我に返るなり、すぐさま、こう言い放つ。
「スイマセン、少し愚痴っぽくなりました……」
「い、いぇ……。良いのよ、気にしないで……。私も、もう少し考えるべきだったわ。ごめんなさいね」
「……申し訳ありません」
そう俺が軽く謝罪しながら、頭を下げると、ミーナ中佐は「良いの、良いの、もうこの話はお終い!!」と、笑いながら、話を切り替えるなり、こう言葉を続ける。
「じゃあ、作戦室で、皆待っているから、そこで自己紹介して頂戴ね♪」
「了解です」
と言った感じで、俺とミーナ中佐は、他の501の面々が待つ作戦室へと、足を向けるのだった。


んで、そして遂に作戦室へと辿り着く。
すると、見覚えのある扶桑海軍の制服姿のウィッチの姿があった……と言っても、ボンヤリとした記憶だ……。
正直な所、改造直後における病院での出来事は、ミーナ中佐から、ベイカー達の死を告げられて以降、ハッキリとした記憶が無い……。
余りにもショッキングな内容であるが故、俺の脳が無意識のうちに鍵をかけたか、それともモニスの野郎に脳みそを弄られて、消されたか……。まぁ、これも今となっては、どうでも良い話だ。
と言った感じで、そのウィッチに視線をやると、俺の視線に気づいたのか、そのウィッチは俺とミーナ中佐の元へとやってくるなり、こう言い放つ。
「お、ミーナ。遂に来たか」
「えぇ……ウィーラー大尉、紹介するわ。彼女が、第501統合航空団の戦闘隊長を務める……」
「坂本美緒だ。これから、よろしく頼む」
「こちらこそ」
そういって、手を差し出された美緒少佐の手を取り、軽く握手を交わすと、美緒少佐が、こう言葉を続ける。
「あ~……以前、病院であったと思うが、覚えているか?」
「……申し訳ございません。実の所、病院での記憶は……」
「覚えてないか……。ま、病院で寝るような状況になって、記憶がはっきりしているんだったら、病院はいらんからな。気にするな!!」
そういって腰に手を当てつつ、「ハッ、ハッ、ハッ!!」と笑う少佐……。とりあえず豪快な人だなと言うのが、俺の第1印象だな……。

んな事を思いつつ、頭をポリポリと掻いていると、少佐が、続けざまに、こう言い放つ。
「とりあえず、着任おめでとう。歓迎するぞ、ウィーラー大尉」
「ハッ、感謝します!!」
少佐の言葉に対して、条件反射的に敬礼しようとするが、それよりも先に少佐は「ハッ、ハッ、ハッ、敬礼はいらんぞ!!」と笑いながら、止めると、こう言葉を続ける。
「そう固くなるな!もっと気楽に行こうじゃないか!!」
「美緒の言う通りよ、ウィーラー大尉。貴方はもう少し肩の力を抜いて良いのよ……」
「……はぁ、体の半分が兵器となっている自分がですか?」
「「………」」
何気にサラッと俺が言い放った言葉に対して、再び絶句するミーナ中佐と共に、同様に言葉を失っている少佐が共に顔を見合わせている。
あ~……こりゃまた地雷踏んだな、俺……。元々、人付き合いが得意と言う訳では無かったが、此処まで来ると、自分で自分が嫌になってくるレベルだ……。ぶっちゃけ、自己嫌悪も良い所だとさえ、思えてくるよ……。
胸の中で、不快感やら、自己嫌悪、自分への呆れ等が混じったドス黒い感情が湧いてくる中、咄嗟に俺は謝罪する。
「申し訳ありません、失言でした。前言撤回します」
「「アハハッ……」」
そんな俺に対して、少佐とミーナ中佐は苦笑いしながら、こう言葉を続ける。
「ま……まぁ、最初から完璧に出来る奴なんて、何処にも居ないさ!!気にするな、ウィーラー!!」
「え、えぇ……美緒の言う通りよ。段々と慣れて行きましょう、ウィーラー大尉♪」
二人は、そう言って俺に微笑むと、続けざまにミーナ中佐が話を切り出す。
「さ、そろそろ501の面々とご対面しましょう!」
「そうだな……、もう全員が集まっているだろうしな。しっかりと自己紹介しろよ、ウィーラー」
「美緒が呼ぶから、その時に入ってきて、自己紹介お願いね♪」
この言葉に対して、俺が「はっ!」とミーナ中佐と少佐に対し、復唱すると、二人は顔を見合わせた後、作戦室へと入っていく。

それから、間もなくして、俺が前で立っているドア越しに、作戦室から、少佐とミーナ中佐の声が聞こえてくる。
『皆さん、もう知っていると思いますが、本日、この501に新しいメンバーが加わります』
『早速だが、紹介する。入ってこい!!』
「失礼します!」
この言葉を聞くなり、俺は先程、ミーナ中佐から告げられた手順通りに、作戦室のドアを開け、作戦室の中へと、足を向ける。
作戦室の中に入ると同時に、横から多数の視線が俺めがけて飛んでくるのを感じる。
飛んできた視線の先に顔を向けると、そこには合計12人のウィッチ&ウィザードが俺に対して、熱視線を送っていた。
その視線を送る主達に対して、俺は体全体を向けると同時に、自己紹介を始めていく。
「本日付で、第3新型装備研究開発チームより、着任しました。ウィーラー・マッカダムスです。階級は大尉。新型ストライカーの実戦テストの為、本隊へ配属されました。まぁ……何時までの付き合いになるかは、わからんが、宜しく頼む」
そう短く坦々と自己紹介をすると、目の前に居るウィッチ&ウィザード達の反応は様々だ。
同隊における2人目のウィザードと言う事で、驚き顔を見合わせる者……。怪訝な表情で、俺の顔を見つめる者……。その隣で、興味なさげに居眠りをする者……。目を輝かせて、興奮気味な者……。
様々な反応を見せる彼女達を前にして、「ふぅ……」と小さく息を吐いていると、ミーナ中佐が手をパン!と一回叩きながら、こう切り出していく。
「はい!じゃあ、皆さんも挨拶してね」
ミーナ中佐が、まるで学校の担任教師の様に手をパン!と軽く叩くと、それを合図に一斉に座っていたウィッチ達が立ち上がり、俺の方にやって来るなり、次々と話しかけてくる。


まず最初に話しかけて来たのは、扶桑海軍のセーラー服に身を包んだウィッチだ。なぉ、後ろには親友なのか、別のウィッチがピッタリとくっついている。
「宮藤芳佳です!階級は軍曹です!!よろしくお願いしますね、ウィーラーさん!!」
「……あぁ」
宮藤の紹介に短くそう返すと、宮藤は不思議そうな顔で俺に問い掛けてくる。
「どうかしたんですか?」
「いやぁ、まぁ、あれだな……」
そう宮藤に聞かれると同時に、もう殆ど素で俺はこう言い放つ。
「いきなり『さん』呼びかと思ってな……。まぁ、別に俺は『上官だから敬え』とは言わないぞ。だが、ココは軍隊だぞ……。もう少し軍人としての自覚を持てよ……」
「え~……、あのぉ~……、その……気を付けます……」
そう言って一気に縮こまる宮藤。あ~……これまた、地雷踏んだパターンだな……。
胸の内で、本日3度目となる後悔の念を抱いきながら、ふと周りを横目で見てみると、残りのウィッチやウィザード達が、今にも「どうしよう……」とか、「お前行けよ……」と言わんばかりに、混乱していた。
うーん……正直な所、胸の内をぶっちゃけると、別に此処に居る奴らと友達になろうという考えは元うも無いよ、俺。っていうか、こんな「体の半分が兵器な奴なんか、仲間なんか持つ資格無いよ」っていうのが、俺の本音ではある。
だけど、流石に新しく同居する同居人である以上は、必要最低限の関りぐらいは持っておくべきなのは、重々承知なんだけど、どうしても、こんな展開になっちゃうんだよなぁ~……。やってらんねぇぜ、ハッ、ハッ、ハッ~!!
「……あのぉ」
「お?」
もう胸の内で、ヤケクソ&泣きが入っている俺に対して、オドオドした声が掛けられ、その声のした方に振り替える。
そこには、さっきの宮藤のすぐ後ろにピッタリとくっついていた居た子の姿があった。
「あの……ウィーラー大尉。私、リネット・ビショップ軍曹と申します。リーネと呼んでください。これから、宜しくお願いします」
「おう、宜しく……」
そう言って自己紹介するリネット基、リーネ……。なんか、彼女に何処かで見たことのある雰囲気が……っていうか、ビショップって聞き覚えがあるな?
彼女の姿を見て、何かしら引っかかるものがあり、それが何か探っていると、1つ思い当たる節が出てくる。
「あ~リーネ……。お前、姉貴とかいるか?」
「えっ?えぇ、確かに居ますが……」
「じゃあ、もしかして、ウィルマ・ビショップって……」
「え、えぇ、私の姉です!!姉さんと知り合い、なのですか!?」
俺が名前を出して、彼女に問い掛けると、リーネは驚いた様子で、俺の疑問に答えながら、俺に問い掛けてくる。
まぁ、そりゃ、いきなりやって来た奴が親族と知りないなら、驚くだろうなぁ……。
その様子を見ながら、そう思うと同時に、胸の内で「やっぱりか……」と思いながら、彼女の問いに答える。
「あぁ、前に別の部隊に居た際に、何度か作戦をした身だしな……」
「そうなんですか~。姉が迷惑をおかけしませんでしたか?」
「いやぁ、まぁ……特には無いが、やたらと話しかけてくるから、印象には残っているなぁ……」
「あの、その、姉が失礼しました……」
そう言って、ハハッ!と乾いた笑いを上げる俺を見ながら、リーネは少し申し訳なさそうな顔で、謝罪してくる。
いや別に直接的な、重大な被害は受けてないから、問題は無いんだけど……。やたらと、腰の低い子だな……。


んな事を思いながら、宮藤&リーネコンビを見つめていると、今度は拍子抜けするほど、軽い口調で話しかけられる
「お~い!」
(ここのウィッチって、軽い奴しかいないのか……って!?)
我ながら、胸の内で「偏見的だな……」と思う考えが湧いてくる中、ふと声の掛けられた方に顔を向けた俺は、今日一番の衝撃を受ける。
何故なら、そこに居たのは、この戦争における『1番の英雄的活躍をしているウィッチ』として、まさに『生きた伝説』となっているウィッチのエーリカ・ハルトマンだからだ。
本物に合うのは、今日が初めてだが、コマンドに居た頃から、弾薬やら砲弾、医薬品と言った補給物資の中に、ごく稀に入ってくる漫画雑誌や、ポルノ雑誌と共に混じって、送られてくるプロバガンダ雑誌の表紙を飾っている事が多々あり、普段は活字嫌いで、殆ど本と言う本を読まないウィザードや兵士達も、彼女が表紙の時では、気が触れたかのように、こぞって読んでいたのが懐かしい。
そんな遠い本の表紙の向こう側の存在が今、目の前に居るのだから、そりゃ驚かない方が不思議な訳で……。
「うぉっ!?」
「なーに、そこまで驚いているの?」
とまぁ、俺が驚いているのを見て、彼女は明るく笑いながら、言葉を続ける。
「私はエーリカ・ハルトマン。階級は中尉だよ~」
「あっ……あぁ、活躍は雑誌なんかで見させてもらった。これから、宜しく頼む」
「良いの、良いの、そんなに固くならなくて!!」
そう言って寝ぼけた様に、あくびするハルトマン中尉……。うーん……何だろう、この違和感?
とてもプロバガンダ雑誌等で書かれている様な、大活躍をしている様なウィッチとは思えない様な軽さなんだが……。
いや……まぁ、エースだからと言って、お高く止まった性格なのも、人として、どうかとは思うが、此処まで軽いって……。
俺が今まで、雑誌なんかで見て来た、エーリカ・ハルトマンって、同姓同名&容姿も酷似している別人だったんじゃないのか?
余りにも、想像を遥かにかけ離れたエースウィッチの姿に、茫然としている傍では、怪訝そうな顔で俺の事を見つめているウィッチが居る。
うん、まぁ、あれだな……こういう時は、向こう側で動きが無い時は触らない方が良いに決まっている。コマンド時代の経験からも、間違いない。うん。
そう思いながら、ふと横目で、そのウィッチに視線をやると同時に、そのウィッチもプイッ!と視線を横にずらすなり、そのまま席に座り込む。
あー~……これ、前途難アリな奴ですわ~……。アハハハ~ッ、ハイ、チクショゥメェェぇーッ!!
胸の内で、そう思っていると、ハルトマンが俺の視線に気づいたのか、俺の視線を向けているウィッチをチラリと横目で1回見ながら、こう言い放つ。
「あぁ……トゥルーデの事は気にしないで、機嫌悪いと何時もあんな感じだから……」
「……そうなのか」
そう俺が小さくつぶやくと同時に、「そうそう」と頷くハルトマン。なるほど、確かにエースらしい周辺の目配りと言った所だな……。


そんなハルトマンのおどけた態度の裏にある、エースとしての素質に触れながら、思わず感心していると、今度は「オッホッン!!」と絵に描いた様な、咳ばらいを聞こえてくるので、そこに顔を向けると、そこに居たのは、まぁ~……テンプレート中のテンプレートと言わんばかりに、「私、いかにも貴族です!!」と言ったオーラ丸出しのウィッチが居た。お前、それ恥ずかしくないのか?
「ウィーラー大尉、私、ペリーヌ・クロステルマンと申しますわ。階級は中尉、ペリーヌとお呼びください」
「あぁ、そりゃどうも……」
いかにも、『ザ・貴族』と言わんばかりの口調や振る舞いのペリーヌに対して、思わずブスッとした口調になる俺。
そんな俺の事など、気にせずペリーヌは、こう言い放つ。
「大尉は、この部隊に来たばかりで、分からない事もあるでしょうから、そんな時は気軽に話しかけてください。”貴族”として、責任をもって対応しますわ」
「……貴族ねぇ」
心無しか、直ぐ後ろに『ドヤァ!』なんて、文字が見える程に自信満々なオーラを放つ彼女に対して、俺はボソッと呟く。
「こっちとら、貴族がどーだー、コーダー言われても分からねぇよ……」
「ちょっ、ちょっと聞き捨てなりませんわね!!」
俺の発言が貴族の身分である彼女からすれば、癪に障るのか、少なからず頭に怒りマークを浮かべながら、ペリーヌはこう言い放つ。
「貴族たるのも、貴族の気品と誇りの元に、高貴なる義務を……」
「貴族の気品だ、誇りだ、義務だの、どーだーこーだで、弾が当たらないなら、今頃、全員やってるよ。つーか、こっちとら、マフィアが支配する地域の中でも、特に最底辺出身……下手したら、ごみバケツか、便器の底の方がマシな方だと思えるような、場所から来てるんだよ。そんな奴に、貴族に関する色々な事を言った所で、分かんねぇーっの……」
この俺の発言に対して、すぐさま、顔を真っ赤にして「ピューッ!!」と頭から湯気を吹き出しながら、ペリーヌは強めの口調でこう言い放つ。
「あ……貴方、どんな両親から教育を受けたのですか!?」
「両親なんか、とっくに死んだよ。親父はハチの巣、母ちゃんはヤクで狂い死に……。はっ、正直、顔すら覚えてないぜ……。まぁ、少なからず、どっちもマトモな人間では無かったぜ……」
「そ……それは、大変失礼いたしましたわ……」
この俺の発言に対して、怒り心頭だった彼女も、少なからず悪いと思ったのか、それとも彼女も両親を亡くしたのか、思い当たる節がある様で、少なからず冷静な口調になって、言葉を返すのを聞き、俺はさらにこう言い放つ。
「とりあえず、これだけは覚えておけ……。お前が言う、貴族の誇りだが、気品とかで、どうにもならない事が、世の中には存在する……。それに俺達は軍人として、戦場に居る。いざ実戦となれば、目の前で、仲間が一瞬で肉塊になり果てるのなんて、日常だ。そんな状況下になったら、お前が言ってる貴族だの、義務だのは、所詮は綺麗ごとでしかないんだよ……。そして、全ての子供がマトモな親の愛を受けて育っているとは思うな……分かったか?」
「……は、はい」
とまぁ、結果的には、俺の方が勝ったのか、ペリーヌは最初の自信満々な態度とは打って変わって、シュンと小さくなりながら、去っていく。


そんなペリーヌの様子を見ながら、「ざまぁねぇな、ツンツン女」なんて、言いながら、俺の下にスオムスのウィッチ用戦闘服に身を包んだウィッチと、彼女の側に透き通る様な白色の髪のウィッチ、そして噂に聞いてた|例のウィザード《流斬》と思われる男子が揃ってやって来た。
「お、大尉。私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。スオムス空軍少尉だ」
「おう、宜しく。スオムスか……」
個人的な経験に基づく、推測というか……考えであるのが、『一番戦闘に向いているのは、スオムス人』と言う事だ。
というのも、悪魔の旅団時代に、何度かロマーニャ方面に応援として派遣されてきたスオムス軍の陸戦ウィッチ&ウィザード部隊と共に、行動したことがあったのだが……。まぁ、どいつもこいつも、超が20個程、余裕で付くぐらいの少数精鋭ばっかりだったわなぁ……。俺達が応援で加わる前に、1個陸戦ウィッチ&ウィザード小隊が、共同で1個大隊に相当する数のネウロイを返り討ちにしていたとか、あったしな……。
因みに余談だが、スオムスは国としては、小国であり、その為、軍に所属するウィッチの数も少ないので、自然とウィザードの数も雀の涙ほどになるわけで、そんな数少ないウィザードを有効活用する為に、スオムス軍では、ウィッチ部隊の配下に、ウィザード部隊が編成されており、基本的には、ウィッチの指揮の下で動くと言った様な独特のシステムになっている。まぁ、例えるな、戦車部隊に随伴歩兵としてついてく機械化歩兵部隊みたいなものだな。
そんな編成の下で動いているスオムス軍のウィザード部隊の中でも、特に個人的に、印象に残っている奴が居たなぁ……。
ソイツの事を思い出し、思わず「フッ……」と乾いた笑い声がこぼれる中、これに気付いたエイラが頭に「?」を浮かべながら、問い掛けてくる。
「どうした?なんか、急に笑って?」
「いや……ちょっとな。前に、一緒に作戦をしたスオムスのウィザードの狙撃兵に、やたらと強い奴が居たな……って思い出してな。確か……シモ……」
「シモ・コルッカか?」
「あ、そいつだ」
答えが喉まで来ていながら、出てこないもどかしさに悪戦苦闘していた俺に対して、エイラがサラッと言い放った名前こそ、俺が一番印象に残っているスオムス人ウィザードだ。
カールスラントから供給された陸戦用ストライカーユニットのⅢ号突撃装甲脚G型で装備したスオムス陸軍の陸戦ウィッチ隊に付属する、ウィザード小隊に所属していた狙撃兵で、他の奴とは桁違いの狙撃技術を誇るウィザードだった。
その腕前は、確認されているだけでも、スコープなしのボルトライフルアクションで、前代未聞の450mと言う長距離からの狙撃を成功させただけではなく、俺達の使用するバズーカ砲や、対戦車ライフルの攻撃はおろか、歩兵隊の榴弾砲の水平射撃や、陸戦ウィッチ隊の砲撃すら弾き返す程の重装甲を誇る重量級のネウロイを相手にして、その装甲の僅かな隙間を抜く形で、狙撃して、そのネウロイを撃破するといった感じで、まぁ、話のタネが尽きない奴だったが……何で、|こいつ《エイラ》が知ってるんだ?
「姉ちゃんの元部下だったからな」
「あぁ、なるほどね……っていうか、今サラッと、人の心読まなかったか、お前?」
俺の胸の内で考えていた事をサラッと読み取ったエイラに対して、俺が少なからず困惑混じりに問い掛けると、エイラは「どうだ!」と言わんばかりの表情で、こう言い放つ。
「私の固有魔法は、未来予知だからナ」
「……なるほどね」
コイツの前では、隠したいことは考えないでおこう……。つーか、隠したい事が多すぎるな、俺……。
「んで、私の後ろに居るのが……」
ふと、そんな事を思い、思わず自己嫌悪に陥りそうになるが、その前に、エイラが胸の内を察したのか、すぐ後ろに居たウィッチとウィザードの紹介を始める。
コイツ、文字通りの意味で、空気の読める奴だな……。


そんな事を胸の内で思いつつ、エイラが紹介する2人に対して、俺が視線を向けると、その二人は俺に対して、自己紹介する。
「オラーシャ空軍所属、サーニャ・V・リトヴャク中尉です。で、隣に居るのが……」
「月影流斬少尉です。これから、宜しくお願いしますね」
「おう」
短くそう言って、二人と握手を交わすと、サーニャが横を向きながら、眠そうに手で口を押えながら、小さくあくびをする。
その様子を見ながら、俺は流斬とエイラに話しかける。
「夜間作戦でもあったのか?彼女、眠そうだが?」
「あぁ、いえ、そうじゃないです……」
「サーニャは、この隊唯一のナイトウィッチだからナ。だから、毎晩、夜間哨戒飛行があるからな」
「……なるほどね」
俺もコマンドだった頃は、事ある度に夜間パトロールや、夜間作戦があったしな……。
つーか、奇襲攻撃の際は、殆ど真夜中に攻撃準備を整え、夜明けに同時に攻撃開始……っていうのが、奇襲攻撃の『”き”の字』の様な物だからな。
とまぁ、コマンド自体にこなしてきた数々の奇襲攻撃を思い返し、懐かしんでていると、ふと脳内に個人的な疑問が湧いてきたので、エイラ達に聞いてみる。
「つーか、お前らの睡眠時間って、どのくらいなんだ?」
「えーと……特に作戦や敵襲が無ければ、基本的に10時就寝で、6時起床ですから……約8時間ぐらいですね」
「8時間も寝れるのかよ……」
8時間と聞き、思わず呆然とする俺に対して、エイラが頭に「?」を浮かべながら、問い掛けてくる。
「8時間も寝れる……って、お前、此処に来る前は、どれだけしか寝てないんダ?」
いかにも、「何、馬鹿な事を聞いてるんだ?」と言いたげな表情で、聞いてくるエイラに対して、俺はこう言い放つ。
「最大で4時間寝れれば、良い方だったな……。酷い時なんか、30分しか寝れない時もあったぞ」
「……1日で?」
「いや、1週間で」
サラッと俺が答えた瞬間、その美人な顔に似合わず「ブッ!!」と盛大に吹き出すエイラ。側に居る流斬も唖然とした表情だ。
いや、まぁ、いきなり「1週間で30分しか寝ってなかった」と言われたら、普通の感覚なら、確実にありえない事だろうし、己の耳も疑いたくなるわな……。
因みに、この話を盗み聞きしていたハルトマンが「私だったら、1週間もしないで脱走するよ……」とボヤいていたのは、彼女の名誉の為に黙っておこう。

とまぁ、そんな感じで、エイラが愕然としたような表情を浮かべる中、傍に居た流斬が、こう言い放つ。
「……それは、大変でしたね」
「まぁな……」
そう言いながら、互いに苦笑の笑みを浮かべる俺と流斬。やはり、少なからず同姓同士、女だらけの場所にポツンと居るわけだから、多少なりとも分かり合える物があるのだろう。
とりあえず、死んだベイカー達に言えるのなら、「ハーレムも楽じゃないらしいぞ」とでも、伝えておきたい所だ。


そんな事を胸の内で、思っていると、流斬が、こう話を切り出す。
「大尉は、どうして軍に?」
「よくある話さ……。貧乏で、頭の可笑しい両親の元に生まれたガキが、悪さして、サツにパクられて、連れていかれた警察署で『ムショか、軍隊のどちらかを選べ』と言われて……後は言わなくても、分かるだろ?」
俺の回答に「なるほど」と呟く流斬。今度は、逆に俺が流斬に問いを投げかける……っていうか、コイツに関しては、色々と聞きたい事が多すぎるんだよな。
「そういうお前は、何で軍に?」
「まぁ、単純に言えば、カールスラントを取り戻したいからですね。生まれこそ、扶桑ですけど、直ぐに両親の都合で、カールスラントに移住しましたからね。いわば、第二の故郷ですからね」
「……なるほど、故郷か」
生まれた国こそあれど、帰るべき場所も無ければ、待つべき家族も居ない俺からすれば、まさに空想上の産物にすぎないが、流斬やミーナ中佐たちからすれば、まさに実現すべき目標なんだろうな。
そんな目標がある面々の中に、ただ漠然と生きている俺が居るっていのは、何か妙な風景だな……といか、妙を通り越して、変ですらあるな……ハハッ!
心の中で、乾いた笑い声を上げながら、俺は少なからず気の引ける思いもする中、前々から聞いていた噂を彼に問い掛ける。
「所で、噂で聞いていたが……なんか、自力で此処まで飛んで来たって?」
「えぇ、そうですよ。何なら、今やりましょうか?」
「今って……出来る物なのか?」
俺が頭に疑問符を浮かべつつ、疑問のベールに覆われた噂の光景のイメージを頭の中で思い浮かべるよりも先に、流斬が「えぇ」と呟き、目を瞑る。
目を瞑る同時に、魔力を発動させたのか、心無し的に流斬の足元にストライカーユニットの始動時と同じ様な青い光が浮かび上がる。
それと同時に、目の前で、ふわり、ふわりと彼は地面を離れ、万有引力や重力を無視するかのように、宙へと浮かび上がる。
おぉ~……話で聞いていたとはいえ、目の前で実際にストライカーユニット無しで空を飛ぶっていうのは、違和感にあふれる光景だなぁ……。使い魔の耳とかも具現化してないし……。コイツ、もしかして”クリプトン”の出身……んな、訳無いよな……。我ながら、漫画の読み過ぎだ……。
ま、マルセイユ達が居たストームウィッチーズ隊にも、魔力を使っても使い魔の耳や尻尾が具現化しないウィッチが居たしな……ってか、彼女の場合は、そもそも使い魔いないのか?まぁ、機会があれば、マルセイユに聞いてみるか……。


そんな事をふと思いつつ、俺は、この流斬の固有魔法を見た上で、噂を聞いて以来、思っていたことを質問する。
「その能力で、|ここ《501》まで飛んできたのか……」
「えぇ、そうですよ」
「どうして、軍に入隊しなかったんだ?その能力があれば、今頃、中尉ぐらいになっていても可笑しくなかったのに……」
そう俺が問いを投げかけると、流斬は顔を横に向けつつ、「ふぅ……」と一息つきながら、こう言い放つ。
「簡単な話ですよ。この能力ですよ……普通に入隊したら、間違いなく軍の研究に使われるモルモットですよ。そんなのはゴメンでしたからね」
「……まぁ、それが普通の反応だよな」
流斬の言う通りだ。確かに、こんな世にも珍しいタイプのウィザードなんて、国を問わずに「健康診断」と言った名目で、体の隅々まで調べ上げられるだろうなぁ……。
現に俺なんか、改造手術後の入院期間中に、血液やら、脳波やら、魔力やら、調べ上げられたぜ……っていうか、ここだけの話なんだけど……何で下関連まで調査されなアカンの?
俺にだって、男の尊厳ぐらいあるんだぞ……いや、別に女を抱きたいわけじゃないけどな。
そもそも”天国(笑)”に居る母ちゃんが、息子の前でズッコン、バッコンと楽しくヤッている所を3歳の時に見ているしな……。ガキの時に親がヤッている所を見る程、トラウマになるものは無いぞ……。
ま……こっちは、そんな経験とか、能力とか関係なしに体を勝手に己の人体実験の実験台されて、体の半分を機械&兵器化されたけどな……ハハッ!
っていうかよぉ……モニスの野郎、何が「君に施した改造手術は人類の取って新しい希望になるぞ」だ。所詮はお前の欲望を具現化しただけじゃないかよ……。
まぁ、俺は昔から、安易に「貴方の為なんです」という言葉を使うやつは信用しなかったしな……。
この言葉を安易に使うやつ程、人の為と称して、その人を己の欲望を満たす為にこき使うし、それに反すると、無駄に頭のいい言葉を連発して、こっちに有無を言わさせずに、自分のペースに持ち込んで、丸め込むんだよ。
んで、それでもダメだったら、「もういいです!!」な~んて言って、泣いて逃げる……ハッキリ言って、こういう奴はさっさと死刑にしてやった方がよっぽど世間の為になるぜ!
「ま、同姓同士、仲良くやろうや」
「えぇ、宜しくお願いしますよ」
内心でモニスに対して、愚痴をぶちまけつつ、本日、二度目となる乾いた笑い声を胸の内で呟きながら、再び流斬と握手を交わした。


こんな感じで、流斬と話し終えると同時に、背後から「んも~……」というハルトマンの声が聞こえてきて、振り返ると、そこには先程、ハルトマンの後ろに居て、俺に仏頂面で視線を送っていたウィッチが居た。
そのウィッチは、ハルトマンに無理やり、連れてこられたみたいで、さっきと同じ仏頂面……いや、さっきよりもブスッとした仏頂面で俺を無言で見つめていた。
ま……そりゃ、いきなりやって来た奴に対して、腹の底から、胸の内をオープンに出来る奴の方が、珍しいよな……。
「「………」」
そう思いながら、互いにお互いの顔を無言で見つめあい、周りに謎の沈黙&空気が流れる中、それをぶち壊すかのように、ハルトマンが切り出す。
「ほーら、トゥルーデ。そんな顔しないで、挨拶しなよ♪」
そうハルトマンに催促される形で、そのウィッチは「……はぁ」と深く溜息を付きながら、自己紹介を始める。
「……ゲルトルート・バルクホルンだ」
「お、宜しく」
そう俺が短く答えると、彼女は再び「はぁ~……」と深く溜息を吐居たかと思うと、今度はギロッ!という音が聞こえかねない程、鋭く俺に対して、睨みを利かせると、強めの口調でこう言い放つ。
「お前、一体何なんだ?」
「何なんだって……言われても、何がだ?そこが分からんと、何も言えんぞ」
「さっきからの態度等だ。ミーナからオファー受けて、此処に来たというが、さっきの発言等はどういうつもりだ?お前、少しは自分の言っていることや、立場を理解しているのか?」
「こっちとら、育ちが悪いんだよ……。小学生も禄に通ってないしな」
そう俺が頭を掻きつつ、悪態を付く様に返すと、バルクホルンは何かヤバい物でも見てしまったかのように「なっ!?」と驚いた様子で、こう言い放つ。
「小学校すら通ってないって……お前、よく今日まで無事に生きてこれたものだな!?」
「まぁ、そこは我ながら思うよ。よー、今日まで首繋がってたなぁ~……って」
「はぁ~……リベリアン人に、マトモな奴は居ないのか?」
「マトモな生き方してりゃ、軍隊なんか入らねぇよ」
そう俺が再び悪態を付く様に返すと、バルクホルンは三度、深く溜息を付きながら、こう言い放つ。
「そういえば、お前、原隊では技術部隊のテストパイロットなんだよな?実戦経験は?」
「航空歩兵としては、0だな」
「はあっ!?お前、自分が今いる場所が分かっているのか、此処は最前線部隊の……」
と、彼女が色々と言おうとした瞬間だった。
「もらったあっ!!」
「!!!」
突然、後ろから胸を鷲掴みにされると同時だった。

『|Defensive counter stroke mode operation《防御的反撃モード作動》』

無意識の内に、脳内で、そんな一言が浮かぶと同時に、俺の視界は真っ赤に染まる。それからは、もう一瞬だ。
後ろから伸びてきて、胸を掴んできた手を掴み上げると、全力で思いっきり、その手を引っ張り上げ、勢いそのままに手の主を思いっきり、投げ飛ばす。
「うじゅーっ!?」
「!!」
「ちょ!?」
「ウィーラー大尉!?」
その主が驚きながらも、空中でクルリと一回転し、見事な着地を決めるよりも先に、投げ飛ばした先に、俺は駆け出す。
同時に、腰のホルダーから、ぶら下げていた悪魔の旅団時代から、愛用している特殊作戦用戦闘ナイフの”V-42スチレット”を引き抜くなり、その主の顔面をめがけて、振り下ろす。
そして、振り下ろしたスチレットは、その主のすぐ近くの壁に凄まじい音と共に突き刺さった所で、俺は少佐とミーナ中佐の焦った声で「ハッ!!」と我に返る。
我に返って、ふと周りの状況を確認したら、目の前には涙を流しつつ、ガクガクと震えるウィッチが居る事に始まり、周りでミーナ中佐や少佐が驚きと困惑が混じった表情で俺を見つめ、先に自己紹介を終えたウィッチ達は揃って、青ざめている。
もう咄嗟に、我ながらヤバい事をしでかした事に気づいた俺はすぐに謝罪する。
「す、スイマセン!!コマンド時代の癖で、後ろからの襲撃には全力で反撃しちゃう物で……」
「お、恐ろしい癖が付くんだな……、コマンド部隊って……」
「き……気を付けなさい!!」
そう俺が釈明すると、少佐とミーナ中佐が唖然としながらも、説教をくらわす。いやぁ……本当に反省だわ。

しかし、今のは何だ?一瞬、自分の体から、意識が抜けた様な気さえしたぞ……。目の前が、真っ赤になったし……。
そんな訳の分からない己の変化だが、そんな中でも、唯一、ハッキリと分かる事がある……。モニスの野郎……俺に何かしらヤバい物を付けやがったな……。
絶対に普通の生活するなら、いらないオプション機能付けやがって、このヤローッ!!

とりあえず、モニスに対する殺意にも近い怒りを胸の内で感じながら、俺は改めて、目の前に居たバルクホルンに視線をやる。
そこに居た彼女は、他の面々に比べると、少なからず冷静な表情こそしいているが、やはり少なからず青ざめ、ジリジリと後ろに引きつつ、こう言い放つ。
「あ~……前言撤回する。戦闘経験はあるみたいだな……。かなり手馴れているみたいだが……何処に居たんだ?」
「第1特殊任務旅団……通称、悪魔の旅団さ」
「悪魔の旅団……」
そう俺が軽く悪魔の旅団に居た事を伝えると、バルクホルンは、ふと宙を見上げ、数秒考えた後、何かを思い出したのか、ハッ!としたような表情で俺に視線を向けると、こう言い放つ。
「お前の言う悪魔の旅団っていうのは……去年のロマーニャにおける”ラ・ディフェンサ山岳要塞攻略戦”で、活躍した特殊コマンド部隊の事か?」
その問いかけに対して、俺が短く「そ!」と答えると、バルクホルンは「おぉ……」と後ずさりしながら、俺を指さしつつ、こう言い放つ。
「元コマンド隊員だったのか……」
「まぁな……と言っても、航空歩兵としては、お前より後輩だよ。ま、お手柔らかに頼むよ」
「……あぁ」
そう言って軽く流すように挨拶する俺に対して、言う文句&小言も尽きたのか、短くぶっきらぼうに答えるバルクホルン。
うん、正直に言わせてもらうと……。コイツ、めんどくさいタイプだ……。


とまぁ、胸の内で、これからの生活等に少なからず不安を感じつつ、頭をポリポリと掻きながら、俺は、とりあえず目の前に居るバルクホルンに対して、さっきから感じていた事を聞いてみる。
「んで、バルクホルン。さっきから、俺に視線向けているのは?」
「……お前がさっき投げ飛ばした奴だよ」
「あぁ~……」
そう呆れを隠さない様子で、深く溜息を付きながら、そういうのを聞き、俺は言葉にならない声で後ろを振り向ると、そこにはガタガタを震えながら、机の後ろに隠れているツインテールの幼いウィッチの姿があった。
いやぁ~……。まぁ、ねぇ……。冗談のつもりで、後ろ語ら飛び掛かったら、その飛び掛かった人に”ナイフ顔面に振り下ろされて、マジで殺されかけた”と着たら、そりゃ誰でもガクブル物ですからね……。
とりあえず謝罪の意思を示す物として、持っていた、さっき食べようと思っていたミントチョコレートを取り出し、彼女に話しかける。
「あ~……さっきは悪かった、お詫びに、これでも食えよ」
そう言ってポイッ!と投げ渡したチョコレートをキャッチした、そのウィッチは震えていた様子から、一転して、ニカッ!と満面の笑みを浮かべつつ、隠れていたテーブルから出てくると、こう言い放つ。
「ありがと♪」
……と言った感じで、笑顔で返事ながら、自己紹介に移る。うん、見た目通りの現金なガキだな……。
そう思いながら、彼女の自己紹介に俺は耳を傾ける。
「フランチェスカ・ルッキーニ!ロマーニャ空軍少尉!」
「年は?」
「……12歳ねぇ」
年を問い掛けた俺に対して、そう笑顔で言い放つルッキーニ。そんな笑顔の彼女とは正反対に、俺の胸の内は複雑な思いだ……。
俺が率いていた第32小隊における最年少のマックバーンは13歳で、彼女よりも1つ上だったが、まだ小学生に毛が生えた程度だ……。
ぶっちゃけた話、マックバーンが俺の部下として配属された時、対面するなり、素で「ガキはカーちゃんのオッパイでも吸ってろ!」なんて言ったことがある。それぐらい、13歳のマックバーンは、俺達から幼く見えたのだ。
だからこそ、マックバーンがネウロイのビームと、俺達の撃った銃弾やら、砲兵隊がぶっ放す支援砲撃の破片が飛んでくる中で、飛んでくるビームや破片を物ともせず、大量出血に始まり、内臓やら、骨やらが飛び出た負傷兵やウィッチやウィザードの元に駆け寄るなり、血まみれになりながら、止血やら、心臓マッサージや人工呼吸に始まり、外に飛び出た内臓を体に戻したり、更にはネウロイのビームの直撃を受けて、爆発炎上する戦車の元に駆け付け、車内から火だるまになった戦車兵を救助したり……と言った感じの、俺達はおろか、大の大人でもビビる様な状況にも、自ら率先して、駆け付けるなり、懸命の応急処置を行っていたからこそ、俺やベイカー達だけではなく、他の部隊のウィザードやウィッチ、兵士達からの絶大な信頼を寄せられている頼れる衛生兵だった訳だ。
そんなマックバーンよりも、年下の12歳の彼女が空を飛び、ネウロイと戦っているなんてな……。はぁ~……全く、俺の体と言い、彼女と言い、世の中は残酷なもんだぜ……。
最早、己の体の件も相まって、この世の中、全体に対する嫌気が胸の内に挿してくる中、ルッキーニは、まさに何も余計な物が入ってない純粋な笑顔で首を傾げつつ、こう言い放つ。
「どうしたの?」
「いや……何でも無い……。まぁ、とりあえず宜しく」
「うん♪」
そう言って上機嫌で、席へと戻っていくルッキーニ。そんな彼女の後姿を見ながら、「ふぅ……」と短く溜息を付く。


まさに、その時だった。
「よっ、新入り♪」
「!!」
と、短いながらも、それは確かに、リベリアン人なら、確実に聞き覚えのあるリベリオン訛り(※西部)の英語だ。
先程まで、扶桑に始まり、ブリタニア、スオムス、オラーシャ、カールスラント、ロマーニャ訛りの英語を聞いていたから、尚更、分かる。
やはり、多国籍な面々の集まりの中で、同郷の奴が居ると、少なからず妙な安心感を覚えつつ、声を掛けられた方に振り替える。
そこに居たのは、俺と同じ陸軍航空隊のウィッチ用戦闘服(※と言っても、俺のは殆ど”オーダーメイド”に近いが……)に身を包んだ、ウィッチの姿が、そこにあった。
「……うぉ」
多種多様な国籍のサラダボール状態の|ココ《501》で、同じ|国《リベリオン》出身の彼女を見た上での、第1印象だが……。

とりあえず、胸デケェなぁ、オイ……。ウチの原隊の姉御方よりも、デカいんじゃ……。まぁ、別に興味は無いけどさぁ……。

と言った感じで、異性に関して、基本的に興味のない俺であっても、思わず食い入る様なナイスボディの彼女は、俺に対して、ニカッ!と笑いながら、こう言い放つ。
「私は、シャーロット・E・イェーガー。階級は大尉。シャーリーって、呼んでくれ!」
「おぅ」
そう言って、手を差し出す彼女に対して、俺も無言の催促される形で、彼女を握手した瞬間だった。
彼女の目が、まるで電球に通電するかの様にキラリ!と光り輝くなり、握手した手を引っ張り、俺の体全体をグイッ!と引き寄せながら、俺が反応するよりも先に、こう言い放つ。
「倉庫にモスボール状態で、置いてあるストライカー、お前の?」
「あぁ……そうd……「使わせてくれよ!!」へっ?」
「お前の新型ストライカー、ちょっとで良いから使わせてくれよ!!」
「いや、あれは多少なりとも訓練が必要な品物だ……」
「大丈夫、大丈夫!!だてに空飛んでいる訳じゃないから!!なっ、なっ、なっ!?」
「『なっ!』と、言われても……」
人が完全に言い切る前に、話に割り込み、無理やりにでも、己のペースに持っていこうとするシャーリーに対して、俺は必死に抵抗する。
が、しかし、もう完全に彼女のペースに俺は飲み込まれ、まるでスタックした戦車やジープの様に抜け出せなくなっていた。
「まぁまぁまぁ、細かいことは気にすんな!!」
「いや、『気にすんな』っていう問題では無いt……」
「あー、もう!始末書でも、何でも書くから、とりあえず使わせてくれよ!!なっ、なっ、なっ、な~~~~~っ!!」
「近い、近い、顔が近い!!お前、西部の出身か!?」
「そうだよ!!アンタ、東部の出身?」
「あぁ、こっちとら、生まれも育ちもニューヨーク!!あと近いんだよ、相変わらず!!」
もうグイグイと詰め寄り、俺と顔を3cmぐらいまで、近づけながら、要求してくるシャーリー。
うーん……俺が知るリベリオン西部出身の奴って、目の間に居る|コイツ《シャーリー》と同じ様に、やたらとグイグイ来る奴が多かったな……。
さすがは西部劇の舞台となった地区出身……といっても、コイツの場合はグイグイ来過ぎだあああっー!!
もう顔と顔の距離が、5cmもあるか、ないかのレベルで顔を近づけるシャーリーに対し、俺が彼女を額を抑えつつ、引き離そうとする中、周りの面々は……。
「うわぁ~……元コマンド部隊が圧されている……」
「同じリベリアンでも、分かり合えない物なのか……」
「さっきまで、凄い覇気を出していた人とは思えませんわ……」
と言った感じで、俺とシャーリーのやり取りをハルトマン達が各々の感想を述べながら見ている……っていうかさぁ……。

挿絵2-2(カラーver)

「ボヤく前に、誰でも良いから、|コイツ《シャーリー》を止めてくれぇぇーっ!!」

と言った感じで、俺は心の叫びを大声にして、叫ぶのだった……。