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取り残された者達……。前編

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  3. 取り残された者達……。前編
<ウィーラーSide>
いきなりだが、ハッキリ言おう……今の俺は生憎とあまり機嫌が良くない。本当に心底クソったれな気分だ……。
「あぁ……クソが」
俺が格納庫の中で思わずそう呟きつつ、ギリリと歯を噛みしめつつ、P-80に足を通していると。
リーネの操縦するジープに乗って、格納庫の外からやってきた宮藤が話しかけてくる。
「ウィーラーさん、準備出来ましたよ」
「……あぁ、分かった」
ぶっきらぼうにそう言葉短く返した事に宮藤は引っ掛かったのか、心配そうな表情を浮かべながら、こう聞いてくる。
「ウィーラーさん、大丈夫ですか?あんまり調子よくないんじゃ……」
「そういう問題じゃないんだ……。お前はあまり心配しなくて良いんだ。一々心配していたら、ハゲになるぞ」
「は……、ハゲって……」
俺の言葉に対し、思わず茶を濁したような返しをしてくる宮藤の言葉を聞きつつ、俺は深くため息を「はぁ……」と付きながら、宮藤に対して、こう告げる。
「あぁ、宮藤。スマンが”そこにあるの”取ってくれ」
「これですか?うわ……結構、重いですね……」
そう言って宮藤が両手でズシリ!と持ち上げた物は、一見すると背負い式の無線機にも見える鉄の箱だ。
だがしかし、その鉄の箱には横に突き出す形でクレーンの様なパーツが付けられ、そのクレーンの先には四つ股の錨を思わせる様な黄色いフックが取り付けられている。

その正体は、俺がP-80の試験飛行&運用の合間に独自に開発した”戦闘救難システム装置”だ。

これは俺が元コマンド隊員として、数々の敵陣上空で撃墜されたウィッチやパイロットの救助に従事した経験を元に姉御型&開発した物だ。
というも、航空ウィッチや戦闘機パイロットは、コマンド隊員や陸戦ウィッチとは違って地上で戦闘を含め、強制的にサバイバルをしなければならない状況になった場合の訓練こそ受けていれど、あくまで必要最低限の物であり、それを長期にわたってしなければならない状況に陥った場合、その生還率はグッと下がることになる。
それ故に素早い救助が必要になるのだが、その救助に精鋭のレンジャーやコマンドが投入される事も多いのだが、レンジャーやコマンドの隊員だって、軒並み外れた厳しい選抜や訓練を潜り抜けた精鋭であると言えど、普通の人間である以上は限界がある。
救出対象は勿論の事、救助に関わったコマンドのメンバー全員が一人残らず無事に帰ってくる事が出来ないなんて、まさに奇跡みたいなものだ。
現に俺がコマンドだった頃は、事ある度に撃墜されたウィッチの救助任務に従事したが、何回も本気で死を覚悟した物であり、大小問わずに負傷するのは、もはや必須と言った感じであった。
まぁ……今思い返せば、幸運と言うか、悪運と言うべきか、俺の率いた32小隊は負傷者こそ出せど、303高地まで戦死者を出せなかったので、事ある度に『不死身扱い』されていたな……。

ま、実際は不死身なんて物じゃなかったがな……ハッ!

っていうか、要救助者を無事に救助し、隊員も負傷こそしていれど、全員生還なんて時点で奇跡みたいな物だ。
救助対象のウィッチやパイロットを見つけても、既に息絶えており、その遺体を抱えて帰還……なんてことは1回や2回にあらず。
別の部隊じゃ、救助に向かった隊員が戦死するなんて事も珍しくなく、最悪の場合は救助部隊丸ごと帰らぬ人に……なんてこともあったぐらいだ。
だからこそ、こういった状況になった場合、救助される側も、救助する側も出来る限り損害を抑えつつ、素早く救助できるように開発したのが、この戦闘救難システムな訳だ。

まぁ……正直、我ながらよくやったものだと感心するよ。
元々、学が無いに等しい頭をフル回転させ、オーバーヒートからの白煙を出しつつ、技術士官として先輩である姉御型に「ちーがーうだーろーっ! 違うだろーォッ!! 違うだろっ!!!」と罵倒……基、愛のムチを受けつつ、何とか完成したのが、このシステム。
本来だったら自分のアイディアが形になった……と言う事で喜ばしいはずなのだが……先に述べたように、今の俺は生憎とクソったれの最低な気分である……。

そんな気分でいっぱいの胸の内を抑えつつ、宮藤から救難システムを受け取った俺はそれを背負うなり、魔力を発動させ、|白虎《ホワイトタイガー》の耳を具現化しつつ、P-80のエンジンを始動させる。
「目標は?」
「滑走路の脇……第3倉庫付近の草むらに設置しました」
「OK、じゃあシャーリー達に準備出来たって伝えてきてくれ」
そう飛ばす俺の指示に宮藤は「はい!」と言葉短く返すと、再びリーネの待つジープへと走っていく。
「……はぁ」
その様子を見ながら、俺は本日何度目なのか最早分からないため息をつくのだった……。





……

………



<シャーリーSide>
「えーっと、これで良いんだよな?」
「コマンドの渡したマニュアル通りだと、これであっているみたいだな」
「じゃあ、これつけるよ」
と、いった感じで絵を中心としたマニュアル片手に|私《シャーリー》とバルクホルンは、ウィーラーに頼まれた事をやっていた。
んで、その頼まれた事って言うのは、ウィーラーが独自に開発した”戦闘救難システム”の試験の手伝いらしい。
ぶっちゃけ私としては、ストライカーの改造の方が楽しいのだが、珍しくウィーラーの頼み事ということもあって、なんか断りず分かったんだよねぇ~……。

あー、このお礼としてP-80使わせてくれないかなぁ~……?
ま~……絶対に|アイツ《ウィーラー》との今までの付き合いから推測して、無理だろうけど!

そんな事を心の中で思いつつ、私は戦闘救難システムの1つである”赤い布”を手にバルクホルンと一緒に設置した戦闘救難システムを改めて見直してみた。
すると、真っ先に目に入るのは要救助者役を務めるずた袋で出てきた人形。
重量は約100キロとかなりのおデブさんだが、ウィーラー曰く「コマンドが長期間に及ぶ野外作戦に従事する際の装備の全重量を合わせると、これぐらい」らしい。よーやるよ。
んで、その要救助者が背負って、腹側のベルトで固定しているのは、一見するとパラシュートザックにも似たバックパックだが、その背中には円……もしくは、門型にになったワイヤーが出ている。
そのワイヤーを両脇に立てた約2.5メートルぐらいの鉄柱に引っ掛け、その真ん中にさっきの要救助者が居る……と言う感じだ。なぉ、ワイヤーには目印となる赤い布が巻き付けられる。

んで、この状態から「どうやって救助するのか?」と言いますと、この鉄柱に掛けたワイヤーを目掛けて、フック付きの戦闘救難システムを背負ったウィーラーが上空を通過、その際にフックでワイヤーを引っ掛け、一気に吊り上げつつ、救助し、そのまま全速力で戦闘エリアを離脱する……とまぁ~、豪快な”一本釣り方式”な訳だ。

まぁ、最初聞いたときは「無茶苦茶だな」と思ったけれど、よくよく考えてみれば、確かにこの方法なら比較的、安全かつ素早い救助活動が出来るわけだから、確かに良いアイディアではあるんだよな。
なぉ……この説明を聞いたバルクホルンは、珍しく感心した様子で「|リベリアン《私、シャーリー》とは違って、ちゃんとした物、作るじゃないか」とウィーラーを褒めていた。

私だって、その気になればちゃんとした物を作れるよ!

とまぁ、思い出したら、少なからずカチン!と来る気持ちを抑えつつ、目印となる赤い布をワイヤーに結び付け終えると同時に、リーネと宮藤がやってきた。
「シャーリーさん、ウィーラーさんも準備できたそうです」
「オッケー、じゃあ離れて見学しますか♪」
宮藤の言葉にそう返し、私達は救難システムから、距離を取っていると私達の後ろ側から、P-80のジェットエンジンのエンジン音が聞こえてくる。

お、相変わらずいい音してるねぇ~♪

辺りの空気を震わせるすさまじいジェットエンジンの音に思わず胸が高まるのを感じている傍では、バルクホルンが宮藤に対して話しかけていた。
「宮藤、ウィーラーはどうだ?」
「隊長的には問題ないと思うんですが……やっぱり精神的にちょっと参っているような感じはしますね」
この宮藤の言葉にバルクホルンは「……そうか」と呟くと、彼女にしては珍しく「……はぁ」とため息をつきつつ、こう言い放つ。
「無理もない……。先に失敗した上陸作戦で敵陣に取り残されたブリタリアのコマンド部隊の隊長がウィーラーの戦友だっていうからな……。精神的に来るものがあるだろう……」
「えぇ……その人も含めて、みんな無事だと良いんですけど」
「………」
そんなバルクホルンと宮藤の言葉を聞き、思わず私も先程の高揚感が一気に冷めていくのを感じだ。

そう……ウィーラーが、ここ数日、最悪の気分なのはバルクホルンと宮藤の会話に合った通り、ウィーラーの戦友が参加したブリタニア軍による上陸作戦が失敗し、敵陣に戦友が取り残されているからだ。

いかんせん、詳しい情報が入ってきていない為、私もウィーラーも詳しいことは分からないけど、現時点での状況を見る限り、”最悪の事態”が想定されている。
そんな事になった以上、マトモな人間なら、少なからず可笑しくなるってもんだ……。
現にそのウィーラーの戦友とは、何ら繋がりのない私やバルクホルンでさえ、このニュースを最初に聞いたときは胸が張り裂けそうな思いがしたもんだ。
それ以上に戦友として、強い繋がりのあるウィーラーからしたら、気がおかしくなってしまいそうな程、ショックなニュースだったはずだ。
だからこそ、少しでも気を紛らわそうとウィーラーも必死になっているんだろうけど、やっぱり意識しちゃうんだろうなぁ~……だから、現にあんな感じになっているだろうし……。

そんな事を思っていると、今度はリーネが口を開いた。
「でも、もし上陸部隊に生存者が居たら、救助作戦が行われるんでしょうか?」
「あぁ……その件に関してだが、ミーナから聞いた限りだと、もしやるのであれば|我々《501》も参加する事になるらしい。あくまでも噂だがな……。現に司令部では、上陸部隊は全滅したと言う話らしいし……」
「……そうですか」
バルクホルンの言葉に対し、上手く言葉が返せないリーネ。そんな彼女の傍にいた宮藤が代わる様にこう言い放つ。
「で、でも、ウィーラーさんの戦友が生きていたら、きっと我々も救助に参加するんですよね!そうなれば、ウィーラーさんとしても救われるんじゃないですか?」
「……あぁ、そうだと思いたいな。それにアイツが今試験している救難システムも、もしかしたら役に立つかもしれん」
そう救難システムを見ながら、言い放つバルクホルンの言葉を聞きつつ、私は「……ふぅ」と短く息を吐きながら、こう言い放つ。
「まぁ……物事、前向きに考えよう。その方が良いって♪」
「……そう、ですね」
私の言葉に宮藤がぎこちない笑顔で返した瞬間、ウィーラーのP-80のジェットエンジン音が段々と大きくなっていく。
その音の方向に私たちが、顔を向けた瞬間、加速したウィーラーが滑走路から飛び立ち、私達の上空を飛んでいくのが見えた。


「………」
「……ウィーラー」


私達の上空を通過する一瞬だけ見えたウィーラーの重く堅苦しい表情を前に私は思わず息を飲み込むのであった……。





……

………



<?Side>
時は少し遡り、此処はガリアにある港町……ディエップ。

かつてはガリアでも屈指のホタテ漁の盛んな漁港・港町として栄えたディエップだが、ネウロイとの戦いが始まった今現在、その繁栄は見る影も無くなっている。
当時、男気に溢れたホタテ漁師達でにぎわっていた漁港は勿論、その漁師たちの仕事道具にして”相棒”ともいうべく漁船を治す為の造船所も全て埃とサビに覆われ、主を失った漁船や漁業道具が寂しく朽ち果てる時を待っている……。
漁港から離れた町の方に目を向けても、昔は漁師や地元客であふれかえっていた酒場もすっかり廃墟と化した。
その傍にあり、昔は新鮮な獲れたばかりのホタテとガリアが誇る名産のワインに多くの人が舌鼓を打っていたであろうレストランに至っては、もう既に瓦礫の山と化し、奇跡的に残った店の看板だけが空しくもう二度と来ない客を待っている……。
それらの施設に交じってかつては漁師や観光客、それらの施設関係者達で賑わっていたであろうカジノ、ゴルフ場、競馬場、ブティックが寂しく塵に帰るのを待っている。
そして、かつては家主たちの様々な家庭模様を見てきたであろう家々やマンションも、すっかり寂しい風貌を晒すのみとなっている……。

そんな寂しい街と化してしまったディエップの街にどういう訳だか、俺……”ジャック・ネヴィル中佐”を指揮官とするブリタニア陸軍 特殊コマンド部隊『ブリティッシュ・コマンドス』の第2ウィザード大隊に所属するウィザード達並びに、ストライカーユニットを失った陸戦ウィッチ3個小隊が居た……いや、居たと言うのは間違いだ……正しくは”取り残された”だ。

そもそも、ネウロイ勢力下のディエップに来たくて、来たわけじゃない……”任務”だからこそ、此処に来たんだ。

と言うのも、数か月前から、ガリア沖合を航行している各種軍艦や輸送船が謎の攻撃を受け、次々と撃沈される事態が発生。
それらの撃沈された艦船の上空を警戒していた戦闘機隊、ウィッチ隊の報告によると……突如として、空から何か降ってきたと思った矢先には艦船に命中し、凄まじい勢いで船体を真っ二つする程の威力であり、命中こそしなくても至近弾だけでも大型タンカーが上下180度ひっくり返る程だ。
これを重く見た連合軍はガリア上空に対し、偵察機及び偵察機型ストライカー装備のウィッチを派遣し、”少なからずの犠牲を払いながら”も、何とか血まみれになりつつも、生還した偵察機&ウィッチの情報を分析した結果、ガリアはディエップの海岸線沿いに大型の沿岸砲型のネウロイが居て、そのネウロイの砲撃がこの度の艦船の被害の原因である事を突き止めた訳だ。
んで、更に偵察で得た情報を更に事細かく分析した結果、この沿岸砲型ネウロイを中心にし、その周囲に守る様に中距離沿岸砲型、対空砲型、レーダー型、戦車型のネウロイがビッシリと集まって護衛している事が判明した訳だ。

それから、しばらくの司令部内における派閥争いの末、このネウロイに対する攻撃作戦をブリタリア軍が担当する事となり、俺を含めたブリティッシュ・コマンドス所属のウィザード隊員に始まり、チャーチル歩兵戦車型の陸戦ストライカーユニットを装備した陸戦ウィッチ隊で編成された地上攻撃隊を始め、上空支援に当たるブリタニア海軍所属の空母”アークロイヤル”に所属する艦載ウィッチ隊、更にはブリタニア海軍が誇る戦艦”プリンス・オブ・ウェールズ”を始めとする艦船5隻を派遣し、これを撃破する作戦を立てたのだ。

その作戦の内容としては、まず最初にアークロイヤル所属のウィッチ隊が上空支援に当たる中、ブリティッシュ・コマンドスと陸戦ウィッチ隊が上陸し、中距離沿岸砲型ネウロイ等を撃破し、それらの砲撃が及ばない海域を確保した後、速やかに沖合にいる戦艦プリンス・オブ・ウェールズが進出し、大型沿岸砲型ネウロイの懐に潜り込むなり、一気に砲撃し、大型沿岸砲型ネウロイを撃破、それと同時に速やかに陸戦隊は脱出……といった物だ……。

因みに作戦におけるコード名は、俺達コマンドが『ナイト』、陸戦ウィッチ隊が『チャリオット』、航空ウィッチ隊が『ドラゴンライダー』、そして戦艦プリンス・オブ・ウェールズを旗艦とする艦隊が『ロイヤル』といった感じである。

この作戦を最初に聞いた時、正直思ったよ、「そんなに美味くいくか?」ってな……。
俺だけじゃない、陸戦ウィッチも、航空ウィッチも、戦艦や空母の搭乗員たちも揃って同じ反応だ……。
だが、上からの命令である以上、軍人である俺達は任務を遂行しなければならない訳であり、それが職務である。

そして、その職務を忠実に推敲した結果が”今の状況”である……。

んで、今の状況を簡単に説明すると、まず俺の率いるブリティッシュ・コマンドスの隊員は全体10割として、約4割がディエップの海岸で”肉塊”に成り果て、約4割が動ける、動けないを問わずに負傷し、残る2割が”何とか戦える”と言った感じだ……。

これだけでも、十分に悲惨な結果だが、更に酷いのは陸戦ウィッチ隊だ……指揮官であるエオナ中尉、副指揮官のフルータ少尉が戦死した事に始まり、部隊の7割が戦死、残りの2割が負傷。戦えるのは、残る1割……数10人だけと言う悲惨を極めし状況だ。

そして上空支援に当たっていたアークロイヤル所属のウィッチ隊及びプリンス・オブ・ウェールズを始めとする艦隊に至っては、一人残らず全滅……言ってしまえば、お亡くなりになり、今じゃシャコの餌になり果てている……。

んで、これらを踏まえた上で、俺の気持ちを言わせてもらおう……。
ハッキリ言って、今の俺は胸の内で高鳴る興奮を必死に抑えている。
緊張なんかじゃない、純粋な楽しみからくる”胸の高揚”だ。要はワクワクしているって事だ……。

これだけ見ると俺の事を「狂人」と思う奴も多いだろう……そう思われる事には、もう慣れた。

っていうか、周りが銃とかで装備している中、俺はクレイモア……篭柄の付いた所謂ブロードソードと呼ばれる片手剣に始まり、ボーガン(※要は”弓矢”)、手りゅう弾、そして拳銃と言った感じで、まぁ~……時代錯誤も良い所な装備だしな。あ、一応、お守り的な物としてトンプソンサブマシンガンも持ってるぞ。
んで、これを踏まえた上で「お前、やっぱり頭狂ってるよ」となる訳だが、銃が戦いの主力の時代と言えど、”士官たる者、剣を持たずして戦場に赴くべきではない”と言うのが俺のモットーだから、この装備な訳……なんか文句あるか?
あ、あと今回の作戦では持ってきてないけど、作戦によっては”バグパイプ”持ってきて吹いてるぞ。えっ、何?「それは楽器で、武器ですらない」だと?
うるせぇーんだよ!ゴタゴタ言うな!!昔から、ブリタニア軍の兵士はバグパイプの音色をバックミュージックに敵陣目掛けて突撃するのが伝統なの!
えっ、何!?「そんな伝統しらん?」だと?うるせえ!これ以上、何か言ったら上官反逆罪でぶちのめすぞ!!オラァッ!!!

とは、言え……今回ばかりは、そんな俺でも正直に”キツイ”と思う……。
我ながら、此処が”一番の正念場”であると言っても過言では無い……。

そもそも、さっき説明した状況になった事を思い返すだけでも……あぁ、嫌になってくる。
たった数時間前の出来事だけど、もう2度と思い出したくもないぜ……。





……

………



時は遡ること、数時間前……。
星1つ無い漆黒の闇とかした夜空の元、俺達、コマンドは上陸部隊の先行・偵察班として、沖合に停泊した潜水艦から、ディエップの海岸にゴムボートで上陸していた。
「……どうだ?」
「妙ですね……バカみたいに静かです」
地面に伏せつつ、ボーガンを片手に問う俺に対し、双眼鏡を手に敵陣を除いていた部下の少尉は怪訝な表情を浮かべつつ、返してくる。
確かに少尉の言う様に妙にディエップの海岸は、物音1つしない不気味な静かさに包まれていた。

妙だ……、確かに妙だ……。

そりゃ勿論、俺達、コマンド部隊の基本は隠密作戦であり、基本的には敵に自分達の気配を悟らせない事が基本だ。
しかし、今回の作戦は俺達、コマンドだけではなく陸戦ウィッチ、航空ウィッチに始まり、多数の艦船が参加している大規模な作戦である。
隠密行動・作戦に当たっているコマンドなら兎も角、真正面からの殴り込んでくる陸戦ウィッチ隊や沖合の艦船に対する警戒及び迎撃態勢が整えられていてもおかしくないはずだ。
だが、陸戦ウィッチ隊が上陸する方向にさえ、警戒及び迎撃に当たるネウロイが一体も見えないのだ……これは明らかに妙だ。

(まさか罠か……?)

不気味な静寂に包まれたディエップの海岸を目の当たりにし、そんな不吉な予感が胸の内を過ぎった俺は直ぐに行動に出た。
「通信兵、こっちに来い。緊急連絡だ」
俺の呼び出しに通信兵が「はい」と言葉短く返しつつ、無線機を背負った状態でやってくる。
やってくるなり、俺は直ぐに無線機の受話器を取り、直ぐに今回の作戦司令部にして、作戦司令でもある戦艦プリンス・オブ・ウェールズの艦長に連絡を入れる。
「ナイトから、ロイヤル1へ。繰り返す、ナイトから、ロイヤル1へ、応答願います」
『こちらロイヤル1艦長。ジャック中佐、どうした?』
「妙です……敵に一切の動きがありません。状況的に何かしらの動きがあるはずですが、それが一切ないんです……」
俺の子の報告に対し、『……ふむ』とプリンス・オブ・ウェールズ艦長が呟くのを聞きつつ、俺は続けざまにこう提案する。
「艦長、作戦に関わる指揮官の一人として作戦の中止を進言します。これはきっと罠です。今やめないと取り返しの付かない結果になる可能性があります。作戦の中止を」
『いや……、それは出来ない』
「なぜですか?このままでは計り知れない犠牲者が……」
『もう既に陸戦ウィッチ隊を乗せた上陸用舟艇がディエップの海岸、沖合2キロまで接近している。今、彼女たちを引き換えさせたら、その場で全滅する可能性もある。このまま作戦を続行してくれ』
「……それは命令ですか?」
『そうだ……、これは命令だ。あと10分で陸戦ウィッチ隊の上陸が始まる。それと同時にコマンドは当初の予定通り、側面からの攻撃を開始せよ。艦隊としてもできる限りの砲撃支援などを行う。無茶を言う様だが……頼むぞ、ジャック中佐』
「っ……了解っ!」
まるで吐き捨てる様に言い放った俺は無線機の受話器を荒々しくガチャン!と無線機に収める。


その様子を見て、部下一人である大尉が双眼鏡を手に俺に問いかけてくる。
「艦長は何と?」
「”作戦は続行……10分後に陸戦ウィッチ隊の上陸が始まるから、予定通り、側面からの攻撃を開始せよ”との事だ」
「……そんな」
俺の言葉に絶望した様な表情を浮かべる大尉。
そりゃそうだ……明らかに罠と分かってながら、真正面から突っ込むんだ。もはや、自殺行為以外の何物でもない。
大尉の顔を見て、そんな事を思いつつも、俺は自分に言い聞かせ、奮い立たせるようにこう言い放つ。
「命令だ、やるしかないぞ……。陸戦ウィッチ隊の上陸用舟艇は見えるか?」
「はい、双眼鏡で確認できます」
そう報告する大尉に対し、短く「貸せ」と言って双眼鏡を借りた俺が海岸の方に視線を向けると、そこには複数の上陸用舟艇が海岸を目指し、まっすぐに進む様子が見え、その船内にはフル装備の陸戦ウィッチ隊が出番を今か、今かと待っている様子があった。

(もう後には引けない感じか……)

その様子を見て、覚悟を決めた俺はボーガンをギュッ!と握りしめ直しつつ、直ぐに傍にいた大尉にこう指示を出す。
「大尉。総員に攻撃準備をさせろ。始めるぞ……」
この俺の指示に対し、大尉が「了解しました」と復唱を返した瞬間、突如として、夜中だと言うのに突然、昼にでもなったかの様に空が明るくなる!!

(何だ!?)


俺と大尉だけではなく、その場にいたコマンド隊員全員が空を見上げた瞬間、そこにはネウロイの放った照明弾と思わしき火の玉が降ってくるのが見えた。

(くそっ!やっぱり罠だったか!!)

胸の内でそう思った次の瞬間には、次々とネウロイの攻撃が俺達に降り掛かる!!
攻撃が始まると同時に、数人の部下達がネウロイの攻撃の餌食となり、激しい爆音と土煙と共に弧を描いて宙へと飛んでいく。
「うわぁっ!」
「ぐわっ!!」
「落ち着け、総員伏せろ!反撃用意……(ドゴォーンッ!!)!?」
部下達の間に動揺が走る前に反撃の指示を飛ばそうとした俺の耳に凄まじい轟音が聞こえてくる。
その音のした方に視線を向けると、そこには沖合から陸戦ウィッチ隊を上陸させるべく海岸に接近していた上陸用舟艇がネウロイの砲撃を受け、轟音と共に爆炎を上げ、”乗っていた陸戦ウィッチ隊のウィッチ達の肉片をまき散らしながら”、沈んでいく様子だった。

(クソっ!だから、作戦を中止するべきだったんだ!!)

その様子を見て、ネウロイへのなのか、司令部へなのか、何処へ向けたら良いのか分からない怒りを抱えていると、直ぐ側にステン短機関銃を手に匍匐前進してきた大尉がこう報告してくる。
「ジャック中佐、総員準備完了です!」
「よし……こうなったら、もうヤケクソだ!目の前にいるネウロイを全てぶっ潰せ!!奴らにコマンドを……人類を舐めるなって事を教えてやれ!!!」
そう大尉に言いながら、俺はボーガンを背中に回すと、腰の鞘に入れていたクレイモアを引き抜くと、一瞬ネウロイの攻撃が止んだ瞬間に立ち上がり、こう叫ぶ。

「全コマンド隊員、予定の陸戦ウィッチ隊との合流地点まで前進せよ!行くぞ、コマンドォォオォーッ!!!!!!!!」
「「「「「「「コマンドォォォオオォオオオォーーッ!!!!!」」」」」」」

俺の叫びと共に一斉に伏せていたコマンド隊員達が各々の武器を手に立ち上がりつつ、声帯をぶっ壊さんとばかりの叫び声を上げ、降りしきるビームと爆炎の嵐の中、敵陣を目掛けて一気に突撃していくのだった……。





……

………



その頃、真正面からの殴り込みを担当する陸戦ウィッチ隊も凄惨な状況に直面していた。

漆黒の闇夜を照らすネウロイの照明弾によって、自分達の乗る上陸用舟艇の位置は完全に丸見えとなっている。
それと同時に、この時を待っていたかのように中距離沿岸砲型のネウロイ及び戦車型、対空砲型ネウロイによる攻撃が行われ、この攻撃によって既に数隻の上陸用舟艇が撃沈され、それに乗っていた陸戦ウィッチ達は肉塊へと変り果て、己の腕や足、血や内臓をぶちまけながら、ディエップの海を赤く染めていく……。
「キャアアアアッ!!」
「ママーッ!!」
「落ち着きなさい!まだ戦いは始まってないよの!!」
凄まじい爆音と共に立ち上がる水柱を浴び、戦わずして既に恐慌状態に陥っている新人の陸戦ウィッチ達に対し、指揮官の陸戦ウィッチが檄を飛ばす。
その間にも上陸用舟艇は次々と飛んでくる砲爆撃の中を掻い潜る様にして、上陸地点へと近付いてく。
「上陸まで30秒!」
「総員、安全装置解除!戦闘用意!!」
上陸用舟艇を操艦する海軍兵の合図に合わせ、指揮官を務めるウィッチが持っている75㎜砲の安全装置を解除する様に指示すると、彼女達は一斉に安全装置を解除していく。
それと同時に上陸用舟艇は次々と上陸ポイントへと到達、操艦を担当する海軍兵は上陸用舟艇のドアを開けるレバーに手を掛けつつ、大声で叫ぶ。
「上陸用意!上陸よぉぉーいっ!!」
「皆、行くわよ!!」
海軍兵の合図を聞き、指揮官のウィッチが75㎜砲を握りしめながら、部下を鼓舞する様にそう言い放つ。
それと同時に海軍兵は上陸用舟艇のドアの開閉レバーを操作、一気に上陸用舟艇のドアを開けた。

「突撃!」

ドアが開いた瞬間、指揮官のウィッチはそう叫びながら、自ら先陣を切る様にまだ腰までの高さまで水がある海へと飛び込んでいく。
「「「うわああっ!」」」
その後に続く様に部下のウィッチ達も次々に海へと飛び込み、ずぶ濡れになりながらも、海岸と目指して進んでいく。

この間にも、ネウロイの攻撃は止む事無く続き、まだウィッチ達が下り切っていない上陸用舟艇に攻撃が命中し、沖合でやれられたのと同じ様にウィッチや海軍兵達の血や内臓、手足が飛び散り、ディエップの海は真っ赤に染まっていた。

そんな真っ赤に染まった海水を泳ぎ切り、何とか指揮官を含め数十人のウィッチが上陸に成功していた。
「上陸に成功したウィッチは、直ぐに私の所に来なさい!」
ずぶ濡れになりながらも、何とか身を隠せる場所に身を隠しながら、上陸したウィッチ達は指揮官の指示通り、直ぐに集合する。
そうして集合したウィッチ達に対し、指揮官は鳴り響く砲火の爆音の中、次なる指示を飛ばす。
「これより予定通り、海岸線を防衛する敵を攻撃し、側面から奇襲するコマンド部隊と合流するわ!総員準備は良いわね!?陸に上がってしまえば、私達の物よ!訓練通りにやれば、生きて帰れるわよ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
「よし……行くわよっ!」
そう言って指揮官のウィッチは、ゆっくりと立ち上がるとネウロイの攻撃が止むのを待ち、ほんの一瞬、攻撃が止んだ瞬間に動いた。

「突撃!」

上陸の時と同じ様に大声で叫びつつ、指揮官のウィッチが敵陣目掛けて突撃すると同時に、他のウィッチ達も一斉に突撃を開始する。

先程は海の上だったからこそ、自分達の実力を発揮できたかった。だが、ここは陸地だ。陸に上がれば、自分達の物だ。

突撃を開始したウィッチ達は、皆一斉にそう思っていた。そう思えるだけの訓練を積み、自身を付けてきたからだ。

だが、彼女達を待っていたのは”あまりにも残酷な運命と現実”だった……。

一斉に突撃した彼女達の脚に装着されているストライカーユニット、チャーチルは凄まじいスピードで地面を蹴り上げ、彼女達を前に前へと進めていた。
だが、彼女達が一斉に海岸線に広がる砂利帯に入った瞬間、思わぬ悲劇が彼女達を襲った。

バキイイイッ!

突如として、ストライカーから鳴り響く余りにも”不愉快な金属音”。
「きああゃっ!」
「わっ!!」
それと同時に一人、また一人と彼女達は砂利で覆いつくされた海岸へ、次々と転倒していく。
無論、それは勇ましく彼女達のリーダーとして、リーダーシップを発揮していた指揮官のウィッチも例外では無い。
「んあっ!?」
彼女のストライカーユニットも、突如としてバキッ!と言う耳障りな金属音を上げたかと思った次の瞬間には、彼女は勢いよく砂利だけの地面へと転倒する。
「っ!?」
突如として、彼女達を襲った違和感。まるで何かのブービートラップにでも、引っ掛かったかの様に足を取られ、転倒した彼女達。
「「「!?」」」
その事に対し、直ぐに彼女達は自分の脚に装着しているストライカーユニットに視線を向け、そして絶望した……。

なんと彼女達、自慢のストライカーユニットの”履帯部分が破損し、行動不能になっていた”のだ。

陸戦ストライカーユニットは、戦車と同じ様に履帯ユニットを回転させることより、前へと進んでいく。
それはつまり、戦車と同じ様に履帯を破壊されれば、行動不能に陥る事を意味している。
本物の戦車も履帯を破壊されれば、状況にもよるが多くの場合は「戦闘不能」と判断され、戦車兵達は戦車を捨てて脱出する。
つまり、”彼女達は『戦闘不能』な状況へと追い込まれた”のだ。

この突然のハプニングを前に指揮官のウィッチは「くそっ!」と呟きながら、こうなった状況を素早く分析する。

今、彼女達が居るのは、比較的、角度のある地形の海岸だ。そして、そこは一面ビッシリと砂利で覆われている。
この2つの要素……砂利と角度の相互作用により、ストライカーユニットの履帯ユニットにユニットの限界を超える張力が掛かり、破損してしまったのだ。

この現状を前に指揮官のウィッチは苦虫を100匹程、一気に噛み潰したような表情を浮かべながら、こう言い放つ。
「運命は私達を見放したって言うのか!?」
指揮官がそう恨み言の様に叫ぶ中でも、ストライカーユニットが行動不能に陥った陸戦ウィッチ達は、次々と屠られていく。
「ぎゃあアアアッ!!」
「んああ゛っ!!」
一人、また一人とネウロイの攻撃が直撃し、次々に肉片へと変り果てながら、ディエップの海岸を地に染めていくウィッチ達。
そんな状況を目の当たりにし、指揮官のウィッチは大声で声を張り上げた。
「生きているウィッチは、直ちにストライカーユニットを放棄!己の脚で任務を遂行するぞ!!」
「りょ、了解っ!」
「了解っ!!」
「分かりました!!」
この指揮官の指示に対し、生き残ったウィッチ達は、もはや使い物にならないストライカーユニットを次々と捨てて、己の脚で任務を遂行するべく動き出す。

だが、己最大の武器であるストライカーユニットが使えない今、彼女達は、もはや”普通の少女”と何ら変わりない存在と同じである。
そんな彼女達がストライカーユニット無しで、ストライカーユニットを装着している時と同じ行動ができるはずもなく、一人、また一人と屠られていく。
こうしてディエップの海岸は”地獄絵図”そのものへとなっていく……。
「うわあああっ!足が無い!!私の足がああっ!!」
「衛生兵!早く!!エミリーが……うがっっ!?」
とある場所では、ネウロイの攻撃を受け、足を切断したウィッチが血を吹き出しながら、のたうち回る。
そんな友を助けようと必死になっている戦友のウィッチが、一瞬頭を上げた瞬間、頭に攻撃が直撃し、まるでスイカに銃弾を撃ち込んだかの様に辺り一面に血やら、脳やら、眼球やらをぶちまけながら絶命する。
「ひっ……、ひぃいぃぃぃ……っ!!」
そのブチマケレられた血やら、脳やらを浴びた別のウィッチは恐怖が限界を超えた余り、失禁・脱糞し、アンモニアと腐乱臭を漂わせながら、己のズボンを黄色や茶色に染め上げていく。
「も、もういやぁぁぁっ!!」
そんな仲間達の凄惨な状況を前に、完全に心が折れてしまったウィッチが武器を投げ捨て、その場から逃げようとするが、彼女の背中を目掛けネウロイの放った攻撃が直撃、彼女は断末魔を上げる間もなく体に大穴を開け、そこから大量の血やら内臓やらを垂れ流して、絶命する。
「ハハッ……、ハハハッ……、あはははは~ぁ!!」
別の場所では、それらの光景を目の当たりにし、精神に異常を来したウィッチが笑いながら、隠れていた場所から飛び出すなり、ネウロイの砲撃の直撃を浴び、ブーツだけを残し、絶命する……。


もう何処を見ても、この様な地獄絵図しか広がっていないディエップの海岸において、数少ない正気&戦闘意欲を保っている少数のウィッチ達は指揮官を務めるウィッチの元、何とか戦闘を継続する。
「軍曹、あそこにグレネードを放り込みなさい!副指揮官のフルータ少尉は、どうしたの!?」
「エオナ中尉、フルータ少尉は戦死しました!」
「なんてことなの……っ!!」
部下の軍曹の言葉を前に、指揮官のウィッチが一瞬の動揺を見せた瞬間だった。
彼女の頭を目掛け、ネウロイのビームが直撃。彼女は頭をスイカの様に破裂させながら、絶命した。
「「「っ!!」」」
その様子を目の当たりにしたウィッチ達に動揺が走る中、傍にいた一番階級の高いウィッチは冷静にこう指示を飛ばす。
「全員、落ち着きなさい!指揮官のエオナ中尉、副指揮官のフルータ少尉が戦死!!繰り返します、指揮官のエオナ中尉、フルータ少尉は戦死しました!!!以降の指揮は私、”レタ准尉”が取ります!!!!」
「「「りょ、了解っ!!!」」」
そう言って何とか仲間達にこれ以上の動揺が走る事を止めたレタ准尉だが、彼女はゆっくりと崩れ落ちる様に砲弾痕の中にへたり込みながら、こう呟くのだった……。
「あぁ……神様……、なんでこんな事を私達に押し付けるのですか……?」
上官達が戦死した今、生き残っているウィッチの中で一番階級の高い自分が指揮を執り、この状況を打破しなければならない事は頭の中では分かっているつもりだった……。
だが、頭の中で分かっていたとしても、この悲惨な現実を前に彼女は静かに涙するのだった……。