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再開とジェラシー  ”男女の芽生え”は突然に……?

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<ウィーラーSide>
大敗し、ディエップに取り残された上陸部隊の救助作戦が決定し、その救助作戦に501も参加する事が決定した、その日。
俺達は手早く朝食を終えるなり、間髪入れずに荷造りをして、それを終えるなり、俺達が救助作戦に参加している間、周辺空域の防衛及び基地の警備を担当するブリタニア空軍のウィッチ隊へ業務を引継ぎをし、それを終えるや否や救助部隊の集結地であるブリタニア海軍 ポーツマス海軍基地へと移動していた。
「全員、そろそろ到着するぞ。着陸準備だ!」
編隊の先頭をミーナ中佐と共に切って、飛行していた美緒少佐が俺達の方を振り向きつつ、着陸準備の指示を飛ばしてくる。
この指示に俺達が間髪入れずに「「「「「了解!」」」」」と復唱を返す中、俺は眼下に広がるポーツマス海軍基地に目を向ける。
そこには、この作戦の為に連合軍司令部が搔き集めた大量の艦艇が堂々した佇まいで集結、停泊しており、その種類も多種多様の一言に尽きる。
例を挙げるなら、扶桑海軍の誇る対空駆逐艦である『秋月型』を始め、リベリオン海軍が世界に誇る空母艦隊の一角をなす、空母『イントレピッド』や、カールスラント海軍の御自慢の重巡洋艦の『プリンツ・オイゲン』等であり、それら多数の艦艇が俺達の視界に入ってくるの当時に”一段と目立つ巨大な|艦《ふね》”が俺達の視界に飛び込んでくる。

その|艦《ふね》を俺達が視界に捉えると同時に、少佐が「……ほう」と感嘆した様な声を上げ、こう続けた。

「”武蔵”まで投入するとは……、司令部も本気の様だな……」

少佐がそう言いながら、視線を向ける先には、扶桑海軍が世界に誇る巨大戦艦”大和型”の2番艦である『武蔵』の姿があり、海上に浮かぶ、その堂々たる姿は、まさに『世界最大・最強の戦艦』の名を語るに相応しい物であった。
「うわぁ~……凄いよ、リーネちゃん」
「ホントだね、芳佳ちゃん」
「あれが扶桑海軍の誇る巨大戦艦……」
「ガリア海軍のリシュリューなんかとは、比べ物になりませんわね……」
「………」
その堂々たる武蔵の姿を前に、まるで動物園で新種の動物を見る見物客の様な反応をする芳佳やバルクホルン達だが、俺はそんな彼女達を横目で見つつ、”別の事に注目”していた。

(なんだ?馬鹿に多いな……)

上空から、その事に注目しつつ、胸の内でそう思っていると、すかさず……と言うべきか、シャーリーが直ぐに話しかけてくるのだった……。
「おい、ウィーラー。何に注目してるんだ?皆が扶桑海軍、御自慢の巨大戦艦に夢中だっていうのに」
「……いや、ちょっと|豪《えら》く|LST《戦車揚陸艦》の数が多いな……と思ってな」
「あー、ホントだ。7隻は居るな」
シャーリーの問いかけに対し、そう返しながら、また視線を向けると、そこには多数の|LST《戦車揚陸艦》が停泊している光景が広がっていた。

確かに作戦の内容的にディエップに救援部隊が上陸する事が想定されるが、そうだとしても、普通であれば、小型の上陸用舟艇を用意すれば、済む話であり、戦車を上陸させる為に使う艦であるLSTを使うとしても、1隻か、2隻で済むはずだ。
それなのに目の前には、7隻ものLSTが停泊している……と言う事は、司令部は多数の戦車や装甲車を有する機甲師団をディエップに上陸させる事でも、考えているのだろうか?

そんな感じで、様々な考えが頭の中をワーッと駆け巡るが、所詮、俺は作戦に参加する1人のウィザードに過ぎない存在……。
ミーナ中佐や坂本少佐なら兎も角、作戦どうこうに関して、色々と言える立場じゃないからな……。考えるだけ、無駄ってもんか……。

そんな”諦め”にも近い感情と共に、俺が考えを打ち切る中、基地と通信を行っていたミーナ中佐が、通信を終えるなり、俺達の方を向き、こう言い放つ。
「皆、着陸許可が下りたわ。下りたら、直ぐに集合、点呼を取るわよ。良いわね?」
「「「「「了解っ!!」」」」」
俺達がそう復唱を返すと、ミーナ中佐は坂本少佐と顔を見合わせ、頷いた後、共に着陸の為のアプローチを開始。
それに続く様に俺達も飛行し、基地へと降り立つのだった……。





……

………



基地に降り立った後、基地司令官に到着の報告を済ませた俺達は「作戦に参加する全部隊が集結するまで、待機及び戦力回復に努めよ」との指示の元、所定の場所で待機兼休憩時間を過ごしていた。
此処は501の基地から、そう遠くない場所だが、流石にフル装備で移動するとなると、それ並みに疲れるが溜まる物である。
その溜まった疲れを俺達は解消させるべく各々で休憩時間を過ごしており、俺は本日2本目となるタバコでその時間を過ごしていた。
喉を走る煙の感覚を感じつつ、口から煙を吐き出しつつ、ふと周りを見てみると、そこには俺らの事を見つめ、ヒソヒソと話している各国海軍兵達の姿があった。
「おい、アイツらが噂に聞く精鋭部隊の第501統合航空団か?」
「そうらしいな」
リーエンフィールドライフルを背負いつつ、警備に当たっていたブリタニア海軍兵が、俺達の事を見ながら、そう話す傍らで、リベリオン海軍の水兵達が俺の事を見ながら、こう言い放つ。
「|アイツ《俺:ウィーラー》って……、少し前にニュースになった『303高地の英雄』じゃないのか?」
「あぁ、間違いない……。本物だ……。『リベリオン初となる空を飛べるウィザード』だぜ!!」
「ハーッ!俺達、そんな珍しい存在を見ているのか~!!国の母ちゃんに自慢できるぜ!!!」
「止めとけって、母ちゃんからすれば『息子の頭が可笑しくなった!』としか思えない話に過ぎんよ……」
俺の姿を見て、興奮した様子の水兵を宥める様に、もう一人の水兵がそう言い放つ。

とりあえず一言良いか?俺は『キングコング』みたいな、新手の動物じゃねぇぞ!ドチキショイ!!

水兵達の様子を見て、そんな考えが胸の奥底から、湧いてくる中、俺は考えを振り切るかの様に「はぁ~……」と深くため息を吐き出しつつ、再びタバコを口に咥えようとした瞬間だった。

「おー、本日2本目か?」

と言う、聞きなれた声と共に俺の右頬にグイッ!と何か押し付けられたような感覚が走る。
その感覚に「んぁ?」と思わず酸の抜けたコーラの様な、腑抜けた声を思わず上げてしまいながらも、押し付けられた方に顔を向けると、そこには『ニカッ!』と言う文字がバックに見えかねない程、清々しい笑顔を見せるシャーリーが、俺の右頬に何処から仕入れたのか分からないドーナツを押し当てていた……って、自分で言うのもなんだけど、どういう状況なのコレ?

つーか、ドーナツを顔に押し付けるんじゃないよ!!

そんな感情が胸の内でドッと湧いてくる中、俺が何かを言うよりも先にシャーリーが、こう続けた。
「はい、お前さんの分のドーナツ。この基地の炊事兵が気を利かせて、用意してくれたんだってよ」
「……あぁ、それは良いんだが。ドーナツを人の顔に押し付けるんじゃないよ、コラ」
シャーリーに対し、そう言いつつ、タバコの火をグローブで揉み消しつつ、彼女が右頬に押し当てていたドーナツを受け取り、食べようとした瞬間、突如として、少し地面がグラッ!と揺れる感覚が脚を走る。
それは隣にいるシャーリーも同様に感じたらしく、きょとんとした表情で俺の方を見つめながら、こう言い放つ。
「なんだ、地震か?」
「いや、知らんよ」
俺とシャーリーが、そう手短に会話を交わす間にも、脚に伝わる揺れの感覚は段々と大きくなっていくのと同時に、何か金属音と機械音の混じった独特な轟音が耳に入ってくるので、その轟音が聞こえてくる方に俺とシャーリーが顔を向けると、そこにはブリタニア陸軍の憲兵隊員が乗るジープとバイクの姿があり、その後に続く様に、姿を現したのは、リベリオン海兵隊でも、上陸作戦用の装備として採用されている、リベリオン製の水陸両用トラクターの『LVT』であった。

しかも、現れたLVTは一台だけでは無い。
何十台ものLVTが数珠繋ぎとなって、凄まじい金属音とエンジン音を立てつつ、走行していく。
更にそのLVTをよく見ると、車体後部の兵員・物資室に居るのは、ブリタニア陸軍の陸戦ウィッチのトレードマークである黒のベレー帽を被った陸戦ウィッチ達の姿が見える。

(なんだ、陸戦ウィッチ1個師団でも投入するのか?)

膨大な数のLVTと共に輸送されていく陸戦ウィッチ達の姿を見て、そんな考えが胸の内を過ぎる中、見つめていた陸戦ウィッチ達を載せたLVTの群れが、ようやく通り過ぎたかと思ったら、今度はブリタニア製の戦車運搬トレーラー”スキャメル パイオニア”に乗せられた”装甲ブルドーザー”や、水陸両用トラックの”DUKW”と言った特殊車両の数々が轟音と共に目の前を走っていく。
これらの特殊車両の群れを俺とシャーリーだけではなく、直ぐ近くにいた501の面々も「ポカーン」と言わんばかりの表情で見つめている。
「こりゃ、スゲェな」
「あぁ……、司令部は本気みたいだな……」
そんな501の面々の一番前で通り過ぎる特殊車両の群れを見ていた、俺とシャーリーが手短に言葉を交わしていると、列の最後尾に当たる車両が目に飛び込んできたので、目をやるとその車両はリベリオン製の装甲車である”M20装甲車”である事が分かった。
更にそのM20装甲車を注視すると、恐らくこの部隊の司令官の趣味なのだろうか、車体前面の右側にハートマークが書かれているのが見えた。

(ハートマーク……、か……。”あの人”を思い出すな……)

装甲戦闘車両には、似つかないはハートマークを目の当たりにし、ふと懐かしい思い出が脳内に蘇る中、シャーリーから渡されたドーナツを送れながらも、口にしていた時だった。
「全員、揃っているか?」
「「「「はい!」」」」
……と言う言葉と共に、作戦司令部の方にミーナ中佐と共に隊の代表者として、顔を出していた坂本少佐が俺達の元にやってくるなり、そう問いかける。
その問いに俺達が声を揃えて返事を返し、それを聞き俺達が揃っている事を確認した、坂本少佐は続け様にこう言い放つ。
「全員直ぐに基地の中央広場に集まれ。今回の作戦司令官からの挨拶等があるからな、ちゃんとしろよ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
再び復唱を返す俺達に対し、坂本少佐は「よしっ!」と一言言いながら、先に集合場所へと向け、歩き出すと、俺達もそんな少佐の後に続く様に歩き出す。
「あー……、アタシ、お偉いさんの話は嫌いなんだよね……」
「俺だって、嫌いだよ」
この間、俺とシャーリーは何時もの様に軽口を叩きながら、他のメンバー達と同じ様に集合場所へと向かっていく。

この後に待ち受ける一悶着の事など、予想だにもせず……。





……

………



そうして、到着した集合場所には、|俺達《501》を始め、終結した各国海軍艦艇の艦長や士官、空母所属の海軍ウィッチ隊のウィッチが整列・待機していた。
「よくも、ここまで人出をかき集めたもんだねぇ~……」
「それだけ、司令部も本気って事なんだろ?」
「おい、リベリアンとコマンド。私語は控えろ!」
ズラっと整列する各国の海軍軍人&ウィッチ達を見て、俺とシャーリーが、さっきから減らない軽口を叩いていると、俺達の様子に痺れを切らした様なバルクホルンが、俺達を咎めてくる。
そんなバルクホルンに対し、シャーリーが「えーっ?」と何か言おうとするが、それよりも先に俺達の耳にお立ち台の上に乗っているブリタニア海軍大尉の大声が飛び込んでくる。
「これより、救出作戦司令官より訓示がある!総員傾注!!」
ブリタニア海軍士官は、こう言い放つと体の向きをクルリと変えつつ、お立ち台から降りるなり、直ぐ後ろにいた扶桑海軍の高官に敬礼をする。
その敬礼を受けた扶桑海軍の高官は「うむ」と一言呟きつつ、ブリタニア海軍士官に対し、敬礼を返すと入れ替わる様にお立ち台の上に上がった瞬間、先程のブリタニア海軍士官が再び大声を張り上げる。
「総員!扶桑海軍、|大原蔵良《おおはら くらよし》少将に対し、敬礼!!」
「「「「!!」」」」
この一言で俺達は一斉に大原少将に対し、敬礼する。
そんな俺達の敬礼を向けられた大原少将は、再び「うむ!」と呟きつつ、俺達に敬礼を返した後、こう言葉を続けるのであった。
「諸君、私が連合軍司令部の命令を受け、この度のディエップ上陸部隊救助任務の最高司令官を任命された、扶桑海軍少将の大原蔵吉である」
そう堂々と言い放つ大原少将の言葉に俺達が注目する中、ふと坂本少佐の方にチラリと視線を向けると、そこに映る坂本少佐は懐かしい人と再開した様な笑みを浮かべている。

(坂本少佐も扶桑海軍の所属だしな……。昔、少将のお世話にでもなったんだろうな……)

少佐の顔を横目で見て、そう思いながら、改めて俺が少将に注目する中、少将はこう言葉を続ける。
「諸君、もう既に此処にいる君達は、先のディエップ上陸作戦が失敗し、上陸部隊がディエップに取り残され、既に全滅したと思われていた上陸部隊から救援要請があったのは、知っているな?」
「「「………」」」
そう言い放つ少将の言葉に対し、俺達が無言のまま、少将を見つめる中、少将は更にこう続けた。
「先の作戦失敗時の状況を踏まえた上で、ディエップには、かなり強力なネウロイの集団が居る事が予想される。そんな状況下にいる友軍部隊を救助するのは、非常に厳しい物になるだろう……。だが、しかし、我々は仲間を我々は見捨てる様なことはしない!全力の限りを尽くし、ディエップに残された仲間達を助け出し、ネウロイに人類の意地を見せつけるんだ!!ここに集まってくれた、諸君らは、それが出来ると私は信じている!!!」
俺達に向け、そう高らかに宣言した少将は「以上で、訓示とする!!」と言い、訓示を締め切った。
それと同時に俺達が再び少将に対し、敬礼した後、再び先程のブリタニア海軍士官がファイルを下士官から受け取りつつ、少将と入れ替わりでお立ち台の上に上る。
そうして、お立ち台の上に上がったブリタニア海軍士官は受け取ったファイルを開きながら、「では、今から、今後の予定を……」と言おうとした瞬間だった。

「スイマセン、遅れました!」

と言う、女子の声が俺達の耳に飛び込んでくる。
声のする方向に俺達が一斉に顔を向けると、そこには先程、見たLVTやM20装甲車等に乗っていたと思われる数人のブリタリア陸軍の陸戦ウィッチの姿が。
そんな彼女達を見ながら、ブリタニア海軍士官は怪訝そうな表情を浮かべつつ、ファイル片手に彼女達に問いかける。
「何処の所属だ?名前は?」
話の腰を折られた為か、ぶっきらぼうに言い放つブリタニア海軍士官に対し、一人の陸戦ウィッチが隊を代表して、前を出ると敬礼しながら、所属と氏名を告げる。
「連合軍司令部より、本作戦に参加を命じられた”ブリタニア陸軍 第79機甲師団”及び、同隊の隊長を務める”クリスティーナ・ベッカム少佐”であります」
「えっ?」
そう聞いた瞬間、さっきまでぶっきらぼうな態度を取っていたブリタニア海軍士官が、自分より階級が高い事を知り、一瞬固まったかと思った次の瞬間には、「しっ、失礼しました!少佐殿!!」と、慌てて敬礼する傍で、俺も思わず”己の耳を疑っていた”。

えっ、理由?単純な話さ……。今の名前……、”俺の知り合いの名前”だからだよ……。
これが単純に、純粋な”単なる知り合い”で終わるのなら、懐かしい気持ちにもなれるんだけどなぁ……。
何でよりによって、”俺の最初の人”なのなかぁ~……。
あー~……”小恥ずかし思い出”がバーッと走馬灯の様に頭の中を過ぎるんじゃ~!!、

名前を聞いた瞬間、脳内で鮮明に蘇る”小恥ずかしい思い出”に思わず赤面しそうになる中、俺が胸の奥底から「同姓同名の別人物であってくれ……」と願いつつ、視線を向けた先に居たのは……俺の”小恥ずかしい思い出の人”である”クリスティーナ・ベッカム少佐”であった……。
(あ~……、こりゃ前途多難だわ……)
脳内でハッキリと蘇る小恥ずかしい思い出を前に赤面しそうになる顔を隠す様に、手で押さえながら、俺は”この後に待ち受ける一悶着”を予想し、思わず「……ハァ」と深くため息をつくのだった。

そして、その予想はモノの見事に”現実”となるのだった……。





……

………



<?Side>
その頃、ディエップでは、取り残された|俺《ジャック》達が生き残るべく必死になっていた。
「アレクソン、偵察班からの連絡は?」
「湾岸砲型ネウロイの方は、昨日と同じく『未だに動きなし』との事ですが、海岸側の方に行ったアポリーから、『砂浜に地雷らしきものを埋めているのを確認』との連絡がありました」
「地雷らしき物だと……?」
聞いた事も無いワードが出てきた為、俺はアレクソンに改めて問い掛ける。
そりゃそうだ。この方、ネウロイとの戦い&特殊作戦に身を投じて、それ並みに長い俺だが、そんな”地雷”らしきものをネウロイが埋めるなんて話は聞いた事も無いからな……。
今までの経験や記憶に無い、この新手のネウロイの行動に対し、俺が疑問をぬぐい切れない様子でアレクソンに問い掛けると、アレクソンも俺と同じように話を信じられない様な表情で、こう返してくる。
「えぇ……、自分も聞いた事無い話ですが……。アポリー曰く、カールスラントの『Sマイン』に近い形状との事です」
「Sマインか……。もしSマインと同じ機能があるなら、厄介だな……」
アレクソンの口から出た『Sマイン』という言葉に、俺は思わず苦虫を嚙み潰した様な表情になる。

と言うのも、この『Sマイン』はカールスラント製の対人地雷なのだが、地雷と言っても、ただ単に踏んでドカン!と爆発するだけで、終わる地雷では無い。
このSマインは、地雷本体の上部に昆虫の触角の様な信管装置があり、これを踏んだり、触れたりする事によって、地雷内部の爆薬に点火。
その爆薬の爆発で一気に地面から、1.2m程まで飛び上がるとそこで炸裂し、内部にある多数の鉄球をまき散らし、そのまき散らした鉄球で相手を殺傷する……とまぁ、なかなか恐ろしい兵器である。

そんな『Sマイン』に模した物をネウロイが……?
とてもじゃないが、信じられんな……。

そんな考えが胸の内で湧いてくる中、アレクソンは「まぁ……」と呟く様に言うと、続け様にこう続けた。
「アポリーは|ウチ《ブリティッシュコマンド》のメンバーの中でも、爆発物の知識に長けている奴ですからね……。少なからず、アイツに調べさせれば、何かしら分かるとは思います」
「そうだな……。戻ってきたら、アイツに詳しい状況報告と更なる調査を指示しよう」
「えぇ、それが良いか……」
この俺の指示交じりの言葉に対し、アレクソンが手短に返事を返すのを聞きつつ、俺は直ぐ側で無線機を弄っている無線員の隊員に対し、話しかける。
「無線主、どうだ?ブリタニア本土と繋がったか?」
俺の問いかけに対し、無線主は首を横に振った後、こう続けた。
「ダメです……。連合軍で使用されている各国共通の通信コードだけではなく、ブリタニア軍の通信コードも試したのですが、一切通じません」
「クソが……」
無線主の報告を聞き、思わずそんな汚い言葉が口から漏れるが、実際、悪態でも付かなきゃ、やってられない状況である。

と言うのも、一度だけ、ブリタニア本土との通信に成功し、俺達が生きている事を伝える事に成功している。
その際に連合軍司令部は「救援隊を派遣する!」と言う返答と共に「可能な限り、ディエップの状況を報告せよ」との指示を出してきている。
この司令部の出した指示の元、俺達はディエップから脱出する為に必死に現状を把握し、事細かく伝えていた。
だが、少し前から、ネウロイが妨害電波でも出しているのか、一切、ブリタニア本土との通信が出来ない状況になっている。

この状況から、考えられる”最悪のシチュエーション”は、ただ1つ……『ディエップに居た残存部隊は「全滅した」と判断され、救出作戦は中止』になると言う事だ……。

冷静に考えれば、何らおかしな話では無い……。
もう既に全滅した残存部隊を救助する為だけに、多数の将兵を危険な目に晒すリスクがある以上、それを避ける為、作戦を中止するのは、当然の判断だ。

だが、現に俺達は、今現在も生きている!生きてるんだよ!!
それと同時に生還への希望を捨ててはいない……。
何としてでも、生きて帰るつもりだ……!!

その「生還」&「生」への熱い思いは、俺だけではなく、この場に居るアレクソンやアポリーと始めとするコマンド隊員、レナ准尉と言った陸戦ウィッチ達も持っている。
この思いを無駄にしない為にも、何が何でも、ブリタリアとの連絡を繋がないと行けないのだ……!!

……とまぁ、軽く語らせてもらった所で、俺は顎に手を当て、暫く考えた後、無線主に対し、こう告げる。
「……チャンネル”A-113”を試してみろ」
そう俺が告げた瞬間、無線主は「えっ?」と驚いた様な表情で俺を見つめてきたかと思うと、こう続けた。
「あれは|リベリオンとファラウェイランドの合同特殊部隊《第1特殊任務旅団》との”現地通信用”コードですよ?」
「分かってるよ」
俺の指示に対し、疑問形で言葉を返してくる無線主。
そりょそうだ……、だってこのA-113は”正規の軍用通信コードではない”からな。
んで、それに対して「じゃあ、何だ?」と聞かれれば、”現場の隊員が司令部の許可も無く勝手に作った通信用コード”としか、術は無い。
まぁ……そもそも、なんで現場の隊員が勝手に司令部の許可も無く通信用コードを作ってしまうのかと言うと、それは”俺達の様な特殊部隊で勤務するウィザードならではの事情”がある……。

元々、俺達の様な特殊部隊に勤務するウィザードが担当する任務の多くは”本隊の前線投入を前に行う、詳細不明な敵陣に対する恩密偵察活動及び情報分析”である。

つまり、どういう事かと言うと……”ネウロイが居るのは、確実だが、如何せん、どんなネウロイが居るかまでは、分からない地域”があり、そこに何の対策もせずに、本隊のウィッチ隊や機甲師団を送った所で、結局は”返り討ちにあう”だけである。
それを避ける為に、事前に俺達の様なウィザードで編成された特殊部隊を空挺降下やら、潜水艦及び小型ボートを使用した上で、それらの地域に侵入し、そこでネウロイに対する偵察活動を始め、地形等の情報の分析活動を行い、その情報をまとめた資料を作成し、司令部に提出。
この俺達が提出した情報を元に、今後の作戦や投入する部隊の編成などを調整するのだ。

んで、それらの任務の都合上、広い地域を抑えないといけないのだが、一回でもネウロイに見つかる事が許されない訳である。
そういった点から、他国のウィザードで編成された特殊部隊の隊員達と共に敵陣奥地へと侵入し、任務に当たるのだ。
その際、無線傍受などで発見されるのを避けるため、現地の隊員同士で勝手に通信用コードを作り、それでやり取りをするのだ。

とまぁ、長々と語らせてもらったが、要はこのA-113通信コードは、そう言った隠密作戦用のコードであるのだ。

んで、そんな通信コードは当然ながら、連合軍の無線兵でも、存在を知っていないのが殆どであり、普通なら、繋げた所で誰も取りやしないのだ……。だが……。
「今の状況から見る限り、大よその連合軍、ブリタリア軍の通信コードは全てネウロイに妨害されていると考えるべきだ。そうである以上は、こういった現地で作った非正規の通信用コードでやるしかないんだ……」
「通じますかね……。ハッキリ言って、掛けですよ」
俺の言葉に対し、そう返してくる無線主に対し、俺は「そうさ」と一言呟いた後、こう続ける、
「これはギャンブルだ……、俺達の命を懸けたな……」
「……隊長は、そのギャンブルに勝てると?」
そう俺に対し、問いかけてくる無線主に対し、俺は「フッ!」と乾いた笑みを浮かべつつ、こう返す。
「まぁな……。そもそも、人生生きてれば、賭ける前から『勝てない』と分かり切っているギャンブルにも、賭けなきゃいけない時が来るんだよ……。その『勝てない』を覆して、『勝つ』から、ギャンブルは面白いんだよ……分かるか?」
俺がそう言い放つの聞き、理解が追い付ないのか、無線主は「……はぁ」と呟く様に返してくるので、俺はそんな無線主の肩をポン!と叩きながら、こう言い放つ。
「お前、年は幾つだ?」
「じゅっ……、14です……」
「若いねぇ……。ま、俺ぐらいの年になれば、分かるようになるよ……」
そう言って俺は再び無線主の肩をポン!と叩きながら、その場を離れると、窓際まで移動すると胸ポッケに入れていたタバコの箱を手に取り、中から1本のタバコを引き抜き、それを口に咥える。
同時にタバコと同じ様に胸ポッケに入れていたマッチの箱を手に取り、タバコと同様に箱の中から、マッチを1本取り出すと、箱に付いている摺り皮に擦り付け、マッチに火を付けると、更にそのマッチの火をタバコに着火し、俺は一服するのだった……。

「ふぅ……」

数十時間ぶりに味わうタバコの味とキック感に、張り詰めた己の中の緊張感が少しほぐれるの感じつつ、改めて脳内で今の状況を再確認する。

自分達がこのディエップに取り残されると言う事は、俺ですら、全く予想だにしない展開だった……。
そもそも……、俺達が取り残される原因となった作戦自体、かなり無茶のある作戦とは思っていたが……、此処までの大惨事になるとはな……。
それ以前に|俺達《ブリティッシュコマンド》も、リタ准尉を始めとする陸戦ウィッチ隊も、”精鋭部隊”の名を語る以上、少なからず成功させるつもりで任務に当たったが、この様だしな……。
ぶっちゃけた話……。最低が作戦が失敗したとしても、命からがらブリタニア本土までは帰れると思っていたんだよ……。
それすら叶う事無く、此処で俺達は成す術も無くただ己の身を守りつつ、助けが来るのを待っている……。

全く……、ホントに、こればかりは「ざまぁない」としか、言いようが無いぜ……。

そんな状況下の中、俺は”生き残った兵達の指揮官”として、采配を振るわなければならないのだ……。

ったく、俺の軍務史上最もめんどくさい事になったぜ……。
来年で20歳になるから、そろそろ”ウィザードとしての引退”とかを考える時期だってのに……。
まぁ~……”引退が近い”からと言った所で、のんびりと御隠居様気分で過ごすつもりは、毛頭も無いけど!!

とは言え……何度も言う様に、そんな俺ですら、今回ばかりはキツイと思う程、最悪の状況になったと思う……。
俺の今までのウィザードとしての人生全てを掛けた任務になる事は確定だ……。

さぁ……、この圧倒的な絶望的な状況を如何に指揮官として覆すか……。よく言う”腕の見せ所”とは、この事だな……。

胸の内で、そう思いながら、再び火の付いたタバコを加え、息を吸い込む中、部屋のドアがガチャリ!と言う音と共に開く。
開いたドアの方に顔を向けると、そこに居たのはブレン軽機関銃を手に、背嚢を背負ったリタ准尉を始めとする5人の陸戦ウィッチ達の姿であった。

彼女には、俺の方から、ディエップの街で食料や医薬品と言った物資の捜索を頼んでいた。
と言うのも、今回の作戦はあくまで任務を達成次第、帰還する想定だった為、負傷した際に使う包帯やモルヒネと言った医薬品は、衛生兵が持つ程度の量しか持ってきていない。
しかも食料に至っては、肉の缶詰1つどころか、ビスケット1枚すら持ってきてない状況だ。そんな状況で籠城した所で、あっという間に飢死してしまうのは、火を見るよりも明らかである。
だからこそ、ネウロイ側の監視を行うのと同時に並行して、食料などの調達を行わないといけないのだが、如何せん、俺達は包囲されている状況下、監視の手を緩めるわけにはいかない。

であるからこそ、この任務はリタ准尉を始めとする生き残った陸戦ウィッチ達に頼んだである。

彼女達、陸戦ウィッチは本来、陸戦用ストライカーユニットを使用した戦闘を主任務とするのだが、生憎、先の上陸作戦で殆どの陸戦用ストライカーユニットが破損し、ディエップの海岸に鉄くずとして転がっている。
その為、彼女達の持つ本来の戦闘力を発揮できないのだが、彼女達もブリタリア陸軍の兵士として、必要最低限の生身における陸戦の訓練は受けている。
なので|俺達《ブリティッシュコマンド》がネウロイの監視及びブリタニア本土への、連絡を行う中、彼女達には物資の捜索&調達を行ってもらっている……と言った感じだ。
因みに彼女達が使っている銃火器は、負傷した|俺達《ブリティッシュコマンド》のメンバーが使っていた銃器である。

んで、彼女達も先程の上陸作戦時の失態を取り返さんとばかりに、この任務を引き受けてくれ、指揮官のリタ准尉を始めとする5人の陸戦ウィッチ達が、物資捜索&調達任務に当たっていたのだ。

その任務から帰還したリタ准尉は、俺の方に顔を向けるなり、敬礼しながら、こう言い放つ。
「報告します!リタ准尉以下、5名!!物資捜索より、帰還しました!!!」
「おう、ご苦労さん」
背後に『ビシッ!』と言う文字が見えかねない勢いで凛々しく敬礼するリタ准尉に対し、俺も軽く敬礼で返すと、吸い切ったタバコを壁に押し付けて、火を消しつつ、こう問いかける。
「どうだ、なんかあったか?」
「えぇ……、一応の成果は……。みんな、全部中身を出して」
「「「「了解」」」」
俺の問いにそう返しつつ、リタ准尉達は背負っていた背嚢を下ろし、ガサゴソと中から、調達した物資を取り出し、机の上に置いていく。
その内容は、廃墟と化した飲食店に残されていたトマトスープを始めとする缶詰やハードサラミと言った保存の効く”食料”を始め、ホテル跡に残されていた毛布、洋裁店から調達したと思われる肌着や下着と言った”衣服”、診療所跡に残されていた僅かばかりの”医薬品”、同じく銃器店に残されていた僅かばかりの”狩猟用の猟銃と弾薬”と言った感じで、まさに”搔き集めた”という言葉が相応しい物資の数々だ。

まぁ……それでも、この状況においてでは、無いより何十倍も……、いや……、いや数億倍マシと言っても良いぐらいだ……。

胸の内でそう思いつつ、俺はトマトの缶詰を手に取りつつ、リタ准尉にこう問いかける。
「これ……、食えるから持ってきてるんだよな?ネウロイに汚染されてないよな?」
「当たり前じゃないですか!」
俺の問いかけに対し、キレ気味に返してきたリタ准尉は、更にこう続ける。
「しっかりと確認して持ってきたんですよ!それに食料と医薬品は全て地下室に保管されていたモノですから、汚染されている可能性は極めて低いはずです!!心配だったら、食べないでください!!!」
「そうカッカすんなよ、准尉。こっちとら、上官だぞ?」
「ここで階級出してきますか……?」
俺の言葉に対し、怪訝そうな表情で見つめてくるリタ准尉に対し、俺は「ヘイヘイ」と呟きつつ、こう続ける。
「悪かった、悪かったって、謝るよ。准尉」
そう謝罪する俺の言葉を聞き、リタ准尉は悪態付く様に「ったく……!」とボヤキつつ、更にこう言い放つ。
「とりあえず、今回の物資捜索に当たり、捜索したE47から、F17地区……通称、”旧繁華街地区”で見つけられたのは、これで全部です」
「うーん……繁華街地区だから、もう少し量があっても良いと思ったんだがな……。これだけだと、もって三日……、いや二日だな……」
机の上に並べられた物資の数を見て、胸の内に湧いた正直な感想を呟く中、リタ准尉も俺と同様に「えぇ……」と呟きながら、こう続ける。
「恐らく生の野菜とか、肉とかを主に使っていたんでしょうね……」
「昔、|此処《ディエップ》はガリア1のカキ漁の漁港で、カキの名産地だったというんだがな……。今じゃ、その時の面影は微塵も残ってないか……」
リタ准尉の言葉を聞き、かつてカキ漁の一大拠点として、栄えていたディエップの様子を思い浮かべつつ、リタ准尉に対し、続け様にこう告げる。
「兎に角、ご苦労だったな。他のメンバー達と一緒に少し休んでおけ、准尉。此処も何時まで持ちこたえられるか、分からん状況だ。休める内に休んでおけよ」
「了解、お言葉に甘えさせてもらいます。それでは、失礼します」
俺に対し、そう言いつつ、敬礼してくるリタ准尉に対し、俺は「ん!」と一言短く呟きつつ、彼女に敬礼で返しつつ、別室へと移動するリタ准尉を見送る。
そうしてリタ准尉を見送った後、俺は机の上に置かれたトマトの缶詰を手に取り、「ふむ……」と鼻息交じりに呟きながら、考える。

(現地での物資での調達が出来れば、もう少し余裕があったんがな……。それも厳しいとなると、やはり早期の脱出を何ともしても実行しないといけないか……。そうなると、やはり優先は無線通信の確保だな……。何としても、俺達が此処で生きている事を本国に伝えなければ……)

トマト缶を手に、とりあえず自分達がまず何をするべきかを改めて考えつつ、俺は口に咥えたタバコを強く吸いつつ、これから始まる厳しい脱出戦への覚悟を固めるのだった……。





……

………



<ウィーラーSide>
作戦部隊編成式を終え、暫くの間、住むことになる基地内の兵舎の割り振りや今後の訓練計画等についての説明を受けた俺達は、来るべき作戦開始の時に向け、お互いの交流と連携を強めるべく開催された交流会の会場に居た。
交流会の会場では、|俺達《501》を始めとする作戦に参加する部隊の各国軍の代表者達が用意された軽食や酒を手に挨拶や言葉を交わす。
そんな会場の一角で俺はウィスキーグラスに入ったロックのウィスキーを机の上に置き、左手で頭を抑えつつ、右手に火のついたタバコを持ちながら「はぁ……」と深いため息を吐いていた。

まぁ……ため息ついている理由としては、さっきの編成式の最後に出てきた陸戦ウィッチの”クリスティーナ・ベッカム少佐”が、俺にとっては”一生分の恥ずかしい思い出”だからだ……って、あー……ダメだ、思い出しただけで恥ずかしくなってくるわ……。

ふと脳内に蘇る恥ずかしい思い出を前にし、顔が赤くなるのを感じた俺は、その思い出を”きれいさっぱり水に流す”かの様に、塩をいやっちゅうレベルでてんこ盛りに乗せたサラミにレモン汁を掛け、それを口に入れると同時にロックのウィスキーを一気に喉へと流し込んでいく。
瞬間、口の中に広がるすさまじい塩気と共にウィスキーの強烈なアルコールで喉が「カーッ!!」と熱くなるのを感じつつ、すぐさま傍に置いていたチェイサーを喉へと流し込んでいく。
そうして喉へと流し込んだチェイサーが、喉を流れるを感じつつ、俺が「……ぷはぁ!」と息を吐き出していると、コーラ片手にシャーリーが、何時もの様にやってくるのだった。
「お~……体に悪そうな物、入れてんねぇ~……」
「うるせぇ、これが一番ウィスキーに合うんだよ。試せば、分かるぞ」
「ま~……大人ぶっちゃって~!あ、チーズ貰うよ~♪」
「おい、テメェ!人のツマミ、勝手に食うな!!」
そう言って人のツマミであるチーズを勝手に食べるシャーリーに対し、何時もの様の怒号を浴びせていた時だった。

「全く……、お前らは……!」

……といった感じで、”親の声より聞いた呆れ声”が聞こえてくるので、俺とシャーリーが揃って、声のする方に顔を向けた。
んで、予想通りと言うべきか、俺とシャーリーが顔を向けた先には、何時もの様に俺とシャーリーに対し、呆れ顔を向けているバルクホルンの姿があった。
そんなバルクホルンの手には水の入ったコップを片手に、俺とシャーリーに向け、こう口を開いてくる。
「どうして、こうも緊張感が無いんだ!?大規模な救出作戦を前にしているというのに……っ!!」
「おー、相変わらずド真面目な事で!関心ですなぁ~!!」
バルクホルンの苛立ち交じりの発言に対し、シャーリーは茶化す様に返事を返すが、その返事が気に入らなかった……と言うか、シャーリーの発言全部が基本的には気に入らないバルクホルンはシャーリーの返事を聞くなり、「茶化すな!」と声を荒げている。
そんなバルクホルンを横目に見つつ、俺は火のついたタバコを吸った後、息を吐き出しながら、バルクホルンに対し、こう言い放つ。
「落ち着けよ……。常に気を張ってたら、ストレス溜まって、肝心の作戦時にぶっ倒れて、何の役にも立てんくなるぞ?」
「そー、そー!|ウチ《501》の少佐だって、今はミーナ中佐を連れて、楽しそうにお話しているじゃないの~……ホラ!」
俺の言葉に続く様に、そう発言したシャーリーが指さした方には、ミーナ中佐を連れた少佐が作戦司令官の大原少将と楽しそうに会話している様子が広がっている。
そんな少佐の様子も見て、バルクホルンは「あぁ゛?」とめっちゃ怪訝そうに呟くと、間髪入れずに「はぁ~……」と呆れた様な口調で息を吐くなり、改めて、俺とシャーリーの方を向き、こう言い放つ。
「あれは少佐が、かつ扶桑事変の際にお世話になった方だから、改めてお礼しに行っているだけだ。お前達みたいに、ただ楽しく飲んでるだけじゃないぞ!」
「隊長も連れてか?」
相変わらず呆れた様子で、そう言い放つバルクホルンに対し、俺がそう問いかけると、バルクホルンは「そうだ」と手短に言葉を返す。
そんな彼女を見て、止せば良いのにと言うか、相変わらずと言うべきか……兎にも角にも、シャーリーがすかさずこう言い放つ。
「ほぉ~……まるで”自慢の嫁さんを紹介する新婚の旦那”みたいだな!」
「あ゛あ゛ぁ゛っ゛!?今、何て言ったリベリオン!?」
「お~!おっかないねぇ~……怖い、怖い!!」
このシャーリーの茶化しに対し、バルクホルンが耳まで顔を真っ赤にしながら、怒るのを見て、まるで懲りない悪ガキの様な笑顔を浮かべるシャーリー。
そんな二人は彼女を横目に見つつ、俺は手にしたタバコを加え、一息吸うと「はぁ~……」とため息交じりに煙を吐き出しながら、二人を咎める様にこう言い放つ。
「いきなり野太い声出すんじゃねぇよ、バルクホルン。あとシャーリーは、茶化すな。バーロ!」
「お前は黙っっとれぇええっ!!」
俺の発言が気に食わなかったのか、背後に『ギリッ!』と言う文字が見えかねない程の剣幕と共に怒鳴りつけてくるバルクホルン。

(俺の扱い酷くね?)

彼女の白目むき出しで、キレる様子を目の当たりにし、ふとそんな考えが湧いてくる中、シャーリーは先程のバルクホルンを見て、更に面白がって、笑いつつ、俺に向けて、こう言ってくる。
「まぁ、まぁ、コイツは私が相手してやるから、お前は気楽にウィスキーでも飲んでなよ♪」
「あぁ……、そうするさ……」
シャーリーにそう返した後、俺は遠慮なく”シャーリーのお言葉に甘える”事にする。
そう決めた俺は再びタバコを口に咥えて、吸った後、三度「はぁ~……」とため息交じりに、煙を吐き出していく。
こうして吸い切ったタバコを灰皿に押し当て、火をもみ消した後、俺はロックのウィスキーが入ったウィスキーグラスを手に取る。
手にしたグラスを軽く振る様に回し、カランと中の氷を溶かしながら、ふと他の|メンバー《501》の姿を追っていく。

まず最初に隣にいるシャーリーとバルクホルンは、周囲の視線も気にする事なくギャーギャー言い合っている……。
通常運転中と言った所か……。もう此処まで来ると安心感すら感じるな……。

そんな妙な安心感を感じつつ、先程、目を向けた少佐とミーナ中佐の居る箇所に目を向けると、そこでは、まだ少佐とミーナ中佐が先程と同じ様に大原少将を始めとする扶桑海軍関係者と共に談笑している様子があった。
普段、一緒に居るからあんまり感じないけど、やっぱりこうして見ると少佐が扶桑海軍において、相当な立場にいる&羨望の眼差しの対象である事をツクヅク感じるな……。

胸の内でそう思いながら、ふとその近くに目をやると、芳佳とリーネが揃って、用意された食事に舌つづみを打っているのが見える。
|あの二人《芳佳&リーネ》も、だいぶ戦場に慣れてきた……というか、ウィッチ、軍人らしくなってきたと思っていたけど、やっぱり戦闘を離れれば、何処にでもいる中学生ぐらいの女子に過ぎんか……。

これまた「通常運転中」といった感じの二人を見ながら、ウィスキーを喉に流し込みつつ、今度は用意されたケーキやマフィンと言ったスイーツを目の当たりにして、目を輝かせているルッキーニとハルトマンの姿があった。
「幸せだねぇ~♡」
「幸せ~♡」
そう言って可愛げにスイーツを食べる二人。いつもなら、|保護者役《バルクホルン&シャーリー》が「食べすぎるな(よ)!」と注意しに飛んでくる所だ。
だが、その|保護者役《バルクホルン&シャーリー》が、未だに口喧嘩中と言う事もあってか、二人は偶にしか味わえない自由を満喫している様だ。

(アイツら、ホントにカールスラントとロマーニャを代表するエースウィッチなんだよな……?)

共にカールスラントとロマーニャを代表とするエースウィッチなのだが、それを感じさせない二人の様子を前に、ふとそんな考えが湧いてくる中、俺は胸ポッケに入れていたタバコの箱を取り出し、中から1本取り出して、口に咥える。

そうして咥えタバコしつつ、今度はエイラ、サーニャ、流斬達の方に目を向けると……。
そこには、まるで獲物を狙う獣か、完全に怒りが頭に来て、脳みそが大爆発寸前な人の様に「フーッ!フーッ!!」と息を荒くするエイラと……。
「エイラ、落ち着いて……」
「そうだよ、サーニャの言うとおりだよ……」
……と言った感じで、サーニャと流斬がエイラを宥める様子が繰り広げられていた。

あ~……これはあれだな……サーニャにナンパしようした兵士が居て、それを目撃したエイラが激怒して、「サーニャニテヲダスナ!コノヤロー!!」とか、言いつつ、追っ払った後、「サーニャニ、ワルイムシハ、チカヨラセナイ!!」といった感じで、バリバリ警戒している……、って所か……。

ホント、|アイツ《エイラ》、ホント懲りないっていうか……ビアンなのか?
あー……でも、その割には男の流斬共、普通に仲良くしているから、違うのか?
うーん……考えるだけ、無駄ってもんか……。うん、止めよう!考えるの!!止め、止め!!!

頭の中に湧いてきた思考を強制的に打ち切った後、俺はライターを手に取り、ライターの蓋を弾く様に開けると瞬間、「シュボッ!」と言う音と共にライターに火が付く。
その火をタバコの先端に近付け、タバコに火をつけるなり、俺は一気にタバコを吸い上げた。
吸い上げた煙とニコチンが喉を通り、肺の中に溜まっていくのを感じつつ、今度は息と共に肺の中に溜まったタバコの煙を「ふぅ~……」と吐き出していく。

(あー……。なんだかんだあっても、|俺らは《501》通常運転って感じだな……)

そうして口から吐き出したタバコの白い煙が、天井へと昇っていく様子をボーっと見つめながら、ふと胸の内でそう思っていた時だった。

「あら?タバコは吸わない主義じゃなかったの?」

……と言う|同僚達《501》とは、違う”聞き覚えのある声”が俺の耳に飛び込くる。
その声にギョッ!としながら、クビがもげるんじゃ無いかと言わんばかりの勢いで声の掛けられた方に顔を向けると、そこに居たのは……俺にとって”一番恥ずかしい思い出の張本人”であるクリスチーナ・ベッカム少佐だった。

あ~……シャーリーとバルクホルンに絡まれ、それどころじゃなかったけど、この人居たんだよなぁ~……。こりゃ確実にひと騒動来るぞ~……。

そう胸の内で、「確信」にも近い考えを抱きつつ、俺は油の切れたマシンの様に「ギギギッ!」と言う音が聞こえかねない程、ぎこちない動きでクリスチーナ少佐の方に顔を向けると、絞り出す様な声でこう言う。
「あ……、あぁ……、あ~……、そのぉ~……、お久しぶりです……。クリスチーナ少佐……殿……」
「そんな硬くならなくて良いに……あと呼び方は、クリスで良いわ♪」
そう満面の笑みで言い放つクリスチーナ少佐もとい、クリス少佐に対し、俺は「あ~……そうすか……」と相変わらずぎこちない様子で返事を返すと、クリス少佐は「もう全く……」と、まるで母親か姉の様な口調で呟きつつ、こう続ける。
「久しぶりね。43年のアフリカ以来からしら?」
「そう……、ですね~……。それぐらいかと~……」
クリス少佐の問いかけに対し、俺は頭の中にある記憶の糸を辿りつつ、あいまいながらも、彼女と最後にあった時を思い出しながら、そう答える。
その俺の返答に対し、クリス少佐は「懐かしいわねェ~……」と昔を思い返す様に呟きながら、こう言葉を続けた。
「あの時は私が大尉、ウィーラー君が少尉だったかしら?」
「えぇ、そうです」
「ホント、懐かしいわね……。あ、そうそう!地点309の攻防戦は覚えている?」
「あぁ、あの戦いですか。よく覚えてますよ」
……とまぁ、こんな感じで昔話で盛り上がる俺とクリス少佐だが、俺は内心、ビクビクしっぱなしだ。

下手したら、ネウロイとの戦い以上にビクビクしているぞ……。

そんな「心、此処に在らず」と言わんばかりの状態でタバコの煙を吐き出している俺に対し、クリス少佐は久々の再開を心から喜んでいるかの様な笑顔を浮かべながら、こう言い放つ。
「しかし、驚いたわ……。あなたが空を飛べるウィザードだったなんて」
「まぁ……、当の本人である俺も初めて知った時は驚きましたよ……(血液真っ白だし、体の3分1はメカになってますけど……とは、口が裂けても言えんよな……)」
俺を見て、感慨深げに言い放つクリス少佐に対し、手短に言葉を返しつつ、心の中でメッチャ色々と湧いてくる考えやら、事実を必死に抑えつつ、吸い切ったタバコを灰皿に押し付け、残り火を消す。
そんな俺を見ながら、クリス少佐は手にしたアイスティーの入ったグラスを回しながら、こう言う。
「ホント、驚いたわ……。その時、丁度、ブリタニアで療養していたんだけど、驚きの余り、貴方の事が書かれた新聞を手に病院のベッドで飛び上がったわよ」
「療養……って事は、負傷したんですか?」
クリス少佐が何気なくしれっと言い放ったワードに対し、俺が問いを投げかけると、クリス少佐は「えぇ」と軽く笑いつつ、こう答える。
「アナタが所属していた第1特殊任務旅団が、ロマーニャに転戦した後、参加した防衛戦で負傷してね……。数か月ほど、ブリタリア本土で療養していたの」
「大丈夫だったんですか?」
「怪我自体は大したものじゃなかったからね。|今の隊《第79機甲師団》の指揮官に任命されたのも、丁度、この時だったわ……。病院のベッドの上で辞令を受け取ったのよ」
俺の問いに対し、クリス少佐はそう答えながら、少佐の襟章と共につけられた、真新しいブリタニア陸軍工兵隊の襟章を見せてくる。


それを見ながら、俺は「ほぉ……」と一言呟きつつ、こう続ける。
「それはそれで、貴重な経験ですね」
「えぇ。でも、それよりも……、その……」
「ん?」
俺の言葉に対し、そう言った後、突然、茶を濁す様に口ごもるクリス少佐を前にし、俺が頭上に疑問符を浮かべつつ、彼女に問い掛けると、クリス少佐は少し口ごもりながら、俺に向けて、こう言い放つ。
「ベイカー君達の事は……、残念……、だったわね……」
「………」
そう言い放ったクリス少佐の言葉を前に、俺は無言になってしまうのと同時に、303高地で見た、ベイカー達の最期を思い返し、何とも言えない感情を抱く。

それと同時に、忘れたくても、決して、忘れる事の出来ない……、あの『地獄』としか言いようのない光景……。

ただ「悲しい」なんて言葉だけでは、片付けられない、あまりにも凄惨かつ、悪夢としか言いようが無い『現実』等が、手に取る様に鮮明に脳内に蘇っていた……。

そもそも俺が人間なんだか、兵器なんだか、分からない存在になったのも、|あの時《303高地》からだよな……。

もう只々、形容しがたい、言葉にしがたい複雑すぎる感情と考えが胸中と脳内をワーッと埋め尽くす中、俺はそれらを洗い流し、一掃するかの様にウィスキーを喉へと流し込みながら、俺は絞り出す様な口調でこう言い放つ。
「まぁ……、覚悟はしていましたよ……、俺もベイカー達も……。もともと戦死率の高い、コマンドですから……、戦死するのは覚悟の上でしたよ……」
「そう……。でも、無理はしないでよ……」
絞り出すように、そう言い放った俺の言葉を聞き、まるで息子か弟を心配する母か、姉の様な表情で俺の顔を見つめながら、クリス少佐はスッと俺の左頬にそっと手を添える。

そうして、俺とクリス少佐が”お互いに見つめあう形”になった次の瞬間だった。
「フッ!」
クリス少佐が先程の心配していた表情から、一転し、少しニヤッと不敵な笑みを浮かべたかと思った次の瞬間だった……!
背後に『グワッ!』と言う文字が見えかねない程の勢いで、クリス少佐が俺の左頬に添えた手を首の後ろに回し、その回した手で俺の顔を前の方に寄せたかと思った次の瞬間には……!

クリス少佐が”俺の唇に、己の唇を重ね、同時に俺の口内に舌を突っ込んできた”のだ!
所謂、|キス《Kiss》だ……それも”|ディープキス《Deep Kiss》”である!!

そう……皆さん、もうお察しだと思うのですが、|この人《クリス》、バリバリの”キス魔”である……だから、あまり会いたくなったんだよ~!!!!

「qあqwせdrftgyふじこlp;@:!?」
「ッツッ~~~!!!!」

そんな|キス魔《クリス》による、突然の”キス”に対し、俺が何も出来ず、ただジタバタする中、クリス少佐は未だに俺と唇を重ね、激しく舌で俺の口内を舐めまわしている……

その様な”お熱い光景”を繰り広げる俺達の様子を見て、周りの兵士達は驚いた表情を浮かべつつ……。

「うわっ!あれ見ろよ……」
「お~……やっぱり英雄と称されるウィザード様は扱いが違うねェ~!!」
「まぁ~、お熱い事で……」

……と恥ずかしがったり、茶化したりする等して、各々の反応を見せる。

だが、そんな周りの反応等、お構いなしに激しいディープキスを交わしてくるクリス少佐は、その後も俺と唇を重ねた後、やっと満足したのか、「ぷはぁ!」と、まるで水泳の息継ぎの様な声を上げながら、重ね合わせていた唇を剥がすのだった。
「あ~!満足、満足~!!」
「いや……満足、満足じゃないですぉ!こっちとらぁ!!周り見てくださいよ!!!」
俺とのキスを終え、如何にも満足げな表情を浮かつつ、心なしか肌のツヤが増しているクリス少佐に対し、俺が怒鳴る様に指摘しつつ、周囲を見渡す。
そんな俺に続く様にクリス少佐も「はい?」と呟きつつ、周りを見渡していく。
そうして、二人で見まわした周囲では、俺とクリス少佐に対し、その場にいた殆どの兵士や士官達の視線が向けられている。

そんな、否が応でも、感じざるを得ない視線の嵐の中でも、クリス少佐はケロッとした様な表情でこう言い放つ。
「え~?周りの反応なんか、いちいち気にするの?」
「そりゃしますよ!周りの7割、軽く引いてますよ!!分かってるんですか!?」
耳まで真っ赤にして怒鳴り散らす俺に対し、周囲の目なんぞ、全く気する事無くケロッとしているクリス少佐は……。

「残る3割は笑ってるんだから、良いじゃない♪」

……との事。さすがはキス魔だ!美人な見た目に反して、心臓に毛が生えているとしか、言いようが無い、肝っ玉の座りしてやがる!!


そんなクリス少佐を前に俺は恥ずかしいやら、清々しいまでの完敗感等を感じつつ、顔を真っ赤にしていると、突如としてバンッ!と背中に叩かれた様な衝撃が走る。
その衝撃に気付いた俺が、後ろを振り返ると何時もの様に「ハッ、ハッ、ハッ!!」と高笑いしている少佐と、頭を抱えて「はぁ~……」と重いため息をついているミーナ中佐の姿があった。

(あ、これは、ヤバイ奴)

二人の姿を見て、もう殆ど直感的にそう感じる中、高笑いしていたこう言い放つ。
「いやぁ~……お前さん、意外とモテるんだな!この色男が!!ハッ、ハッ、ハッ!!」
「……ハ、ハハッ!」
そう言って俺の左肩をバンッ!と力強く叩きながら、改めて高笑いする少佐に対し、俺は引きつった笑顔で答える事しかできない。
そんな少佐と俺を横目見ながら、ミーナ中佐は改めて「はぁ~……」と重いため息を付き、顔を手で押さえながら、クリス少佐に対し、こう言い放つ。
「あのクリスティーナ少佐……。少しお話の程、宜しいですかね……?」
「はい、大丈夫ですよ」
ミーナ中佐はそう言って、恐らく”しでかした事の重大さに気付いていてない”クリス少佐を呼び出すと、三度……しかも、今度は長めに「ハァぁぁぁ~……」と深いため息をつきながら、クリス少佐と共に交流会の会場を後にしていく……。

(あ~……クリス少佐、ミーナ中佐に絞られるなぁ~……)

ミーナ中佐と共に会場を後にするクリス少佐を見つつ、クリス少佐に対する哀れみと、微かな「ざまぁ感」を感じつつ、やっと俺の”不安要素が離れてくれた(※と言っても、殆ど手遅れだが……)事”にホッとしつつ、ふと周りを見渡してみると、相変わらず俺に向けて、様々な感情の混じった視線が雨あられと降り注ぎ、それら降り注ぐ視線の中には、俺と少佐、ミーナ中佐を除いた、501の面々の物もある。それらを簡単に説明すると、以下の通りだ……。

バルクホルン:あまりにも衝撃的な光景だったのか、白目むき出しで、殆ど気絶状態で突っ立っている。
ハルトマン:珍しく顔を真っ赤にし、顔を両手に添え、「ヒャ~……」と一言。
エイラ:顔を真っ赤にしつつ、「サーニャハ、ミルナー!!」と叫びつつ、手でサーニャの目を覆っている。
サーニャ:上記のエイラの行動の為、周りが見えず、キョロキョロしている。
ペリーヌ:バルクホルン同様、白目むき出しで、殆ど気絶状態で突っ立っている。
芳佳&リーネ:顔を真っ赤にしつつ、お互いに「凄いね……」「うん……」と言いあっている。
ルッキーニ:サーニャ同様、目をシャーリーに覆われ、何も見えず、キョトンとしている。

……トまぁ、こんな感じで多種多様な反応を見せている|同僚達《501》を見つつ、俺は残る同僚にして、”一応”、相方であるシャーリーの方に顔を向けた。

そうして、顔を向けた先に居たシャーリーは、ジタバタしているルッキーニの目を両手で覆いつつ、俺が今まで見た事の無い表情を浮かべながら、俺の方を見ていた。
その表情を例えるなら、まるで”仲間の裏切りを目撃”してしまったチームメイトか、もしくは”伴侶の浮気を目撃”してしまった恋人もしくは、夫婦か、更に言えば、”両親のイチャコラ”を目撃してしまった子供か……。
いずれにせよ、『まるでこの世の物では無い物を見てしまった』か、『決して見てはいけない、悍ましい物を見てしまった』としか、言い様が無い表情を浮かべるシャーリー……。
俺もそんなシャーリーに対して、何と言えば良いのか分からず……。
いや……、そんな”言い訳をする”と言う、考えすら、俺は思いつかぬまま、ただ呆然と彼女の表情を見つめる事しか出来なかった……。

「「…………」」

その後、俺とシャーリーの間に”何とも言えない『気まずさ』と『居心地の悪さ』が混じった空気”が流れたのは、言うまでも無かった……。





……

………



<?Side>
色々とあった交流会も終わり、明日から始まる本格的な救出作戦に備え、事前の演習や作戦会議等の予定を伝えられた私達は、各自当てられた兵舎にて、就寝しようとしていた。
軍服から、寝間着に着替えた|私《ミーナ》は、同じ部屋を割り当てられた美緒と共に就寝の準備をしつつ、先程の交流会での出来事を思い出しつつ、ボヤく様にこう言い放つ。
「全く……。クリスティーナ少佐ったら……、もう……」
「そうだな……。周囲の目も憚らず、ウィーラー相手にお熱いキスとは……よくやるもんだ!」
私の言葉に対し、答えた後、再び「ハハッ!」と笑う美緒。
そんな彼女の姿を見ながら、私は「……もう」と鼻息交じりに呟くと、更にこう続ける。
「笑い事じゃないわよ……。こんな大事な作戦を前に、恋心なんて余計な物を抱いたら、作戦の成否……。それだけじゃなくて、彼の集中力……、生死にも関わりかねないわ……」
「それもそうだな……」
私の言葉に対し、肯定する様に答える美緒だが、直ぐに「けどな……」と言う言葉と共に、こう続けて言い放つ。
「|アイツ《ウィーラー》が人間らしさを感じるのは、あの様な『色恋沙汰』だと、私は思うぞ」
「……どういう事?」
「簡単に言えば、|機械《マシン》や兵器が『”恋”をするか?』と言う事だ」
「………」
珍しく彼女の口から、出た彼女らからぬ『恋』と言うワードに私は、思わず黙り込んでしまう……。

そりゃ私だって、過去には愛すべき者がいて、真剣にお互いに恋を育んだ物よ……。
だけど、それ故に「恋」がもたらす”悲しみ”も知っている……。
そんな悲しみを彼に背負わせて良い物なのか……?
いや……、彼だけではない……。
クリスティーナ少佐やシャーリーさんと言った彼に対して、”好意を抱いている”者にも、その悲しみを背負わせてしまうのでは無いか……?

そんな己の過去の経験から、私は美緒の主張に対し、何とも言えない複雑な感情を抱く。
だが、美緒は私がそんな感情を言葉にするよりも先に、ゆっくりとこう言い放つのだった。
「なぉ、ミーナ……。私も上手く説明する事は出来ないんだが……。|アイツ《ウィーラー》は、そもそも303高地の戦いで、仲間を全員失ったうえで、己の体を兵器化されている……。だから、『俺は何で兵器になってまで生きているんだ?』と言う考えを持っているはずだ。だからこそ、人間らしく『恋』等を経験する事で、己の”生きる理由”を見つける事が出来ると思うんだが……どう思う?」
「確かに……。貴方の主張も、一理あるわね……。でも……本当にそれが、ウィーラー君を救うキッカケになるのかしら……?」
美緒の言葉に対し、私は胸の内にある複雑な感情を、そう絞り出すように言う事しか出来なかった。

だって、そうじゃない……。

現に彼が恋をしたからって、必ずしも、”今の自分の置かれた状況に折り合いをつける”事が出来るのだろうか?
逆に”厳しい現実を目の当たりにする”事になって、絶望する可能性だってある……。
正直言って、今の彼の状態を見る限り、”後者”になる可能性の方が高いと私は思うわ……。
「………」
そんな考えと共に黙り込んでしまう私に対し、美緒はゆっくりと諭す様にこう告げてくる。
「ミーナ……。確信が無いからと言っても、何もしないままだと、変わらないんだ……。ここは一回、掛けてみるべきだと私は思うぞ……」
「そうね……、でも……」
美緒の言葉に諭される様に、彼女の提案に同調する私だが、やはり”拭い切れぬ心配”があり、その事を美緒に相談する。
「恋心が原因で任務に支障をきたさないからしら……。」
「アイツは、宮藤やリーネとは違って、百戦錬磨の元コマンド隊員のウィザードなんだ。流石に自分の中で、折り合いぐらい付けれるだろう。過度に心配する必要は無いと思うぞ?まぁ、万が一って事があれば、私達が彼を支えてあげれば、良いんだ」
「……そうね」
私の相談に対し、そう力強く言い放つ美緒の表情を見て、私もやっと決心がつく。

出来る限り、ウィーラーには、人間らしい事をさせたあげよう……。それが、”彼の生きる希望”になると信じて……。

そう決心しながら、私は美緒に顔を向け、こう言い放つ。
「ありがとうね、美緒。少し胸の内がスッとしたわ……」
「なに、礼には、及ばんさ!」
私の感謝に対し、そう言い放ちながら、ベッドの上に腰掛ける美緒を見て、私は「フフッ」と微笑みながら、こう続ける。
「それにしても……、貴方から『恋』なんて言葉が出るなんてね……、意外だわ……」
「失礼だな!私だって、殿方との素敵な恋ぐらいしたいと思っているぞ」
「あら、そうなの?じゃあ、どんな男性が好みなの?」
「ん~……そうだなぁ~……」
そう言って私の問いかけに微笑みつつ、何処にでもいる恋に憧れる少女の様にイメージを膨らませていく美緒。
そんな美緒を見ながら、私も一時、普通の少女に戻った様な気分を味わうのだった……。





……

………



<?Side>
「………」
割り当てわれた兵舎のベッドで、|私《シャーリー》は、久々に眠れない夜を過ごしていた。

久々だな……。こんなに夜、眠る事が出来ないのは……。

見慣れない天井を見つめながら、冴え切り、眠気が全く来ない頭でそう考える。
ふと隣のベッドに視線を向けると、そこでは気持ちよく爆睡するルッキーニの姿が。
「うじゅ~……、スゥ~……、うにゅ~……」
眠れない私の事など、お構いなしに何時もの様に気持ちよさそうに寝ているルッキーニを見て、ふと羨ましさすら感じつつ、私は”胸の内で渦巻く霧が掛かった様な気持ち”に1人向き合う……。

そもそも、良く考えれば、こんな気持ちになった事、産まれて17年の”人生の中でも、初めて”の様な気がするなぁ……。
まさか自分の人生でも、こんな感じた事の事の無い気持ちを感じる日が来るなんてな……。

まるで自分の心と体が分離してしまったかの様な、何ともいえない気持ち悪さを抱えつつ、ふと考える……どうしてこんな事になったのか……。
(さっきの交流会で悪い物でも食べたって事は……、無いよな……)
布団を半分体に掛けつつ、見慣れない天井を見つめながら、私は先程の交流会の事を思い出していく。
食べた食事や飲み物の事……、各国軍のお偉いさんを相手や記者を相手に営業スマイルと他愛の無い話を交わした事……、何時も基地でやっている様にバルクホルンをおちょくった事等……色々と思い返すが、いずれも経験した事、何時もの事ばかりだ……。
(特に変わった事は……、あ……!?)
頭の中で、そう思い返しつつ、結局は何時も通りの事ばかりかと思った瞬間、私の脳内に”とある光景”が鮮明に蘇る。

その光景とは……”ウィーラーとクリスティーナ少佐が、キスを交わす光景”だ。

(いや、あれはウィーラーが一方的に、クリスティーナ少佐にキスされていたのか……?)

手に取る様に、鮮明に蘇る二人のキスシーンと共に、そんな考えが一瞬頭を過ぎるが、直ぐに「そんな事はどうでも良い!」と考えを振り払う。
だが、そうやって考えを振り払ったとしても、直ぐに頭の中は今まで感じた事の無い感情と|懊悩《おうのう》で埋め尽くされてしまう……。

なんで、こんな気持ちになるんだ……?

己の事ながら、説明が出来ない、このモヤモヤとした気持ちを抱え、それを無理やり抑え込む様に「……はぁ」と息を吐き出すが、直ぐに頭の中には、先程のキスシーンが蘇ってくる……。

人とのキスを見ただけで、なんでこんな気持ちになるんだ……?

そもそもキスシーンなんて、ガキの頃、親に連れられて見に行った映画や舞台の演劇、更には漫画なんかで見た事があるから、別に珍しい物でもない……。まぁ、「生」で見たのは、そりゃ始めてだよ……。凄い刺激的な光景だったな、ありゃ……、うん……。

だ・と・し・て・も!

何でこんな気持ちになるかって、話なんだよ!重要なのは!!

まぁ……そりゃ知っている奴が目の前でキスしていたからっていうのが、一番の理由なんだろうけどさ……。

っていうか、冷静に考えれば、そもそも|アイツ《ウィーラー》も、ウィザードとか、元コマンドと言うの以前に『男』だしな……。
別に異性と恋してさ、キスぐらいするって事ぐらいあるって、ちょっと考えれば、分かり切った事じゃないか……。

そんな分かり切った事に、なんで納得できない自分がいるんだろうなぁ……。

そもそも私と|アイツ《ウィーラー》との付き合いなんて、数か月程度の物じゃないか……。
アフリカ前線&コマンド隊員だった頃からの、付き合いであるクリスティーナ少佐との関係なんて、私じゃ比較にもなりやしない……。

まるで自分に言い聞かせる様に、そう考えると同時に、私の脳内をまるで走馬灯の様にウィーラーとの思い出が駆け巡っていく……。

初めて出会った時、ウィーラーと握手するふりをして、ウィーラーの両手を鷲摑みにし、体ごと引き寄せるなり、「P-80を使わせてくれ!」と懇願し、困惑された事……。
私がバルクホルンをおちょくった際、虫の居所が悪かったバルクホルンが本気でキレて殴りかかってきた時、何時もの様に「落ち着け、バーロー!」と叫びつつ、バルクホルンを一瞬で制圧していた事……。
宮藤の出してきた納豆を前に「なんだコレ、ゲ〇か?」と素で聞いて、宮藤を本気で困惑させていた時の事……。
哨戒任務中に遭遇した、新型ネウロイとの戦闘において、熾烈なネウロイの攻撃が行われる中、応援が来るまで、二人で何とか戦い抜いた時の事……。
任務を終えた後、二人で格納庫の中で、こっそり持ち出したコーラとウィスキーで乾杯した事……。

……等々、ウィーラーと出会ってから、今に至るまでの思い出が、頭の中で次々と鮮明に蘇るのを感じながら、私は再び見慣れない兵舎の天井を見つめつつ、考えを巡らせる。

そうして、ふと脳内に1つの考えが思い浮かぶ……その考えは”私がウィーラーに対し、恋心を抱いている”と言う物であった……。

(ウィーラーに恋心だって?何を考えてるんだ、私は……?)

自分で考えた事ながら、馬鹿馬鹿しい年か、言いようのない考えだよ。
でも……、確かにこの何とも言えない複雑な感情を「言葉で表せ!」と言われたら、『恋心』っていうのが、一番しっくりくるんだよなぁ……。

だけど、本当に私がウィーラーに恋してるっていうのか……?

そりゃ勿論、私だって、乙女だから、年相応に異性との恋に憧れる時ぐらいはあるよ……。
だけど、私の中では、ウィーラーは良い”同僚”にして、欠かす事の出来ない”親友・戦友”の関係だと思っていたのに……。
まさか自分でも、知らないうちに恋心を抱いていたなんて……、何かの間違いじゃないのか……?

(でも、もしそれが間違いじゃなく、本当に恋心だったとしたら……、私は……)

唐突に降って、湧いてきた様な『恋心』と言う考え……。

それを前に、私は何とも言えない複雑な感情を抱えつつ、眠れぬ夜を過ごすのだった……。