サンダース戦、開幕!!(前編)
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<?Side>
数日後に、全国戦車道大会の開幕を控えた、ある日の夜。
俺……、武沢竹一は、学園寮の自分の部屋で、全国大会のトーナメント表を見ていた。
俺の在籍する黒森峰を始め、多数の学園が名を連ね、それと同時に、各学園ごとに、雄型・雌型、双方の隊長が、トーナメント表に書かれている。
その中の1つ……、大洗学園戦車道チームの副隊長並びに、雄型戦車道隊長を勤める、喜田川龍……。その名に、俺は覚えがあった……。
かつて、自分の父……、元・陸上自衛官にして、現・外務省外交官である|武沢徳次郎《たけざわとくじろう》の、陸上自衛隊時代における”最大のライバル”だった、”現・陸上自衛隊 福岡第12戦車大隊の最高司令官”|喜田川秀雄《きたがわひでお》の、一人息子なのだから……。
父から、聞いた話によれば、その喜田川秀雄一等陸佐は、「かなりの変人ながらも、腕は確かな陸上自衛官」で、現に東西冷戦中の1970年代の後半で、”東西冷戦の終結並びに、大国間戦争時代の終結を予想すると同時に、対テロ・対ゲリラ戦争時代の幕開け”を、速くも陸上自衛隊内で、予想した、いわば”先見の明”の持ち主だったらしい。
それと同時に、まだ旗揚げたばかりの、西住流雄型戦車道の最初の門下生……いわば、西住師範の一番弟子であり、俺にとって、”年の離れた先輩”とも言える人なのだ。
親父のかつてライバルであり……、俺の離れた先輩……、知り合いとも他人とも、何とも言えない奇妙な関係だな……。
そんなライバルの息子が、一体どう動くのか……、興味深い物だな……。
同時に、そんな彼と共に戦うのが、かつて黒森峰戦車道チームに所属していた、現・黒森峰雌型隊長である、まほの実の妹、西住みほ……。
「はぁ……」
喜田川龍と共に、トーナメント表に書かれた、その名を見ると同時に、俺は思わずため息をついた。
こう言うのは、大変失礼だと思うのだが……、彼女が、去年の戦車道全国大会で、黒森峰が栄誉有る10連勝を逃した、”原因の1つ”だからだ。
現に、全国戦車同大会にて、黒森峰が10連勝を逃したときには、この敗北のショックはチームにおいて、勝利を確信していた多くの者達を絶望させた。
そして、その絶望は怒りへと代わり、その怒りの殺意へと代わり、その殺意の矛先が、彼女と彼女が助けた三号のクルー達に向けられ、何時しか10人居れば、10人揃って『黒森峰の恥、西住みほと、彼女が助けた三号のクルーを殺せ!!』、『奴らの首を切り落とせ、内蔵をぶちまけろ!!それが正義だ!!』、『死んででも、勝利に貢献するのが当たり前だろ!!』、『10連覇の名誉に比べたら、5人の命なんて軽いだろう!!むしろ、死んでくれた方が、「チームのために命を賭けて戦った英雄」となったのに!!』……と、まず”普通の人”なら、確実に己の耳を疑う様な事を叫び、彼女に対する恨みや殺意が、一気に炸裂させていた。
例えるなら、少し前のワールドカップで4位に終わったブラジルの様に、暴動や自殺、4位に終わった原因の1つとされる『エース選手を負傷させた相手チームの選手に対する殺害予告』の様に、まさに『異常』、下手したら『狂気』としか言い様の無い空気が、学園艦を包み込んだ。
その異常な空気の元で、包丁や牛刀、ノコギリにチェーンソーと言った刃物、電動工具類に始まり、塩酸や王水と言った劇薬を使用して、彼女を殺害させる計画を考えるチームメンバーが、多数現れ始めただけでは無く、|彼女《みほ》を弁護した生徒が集団リンチされ、入院する……と言った事件が発生するなど、まさに黒森峰戦車道チームは爆発寸前の火薬庫と化した。
これらの件で、幸いにも死人こそ出なかったが、|彼女《みほ》&彼女が助けた三号クルーの殺害は、もはや”時間の問題”とすら、言える状況になりつつあった。
唯一止める事が出来そうな、前任隊長の|又彦《またひこ》隊長は、敗戦のショック&この荒れぶりに、抜け殻と化し、もはやストッパーとしての役割以前の状態であった……。
そんな状態で、もし彼女が殺害されようものなら、それを知った戦車道委員会や、教育委員会、更には文科省によって、戦車道チームだけでは無く、学園艦そのものの存在じたいが、木っ端微塵に、ちり1つ残す事無く消される可能性も出てきた。
現に、かつてオリンピック戦車道競技・西ドイツ代表選手だった、母さんから聞いた話だが、過去に交際関係のトラブルで、殺人事件を起こしたチリ共和国のオリンピック戦車道競技選手が居て、これを問題視した、チリ政府が、オリンピック参加を取りやめる……と言った事例があったらしい。
また、戦車道以外にも、かつてサッカーのワールドカップで、オウンゴールをしたサッカー選手が、このオウンゴールに怒った自国民に、射殺されるという事件もあった。
これらの二の舞になる事を、問題視した、俺を含めた現在の黒森峰戦車道チーム・各小隊の隊長となるチームメンバーが、主軸となって、彼女を殺したくて、殺したくて堪らないチームメンバーの説得に当たる物が、全ては火に油……いや、”火にタンクローリー”と言わんばかりに、逆に彼らの怒りを買うだけであった。
この状況で、交渉らしい交渉が出来る筈も当然無く、和解交渉は直ぐさま決裂。もう状況を打開する最終手段として、残された道は唯1つであった……。
それは、『|彼女《みほ》の今後を巡っての決闘』であった。
|自分達《竹一達側》が勝てば、彼女のチーム在籍&嫌がらせ行為の停止。|向こう《みほを殺したくて堪らないチームメンバー》が、勝てば、『|彼女《みほ》の強制退学(※当然ながら、彼女の殺害は認めていない)』と言った感じで、まさに絶対に負けられない戦いであった。
そうして、過ぎたる去年の秋頃、遂に決闘の火蓋が切られ、三日三晩に渡り、飲まず、食わず、眠ずの激しく、乱闘付きの戦車戦が繰り広げられた。
その激しさは、まさにバトルロワイヤル……”血で、血を洗う殺し合い”そのものであった。
この決闘の後に、何とかして俺達が勝利。向こう側の生徒達は、この決闘の結果を踏まえた上で、全員がチーム&学園を去ったのだった……。
なお、先に述べた包丁や牛刀、ノコギリにチェーンソーと言った刃物、電動工具類に始まり、塩酸や王水と言った劇薬を使用して、彼女を殺害&負傷させる計画を考えたチームメンバー達は、全員揃って退学処分&警察による補導を受けることとなった。
んで、この去り際に、向こう際のリーダー……確か、日村とか言った奴が、俺に対し、こう言い放ったのだった……。
「お前は、非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンテックな愚か者だ」
……とまぁ、何処かの海外小説の主人公に付けられた評価みたいな事を言って去っていたな……。
とりあえず、これに対して、一言言わせてもらう……、勝手にほざけ!!
あ、間違っても、この何処かの海外小説の主人公が嫌いな訳じゃない、むしろ好きだ。そもそも、この海外小説自体、お気に入りの愛読書だからな。
んで……、とりあえず、これによってチームの内部抗争にケリが付いたわけだが……、|彼女《みほ》も、このチーム内部における血みどろの内部抗争を招いた事が耐えられなかったのだろう……。
現に彼女を巡って、昨日まで共に苦楽を共にしていた戦友達が、自身の行動が原因の敗北をキッカケに、血で血を洗う抗争を始め、まさに”殺し合いを始める一歩寸前”までにチームを崩壊させてしまった事に……。
そうして、|彼女《みほ》はチームを去ったのだった……。皮肉も、|彼女《みほ》が転校したのは、”抗争が終了した3日後”であった……。
これに対して、「俺は、やるせなさ、己の無力さに打ちひしがれる事は無かった」……と言ったら嘘になるが、現に落ち込んでいる暇はなかったのだ。
俺は又彦前任隊長から、隊長としての役割を受け継ぎ、上記で書いた構想によって発生した”様々な問題”を解決する事に尽力を挙げないと行けなかったからだ。
先ず最初に、発生した問題として、”戦力となるチームメンバー不足”であった。
上記で書いたように、抗争の決着を付ける最終手段として行った決闘で敗北した、みほを殺したくて堪らないチームメンバー達が、チーム&学園を去った事により、チームの戦力にあたる”3分の2が損失”する事となり、まさに黒森峰戦車道チーム創設以来、またと無い戦力&人材不足に陥ってしまったのだ……。
この状況を打開する方法としては、とりあえず”予備メンバー”……所謂、『補欠』並びに『ベンチメンバー』の”速急な戦力化”に始まり、”留学生の大幅受け入れ”……と言った、超特例に次ぐ、特例措置を取って、取って、取りまくって、何とか戦力&人材不足を解消する事に成功。
まぁ、皮肉にも、この際、ドイツ在留時代に所属していた戦車道チームの先輩や同期、後輩達と、揃って再会する事になったりしたんだよな……。
……で、戦力&人材不足を解消したのは良いが、次なる問題として、”増強したメンバーへの訓練&教育”があった。
元々、増強したメンバー全員、戦車道に関する基本的な知識や技術を身につけていたが、それにはバラツキがあり、チームとしての戦力としては、正直、好ましくない物であった……。
それに上記でも書いたように、一度の敗北チームが根本から完全崩壊している為、多少の敗北でも動じない精神を鍛える目的で、メンタルトレーニングにおいても、高い訓練が必要なのは、もはや必然であった。
これらの訓練やメンタルトレーニングを行う事が出来る教官や教師は、学校に居らず、「どうするべきか?」と話し合われた結果、白羽の矢が立ったのが、我が母、武沢クリスティーナであった。
どうして、この様な結論に至った理由だが、母さんは、かつて西ドイツ陸軍戦車部隊の隊員として、当時最新鋭だった”レオポルド戦車”の戦車長を勤めただけではなく、西ドイツ陸軍戦車部隊の教官を務めた経験がある事に加え、西ドイツ陸軍を除隊した後に、推薦を受け、所属した西ドイツ戦車道オリンピック代表選手として、西ドイツの優勝に貢献した過去の功績に加え、現在、監督を務めている大学チームのコーチとしての実績……それも、”不祥事を起こして、立て直しを余儀なくされた大学チームの立て直しを成功させた”を買われての結論であった。
で、こうして、母さんの主導の元、チームの立て直しが始められた。
その為に、俺を経由して、今のチームの状況を伝えた時、母さんは”開いた口がふさがらない”と言わんばかりの表情で、こう言った……。
「これが全国大会9連勝の強豪校の末路ねぇ……、酷すぎて涙も出ないわ……」
……とまぁ、こう評価されても何も文句の言えないボロクソぶりが、現状だった物だから、返す言葉も無い……。
それで、この現状を踏まえた上で、母さんは”自分一人での立て直しは無理”と判断し、西ドイツ陸軍戦車部隊時代の上官や同僚、オリンピック選手時代の同僚達をドイツから招集。招集された方達の一覧としては、軍人時代における直属の上官の”バウアー中佐”に始まり、西ドイツ陸軍教官として、母さんの新兵訓練を担当した”ドランシ少佐”、母さんの軍隊時代の同僚にして、共に西ドイツオリンピック代表選手だった”カヤさん(※元西ドイツ陸軍少尉)”、母さんの後輩軍人にあたる”ヒルダ少尉”、同じく母さんの後輩軍人の”ユート上級曹長”等を始めとして、『世界最強の警察特殊部隊』として、高い評価を受けている、ドイツ連邦警察の特殊部隊|GSG9《ゲーエスゲーナイン》の訓練教官を務めている”アルベルト氏”や、母さんが直接、西住師範に頼み込んで、訓練教官として、参加してもらった西住流のエース門下生達……と言った並々ならぬ技術とカリスマ性溢れるコーチ達の指導の元、チームの立て直し&再編が進められた。
因みに、何で「元警察系特殊部隊の関係者が?」と思った方もいるので、説明すると、当時の西ドイツは、まさに東西冷戦において、アメリカとソ連の両軍が激突し、冷戦が”熱戦”になる事が考えられた場所であると同時に、国際テロリストによる無差別テロ、過激派による暴動行為など、ありとあらゆるリスクが考えられた為、「東西冷戦時における世界の弾薬庫」とも言える状況になりつつあった。その為、西ドイツ軍とGSG9は積極的に合同訓練を行っており、これが縁となっての参加である。
その一環として、行われたのが、現在俺が率いている”レッドタイガー小隊の設立”であった。
昨年の全国大会の敗因として、”ありとあらゆる状況に対応できる部隊が居なかった”事を母さん達は指摘し、それを克服する為に、”ありとあらゆる状況に素早く対応し、どんな圧倒的不利な状況においてでも、決して折れる事の無い強靱なメンタルを持つ部隊”の設立を決定した事に加え、”皮肉にも、先に述べた決闘の際に、俺達が臨時編成した少数最精鋭の小隊が予想以上に活躍した”事から、これを参考にして、小隊の編成を決定したのだ。
因みに、何故、雄型で設立されたのかというと、”雄型の歴史は、雌型に比べると、まだ30年程度と短く、歴史が浅い故に、伝統に捕らわれず新しいスタイルの部隊の設立がしやすい”……というのが、2つある理由の1つ。
もう1つとしては、この小隊を設立するに当たって、行われた選抜試験……、隊長である俺が言うのもなんだと思うが……「よく乗り越えられた物だ……」と、自分でも思うぐらいにハードな選抜試験であり、ハッキリ言って”高校生の女子には無理”な物だからだ。
まぁ……、その選抜試験の内容としては、次の様な感じだ。
1.西住師範を始めとする、コーチ陣による厳密な書類推薦。
2.書類推薦された生徒達に対して、西住師範の筋金入りの西住流門下生達との殲滅戦。
3.上の殲滅戦で残った生徒達に対して、今度は、母さん並びに、その元同僚、後輩達によって、二回に渡って行われる二次選抜試験。
4.上の3で残った生徒達に対して、2の西住流門下生、3の竹一の母さん並びに、その元同僚、後輩達で編成された部隊にて、殲滅戦を行う最終試験。
……と言った感じの選抜試験であり、今、現在、レッドタイガー小隊に所属しているメンバーは、全員揃って「二次選抜試験が、一番キツイ……」と言う。
まぁ、それもそのはず、二次選抜試験で、行われた試験内容としては、先ず最初にGSG9訓練教官だった、アルベルト氏主導による選抜テスト。その内容一覧が下になる。
1.約10キロ以上のフル装備にて、20キロ行軍試験。
2.高さ11.25メートルの鉄塔の上に張られたロープを渡るレンジャー試験。
3.同じく高さ11.25メートルのパラシュートタワーから、500回以上、降下する、降下塔試験。
4.学園艦から、沖合30キロの海上にヘリから落とされた上で、30キロ泳いで、戻ってくる、遠洋試験。
5.暴徒側と鎮圧側に分かれて、約3時間以上、殴り合う暴動鎮圧試験。
6.高度1万メートル以上を飛行する航空機から、パラシュートで自由降下する|高高度落下低高度開傘《こうこうどらっかていこうこどかいさん》、通称:|HELO《ヘイロウ》ジャンプ試験。(※なぉ、この試験は、アルベルト氏のコネでインストラクターとして招かれた、現役GSG9隊員指導の元で、行われた)
……とまぁ、戦車道を詳しく知らない人に「軍隊の特殊部隊における選抜試験だよ」とでも、言ったら、確実に通用しそうな試験内容の数々だが、これ以外にも、15項目に及ぶ選抜試験があり、これらの選抜試験を全て合格した者が、次の二回目の選抜試験を受ける事が出来る。
まぁ、これも、中々のキツイ物であり、その内容は『母さん並びに、その元同僚達との殲滅戦』という、もう聞いただけで、気絶しそうになる内容だ……。
それで、実際に受けてみての感想だが……、もう本当に「狂気の沙汰に首を突っ込んでいる」と言っても過言では無いぐらいに、激しい物だった……。
だって、第二次世界時の戦車で”7キロ超える超遠距離で、生徒側の戦車を一撃で撃破”したかと思ったら、”市街地で、いきなり隠れていた建物の壁をぶち破って奇襲攻撃を仕掛けてきたり”……と、もう予想も出来ない攻撃ばっかりしかけて来たよ……。
いや、はや、本当に、我ながら、こんな選抜試験を潜り抜けてきた物だと思うよ……。
まぁ、だが、こうした厳しい選抜試験の末に選ばれた隊員達によって編成されたレッドタイガー小隊は、今となっては”高校戦車道チーム史上最強”の称号を得るまでになった。
この部隊の初代指揮官に任命されたのは、またとない誇りである。それと同時に、レッドタイガー小隊の初代指揮官&新・黒森峰戦車道チーム雄型隊長としての腕前が試される試練の場でもあるのだ……。
なお、ここからは、少し息抜きを兼ねて、余談にしよう。
創設当初、レッドタイガー小隊は、俺の乗る10.5cm砲搭載型のキングタイガーが1両、ポルシェ砲塔型のキングタイガーが2両の”合計3両”で編成された小隊だったが、デビュー戦となるマジノ学園との練習試合(※殲滅戦)では、”マジノ学園の全戦力の3分の1を、俺達レッドタイガー小隊単隊が撃破”し、『赤い虎の衝撃!!黒森峰雄型戦車道チームが誇りし、最強小隊、レッドタイガー小隊デビュー!!』と言った感じで、かなり盛大に報じられたのだが……。
実は、この時、マスコミ関係者に配られた戦車道委員会発行の試合の資料には、俺達のチーム名は”レッドタイガー小隊では無く、ドイツ語で『|Roter Tiger《ローティータイガー》』と書かれていて、その横にドイツ語が分からない人の為に向け、書かれていた”レッドタイガー小隊”と言う英訳を、”小隊名と勘違いしたマスコミ各社が報じた”事がキッカケとなり、更に試合における小隊の活躍があまりにもインパクトがあり過ぎた為、もう訂正する暇も無く、あっという間にその名が、戦車道界を浸透してしまい、もはや自分達もレッドタイガー小隊を名乗らざるを得なくなってしまった……と言う様な”嘘のような、ホントの話”があったりする。
でもって、この翌年、1年生が入学し、戦車道チームに加わると、俺達が受けた選抜試験と全く同じ選抜試験を行い、合格した10名が、”タイガーⅠ 最後期型”と共に配属され、小隊編成は戦車5両、メンバー25名で、編成完了となり、現在に至る訳だ。
なぉ、俺はレッドタイガー小隊の隊長としては”初代隊長”だが、黒森峰雄型隊長としては”7代目”にあたる。
そして、現在、雄型副隊長である玉田が率いているブラックパンサー小隊だが、これはレッドタイガー小隊の選抜試験における、最終選抜試験&二次選抜試験を落ちたメンバーの中から、優秀なメンバーを選び抜いた上で、編成された部隊である。
更に、更に、現在、黒森峰戦車道チームで行われている訓練プログラムは、全て、このレッドタイガー小隊の選抜試験を元に考察された訓練プログラムで、内容として”雄型・日常訓練プログラム、雄型・合宿訓練プログラム、雌型訓練プログラム、隊長選抜試験プログラム”……と言った複数の訓練プログラムを元に日々、訓練&メンタルトレーニングを行っている。
んで、そんな7代目隊長に当たる俺の対戦相手に、かつての戦友……、そして世代を超えたライバルが居るとはな……。
よく「人生何が起こるか分からない」と言うが、本当だよ……。この度の再編成と、今回の全国大会で、しみじみそう思う……。
俺は、そう思いながら、手にしたトーナメント表を、机の上に置く。
そして、トーナメント表と変える様に、机の上に置いてあったコーヒーを取り、喉へと流し込んだ瞬間だった。
『I received your email.(※メールを受け取りました)』
軽快な着信音と共に、机の上で開いていたノートパソコンの画面上に、メール着信を示す画面が表示される。
「んっ?」
この突然のメール着信に対して、俺は疑問符を頭に浮かべながら、パソコンを操作し、メールボックスを開く。
すると、そこに書かれていたメールの差出人は、かつてドイツにいた頃の、戦車道チームの戦友だった、日系ドイツ人の……”中須賀エミ”からだった。
『|Ihm wird eine Post nach einer langen Abwesenheit gesandt, waren Sie gut?《久しぶりのメールになるわ、元気にしてた?》エミよ……』
「おっ、久々だな……」
ドイツ語と日本語混じりで、書かれた彼女のメールを見ながら、俺はそう呟いた。
彼女とは、先にも行ったように、俺がドイツにいた頃に、所属していた戦車道チームの戦友だ。
同じ、日系ドイツ人ということで、何かとからかわれていた彼女を、騎士道精神故に見捨てて置けず助けた所から、知り合って、先に行った様に、同じ日系ドイツ人と言う事で、何かと話の馬も合って、事実上の”相棒”とも言える関係だった。
今現在は、俺が日本にいることで、離ればなれになってしまったが、時たま、こういったメールでのやり取りを始め、ドイツに里帰りした際には、必ず時間を使って合う良き関係だ。
そんな良き相棒(※元)のメールを読みながら、俺は返信の為に、キーボードを叩くのだった……。
…
……
………
<?Side>
「大洗のみんな。元気やってるかしらね~」
私こと蝶野亜美は、成長しているであろう西住みほ率いる大洗チームを拝めるのでワクワクが止まらない。
前回の練習試合は残念な結果になってしまったが、今の大洗の実力は、前の時とは違うはず。
それに、新しいメンバーや戦車も増えたと聞いたし。どんな状態なのか楽しみでしょうがない。
ルンルン気分で、私は演習場へと向かう。
しかし、演習場に入った途端固まってしまった。
「よし!次は走行間射撃だ!偏差射撃も出来ないと一人前になれないぞ!」
インカムをつけ、双眼鏡を覗きながら指示を出すハードボイルドな白人男性。
「その調子だよ~!うさぎさんチームのみんな~イェ~イ!」
グラサンをかけヒャッハー!と叫ぶ頭のイカレタ白人?。
「よし……吹き飛ばせ」
モロ軍人の雰囲気を出しながら指示を出すゴツイ体のロシア系の男性。
いつから、ここは軍の演習場かデポになったのかしら‥‥?
どう見ても一般の人間に見えない人間が…大洗のメンバーを指導していみたいだけど。
よく周りを見てみたらベルゲパンターやその他の補給物資など大量に置いてあるし。
大洗って財政的に、かなり厳しかったんじゃ?
グラサンをかけた初年の老人が携帯でがなりたて、同じくグラサンをかけたちょび髭の白人男性がタブレットを操作しながら周りにいる金髪の女性に指示を出していた。
一部除いて元軍人みたいだけどね。それにしても、むせる。
そして、偶然近くにやって来たつなぎを着た女子学生に声をかけた。
「ねえ?あの人達は誰なのかしら?」
「え?あの人達ですか。この学校の戦車道のスポンサーと協力者の皆さんですよ」
「ス、スポンサー?」
「ええ、海外のどこかの資産家と……この学園艦にある榊原工務店の榊原さんです!特に資産家の人は資金面で貢献してくれてるんで助かってます」
榊原…どこかで聞いたことがある名前だけど……どこかで聞いたことがあるんだけど思いだせないわね。
後、海外の資産家はどうして大洗のスポンサーになったのかしら?西住さんの知り合いと思えないけど。
その時、聴きなれたマインバッハエンジンの音が聞こえてくる。思わずエンジン音がする方を向くと黒森峰でも使われているパンターG型がこちらと向かってくる。
「パンターG…大洗の新戦車ね。誰が乗ってるのかしら?」
そう呟きパンターから出てくる人間を確認する。キューポラから出てきたのは、巽先輩の一人息子の…志郎君!?私の可愛い弟みたいだった子。
私は懐かしさのあまり駆けだすと彼を抱きしめる。
「志郎君!久しぶりぃ~!!大きくなったわね~!!」
「うお!?あ、亜美ねえ!?」
…
……
………
<巽Side>
「志郎君!本当に久しぶりぃ~!!」
そう言いながら抱き着いてきたのは、あの「亜美ねえ」こと蝶野亜美さん……いや教官だな。
ちっちゃいころに色々遊んでもらったのを覚えている。
しかし、亜美ねえの抱きしめられるのはいいがすこし苦しい……。顔が柔らかいものに挟まれて少し息苦しい。
「苦しいんだけど……亜美ねえ!」
「あら、ごめんね!でも、志郎君が戦車道に参加してるなんて思ってもいなったわよ。それもパンターだなんて」
やっとこさ解放されたのはいいが、少し周りの視線が痛い。特にヒルターさんや一部の男子からだが……。
「運が良かっただけだよ。偶然見つけても……後、他には三式中戦車なんかも発見したしさ」
「凄いわねえ!旧日本軍の戦車が3種類も見つかるなんて滅多にないわよ」
驚いたように口を開く亜美ねえ。そりゃそうだ。旧日本軍が初期と末期になって開発した戦車が3種類もそろったのだから。
そして、久しぶりという事で昔の懐かしい事を話していると、ハンニバルさんやおやっさん、ヒルターさんがやってきたのが分かった。
「ほう。この嬢ちゃんとは志郎の知り合いかぁ……」
「おっぱいp「少し黙ってた方がいい!」」
と、危ないことを叫ぶヒルターさんの口を塞ぐハンニバルさん。
「あ、忘れてた。紹介するね。俺が世話になってるお店の店主榊原のおやっさん、スポンサーでドイツから来たヒルターさん、この人は元第75レンジャーに所属してた人でハンニバルさんだよ」
ハンニバルさんの所属を聞いて驚く亜美ねえ。そりゃそうだ元米軍の軍人が亜美ねえが居ない間の指導をしてくれてるのだから。
そして、ゆっくりグラサンをとるヒルターさん。顔を見て固まる亜美ねえ。
「似てるだけだ……顔が……」
「志郎君……お姉さん。心配になってきちゃったわ」
「大丈夫だよ。多分」
そのうち、他のメンバーがやってきてにぎやかになる。俺と亜美ねえの昔話になるとヒルターさんが悔し涙を流して聞いている。
いや、ちっさい頃に添い寝やお風呂はあったけど、幼児だったしね。仕方がない。
「羨ましい……羨ましすぎる」
周りは、少し引いている。
そして、なんだかんだ言って演説しようとする。
「何を言い出すんだ?」
「お風呂演説?添い寝演説?」
「いや、胸の演説だと思うぜよ……」
「「「それだ!」」」
「いやらしい演説だー!」
「アイー!」
「セクハラー!」
女子を始めとするメンバーの台詞の内容は痛い。先日の顔合わせの際に行われた演説があまりにも”H"でセクハラ的なものだったから当たり前だ。
そして、ヒルターさんが近くにあった弾薬箱の上に立って演説を始めようとするが…なぜか、体のバランスを崩してしまい前方の方に倒れて行く。
「ノオオオオオ!!」
なぜか、英語っぽい悲鳴を挙げながら前方に倒れるヒルターさん。その前には、亜美ねえが居た。
「あ、危ない!?」
ヒルターさんが、亜美ねえを押し倒すような形で倒れているのが目に入る。しかも、両手が亜美ねえの胸に添えられている。つまり、揉んでるという状態だ。
「「「「「………」」」」」
皆唖然としている。当然だ。事故とはいえ、うら若い女性自衛官の胸を揉んで?しまっているのだから。
西住隊長の方に目をやると、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたりする。副隊長に至っては、既に銃を抜いてるぞ……。
「手離してもらえませんか?ヒルターさん」
俺の耳に、亜美ねえの明るく冷たい声が入る。ついでに……。
「ヒルターさ~ん。いけないねぇw」
顔は笑っているが、冷たい眼をしている角谷生徒会長が居た。
確か、前のヒルターさんの自己紹介で胸の格差社会発言で切れてたはず。
「遺言……じゃなかった。言い残すことは?」
「や、柔らかかった……おっぱいぷるんぷるん!」
ガクブル状態で叫んだヒルターさんは、亜美ねえの胸から手を放すとそのまま走ってどこかへと逃げていく。
「ねえ、志郎君。お姉さん……お願いがあるんだけど~」
後ろから優し~い声を出しながら、俺の肩に手を置く亜美ねえ。はっきり言って怖い。
「な、なに?」
「ヒルターさんがにげそうな所を教えてくれないかしら?」
駄目だ。逃げられない。何故か、俺の本能がそう告げている。
「家です」
「即答かよ」
室戸がぼそりと呟くの聞こえる。
「ほんとだ」
黒崎も同じように口を開く。
「ありがとう。志郎君。後でお礼してあげるからね。あ、ヒルターさんの住所も教えてね♪勿論、志郎君のもだけど」
仕方なく自分の住所とヒルターさんの住所を教えると亜美ねえは、この場を去る。
「ヒルターさん。大丈夫か?」
阿仁屋が、全然心配してなさそうな顔で言っている。
「大丈夫だろうよ。ヒルターさんの家のセキュリティは要塞なみだからな。まあ、無理だろうな」
「あの教官殿なら突破しそうな気がしますが」
反田が他人事のように呟く。
「突破したら突破したでヤバいんじゃ」
伏も亜美ねえが消えた方角を見ながら言う。
「突破されるんじゃないですか?そんな気がしますよ」
と黒崎が面白そうな表情をする。
すごく不安な気がしてくる。大丈夫だろうか?
「ど、どうなっちゃうのー!?」
隊長の西住が、とうとうこの場の空気に耐えられず思わず叫んでしまう。天に運命に任せよう。
…
……
………
<龍Side>
「あ~……、疲れた~……、マジで死ぬかも……」
寮に戻って来るなり、開口一番で俺はそういいながら、リビングの食卓の椅子に座り込む。
あー……「久々の更新で、送れて登場した主人公が、最初にこんな事を言ってるのか……」とか、言うなよ?
だって、練習時の蝶野教官における修羅場に始まり、その後、ヒルターさんをぶっ飛ばして戻ってきた、蝶野教官主催の元、開かれた、反省会兼懇談会で「なんか面白い話しろ」と言う”定番の無茶ぶり”を喰らったりで、なんかもういつも以上に神経はすり減り、脳みそはオーバーヒートしているんだからな……。
ついでに腹も減った……。なんか手軽に喰える物あったっけ……。あ~……、確か、カップラーメンがあったかな……。
もう既にエネルギーが底をつきた、脳みそを無理矢理、回転させる様にして、思い出した食料の居場所である戸棚を開ける。
すると、そこには”カップラーメンの自衛隊モデル”があった。
確か、福岡にいる親父が「売店の仕入れ担当が、間違えて大量発注して余った物だから、テキトーに食えば?」とか言って、突然送ってきた物だったな……。
うーん……、まれにスーパーで間違えた発注入れてしまって、大量に来た商品を”自爆価格”で販売……なんて、おもしろ画像の本とかで、見た事があるけど、自衛隊でもあるんだな……。
っていうか、これって”軍事物資の横流し”……って事は考えないでおこう……うん、それが幸せだ。
そう思いながら、俺は電気ポッドに水を入れ、コンセントを入れ、お湯を沸かす。
お湯が沸くまでの間、俺は椅子に座り込み、ダラーっと力を抜いて、完全に脱力する。今日は本当にいろいろとあったからなぁ~……。
っていうか、意外だったな……、反省会兼懇談会での無茶ぶりに答えるために話した、”親父の武勇伝”が予想以上に受けが良かったのは……。
ん、「親父の武勇伝」を知りたいってか?いや、別に話しても良いけど、みほ達に受けが良くても、読んでいる読者に受けが良いかは保証しないよ、俺は。それでも聞きたい?なら、話そう……。
まぁ、簡単にまとめると下の2つになる。
1.機甲科訓練生時代に乗っていた61式戦車が、演習場を大暴走。
2.新人戦車隊長時代に乗っていた61式戦車が、突然爆発&炎上。
……って感じの話でさ。特に大した内容じゃないんだけどね……。
え、「十分大した内容だよ!!」って、そうかねぇ~……?まぁ、いいや。
では、先ず最初に1の方から話すとしよう……。
これは親父が防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊機甲科の隊長候補生&戦車搭乗員訓練生として訓練学校に入学して、約半年の頃だったらしい。
その日、親父は他の隊長候補生&戦車搭乗員訓練生と共に、61式戦車に乗って実車訓練に当たっていたらしい。
まぁ、隊長なので、戦車の操縦や砲撃などは行わないけど、戦車乗りの指揮艦である以上は、自分が乗る戦車について知っておかないといけないからな。
で、その日、親父は砲手として61式に乗っていたのだが、妙にスピードが速かったらしく「やたらと飛ばすな~……」と思っていたけど、特に気はしてなかったそうだ。
もし、この時、顔を出して外を確認していたら、親父は自分が置かれた状況を一瞬で理解しだろうが、61式は4号や、5式などとは違って、砲手は外を照準気以外で見る事が出来ない車両で有るが故に、後で衝撃の事実を知る事になったらしい……。
で……、それで暫くして61式が停車し、61式から、下車した親父は操縦主に「おい、妙にスピード出してたな?」と軽い気持ちで問い掛けたのだが、その時、操縦主は完全に青ざめた表情で、手もブルブルとふるわせながら、タバコを吸っていたらしい。
流石に、それを見て親父も「ん?」となったらしく、すぐ近くで妙にげっそりとした表情の車長と装填主に話し掛けたそうだ。
この親父の問い掛けに対して、車長は”衝撃の事実”を親父に告げた……。その事実とは……。
実は、この時、「5キロ近くもある長い坂道を下っている際に61式のギアが、ニュートラルに噛んだまま抜けなくなってしまったらしく、もう”操縦が全く効かない状態”で、坂道をフルスピードで駆け下りてきてきた」と言う……、つまり『暴走』していたのだ……。
流石にこの事実を知ったときは、親父も真っ青に青ざめたらしく、今でも「あれほど、ゾッとした経験は無いよ」と言っている……。
これは余談だが、『世界一操縦が難しい戦車』とも言われる61式だが、親父は、この戦車の操縦訓練を行っている際に、どういう訳だが、”鋼鉄製のクラッチレバーをへし折り、教官にたこ殴りにされた”事もあったりするらしい。
そして、次に2の方を話すとしましょうか……。
これは上の出来事も経験した訓練学校を卒業し、新人戦車隊隊長として着任した部隊での事……。
ある日、実弾演習を終えて、戦車中隊本部まで帰還していた時の事だった。
当時、親父は最新鋭の74式が配備されてなおも、現役だった61式に乗って、部隊の指揮を執っていたのだが、ふと後ろを見た際に、エンジンから黒煙がもうもうと上がっているのを見たらしい。
それを一目見るなり、直ぐさま、操縦主に対して、停止を命じ、素早く操縦主が停止させた瞬間には、「ドーン!!」と言う音と共にエンジンから、一気に炎が上がったらしい。
これに対して、親父は直ぐさま、火災消火システムの起動を指示し、操縦主がそれを作動させたのが……、何故か作動せず、消火する所か、火の勢いが強まるばかりで、もはや危険な状態になった為、親父は搭乗員全員に下車を指示。
全搭乗員が、逃げ出すように戦車から降りた瞬間には、もう凄まじい勢いで戦車全体が燃えていたらしい。
そんな状態を前に、当時新人士官だった、親父は、もう完全にパニック状態で、エンジンに砂を掛ける事を指示。
残る小隊の戦車の搭乗員全員が参加する様な形で、ひたすら砂を掛けていたらしい……。
で、唯一冷静だったのが、自衛隊が、保安隊だった頃から、勤務していた小隊1のベテラン曹長で、自身が指揮を担当していた戦車の搭乗員に対して、親父に加わるように指示を飛ばす一方で、自身は中隊本部に連絡を入れ、”中隊長などに報告”を入れると同時に、”消防小隊に対して、化学消防車の出動要請”や、”整備中隊にM32戦車回収車の出動要請”を一人していらしく、親父も気が付いたら、消防車や戦車回収車が来ていた……と言った感じで、新人士官だった親父の出来なかった事を一人で行って見せたのだ。
んで、これ以降、親父がよく言っていたのが「ベテランの人ほど、一番頼りになる物はないぞ」と言う事である。
それで、作動しなかった火災消火システムだが、この火災事故を受け、直ぐさまメーカー立ち会いの元、全ての戦車が検査されたが、何と”6割近い戦車で火災消火システムが作動しなかった”と言う事で、少なからず当時の防衛庁(※2009年に防衛省に格上げ)&国会で問題になったとか……。
……とまぁ、こんな感じの話をしていたら、裕也に言われたのが次の一言だ。
「お前って、”屈折したファザコン”だな」
とりあえず、一言良いか、裕也?
”シスコン”のお前に言われたくねぇえわああああああああああああーっ!!
いや、いや、いや、いや、いや!!俺がファザコン!?そんな訳ないでしょうが!!
だって、現にメールとか送られてくるたびに、『生まれる親を間違えた』と本気で思うような内容を送ってくる父親だよ!?
っていうか、メールとか送られてこなくても、三日に一度、『生まれる親を間違えた』って本気思っているからね、俺!!
そんな父親にファザコンになる人って、世の中、隈無く探がしても絶対居ないぞ!!
だって、上の話をしたのも、「面白い話をしろ」って無茶ぶりに対する回答案みたいな物だし、現にネタとして面白でしょ!?
だから、絶対に間違っても、ファザコンじゃないぞ、俺は!!
っていうかさ、小学校4年の時に、信号無視&飲酒運転の暴走デコトラに跳ねられて、20メート以上ぶっ飛び、近くのコンビニの自動ドア突き破って、反対側にある商品棚に突っ込む程の交通事故にあって、”右側頭部の頭蓋骨が吹っ飛ぶ重傷”を負った時ですら、「アハハ、この程度で死なん、死なん!!」と笑っていたときは、本気で「呪ってやる……」と思った父親だよ!?
何をどう勘違いすれば、ファザコンになるのさ!?
全く、親父の話を2つしただけで、ファザコン扱いされる世の中……全く、どうかしてるぜ!!
それ言ったら、モテない余り、ヤンデレ化が進む沙織と同じ様に、”ヤバイ方向”に進もうとしている葵の方が、マズイだろ!?
だって、遂に”人外物(※そんな主の漫画を読んでいた)”に手を出したぞ、|アイツ《葵》!!
いや、いや、いや、何をどう考えたら、人以外の”ラミア(※神話上に登場する下半身が蛇の女性)”とか、”ハーピー(※同じく神話上に登場する手に鳥の羽の生えた女性)”とか、”ケンタウロス(※左の2つと同じく、神話上に登場する下半身が馬の亜人)”とかに走ろうとするの!?
つーか、一番出来ないのは、葵のお気に入りが”アラクネ(※神話上に登場する下半身がクモの女性)”のキャラな訳!?
このキャラ見せられた瞬間、俺、「条件反射」で海外仕様の超絶強力なクモ用殺虫剤”(※東南アジアや南米など、人も殺す毒を持つ毒グモ対応)”を”二丁拳銃宜しく、両手に持って葵の顔面に向けて大噴射(※絶対にマネしないでね)”したよ!!
実物は当然、外見は”完全に人間”のス○イ○ー○ンすら、駄目な俺からすれば、問答無用で気絶するレベルなんですけどぉぉーっ!?
こんな俺に対して葵は、「こんな美人がクモな訳無いだろ!!巨乳だし、ドSだし!!脚、メッチャ艶めかしいし(※こいつ、脚フェチ)!!」とか言っていたけどさぁ~……。
何だ、脚フェチと童貞を拗らせるとクモの脚にすら発情できるようになるのか!?クモ恐怖症の俺には一生、理解できねぇ!!
っていうか、沙織の方も、「何処の頭の可笑しい出版が出した!?」と突っ込むこと確実な、『正しい既成事実の作り方 確実に男とを落とす逆○○○実践法』なんて本読んでいたよな……。
……とまぁ、こんな感じでギャー、ギャー騒いでいる俺と葵を見て、アヒルさんチームもとい、バレー部のあけびが、何処か遠い目で俺達を見ていたな……。うーん……、何でだろ?
あ、上で書いた交通事故の詳しい話は、また機会があったら話すとしようか……。
因みに、余談だが、上の交通事故の後、警察は勿論、俺が自衛隊の指揮官の息子と言う事もあってか、自衛隊の|警務隊《けいむたい》やら、警察の公安部やら、防衛省の調査官などが、飛んできて事故原因の捜査や、逮捕された運転手への取り調べを行ったそうだ。
こうなった理由だが、この事故の少し前に、かなりぶっ飛んだ宗教団体が、自衛隊唯一の空挺部隊……第1空挺団の隊長の娘を人質にして、宗教団体の私兵化の要求を突きつけようとした事件があった事に加え、仮想敵国のスパイによる破壊工作の一環などが疑われた為らしいが……、うーん……、もはや何が何だか……。
な~んて、心の中で叫んでいる内に、お湯が沸いたので、俺は素早くカップラーメンの蓋を開け、お湯を注ぐと、プラスチックフォークを刺して、蓋をしながら、タイマーをセットする。
んで、三分待つ間、テレビでも見ようかと思い、俺はリモコンに手を伸ばすと、電源ボタンを押す。
瞬間、テレビが付き、この時間帯に放送しているニュース番組が、画面を流れる。
しかも、今、放送しているニュースの内容は『全国戦車同大会』に関する物で、個人的にかなりタイムリーなニュースだ。
でもって、更に今、放送しているのは、前に練習試合を行った”聖グロリアーナ戦車道チーム”についてだった。
いやぁ~……、偶然にしてはできすぎじゃないか……。まぁ、作者が書いているんだから、そうなるんだろうけど……。
「ん?」
そう思いながら、テレビに視線を向けた瞬間、そこで放送していた内容に、俺は思わず刮目した。
だって、そこに映し出されていたのは、聖グロリアーナ雄型戦車道チームが、黒森峰雄型戦車道チームが誇る最強チームの”レッドタイガー小隊”に対抗するべく、編成した『|リッパー《死神》小隊』だった。
うーん……、一番伝統とかにお堅い聖グロリアーナ戦車道チームですら、遂に対抗部隊を編成し出すとは……。
まぁ、でも、雌型に比べると、雄型は歴史が浅いしな……。浅い故に、案外、すんなりと新スタイルの部隊の編成がしやすいんだろう……。
そう思いながら、俺はテレビ画面の中で、演習場を走り回り、撃ちまくるリッパー小隊の”センチュリオン巡航戦車、ブラックプリンス(※2台)、コメット巡航戦車(※2台)、アーチャー対戦車自走砲”を見つめていた。
っていうか、このリッパー小隊が使っている無線内容って、恐らく”コードネーム”なんだろうな……。
だって、”プライス”とか、”マクミラン”とか、”ソープ”とか、紅茶の銘柄以外の名で連絡を取り合っているし……。
つーかさ、なんか、これ何処かのコードネームって、”某有名FPSに登場するSAS隊員達の名前”じゃないか?まぁ、良いんだけどね……。
というか、それ以上の問題とも言えるのは、ジッパー隊長の搭乗車両以外に、トータス重駆逐戦車が居る事だな……。
画面に映し出された2台のトータスを前に、そう思うと同時に、三分経ったらしく、タイマーが「ピピピッ」と時間を知らせる。
それを合図に、俺は刺していたフォークを抜き、SDFヌードルの蓋を開けると、一気に中身を食していく。
正直、特に大した事は無く、味としては普通のカップラーメンなんだけど、逆にそれが無難で良いんだよな……。
無駄に自衛隊仕様として、塩分多めとか、カロリー超高めとかじゃないも、嬉しいところである。
SDFヌードルを食べ終え、殻になった容器をゴミ箱に放り込むと、まるで、デカイ仕事終えて、自宅に帰ってきて、缶ビールとのり弁当とかで、晩酌した後に脱力する、一人暮らしのサラリーマンの様に、俺は自分のベッドに倒れ込む。
「ふいぃぃ~……」
声にならない声を上げながら、俺はベッドの上で背伸びをし、凝り固まった筋肉を伸ばしていく。
ある程度、筋肉を伸ばし終えると、俺は、ふとベッドの脇に置いてある一枚の写真立てに目を向ける。
「………」
その写真立てに入った写真は、中学の時……M24チャーフィーで、パンターを撃破したときの試合で、試合後にパンターを撃破した事を記念して、撮影した写真。
当時の搭乗車両だったM24チャーフィーをバックに、俺と共にスクラムを組むのは、中学の時に共に苦楽を共にした戦友達……皆、掛け替えのない存在だ。
中学を卒業すると同時に、みんなバラバラの道を歩んだが、忘れることは出来ない奴らばっかりだ。
今回の全国大会……、もしかしたら、皆揃って、見ているのかもな……。
だとしとら、なおさら、副隊長としてしっかりしないとな……。みほの為にも、あいつらの為にも……。
再び、写真立てに入ってる写真を見つめ、俺はそう思うのだった……。
そう思うと同時に、全国大会開催の時が……、俺達の戦いの火蓋が切られる時が……、刻一刻と近づいて来るのだった……。
…
……
………
そして遂に、全国戦車道大会、開催の日がやって来た。
開催の花火が打ち上がる中、戦車道連盟が保有しているモニュメントとして九七式中戦車を始め、多数の食べ物や飲み物の屋台やグッズの販売店が軒を連ね、多数の観客達で露店街は賑わっていた。サンダース側の観客席は既に観戦する生徒達で満員であり、「GO!GO!サンダース!」や普通に「サンダース」と大きく書かれた横断幕までご丁寧に用意され、チアガール達も「GO!GO!サンダース!FIGHT!」と声を挙げて応援のパフォーマンスを行っている。う~ん、流石優勝候補の一角で金持ちってだけあって応援もスケールが違うぜ……。
一方、大洗側の観客席はと言うと……まァ、無名の弱小校なので当然と言えば当然だが観客もまばらで、精々ウチの生徒達数人や秋山のお父さんとお母さんを始めとした選手の家族数名、そして物好きな大洗の地元人達が多からずも少なからず席に座っている程度だった。
つーか葵、玄田、お前等何ジロジロとサンダースのチアガールの生脚パンチラ見てニヤけてやがんだ!?学校の恥になるから止めろ!!沙織もイケメン探しなんてしてんじゃねェ!!木場一筋じゃなかったのかお前は!?
……それと、観客席から少し離れた場所では何と、練習試合で俺達を負かしたあの聖グロのダージリン、ジッパー、オレンジペコ、ドアーズの4人がまた例によって優雅なティータイムと洒落込みながら試合開始の時を待っていたのだが、当の俺達は知る由も無い……。
んで、その頃、俺達、大洗学園戦車道チームは、試合前の最終点検を行っていた。
「賑やかなもんだな」
「あぁ、そうだな」
会場の盛り上がり様を感じながら、俺は裕也と共に五式の後方にあるエンジンハッチとエンジンの給油口を開けて燃料が入ったジェリ缶から、手回しポンプを使って、燃料を給油し、その隣では玄田、葵、木場の3人が箱に入った砲弾を五式の中へと運び込んでいき、同じ様にみほや巽達も自分達の搭乗する戦車を整備班である自動車部を始めとして榊原のおやっさん、ハンニバルさん達と共に試合前の最終整備を行なっていた。
そして、30分程した後、38tの整備を終えた河嶋先輩が「ふぅ……」と言いながら、俺達の前に出ると一回息を吸った後、こう言い放つ。
「全員、整備終わったかー?」
「五式、整備完了です!!」
俺が空になったジェリ缶を下にいる裕也に渡しながら、河嶋先輩に返事を返す。
「準備完了!!」
「こっちもOKです!!」
「はいっ!!」
「Ⅳ号も準備完了です!!」
続く様にカエサル、磯辺、牧、みほ達が一斉に河嶋先輩に言葉を返す。
それを聞いた河嶋先輩が「よし!!試合開始まで全員待機!!」と言った瞬間であった。
「あっ!!いけない!!砲弾忘れちゃった!!」
「それ一番大事じゃ無いのー!!」
ウサギさんチームに所属する1年の宇津木と大野がそう言葉を交わし、彼女達だけで無く周りに居た澤、山郷、桂里奈がを上げて笑い出した瞬間だった。
「呑気なものねー、よくそれで、ノコノコと全国大会に来れたわねぇ~……」
「あぁ、全く。お笑いだぜ」
彼女達の笑い声を遮る様にこのメンバー達の声では無い女子の声が飛び込んで来ると、続く様に男子の声も聞こえてくる。
その声が聞こえて来た方向へと俺達が顔を向けると、そこには巽と秋山達が撮影した映像の中に写っていたサンダース高校戦車道チーム雄型副隊長のジェームズと、雌型副隊長のアリサとナオミの姿があった。
そんなアリサとジェームズ達は、澤達を見ながら、軽く馬鹿にする様に笑っていた……が、次の瞬間、「冷やかしか?」と言う声を上げながら澤達の搭乗するM3リーを整備していたジェイクさん、コングさん、ニコライさんが工具道具を持ちながら、立ち上がると彼女達の元へと歩み寄って行く。
するとさっきまで笑っていたナオミ、アリサ、ジェームズの3人は、まさかの反撃に対して「「「えっ、えっ……?」」」と困惑し、青ざめた表情と声を上げながら思わず、ズリズリと後ずさりして行く。
まぁ、当然といえば、当然か……。俺だって同じ立場だったら、全力で退却するだろうし……。
んで、あまりにも恐ろしいメンツを前にして、サンダースの3人は震えあがっていた。
「何だ嬢ちゃん達……、茶化しに来たのか?、……あ”ぁ?」
「茶化しじゃなくて、馬鹿にしに来たみたいだな」
「‥…(ウォッカの瓶をラッパ飲みして睨み付ける)」
「あっ……、いえ……、そう言う訳では……」
正直に言って強面の3人に対して、すっかり青ざめたジェームズがチグハグな言葉で返していると、同じ様にすっかり青ざめているアリサがジェームズの背中に隠れ、ナオミが青ざめた顔で「あはは……」と苦笑していた。
そんな時だった。最近になって聞きなれたマインバッハエンジンがこちらへ向かってくるのが分かった。巽達のパンターG型だ。
「え!?嘘!パンター!?」
「嘘でしょ!?」
「マインゴット!?」
サンダースは、こちらにパンターがある事を、今日この日まで知らなかったみたいだ。
そして、キューポラから上半身を出している巽を見てアリサが「あー!あの時の!!」と叫ぶ。
それに気が付いた巽も”おっ”と言うような感じで「あの時のサンダースの……」と呟いている。
「あの時は、よくもやってくれたわねええ!おまけに私たちのレーションまで強奪して!」
あのレーション巽が強奪してきたやつだったのか。
「ああ、俺達がおいしく頂いた。ごちそうさん」
巽が、あの事かと思い出したように言った。それに対し、アリサがムキーッと怒っている。
「あのレーション食べるの楽しみにしていたのにー!」
「戦利品だ。あきらめな」
なんだかんだと2人は会話している。
そんな会話をよそに、ニコライさんは「ふん」と鼻息を付いた後、こう言い放つ。
「用が無いなら、とっとと戻るんだな……」
そう言って振り返ったニコライさんに対して、ジェームズはびびりながらも「あぁ、用はこれです……」とドン引きした様な声で言い放つと、後ろを振り返って「おいっ!!あの方をお連れしろ」と叫ぶ。
すると、2名の風紀委員の女子にはさまれるようにやって来る白人男性がやって来た。
いかにもイケメンで女性にもてそうな人だった。女子の連中が”キャッー、キャッー”騒いでいるが。一体誰だろう?
身に着けている服は、高級ブランド物で、腕に何個かつけている時計も高級ブランド物だ。
ついでに、両腕にはお土産らしき袋を下げている。
「フェイス!」
「何だ用事ってのは、この”女たらし”を返す事か?」
フェイスという男性を見たハンニバルさんが葉巻を吸いながら言い放つと「「ハイ!!」」とジェームズとケイが青ざめた表情で声を揃えてハンニバルさんに言葉を返す。
「フェイスさん。無事でしたか?」
パンターのキューポラから身を乗りだしていた巽が、フェイスさんに声をかける。
「まあ、楽しく過ごさせてもらったぜ。お土産いるか?」
と言いながら、ブランド物のマークの入った紙袋をあげる。
「た、巽君。この人は……?」
みほが困ったような表情をして尋ねる。うん、マジで、誰だアンタ?
「おれは、テンプルトン・ペック!第75レンジャーの元中尉さ!ブラジャーからミサイルまで何でも揃えてみせるぜ!」
女子に笑顔をまき散らしながら自己紹介をしている。女子の一部なんかは、まだキャーキャー騒いでいる。
うーん……、女子が騒ぎ立てる理由が分からない……。なんか浮気しそうな人に見えて仕方ないんだけどなぁ~……。
そんな心情の俺に対して、葉巻を口にくわえ、それにシルバーのライターで火を付け、いかにも「ワイルドなアメリカのオヤジ」と言わんばかりの風貌のハンニバルさんが、フェイスさんに話し掛ける。
「フェイス、サンダースはどうだった?」
「あぁ、結構悪くはなかったぜ、ハンニバル。」
そうフェイスさんが返すのを聞きながら、ハンニバルさんが「そうか」と笑いながら言い放つ。
「いい部屋に泊まれせてくれたし、可愛い女の子はいっぱいいるし、贈り物も高価、飯だってうまかった。VIP待遇さ。それに、夜は毎日パーティだったぜ」
と、他の男性諸君が切れそうなことを平気で言っている。
「頭を冷やしてこなかったみたいだな」
そこまで言っていたフェイスさんが、ハンニバルさんの言葉を聞いて、サンダースに残された理由を思い出すのと、ほぼ同時にハンニバルさんが「この女たらしが!」と葉巻を指で持ちながら怒鳴り散らす。
そんなハンニバルさんの言葉に思わずビクっ!!とする俺とみほ達だったが、それ以上にジェームズ、アリサ、ナオミが「「「ひいっ!!」」」と声を揃えてドン引きしていた。
まぁねぇ……、挑発しに来たら、逆に修羅場に首を突っ込むことになったんだから、堪った物じゃないだろうな……。
そんな3人に対してモンキーさんが、「何時もの頃だから~」と笑いながら返しすと、続け様にモンキーさんは3人に問いを投げかける。
「そんで、用事ってこれで終わりー?」
「あぁ……、後……」
「後?」
そう言ってジェームズの言葉にモンキーさんが問いかけると、ナオミがこう説明する。
「こ、交流も兼ねて……、”食事でも如何が?”と隊長が……」
ビクビクしながら、そう告げたナオミの言葉を聞いた会長が「へぇ~……」と不敵な笑みを浮かべると、隣に居る河嶋先輩と小山先輩に顔を向けてこう言い放つ。
「腹が減っては戦は出来ないから、ここは素直にお世話になりますか」
「「えっ?」」
そう言って驚く河嶋先輩と小山先輩を側目に、会長はジェームズ達に向けてこう言う。
「じゃあ、案内してー」
「「「は、はい……」」」
そう言って試合前だと言うのに妙にぐったりしているジェームズ、ナオミ、アリサに付いて行き、俺とみほ達もそんな会長達の後に続くのであった……。
…
……
………
「「「「「………」」」」」
んで、サンダース陣営の戦車が待機している場所から、かなり近い場所にあるサンダースのテリトリーにやって来た俺とみほや他のメンバーは、巽達を覗いて揃って呆然としていた。
何故なら、そこには救護車の他、ファーストフードをはじめとする4種類以上のフード車シャワー車、ヘアサロン車と言った多数の車両が並んでいた。
「すげぇな……」
「これだから金持ちは嫌いなんだよ……」
「世の中、やはり金か」
「うらやましい」
金持ちぶりを見せつけるかの様に、豪華なサンダース陣営のテリトリーを、俺達が見つめていた時だった。
会長達の居る方向から「Hey!アンジー!!と言う明るい声が聞こえて来たので俺とみほ、巽達が顔を向けると、そこには、サンダース戦車道チームの雌型隊長であるケイがナオミとアリサを引き連れてやって来る光景があった。
う~ん、秋山達の潜入映像でも明るい性格なのは分かっていたが、金髪と雰囲気からか「明るいヤンキー」と言った印象が強いな(※流石にスケバンとまでは行かないが)。
然しまぁ、そんなケイの相方があの犬の耳を思わせる髪型のハートマン軍曹なのかと思うと、また突っ込み所の多いカップリングだなオイ(※勿論口に出してバーニィに聞こえたらあの音に聞こえたマシンガンみたいな罵倒が五月蠅いので黙っておくが)。
「やぁ、やぁ、ケイ。お誘い、どうも」
そんな俺の、自分への第一印象の感想など知る由も無くやって来たケイに対し、会長が笑いながらそう返すとケイも笑いながらこう言い放つ。
「何でも好きな物、食べてって♪OK?」
「OK、OK、オケイ!!だけに!!」
そう言って会長のギャグに「アハハハハッ!!」と腹を抱えて笑うケイ。それに対して「馴れ馴れしい」と毒づく河嶋先輩。
そんな遣り取りをみほ達と傍観していると……。
「なぁ~に、突然慌てて報告してきたと思ったら、そんな、そこら辺の石ころの方が価値のあるぐらいに、価値無しの話か、陸軍野郎!!」
「ですからぁ~……」
……といった感じで、ふと、サンダースの戦車が待機しているパークの方から、俺達の耳に軽く口喧嘩の様な会話が飛び込んで来る。
いや、喧嘩と言うには少しばかり一方的な言葉の弾幕……マシンガントークの罵倒が……。
何事かと思って声のする方を向くと、其処には第二次大戦中に米軍で使用された“M1ヘルメット”を小脇に抱え、映像と全く同じ様にマ○クシェイクを飲みながら、会長とケイの元に向かうバーニィと、彼に詰め寄る形で並んで歩くジェームズの姿が在った。
怒りの為か、バーニィの犬のケモ耳を思わせる緑髪が、まるでドーベルマンの様に天を衝いているのが些か滑稽に見えた。
そんなバーニィに対して、ジェームズは少なからず真剣な表情で、直談判している。
よくよく内容を聞いてみると、どうやら、先程、俺達のパークで見たパンターに関してらしい……。
「ですから、何度も言う様に、パンター戦車が居たんですよ!!」
「だから、どうしたって言うんだよ、陸軍野郎!?何だ、パンターが居るから、モ○ルスー○だの、アー○ード○ルーパーだの、もってこいって言うのか!?テレビの見過ぎだ、バーロー!!」
「いや、隊長……、パンター戦車がどれだけの脅威なのかは知っているでしょう?」
「そりゃ当然だ。俺達の戦車を射程外から、一方的に打ち抜けるからな」
そうかる~く言い放つバーニィに対して、ジェームズの顔は、まさに真剣そのものだ。まぁ、そりゃそうだろうなぁ~……。
パンターの火力は凄まじく、”第二次世界大戦中における、最強戦車”と名高いタイガーと同様に、第二次世界戦中に使用された、全てのアメリカ軍戦車の正面装甲を打ち抜ける。
切り札として、アメリカ軍が終戦間際に投入し、バーニィが率いるアニマルハンター部隊で使用されているM26パーシングをもってしても、パーシングの主砲である90ミリ砲の射程外から、一発で撃破できる威力を誇っている。
故に、シャーマンに乗るジェームズからすれば、まさに脅威中の脅威で間違いないだろう……。
そう思いながら、二人のやり取りを見ていると、更にジェームズが、バーニィに対して、強く意見を述べている。
「だったら、なおさらでしょう!!速急なる対策を……」
「あ~、もう、うるせえなぁ!!この陸軍野郎!!パンターぐらいで、そこら辺のヤ○マ○みたいに、セ○ク○する事にしか脳みそ使わない、糞ビ○チみたいにギャー、ギャー騒ぐんじゃねぇ!!貴様、それでも海兵隊員か!?お前、モンテズマの間からトリポリの海岸まで戦う気力と根性はどうした!?ゴミと間違えたママにでも捨てられたのか!?どうせマニュアル通りの作戦で、大丈夫だと思っているんだろ!?これだから陸軍は、何時まで経っても戦争に勝てねぇんだよ!!どうせ昨日の夜も、作戦考えないで、ビ○チのチアガールの彼女とセ○ク○してたんだろ!?このウジ虫、ゲロ、糞以下の劣等生物の分際でよぉ!!頭の中身、お花畑なんだろ!?平和な物ですねぇー。平和ボケしてる奴は、さっさと最前線で吹っ飛んでこいや!!あと、吹っ飛ぶんだった細胞1つ残さず吹っ飛べよ!!お前のような、劣等生物の細胞はこの世にいらん!!人類や銀河どころか、この世界が滅亡する原因になるからな!!分かったな!?アホォ!!」
「いや、してないですよ……。っていうか、隊長も俺も民間人じゃあ……」
「黙れ劣等生物!!どうせパパの工場廃液の様な、腐りきった○ー○ンで出来たベッドの汚らしいシミと、ママのゴミ集積場の生ゴミみたいにハエやら、ウジ虫が涌いている腐れマ○コのマ○カスから、生まれたゲロみたいなスライ状の合成生物以下の存在にくせにギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー文句たれんじゃねぇ、バカ!!、アホっ!!、ボケェッ!!、間抜け!!、ナス!!、タコ!!、ゴリラ!!お前みたいな存在より、そこら辺の野良犬の糞の方が何億倍も価値があるわ!!分かったら、黙ってろ、このアホで、馬鹿の劣等、存在価値無し陸軍野郎があっ!!」
……と、怒濤の勢いで言い放った挙げ句に、トドメの一言をぶちまけ、ジェームズとの会話を強制的に切り上げるバーニィ。
まぁ……、良く舌が回る物だよねぇ~……。俺だったら、絶対途中で舌をかみ切って、大量出血で死んでいそうだわ……。
つーか、俺達、大洗側は勿論、その周囲にいた応援客やマスコミ関係者、サンダース側もケイと、アニマルハンター部隊のメンバー以外は、揃いも揃ってドン引きしてるし……。
ヒーローインタビューとか、絶対受けたら放送事故レベルの内容を言いそうだな……、あの隊長……。
なんて考えが、涌いてくる中、当のバーニィは、頭の上にグジャグジャした物を浮かべて苦虫を潰した様な表情のジェームズをバックに、シェイクを啜りながらコッチの方に向け、歩いてくる。
そしてケイ達と共に居る俺達の姿を確認するなり、「おっ」と言わんとばかりの表情で、こう言い放つ。
「居たのか、オッドボール軍曹&バルクマン曹長」
「うわっ、見つかっちゃった……」
そう言ってやって来るバーニィを観て、秋山はそう言って麻子の背中に隠れ、巽は「見つかったな」とさも予想していたかのような事を言って隣に居た田と顔を見あわせる。
そんな秋山と巽を見ながら沙織はみほの背中に隠れて隣にいる木場に問いかける。
「ねぇ、木場君。ゆかりん達、怒られるのかなぁ……?」
「流石に……、そこまでは無いと思うけど……」
心配そうに問い掛けてきた沙織に対して、手を首の後に回しながら木場が返しているとバーニィは秋山と巽に対して、先程のハ○ト○ン節からは、想像も付かない程、フレンドリーに話しかける。
「この前は大丈夫だったか?」
「あっ、はい……「大丈夫だった」」
こんな予想もしなかったフレンドリーな感じに思わず、秋山が拍子抜け様に返すが、巽は問題なさそうに答えるとマ○クシェイクを吸っていたバーニィが続けて、こう言い放つ。
「いやぁ~、こっちはあの後、風紀委員が以上に殺気立って、大変だったぜ」
「あ、?」
「挙句の果てに全生徒に”帯銃命令”が出ちゃう有様だし」
「ほ、本当……?」
帯銃命令と言う言葉に唖然としている巽がそう返すと、バーニィは「マジ、マジ」と軽~く言った後、シェイクの入ったカップを右手から左手に写した後、腰からぶら下げていた牛革製のホルスターから、シルバーのメッキがされたコルトガバメントを引き抜くとこう言う。
「いやぁ~、せっかく買ったばかりの新品なのにもう傷がついちまったよ……」
「それはお気の毒……」
「まぁ、良いんだけどねー」
巽に言ってバーニィがクルクルとコルトガバメントをスピンさせながら、腰からぶら下げているホルスターにコルトガバメントを戻すと、再びバーニィは、シェイクをズズーッと言う音ともに啜る。
そんなバーニィの右肩にケイが手を乗っけながら、秋山と巽に向けてこう言い放つ。
「二人共、また何時でも遊びに来てね!!ウチは何時でもオープンだから、じゃっ!!」
「んじゃ、試合でな!!」
そう言ってケイとバーニィは後ろ振り返って、アリサ、ジェームズ達と共に去っていく。
だが、途中でケイが何かを思い出した様に「あっ!!」と一言言って振り返ると、秋山と巽に向けて、こう問い掛けるのであった。
「所で、バルクマンとオッドボールはつき合ってるの?恋人同士として?」
「「はあっ!?」」
「何で本人より先に反応するんだよ……」
ケイの問い掛けに当の本人である巽と秋山よりも先に反応する葵と沙織に対し、俺の突っ込みが炸裂した。
「そ、それは……//」
と、もじもじしながら返答に困る秋山。それを見て、武部と葵の目からハイライトが消えていくのが見えた。
ちなみに、このサンダースのフード車達を観ていたヒルターさんが会長と話し合った結果”大洗学園でも採用する”とか言っているとか、言ってないとか……。
んで、会長の「腹が減っては戦は出来ない」の言葉に従い、俺達も各自別れて、好きな飯を選ぶ事にして、食事に入る。
「はい、ダブルバーガーセットね!!」
「どうも」
それで、俺が選んだのは、いかにもサンダースもとい、アメリカらしいダブルバーガーセットだ。
実際に出てきた物を見て思ったんだが……、これ普通に大手ハンバーガーチェーン店のハンバーガーよりデカくね?
うーん……、ここまでアメリカ風にしなくても……。つーか、ポテトだけで、普通のハンバーガー店のLサイズ2個分は、あるんじゃね?
まぁ、大食らいの華からすれば、実に嬉しいボリュームだろうな。彼氏の裕也からすれば、財布に少し空っ風が吹く事になるが……。
っていうか、裕也の奴、華とデートする前に、”スタントマンのバイト(※現実には、スタントマンのバイトはありません)”やっているしな……。
本人曰く、「一回、ダンプにはねられたら、5~6回分のデートにおける食事代になる」との事……。
華……、お前の食生活に文句を言うつもりはないけどさ……、少しは彼氏のことを考える様にしようぜ……。
そんな事を思いながら、受け取ったダブルバーガーセットを持って、裕也、みほ達が待っている場所に向けて行こうとしたときだった。
「なぁ、お前は今回の試合をどう思う?」
……と言う大人の男性の会話が聞こえてきたので、ふと、その方向に顔を向けると、そこには新聞記者であろうか、『報道』の赤い腕章を着けた成人男性二人が、今回の試合に関して話し合っていた。
「言わなくても分かってるだろう?サンダースの圧勝に決まってるさ」
「それもそうか、賭をする価値も無い試合だな」
「そんな事を言うなって、ココにいるガキんちょ共は戦車道に青春をかけているだし……」
なんかバカにされたような事を言われて、思わずムッとなる。だって、対戦チームの副隊長を目の前にして、そんな事を言うか?
そりゃ、まぁ、俺達は今年初参加の無名校だし、こういった反応も無名校の宿命……って奴か?だけどよ、全く解せないぜ……。
胸の内で、そんな思いがドッと涌いてくる中、新聞記者の一人が、ホットコーヒーを一口啜ると、こう言い放つ。
「にしても、大洗学園だっけ?不幸な物だなぁ~……、初の全国戦車同大会の一回戦の対戦相手が、優勝候補のサンダースだぜ?」
「あぁ、結果は火を見るよりも明らかだな」
「こりゃ、よっぽどの奇跡でも起きない限りは、優勝どころか、一回戦突破すら無理だろうな」
「まぁ、これも運て奴さ……」
もう一人の新聞記者が言い放つと、残るもう一人の方も「それもそうだな」と笑いながら、去っていく。
そんな二人の新聞記者の背中を見つめながら、俺は誰に向けて言うわけでもなく、まるで独り言の様にポツリとこう呟いた。
「その”奇跡”とやらを、起こしてみるさ……」
そう言い放つと、俺は再び、みほ、裕也達の元に足を向けるのだった……。
…
……
………
そして遂にサンダースとの試合の時が訪れた。
会場に設置された試合観戦用の巨大パネルの前で蝶野教官の見守る傍らに女子の審判3名、そしてその向かい側に俺達を挟む様に男子の審判3名が立ち並ぶ。
雌型審判はそれぞれ眼鏡を掛けた主審の|篠川香音《ささがわかのん》を中心にポニーテールの|高島《たかしま》レミが左に、黒髪ボブの|稲富《いなとみ》ひびきが右に、そして雄型審判は主審に黒髪で人の良さそうな顔付きの|溝渕《みぞぶち》ダンが中心に立ち、クールな印象の灰白色の髪をした|黛正衡《まゆずみまさひろ》が右に、茶髪に眼鏡の|有坂九一《ありさかくいち》が左に立つ。何れも連盟の定めた黒い服に身を包み、審判員らしく”JUDGE”と書かれたプレートを肩から下げている。
彼等6人と蝶野教官が立ち合う中、会長とケイ、俺とバーニィは互いに正面から向かい合った。
『それでは、大洗学園とサンダース大学附属高校との試合を開始する!!』
『雌型と雄型、各校のチームの代表者は前へ!!』
雌雄それぞれの主審両名が号令のアナウンスを掛けると、俺達は互いに握手を交わす。
「宜しく」
「あぁ」
……と言って、俺の隣で会長とケイが握手を交わす側で、俺とバーニィも軽く握手を交わしながら、こう言葉と交わす。
「正々堂々とやろうぜ」
「こちらの方こそ」
そう言葉を交わしながら、握手を終えた次の瞬間には……。
『それでは両校各チームの代表は、所定の陣地に移動して下さい!』
雌型主審の香音さんの号令を受け、俺と角谷会長はダイムラー斥候車『ディンゴ』に乗り込み、既にみほと裕也達がそれぞれの戦車に搭乗して待つ陣地へと向かって行った。
そんな俺達の到着を待つ大洗のメンバー達に、みほはこれからサンダースと相対するに当たって、戦いの方針を語っていた。
『説明した通り、相手のフラッグ車を戦闘不能にした方が勝ちです。サンダースの戦車は全て、走攻守共にバランスが取れており非常に強力ですが、落ち着いて戦いましょう。機動性を生かして、常に動き続け、カバさんチームのⅢ突、ヒョウさんチームのパンター、カニさんチームの五式の前に引きずり込んで下さい!』
そう語り終えたみほの視界に、俺と会長を乗せたダイムラー斥候車が飛び込んで来る。
「さぁ行くよ~!!」
「ちょっと会長、余り乗り出さないで下さいよ!!」
会長、意気揚々なのは良いですけど、運転席から立ち上がって片足前に乗っけて腕組みなんて危ないから止めてくれませんかねぇ~!!落ちたら危ないじゃないですか!!
只でさえ会長は背が低くて質量もあんまり無いんですから(※何処がとは言わないが)、走る車でバランス崩したらあっさり放り出されますって!!
……とまァそんなこんなで無事俺達がそれぞれの戦車に搭乗すると同時に、今度は雄型主審のダンさんの号令が木霊する。
『大洗並びにサンダース各チーム……、総員直ちに戦闘用意!!』
その言葉は試合開始の時が、実に後数秒と迫る瞬間を告げていた。久しく味わっていなかったこの緊張感……武者震いからか、微かに拳が震える。
気持ちの上では「懐かしいな!(※某サイボーグ忍者の狐風に)」と言わんばかりに胸が高ぶるのを感じながら、俺は車内で深呼吸をし、心を落ち着けた。
……うん、感情的な所が有る俺にとってはやっぱり深呼吸が1番の特効薬だな。裕也からも教えて貰ったが「3秒吸って2秒止めて、吐くのに15秒間」。兎に角"吸う時間より吐く時間を長くするのがポイント"だそうだ。そう言や中学時代に同じチャーフィーに乗った仲間も言ってたな。『上虚下実』って……。
要は『肩の力を抜いてリラックスしろ。力を籠めるべきは下半身の方だ』って事だが、剣道を始めとした武術を嗜んでいたアイツには本当に救われたよ。やっぱ持つべき者とは友だってつくづく思うぜ。
ダンさんの言葉が会場に響く直後、試合開始を告げる花火が天高く上がり、そして爆ぜた!!
『『試合開始!!』』
花火の弾ける音と共に発せられる香音さんとダンさん、両主審からの号令。それが開戦のゴングとなり、敵方であるサンダースのシャーマンやパーシング達がエンジンを立てて次々と前進を始める。
同時に俺達大洗の戦車達も……。俺にとっては中学以来、実に1年振りとなる公式戦。その戦いの火蓋が、高らかに切って落とされた瞬間だった……。
数日後に、全国戦車道大会の開幕を控えた、ある日の夜。
俺……、武沢竹一は、学園寮の自分の部屋で、全国大会のトーナメント表を見ていた。
俺の在籍する黒森峰を始め、多数の学園が名を連ね、それと同時に、各学園ごとに、雄型・雌型、双方の隊長が、トーナメント表に書かれている。
その中の1つ……、大洗学園戦車道チームの副隊長並びに、雄型戦車道隊長を勤める、喜田川龍……。その名に、俺は覚えがあった……。
かつて、自分の父……、元・陸上自衛官にして、現・外務省外交官である|武沢徳次郎《たけざわとくじろう》の、陸上自衛隊時代における”最大のライバル”だった、”現・陸上自衛隊 福岡第12戦車大隊の最高司令官”|喜田川秀雄《きたがわひでお》の、一人息子なのだから……。
父から、聞いた話によれば、その喜田川秀雄一等陸佐は、「かなりの変人ながらも、腕は確かな陸上自衛官」で、現に東西冷戦中の1970年代の後半で、”東西冷戦の終結並びに、大国間戦争時代の終結を予想すると同時に、対テロ・対ゲリラ戦争時代の幕開け”を、速くも陸上自衛隊内で、予想した、いわば”先見の明”の持ち主だったらしい。
それと同時に、まだ旗揚げたばかりの、西住流雄型戦車道の最初の門下生……いわば、西住師範の一番弟子であり、俺にとって、”年の離れた先輩”とも言える人なのだ。
親父のかつてライバルであり……、俺の離れた先輩……、知り合いとも他人とも、何とも言えない奇妙な関係だな……。
そんなライバルの息子が、一体どう動くのか……、興味深い物だな……。
同時に、そんな彼と共に戦うのが、かつて黒森峰戦車道チームに所属していた、現・黒森峰雌型隊長である、まほの実の妹、西住みほ……。
「はぁ……」
喜田川龍と共に、トーナメント表に書かれた、その名を見ると同時に、俺は思わずため息をついた。
こう言うのは、大変失礼だと思うのだが……、彼女が、去年の戦車道全国大会で、黒森峰が栄誉有る10連勝を逃した、”原因の1つ”だからだ。
現に、全国戦車同大会にて、黒森峰が10連勝を逃したときには、この敗北のショックはチームにおいて、勝利を確信していた多くの者達を絶望させた。
そして、その絶望は怒りへと代わり、その怒りの殺意へと代わり、その殺意の矛先が、彼女と彼女が助けた三号のクルー達に向けられ、何時しか10人居れば、10人揃って『黒森峰の恥、西住みほと、彼女が助けた三号のクルーを殺せ!!』、『奴らの首を切り落とせ、内蔵をぶちまけろ!!それが正義だ!!』、『死んででも、勝利に貢献するのが当たり前だろ!!』、『10連覇の名誉に比べたら、5人の命なんて軽いだろう!!むしろ、死んでくれた方が、「チームのために命を賭けて戦った英雄」となったのに!!』……と、まず”普通の人”なら、確実に己の耳を疑う様な事を叫び、彼女に対する恨みや殺意が、一気に炸裂させていた。
例えるなら、少し前のワールドカップで4位に終わったブラジルの様に、暴動や自殺、4位に終わった原因の1つとされる『エース選手を負傷させた相手チームの選手に対する殺害予告』の様に、まさに『異常』、下手したら『狂気』としか言い様の無い空気が、学園艦を包み込んだ。
その異常な空気の元で、包丁や牛刀、ノコギリにチェーンソーと言った刃物、電動工具類に始まり、塩酸や王水と言った劇薬を使用して、彼女を殺害させる計画を考えるチームメンバーが、多数現れ始めただけでは無く、|彼女《みほ》を弁護した生徒が集団リンチされ、入院する……と言った事件が発生するなど、まさに黒森峰戦車道チームは爆発寸前の火薬庫と化した。
これらの件で、幸いにも死人こそ出なかったが、|彼女《みほ》&彼女が助けた三号クルーの殺害は、もはや”時間の問題”とすら、言える状況になりつつあった。
唯一止める事が出来そうな、前任隊長の|又彦《またひこ》隊長は、敗戦のショック&この荒れぶりに、抜け殻と化し、もはやストッパーとしての役割以前の状態であった……。
そんな状態で、もし彼女が殺害されようものなら、それを知った戦車道委員会や、教育委員会、更には文科省によって、戦車道チームだけでは無く、学園艦そのものの存在じたいが、木っ端微塵に、ちり1つ残す事無く消される可能性も出てきた。
現に、かつてオリンピック戦車道競技・西ドイツ代表選手だった、母さんから聞いた話だが、過去に交際関係のトラブルで、殺人事件を起こしたチリ共和国のオリンピック戦車道競技選手が居て、これを問題視した、チリ政府が、オリンピック参加を取りやめる……と言った事例があったらしい。
また、戦車道以外にも、かつてサッカーのワールドカップで、オウンゴールをしたサッカー選手が、このオウンゴールに怒った自国民に、射殺されるという事件もあった。
これらの二の舞になる事を、問題視した、俺を含めた現在の黒森峰戦車道チーム・各小隊の隊長となるチームメンバーが、主軸となって、彼女を殺したくて、殺したくて堪らないチームメンバーの説得に当たる物が、全ては火に油……いや、”火にタンクローリー”と言わんばかりに、逆に彼らの怒りを買うだけであった。
この状況で、交渉らしい交渉が出来る筈も当然無く、和解交渉は直ぐさま決裂。もう状況を打開する最終手段として、残された道は唯1つであった……。
それは、『|彼女《みほ》の今後を巡っての決闘』であった。
|自分達《竹一達側》が勝てば、彼女のチーム在籍&嫌がらせ行為の停止。|向こう《みほを殺したくて堪らないチームメンバー》が、勝てば、『|彼女《みほ》の強制退学(※当然ながら、彼女の殺害は認めていない)』と言った感じで、まさに絶対に負けられない戦いであった。
そうして、過ぎたる去年の秋頃、遂に決闘の火蓋が切られ、三日三晩に渡り、飲まず、食わず、眠ずの激しく、乱闘付きの戦車戦が繰り広げられた。
その激しさは、まさにバトルロワイヤル……”血で、血を洗う殺し合い”そのものであった。
この決闘の後に、何とかして俺達が勝利。向こう側の生徒達は、この決闘の結果を踏まえた上で、全員がチーム&学園を去ったのだった……。
なお、先に述べた包丁や牛刀、ノコギリにチェーンソーと言った刃物、電動工具類に始まり、塩酸や王水と言った劇薬を使用して、彼女を殺害&負傷させる計画を考えたチームメンバー達は、全員揃って退学処分&警察による補導を受けることとなった。
んで、この去り際に、向こう際のリーダー……確か、日村とか言った奴が、俺に対し、こう言い放ったのだった……。
「お前は、非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンテックな愚か者だ」
……とまぁ、何処かの海外小説の主人公に付けられた評価みたいな事を言って去っていたな……。
とりあえず、これに対して、一言言わせてもらう……、勝手にほざけ!!
あ、間違っても、この何処かの海外小説の主人公が嫌いな訳じゃない、むしろ好きだ。そもそも、この海外小説自体、お気に入りの愛読書だからな。
んで……、とりあえず、これによってチームの内部抗争にケリが付いたわけだが……、|彼女《みほ》も、このチーム内部における血みどろの内部抗争を招いた事が耐えられなかったのだろう……。
現に彼女を巡って、昨日まで共に苦楽を共にしていた戦友達が、自身の行動が原因の敗北をキッカケに、血で血を洗う抗争を始め、まさに”殺し合いを始める一歩寸前”までにチームを崩壊させてしまった事に……。
そうして、|彼女《みほ》はチームを去ったのだった……。皮肉も、|彼女《みほ》が転校したのは、”抗争が終了した3日後”であった……。
これに対して、「俺は、やるせなさ、己の無力さに打ちひしがれる事は無かった」……と言ったら嘘になるが、現に落ち込んでいる暇はなかったのだ。
俺は又彦前任隊長から、隊長としての役割を受け継ぎ、上記で書いた構想によって発生した”様々な問題”を解決する事に尽力を挙げないと行けなかったからだ。
先ず最初に、発生した問題として、”戦力となるチームメンバー不足”であった。
上記で書いたように、抗争の決着を付ける最終手段として行った決闘で敗北した、みほを殺したくて堪らないチームメンバー達が、チーム&学園を去った事により、チームの戦力にあたる”3分の2が損失”する事となり、まさに黒森峰戦車道チーム創設以来、またと無い戦力&人材不足に陥ってしまったのだ……。
この状況を打開する方法としては、とりあえず”予備メンバー”……所謂、『補欠』並びに『ベンチメンバー』の”速急な戦力化”に始まり、”留学生の大幅受け入れ”……と言った、超特例に次ぐ、特例措置を取って、取って、取りまくって、何とか戦力&人材不足を解消する事に成功。
まぁ、皮肉にも、この際、ドイツ在留時代に所属していた戦車道チームの先輩や同期、後輩達と、揃って再会する事になったりしたんだよな……。
……で、戦力&人材不足を解消したのは良いが、次なる問題として、”増強したメンバーへの訓練&教育”があった。
元々、増強したメンバー全員、戦車道に関する基本的な知識や技術を身につけていたが、それにはバラツキがあり、チームとしての戦力としては、正直、好ましくない物であった……。
それに上記でも書いたように、一度の敗北チームが根本から完全崩壊している為、多少の敗北でも動じない精神を鍛える目的で、メンタルトレーニングにおいても、高い訓練が必要なのは、もはや必然であった。
これらの訓練やメンタルトレーニングを行う事が出来る教官や教師は、学校に居らず、「どうするべきか?」と話し合われた結果、白羽の矢が立ったのが、我が母、武沢クリスティーナであった。
どうして、この様な結論に至った理由だが、母さんは、かつて西ドイツ陸軍戦車部隊の隊員として、当時最新鋭だった”レオポルド戦車”の戦車長を勤めただけではなく、西ドイツ陸軍戦車部隊の教官を務めた経験がある事に加え、西ドイツ陸軍を除隊した後に、推薦を受け、所属した西ドイツ戦車道オリンピック代表選手として、西ドイツの優勝に貢献した過去の功績に加え、現在、監督を務めている大学チームのコーチとしての実績……それも、”不祥事を起こして、立て直しを余儀なくされた大学チームの立て直しを成功させた”を買われての結論であった。
で、こうして、母さんの主導の元、チームの立て直しが始められた。
その為に、俺を経由して、今のチームの状況を伝えた時、母さんは”開いた口がふさがらない”と言わんばかりの表情で、こう言った……。
「これが全国大会9連勝の強豪校の末路ねぇ……、酷すぎて涙も出ないわ……」
……とまぁ、こう評価されても何も文句の言えないボロクソぶりが、現状だった物だから、返す言葉も無い……。
それで、この現状を踏まえた上で、母さんは”自分一人での立て直しは無理”と判断し、西ドイツ陸軍戦車部隊時代の上官や同僚、オリンピック選手時代の同僚達をドイツから招集。招集された方達の一覧としては、軍人時代における直属の上官の”バウアー中佐”に始まり、西ドイツ陸軍教官として、母さんの新兵訓練を担当した”ドランシ少佐”、母さんの軍隊時代の同僚にして、共に西ドイツオリンピック代表選手だった”カヤさん(※元西ドイツ陸軍少尉)”、母さんの後輩軍人にあたる”ヒルダ少尉”、同じく母さんの後輩軍人の”ユート上級曹長”等を始めとして、『世界最強の警察特殊部隊』として、高い評価を受けている、ドイツ連邦警察の特殊部隊|GSG9《ゲーエスゲーナイン》の訓練教官を務めている”アルベルト氏”や、母さんが直接、西住師範に頼み込んで、訓練教官として、参加してもらった西住流のエース門下生達……と言った並々ならぬ技術とカリスマ性溢れるコーチ達の指導の元、チームの立て直し&再編が進められた。
因みに、何で「元警察系特殊部隊の関係者が?」と思った方もいるので、説明すると、当時の西ドイツは、まさに東西冷戦において、アメリカとソ連の両軍が激突し、冷戦が”熱戦”になる事が考えられた場所であると同時に、国際テロリストによる無差別テロ、過激派による暴動行為など、ありとあらゆるリスクが考えられた為、「東西冷戦時における世界の弾薬庫」とも言える状況になりつつあった。その為、西ドイツ軍とGSG9は積極的に合同訓練を行っており、これが縁となっての参加である。
その一環として、行われたのが、現在俺が率いている”レッドタイガー小隊の設立”であった。
昨年の全国大会の敗因として、”ありとあらゆる状況に対応できる部隊が居なかった”事を母さん達は指摘し、それを克服する為に、”ありとあらゆる状況に素早く対応し、どんな圧倒的不利な状況においてでも、決して折れる事の無い強靱なメンタルを持つ部隊”の設立を決定した事に加え、”皮肉にも、先に述べた決闘の際に、俺達が臨時編成した少数最精鋭の小隊が予想以上に活躍した”事から、これを参考にして、小隊の編成を決定したのだ。
因みに、何故、雄型で設立されたのかというと、”雄型の歴史は、雌型に比べると、まだ30年程度と短く、歴史が浅い故に、伝統に捕らわれず新しいスタイルの部隊の設立がしやすい”……というのが、2つある理由の1つ。
もう1つとしては、この小隊を設立するに当たって、行われた選抜試験……、隊長である俺が言うのもなんだと思うが……「よく乗り越えられた物だ……」と、自分でも思うぐらいにハードな選抜試験であり、ハッキリ言って”高校生の女子には無理”な物だからだ。
まぁ……、その選抜試験の内容としては、次の様な感じだ。
1.西住師範を始めとする、コーチ陣による厳密な書類推薦。
2.書類推薦された生徒達に対して、西住師範の筋金入りの西住流門下生達との殲滅戦。
3.上の殲滅戦で残った生徒達に対して、今度は、母さん並びに、その元同僚、後輩達によって、二回に渡って行われる二次選抜試験。
4.上の3で残った生徒達に対して、2の西住流門下生、3の竹一の母さん並びに、その元同僚、後輩達で編成された部隊にて、殲滅戦を行う最終試験。
……と言った感じの選抜試験であり、今、現在、レッドタイガー小隊に所属しているメンバーは、全員揃って「二次選抜試験が、一番キツイ……」と言う。
まぁ、それもそのはず、二次選抜試験で、行われた試験内容としては、先ず最初にGSG9訓練教官だった、アルベルト氏主導による選抜テスト。その内容一覧が下になる。
1.約10キロ以上のフル装備にて、20キロ行軍試験。
2.高さ11.25メートルの鉄塔の上に張られたロープを渡るレンジャー試験。
3.同じく高さ11.25メートルのパラシュートタワーから、500回以上、降下する、降下塔試験。
4.学園艦から、沖合30キロの海上にヘリから落とされた上で、30キロ泳いで、戻ってくる、遠洋試験。
5.暴徒側と鎮圧側に分かれて、約3時間以上、殴り合う暴動鎮圧試験。
6.高度1万メートル以上を飛行する航空機から、パラシュートで自由降下する|高高度落下低高度開傘《こうこうどらっかていこうこどかいさん》、通称:|HELO《ヘイロウ》ジャンプ試験。(※なぉ、この試験は、アルベルト氏のコネでインストラクターとして招かれた、現役GSG9隊員指導の元で、行われた)
……とまぁ、戦車道を詳しく知らない人に「軍隊の特殊部隊における選抜試験だよ」とでも、言ったら、確実に通用しそうな試験内容の数々だが、これ以外にも、15項目に及ぶ選抜試験があり、これらの選抜試験を全て合格した者が、次の二回目の選抜試験を受ける事が出来る。
まぁ、これも、中々のキツイ物であり、その内容は『母さん並びに、その元同僚達との殲滅戦』という、もう聞いただけで、気絶しそうになる内容だ……。
それで、実際に受けてみての感想だが……、もう本当に「狂気の沙汰に首を突っ込んでいる」と言っても過言では無いぐらいに、激しい物だった……。
だって、第二次世界時の戦車で”7キロ超える超遠距離で、生徒側の戦車を一撃で撃破”したかと思ったら、”市街地で、いきなり隠れていた建物の壁をぶち破って奇襲攻撃を仕掛けてきたり”……と、もう予想も出来ない攻撃ばっかりしかけて来たよ……。
いや、はや、本当に、我ながら、こんな選抜試験を潜り抜けてきた物だと思うよ……。
まぁ、だが、こうした厳しい選抜試験の末に選ばれた隊員達によって編成されたレッドタイガー小隊は、今となっては”高校戦車道チーム史上最強”の称号を得るまでになった。
この部隊の初代指揮官に任命されたのは、またとない誇りである。それと同時に、レッドタイガー小隊の初代指揮官&新・黒森峰戦車道チーム雄型隊長としての腕前が試される試練の場でもあるのだ……。
なお、ここからは、少し息抜きを兼ねて、余談にしよう。
創設当初、レッドタイガー小隊は、俺の乗る10.5cm砲搭載型のキングタイガーが1両、ポルシェ砲塔型のキングタイガーが2両の”合計3両”で編成された小隊だったが、デビュー戦となるマジノ学園との練習試合(※殲滅戦)では、”マジノ学園の全戦力の3分の1を、俺達レッドタイガー小隊単隊が撃破”し、『赤い虎の衝撃!!黒森峰雄型戦車道チームが誇りし、最強小隊、レッドタイガー小隊デビュー!!』と言った感じで、かなり盛大に報じられたのだが……。
実は、この時、マスコミ関係者に配られた戦車道委員会発行の試合の資料には、俺達のチーム名は”レッドタイガー小隊では無く、ドイツ語で『|Roter Tiger《ローティータイガー》』と書かれていて、その横にドイツ語が分からない人の為に向け、書かれていた”レッドタイガー小隊”と言う英訳を、”小隊名と勘違いしたマスコミ各社が報じた”事がキッカケとなり、更に試合における小隊の活躍があまりにもインパクトがあり過ぎた為、もう訂正する暇も無く、あっという間にその名が、戦車道界を浸透してしまい、もはや自分達もレッドタイガー小隊を名乗らざるを得なくなってしまった……と言う様な”嘘のような、ホントの話”があったりする。
でもって、この翌年、1年生が入学し、戦車道チームに加わると、俺達が受けた選抜試験と全く同じ選抜試験を行い、合格した10名が、”タイガーⅠ 最後期型”と共に配属され、小隊編成は戦車5両、メンバー25名で、編成完了となり、現在に至る訳だ。
なぉ、俺はレッドタイガー小隊の隊長としては”初代隊長”だが、黒森峰雄型隊長としては”7代目”にあたる。
そして、現在、雄型副隊長である玉田が率いているブラックパンサー小隊だが、これはレッドタイガー小隊の選抜試験における、最終選抜試験&二次選抜試験を落ちたメンバーの中から、優秀なメンバーを選び抜いた上で、編成された部隊である。
更に、更に、現在、黒森峰戦車道チームで行われている訓練プログラムは、全て、このレッドタイガー小隊の選抜試験を元に考察された訓練プログラムで、内容として”雄型・日常訓練プログラム、雄型・合宿訓練プログラム、雌型訓練プログラム、隊長選抜試験プログラム”……と言った複数の訓練プログラムを元に日々、訓練&メンタルトレーニングを行っている。
んで、そんな7代目隊長に当たる俺の対戦相手に、かつての戦友……、そして世代を超えたライバルが居るとはな……。
よく「人生何が起こるか分からない」と言うが、本当だよ……。この度の再編成と、今回の全国大会で、しみじみそう思う……。
俺は、そう思いながら、手にしたトーナメント表を、机の上に置く。
そして、トーナメント表と変える様に、机の上に置いてあったコーヒーを取り、喉へと流し込んだ瞬間だった。
『I received your email.(※メールを受け取りました)』
軽快な着信音と共に、机の上で開いていたノートパソコンの画面上に、メール着信を示す画面が表示される。
「んっ?」
この突然のメール着信に対して、俺は疑問符を頭に浮かべながら、パソコンを操作し、メールボックスを開く。
すると、そこに書かれていたメールの差出人は、かつてドイツにいた頃の、戦車道チームの戦友だった、日系ドイツ人の……”中須賀エミ”からだった。
『|Ihm wird eine Post nach einer langen Abwesenheit gesandt, waren Sie gut?《久しぶりのメールになるわ、元気にしてた?》エミよ……』
「おっ、久々だな……」
ドイツ語と日本語混じりで、書かれた彼女のメールを見ながら、俺はそう呟いた。
彼女とは、先にも行ったように、俺がドイツにいた頃に、所属していた戦車道チームの戦友だ。
同じ、日系ドイツ人ということで、何かとからかわれていた彼女を、騎士道精神故に見捨てて置けず助けた所から、知り合って、先に行った様に、同じ日系ドイツ人と言う事で、何かと話の馬も合って、事実上の”相棒”とも言える関係だった。
今現在は、俺が日本にいることで、離ればなれになってしまったが、時たま、こういったメールでのやり取りを始め、ドイツに里帰りした際には、必ず時間を使って合う良き関係だ。
そんな良き相棒(※元)のメールを読みながら、俺は返信の為に、キーボードを叩くのだった……。
…
……
………
<?Side>
「大洗のみんな。元気やってるかしらね~」
私こと蝶野亜美は、成長しているであろう西住みほ率いる大洗チームを拝めるのでワクワクが止まらない。
前回の練習試合は残念な結果になってしまったが、今の大洗の実力は、前の時とは違うはず。
それに、新しいメンバーや戦車も増えたと聞いたし。どんな状態なのか楽しみでしょうがない。
ルンルン気分で、私は演習場へと向かう。
しかし、演習場に入った途端固まってしまった。
「よし!次は走行間射撃だ!偏差射撃も出来ないと一人前になれないぞ!」
インカムをつけ、双眼鏡を覗きながら指示を出すハードボイルドな白人男性。
「その調子だよ~!うさぎさんチームのみんな~イェ~イ!」
グラサンをかけヒャッハー!と叫ぶ頭のイカレタ白人?。
「よし……吹き飛ばせ」
モロ軍人の雰囲気を出しながら指示を出すゴツイ体のロシア系の男性。
いつから、ここは軍の演習場かデポになったのかしら‥‥?
どう見ても一般の人間に見えない人間が…大洗のメンバーを指導していみたいだけど。
よく周りを見てみたらベルゲパンターやその他の補給物資など大量に置いてあるし。
大洗って財政的に、かなり厳しかったんじゃ?
グラサンをかけた初年の老人が携帯でがなりたて、同じくグラサンをかけたちょび髭の白人男性がタブレットを操作しながら周りにいる金髪の女性に指示を出していた。
一部除いて元軍人みたいだけどね。それにしても、むせる。
そして、偶然近くにやって来たつなぎを着た女子学生に声をかけた。
「ねえ?あの人達は誰なのかしら?」
「え?あの人達ですか。この学校の戦車道のスポンサーと協力者の皆さんですよ」
「ス、スポンサー?」
「ええ、海外のどこかの資産家と……この学園艦にある榊原工務店の榊原さんです!特に資産家の人は資金面で貢献してくれてるんで助かってます」
榊原…どこかで聞いたことがある名前だけど……どこかで聞いたことがあるんだけど思いだせないわね。
後、海外の資産家はどうして大洗のスポンサーになったのかしら?西住さんの知り合いと思えないけど。
その時、聴きなれたマインバッハエンジンの音が聞こえてくる。思わずエンジン音がする方を向くと黒森峰でも使われているパンターG型がこちらと向かってくる。
「パンターG…大洗の新戦車ね。誰が乗ってるのかしら?」
そう呟きパンターから出てくる人間を確認する。キューポラから出てきたのは、巽先輩の一人息子の…志郎君!?私の可愛い弟みたいだった子。
私は懐かしさのあまり駆けだすと彼を抱きしめる。
「志郎君!久しぶりぃ~!!大きくなったわね~!!」
「うお!?あ、亜美ねえ!?」
…
……
………
<巽Side>
「志郎君!本当に久しぶりぃ~!!」
そう言いながら抱き着いてきたのは、あの「亜美ねえ」こと蝶野亜美さん……いや教官だな。
ちっちゃいころに色々遊んでもらったのを覚えている。
しかし、亜美ねえの抱きしめられるのはいいがすこし苦しい……。顔が柔らかいものに挟まれて少し息苦しい。
「苦しいんだけど……亜美ねえ!」
「あら、ごめんね!でも、志郎君が戦車道に参加してるなんて思ってもいなったわよ。それもパンターだなんて」
やっとこさ解放されたのはいいが、少し周りの視線が痛い。特にヒルターさんや一部の男子からだが……。
「運が良かっただけだよ。偶然見つけても……後、他には三式中戦車なんかも発見したしさ」
「凄いわねえ!旧日本軍の戦車が3種類も見つかるなんて滅多にないわよ」
驚いたように口を開く亜美ねえ。そりゃそうだ。旧日本軍が初期と末期になって開発した戦車が3種類もそろったのだから。
そして、久しぶりという事で昔の懐かしい事を話していると、ハンニバルさんやおやっさん、ヒルターさんがやってきたのが分かった。
「ほう。この嬢ちゃんとは志郎の知り合いかぁ……」
「おっぱいp「少し黙ってた方がいい!」」
と、危ないことを叫ぶヒルターさんの口を塞ぐハンニバルさん。
「あ、忘れてた。紹介するね。俺が世話になってるお店の店主榊原のおやっさん、スポンサーでドイツから来たヒルターさん、この人は元第75レンジャーに所属してた人でハンニバルさんだよ」
ハンニバルさんの所属を聞いて驚く亜美ねえ。そりゃそうだ元米軍の軍人が亜美ねえが居ない間の指導をしてくれてるのだから。
そして、ゆっくりグラサンをとるヒルターさん。顔を見て固まる亜美ねえ。
「似てるだけだ……顔が……」
「志郎君……お姉さん。心配になってきちゃったわ」
「大丈夫だよ。多分」
そのうち、他のメンバーがやってきてにぎやかになる。俺と亜美ねえの昔話になるとヒルターさんが悔し涙を流して聞いている。
いや、ちっさい頃に添い寝やお風呂はあったけど、幼児だったしね。仕方がない。
「羨ましい……羨ましすぎる」
周りは、少し引いている。
そして、なんだかんだ言って演説しようとする。
「何を言い出すんだ?」
「お風呂演説?添い寝演説?」
「いや、胸の演説だと思うぜよ……」
「「「それだ!」」」
「いやらしい演説だー!」
「アイー!」
「セクハラー!」
女子を始めとするメンバーの台詞の内容は痛い。先日の顔合わせの際に行われた演説があまりにも”H"でセクハラ的なものだったから当たり前だ。
そして、ヒルターさんが近くにあった弾薬箱の上に立って演説を始めようとするが…なぜか、体のバランスを崩してしまい前方の方に倒れて行く。
「ノオオオオオ!!」
なぜか、英語っぽい悲鳴を挙げながら前方に倒れるヒルターさん。その前には、亜美ねえが居た。
「あ、危ない!?」
ヒルターさんが、亜美ねえを押し倒すような形で倒れているのが目に入る。しかも、両手が亜美ねえの胸に添えられている。つまり、揉んでるという状態だ。
「「「「「………」」」」」
皆唖然としている。当然だ。事故とはいえ、うら若い女性自衛官の胸を揉んで?しまっているのだから。
西住隊長の方に目をやると、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたりする。副隊長に至っては、既に銃を抜いてるぞ……。
「手離してもらえませんか?ヒルターさん」
俺の耳に、亜美ねえの明るく冷たい声が入る。ついでに……。
「ヒルターさ~ん。いけないねぇw」
顔は笑っているが、冷たい眼をしている角谷生徒会長が居た。
確か、前のヒルターさんの自己紹介で胸の格差社会発言で切れてたはず。
「遺言……じゃなかった。言い残すことは?」
「や、柔らかかった……おっぱいぷるんぷるん!」
ガクブル状態で叫んだヒルターさんは、亜美ねえの胸から手を放すとそのまま走ってどこかへと逃げていく。
「ねえ、志郎君。お姉さん……お願いがあるんだけど~」
後ろから優し~い声を出しながら、俺の肩に手を置く亜美ねえ。はっきり言って怖い。
「な、なに?」
「ヒルターさんがにげそうな所を教えてくれないかしら?」
駄目だ。逃げられない。何故か、俺の本能がそう告げている。
「家です」
「即答かよ」
室戸がぼそりと呟くの聞こえる。
「ほんとだ」
黒崎も同じように口を開く。
「ありがとう。志郎君。後でお礼してあげるからね。あ、ヒルターさんの住所も教えてね♪勿論、志郎君のもだけど」
仕方なく自分の住所とヒルターさんの住所を教えると亜美ねえは、この場を去る。
「ヒルターさん。大丈夫か?」
阿仁屋が、全然心配してなさそうな顔で言っている。
「大丈夫だろうよ。ヒルターさんの家のセキュリティは要塞なみだからな。まあ、無理だろうな」
「あの教官殿なら突破しそうな気がしますが」
反田が他人事のように呟く。
「突破したら突破したでヤバいんじゃ」
伏も亜美ねえが消えた方角を見ながら言う。
「突破されるんじゃないですか?そんな気がしますよ」
と黒崎が面白そうな表情をする。
すごく不安な気がしてくる。大丈夫だろうか?
「ど、どうなっちゃうのー!?」
隊長の西住が、とうとうこの場の空気に耐えられず思わず叫んでしまう。天に運命に任せよう。
…
……
………
<龍Side>
「あ~……、疲れた~……、マジで死ぬかも……」
寮に戻って来るなり、開口一番で俺はそういいながら、リビングの食卓の椅子に座り込む。
あー……「久々の更新で、送れて登場した主人公が、最初にこんな事を言ってるのか……」とか、言うなよ?
だって、練習時の蝶野教官における修羅場に始まり、その後、ヒルターさんをぶっ飛ばして戻ってきた、蝶野教官主催の元、開かれた、反省会兼懇談会で「なんか面白い話しろ」と言う”定番の無茶ぶり”を喰らったりで、なんかもういつも以上に神経はすり減り、脳みそはオーバーヒートしているんだからな……。
ついでに腹も減った……。なんか手軽に喰える物あったっけ……。あ~……、確か、カップラーメンがあったかな……。
もう既にエネルギーが底をつきた、脳みそを無理矢理、回転させる様にして、思い出した食料の居場所である戸棚を開ける。
すると、そこには”カップラーメンの自衛隊モデル”があった。
確か、福岡にいる親父が「売店の仕入れ担当が、間違えて大量発注して余った物だから、テキトーに食えば?」とか言って、突然送ってきた物だったな……。
うーん……、まれにスーパーで間違えた発注入れてしまって、大量に来た商品を”自爆価格”で販売……なんて、おもしろ画像の本とかで、見た事があるけど、自衛隊でもあるんだな……。
っていうか、これって”軍事物資の横流し”……って事は考えないでおこう……うん、それが幸せだ。
そう思いながら、俺は電気ポッドに水を入れ、コンセントを入れ、お湯を沸かす。
お湯が沸くまでの間、俺は椅子に座り込み、ダラーっと力を抜いて、完全に脱力する。今日は本当にいろいろとあったからなぁ~……。
っていうか、意外だったな……、反省会兼懇談会での無茶ぶりに答えるために話した、”親父の武勇伝”が予想以上に受けが良かったのは……。
ん、「親父の武勇伝」を知りたいってか?いや、別に話しても良いけど、みほ達に受けが良くても、読んでいる読者に受けが良いかは保証しないよ、俺は。それでも聞きたい?なら、話そう……。
まぁ、簡単にまとめると下の2つになる。
1.機甲科訓練生時代に乗っていた61式戦車が、演習場を大暴走。
2.新人戦車隊長時代に乗っていた61式戦車が、突然爆発&炎上。
……って感じの話でさ。特に大した内容じゃないんだけどね……。
え、「十分大した内容だよ!!」って、そうかねぇ~……?まぁ、いいや。
では、先ず最初に1の方から話すとしよう……。
これは親父が防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊機甲科の隊長候補生&戦車搭乗員訓練生として訓練学校に入学して、約半年の頃だったらしい。
その日、親父は他の隊長候補生&戦車搭乗員訓練生と共に、61式戦車に乗って実車訓練に当たっていたらしい。
まぁ、隊長なので、戦車の操縦や砲撃などは行わないけど、戦車乗りの指揮艦である以上は、自分が乗る戦車について知っておかないといけないからな。
で、その日、親父は砲手として61式に乗っていたのだが、妙にスピードが速かったらしく「やたらと飛ばすな~……」と思っていたけど、特に気はしてなかったそうだ。
もし、この時、顔を出して外を確認していたら、親父は自分が置かれた状況を一瞬で理解しだろうが、61式は4号や、5式などとは違って、砲手は外を照準気以外で見る事が出来ない車両で有るが故に、後で衝撃の事実を知る事になったらしい……。
で……、それで暫くして61式が停車し、61式から、下車した親父は操縦主に「おい、妙にスピード出してたな?」と軽い気持ちで問い掛けたのだが、その時、操縦主は完全に青ざめた表情で、手もブルブルとふるわせながら、タバコを吸っていたらしい。
流石に、それを見て親父も「ん?」となったらしく、すぐ近くで妙にげっそりとした表情の車長と装填主に話し掛けたそうだ。
この親父の問い掛けに対して、車長は”衝撃の事実”を親父に告げた……。その事実とは……。
実は、この時、「5キロ近くもある長い坂道を下っている際に61式のギアが、ニュートラルに噛んだまま抜けなくなってしまったらしく、もう”操縦が全く効かない状態”で、坂道をフルスピードで駆け下りてきてきた」と言う……、つまり『暴走』していたのだ……。
流石にこの事実を知ったときは、親父も真っ青に青ざめたらしく、今でも「あれほど、ゾッとした経験は無いよ」と言っている……。
これは余談だが、『世界一操縦が難しい戦車』とも言われる61式だが、親父は、この戦車の操縦訓練を行っている際に、どういう訳だが、”鋼鉄製のクラッチレバーをへし折り、教官にたこ殴りにされた”事もあったりするらしい。
そして、次に2の方を話すとしましょうか……。
これは上の出来事も経験した訓練学校を卒業し、新人戦車隊隊長として着任した部隊での事……。
ある日、実弾演習を終えて、戦車中隊本部まで帰還していた時の事だった。
当時、親父は最新鋭の74式が配備されてなおも、現役だった61式に乗って、部隊の指揮を執っていたのだが、ふと後ろを見た際に、エンジンから黒煙がもうもうと上がっているのを見たらしい。
それを一目見るなり、直ぐさま、操縦主に対して、停止を命じ、素早く操縦主が停止させた瞬間には、「ドーン!!」と言う音と共にエンジンから、一気に炎が上がったらしい。
これに対して、親父は直ぐさま、火災消火システムの起動を指示し、操縦主がそれを作動させたのが……、何故か作動せず、消火する所か、火の勢いが強まるばかりで、もはや危険な状態になった為、親父は搭乗員全員に下車を指示。
全搭乗員が、逃げ出すように戦車から降りた瞬間には、もう凄まじい勢いで戦車全体が燃えていたらしい。
そんな状態を前に、当時新人士官だった、親父は、もう完全にパニック状態で、エンジンに砂を掛ける事を指示。
残る小隊の戦車の搭乗員全員が参加する様な形で、ひたすら砂を掛けていたらしい……。
で、唯一冷静だったのが、自衛隊が、保安隊だった頃から、勤務していた小隊1のベテラン曹長で、自身が指揮を担当していた戦車の搭乗員に対して、親父に加わるように指示を飛ばす一方で、自身は中隊本部に連絡を入れ、”中隊長などに報告”を入れると同時に、”消防小隊に対して、化学消防車の出動要請”や、”整備中隊にM32戦車回収車の出動要請”を一人していらしく、親父も気が付いたら、消防車や戦車回収車が来ていた……と言った感じで、新人士官だった親父の出来なかった事を一人で行って見せたのだ。
んで、これ以降、親父がよく言っていたのが「ベテランの人ほど、一番頼りになる物はないぞ」と言う事である。
それで、作動しなかった火災消火システムだが、この火災事故を受け、直ぐさまメーカー立ち会いの元、全ての戦車が検査されたが、何と”6割近い戦車で火災消火システムが作動しなかった”と言う事で、少なからず当時の防衛庁(※2009年に防衛省に格上げ)&国会で問題になったとか……。
……とまぁ、こんな感じの話をしていたら、裕也に言われたのが次の一言だ。
「お前って、”屈折したファザコン”だな」
とりあえず、一言良いか、裕也?
”シスコン”のお前に言われたくねぇえわああああああああああああーっ!!
いや、いや、いや、いや、いや!!俺がファザコン!?そんな訳ないでしょうが!!
だって、現にメールとか送られてくるたびに、『生まれる親を間違えた』と本気で思うような内容を送ってくる父親だよ!?
っていうか、メールとか送られてこなくても、三日に一度、『生まれる親を間違えた』って本気思っているからね、俺!!
そんな父親にファザコンになる人って、世の中、隈無く探がしても絶対居ないぞ!!
だって、上の話をしたのも、「面白い話をしろ」って無茶ぶりに対する回答案みたいな物だし、現にネタとして面白でしょ!?
だから、絶対に間違っても、ファザコンじゃないぞ、俺は!!
っていうかさ、小学校4年の時に、信号無視&飲酒運転の暴走デコトラに跳ねられて、20メート以上ぶっ飛び、近くのコンビニの自動ドア突き破って、反対側にある商品棚に突っ込む程の交通事故にあって、”右側頭部の頭蓋骨が吹っ飛ぶ重傷”を負った時ですら、「アハハ、この程度で死なん、死なん!!」と笑っていたときは、本気で「呪ってやる……」と思った父親だよ!?
何をどう勘違いすれば、ファザコンになるのさ!?
全く、親父の話を2つしただけで、ファザコン扱いされる世の中……全く、どうかしてるぜ!!
それ言ったら、モテない余り、ヤンデレ化が進む沙織と同じ様に、”ヤバイ方向”に進もうとしている葵の方が、マズイだろ!?
だって、遂に”人外物(※そんな主の漫画を読んでいた)”に手を出したぞ、|アイツ《葵》!!
いや、いや、いや、何をどう考えたら、人以外の”ラミア(※神話上に登場する下半身が蛇の女性)”とか、”ハーピー(※同じく神話上に登場する手に鳥の羽の生えた女性)”とか、”ケンタウロス(※左の2つと同じく、神話上に登場する下半身が馬の亜人)”とかに走ろうとするの!?
つーか、一番出来ないのは、葵のお気に入りが”アラクネ(※神話上に登場する下半身がクモの女性)”のキャラな訳!?
このキャラ見せられた瞬間、俺、「条件反射」で海外仕様の超絶強力なクモ用殺虫剤”(※東南アジアや南米など、人も殺す毒を持つ毒グモ対応)”を”二丁拳銃宜しく、両手に持って葵の顔面に向けて大噴射(※絶対にマネしないでね)”したよ!!
実物は当然、外見は”完全に人間”のス○イ○ー○ンすら、駄目な俺からすれば、問答無用で気絶するレベルなんですけどぉぉーっ!?
こんな俺に対して葵は、「こんな美人がクモな訳無いだろ!!巨乳だし、ドSだし!!脚、メッチャ艶めかしいし(※こいつ、脚フェチ)!!」とか言っていたけどさぁ~……。
何だ、脚フェチと童貞を拗らせるとクモの脚にすら発情できるようになるのか!?クモ恐怖症の俺には一生、理解できねぇ!!
っていうか、沙織の方も、「何処の頭の可笑しい出版が出した!?」と突っ込むこと確実な、『正しい既成事実の作り方 確実に男とを落とす逆○○○実践法』なんて本読んでいたよな……。
……とまぁ、こんな感じでギャー、ギャー騒いでいる俺と葵を見て、アヒルさんチームもとい、バレー部のあけびが、何処か遠い目で俺達を見ていたな……。うーん……、何でだろ?
あ、上で書いた交通事故の詳しい話は、また機会があったら話すとしようか……。
因みに、余談だが、上の交通事故の後、警察は勿論、俺が自衛隊の指揮官の息子と言う事もあってか、自衛隊の|警務隊《けいむたい》やら、警察の公安部やら、防衛省の調査官などが、飛んできて事故原因の捜査や、逮捕された運転手への取り調べを行ったそうだ。
こうなった理由だが、この事故の少し前に、かなりぶっ飛んだ宗教団体が、自衛隊唯一の空挺部隊……第1空挺団の隊長の娘を人質にして、宗教団体の私兵化の要求を突きつけようとした事件があった事に加え、仮想敵国のスパイによる破壊工作の一環などが疑われた為らしいが……、うーん……、もはや何が何だか……。
な~んて、心の中で叫んでいる内に、お湯が沸いたので、俺は素早くカップラーメンの蓋を開け、お湯を注ぐと、プラスチックフォークを刺して、蓋をしながら、タイマーをセットする。
んで、三分待つ間、テレビでも見ようかと思い、俺はリモコンに手を伸ばすと、電源ボタンを押す。
瞬間、テレビが付き、この時間帯に放送しているニュース番組が、画面を流れる。
しかも、今、放送しているニュースの内容は『全国戦車同大会』に関する物で、個人的にかなりタイムリーなニュースだ。
でもって、更に今、放送しているのは、前に練習試合を行った”聖グロリアーナ戦車道チーム”についてだった。
いやぁ~……、偶然にしてはできすぎじゃないか……。まぁ、作者が書いているんだから、そうなるんだろうけど……。
「ん?」
そう思いながら、テレビに視線を向けた瞬間、そこで放送していた内容に、俺は思わず刮目した。
だって、そこに映し出されていたのは、聖グロリアーナ雄型戦車道チームが、黒森峰雄型戦車道チームが誇る最強チームの”レッドタイガー小隊”に対抗するべく、編成した『|リッパー《死神》小隊』だった。
うーん……、一番伝統とかにお堅い聖グロリアーナ戦車道チームですら、遂に対抗部隊を編成し出すとは……。
まぁ、でも、雌型に比べると、雄型は歴史が浅いしな……。浅い故に、案外、すんなりと新スタイルの部隊の編成がしやすいんだろう……。
そう思いながら、俺はテレビ画面の中で、演習場を走り回り、撃ちまくるリッパー小隊の”センチュリオン巡航戦車、ブラックプリンス(※2台)、コメット巡航戦車(※2台)、アーチャー対戦車自走砲”を見つめていた。
っていうか、このリッパー小隊が使っている無線内容って、恐らく”コードネーム”なんだろうな……。
だって、”プライス”とか、”マクミラン”とか、”ソープ”とか、紅茶の銘柄以外の名で連絡を取り合っているし……。
つーかさ、なんか、これ何処かのコードネームって、”某有名FPSに登場するSAS隊員達の名前”じゃないか?まぁ、良いんだけどね……。
というか、それ以上の問題とも言えるのは、ジッパー隊長の搭乗車両以外に、トータス重駆逐戦車が居る事だな……。
画面に映し出された2台のトータスを前に、そう思うと同時に、三分経ったらしく、タイマーが「ピピピッ」と時間を知らせる。
それを合図に、俺は刺していたフォークを抜き、SDFヌードルの蓋を開けると、一気に中身を食していく。
正直、特に大した事は無く、味としては普通のカップラーメンなんだけど、逆にそれが無難で良いんだよな……。
無駄に自衛隊仕様として、塩分多めとか、カロリー超高めとかじゃないも、嬉しいところである。
SDFヌードルを食べ終え、殻になった容器をゴミ箱に放り込むと、まるで、デカイ仕事終えて、自宅に帰ってきて、缶ビールとのり弁当とかで、晩酌した後に脱力する、一人暮らしのサラリーマンの様に、俺は自分のベッドに倒れ込む。
「ふいぃぃ~……」
声にならない声を上げながら、俺はベッドの上で背伸びをし、凝り固まった筋肉を伸ばしていく。
ある程度、筋肉を伸ばし終えると、俺は、ふとベッドの脇に置いてある一枚の写真立てに目を向ける。
「………」
その写真立てに入った写真は、中学の時……M24チャーフィーで、パンターを撃破したときの試合で、試合後にパンターを撃破した事を記念して、撮影した写真。
当時の搭乗車両だったM24チャーフィーをバックに、俺と共にスクラムを組むのは、中学の時に共に苦楽を共にした戦友達……皆、掛け替えのない存在だ。
中学を卒業すると同時に、みんなバラバラの道を歩んだが、忘れることは出来ない奴らばっかりだ。
今回の全国大会……、もしかしたら、皆揃って、見ているのかもな……。
だとしとら、なおさら、副隊長としてしっかりしないとな……。みほの為にも、あいつらの為にも……。
再び、写真立てに入ってる写真を見つめ、俺はそう思うのだった……。
そう思うと同時に、全国大会開催の時が……、俺達の戦いの火蓋が切られる時が……、刻一刻と近づいて来るのだった……。
…
……
………
そして遂に、全国戦車道大会、開催の日がやって来た。
開催の花火が打ち上がる中、戦車道連盟が保有しているモニュメントとして九七式中戦車を始め、多数の食べ物や飲み物の屋台やグッズの販売店が軒を連ね、多数の観客達で露店街は賑わっていた。サンダース側の観客席は既に観戦する生徒達で満員であり、「GO!GO!サンダース!」や普通に「サンダース」と大きく書かれた横断幕までご丁寧に用意され、チアガール達も「GO!GO!サンダース!FIGHT!」と声を挙げて応援のパフォーマンスを行っている。う~ん、流石優勝候補の一角で金持ちってだけあって応援もスケールが違うぜ……。
一方、大洗側の観客席はと言うと……まァ、無名の弱小校なので当然と言えば当然だが観客もまばらで、精々ウチの生徒達数人や秋山のお父さんとお母さんを始めとした選手の家族数名、そして物好きな大洗の地元人達が多からずも少なからず席に座っている程度だった。
つーか葵、玄田、お前等何ジロジロとサンダースのチアガールの生脚パンチラ見てニヤけてやがんだ!?学校の恥になるから止めろ!!沙織もイケメン探しなんてしてんじゃねェ!!木場一筋じゃなかったのかお前は!?
……それと、観客席から少し離れた場所では何と、練習試合で俺達を負かしたあの聖グロのダージリン、ジッパー、オレンジペコ、ドアーズの4人がまた例によって優雅なティータイムと洒落込みながら試合開始の時を待っていたのだが、当の俺達は知る由も無い……。
んで、その頃、俺達、大洗学園戦車道チームは、試合前の最終点検を行っていた。
「賑やかなもんだな」
「あぁ、そうだな」
会場の盛り上がり様を感じながら、俺は裕也と共に五式の後方にあるエンジンハッチとエンジンの給油口を開けて燃料が入ったジェリ缶から、手回しポンプを使って、燃料を給油し、その隣では玄田、葵、木場の3人が箱に入った砲弾を五式の中へと運び込んでいき、同じ様にみほや巽達も自分達の搭乗する戦車を整備班である自動車部を始めとして榊原のおやっさん、ハンニバルさん達と共に試合前の最終整備を行なっていた。
そして、30分程した後、38tの整備を終えた河嶋先輩が「ふぅ……」と言いながら、俺達の前に出ると一回息を吸った後、こう言い放つ。
「全員、整備終わったかー?」
「五式、整備完了です!!」
俺が空になったジェリ缶を下にいる裕也に渡しながら、河嶋先輩に返事を返す。
「準備完了!!」
「こっちもOKです!!」
「はいっ!!」
「Ⅳ号も準備完了です!!」
続く様にカエサル、磯辺、牧、みほ達が一斉に河嶋先輩に言葉を返す。
それを聞いた河嶋先輩が「よし!!試合開始まで全員待機!!」と言った瞬間であった。
「あっ!!いけない!!砲弾忘れちゃった!!」
「それ一番大事じゃ無いのー!!」
ウサギさんチームに所属する1年の宇津木と大野がそう言葉を交わし、彼女達だけで無く周りに居た澤、山郷、桂里奈がを上げて笑い出した瞬間だった。
「呑気なものねー、よくそれで、ノコノコと全国大会に来れたわねぇ~……」
「あぁ、全く。お笑いだぜ」
彼女達の笑い声を遮る様にこのメンバー達の声では無い女子の声が飛び込んで来ると、続く様に男子の声も聞こえてくる。
その声が聞こえて来た方向へと俺達が顔を向けると、そこには巽と秋山達が撮影した映像の中に写っていたサンダース高校戦車道チーム雄型副隊長のジェームズと、雌型副隊長のアリサとナオミの姿があった。
そんなアリサとジェームズ達は、澤達を見ながら、軽く馬鹿にする様に笑っていた……が、次の瞬間、「冷やかしか?」と言う声を上げながら澤達の搭乗するM3リーを整備していたジェイクさん、コングさん、ニコライさんが工具道具を持ちながら、立ち上がると彼女達の元へと歩み寄って行く。
するとさっきまで笑っていたナオミ、アリサ、ジェームズの3人は、まさかの反撃に対して「「「えっ、えっ……?」」」と困惑し、青ざめた表情と声を上げながら思わず、ズリズリと後ずさりして行く。
まぁ、当然といえば、当然か……。俺だって同じ立場だったら、全力で退却するだろうし……。
んで、あまりにも恐ろしいメンツを前にして、サンダースの3人は震えあがっていた。
「何だ嬢ちゃん達……、茶化しに来たのか?、……あ”ぁ?」
「茶化しじゃなくて、馬鹿にしに来たみたいだな」
「‥…(ウォッカの瓶をラッパ飲みして睨み付ける)」
「あっ……、いえ……、そう言う訳では……」
正直に言って強面の3人に対して、すっかり青ざめたジェームズがチグハグな言葉で返していると、同じ様にすっかり青ざめているアリサがジェームズの背中に隠れ、ナオミが青ざめた顔で「あはは……」と苦笑していた。
そんな時だった。最近になって聞きなれたマインバッハエンジンがこちらへ向かってくるのが分かった。巽達のパンターG型だ。
「え!?嘘!パンター!?」
「嘘でしょ!?」
「マインゴット!?」
サンダースは、こちらにパンターがある事を、今日この日まで知らなかったみたいだ。
そして、キューポラから上半身を出している巽を見てアリサが「あー!あの時の!!」と叫ぶ。
それに気が付いた巽も”おっ”と言うような感じで「あの時のサンダースの……」と呟いている。
「あの時は、よくもやってくれたわねええ!おまけに私たちのレーションまで強奪して!」
あのレーション巽が強奪してきたやつだったのか。
「ああ、俺達がおいしく頂いた。ごちそうさん」
巽が、あの事かと思い出したように言った。それに対し、アリサがムキーッと怒っている。
「あのレーション食べるの楽しみにしていたのにー!」
「戦利品だ。あきらめな」
なんだかんだと2人は会話している。
そんな会話をよそに、ニコライさんは「ふん」と鼻息を付いた後、こう言い放つ。
「用が無いなら、とっとと戻るんだな……」
そう言って振り返ったニコライさんに対して、ジェームズはびびりながらも「あぁ、用はこれです……」とドン引きした様な声で言い放つと、後ろを振り返って「おいっ!!あの方をお連れしろ」と叫ぶ。
すると、2名の風紀委員の女子にはさまれるようにやって来る白人男性がやって来た。
いかにもイケメンで女性にもてそうな人だった。女子の連中が”キャッー、キャッー”騒いでいるが。一体誰だろう?
身に着けている服は、高級ブランド物で、腕に何個かつけている時計も高級ブランド物だ。
ついでに、両腕にはお土産らしき袋を下げている。
「フェイス!」
「何だ用事ってのは、この”女たらし”を返す事か?」
フェイスという男性を見たハンニバルさんが葉巻を吸いながら言い放つと「「ハイ!!」」とジェームズとケイが青ざめた表情で声を揃えてハンニバルさんに言葉を返す。
「フェイスさん。無事でしたか?」
パンターのキューポラから身を乗りだしていた巽が、フェイスさんに声をかける。
「まあ、楽しく過ごさせてもらったぜ。お土産いるか?」
と言いながら、ブランド物のマークの入った紙袋をあげる。
「た、巽君。この人は……?」
みほが困ったような表情をして尋ねる。うん、マジで、誰だアンタ?
「おれは、テンプルトン・ペック!第75レンジャーの元中尉さ!ブラジャーからミサイルまで何でも揃えてみせるぜ!」
女子に笑顔をまき散らしながら自己紹介をしている。女子の一部なんかは、まだキャーキャー騒いでいる。
うーん……、女子が騒ぎ立てる理由が分からない……。なんか浮気しそうな人に見えて仕方ないんだけどなぁ~……。
そんな心情の俺に対して、葉巻を口にくわえ、それにシルバーのライターで火を付け、いかにも「ワイルドなアメリカのオヤジ」と言わんばかりの風貌のハンニバルさんが、フェイスさんに話し掛ける。
「フェイス、サンダースはどうだった?」
「あぁ、結構悪くはなかったぜ、ハンニバル。」
そうフェイスさんが返すのを聞きながら、ハンニバルさんが「そうか」と笑いながら言い放つ。
「いい部屋に泊まれせてくれたし、可愛い女の子はいっぱいいるし、贈り物も高価、飯だってうまかった。VIP待遇さ。それに、夜は毎日パーティだったぜ」
と、他の男性諸君が切れそうなことを平気で言っている。
「頭を冷やしてこなかったみたいだな」
そこまで言っていたフェイスさんが、ハンニバルさんの言葉を聞いて、サンダースに残された理由を思い出すのと、ほぼ同時にハンニバルさんが「この女たらしが!」と葉巻を指で持ちながら怒鳴り散らす。
そんなハンニバルさんの言葉に思わずビクっ!!とする俺とみほ達だったが、それ以上にジェームズ、アリサ、ナオミが「「「ひいっ!!」」」と声を揃えてドン引きしていた。
まぁねぇ……、挑発しに来たら、逆に修羅場に首を突っ込むことになったんだから、堪った物じゃないだろうな……。
そんな3人に対してモンキーさんが、「何時もの頃だから~」と笑いながら返しすと、続け様にモンキーさんは3人に問いを投げかける。
「そんで、用事ってこれで終わりー?」
「あぁ……、後……」
「後?」
そう言ってジェームズの言葉にモンキーさんが問いかけると、ナオミがこう説明する。
「こ、交流も兼ねて……、”食事でも如何が?”と隊長が……」
ビクビクしながら、そう告げたナオミの言葉を聞いた会長が「へぇ~……」と不敵な笑みを浮かべると、隣に居る河嶋先輩と小山先輩に顔を向けてこう言い放つ。
「腹が減っては戦は出来ないから、ここは素直にお世話になりますか」
「「えっ?」」
そう言って驚く河嶋先輩と小山先輩を側目に、会長はジェームズ達に向けてこう言う。
「じゃあ、案内してー」
「「「は、はい……」」」
そう言って試合前だと言うのに妙にぐったりしているジェームズ、ナオミ、アリサに付いて行き、俺とみほ達もそんな会長達の後に続くのであった……。
…
……
………
「「「「「………」」」」」
んで、サンダース陣営の戦車が待機している場所から、かなり近い場所にあるサンダースのテリトリーにやって来た俺とみほや他のメンバーは、巽達を覗いて揃って呆然としていた。
何故なら、そこには救護車の他、ファーストフードをはじめとする4種類以上のフード車シャワー車、ヘアサロン車と言った多数の車両が並んでいた。
「すげぇな……」
「これだから金持ちは嫌いなんだよ……」
「世の中、やはり金か」
「うらやましい」
金持ちぶりを見せつけるかの様に、豪華なサンダース陣営のテリトリーを、俺達が見つめていた時だった。
会長達の居る方向から「Hey!アンジー!!と言う明るい声が聞こえて来たので俺とみほ、巽達が顔を向けると、そこには、サンダース戦車道チームの雌型隊長であるケイがナオミとアリサを引き連れてやって来る光景があった。
う~ん、秋山達の潜入映像でも明るい性格なのは分かっていたが、金髪と雰囲気からか「明るいヤンキー」と言った印象が強いな(※流石にスケバンとまでは行かないが)。
然しまぁ、そんなケイの相方があの犬の耳を思わせる髪型のハートマン軍曹なのかと思うと、また突っ込み所の多いカップリングだなオイ(※勿論口に出してバーニィに聞こえたらあの音に聞こえたマシンガンみたいな罵倒が五月蠅いので黙っておくが)。
「やぁ、やぁ、ケイ。お誘い、どうも」
そんな俺の、自分への第一印象の感想など知る由も無くやって来たケイに対し、会長が笑いながらそう返すとケイも笑いながらこう言い放つ。
「何でも好きな物、食べてって♪OK?」
「OK、OK、オケイ!!だけに!!」
そう言って会長のギャグに「アハハハハッ!!」と腹を抱えて笑うケイ。それに対して「馴れ馴れしい」と毒づく河嶋先輩。
そんな遣り取りをみほ達と傍観していると……。
「なぁ~に、突然慌てて報告してきたと思ったら、そんな、そこら辺の石ころの方が価値のあるぐらいに、価値無しの話か、陸軍野郎!!」
「ですからぁ~……」
……といった感じで、ふと、サンダースの戦車が待機しているパークの方から、俺達の耳に軽く口喧嘩の様な会話が飛び込んで来る。
いや、喧嘩と言うには少しばかり一方的な言葉の弾幕……マシンガントークの罵倒が……。
何事かと思って声のする方を向くと、其処には第二次大戦中に米軍で使用された“M1ヘルメット”を小脇に抱え、映像と全く同じ様にマ○クシェイクを飲みながら、会長とケイの元に向かうバーニィと、彼に詰め寄る形で並んで歩くジェームズの姿が在った。
怒りの為か、バーニィの犬のケモ耳を思わせる緑髪が、まるでドーベルマンの様に天を衝いているのが些か滑稽に見えた。
そんなバーニィに対して、ジェームズは少なからず真剣な表情で、直談判している。
よくよく内容を聞いてみると、どうやら、先程、俺達のパークで見たパンターに関してらしい……。
「ですから、何度も言う様に、パンター戦車が居たんですよ!!」
「だから、どうしたって言うんだよ、陸軍野郎!?何だ、パンターが居るから、モ○ルスー○だの、アー○ード○ルーパーだの、もってこいって言うのか!?テレビの見過ぎだ、バーロー!!」
「いや、隊長……、パンター戦車がどれだけの脅威なのかは知っているでしょう?」
「そりゃ当然だ。俺達の戦車を射程外から、一方的に打ち抜けるからな」
そうかる~く言い放つバーニィに対して、ジェームズの顔は、まさに真剣そのものだ。まぁ、そりゃそうだろうなぁ~……。
パンターの火力は凄まじく、”第二次世界大戦中における、最強戦車”と名高いタイガーと同様に、第二次世界戦中に使用された、全てのアメリカ軍戦車の正面装甲を打ち抜ける。
切り札として、アメリカ軍が終戦間際に投入し、バーニィが率いるアニマルハンター部隊で使用されているM26パーシングをもってしても、パーシングの主砲である90ミリ砲の射程外から、一発で撃破できる威力を誇っている。
故に、シャーマンに乗るジェームズからすれば、まさに脅威中の脅威で間違いないだろう……。
そう思いながら、二人のやり取りを見ていると、更にジェームズが、バーニィに対して、強く意見を述べている。
「だったら、なおさらでしょう!!速急なる対策を……」
「あ~、もう、うるせえなぁ!!この陸軍野郎!!パンターぐらいで、そこら辺のヤ○マ○みたいに、セ○ク○する事にしか脳みそ使わない、糞ビ○チみたいにギャー、ギャー騒ぐんじゃねぇ!!貴様、それでも海兵隊員か!?お前、モンテズマの間からトリポリの海岸まで戦う気力と根性はどうした!?ゴミと間違えたママにでも捨てられたのか!?どうせマニュアル通りの作戦で、大丈夫だと思っているんだろ!?これだから陸軍は、何時まで経っても戦争に勝てねぇんだよ!!どうせ昨日の夜も、作戦考えないで、ビ○チのチアガールの彼女とセ○ク○してたんだろ!?このウジ虫、ゲロ、糞以下の劣等生物の分際でよぉ!!頭の中身、お花畑なんだろ!?平和な物ですねぇー。平和ボケしてる奴は、さっさと最前線で吹っ飛んでこいや!!あと、吹っ飛ぶんだった細胞1つ残さず吹っ飛べよ!!お前のような、劣等生物の細胞はこの世にいらん!!人類や銀河どころか、この世界が滅亡する原因になるからな!!分かったな!?アホォ!!」
「いや、してないですよ……。っていうか、隊長も俺も民間人じゃあ……」
「黙れ劣等生物!!どうせパパの工場廃液の様な、腐りきった○ー○ンで出来たベッドの汚らしいシミと、ママのゴミ集積場の生ゴミみたいにハエやら、ウジ虫が涌いている腐れマ○コのマ○カスから、生まれたゲロみたいなスライ状の合成生物以下の存在にくせにギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー文句たれんじゃねぇ、バカ!!、アホっ!!、ボケェッ!!、間抜け!!、ナス!!、タコ!!、ゴリラ!!お前みたいな存在より、そこら辺の野良犬の糞の方が何億倍も価値があるわ!!分かったら、黙ってろ、このアホで、馬鹿の劣等、存在価値無し陸軍野郎があっ!!」
……と、怒濤の勢いで言い放った挙げ句に、トドメの一言をぶちまけ、ジェームズとの会話を強制的に切り上げるバーニィ。
まぁ……、良く舌が回る物だよねぇ~……。俺だったら、絶対途中で舌をかみ切って、大量出血で死んでいそうだわ……。
つーか、俺達、大洗側は勿論、その周囲にいた応援客やマスコミ関係者、サンダース側もケイと、アニマルハンター部隊のメンバー以外は、揃いも揃ってドン引きしてるし……。
ヒーローインタビューとか、絶対受けたら放送事故レベルの内容を言いそうだな……、あの隊長……。
なんて考えが、涌いてくる中、当のバーニィは、頭の上にグジャグジャした物を浮かべて苦虫を潰した様な表情のジェームズをバックに、シェイクを啜りながらコッチの方に向け、歩いてくる。
そしてケイ達と共に居る俺達の姿を確認するなり、「おっ」と言わんとばかりの表情で、こう言い放つ。
「居たのか、オッドボール軍曹&バルクマン曹長」
「うわっ、見つかっちゃった……」
そう言ってやって来るバーニィを観て、秋山はそう言って麻子の背中に隠れ、巽は「見つかったな」とさも予想していたかのような事を言って隣に居た田と顔を見あわせる。
そんな秋山と巽を見ながら沙織はみほの背中に隠れて隣にいる木場に問いかける。
「ねぇ、木場君。ゆかりん達、怒られるのかなぁ……?」
「流石に……、そこまでは無いと思うけど……」
心配そうに問い掛けてきた沙織に対して、手を首の後に回しながら木場が返しているとバーニィは秋山と巽に対して、先程のハ○ト○ン節からは、想像も付かない程、フレンドリーに話しかける。
「この前は大丈夫だったか?」
「あっ、はい……「大丈夫だった」」
こんな予想もしなかったフレンドリーな感じに思わず、秋山が拍子抜け様に返すが、巽は問題なさそうに答えるとマ○クシェイクを吸っていたバーニィが続けて、こう言い放つ。
「いやぁ~、こっちはあの後、風紀委員が以上に殺気立って、大変だったぜ」
「あ、?」
「挙句の果てに全生徒に”帯銃命令”が出ちゃう有様だし」
「ほ、本当……?」
帯銃命令と言う言葉に唖然としている巽がそう返すと、バーニィは「マジ、マジ」と軽~く言った後、シェイクの入ったカップを右手から左手に写した後、腰からぶら下げていた牛革製のホルスターから、シルバーのメッキがされたコルトガバメントを引き抜くとこう言う。
「いやぁ~、せっかく買ったばかりの新品なのにもう傷がついちまったよ……」
「それはお気の毒……」
「まぁ、良いんだけどねー」
巽に言ってバーニィがクルクルとコルトガバメントをスピンさせながら、腰からぶら下げているホルスターにコルトガバメントを戻すと、再びバーニィは、シェイクをズズーッと言う音ともに啜る。
そんなバーニィの右肩にケイが手を乗っけながら、秋山と巽に向けてこう言い放つ。
「二人共、また何時でも遊びに来てね!!ウチは何時でもオープンだから、じゃっ!!」
「んじゃ、試合でな!!」
そう言ってケイとバーニィは後ろ振り返って、アリサ、ジェームズ達と共に去っていく。
だが、途中でケイが何かを思い出した様に「あっ!!」と一言言って振り返ると、秋山と巽に向けて、こう問い掛けるのであった。
「所で、バルクマンとオッドボールはつき合ってるの?恋人同士として?」
「「はあっ!?」」
「何で本人より先に反応するんだよ……」
ケイの問い掛けに当の本人である巽と秋山よりも先に反応する葵と沙織に対し、俺の突っ込みが炸裂した。
「そ、それは……//」
と、もじもじしながら返答に困る秋山。それを見て、武部と葵の目からハイライトが消えていくのが見えた。
ちなみに、このサンダースのフード車達を観ていたヒルターさんが会長と話し合った結果”大洗学園でも採用する”とか言っているとか、言ってないとか……。
んで、会長の「腹が減っては戦は出来ない」の言葉に従い、俺達も各自別れて、好きな飯を選ぶ事にして、食事に入る。
「はい、ダブルバーガーセットね!!」
「どうも」
それで、俺が選んだのは、いかにもサンダースもとい、アメリカらしいダブルバーガーセットだ。
実際に出てきた物を見て思ったんだが……、これ普通に大手ハンバーガーチェーン店のハンバーガーよりデカくね?
うーん……、ここまでアメリカ風にしなくても……。つーか、ポテトだけで、普通のハンバーガー店のLサイズ2個分は、あるんじゃね?
まぁ、大食らいの華からすれば、実に嬉しいボリュームだろうな。彼氏の裕也からすれば、財布に少し空っ風が吹く事になるが……。
っていうか、裕也の奴、華とデートする前に、”スタントマンのバイト(※現実には、スタントマンのバイトはありません)”やっているしな……。
本人曰く、「一回、ダンプにはねられたら、5~6回分のデートにおける食事代になる」との事……。
華……、お前の食生活に文句を言うつもりはないけどさ……、少しは彼氏のことを考える様にしようぜ……。
そんな事を思いながら、受け取ったダブルバーガーセットを持って、裕也、みほ達が待っている場所に向けて行こうとしたときだった。
「なぁ、お前は今回の試合をどう思う?」
……と言う大人の男性の会話が聞こえてきたので、ふと、その方向に顔を向けると、そこには新聞記者であろうか、『報道』の赤い腕章を着けた成人男性二人が、今回の試合に関して話し合っていた。
「言わなくても分かってるだろう?サンダースの圧勝に決まってるさ」
「それもそうか、賭をする価値も無い試合だな」
「そんな事を言うなって、ココにいるガキんちょ共は戦車道に青春をかけているだし……」
なんかバカにされたような事を言われて、思わずムッとなる。だって、対戦チームの副隊長を目の前にして、そんな事を言うか?
そりゃ、まぁ、俺達は今年初参加の無名校だし、こういった反応も無名校の宿命……って奴か?だけどよ、全く解せないぜ……。
胸の内で、そんな思いがドッと涌いてくる中、新聞記者の一人が、ホットコーヒーを一口啜ると、こう言い放つ。
「にしても、大洗学園だっけ?不幸な物だなぁ~……、初の全国戦車同大会の一回戦の対戦相手が、優勝候補のサンダースだぜ?」
「あぁ、結果は火を見るよりも明らかだな」
「こりゃ、よっぽどの奇跡でも起きない限りは、優勝どころか、一回戦突破すら無理だろうな」
「まぁ、これも運て奴さ……」
もう一人の新聞記者が言い放つと、残るもう一人の方も「それもそうだな」と笑いながら、去っていく。
そんな二人の新聞記者の背中を見つめながら、俺は誰に向けて言うわけでもなく、まるで独り言の様にポツリとこう呟いた。
「その”奇跡”とやらを、起こしてみるさ……」
そう言い放つと、俺は再び、みほ、裕也達の元に足を向けるのだった……。
…
……
………
そして遂にサンダースとの試合の時が訪れた。
会場に設置された試合観戦用の巨大パネルの前で蝶野教官の見守る傍らに女子の審判3名、そしてその向かい側に俺達を挟む様に男子の審判3名が立ち並ぶ。
雌型審判はそれぞれ眼鏡を掛けた主審の|篠川香音《ささがわかのん》を中心にポニーテールの|高島《たかしま》レミが左に、黒髪ボブの|稲富《いなとみ》ひびきが右に、そして雄型審判は主審に黒髪で人の良さそうな顔付きの|溝渕《みぞぶち》ダンが中心に立ち、クールな印象の灰白色の髪をした|黛正衡《まゆずみまさひろ》が右に、茶髪に眼鏡の|有坂九一《ありさかくいち》が左に立つ。何れも連盟の定めた黒い服に身を包み、審判員らしく”JUDGE”と書かれたプレートを肩から下げている。
彼等6人と蝶野教官が立ち合う中、会長とケイ、俺とバーニィは互いに正面から向かい合った。
『それでは、大洗学園とサンダース大学附属高校との試合を開始する!!』
『雌型と雄型、各校のチームの代表者は前へ!!』
雌雄それぞれの主審両名が号令のアナウンスを掛けると、俺達は互いに握手を交わす。
「宜しく」
「あぁ」
……と言って、俺の隣で会長とケイが握手を交わす側で、俺とバーニィも軽く握手を交わしながら、こう言葉と交わす。
「正々堂々とやろうぜ」
「こちらの方こそ」
そう言葉を交わしながら、握手を終えた次の瞬間には……。
『それでは両校各チームの代表は、所定の陣地に移動して下さい!』
雌型主審の香音さんの号令を受け、俺と角谷会長はダイムラー斥候車『ディンゴ』に乗り込み、既にみほと裕也達がそれぞれの戦車に搭乗して待つ陣地へと向かって行った。
そんな俺達の到着を待つ大洗のメンバー達に、みほはこれからサンダースと相対するに当たって、戦いの方針を語っていた。
『説明した通り、相手のフラッグ車を戦闘不能にした方が勝ちです。サンダースの戦車は全て、走攻守共にバランスが取れており非常に強力ですが、落ち着いて戦いましょう。機動性を生かして、常に動き続け、カバさんチームのⅢ突、ヒョウさんチームのパンター、カニさんチームの五式の前に引きずり込んで下さい!』
そう語り終えたみほの視界に、俺と会長を乗せたダイムラー斥候車が飛び込んで来る。
「さぁ行くよ~!!」
「ちょっと会長、余り乗り出さないで下さいよ!!」
会長、意気揚々なのは良いですけど、運転席から立ち上がって片足前に乗っけて腕組みなんて危ないから止めてくれませんかねぇ~!!落ちたら危ないじゃないですか!!
只でさえ会長は背が低くて質量もあんまり無いんですから(※何処がとは言わないが)、走る車でバランス崩したらあっさり放り出されますって!!
……とまァそんなこんなで無事俺達がそれぞれの戦車に搭乗すると同時に、今度は雄型主審のダンさんの号令が木霊する。
『大洗並びにサンダース各チーム……、総員直ちに戦闘用意!!』
その言葉は試合開始の時が、実に後数秒と迫る瞬間を告げていた。久しく味わっていなかったこの緊張感……武者震いからか、微かに拳が震える。
気持ちの上では「懐かしいな!(※某サイボーグ忍者の狐風に)」と言わんばかりに胸が高ぶるのを感じながら、俺は車内で深呼吸をし、心を落ち着けた。
……うん、感情的な所が有る俺にとってはやっぱり深呼吸が1番の特効薬だな。裕也からも教えて貰ったが「3秒吸って2秒止めて、吐くのに15秒間」。兎に角"吸う時間より吐く時間を長くするのがポイント"だそうだ。そう言や中学時代に同じチャーフィーに乗った仲間も言ってたな。『上虚下実』って……。
要は『肩の力を抜いてリラックスしろ。力を籠めるべきは下半身の方だ』って事だが、剣道を始めとした武術を嗜んでいたアイツには本当に救われたよ。やっぱ持つべき者とは友だってつくづく思うぜ。
ダンさんの言葉が会場に響く直後、試合開始を告げる花火が天高く上がり、そして爆ぜた!!
『『試合開始!!』』
花火の弾ける音と共に発せられる香音さんとダンさん、両主審からの号令。それが開戦のゴングとなり、敵方であるサンダースのシャーマンやパーシング達がエンジンを立てて次々と前進を始める。
同時に俺達大洗の戦車達も……。俺にとっては中学以来、実に1年振りとなる公式戦。その戦いの火蓋が、高らかに切って落とされた瞬間だった……。