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動き出す、運命の歯車 後編

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  3. 動き出す、運命の歯車 後編
<巽Side>
千葉の駐屯地から来た母親に会うのは久しぶりで新鮮だった。
最後に会ったのは5か月も前だったとはずだ。
俺の母親は一般の学生の頃は戦車道をやり、自衛隊では対戦車ヘリに乗り小隊を率いているという変わった経歴である。
「あなたの学校生活がうまくいっていてよかったわ。今度会う事があったら2人で、ゆっくり食事でもしましょう」
俺の学生生活を聞いて安心した母親は、そう言った。
「そうだな。偶にはそれもいいかな。もう、いかなきゃ」
「そうね、また今度会いましょう。私は、蝶野一尉に挨拶してから帰るから。何かあったら連絡するのよ」
因みに母の階級は一尉。大洗戦車道の教官を務めている蝶野教官と階級は一緒である。
「じゃあ、また」
そう言って俺達親子は別れた。
そして、別れて数分後、急に俺の携帯着信音がなった。かけてきたのは室戸だった。
胸騒ぎが起きるのを感じた。
『情報が手に入った』
室戸の声が聞こえるが、その声は重々しかった。
「悪い知らせらしい……いや、”みたい”だな」
『……当たりだ』
そして、間が開いたと思ったら室戸の声が聞こえてきた。
『悪い知らせだ。結論を言おう。大洗学園は、今年度限りで廃校とするという決定が下された』
携帯の受話器から、室戸の少し重い声が聞こえた。
『だが、この話には続きがあってな。今年度の……とは言っても来年の廃校の話なんだが、今は一旦保留という事になっているんだ。”ある条件”でな』
「”戦車道”か」
受話器の向こうで、紙をめくる音らしきものが聞こえた。
『そうだ。かつて旧大洗女子学園のころ盛んだった戦車道。今度行われる戦車道の全国大会に参加して優勝することが廃校を撤回する唯一の条件ってわけだ。さすがに、優勝校を廃校するわけにはいかんだろ。
それに、戦車道に参加してたら連盟からの補助金も出て学園の維持運営費に金を回せるからな』
なるほど、戦車道に参加していれば連盟から補助金が出て全部ではないが学園の維持運営費に金を回せて、優勝すれば廃校は撤回という、あまりにも危険な賭けに生徒会長は打って出たわけか。
それに20年ぶりの出場で男女共学になった大洗学園が初優勝すれば、学園は有名になり生徒数も若干増える可能性もある。
「分かった。情報収集ご苦労だった。ありがとう」
『なあに学園が無くなることを考えれば、どうってことないさ。で、今後の俺達の行動は』
室戸が俺に支持を求める。答えは、もう決まっている。
「今日にでも、生徒会に俺達ミリ研の参加を伝える。室戸、他のメンバーにも伝えておいてくれ。行動開始だ」
『了解。じゃあ、資料をコピーして返してから伝えおく。また後でな』
室戸は、ちょっと怖い事を言って電話を切った。
俺は息を吸うと、まだアンコウ踊りを見て興奮しているであろうヒルターさん達の居る所へ向かうのだった……。


ちなみにだが、この直前に中学生の頃のクラスメートだったアメフト部の高倉と偶然にも再会。
その高倉の口から告げられたのは、「大洗学園アメフト部も戦車道に参加する可能性がある」……と言う事だ。
中学の同級生が戦車道に参加するのは、内心嬉しい所があるな……。





……

………



<黒崎Side>
俺は学園艦に残り、戦車の捜索をしていた。
今、練習試合に出ている戦車は池の底だったり、崖の窪みだったり、うさぎ小屋の中だったり……ともかく色んな所から見つかっている。
案外、意外な場所で見つかるかもしれないかもと独自に捜索をしていた。
どこかに、まだ残っている。そんな気がしてならなかった。
一応、参加組が捜索した場所を除いて、未捜索地域を回っていた。
俺の周りは、草木に覆われていて僅かに道らしきものが残っていた。
ふと視線の先に草木で隠れているが、よく見ると洞穴らしきものが見えた。
そして、足に違和感を感じ、下を見ると痕跡は消えかけていたが戦車のキャタピラの後らしきものがあった。
「やっぱり!」
勘は当たった。俺は、さっそく入口の周りに周りに覆われている草木を取り払い、中に入る。奥が深いのか光が入口辺りにまでしか入っていない。フラッシュライトを取り出して中を照らしてみる。
中は、戦車が軽く通れるぐらいの広さがあった。
「こんなところに隠す戦車ってことは……よっぽど手放したくなかったんだろうな」
そう呟きつつ歩を進める。先代の思い入れがとても強かったのであろう。
解散の決定が下された際に、秘密の隠し場所を作りここに隠したのに間違いない。

そして、目的の物を発見した。

「まさか……パンター戦車とはな。それも最終生産のG型か」
そうライトに照らされた先にあったのは、ティガーなどのドイツが開発した名戦車に名を連ねている一両である「パンターG型」であった。
ちなみに車体側面には、車体番号であろうか……「424番」と書かれている。
確か、コレの番号はパンター戦車のエース”バルクマン曹長”が西部戦線で乗っていたパンターの車体番号だよな……。
ふと思った、その時、胸ポケットにしまっていたスマホに着信が入ったので電話に出た。
「もしもし」
『あ、黒崎君。ぼく、猫田だけど……戦車見つけたよ!』
「何だって、本当か!こっちもだ。今、連絡しようと思ってたんだ。で、どこで見つけたんだ?」
思わぬ朗報に、自分の声がはずんでいた。それもそうだ。一日で2両も発見したのだから。
『駐車場にあったよ……何故かチラシとか張り紙が貼ってあったけど……今、ももがーさんがお店の人に電話してるよ』
駐車場かよ。というかなんでそんなところにあるんだ……と思わず言いたいのを我慢する。
すると、マイクの方から電話を誰かに貸す様子が聞こえた。
『あ、ダーリン!ダーリンの方はどんな戦車を見つけたの!』
すると、最近になって出来た彼女であるぴよたんの声が聞こえた。
「パンターG型だ。おやっさんたちに伝えといてくれないか」
『分かった。じゃあ、お店の方でね!じゃあ、待ってるから!』
そう言った後、電話は直ぐに切れたのだった。
戦車のネットゲーが縁で彼女が出来…新たな仲間も出来るとは、世の中狭いものだなと思ってしまう。
3人とは、ネトゲでチームを組んだことから始まる。そうこうしているうちに、同じ学園の生徒であることが判明したのでリアルで会う事になったのだった。
そのうちの一人である「ぴよたん」と意気投合し付き合っているという形である。
年上で巨乳……なんてエロゲかと思ってしまったが……そして、今回、戦車道に参加することを3人に伝えたところ彼女達も協力してくれることになったのだった。





……

………



<?Side>
「戦車道か……」
そうポツリと呟きながら、俺……、|蛭田暁《ひるたあかつき》は戦車道の練習試合が終わっても、なお興奮が冷めない試合会場の周りを一人でブラブラしていた。
ん、「他のアメフト部のメンバーは、どうした?」だって?
まず栗太は、「久々に大洗に寄港したから、大洗に居る叔父さんと叔母さんに顔を見せてくる」と言って”干し芋ドラ焼き”を手土産に叔父さんの家に行っている。
んで、雷門と瀬名の1年生コンビは戦車道チームに所属する1年生の女子達とクラスメートと言う事もあって、彼女達に会いに言っている。
特に雷門はその中の一人、阪口 桂利奈と”アニメ&特撮好き”と言う共通の趣味がある為か異常に馬が合うらしい……。
そんでもって、高倉は「今日、発売されるアメフト雑誌を買ってくる」と言う理由で寄港した際に必ず立ち寄ると言う行きつけの本屋に行っている……。

え、「お前は、なんで一人でブラブラしているんだ?」って?

まぁ……、下手な言い訳するのは俺の性に合わないから……、この場を借りてハッキリ言わせてもらうとだな……。
実は俺……、『絶縁&家出同然で大洗学園に通っているからな』……、衝撃の事実だろ?
更に敷き詰めて言うと『厳格な船乗りで何でもかんでも自分の言う通りにしたがる親父に嫌気が刺した』って所だな……。
現に学費だって”母さんだけ”が働いて出してくれているからな……、親父はビタ一文も出したちゃくれない……。
トンでもない親不孝物だよな……、俺って……。
まぁ……、そんな親不孝物の俺でも何れは両親と何とか仲直りしてみるつもりさ……、家族がバラバラって言うのは悲劇中の悲劇だ。
せめて最低でも、俺をこの世に生んでくれた”親の死に目に会える”ぐらいの関係には……、な……。
あー……っていうか、難しい事を考えると異常に腹が減る物なんだな……。
大勢の人前だと言うのにグーッと言う豪快な音を立てて腹の虫が泣くの聴き、俺は空腹感を感じる。
3時間ぐらい前に朝飯を食ったばかりだと言うのに……、やっぱりシリアルだけじゃ腹に溜まらないのかね……。
そう空腹感と共に思っていると、丁度、目の前に焼きそばや焼きとうもろこし、唐揚げにフランクフルトと軽食を出す出店があった。
丁度いいタイミングだ、時間も12時を回った事だし、今日はココで昼飯にするか……。


腕時計の示す時間を見ながら、そう思った俺は出店に歩み寄ると出店の上に掲げられたメニューを見て、今日の昼飯を考える。
焼きそばや焼きとうもろこし、唐揚げにフランクフルトの他にカレー、たこ焼き、お好み焼きか……。
「どれも旨そうだな……」
メニューを見て思わずそう呟いた瞬間だった。
「だよねー」
「お前、何時の間に!?」
と言う女子の声が丁度、隣から聞えてきたので俺はビックリして声のした方を向く。
すると、そこには”腐れ縁”と言った関係に当たる大洗学園生徒会会長の角谷杏の姿があった。
っていうか、コイツは何時の間に後ろを取ってやがった!?一切の気配を感じさせなかったぞ!?
そんな感じで突如して現れた角谷は驚愕する俺に向け、「ニマーッ」とした笑みを浮かべるとこう言い放つ。
「まぁまぁ……気にしない、気にしない」
「いや……、そう言ってもな……」
本当に何時の間にココに来たんだ……、コイツは……。
そう思っていると角谷は俺に向け、こう言い放つ。
「そういえば、アメフト部のご一行は戦車道は取る事にしたの?」
「いや……、まだだ……」
「あっ、そう。まぁ、ゆっくり決めなよ!!」
俺の返事に対し、角谷はそう笑いながら言い放つ。

確かに……、崖っぷちのアメフト部を立て直すのに戦車道は紛れも無い選択肢だ……。
だが、それに素直に応じるのは……、俺の性に合わないんだよな……。
何もかも自身が決めたレールの上を走るだけの親父の教育に従うような気分でな……。
俺はもっと自由にアメフトも青春も過ごしたいんだよ……。

俺の胸の内がそんな考えで埋め尽くされる中、角谷の奴はこれまた衝撃の発言をぶちかます。
「それよりさぁー……、お腹すいちゃたぁー……、ねぇ、負けたチーム一員を慰めるって事で焼きとうもこし奢ってくれない?」
「何でだよ!?」
角谷のこの発言に対し、俺は声を荒げながら反論する。
そりゃそうだ、ハッキリ言って手持ちのポケットマネーは俺一人が飯を食うだけの金しか無い。
だから、|コイツ《角谷》に飯を奢るなんて余裕は到底無いぞ……。
財布の中に入っている”野口さん”と小銭を見ながら、そう思っていると角谷がこう言い放つのだった。
「そんなに嫌だったら、奢るか奢らないか”ジャンケン”で決めよっかー?」
「分かった……、奢るよ……」
コイツはこう言い出したら、もう最後だからなぁー……、素直に奢るのが得策だ……。
え、「何で、奢ってでもジャンケンを回避したいんだ?」って?
あのなぁ、|コイツ《角谷》は異常なまでにジャンケンが強いんだよ。
で、対する俺も何故だか知らないがジャンケンが異常に強いんだよな……。
だから、異常VS異常と言う事で一度あいこが出たら、続くに続いて決着が付くまで、長時間やる事になるんだよ……。
その最長記録なんか”2時45分13.7秒”だぞ!!
決着が付く頃にはとっくに飢え死にしているわ!!
だから、ココは素直に奢ってでもジャンケンを回避しないと行けないんだよ……。
ったく……、さっきの試合中にも自身が乗っている戦車の履帯が外れて、それを直す為に小山が一人で「ひい、ひい!!」泣き語と言いながら、直しているのに、それを河島と一緒にのーんびりと見つめるだけの小悪党に対し、こんな理由で奢るハメになるとはなぁ……。
入学から3年間にも及ぶ、長ーい”腐れ縁”をもってしまったが故の不幸だな……、こりゃ……。
角谷に焼きとうもろこしを奢りながら、俺はそう思うのだった……。





……

………



<龍Side>
乱入から数十分後……、何とか沙織を落ち着かせた俺と裕也(※木場と玄田、葵の3人は「実家の両親に顔を見せてくる」と言って別行動)、みほ達(※「おばぁに顔出してくる」と言って分かれた麻子を除く)は共に揃って昼飯を取った後、大洗の町をぶらついていた。
女子高生4人に対し、男子高校生2人ねぇ……、バランス悪いって言うか……、軽くプチハーレムだな。
まぁ……、福岡からやって来た俺とみほは、共に揃って大洗に宛ては無いしな……。
一人さびしく大洗の町をぶらつくよりは、地元並びに茨城出身の沙織や裕也達と共に一緒に居る方が気が楽ってもんだ……。
そう思っていながら、大洗の町をぶらついていると、つい先程までプロレスに乱入していた沙織が、まるで人で変わったかの様に笑顔で俺とみほ達に向け、こう言い放つ。
「ねぇねぇ、次は何処行こうか?」
「元気な物だな……」
そう無駄にパワー溢れる沙織に対し、呆れ混じりに裕也が言葉を返した瞬間だった。
俺達の近くを一台の人力車がカラカラと車輪の音を立てて、通っていく。
ふと、それに気付いて視線を向けると、その人力車には如何にも”大和撫子”とか、”着物美人”と言った『和の美しさ』を体現した様なご婦人が乗っていた。

うーん……、ココまで『和の美しさ』を見せられるとなぁ……。
変人の親父もそうだけど、”人生の基本が食っちゃ寝”の母さんが同じ日本人とは思えないな……。

ふと胸の内でそんな考えが沸いてくる中、裕也の側に居た華がそのご婦人と、ご婦人の乗る人力車を引いていた男性を見て驚いた様な声でこう言い放つ。
「お母様!!それに新三郎じゃないですか!!」
「えっ、華のお母さんなの!?」
「「「「ええええっ!?」」」」
この華の言葉に対し、沙織が目を見開いて驚く側で俺達も同じ様に驚いていた。
そりゃなぁー……、あんな”和美人のご婦人”がクラスメートの母親だって……、普通ならありえないからな……。
でも……、当の華も『和』を体現している様な外見だしな……、冷静に考えれば何らおかしな事は無い……とも言えるな。
胸の内でそう思いながら、華とご婦人を見ていると向こうの方も華に気付いたらしく、俺達に方にやって来る。


そして、人力車を引いていた人がご婦人を乗せた人力車と共にやってくると、人力車をゆっくりと止めて華に話しかける。
「お嬢、お久しぶりです」
「えぇ、お久しぶりですわ。新三郎」
そう人力車を引いていた男性と挨拶を交わした華は、続け様に俺達に男性を紹介する。
「皆様、ご紹介しますわ。実家の方にて奉公人を勤めている新三郎です」
「新三郎と申します。お嬢が皆様のお世話になっています」
華の紹介を受け、新三郎さんは華の後に続く様にそう言い放つと俺達に向け、深ーく頭を下げる。
この間にも、ご婦人……もとい、華のお母さんは赤い和傘をゆっくりと開きながら人力車を降りると華に顔を向けて、実に嬉しそうな声でこう言い放つ。
「華さん、お久しぶりですわ。良かったわ、元気そうで」
「えぇ、本当ですわ。お母様」
久々似合う母と娘……、双方共に実に嬉しそうにしている。
間違っても俺の親父と母さんなら、実家に帰っても……「あ、帰ってきたの?」か「うーむ……、私のメシが減るな……」とかだろうな……。
息子ながら、中々酷い両親の元に生まれた物だ……勿論、酷いと言っても虐待とか育児放棄とかは無いけどな。
五十鈴親子の仲むつまじい様子を見ながら、ふと福岡に居る両親の事が脳内を過ぎる中、華のお母さんはこう問い掛けるのだった。
「華さん、周りに居る方々は学校のお友達?」
「えぇ、そうですわ。同じクラスの武部さんと西住さん、喜田川さん、それとこの前、お花と頼まれた神崎さんですわ」
「「「「宜しくお願いします」」」」
そう華がお母さんにみほと俺達を紹介するの受け、俺達は揃って華のお母さんに対して頭を下げる。
ちなみに「それとこの前、お花と頼まれた神崎さんですわ」とあるが、コレに関して説明するとだな……。

前に裕也がお姉さんである、神崎智明の出演する京都を舞台にした2時間サスペンスドラマに出演する際になった際に、お姉さんのマネージャーを勤める事務所幹部が、とあるシーンにおける和室と言うか、茶室の風景が気に入らず、何故か近くに居た裕也に改善を頼んだ……、そんで悩んだ裕也は……。
と……、言った感じで後は”大よそのお察しの通り”……って訳だ。

そんな裕也を含めた俺達に対し、華のお母さんもニコッと「大和撫子とは、この事か!!」と思わざるを得ない様な微笑みで返してくる。
それ見ながら、秋山も続く用に自己紹介をする。
「自分は別のクラスですが、五十鈴殿とは一緒に戦車道を……」
「戦車道……、ですって……、まさか……、華さん……っ!!」
戦車道と聴いた瞬間、華のお母さんは表情を曇らせる。
そして俺達が考えるよりも先にお母さんは華の手を掴み、匂いを嗅ぐと顔面蒼白を体現するかの様に顔が青ざめていく。
「鉄と油の匂い……、まさか華さん……、花を生ける繊細な手で……、ふぇぇぇー……」
「お、お母様!!」
「お、おおっと!!」
青ざめた顔でお母さんはそう言ったかと思うと、プッツンと糸が切れたかの様に白目をむいてお母さんは意識を失ってしまう。
幸いにも裕也が間髪入れる事無く支えた為、頭などを打つ事は無かったが大事を取って実家まで連れて行く事なるのだった……。





……

………




んで、気絶してしまった華のお母さん……、|百合《ゆり》さんを連れて五十鈴家にやってきた俺達は五十鈴家の客室で時を過ごしていた。
と、言っても……、つい先程、あんな事があったばかりだから余り居心地はよくないけどな……。
こんな感じで激しくざわついている胸の内を感じつつ、先程、自販機で購入したお茶を一口飲んで、口の中に広がるお茶の味と共にそう思っていた時だった。
俺達の後ろにある襖が開き、信三郎さんが両膝をついた状態で華に対して、こう報告する。
「お嬢、奥様が目を覚まされました……、ぜひお嬢と話がしたいと申しております」
「分かりましたわ……」
華は一言、新三郎さんに言葉を返すとゆっくりと立ち上がり寝室へと足を向けていく。
その後ろ姿はまるで覚悟を決めたかの様に重苦しく、険しい者であった。
華自身も最悪の展開を覚悟しているのだろうか……、彼女の後ろを見てそう思いながら俺達も華の後を付いていく様な形で寝室へと向かう。
そして、やって来た百合さんの寝室の前で俺とみほ達が後ろから見つめる中、華は一回息を深く吸って吐くと覚悟を決めた様な表情で寝室のふすまを開け、百合さんと対面するのだった。
「お母様……」
「華さん……」
寝室に入るなり、二人は開口一番にそう言葉を交わすが、それ以降はめっきりと黙り込んでしまう。
同時に寝室には気まずい空気が流れ、その空気によって寝室には重苦しい異様な雰囲気になっていく。
うーん……、昼ドラとか目じゃない程の心地の悪さったら……、ありゃしないなこれは……。
「「「「「……」」」」」
そんな胸の内と共に、ふすまの隙間から寝室の様子を覗き込む俺もみほ達も揃いも揃って苦虫を潰した様な表情だ。
そんな俺達の視線がバックから向けられる中、百合さんが沈黙を破る様に口を開き、華に戦車道をやる理由を問い掛ける。
「どうして戦車道を……、華道が嫌になったの?それとも、何か不満でも?」
「……そうじゃないんです」
「じゃあ、どうして!?」
”鉄と油の匂いがこの世で一番嫌い”と言う百合さんは、この曖昧な返事に対し苛立ちを隠せない様子だ。
っていうか、何が百合さんをココまでの戦車嫌いにしたのか……、理解できない……。


俺が胸の内でそう思う中、苛立ち声を荒げる百合さんに華は一回息を吸うとこう言い放つ。
「私……、生けても、生けても……、思うように生けられないのです……」
「そんな事、無いわ……、貴方の花は華麗で清楚、五十鈴流の全てと言っても過言では無いわ」
「でも……、私は……、満足できません……、私はもっと力強い花を生けたいんです!!」
百合さんの言葉に対し、そう力強く己の執念を曲げる事無く、華は宥めようとする母の言葉を跳ね返す様に反論する。
コレに対し、すっかり別人になってしまった様な娘に対し深く絶望した様子の百合さんは「あぁ……」とガックリうなだれながら、失望と絶望交じりの声でこう言い放つ。
「昔の素直で正直な貴方は何処に……、何処に言ってしまったの……」
「申し訳ありません……、お母様……」
この華の謝罪に対し、百合さんは発狂したかのように怒りで声を荒げる。
「どうして!?どうして、貴方はどうして変わってしまったの!?」
「お、お母様、落ち着いて……」
そんな母を必死に冷静にさせようとする華に対し、怒りで前しか見えない様子の百合さんは声を荒げながらこう言い放つ。
「あの二人……喜多川さんと神崎さんと言ったかしら?そうよ……あの二人があなたを誑かしたのね!確か自衛官を目指してらっしゃるそうだけど、あんな野蛮な物に乗るんだもの、絶対に品も教養も無い、ケダモノみたいな人達に違いないわ!」
この言葉を聴いた瞬間、俺の中でブチッ!!と何かが切れると共に腹のそこからドス黒い感情が沸き起こる。
そして、俺は殆ど無意識の家に手にしていたお茶のスチール缶を裕也並に握りつぶしながら、こう言い放つ。
「何だと……!?」
「お、落ち着け、龍……、俺だって気持ちはお前と同じだからな……、な、な?」
「そ……、そうだよ龍君……、ここは冷静にね……」
完全に堪忍袋をプッツンしそうな俺を裕也とみほが必死になって抑える……。
みほ……、裕也……、お前達が俺を抑えるのは分かるが……、どうしても腹の虫がおさまらねぇんだよ……、俺は……、あんの……、クソババァめぇ……。
一応、俺と裕也も「華が戦車道を選択した事に影響を与えていない」とは言い切れないかけど……、それを踏まえても絶対あのクソババァは許せねぇぜ……。


手に持っているお茶のスチール缶を潰し、胸の中でドス黒い感情と考えが沸いてくる中、怒りが収まらない百合さんは更に言葉を続ける。
「戦車だけじゃないわ……西住さん達だったわね?今直ぐあの人達とも付き合うのはおよしなさい!あんな人達と一緒に戦車になんて乗っていたら、あなたはもっと醜く汚れてしまうわよ?」
「「「……」」」
「この老害ババァがぁ……」
「だから、落ち着け……」
みほまで巻き込みやがって……、この野朗……、この手に持っているスチール缶の様にグチャグチャにして、本日を命日してやろうか……?
冷静に見返すと「結構、ヤバイ考え」が沸き、直ぐにでも飛び掛りそうな俺を裕也が必死になって押さえ込む中、華はこの言葉に反論する。
「お母様、幾らなんでも、それは酷い言い掛かりですわ!!西住さんや、喜田川さん達は私やチームの仲間達の為に必死になってくれる素晴らしい方々です!!それを私は間近で見てきたんですよ!!」
「だとしても、あんな汚らわしい物の何がそんなに素晴らしいの!?戦車なんて皆……、鉄屑になってしまえば良いんだわ!!

ブチッ!!

「なんだと、この野朗ぉぉぉーっ!?」
「止せ、龍!!」
この発言を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れると共に俺は手にした潰れたスチール缶を勢い良く床に叩きつけ、裕也の制止を振り切るとふすまをバーンッ!!と開けて、こう叫ぶ……。
「おい!!誰が、その汚い鉄くずで日本と国民を守って……「ちょっと、お前は黙れ(バキッ、ガスッ、ゲシッ、ボゴォッ、グキッ、ボキッ、デデーン!!)」アッメーバッ!!」
が、叫び切る前にご覧有様である。裕也……、お前……、友人ながら|偶《たま》に思うんだ……、お前は本当に人間か?
俺は”犬○家の一○”もビックリと言わんばかりに、裕也の制裁パイルドライバーで”五十鈴家の庭に頭から突き刺さった状態”でそう思った。

っていうか……、プロレスの後にも頭部ダメージがあるとは……、今日は厄日か……。(※「今日は厄日だわ!!」が脳内再生されたら自動的に負け)

そう胸の内で思う俺、そんな俺を見て呆然としているみほと秋山、沙織の3人をバックに裕也は涼しい顔で庭から戻ってくる。
「た、確か……、神崎さんでしたね……、い、今のは……」
「あぁ、気にしないで下さい。コチラの方では、よくある事です。後で自分からシッカリ言いつけておきますので……」
「そ……、そうなのですか……」
「「「「………」」」」
聞えてきた轟音に表情を引きつらせながら、問い掛けて来る百合さんに対し裕也は相変わらず涼しい顔で返事を返す。
そのバックで祐也による龍の粛清を見た、みほと沙織、秋山に信三郎さんは揃って呆然としている……。

そりゃなぁー……、”無呼吸連打の応酬”   ”犬○家の皆さんもビックリしかねない程の刺さりぶり”を見せつけられちゃなぁー……。

そんなバックの異常な空気を感じながら、華はシッカリとした声で百合にこう告げるのだった。
「お母様……、喜田川さんのお父様は陸上自衛隊の戦車部隊の指揮官として、自衛官として、日々、命がけでこの国を守っているのです……。戦車を鉄くずと評するのは毎日の様に戦車に乗り、日々厳しい訓練に耐えながら、命がけでこの国を守り、いざと言うときには自らの命を犠牲にしてでも、この国や国民を守る為に最前線で戦う、喜田川さんのお父さんや自衛官の皆様に又と無い侮辱です。それに龍さんは口が悪いが玉に瑕ですが、西住さんや私達の為に怒ってくれる存在ですし、神崎さんは龍さんと共に私や西住さん達の為に盾や剣となってくれる存在です……、そんな二人を侮辱するのは……、実の親であっても許せるものではありません!!」
「そうですわね……、鉄くずや野蛮人は言い過ぎましたわ……。神崎さん、ごめんなさいね……」
そう語尾を強くしながら華の言い放った返事に対し、百合さんは自分の発言の非を認め、裕也に対して謝罪を述べる。
一応、俺も百合さんの”謝罪対象”になっているんだよね?
何とか、犬○家状態から抜け出すべく、悪戦苦闘しながらそう思う……っていうか、何気に深く刺さってやがる……、人を15cmも地面に刺すなよ……。
「あ、あのー……、新三郎さん……、ちょっと悪いんですが……、足を引っ張るか、周りの土を掘って貰えますかね?何気に深く刺さって自力での脱出が……」
「あぁ、はい……。あの、大丈夫ですか……?」
そんな百合さんの謝罪を聞いて、そう思うと同時に俺は新三郎さんに対して助けを求める。
っていうか、少なからず無事ではないですね……、地面に刺さった際に地中の石が脳天直撃していますし……、今、地味に頭が痛いです。


そんな感じで地味に来る脳天の痛みを感じながら、俺は裕也と華の方に視線を向ける。
すると、裕也は「失礼します」と一言、百合さんにそう言って寝室の中に入り、華の隣にゆっくりとひざまずくと深く頭を下げ、こう述べる。
「先程は”見苦しい光景”を見せてしまい、誠に申し訳ありませんでした……」
「いえ……、大丈夫ですわ……」
誠意深く謝罪し、頭を下げる裕也を見て、百合さんも少なからず冷静さを取り戻した様な声で返事を返す。
その返事を聞いた裕也は「はぁ……」と深く溜め息を付くと、百合さんに対して意見を力強く述べる。
「お母さん、他人の自分が言うのも何ですが……、先程からの華さんの言葉を聞いておられなかったのですか?華さんは今、自分の華道に行き詰まってるんですよ?自分も過去に空手で相手選手の突きを喰らい、鼻の骨を折り、スランプに陥ったから分かるのですが、スランプから抜け出せないのはどんな苦しみよりも苦しいものです……」
お前……、スランプに陥る時期なんてあったの……?
マジでお前がスランプに陥っているイメージが湧かないんだが……。
っていうか……、裕也……、お前……、鼻の骨が折れてるの!?
これまたマジで初耳なんですけど!?
骨折とかそう言った重度のケガとか一切、無縁そうな気がしていたから……。
裕也の発現を聞き、俺が胸の内でそう思う中、当の裕也は更に力強い発言で百合さんに対し、己の意見を述べる。
「それに……、毎日、戦車の中に一輪挿しを持ち込んだりしている所からも、華さんの心が華道から遠ざかった日はありません……、今陥ってるスランプを脱する為にも、華さんには戦車道が必要なのです!どうか華さんが戦車道をやるのを認めてあげて下さい!」
「神崎さん……」
まるで「娘さんをお嫁に下さい!!」と言わんばかりに、裕也は力強く百合さんに対して言い放つ。
そんな裕也を隣で見ていた華は他人である自分の為に必死になってくれる裕也に対し、惹かれていくのを胸の内で感じていた。
だが、そんな二人に対し、自分の娘が戦車道を続ける事が納得出来ない様子の百合さんは一回息払いをすると、裕也に対し、こう返事を返す。
「神崎さん……、貴方が華さんを強く思う気持ちはよく分かりました……、ですが……、今の私はどうしても華さんが戦車道をやる事を認めてあげられないの……、それだけは分かって頂戴ね……」
「……はっ、承知の上であります」
そう言って再び深く頭を下げる裕也を見た後、百合さんは一回息を吸うと”最終警告”と言わんばかりに華に顔を向け、こう言い放つ。
「華さん……、最後にもう一度だけ、お聞きます……、戦車道は止めないんですね……」
「……申し訳ありません」
そう実の母が突きつけた最終警告に対し、華はそう言って頭を下げて拒否をする。
これを見て、百合は暫く沈黙した後、「分かりました……」と強い口調で言い放つとこう言葉を続けた。
「親子の縁を切ります。今から、貴方と私は赤の他人よ……、親子でもなんでも無いわ……、分かったわね?」
この冷たく突き放す様な母の言葉に対し、華は……。
「……分かりました」
と……、一言だけ返して頭を深々と下げて華はゆっくりと立ち上がると寝室を退室する。


側に居た裕也も、そんな華の後に続く様に裕也もゆっくりと立ち上がり、華と同じ様に寝室から退場しようとした時だった。
「神崎さん……」
そう言って百合さんが裕也を呼び止める。
「何でしょうか……、お母さん……」
振り返った裕也に対し、百合さんは一言ポツリとこう告げた。
「あなたから見て華さんはどんな子?」
「そうですね……」
この百合さんの問い掛けに対し、裕也はそう一言返しながら再び腰を下ろすとこう言葉を返した。
「コレはあくまで個人としての感想及び意見ですが……、自分は華道の事など一切分かりません……、ですが、華さんの生ける花はもう既に”美の頂点を極めている”といっても過言では無い美しさです……、現に自分が頼んだバイト先の小道具として高い評価を総合監督や小道具担当と言った様々な方から受けており、次のオファーが来るのもそう遠くは無いと……、自分としては……、そんな素晴らしい才能を持った華さんが、これから戦車道を通してどんな花を活けるのか見せて欲しい……、その為なら自分も協力するつもりです」
「まぁ……」
そう裕也の口から告げられた華の生ける花に対する評価と誠意のこもった言葉に対し、何処と無く感慨深い表情を裕也に見せる百合さん。
そんな百合さんに対し、裕也は嘘偽りを感じさせない誠意のこもった表情でこう言い放つ。
「百合さん……、自分は……、華さん活ける花が好きです……、それは芸を齧る程度の自分でも間違いなく言えます……、ですから……、今はゆっくりと遠くで華さんを見守ってやってください……」
「……そう」
人によってはプロポーズと受け取れそうな、この裕也の言葉に対して百合さんはまた再び感慨深そうな表情を浮かべる。
そしてこの裕也の誠意溢れる言葉に心情に多少の変化が生じたのか、裕也と向き合うとこう言い放つのだった。
「神崎さん……、こんな娘だけど……、暫くの間、宜しくお願いしますわね……」
母として……、娘で無くなる娘に対して、出来る”最後の親として、子に出来る精一杯の優しさ”なのだろう……、「親から勘当された」と言う事実で、これから少なからず苦しい人生を歩む事になる娘の苦労を少しでも和らげて上げる為の……。
裕也はそんな百合さんの精一杯の思いを受けて止めると、ゆっくりと正座して百合さんと対面するとこう言い放つのだった。
「はい……、娘さんを……、暫くクラスメートとして、全責任を持って、預からせてもらいます……」
そう言って裕也は深々と100度近いお辞儀をすると華の後に続く様に寝室を後にするのだった……。


んでもって、俺がやっと地面から刺さった頭を引き抜いたと同時に寝室から華と裕也が揃って出てくる。
その二人の表情は何処と無く「吹っ切れた」とも受け取れそうな、何処か清清しいような表情だ。
決して、間違っても「勘当された事」、「勘当を阻止できなかった事」を悔やむ様子は無い……。
二人共、揃って精神が図太い……と、言ったところか……?
そうだとしても……、寮の部屋に帰り一人になった所で……、耐え切れなくなって……、なんてことは無いよな?
これと同じ状況にみほが立ったなら、俺か誰かずっと付きっ切りにならないと早まりそうで、危ない気がするしなぁ……。
「お、お嬢……」
裕也と華の様子を見ながら、頭に付いた庭の土を払いつつ、そう思っていると華が心配そうな表情で見つめる新三郎さんに対し、こう告げるのだった。
「笑いなさい、新三郎……、これは新しい旅立ちなのです……」
「お嬢……、うっ……、うううっ……!!」
そう新三郎さんに対し、自身の心配は必要ないと告げる華の言葉を聴き、感極まった新三郎さんは人目も気にする事無く泣き出してしまう……。
まぁ……、華を幼い頃から知っている立場からしたら……、泣きたくもなるだろうな……。
「泣かないで下さい、新三郎。貴方は強い男でしょう?」
「は、はいっ……!!」
そんな新三郎さんに対し、そう優しく華は泣くのを止める様に諭す。
コレに答える様に新三郎さんが鼻水をズズーッと啜るを見ながら、華は今度は裕也に顔を向けるとこう言い放つ。
「神崎さん……、本当にありがとうございます……、私事に付き合ってもらって……」
「あぁ、いや……、コイツの暴走の責任もあるしな……」
「ぐっ……!!」
そう苦笑いしながら、裕也が俺の事を指差してきやがる……、いや……、そりゃ暴走したのは悪いけどさ……。
”陸上自衛官の息子”と言う立場上、あの発言でブチ切れるのは当然……、でも無いよな……。
今回ばかりは、”完全に俺の落ち度100%”だな……、深く反省しておきます……。


そんな感じで完全な自己嫌悪に陥る俺に対し、華は「いえいえ」と微笑みながら、こう言い放つ。
「あの様な事を言われてしまっては、誰だって頭に来る物ですよ……」
華さーん、そう言ってくれてありがとう~!!少なからず救われた気がするよ~!!
そう華の発言を聞いて、俺が胸の内でそう思っている側で華は再び裕也に向き合うとこう言葉を続けた。
「でも……、神崎さんが助け舟を出してくれたお陰で気分が多少なりとも楽になりましたわ……、あれだけ言ってもらえれば母も何時か分かってくれるはずです……」
「そ……、そうか……」
こんなやり取りを聞き、俺は思った「やっぱ、華も内心ショックを受けていたんだな……」と……。
まぁ、そりゃ幾ら精神が図太い人でも親から勘当されるなんて事態に耐えられる人が何人いるか……。
やっぱり人間である以上は、表面上は無傷に見えても、内心はズタズタになる物なんだなろう……、それは華も同じ……。
そんな中、裕也が出した助け舟は華にとっては、まさに”神の助け”&”天使光臨”とも言える物だったんだろうな……。
胸の内でそう思いながら、改めて裕也と華の二人に視線を向ける。
「神崎さん……、本当にありがとうございます」
「あぁ、いえ……、コチラこそ……」
すると、そこには”恋の始まり”……とでも、言うべきか……、何か良く分からないけど”甘いイチゴの様なピンクの空気(?)”が流れていた……。
っていうか……、恋の始まりって甘いイチゴの様ピンクの空気が流れるんだな……、17年間生きて、今日、初めて知ったよ……。
「華……、裏切ったな……」
あと、沙織……、ヤンデレ化するの止めて……。
それに間違っても裏切っては無い……、はずだと思うよ……、俺は……。
「さぁ、皆さん、時間も迫っていますし、そろそろ戻りましょう」
甘いイチゴの様なピンクの空気に対する様に流れる、沙織のヤンデレオーラに胸の内でそう思っている側で華は時計を見ながら、そう告げる。
っていうか……、自由時間終了まで残り1時間じゃないか!!
「うわっ、もうこんな時間ですか!?」
「い、急がないと!!」
「そ、そうだね!!」
腕時計を見て、知ったこの事実に驚く側では秋山、みほは勿論、ヤンデレ化していた佐織も我に戻って驚いていた。
んで、それから俺達は間髪入れる事無く学園艦に向け、猛ダッシュするのであった……。





……

………



んでもって、何とか戻ってきた俺達は先に戻ってきていた玄田、木場、葵の3人に対し、五十鈴家であった事を伝えると……。
「「「勘当おぉぉっ!?」」」
と、揃いも揃って同じ様な反応を示す……、まぁ……、これ以外に「反応パターンは無い」と言っても過言じゃない気がするけどね……。
「えぇ」
そう学園艦の上で華の勘当事実に驚愕する3人の表情を見て、そう思っていると、当の華は先程と全く顔色1つ変わる事無くケロッとした様子で3人にそう言葉を返す。
うーん……、つい先程、”親から縁を切られた”とは間違っても思えないよなぁ……、マジで……。
華の様子を見て、そう胸の内で思っていると木場が少なからず聞いて良いのか、悪いのかハッキリしない様な声で華に問い掛ける。
「で、でも……、本当に大丈夫なの?」
「えぇ、お母様とも何時か分かり合える時が来るはずです……、それに……」
そう木場の問い掛けに返しながら、華は海を見つめていた裕也の側に寄り添い、あろう事か(?)裕也の手を取ると笑顔でこう言い放つのだった。
「神崎さんがお母様から、絶大な信頼を得てますからね」
と……、まぁ……、トンでもない衝撃発言をぶちかます。
コレに現場で見ていた俺やみほ、沙織達は兎も角、知る由も無い玄田達が揃って「あごが外れるんじゃないのか?」と思わざるを得ないぐらいに、驚いている。
勿論、この衝撃発言に直接の関係がある裕也もメッチャ驚いている。
「え……、マジで……、見ていたの?」
「えぇ」
そう華にギコチナイ声で問いかけ、返って来た華の返事に裕也は友人である俺が見た事も無い様な表情&顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにこう言い放つ。
「うわ……、恥ず……、死にてぇ……」
「そんな事無いですよ、上手く言葉で表す事が出来ないのですが……、神崎さん……、これでも今……、とっても幸せなのです……」
「そ……、そうか……、アハハハー……」
そう華の言葉に対し、照れ隠しの様にギコチナク笑う裕也に対し、華は微笑ましそうな笑顔を浮かべる。

ハイ、コレはもう完全に「キマシタワー!!(※カップル成立)」で、間違い無いですわ!!

そんでもって、数ヵ月後には「この後、滅茶苦茶……(※以下、自己規制)」になって、数年後には「新○さん、い○っし○ーい!」で間違いないわ!!
「二人共、幸せそうですね……、西住殿……」
「そうだね……、秋山さん……」
「え、何が?」
「玄田……、鈍感&馬鹿にも程って物があるよ……」
そんな事を胸の内で思う俺の側で、二人の様子を見て自分ごとの様に嬉しがる秋山とみほ。
んで、その隣で”相変わらず無駄に安定している”と言うべきか……、状況+意味が出来ていない玄田と咎める木場。
んで、んで、更にその隣では……、沙織と葵の”飢えた狼コンビ(※間違っても某重巡洋艦の2番艦が二人(と言うか、二隻?)では無い)”が変わる事の無い安定感を見せ付ける。
「何で私達は、あんな風にならないんだろうね……」
「運命って残酷だね……」
多分、そんな調子だから異性が寄って来ないんだと俺は思うよ……。


そんな葵と沙織を見て、胸の内でそう思っていた時だった。
「先輩!!」
と、言った女子の声が聞こえ、俺とみほ達が振り返る。
すると、そこに居たのは、先程の練習試合中に恐怖の余り、敵前逃亡してしまったM3リーの搭乗員である1年生達だ。
どうやら……、6人揃って俺達の前に居る所を見た限りじゃあ……、特にケガとかは無い様子だ。
あー……、無事で良かった……、メッチャ砲弾とか飛んでくる中を逃げていたんだもの……、それで死人とか出たら洒落にならないからね。
まぁ……、それを差し引いて”言いたい事”はあるけどな……、それも色々とね……。
そんな言いたい事が口から出るのをぐっと抑えていると1年生達のリーダーにして、M3リーの戦車長を勤める澤が代表として俺達に向け、こう言い放つ。
「西住隊長……、喜多川副隊長……、試合中に戦車を捨てて逃げ出して、本当にすみませんでした!!」
「「「「「すみませんでした!!」」」」」
そう澤が先陣を切るように謝罪し、頭を下げると続く様に山郷、宇津木、大野、香里奈、丸山が頭を下げた瞬間だった。
「お前ら、スミマセンで済む問題だと……「黙れ、玄田(ボゴオオッ!!)」ヒデブーッ!!」
「「「「「「ひいいいいっ!!」」」」」」
まるで謝罪を踏み躙るかの様に堪忍袋の尾をブチッと引きちぎった、玄田が1年生達に詰め寄ろうとするが、先程、五十鈴家であった様に、裕也による容赦無き制裁が玄田に襲い掛かる。
と……言っても、コレは完全に玄田の落ち度100%で間違いないけどな。
「は、鼻血が……、鼻血がぁぁ……、いい年してから鼻血が出ちゃった……」
んな事を思いながら、裕也の容赦なき制裁を喰らって鼻血をダクダクと流している玄田が弱った声でそう呟く側で1年生達はスッカリ玄田のブチ切れぶりにガタガタと震えて、恐怖している……。
あーぁ……、全く玄田のせいでチームに溝が出来ちまいそうだ……、それを回避するの役割に最適なのは……。
「おい、木場。何とかしろ」
「け、結構な無茶振りだね……」
「文句言わずにやれ!!」
この俺の指示に対し、木場は乗り気がしない様子で「はぁー……」と深い溜め息を付く。
しょうがねーだろ、この5人の中で一番女子受けが良いのはイケメンのお前だけなんだからさぁー……。


そう溜め息を付く木場を見ながら、そう思っていると木場は覚悟を決めたらしく沙織を始め、全ての女子が黄色い声援を上げそうな”イケメンスマイル”で1年生達に優しく話しかける。
「あぁ、今のは気にしなくていいからね……、ね?」
うっはー……、男子として「殴りたい、この笑顔」とは……、この事か……。
木場のイケメンスマイルを見て、思わずムカッとそんな感情が湧いてくる中で1年生達は木場のイケメンスマイルにスッカリご機嫌である。
まぁ……、チーム分裂の危機だけは回避できたかな……?
そんな1年生達を見て思っていると、山郷と宇津木が俺達の方に顔を向けるとこう告げるのだった。
「先輩達、カッコ良かったです!!」
「すぐに負けちゃうと思っていたのに……」
「それは、言わないで」
「す、スイマセン!!」
宇津木の発言に対し、間髪入れる事無く俺がそう言葉を返す。
だって、何気に”直ぐ負ける”事を俺も”ある程度、覚悟していた”からな……、うん……。
そう胸の内で思いながら、宇津木の謝罪を聞いていると大野と香里奈が1年生を代表して決意を述べる。
「次は絶対に逃げません」
「絶対、頑張ります!!」
うん……、決して間違っても嘘言ってるようには見えないな……、次はシッカリ頑張ってもらうか。
大野と香里奈を始めとする1年生達の真剣な嘘偽りの無い表情を見て、俺がそう思うと同時にみほが微笑みながら、こう言葉を返す。
「うん、次は絶対に勝とうね!!」
「あぁ……、だが……、次もこんなことしたら、容赦しないからな」
「「「「「は、はいっ!!」」」」」」
みほに続く様に言い放った俺の言葉を受け、澤達は揃ってシャキッと気を引き締める。


その様子をみほ、裕也達と共に見つめていると、今度は「お~い」と言う緊張感の無いゆるーい声が聞えてくる。
この声の主は大洗学園ではタダ一人……、生徒会会長の角谷会長だ。
そんな会長は何時もの様に両脇に小山先輩と河島先輩を連れて、俺達の元にやってくるとこう言い放つ。
「次から作戦は、西住ちゃんと喜多川ちゃんにお願いするよ~」
「えっ!?」
この会長による事実上の河島先輩の”副隊長クビ宣言”に対し、当の河島先輩が驚いたような声を上げる。
まぁ……、今日の練習試合でも俺の副隊長は一応、仮ポジションだったからな……。
この会長の発言が事実上、俺の副隊長への”正式任命”と言う事だろう……。
でも、確かにヒステリーを起こしていた河島先輩には悪いが……、河島先輩は”指揮官には向かないタイプの人間”だからな……。
会長もきっとそれを今回の練習試合で痛感し、俺とみほを正式に隊長&副隊長に任命したのだろう……。
胸の内でそう思いながら、会長を見ていると当の本人は側にいた小山先輩に視線を向けながら、こう言い放つ。
「んで、コレ」
そう会長の言った一言に対し、小山先輩が右手には網カゴ、左手にはアタッシュケースを持って俺達の元に来て、俺にはアタッシュケース、みほには網カゴを手渡す。
「さっきね、ジッパーさんの副官がやって来て”2人に渡して欲しい”って頼まれたの」
「はぁ……」
「そ、そうなんですか……」
そう手渡したアタッシュケースと網カゴの詳細を簡潔に述べる小山先輩に対し、俺とみほは揃って返事を返す。
っていうか……、このアタッシュケース地味に重いな……、何か思った以上にズシッと来るんだけど……。


手に伝わる重量感から、そう胸の内で思いながら俺はアタッシュケースを開ける側でみほも同じ様に網カゴを開ける。
すると、みほの持っている網カゴの中には”ティーカップと共に紅茶の缶詰”が入っていて、俺のアタッシュケースの中には、第二次大戦中にイギリス軍の空挺部隊等でで使用された自動オートマチック拳銃の”ブローニングハイパワー(※以下、ハイパワー)”のペイントガンが5丁、俺と神崎、玄田、木場、葵に渡されるように入っていた。
っていうか……、この「銃を送る」ってシュチュエーション……、どっかの戦争映画であったよな?
「すげぇ……」
ふと、そんな考えが沸いてくる中でアタッシュケースの中に入っていたハイパワーを見た、玄田がテンションを上げながらハイパワーを手に取るとマガジンを抜き、スライドを引き、ハイパワーをマジマジと舐める様に見つめる。
確かに……、結構良いハイパワーのペイントガンだものな……、普通にガンショップで買ったら3万円はくだらない品だぞ……。
俺が玄田の手にしたハイパワーを見て、そう思っている側で秋山が興奮した様子でこう言い放つ。
「凄いです!!聖グロリアーナは好敵手として認めた相手にのみ、紅茶を送るんです!!」
「そうなんだ」
そう興奮した様子で解説する秋山の言葉を受けて、みほも少なからず嬉しそうな表情だ。
まぁ……、準優勝の経験もある高校の隊長から認められたというのは、みほにとっては大きな励みだからな。
嬉しそうな表情を浮かべる美穂を見ながら、そう思っているとふと網カゴとアタッシュケースの中に入っていた手紙に気付いた裕也が手紙を手に取った。
「おい、聖グロリアーナの隊長さん達からの手紙みたいだぞ」
「え、読んでいい?」
そう裕也の報告を聞き、沙織が何故か興奮した様子で裕也に問い掛ける。
コレに対し、裕也は「あぁ」と一言返し、沙織に手紙を渡すと沙織はゆっくりと手紙を開いて読み始める。

『あなた達との試合、とても面白かったわ。特にみほさん、貴方のお姉さんとの試合よりもね……、公式戦でまた会いましょう by:聖グロリアーナ戦車道チーム 雌型隊長 ダージリンより』
『喜多川副隊長へ、自分のトータスに5式で立ち向かう、君とその仲間であるクルー達の勇気に感動した。好敵手の証として、この銃を送る by:聖グロリアーア戦車道チーム 雄型隊長 ジッダパハールより』

うひゃー……、こりゃスゲェ手紙だなぁー……。
沙織に口から告げられたダージリン&ジッパー隊長による俺とみほの評価に対し、思わずテンションが上がってくる側で会長がニコッと笑いながら、こう言い放つ。
「公式戦は勝たないとねぇ~」
「はい!!」
「絶対に勝ちたいです!!」
そう会長の問い掛けに対し、俺とみほがやる気満々で言葉を返す。
が、その側で公式戦の事を知らない葵が頭に疑問を浮かべつつ、こう問い掛けて来る。
「公式戦?」
「戦車道の全国大会ですよ、葵殿!!」
「へぇー、そんなのあるんだ~」
この葵の問い掛けに秋山が間髪入れる事無く答えを返すと、葵も納得した様子で「うんうん!!」と頷く。
「でもなぁ~……」
そんな、葵とは正反対に不満げな様子で玄田が鼻血の出る鼻の穴にティッシュを積め、頭を掻きながら、こう言い放つ。
「今の戦車じゃあ、とてもじゃないが全国大会はキツイんじゃないのか……」
「確かに……、公式戦までに、また、戦車を探す事になりそうですね……」
「えぇ~!?また、あの苦労をするの~?」」
この珍しくマトモな玄田の指摘に対し、華も同感と思ったらしく、指摘を肯定する様に”再び戦車捜索を行う可能性がある”事に触れた言葉を言うと沙織が苦虫を潰した様な表情で愚痴をこぼす。
まぁ……、確かに愚痴をこぼしたくなる様な大変な作業だからな、戦車の捜索は……。
沙織の愚痴を聞き、そう思っていた、この時……、既に戦車捜索の苦労が解消されていた事を知る事になるのは週末明けだった……。





……

………



<龍Side>
それから、週末の月曜日……。
俺達は揃って戦車倉庫の中でポカーンと口を開いて、突っ立っていた。
その理由は簡単、何時の間にか第二次世界大戦における最強の中戦車である「パンター戦車」があったからだ……。
っていうか、何時の間に新車両が追加されていたんだ……?
もしかして、コレは……、アレか?週末の練習試合の奮闘に対する神様からの……、ご褒美?
だとしたら、マジで神様ありがとう!!今まで、あんまり祈ったこと無いけど。
胸の内でそんな考えが沸いてくる中、戦車マニアの秋山がパンターを見て興奮を隠す事も無い様子でこう言い放つ。
「ヒィヤホォォォォーッ!!パンター戦車は最高だぜぇぇぇっ!!」
「あ、秋山さん……、お、落ち着いて……」
そう興奮し周囲の目を気にする事無く歓喜の声を上げる秋山に対し、沙織が若干引きながら突っ込みを入れる。
まぁ……、秋山が興奮したくなる気持ちも分からない事は無い……。
このパンターは第二次世界大戦中における戦車で確実にトップ10以内に入る程の性能を持ち、当時のドイツ軍戦車兵達からタイガーと共に絶大な支持を集めた戦車だ。
こんな戦車が加わる事は”確実な戦力アップ”で間違いない訳であり、俺達のチームが勝利を掴む事の出来る”期待の星”とも言える訳だ。
そんな星が俺達の上に輝いてくれたのは、喜ばないで居られるはずも無いだろうからな。
だけど……、この期待の星……、現在進行形で”少なからずデカイ問題”を抱えている。
「ナカジマちゃん。これで、どうだ?」
「駄目です、全く動きません……」
「参ったな……、確かにパンターはガラス細工の様に繊細だが、ココまでとな……」
「一度、専門の外部業者に頼む事も検討した方が……」
「うーむ、それも考えないといけないかもなぁ……」
そう……、この自動車部&おやっさんの会話を聞いて分かる様に……、このパンター……、動かないわけだ……。
一応、パンターは戦闘兵器でありながら、”精巧なガラス細工の様に繊細な戦車”である。
そんな繊細な戦車を20年近く整備しないで放置していたら、そりゃ何処か故障もする訳だ……。
現に戦後、ドイツ軍より捕獲したパンターを運用したフランス軍やオランダ軍の戦車部隊では故障が相次ぎ、整備兵が揃って悲鳴を上げたぐらいだ。
だからと言って、週末に掛けて修理しても動かないんじゃ、折角の追加戦力であるパンターも意味無しだよなぁー……。
自動車部とおやっさんの会話を聞き、そう思いながらパンターを見つめていた時だった。
「おい、西住、喜田川」
「あっ、はい」
「河島先輩、何でしょうか?」
と、言う河島先輩の呼び掛けが聞えてきて、俺とみほは揃って河島先輩に対して顔を向ける。
その向けれた俺とみほの顔を見ながら、河島先輩は隊長と副隊長の俺にこう告げる。
「今日から新メンバーが追加される事になった」
「え?」
「新メンバー……、ですか……?」
この突然の報告に対し、俺とみほが唖然とした様子で返事を返すのを見ながら、河島先輩は「そうだ」と一言返すと、こう言葉を続ける。
「現在、会長がその新メンバーを連れてきている」
河島先輩がそう報告した時だった、会長がガチャリと倉庫のドアを開け、新メンバーと共に入ってくるのが視界に入ってきた……。





……

………



<巽Side>
ネトゲ組を含めた俺達8人は生徒会長に連れられ格納庫へと歩を進めていた。
「いよいよですね」
相変わらず無表情の反田が、淡々とした様子で言う。
「そうだな……」
段々と近くなってくる戦車の納められているハンガーの扉を見つめながら気を引き締める。
次の1回戦で負けたら即アウトと分かっていた。だから、自然と声もこわばっていた。
「頑張るっちゃ」
「頑張るなり!」
「頑張ろう!」
ネトゲチームの士気は、高かったが。ゲームと実際に戦車を動かすのとは全く違うので少し心配だ。
どうこう考えている内に、俺達はハンガーの中へと入っていた。
中には、一台の戦車「パンターG型」の周りに人だかりができていた。
よく見ると自動車部のメンバーやおやっさんも居る。
周りの表情は、何やら困っている様子だった。何かあったのだろうか?
そんな様子を無視して、生徒会長は元気な明るい声で周りにいる人間に声をかけた。
「みんなー。新しいメンバーをつれてきたよー」
その声に、周りの人間はこちらに向いた。隊長の西住や副隊長喜多川も当然だが居た。
「新しいメンバー!?8人も!」
「これで、戦車の搭乗員不足も解決だな……zz」
「おお!戦力アップ間違い無しですね!」
などなど明るい声が聞こえてくる。
「それじゃあ、みんなに自己紹介宜しくね~」
と、笑顔で呑気そうに言う。
腹の中じゃ一体何を考えているのやら…まあ、腹黒いのには間違いないだろう。


そう考えている内に、自己紹介が始まっていた。
「黒崎だ。よろしく」
「伏だ……、よろしく頼む」
「阿仁屋だ。よろしくな」
「反田だ。これからよろしく頼む」
「俺は、室戸だ。宜しくな」
「ももがーです」
「ぴよたんです」
「ねこにゃー……もとい猫田です。西住さんとは、同じクラスです。よろしく」
そして、俺の番になった。
「巽だ。よろしく頼む」
と簡単に自己紹介した。
「おお、巽達も参加か!」
歴女の一人であるエルヴィンが嬉しそうに声を上げる。
身近に知り合いが居るというのは結構気が楽だったりするものだ。
「エルヴィンか。世話になるな」
そう簡単にあいさつして、再びパンターG型を見る。つなぎを着た自動車部のメンバーが困った顔をしている。
「なにか困ってるみたいだが?」
「実は、整備は完璧にしたんだけど……エンジンがかからないの」
すると、同じようにパンターを見ていた西住みほ…西住隊長が口を開いた。
「そうか、分かった。おい、悪いがクランク棒を貸してくれ。俺達が始動させてみる」
「私達だって駄目だったんだよ……無茶しない方が」
自動車部のツチヤがクランク棒を手わしてくれながらそう言う。
「まあ、一度はやってみるもんさ。黒崎、反田。これを、差し込んで回してくれ」
「了解!|《イエッサー!》」
そう言うと二人は、クランク棒をパンターの後部に差し込んで回し始める。
それを確認した俺は、操縦席の方に入りエンジン始動準備を取る。
「よし、始動させる!」
そして、俺は始動スイッチを押した。

その瞬間、マインバッハエンジンが勢いよく轟音を出しながら始動した。

その光景に、周りは喜びに包まれた。
「凄い!エンジンが動いた!」
「時代は、我々に味方した!」
こんな感じで戦車倉庫の中に歓喜の声がこだまする。
「志郎。おめえ……一体どうしたんだ」
そんな歓喜の声を聞きつつ、おやっさんが、車体に上りながら尋ねてきた。
「何もしてないよ。おやっさん。この戦車が認めてくれただけだよ」
その言葉におやっさんは、ニヤリと笑みを受かべた。
「なるほど……こいつは、乗り手を選ぶ戦車か」
「そんなとこかな」
こうして、俺達はこの日、正式に戦車道に参加する事となったのだった。
ちなみに三式中戦車は、おやっさんの店で整備中で、ここにはまだ運ばれていなかったりする。
まあ、状態が良かったので数日もかからないだろとのことである。





……

………



<龍Side>
倉庫中に鳴り響くパンターのエンジン音。
それにスッカリ興奮した様子の秋山はハイテンションでみほに対し、こう言い放つ。
「いやぁ~……、パンター戦車のマインバッハエンジンは最高ですね、西住殿!!」
「そうだね、秋山さん。心強い存在だよね」
そう興奮した様子の秋山に対し、少なからずみほも嬉しそうな表情で言葉を返す。
「す、スゲェ……、動きやがった……」
「あ、あぁ……、ただの馬鹿でっかくて、カッコイイ鉄の箱だと思っていたぐらいだったのに……」
「何気に酷い例えだよね……、それ……」
その隣では、倉庫中に鳴り響くパンターのエンジン音を聞き、葵と玄田が唖然とした様子でそう言い放ち、木場が突っ込む。
っていうか、確かに木場の言う様に、何気に酷いな……「ただの馬鹿でっかくて、カッコイイ鉄の箱だと思っていたぐらいだったのに……」って言うのは……。
まぁ、確かに動かない戦車なんて無駄にスタイルの良い”鉄の塊”以外の何者でも無いけどさぁ……。
そう玄田の発言を聞きながら、そう思っていると側に居た裕也が巽達を見ながら呟く。
「巽とか言ったか……、アイツら……、やるな……」
「あぁ……、全くだ……」
この裕也の発言に対し、俺はそう言葉を返す。
だって、そうだろ?先程まで動かなかったパンターを見事、動かしたんだからな……、只者じゃ無いぜ……。
そんな只者じゃないメンバーが追加された大洗学園戦車道チーム……、意外と全国大会もいけるんじゃないのか?
ふと思いながら、パンターと巽を見つめていると俺の視線に気付いた巽が俺とみほの元にやって来ると手を出しながら、こう言い放つ。
「これから、宜しく頼むぜ。隊長、副隊長」
「あぁ……、コチラこそ。宜しく頼む」
「うん、宜しくね!!」
そう言葉を交わすと共に俺とみほは巽と熱い握手を交わし、互いの信頼を確かめ合う。
その様子を見ていた河島先輩が「ゴホンッ!!」と咳払いすると、続け様に俺に対してこう言い放つ。
「盛り上がっている所を悪いが、副隊長……」
「えぇ、分かってますよ……」
俺はそう河島先輩に対し、返事を返すと一回息を大きく吸い込むと大声でこう言い放つ。
「では、これより練習を開始する!!全員、戦車搭乗!!」
「「「「「了解っ!!」」」」」
大声で俺が出したこの指示を受け、メンバー全員は一斉に戦車に乗り込む。
それから数分も経たない内に、倉庫内にある全ての戦車がエンジン音を立てて動き出し、演習場に向けて一斉に走り出すのであった……。