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サンダース戦、開幕!!(後編)

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  3. サンダース戦、開幕!!(後編)
「始まりましたね。」
「えぇ。」
「彼等がどんな試合を見せてくれるのか……、観物だな。」
「この前練習試合して勝った相手なのに、随分と入れ込みますね。」
試合開始のアナウンスと共に動き出した戦車の様子を試合会場に設置された巨大ディスプレイで見ながら、観戦に来ていた聖グロリアーナのダージリンとジッパー、オレンジペコとドアーズがそう言葉を交わす。
ご丁寧に後ろの方にスクリーンを置いてテーブルとカーペット、そしてティーテーブルを設えて優雅に紅茶を飲みながら観戦とは、何処までも高貴な英国のスタイルに拘る名門校である。
更にその傍らに車内空間が快適であのエルヴィン・ロンメルも鹵獲して使っていた“AECドーチェスター装甲指揮車(※ドーチェスターとはロンドンにある高級ホテルの名称)”まで完備してある様だが、まさか俺達の試合が楽しみで昨日から寝泊まりしてたのでは無かろうか……?
う~ん……幾等何でも流石にそれは自意識過剰だよな……。だが、どうやら俺達の試合を見届けに来たのは聖グロだけでは無いらしい。
みほにも……そして俺にとっても因縁のあの“黒森峰学園”も、聖グロから遠く離れた別な所から俺達の試合を観戦に来ていたのであった……。





……

………



<?Side>
その頃、聖グロリアーナの面々から少し離れた場所に陣を構えた、黒森峰陣営のまほ、エリカは試合開始と共に、こうう短く言葉を交わす。
「始まりましたね」
「あぁ」
そんな二人のやり取りを側で聞きながら、同じく試合観戦に来ていた玉田と竹一の二人も、続く様に言葉を交わす。
「玉田、お前は、この試合をどう思う?」
「そうですねぇ……」
竹一にそう問いつめられ、玉田は、巨大ディスプレイに写る両陣営の戦車を見ながら、冷静に分析し、こう言い放つ。
「状況だけ見たら、サンダースの圧勝ですが……。指揮官の判断によっては、逆転も不可能ではないでしょう……」
「それは、お前が、大洗学園の”隊長と副隊長の幼馴染みである”と言う事を踏まえた上での意見か?」
この竹一の鋭い質問に対しても、玉田は冷静に、動じる事無く、「はい」と短く発した上で、こう続けた。
「二人は共に優秀な指揮官としての器を持った人物です。自分は小さいときから、その器を見てきましたから……」
そう返事を帰ってきた玉田の返事を聞き、竹一は「そうか……」と短く受け答えし、じっとディスプレイを見つめるのだった……。





……

………



<龍Side>
俺達は、暫く前進した後に森の中に戦車を隠しながら、みほからの指示を受けていた。
『ウサギさんチームは右方向を、アヒルさんチームは左後方を偵察して下さい』
『了解しました』
『こちらも了解!!』
そう言ってウサギさんチームのM3リーと、アヒルさんチームの89式が偵察に向かうのを5式のキューポラの覗き窓から見ていると、みほからの指示がヘッドフォンより聞こえてくる。
『龍君のカニさんチームと、巽さんのヒョウさんチーム、エルヴィンさんのカバさんチーム、牧さん達のカブトムシチームは、我々あんこうチームと共にフラッグ車を防衛しつつ前進して下さい』
「みほ、了解した」
『こちら巽、了解』
『ヤボール!!』
『オッス!!』
『では、パンツァー・フォー!!』
西住の言葉に俺がそう返すと、続け様に様に巽、エルヴィン、牧達も返事を返す。
そんな俺達の返事を聞いたみほはヘッドフォン越しにそう言って前進を開始し、あいつ等の乗るⅣ号戦車の後に続く様に、フラッグ車である38tを護衛しながら前進する。


それから数分後、38tを守りながら前進していた俺達のヘッドフォンから、偵察に出ていたM3リーの戦車長である澤の声が飛び込んで来る。
『こちら澤、B805S地点でシャーマン1両を確認しました。誘き出しますか?』
「こちら喜多川副隊長。了解、十分に警戒して行え」
ヘッドフォン越しに澤の言葉を聞いた俺がそう指示を出し、澤がそれに対し『了解』といった瞬間、突如耳を劈く様な砲声がヘッドフォン越しに聞こえて来る。
「ウサギさんチーム、どうした!?発見されたか!?」
聞こえて来た砲声に対して、俺が喉の咽頭マイクを押しながら澤に問い掛けると、ヘッドフォンからは澤が慌てた様な声で行う報告が飛び込んで来る。
『シャーマン4両に包囲されました!!』
「マズイな……、みほっ!!」
俺がそう言ってみほに言葉を投げかけると、みほはヘッドフォン越しに『うん!!』と言った後、続け様に澤と俺達に向けてこう指示を飛ばす。
『ウサギさんチーム!!南西より援軍を送ります!!カニさんチームとヒョウさんチームは北西に先行して脱出の援護を!!』
『了解した!』
『了解……行くぞ、龍』
「ああっ!!」
そう言って俺の五式と巽のパンターがみほの指示通り、ウサギさんチームの脱出援護の為に北西に向けて走りだすと、みほは続け様に磯辺と牧に向けて指示を出す。
『アヒルさんチームとカブトムシチームはあんこうチームに付いて来て下さい!!』
『了解!!』
『おーっす!!』
磯辺と牧はそう言って、みほ達の乗るⅣ号の後に続け様に八九式とラムを走らせていく。

 
そんな俺達の様子をディスプレイで見て、紅茶を飲みながらオレンジペコがこう呟く。
「流石、サンダース……、数に物を言わせた戦いをしますね……」
「金持ちらしい、戦い方ですね」
そう言ってオレンジペコが紅茶を飲む側で、ドアーズが皮肉めいた事を言い放つのを聞き、ダージリンがこう言い放つ。
「こんなジョークを知ってる?アメリカ大統領が自慢したそうよ、我が国にはなんでもあるって。そしたら外国の記者が質問したんですって。『地獄のホットラインもですか?』って。」
ダージリンを補足する様に、ジッパーが側にあった茶菓子のクッキーを手に取って言う。
「ソ連へのスパイ活動用のホットラインをアメリカ大統領が『地獄へのホットライン』と表現するというジョークだな」
「その通り」
そう言葉を交わしたダージリンとジッパーは再び紅茶を飲み始める。


そんな聖グロ陣営の事など知る良しも無い俺達は、巽の乗るパンターと共にみほから指示された通り、脱出するウサギさんチームと、それを救助するみほ達を援護する為に北西へと五式を走らせていた。
「もうすぐ目標地点だ、裕也、戦闘準備!!」
『了解!!』
地図を見ながら、俺が砲手席に座る裕也にそう伝えた次の瞬間。
突如として、北北西から響く再び大きな砲声と共にオレンジ色のマズルフラッシュが視界に飛び込んで来んで来ると同時に、三度凄まじい衝撃が俺達の乗る五式と、巽達のパンターを揺らす。
『うわぁ!!』
『一体、何だよ!?』
『っ~~!!』
『にゃーっ!?』
この衝撃に車内で裕也、玄田、木場、葵が叫ぶのを聞きながら、俺は砲撃された場所を確認すると、そこにはノーマル状態のM26パーシングと並んでコチラに向かって並走してくる”11連装ロケットランチャー”を砲塔両脇に4つも設置したM26パーシング2両の後ろにノーマルのM4シャーマン2輌が続き、まるで「環境破壊上等!!」と言わんばかりに、木をバキバキと豪快に倒しながら前進してくる光景が視界に飛び込んで来た。
つーか、嫌な光景だなぁ!!アメリカ軍が開発した第二次世界大戦中最強の重戦車が、二台も揃って来るなんて!!いくら何でも、「年には念を入れる」の精神でも、無名校相手に過剰過ぎやしませんかねぇ~、バーニィさんよぉ!!
そんな事を胸の内で思いながら、俺は裕也に対して、大声で指示を飛ばす。
『クソッ、分が悪いな……』
「裕也、攻撃目標、M26パーシング!!」
同様に前進して来るパーシングを見た巽がそう毒づく中、俺は裕也にパーシングへの砲撃指示を飛ばす。
この指示を受け、裕也は「了解!!」と一言返した後、素早く5式の主砲を旋回させて、照準を定めるなりトリガーを引き、ロケットランチャーを搭載したM26パーシングを砲撃するが、その砲撃は金属音と共に弾かれ、明後日の砲口に飛んでいく。
巽達のパンターは、この距離で撃ち合うのは分が悪いと判断した為か、ロケットランチャーを搭載したパーシングに向け、”目つぶし”の為、同軸機銃のMG34を掃射を加える。
その銃撃によってパーシングは激しい火花を散らすが、全くびくともしない様子で、続け様に90ミリ砲と、
『くそぉ、あの化け物め!!』
『あぁ~、もう嫌なってくる!!』
照準機越しにパーシングに砲撃が弾かれた事を裕也が報告すると、玄田が頭に怒りマークを浮かべながら、砲弾を装填していく。
その一方で、巽が指揮するパンターの砲手である伏と装填手の室戸が、俺達の攻撃を見て、こうボヤく。
『角度が悪かったみたいだ、5式の砲弾をはじきやがった』
『運が悪いな、シャーマンなら一撃なのに!』
そんな感じで裕也と反田達がと5式とパンターの中でボヤく中、砲撃を喰らったロケットランチャー付きのM26パーシングに乗るバーニィはキューポラの覗き窓越しに俺達を観てこう笑いながら言う。
「お前らの戦車の豆鉄砲が、このパーシングに通用するか!!撃てぇーっ!!」
バーニィが叫ぶと同時に、彼の搭乗するパーシングの砲手がトリガーを引き、再び猛烈な砲声を上げつつ、90ミリ砲を発砲すると、続け様にバーニィが指揮するアニマルハンター部隊のパーシングとシャーマン2輌が同じ様に砲声を上げつつ俺達に向けて、90ミリと75ミリ砲弾を撃ち込んでくる。



その威力抜群なパーシングの90ミリ砲の着弾の衝撃を感じながら、俺は喉の咽頭マイクを押して、この状況をみほに伝える。
「みほ、パーシング2輌と、シャーマン2輌に攻撃されて、援護は不可能だ!!繰り返す、援護は不可能!!」
この俺の報告にみほは『了解、龍君!!』と言った後、続け様にこう言い放つ。
『私達も現在、シャーマンにファイヤフライとイージエイト、カリオペの合計10両に攻撃されています!!』
みほの報告を聞いた葵が『マジかよ!!』と苦々しく返すと続け様にこう言い放つ。
『奴ら、豪華な戦いしてるぞ。15両中、14両も投入して、湯水の様に使ってやがる!!』
『サンダースの連中は打って出たね!!』
葵の言葉に木場が操縦桿を握りしめ、5式のアクセルを踏み込みながら葵に向けて言い放つと、葵は「あぁ!!」と言って木場に言葉を返す。
そんな葵と木場のボヤきを聞きながら、俺は咽頭マイクを押してみほに指示を仰ぐ。
「このままじゃ全滅だ、一旦、合流しよう!!」
『うん、南東でアンコウとウサギさん、カブトムシと合流しよう!!』
「分かった!!」
俺はそう言ってみほとの無線連絡を終えると、今度は巽に向けて連絡を入れる。
「巽!南東でみほ達と合流するぞ!!」
『了解だ、龍!!阿仁屋、進路を変更、南東に進め!!』
『了解!!』
「木場、南東に進路変更!!戦車、全速前進!!」
「OK!!」
阿仁屋がそう言って巽達のパンターが南東に針路を変えると、俺も木場に指示を出して5式の進む進路を変えて、南東へと進んで行く。
しばらく戦車を走らせていると南南東の方向からウサギさんチームを引き連れて走ってくるⅣ号と八九式、ラムが俺と巽の視界に飛び込んで来る。
それを確認した俺は喉の咽頭マイクを押して、みほに無線連絡を入れる。
「みほ、ソチラを確認した!!コチラを確認できるか!?」
『うん、南東に向かいながら合流して!!』
「分かった、残り3分以内に合流する!!やるぞ、巽!!」
『あぁ!!』
そう言ってみほ、巽と無線連絡を交わした俺は木場に向けて指示を飛ばす。
「木場、今の聞いたな!?」
『勿論!!』
俺の問い掛けに対して、木場はそう返すとアクセルを全力で踏み込んで南東に脱出するみほ達の元へと進んで行く事、3分後、俺の五式と巽のパンターは何とか、みほ達と合流する事に成功する。



そして、合流した俺と巽達はみほ達と共に南東から脱出するべく全速力で戦車を走らせて南東の森の終わりに向けて走行していくが、それを阻止する為に先回りして来た、ブルドーザー付きのも含めたM4A3とイージエイトの2両ずつ計4両が前に立ち塞がる。
『龍、回りこんできたよ!!』
「あぁ、分かってる!!みほ、このまま突っ込むぞ!!」
操縦席の窓越しに木場が言ってくる事に返しながら、俺は咽頭マイクを押してみほにそう提言すると、みほも『うん!!』とヘッドフォン越しに返した、巽や磯辺、牧、澤達に向けてこう言い放つ。
『全車、このまま前進!!敵戦車と混ざり合って下さい!!』
『マジですか!?』
『やるしか無いんだ!!』
『盗塁決めてやりますよ!!』
『了解!リベロ並のフットワークで!!』
西住の指示に桂里奈が驚き、伏が香里奈を鼓舞する様に言い放ち、牧が野球部らしく言い放ち、忍が覚悟を決めた様に言い放つと、先陣を切る様な形でみほ達のⅣ号戦車が一段と高くエンジン音を上げて加速していく。
そんなみほ達に続く様に俺の五式、巽のパンター、磯部の八九式、牧のラム、澤達のM3もスピードを上げて行き、砲撃しながら前進してくるシャーマンとイージエイトを目掛けて突っ走る。
そして、最終的には不快な金属の摩擦音と火花を散らしながら、俺達は4両のシャーマンとイージエイトの横を走り抜けて、脱出に成功する。
「チッ!!」
そんな俺達をブルドーザー付きのイージエイトのキューポラの覗き窓越しに見た、ジェームズは舌打ちをしながら、無線機を手に取りケイとバーニィに対して俺達を取り逃がした事を報告する。
「スイマセン、隊長。取り逃がしました。許可さえくだされば、自分の小隊は、何時でも追撃します」
そう言って追撃を行うかどうか問い掛けるジェームズに対して、ケイがこう返す。
『ドンマイ、でも、敵の罠があるかも知れないから深追いNGよ、ジェームズ』
『一旦、俺達と合流しろ』
ケイとバーニィが、そう指示を出すと、ジェームズは「了解」と一言返してもう1両のイージエイトを連れて、バーニィとケイ達と合流する。





……

………



<巽Side>

妙だ……。

揺れるパンターの車内で、俺はミネラルウォーターのペットボトルを開けながら、そう思った。
何故なら、さっきの試合展開、思い返せば、何もかもが出来すぎている……。
偵察に向かったウサギさんチームのM3も、その脱出支援に向かった隊長のⅣ号、アヒルさんの89式、カブトムシのラムも、待ち伏せていたシャーマン達に包囲されたし、別の場所で脱出支援を担当する為に、向かった俺達もパーシングとシャーマンに迎撃された……。
ココまで、とんとん拍子で事が進むと、まるで最初から、こうなる様にシナリオが書かれていたかの様だ……。
そう言えば、確か、さっきフェイスさんが、サンダースから戻ってきた際に、俺を呼んで、こう言っていたな……。

『確証はないんだが……、どうも気になる事を聞いたんだ。あのアリサって、女子……前の試合で、グレーゾーンな行為をして、あの|ヤンキー娘《ケイ》と、海兵隊員《バーニィ》にこっぴどく叱られたそうだ……。だけど、それにも全く懲りてないらしい……。気をつけた方が良いぜ……、ああいう奴は何をしでかすか、分からないぜ』

一体、何なんだ?フェイスさんが言っていた、”グレーゾーンな行為”って……。
この「グレーゾーン」と言う言葉が、胸の何処かで引っかかり、モヤモヤした気持ちになる中、先程開けたミネラルウォーターを喉へとが仕込んでいく。
その時、腕がパンターの壁においてあった、”戦車道委員会のガイドブック”に引っかかり、パサリと開きながら、俺の足下に落ちる。
「ん……っ!!」
そう呟きながら、開いた状態のガイドブックを拾い上げ、ふと中身を見た瞬間、このモヤモヤとした気持ちを吹っ飛ばす様な、内容が書かれていた。
何故なら、そこに書かれていたのは、「無線傍受」に関する記述だからだ。
もしかして……、無線傍受されていたのか?だとしたら、さっきのシナリオが書かれていたかの様な、試合展開になるのも不思議では無い。
だって、コチラの作戦が、手に取るように分かっているのだから、それに併せて対応すれば良いだけなのだから。
「確かめるか……」
『どうした、巽?』
この言葉に半田達が、振り返る中、俺は胸の中に涌いた予想を確かめる為、素早くパンターのハッチを開けて、外を確認する。
すると、そこには俺の予想を確証に変えるかの様に、空に無線傍受用の気球が浮いていた。
「なるほど……、どうりでな……」
まるで、事件の核心をついた刑事か、探偵の様に呟くと、俺はポッケに入れていた携帯を手に取り、隊長に電話を掛けるのだった……。





……

………



<龍Side>
その一方で何とか脱出に成功した俺達は戦車の車内で一息ついていた。
『ふぅ……、かなりやばかったな……』
『あぁ、コチラの情報がタダ漏れしているのかと思ったぜ……』
玄田の発言に続く様に葵がそう言い放つと、裕也が額の汗を拭いながらこう返す。
「洒落にならんこと言うなよ……、葵……」
この裕也の言葉に木場が「ハハハ……」と苦笑した瞬間だった。
「もしかして……」
俺の頭の中を過ぎる物があり、それを確かめる為にも、ハッチを開けて、外に出るなり、空を見上げた。
見上げた空に浮かぶのは、第二次世界大戦中に使用された阻塞気球だ。確か、試合が始まる前は、無かった代物だ。
そういえば……、試合開始からずっと気になっていたが、試合開始から打ち上げられているあの第二次大戦期の阻塞気球……、一体何なんだ?
どうやら連盟のモニュメントって訳でもなさそうだが……、サンダースの所有物なのか?どっちにしても、見ていて何だか胸騒ぎがするぜ……。
さっきから敵もまるで未来予知の超能力で俺達の動きが分かってるかの様に動いてるし、同じ事はみほも感じている筈だ。
『プルル……、プルル……』
俺のこの胸の違和感は、次の瞬間、突然掛かってきた携帯電話の着信によって、確信に変わるのだった。
突然掛かってきた携帯電話を手に取り、画面を確認すると、そこには、みほの名前があった。
俺は”嫌な予感”を感じながら、携帯電話を取る。
「どうした、みほ?」
『龍君……、無線傍受機が打ち上げられているって、巽君から連絡があったの……』
無線傍受機と聞いた瞬間、俺は思わず「やっぱりか……」と呟いた。
だってそうだろ、さっきの試合の流れを見た限り、何もかもが、偶然にしては出来すぎている。だとしたら、無線傍受ぐらいされていて当然だろう。
そんな俺の声にみほが携帯越しに『うん……』と言った後、続け様にこう言い放つ。
『全車無線封鎖して、一旦合流して話し合おう』
「あぁ、分かった……」
そう言って俺はみほとの電話を終えると木場に指示を出して、みほが指定した合流場所へと戦車を走らせていく。





……

………



合流場所へやって来た俺達はみほや巽達と無線傍受にどう対応するか話し合う。
「確かに、無線傍受禁止とは書いてないですね……」
「ひでえ、貧乏人いじめじゃないか!!」
「ホントよ、いくらお金があるからって!!」
Ⅳ号のハッチから顔を出して、ルールブックを確認した秋山がそう言い放つと葵と沙織が怒り心頭と言った様な表情で声を荒げる。
まぁ、そう言いたくなる気持ちも分からないことは無い……。っていうか、何で戦車道委員会、無線傍受を認めているんだろうな……、謎だ……。
そんな沙織と葵の側では、玄田が5式の砲塔天板の装填手側のハッチに付いている””をコッキングハンドルを引きながら、こう言い放つ。
「んな物、撃ち落としやれば良いんだよ!!」
「お前は馬鹿か!?今隠れている、位置を教える事になるぞ!!」
そう言って無線傍受機を撃墜しようとする玄田を裕也が引き止めるの。
うーん……、こいつに砲手を任せなくて正解だったな……。砲手だったら、もう考えも無しにバンバン撃ちまくりそうだしな……。
んで、玄田達の様子を見て、そんな事を思いながら、俺とみほはこう言葉を交わす。
「だが、何かしらの手を打たないとマズイぞ……」
「うん……」
俺とみほがどうするべきか、考えているとパンターの上で同じ様に対応を考えていた巽が室戸に対して、こう問い掛ける。
「なぁ、室戸……。奴らの無線傍受機の種類って民間用か?」
「あぁ、見た限り、そうだな」
この室戸の返事に対し、「そうか……」と巽は呟くと、続けて問い掛ける。
「奴らの無線傍受機を逆手に取るようなことは、可能か?」
「まぁ、無線機の種類にもよるが、今、サンダースが使っている戦車道用の無線傍受機なら十分に可能だ……って、巽、まさか……」
巽にそう返した瞬間、巽がやろうとして居る事を悟った室戸が目を見開く様子を見ながら巽は室戸に向けて「あぁ……」と言った後、俺とみほに向けてこう言い放つ。
「龍、隊長。この際、奴らの無線傍受を逆手に取ってやろう」
この巽の言葉に俺とみほが互いの顔を暫く見合わせる。
確かに、無線傍受がされている以上、普通の手では全く通用しないだろう……。
だから、ココは巽の言うように、奴らの無線傍受を逆手に取るのが一番良い方法だろう。
目には目を、歯に歯を、無線傍受には、無線傍受だ!!
そう思った俺とみほは共に顔を見合わせ、頷くとこう言い放つ。
「うん、それしか無いね……」
「この際、徹底的に利用してやろう!!」
「あぁ」
そう言って俺達は、サンダースの無線傍受を逆手に取った作戦を練り始める……。


そして、数十分後、サンダースの無線傍受を逆手に取った作戦が遂に実行された。
俺の五式、みほのⅣ号、巽のパンター、エルヴィンのⅢ突、澤達のM3は試合会場の中にある小高い丘に登りながら、サンダースを混乱させる為の偽の指示を交わす。
『全車、0985の道路を南進して、ジャンクションに向かって下さい。敵はジャンクションを北上してくるので、そこを左右から強襲します』
「了解!!」
『了解した!!』
『分かりました!!』
『こっちも了解です!!』
『押っ忍!!』
みほの偽の指示に俺と巽、澤、磯辺、牧がそう返すと、それをシャーマンM4A1の76ミリ砲搭載型に搭載した無線傍受機で聞いたアリサが、こう言い放つ。
「隊長、敵はジャンクションに居ます。囮を北上させて、本隊は左右から包囲!!」
このアリサの指示にケイとバーニィは『『OK!!』』と声を揃えて、アリサに返すと素早くアリサの指摘した様にシャーマンM4A3を4両、囮として北上させて左右から本隊を分散させて、喜多川達が”待ち構えている事になっている”ジャンクションに向けて進撃を開始する。
その間にも、囮としてジャンクションで待機する89式とラムの後ろでは牧達の野球部と磯辺達のバレー部が必死になって、木を切り倒して作った丸太を、戦車の後ろに括りつけていた。


それから、数分後……。
「おっ、おいでなすったか……」
小高い丘の上から、俺達の流した偽情報を元に進撃してくるサンダースの本隊を双眼鏡越しに確認する。
罠とも知らずに……、よく来たものだぁ……。まぁ、これで奴らに少しはお灸を添えてやりますかな……。
そう思いながら、俺は美保に向け、無線連絡を入れる。
「みほ、奴らは見事に引っかかってくれたぞ。北から4両、西と東から4両ずつ来る」
「うん、じゃあ始めるよ……」
俺が双眼鏡を下ろしながらみほに報告すると、みほはそう答えて喉の咽頭マイクを押し、ジャンクションで待機する磯辺と牧達に向けて、こう指示する。
「囲まれた!!全車、直ちに左右に展開して後退!!」
「パンターは、38tを護衛しろ!!」
みほが、そう言った瞬間、磯部達の八九式と牧達のラムが丸太を引きずって、派手に土煙を上げて、まるで自分達が本当に左右に分かれて撤退している様に偽装しながらサンダースの戦力を分散させていく。
その様子を丘の上から確認した俺達は互いの顔を見合わせた後、頷いて戦車の中に戻ると木場と麻子に命じて、サンダースを待ち伏せする為に五式とⅣ号を移動させて行く。
「38t、敵のフラッグ車だわ……、もらった!!チャーリー、ドック、ハンター2、直ちにC1042R地点に急行。敵を見つけ次第、発砲。直ちに撃破せよ!!」
『『『はいっ!!』』』
そんな事を知らないアリサはそう言った後、俺達の”目論見通り”C1042R地点に向けて2両のM4A3と1両のパーシングを差し向けてくる。


そして、俺達の偽情報に流されてC1042R地点へとやって来たM4A3と、パーシングは”無線連絡上は隠れている事になっている”38tとパンターを捜索するべく、停止して主砲を旋回させる。
そんなシャーマンの中で照準器をのぞき込んでいた女子が”ある物”を発見する。
「ん?」
彼女がそう呟き、何かと思って、見つめた瞬間には、もう既に”時遅し”であった。
何故なら、それは俺とみほ、巽、澤達と共に待ち構えていたエルヴィン達が搭乗する”Ⅲ突の主砲”なのだから……。
「ジーザス!!」
それを知ったシャーマンの砲手の女子が絶叫した瞬間、俺は声を張り上げて叫ぶ。
「撃てぇぇーっ!!」
その瞬間、砲声が次々と鳴り響き5式、Ⅳ号、Ⅲ突、パンター、M3が次々と、シャーマンとパーシングに集中砲火を浴びせる。
この集中砲火を物の見事に喰らったシャーマンは堪らず爆音を挙げて撃破され、行動不能判定の白旗を上げる。
『撤退だー!!』
『逃がすな、撃て!!』
生き残ったシャーマンがパーシングと共に撤退しようとするが、次の瞬間には隠れていた場所から出てきた巽達のパンターの砲撃を喰らい、再び挙がる爆発音と共に先に撃破されたシャーマンと同じ末路を辿る。
『パンターだ、アイツを狙え!!』
直ぐさま、出てきたパンターを狙い撃つ様にパーシングの戦車長である男子が反撃体制の指示を叫ぶが、その次の瞬間、俺達の五式、西住達のⅣ号、澤達のM3、エルヴィン達のⅢ突から集中砲火を浴びる。
『こっ、後退、後退ーっ!!』
これに対して、パーシングは、金属音をド派手に鳴らすだけで撃破は出来なかった。
流石は、アメリカ軍がタイガー&パンターへの対抗策として開発した重戦車なだけはあって、シャーマンとは比べものにならない装甲の堅さだ……。
だが、しかし、パーシングの方も、このよそ宇田にしなかった集中砲火を浴びるなり、踵を返す様な形で正面装甲を向け、苦し紛れに90ミリ砲と同軸機関銃を撃ちつつ、後退していく。
そして、何とか俺達の仕掛けた罠から逃げ延びたパーシングの戦車長の男子はケイとバーニィ達に向けてこう報告する。
『こちらハンター2、こちらハンター2!!ドックとチャーリーが大洗に食われました、繰り返すドッグとチャーリーが大洗に食われました!!行き残ったは自分達だけです!!』
『えっ!?』
『何っ!?』
『はぁっ!?』
『Why!?』
『What the f○ck!?』
サンダースの面々は、この予想だにしなかった”まさかの展開”の報告に、凄まじい動揺が走る。


そんなサンダース陣営とは、反対に俺達は作戦成功と言う事実に士気が上がっていった。
「作戦成功!!繰り返す、作戦成功だ!!」
『よっしゃああ!!』
『うぉーい!!』
『おほほっ!!』
『ヒャッホウ!!』
そんな感じで作戦成功と言う事実にテンションが上がる裕也や、澤、エルヴィン達。
まぁ、確かにテンションがあがるのも分かるが、まだ試合中だ、俗に言う『勝って兜の緒を締めよ』だぜ、お前達。
そう思うと同時に、俺は裕也達に向け、こう言い放つ。
「全車、まだ試合は終わってない!!勝利するまで気を緩めるな!!」
俺が、そう言い放つとヘッドフォンからは『『『ハイッ!!』』』と言うメンバー達の復唱が飛び込んで来る。


同時に、無名の弱小校である俺達大洗がサンダース側の雌型のシャーマン2輛を撃破したと言うまさかの大金星に、会場は大歓声に包まれた。そして連盟、観戦者両サイドで様々な反応が起こる。


先ず、サンダースから撃破車両が出た事を受け、会場の連盟本部では……。
『有坂君、撃破車輛が出たわ。私も直ぐに行くから回収お願いね!』
「了解したよ、ひびき。じゃあ先に行ってるから」
雌型審判の稲富さんからの報告を受け、同じく雄型三審判の1人である有坂さんが配備されていたM74戦車回収車を走らせる。
M74のウインチ牽引力は“42.83t”。それに対してシャーマンの重量は“30.3t”でパーシングの重量は“41.9t”だから、回収車としては妥当なチョイスだろう。
M74戦車回収車に遅れて稲富さんの操縦と思しきM26装甲戦車回収車も出動する。サンダースの雌型のシャーマン2輌が撃破されたのだから当然だろうな。
M74だけで丁寧に回収するよりそっちの方が効率が良い。って言うか中学の大会の時も見掛けたけど、審判員ってこんな事もするもんなんだな……。
選手である俺達は何の気兼ねも臆面も無く互いに戦車をガンガン撃破し合ってるってのに、それに一々判定を下して撃破車輛を回収する為走り回る光景には頭が下がるぜ……。皆さん本当にご苦労様です。


続いて聖グロリアーナ陣営でも……。
「やりましたわね!」
「えぇ!」
そう言ってダージリンとオレンジペコが俺達の大殊勲に少なからず驚きと興奮が入り混じった声で歓声を挙げる。
「無名校がサンダースのシャーマンを2輌も……まぐれなんかじゃないですよね?」
ドアーズはまだ信じられないと言った表情でジッパーに尋ねる。
「当然だ。あれは間違い無く大洗の作戦勝ちだよ。だがまさかこんな序盤から見せ付けてくれるとは思わなかった……。練習試合の時もそうだったが、やはり彼等の戦い振りには心が躍る!」
だがジッパーは直ぐに偶然でない事を否定し、俺達がこれから繰り広げるサンダースとの試合展開へ向けて期待に胸を弾ませた。
初めての練習試合でメタクソに負かしてくれたってのに、随分と買い被られた物である。況してやこっちはお宅等が俺達の試合を観て下さってる事なんざ知る由も無いってのに(※まぁ、悪い気はしないがな!)。


そして再三言うが俺にとってもみほにとっても因縁骨髄に染み渡る黒森峰にも同様に反応が有った様だ……。





……

………



<?Side>
「嘘でしょ、そんな馬鹿な!?」
「………」
大洗学園側が、先に戦果を挙げたという報告にエリカが驚愕する側で、まほは冷静にディスプレイに映し出された、大洗に撃破された2台のシャーマンを見つめている。
「しゃっ!!」
玉田は二人の様子を横目で見ながら、幼馴染みの挙げた大金星に対して、思わず拳を握りしめ、小さく歓喜の声を上げる。
そんな黒森峰の面々を一回見つめた後、竹一は再び、ディスプレイを見つめ、冷静ながらも、鋭く、この試合展開を分析していく。
「恐らくサンダースの無線傍受を逆手に取ったんだろうな……、前に俺達も取った手だ……」
どうして、この様な結果になったのか、竹一は己の経験を元に分析すると、再びディスプレイを見つめる。
「良い腕をしているな、流石は西住師範の娘と、父さんのライバルの息子だけはある……」
そこに映るみほと、龍の姿を見て、竹一は、そう呟くのだった……。





……

………



<巽Side>
「阿仁屋、パンターを後退させろ」
『了解』
キューポラの覗き窓から、炎上する2台のシャーマンを見つめながら、俺は阿仁屋に後退指示を出す。
この指示に従い、阿仁屋の操縦でバックし、隠れていた茂みに戻るパンターの中で、俺は”前々から考えていた事を実行する”為に、携帯を取りだし、電話を掛ける。その相手は、”角谷会長”だ。
『もしもし?』
暫しの待ち受け音の後、電話を取った会長の声が、俺の携帯のスピーカーから聞こえてくる。
「もしもし、会長ですか?」
聞こえてきた会長の声に対して、俺が電話越しに問い掛けると、会長は『あぁ、どうしたの巽君?』と逆に聞いてくる。
そんな会長の問い掛けに俺は、単刀直入に”前々から考えていた事”を伝えた。
「この場で、前々から考えていた事を実行させてもらいます」
『……それって』
俺達のこの言葉を聞き、会長が何かを思い出したかの様な口調で呟き、しばらく間を開けて、こう言い放つ。
『”遊撃部隊としての独自の作戦行動とらしてもらう”……って事だよね?』
「……そうです」
会長の言葉に対し、俺が一呼吸して返すと、電話越しに『うーん……』と言う会長の悩む声が聞こえてくる。
それから数秒後、会長が、こう言葉を続けた。
『それは良いんだけど……、本当に大丈夫なのかい?素人が言うのも何だけど……』
まぁ、会長がそう思うのも無理はないだろうな……。
さっきは、運良くサンダースを撃破できたが、今後も上手くいくとは限らないからだ。
だが、ココで俺達が動かないと、きっと大変な事になる……そんな予感が俺の胸の内を駆けめぐっていた。
その駆けめぐる予感を言葉にして、俺はこう会長に言い放つ。
「大丈夫です。サンダースに一泡吹かせてやりますよ」
『……分かったよ』
この言葉を聞いた会長は、暫しの沈黙の後、重い腰を上げる様に、こう言い放つと、更に言葉を続けた。
『西住ちゃんと、喜田川ちゃんには、偵察に向かったって伝えておくから……。存分に暴れてきなよ』
「ありがとうございます、会長」
そう言って俺はパンターの中で、軽く一礼しながら、会長との無線を切ると、反田、伏、阿仁屋、室戸に向け、こう指示を出す。
「これより、俺達は遊撃部隊として、独自の作戦行動に入る、全員戦闘態勢を整えろ!!」
『『『『了解っ!!』』』』
この俺の指示に従い、反田、伏、阿仁屋、室戸達は素早く戦闘態勢を整えていく。


そして、この戦闘準備の後、俺達は第二次世界大戦中における、伝説の戦車戦の1つ、”バルクマンコーナー”を再来させるのだった……。