怒涛の練習試合と見えてきた真実
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<龍Side>
いきなり襲ってきた衝撃の原因である野球部のラム巡航戦車を見ながら、俺は思わず唾をごくりと飲み込んだ。
そりゃそうだ、自分達の乗る5式から僅か15メートルと言う近距離に居るのだから。
っいうか、|お前ら《野球部》……、蝶野教官が言っていたポイント間違ってないか?
地図だと俺らより、左後方に約60メートルぐらい距離あったような気がるんだけど?
っていうか、何だ?野球部の連中は俺に恨みであるのか?
さっきも教官が来るまでの間にキャッチボールしていたけど、”5回程、俺の頭にデッドボール”食らわしてなかったか?
5式に向けられたラムの主砲を見ながら、そんな考えを胸の内で巡らせていると再びラムの主砲が凄まじい砲声と共に砲弾を放つ。
「うぉっ!?」
その光景を見た瞬間、俺は思わずそう叫びながらキューポラの中に頭を引っ込める。
瞬間、凄まじい6ポンド砲の着弾による凄まじい衝撃が5式と俺達を襲う。
『ぐわっ!?』、『うぉっ!?』、『わっ!?』、『でちょっ!?』
「くっ!!」
その衝撃に慣れない裕也達が困惑しながら、必死に5式の車内に捕まる側で俺はキューポラを閉じながら、戦車長として裕也達に戦闘指示を出す。
「木場、戦車前進だ!!1時の方向、俺が次の指示を出すまで、走らせろ!!」
『えっ!?』
「いいから、前進しろ!!」
『わ……、分かった!!』
俺の出した指示に木場は困惑を隠しきれない様子ながらも、アクセルを思いっきり踏み込んで5式を急発進させる。
その際の反動で俺は激しく揺さぶられながらも、必死にキューポラの覗き窓を掴んで堪える。
っていうか、久々に乗るけど戦車ってこんなに揺れるものだったか?
そんな考えが胸のうちを過ぎったのもほんの一瞬。
再び5式の後方に居るラムが威勢よく砲撃を加え、5式を三度激しく揺らす。
「ぐっ!!」
同じ様にキューポラの覗き窓を掴んで堪えていると、痺れを切らした玄田が怒鳴り散らしながら問い掛けてくる。
『龍、反撃しないのかよ!?このまま|嬲り殺し《なぶりごろし》にされるつもりか!?』
「うっさい!!黙れ!!」
玄田に対し、俺も怒鳴り散らして黙らせる。
そりゃ玄田が怒鳴りたくなる気持ちも分からんことは無いよ、だけど今反撃したところで返り討ちにあうだけなんだよ!!
胸の内でそう呟きながら、俺は裕也と葵、玄田の3人に向けて次なる指示を出す。
「裕也、葵、砲のセーフティーを解除!!戦闘用意!!玄田は砲弾ラックから砲弾を取り出せ!!マニュアルどおりにやれ!!」
『『『りょ、了解!!』』』
俺の指示に裕也と葵、玄田の3人は少しもたつく手つきながらも、前日に読んだマニュアル通りに安全装置の解除、次弾を砲弾ラックから取り出して戦闘態勢を整える。
「ふぅ……」
その様子を見ながら、俺はこれから始まる戦車戦を思い描きながら息を吐くのであった。
そんな俺とは打って変わって、俺達を攻撃していたラム巡航戦車の中でクルーの牧達はこう言葉を交わす。
「今のは凄いストレートだったな……」
『あぁ、優に100キロ以上は出ていたな……』
戦車長を務める牧と砲手を務める風間の二人が唖然とした様子で初砲撃の感想を交わす側で、興奮した様子の本城がこう言い放つ。
『うほほほ……、牧、ありゃ試合で投げたら”三振王”は確実だぜ!!』
『いや……、三振王以前に取る身にもなれ……、下手したら死ぬぞ……』
そう想像を爆発させるかのように言い放つ本城とは打って変わり、ピッチャーの倉本がピッチャーと言う己の立場からか、本城の言った事に対して素で反論を述べる。
そんな4人に対し、北条が操縦主席の覗き窓から外の様子を伺いながら問い掛ける。
『あのさぁ……、5式が逃げるんだけど……、追うか?』
『『『『当たり前だろ!!』』』』
『やっぱりねぇー!!』
そう呟きながら、北条はラムのアクセルを踏み込んでラムを前進させ5式を追撃するべく前進させる。
その様子を影で見ていたM3リーに乗る一年生の澤達も車内でこう言葉を交わす。
「ねぇ、牧先輩達、行っちゃったよ?」
『とりあえず付いて行く?』
『そうしよう、そうしよう!!』
そう澤、山郷、宇津木達もM3リーの車内で言葉を交わすとラムの後に次いで、5式を追いかけるのだった……。
…
……
………
<龍Side>
そんな感じで移動する事、約10分ほど経った頃。
俺は激しく揺れる5式の車内で外の様子を確認するべくキューポラの覗き窓を覗きこむと、俺の視界には一段と開けた草原の景色が飛び込んでくる。
よし……、周辺をくまなく見渡す事の出来るココなら有効な反撃が出来るな……。
それでは反撃開始としゃれ込むか!!
胸の内でそう思った俺は一回息を吸うと木場に向けて、大声で指示を出す。
「木場、戦車停止!!同時に戦車旋回、6時の方向!!」
『えっ、えっ!?』
「急げ!!」
突然の俺の指示に困惑する木場に対し、俺はそう尻を叩くように言い放つと木場は困惑を隠しきれない様子ながらも『了解!!』と言いながら、ブレーキを踏み込み停止させる。
それと同時に5式の右履帯レバーを倒し、右履帯を固定するなり、再びアクセルを踏み込む。
瞬間、5式は『ギャリ、ギャリ、ギャリッ!!』と言う金属音と共に草原を抉りながら”新地旋回”していく。
『うぉっ!?』
『何だ、何だ!?』
『な、何これ!?』
『おひょ、おひょ、おひょーっ!?』
始めて体験する新地旋回の感覚に裕也達が”各々の感想(?)”を述べる。
まぁ、確かに新地旋回する車両って戦車以外ではブルドーザーとかパワーショベルとか普段の生活で乗らないような特殊車両ばっかりだしな……、そりゃ多少なりとも困惑するよな……。
っていうか、今はそんな事を艦が手居る場合じゃなかった!!
裕也達の反応を聞いて、そんな考えが一瞬だけ俺の胸の内を過ぎるが直ぐに振り払って次なる指示を出す。
「裕也、安全装置解除!!」
『わ、分かった!!』
そう俺の出した指示に対して、裕也が慣れない手つきながらも前日に読んだマニュアル通りに主砲の安全装置に手を掛け、安全装置を解除する。
その間にも俺達を狙う野球部のラムが6ポンド砲の砲声を上げつつ、5式に向けて6ポンド砲弾を撃ち込み、着弾の衝撃で俺達を激しく揺さぶる。
『うおっ!!』
『ぎゃっ!?』
『うわっ!!』
『むひょーっ!?』
この衝撃に裕也、玄田、木場、葵の4人が思わず身構えるを見て俺は”戦場に配備され、初めての実戦に怯える新兵を指揮する軍の小隊長”の様に怒鳴り散らす。
「全員、怯むな!!怯んだら、やられるぞ!!」
『『『『りょ、了解!!』』』』
この俺の激に裕也、玄田、木場、葵の4人はそれに答えるかの様に再び戦闘態勢を体制を整える。
その様子を見ながら、俺は次なる指示を玄田と葵に飛ばす。
「葵、37ミリ砲弾装填!!玄田は砲弾装填!!」
『お、おうっ!!』
『分かった!!』
二人はこの指示を聞くなり、間髪入れる事無く作業に取り掛かる。
まず玄田は砲弾ラックより戦車の装甲を貫く砲弾である”徹甲弾”を取り出し、5式の最大の特徴とも言える”自動装填装置”の上に置く。
それと同時に玄田は素早く側に置かれた装填ボタンを押し込み、自動装填装置を起動させる。
すると、起動した自動装填装置は「ウィーン!!」と言う機械音と共に徹甲弾を主砲に装填していく。
いやぁー……、敗戦寸前だった戦時中の日本が当時としてはココまでハイテクな戦車を作っていたのかー……。
資源さえあれば実戦に投入&少なからず活躍したんだろうな……、本当に『戦いは数だよ、兄貴!!』とは良くぞ言ったものだな……。
いやいや、それはどうでも良いから葵はどうなっている!?
5式の自動装填装置を見て思わず感慨につかるが、俺は直ぐに思考を切り替えて葵に顔を向ける。
すると当の本人は裕也や玄田、木場とは違って、手馴れた様にテキパキと37ミリ砲弾を砲弾ラックより取り出し、37ミリ副砲の砲尾を開けて、慣れた手つきで装填する……。
この天才肌が。
何故か知らないが、そんな考えが一瞬胸のうちを過ぎった。何でだろう?
まぁ、それは良いとして戦闘態勢は整ったな……。
裕也達の様子を見て俺が胸の内でそう思うと同時に各自準備を整えた裕也達が報告してくる。
『龍、主砲の装填完了だ!!』
『同じく副砲の準備よし!!』
「よし……」
準備は完了……、あとはやるだけだ……。
そう胸の内で覚悟を決めた俺は一回息を吸うと大声で指示を出す。
「全員、戦闘開始だ!!」
『『『『了解!!』』』』
そう俺が戦闘開示の合図を大声で叫ぶと、それに続くように裕也達も大声で復唱する。
それを聞きながら、俺は間髪入れる事無く次なる指示を飛ばす。
「裕也、葵、照準を定めろ!!目標、正面1時のラム巡航戦車!!」
『分かった!!』
『OK!!』
そう言って裕也は主砲旋回レバーを操作し、ゆっくりと主砲をラムに向ける。
同時に葵も裕也の後に続くように照準機を覗き込んで副砲の照準をラムへと定めていく。
その照準が向けられているラムの中では、クルーの牧達が自身達が狙われている事に慌てふためいている。
『お、おい!!5式がこっち向いたぞ!!』
『うわっ、こっち見んな!!』
主砲の照準機越しに風間が自身の戦車が狙われている事を叫ぶと、釣られる様に本城も慌てふためいた様子で車載機関銃の”M1919”のコッキングハンドルを引くなり、5式に向けてM1919のトリガーを引く。
その瞬間、「ズババババッ!!」と言う連続した銃声と共にM1919の銃口から30-06弾が勢い良く5式を目掛けて飛んで行く。
同時に5式に次々と着弾し、連続した金属音、火花と共に銃弾は5式の装甲の上を飛びまわる。
結構派手にやって来てるな、野球部の奴ら……。
だけどよ……、WW2後期の戦車は銃弾程度ではやられないんだよ!!
言って差し上げよう……、このド素人が!!
外から聞こえてくる銃弾の着弾音を聞きながら、思わずそんな考えが胸の内から沸いてくるのを感じていると裕也と葵の二人が俺に大声で報告してくる。
『龍、主砲の照準良し!!』
『同じく副砲、準備、照準共にOKだ!!』
「よし……」
反撃開始だ……、胸が熱いな……。
二人の報告を聞いてそんな感情を胸の内で抱きながら俺は一回息を吸う。
そして数秒程、目を閉じて体の中の全神経を集中させると俺は目を大きく見開き大声で叫ぶ。
「主砲、副砲、共に撃てぇーッ!!」
5式の車内で俺がそう大声で叫んだ瞬間、裕也と葵の二人は同時に砲のトリガーを引いた。
その瞬間、5式の車内に「ズドォォォーン!!」と言う2発の凄まじい砲声が鳴り響く。
同時に物凄い勢いで弾頭を発射した徹甲弾の金色の空薬莢が勢い良く砲尾より吐き出され、5式の車内に転がる。
それとは反対に2発の弾頭は勢い良く主砲から飛び出し、ラムを目掛けて飛んで行く。
そして……、2発の砲弾は「ドガァァァン!!」と言う衝撃音と共にラムに命中。
この命中弾を喰らったラムは真っ黒な煙とオレンジ色の爆縁に包まれる。
命中だ。
キューポラ越しに見えたこの光景に俺はそう確信する。
その確信が間違いではなかった事を証明するかの様に、煙と炎に包まれていたラムが再び俺の視界に入ると”撃破を示す白旗”がラムの砲塔頭上に掲げられていた。
よし……、やった……、やったぞ!!敵戦車撃破だ!!
胸の内から沸いてくる歓喜の感情を抑えながら、俺は裕也達に向けてこの事を報告する。
「命中並びに敵戦車の撃破を確認!!」
『『『『うおぉぉぉっ!!』』』』
この俺の報告に裕也、玄田、木場、葵の4人も歓喜に沸く。
そりゃそうだ、初めての砲撃で見事、敵戦車を撃破して見せたのだから歓喜しない訳が無い。
っていうか、逆に喜ばない人が珍しいんじゃないのかね?
まぁ、正直言って俺も裕也達の様に叫びたい気分だね。ヒィヤッホォーッ!!
そんな感情を胸の内で感じながら、撃破されたラムを見つめていた時だった。
ラムの近くの茂みが突如として、ガサゴソと不自然に揺れるのが視界に飛び込んで来る。
何だ別の戦車か?そうだとしたら……、ラムの近くに居た1年生達のM3の可能性があるな……。
そう思いながら、俺はラム撃破の熱が冷めないながらも次の戦闘指示を飛ばす。
「玄田、葵、別の戦車が居る!!次弾装填、急げ!!」
この俺の指示にラム撃破に沸く玄田、葵は一瞬驚き困惑が直ぐに『『了解!!』』と威勢良い返事を返すと次なる砲弾の再装填に取り掛かる。
いやぁー……、この様子を見ていると蝶野教官の”ぶっつけ本番で練習試合”と言うのも間違っては居ないんだな……。
……と言っても、親父の陸上自衛隊における”変人ぶり”を挽回する要素にはならないけどな!!
そう思いながら、キューポラの覗き窓から敵戦車が居ると思われる茂みを見つめていた丁度その時。
遂に茂みの中から、隠れていた敵戦車が正体を現す。
その敵戦車の正体は俺の予想して通りに一年生の澤達が登場するM3リーであった。
「来たぞ!!敵戦車1時の方向だ!!裕也、葵、照準を定めろ!!」
『『了解!!』』
M3リーを覗き窓越しに確認した俺はそう大声で叫び、裕也と葵に対して目標指示を出す。
この俺が出した指示に答える様に裕也と葵の二人は再び照準機を覗き込んで、M3に狙いを定めていく。
『やばいよ、やばいよ!!狙われているよ!!』
『逃げよ、逃げよ!!』
『そうしよう、そうしよう!!』
ラムに乗っていた牧達と同様に狙われている事に気付いた澤達が大慌てで逃げようとした時には、もう時既に遅し。
裕也と葵の二人は揃ってM3に主砲と副砲の照準を定めていたのだから。
『主砲、照準良し!!』
『副砲、同じく照準良し!!』
「撃てぇっ!!」
裕也と葵の報告を聞いた俺は間髪入れる事無く砲撃を指示、コレに答えるように裕也と葵は一気にトリガーを引く。
その瞬間、先程と同じ様に凄まじい爆音と共に主砲から勢い良く砲弾が放たれ、M3を目掛けて一直線に飛んで行き、最終的には轟音と共に命中し、撃破を示す白旗が上がるのであった。
「M3リーの撃破を確認!!」
『しゃあっ!!』
『よし!!』
このM3撃破の報告に裕也と葵が歓喜に沸く側では、木場と玄田の二人も笑顔で2つ目の戦果達成に沸いている。
うーん……、俺も沸こうかな?
裕也達を見て、そんな考えが沸いたのもほんの一瞬だけだ。
その理由は簡単だ。
ズドォォォーンッ!!
この様に俺達のいる場所から、そう遠くない場所から別の砲声が鳴り響いたからだ。
つーか……、この砲声は……、みほ達の4号戦車だよな……?
聞こえてきた砲声から、俺の脳内に保存された戦車の砲声を重ね合わせて、どの戦車か判断していると裕也が話し掛けて来る。
『龍、今の砲声は4号か?』
「可能性は高いな……、それも結構近くからだ……」
距離的に約5キロ以内の範囲から聞こえてきたような気もするし……。
裕也の問い掛けに対し、そう返しながら今の状況を分析していると操縦主席から顔を出した木場が何かに気付いたらしく、少し慌てた様子で俺に報告してくる。
『龍、3時の方向で黒煙が上がっているぞ!!』
「なんだって……!?」
この木場の報告を聞いた俺は慌てて、キューポラを開けて外の様子並びに木場の言っていた方向に顔を向ける。
すると、そこには確かに木場の報告通りに一筋の黒煙がもうもうと上がっている光景があった。
どうやら、みほ達の4号が敵戦車を撃破したと見て間違いないな……。
そう胸の内で思いながら、もうもうと上がる黒煙を見つめていると裕也達が俺に話し掛けて来る。
『龍、どうするんだ?西住達を相手にするのか?』
「そうだな……」
みほ達を相手にするか……、ハッキリ言って決め難いものがある。
だって相手は”天下の西住流”の師範の娘のみほだ、強力な敵である事は間違いない。
正直に言って勝てる可能性は低い……、”完全に0”って訳じゃないんだけどさ……。
でも、正直勝てるとは思わないんだよなぁー……。
そんな考えが脳内を過ぎる中、俺が決断を出さないことに痺れを切らした玄田が怒り交じりにこう言い放ってくる。
『龍!!迷っている暇があるなら、さっさとやっつけちまおうぜ!!』
『そうそう、どうせバトルロワイヤル制なんだしさ!!』
「ふむ……」
玄田に続くように言い放った葵の言葉を聴いて、俺は思わず考え込んでしまう。
確かに葵の言う様にバトルロワイヤル制だし、どの道にしても戦わないといけないからな……。
ここは覚悟と腹を決め、いっそ派手にみほと撃ち合うか……。よし、そうしよう!!
そう覚悟を決めた俺は裕也達に向けて、こう指示を飛ばす。
「今から、みほ達の相手をする!!全員、戦闘用意だ!!木場、3時の方向に向け、戦車前進!!」
『『『『了解!!』』』』
そう俺が威勢よく言い放つと裕也達は戦闘態勢を整えながら、みほが居るであろう3時の方向に向けて5式を向かわせるのだった。
…
……
………
<龍Side>
そんな感じで俺達が5式を走らせている一方で、当の4号に乗るみほ達は途中で拾った(?)麻子と共に自身達が撃破した89式、38t、3突の3両を見つめていた。
「ふぅ……」
「流石です、西住殿!!3両も戦車を撃破ですよぉー!!」
「あはは……」
そう一仕事を終えた様に一息を付くみほの隣では、興奮した様子の秋山がみほを褒め称え、抱きついてくる。
この余りのベッタリぶりに当のみほ本人も少なからず困った様な笑顔で抱きついてくる秋山の頭を撫でるしか出来ない様だ。
「はいはい……、落ち着いて……」
そんな秋山とみほの様子を見て、佐織がみほから引き離す様な形で秋山を掴む。
その表情は「全くもー」と言わんばかりの表情ながらも、満面の笑みである。
だが、みほ達がそんな事が出来るのも一瞬だけ。
4号の操縦主席から顔を出して様子を外の確認していた麻子が冷静な声で淡々とみほ達に報告する。
「盛り上がっている所を悪いが、新しい敵だ」
「えっ?麻子さん、それはどういう事ですか?」
麻子の言葉に驚き問い掛ける華に対し、麻子が「あれ」と言いながら指を指した方向を華が見つめる。
すると、そこには土煙と共にみほ達の4号に向かって前進してくる龍達の5式の姿があった。
「あ、あれは……」
「西住さんの幼馴染の乗る戦車だな」
麻子の示した方向を見て5式に気付いた華に対し、麻子がそう言い放つのを聞いたみほは他の4人に聞こえないような小さな声で「龍君……」と一言呟いた後、一回息を吐くなり続け様にこう言い放つ。
「今から迎撃します!!全員、準備して!!」
「「「「了解!!」」」」
みほの出したこの指示に対し、沙織達はすばやく戦闘態勢を再び整える。
その一方で当の俺達は敵戦車2両撃破と言う事実から来る”謎のハイテンション”で、前進していた。
「見えた、4号だ!!」
『よっしゃ!!仕留めてやるぜ!!』
キューポラの覗き窓越しに4号戦車を確認し、そう裕也達に報告すると葵がハイテンションでそう返してきた。
っていうか……、何度も言いますけど……、何だろう……、この謎テンション?
強いて近いものを上げるなら”深夜の残業でヤケクソ状態になった際のテンション”?
いや、今はそれ所じゃないな……。
この5式の車内に流れる謎めいた空気に対し、無駄な憶測を脳内で交わしていたが、直ぐに取りやめると俺は覗き窓を確認する。
すると、そこには俺達と同様に自分達を補足して砲塔を俺達に向けながら前進する4号であった。
っていうか、気付かれているのか……、不味い……、先手も取られたも同然だな……。
そう思いながら、5式に向けられる4号の主砲を見ながら俺は頭をフル回転させて作戦を考える。
……とりあえず回避するのが先だな!!それもみほ達が狙いを定めるよりも早く!!
ゆっくりと向けられる4号の主砲を見て、そう確信した俺は木場に向けて大声で指示を飛ばす。
「木場、回避行動だ!!2時の方向に前進!!」
『了解!!』
そう俺の指示に対し、木場が答える様に操縦桿を倒して少し荒々しくながらも、5式の進行方向を変更する。
その進行方向が変わる感覚を体全体で感じながら、俺は次なる指示を裕也と葵に飛ばす。
「裕也、葵、砲撃用意!!」
『『了解っ!!』』
この指示に間髪居れずに裕也と葵が揃って照準機を除き込み、何時でも砲撃できるように体制を整える。
その様子を見ながら、俺は覗き窓を覗きこんで砲撃のタイミングを伺う。
今すぐにでも撃ちたい所だが……、今じゃない、今撃った所で有効弾は喰らわせられないんだ……っ!!
そう強く胸の内で思いながら、覗き窓を覗き込んで攻撃のタイミングを伺う俺の目の前で次の瞬間、みほ達の4号が”脇腹”が視界に飛び込んでくるのが見えた。
戦車における装甲の厚さが後部に次いで2番目に薄い脇腹は敵戦車を撃破する”最大のチャンス”とも言える、これを逃すわけにはいかない!!
「木場、戦車停止!!それと車体正面を12時方向に向けるんだ、急げ!!」
『了解!!』
そう俺の出した指示に答えるように木場はブレーキを踏み込み、5式を荒々しく停車させると操縦桿を倒し、5式の車体を12時方向に向けて移動させていく。
え?何で「わざわざ、車体正面を向けるのか?」って?
さっきも言ったように戦車の装甲は薄い順に後部、両脇腹、正面となっている訳だ。
つまり正面装甲が一番厚い、だから撃ち合うんだったら正面装甲を向けるのが戦車戦の基本なんだよ!!
胸の内でそう思っている間に5式は木場の操縦によって、正面装甲を4号に向けていた。
よし……、これで行けるな……!!
正面に向けられた車体正面とみほの4号が一直線上にある事を感じつつ、俺は軽く息を吸うと大声で叫ぶ。
「撃てぇーっ!!」
この俺の叫びと共に裕也と葵はラムとM3に対して、行った様に発射機のトリガーを引いて砲声と共に砲弾を放つ。
そうして放たれた砲弾はみほ達の4号を一直線に目掛けて飛んで行き、撃破する……、はずだった……。
そんな俺達の予想を裏切るように聞こえてきたのは爆音では無く「ガキィン!!ガキィン!!」と言う鈍い金属音だ。
『『『『!?!?』』』』
「っ!?」
この俺以外は聞きなれない金属音に裕也、玄田、木場、葵の4人が車内で顔を見合わせる側で俺は慌ててキューポラの覗き窓を覗きこむ。
つーか、今の音って|兆弾《ちょうだん》の音だよな!?
つまりは弾かれたって事になるわけだが、どう言う事だ!?
距離、威力は共に4号を撃破するのに問題無かったよな!?
そんな考えが脳内を駆け巡る中、覗き窓から見えたのは”車体をとっさに斜めにして俺達の砲弾を弾いた4号の姿”であった。
ちっ……、車体を斜めにして敵弾の弾きを良くするとは……、流石は西住流の師範の娘と言った所だな!!みほ!!
俺達の砲弾を弾いた4号を見て、そんな考えが頭の中を駆け巡る。
え?「何で車体を斜めにしたら敵弾の弾きが良くなるの?」ってか?
簡単に説明するとだな”厚さ5cmの装甲を垂直にしたら、そのままの装甲厚は5cmになるけど、装甲を斜めにする事によって約7cmの厚さの装甲と同様の厚さになる”って仕組みなんだよ。
これは第二次世界大戦並びに冷戦初期・中期では一般的だったが、今では砲弾の改良等によって意味を成さなくなったから廃止されているけどな。
まぁ、詳しい事は軍事関連の書籍かネットで調べてくれ。
んで、それは良いとして状況はどうなってやがる!?
そう思いながら覗き窓を三度覗きこんだ俺の視界には、ゆっくりとながらもこちらに向けて正面装甲を向ける4号の姿があった。
ちっ、みほ達も反撃の態勢を整えたな!!ココは一度後退するのが賢い選択だな!!
4号の動きを見て、そう確信した俺は大声で木場に指示を飛ばす。
「木場、戦車後退!!狙われてるぞ、急げ!!」
『りょ、了解っ!!』
この俺の指示に木場が緊張感に満ちた顔で慌てて、ギアをバックに入れて5式を後退させる。
だが、それよりも先にみほの4号の方が先に砲弾を放つのが早かった。
そして……、キューポラの覗き窓越しにみほの乗る4号の主砲が光ったと思った矢先には5式に凄まじい衝撃が走った。
「っ!!」
『うおっ!?』
『ぐおおぉっ!!』
『うわっ!?』
『さらだっ!?』
この衝撃に俺や裕也達が叫ぶと同時に一直線に後退していた5式はグルン!!と荒々しく回転し、最終的には地面を激しくえぐりながら停止する。
クソッタレ!!どうやら履帯を吹き飛ばされたみたいだ!!
激しく回転する感覚からそう思ったのも一瞬、次の瞬間には間髪を入れずに再び4号の砲声が鳴り響く。
それから数秒も経たない内に5式は「ドガァァァン!!」と言う爆音と共に再び激しく揺さぶられる。
どうやら、俺達は撃破されたみたいだな……。
この衝撃から俺がそう予想した次の瞬間には、その予想を肯定するようにシュパッ!!と言う音と共に5式の砲塔上部に白旗が掲げられる。
これと入れ替わるようにして、無線機から蝶野教官の声が聞こえてくる。
『Bチーム 89式、Cチーム 3突、Dチーム M3、Eチーム 38t、Fチーム 5式、Dチーム ラム。いずれも行動不能……、よってAチーム 4号の勝利!!』
この無線連絡が示す事はただ一つ……、みほ達がこのバトルロワイヤルの勝者になったと言う事だ。
「ふぅ……、負けたのか……」
この蝶野教官の無線連絡を聞いて、俺はそう呟きながら戦車長席に持たれる。
何故だかは知らないが……、ここに来て疲れがどっと出て来たなぁー……。
そう体全体に纏わり付く疲れを感じながら、溜め息を付く側で玄田が不満げな表情で俺に向けてこう言い放ってくる。
『おい、敗けたじゃねぇかよ!!』
『そう切れたって仕方ないだろ……、西住さんはプロだよ……、相手が悪い……』
木場の言う通りだ流石はみほが指揮するチームと言った所だな……、勝者になってもおかしくは無いな……。
そう玄田を宥める木場の言葉を聞きつつ、俺はキューポラを開けてみほ達の様子を確認する。
すると、そこには秋山、沙織、華、何処で合流したのかは知らないが今朝あった麻子と共に喜び合うみほの姿あった。
「……大洗での初勝利、おめでとう。みほ……」
俺は5式のキューポラから上半身を出した状態で、仲間と共に勝利を喜び合うみほを見て、そう呟く。
こうして、大洗学園における”余りにも劇的”な戦車道の授業初日は過ぎていくのであった……。
…
……
………
<巽Side>
「五式中戦車か。……珍しいな。後は、Ⅳ号戦車D型、M3リー中戦車、38(t)B/C型、八九式中戦車乙型、3号突撃砲F型、ラム巡航戦車か……」
俺は、練習試合が終わった直後の戦車倉庫近くの茂みで倉庫の前にあちこちから探しかき集められた戦車を払い下げの軍用双眼鏡で覗きながらつぶやいた。
まさか、旧日本軍最後の戦車である五式中戦車が出てくるとは思っていなかった。よくて四式中戦車ぐらいまでだろうと予想していた。
「でも、我々6人乗るのに1台~2台足りないですね・・・・・・」
同じく払い下げの軍用双眼鏡で見ていた反田が口を開いた。
確かに、戦車は7台ほどあるが、もう乗員の割り当ては決まっている。
今、俺達が参加したところで迷惑になるのは目に見えて分かっている。
しかし、学園艦のどこかを探せばでてくる可能性は高いが、一体どこにあるのやら。
歴女達の乗る三突なんか沼の中から出てきたという有様だ。
で、俺と反田の二名は何をしているかというと、どんな戦車が見つかったのか少し気になって偵察という名の観察をしていた。
まあ、この様子なら大丈夫だろう。
「しかし、自動車部も4人しかいないのに、たった一晩で修理するなんてたいしたもんだ。榊原のおやっさんが見たら、ベタほめ間違いなしだ。」
わずか4人しかいない自動車部なのに、よく7台も稼働状態に持っていけるとは本当に勲章ものだ。本当にいい腕をしている。
榊原のおやっさん(おやじさん)というのは、俺の下宿の近くのお隣さんで放出品なのか整備工場なのか分からない店を営業をしており、人数はそれほど多くないが、そこで働く従業員達も多国籍で、国際色豊かである。
ありとあらゆる”面”でだが。どう見ても昔、”軍関係””諜報関係”に所属していたのではないかと思われる人間がいる。時折、日雇いのバイトをしているが結構バイト料が良かったりする。
「そういえば、”例の事”は、榊原さん達にも話したんですか?」
双眼鏡に目をやりながら、反田が聞いてきた。”例の事”とは、大洗学園の廃校危機と、俺達が戦車道に参加するかもしれないことの二つだ。
この前の夜、そのことを榊原の親父さんと”もう一人”のお隣さんに話した。おやっさんは、話を聞くや二つ返事で協力に同意してくれた。
あと…・・・もう一人のドイツからやって来たお隣さんは、「ありとあらゆる方面」で「スポンサー」になると言ってくれた。結構、やる気満々だったのは覚えている。
そのお隣さんに関しては、後で説明しようと思う。
「まあいい。それで、室戸達からの報告は?」
一旦話を切り上げ、双眼鏡から目を離し別の話題に移した。
「はい、どうやら数日前に生徒会と文科省の学園艦教育局の担当官と会合があったのは確かです。どんな話し合いが行われたかはまだ不明で調査中です。後、達の悪いことに、他校でウチが廃校になるという話があちこちで流れているみたいです」
「胸糞悪い話だな。だが、それが事実ならしょうがない。まったく・・・・・・他には?」
まだほんの数日しか立ってないのに、よく集めたもんだ。
しかし、一体どうやって集めてんだ?さすがに恐ろしくて聞けない。
そんな、俺の思考をよそに、双眼鏡には、皆嬉しそうに笑顔で戦車に取り付いている生徒達がいた。
「室戸が、あの”ドイツのお隣さん”の協力を得て、調査を続行するとの事です。本当に、大丈夫ですかね?どんな手を使ってるのやら・・」
本当に頼りになる幼馴染とお隣さんだ……というか普通ない!TVドラマ、アニメや漫画などで、主人公の自宅の隣に仲の良い女子(男子)の幼馴染がいて、後々になって両想いになるというあり得ない設定と同じくらい。
「まあ、”餅は餅屋”だ。任せるしか他はない」
そう言って俺は、再び双眼鏡に目をやった。
すると、Ⅳ号戦車の近くにモジャ毛の女子がはしゃいでいるのが見えた。
確か、秋山優香里って娘で……女子にしては珍しく度が付く戦車オタクだったはず。
犬耳と尻尾つけたら絶対に似合いそうだ。絶対に。何故かそう思った。
そんな様子に気付いたのか、反田が同じように俺が見ている方向を見る。
「あの戦車オタクの秋山優香里も参加するみたいですね?彼女も戦車に興味深々でしたから・・・・・・楽しそうですね」
「そうだな…裏の事情を知ったらどんな顔をするやら」
どのメンバーの顔を見たが、皆楽しそうな顔をしていた。なぜか、M3リーの搭乗員らしき一年の女子は、ポケ~ッと空を眺めていたが(後に1年の丸山沙希だと分かった)。
「結果がどうなるにせよ・・・・・・あがくだけあがく。今の俺達にはそれしかできない。辛いもんだな、反田。」
「そうですね。そういえば・・・・・・親の方には戦車道に参加する事は、連絡はしたんですんか?こっちは、今日の夜にでも電話して伝えてみるつもりですが」
ふと思い出したように口にする反田。
「しても無駄だ。教えて一体何になる?」
俺の家族は、父親はおらず母親しかいない。父親の顔は覚えていないというか見た事もない。後は、母方の祖父母・・。それも本当なのかどうか分からないが。ちなみに母親の職業は、自衛官。それも戦車の天敵である対戦車ヘリ部隊に居る。
「そうですか・・・・・・では、今日はここまでで・・・・・・?」
「そうだな」
こうして、俺達二人は別れ帰路についた。
そして、下校後の帰り道に、サンクスに寄った後、俺は、榊原のおやっさんが経営してる整備工場なのか放出品専門店なのかミリタリーショップなのか分からない店だった。
本当に、ここは何の店なんだろうか?
レジ番をしているグラサンをかけたジェイクさんに挨拶して、店を見回す。店は、結構広く「せんしゃ倶楽部」より少し大きい程度だが品数も多い。
中には一般では流通していない物も扱っている。何でもおやっさんの”独自ルート”で仕入れているらしい。
おかげで中々手に入らないレアものを手に入れることが出来る。
自分が持っているグッズも大抵ここでそろえている。中には、ただでもらったものもある。
なので、この店はマニアにとっての隠れ名所でもある。寄港したら県外からの客が来たりもする。
だが、この店の万引きしようもなら行方知れずになると噂もされている。
「よお、シロー。学校帰りか?」
商品を陳列していたスミスさんが、声をかけてきた。
この人は、元アメリカ軍の軍人だったのだがとある事情で辞めたのだが、偶然、アメリカに商品の仕入れに来ていたおやっさんと出会って意気投合。
日本に渡りこの学園艦にある店で働くことになったのだという。
時々、俺はこの人から軍隊格闘とか体験話などを教えて貰ったりしている。
連休には、アメリカに渡って射撃のコーチをしてもらったこともある。ここら辺のいきさつは秘密という事で・・・・・・
「ええ、おやっさんに用があって。今、おやっさんはどこに?」
「確か整備場にいたぞ。払い下げのハンヴィーの整備をしてたはずだ」
俺は、スミスさんに礼を言うと隣にある整備工場へと向かった。
整備場へ入ると、機械で部品を削る音、溶接の音、掛け声が耳に入り、焼けた鉄のにおいが辺りに充満していた。
目的の人物おやっさんは、すぐに見つかった。
「おう、志郎じゃねえか。学校帰りか?」
整備帽にサングラスをかけた初老の男性。この人が俺の事を孫か息子のように可愛がってくれてる”榊原のおやっさん”だ。
何でも、昔、自衛隊だか米軍関係だかで働いたのち、海外などでミリタリー関係の仕事を行っていたとの事・・・・・・内容からするにヤバいことだったのではないかと思う。
おやっさんに言ったら「グレーゾーンだから大丈夫よ!」と言った。本当に大丈夫なんだろうか・・・・・・
「おやっさん。昨日の話の事なんだが…・・・」
「大丈夫、任せておけ!どんな戦車でも部品でも手に入れてやる。おめえは、気にすんな!」
やれやれ、この人にだけは本当にかなわない。こちらが考えてる事もすべてお見通しだ。
「あと、戦車の操縦のことで……」
「ああ!!戦車ならトラクターと同じレバー操作だから大丈夫だ。おめえも田舎で、トラクター運転したり、海外でハンニバルに教えてもらってるなら問題ないだろよ。もし、心配なら資材運搬や牽引に使ってるやつだが、昔警視庁が装甲車代わりに使ってた一式中戦車(砲塔なし)で練習させてやる」
一体どこでそんなレアものをてにいれたのやら知るのが怖かった。
そして、軽くうち合わせをしたあと自宅へと戻り、”もう一人のお隣さん”と食べる晩飯を作るのだった。
それから二時間後……
俺は、ドイツ料理の一つ?ジャガイモとベーコンたっぷりで塩辛いポトフを作り、”ドイツからやって来たお隣さん”の家を訪ねた。
家は、どこにでもある一軒家だが、そこの家の主はかなりの金持ちだ……なんでも会社をいくつか経営しているらしいがそれ以上の事は教えてくれなかった。
しかし、なぜドイツからわざわざここへ?と思うかもしれない。それには、理由があった。それは……
「どうも、巽です」
俺は、鍋をそばに置きインターホンを押す。すると、すぐにドアを開けて外に出てきたのは……顔がアドルフ・ヒットラーそっくりの「ヒルターさん」だ。
そう、わざわざ逃げるようにドイツを飛び出してきた理由は”顔”だった。
ドイツでは、ナチスやヒトラーはタブーだ。顔のせいで、ろくな目に合わなかったらしい。
「おお、来てくれたか。待ってたよ!さあ、中へ」
こうして、家の中へ案内された俺は、二人で温めなおした塩辛いポトフに舌鼓をうつしながら会話を行った。
「今回は、本当にありがとうございます。ヒルターさん」
「とんでもない!君には、どれだかお世話になったか……ここで恩を返さねばドイツ人としての誇りが!……うう……」
男泣きしながら俺に感謝するヒルターさん。この学園艦に来たとき、色々と困ってるところを俺が見かねて助けてあげたのがきっかけで、知り合いになった。時々、相談に乗ったり、乗ってもらったり……という関係だ。
連休の時に、ハンニバルさん達と一緒にタダで海外旅行に連れて行ってもらったりすることもあったりする。
「大洗の戦車道のスポンサーの件は、前にも言ったが私に任せてくれ。こっそりと支援させてもらうよ。あと、室戸君たちのお手伝いもね……」
と、胸張って宣言してくれた。本当にありがたい。多額の寄付金に顔を呆然と焦る生徒会三人の顔が見ものだ。まあ、ないよりはましだ。
戦車の維持費には、莫大な金がかかるからな。
「話しは変わるが、生徒会の3人はどんな子達かね」
「生徒会長は、策士で腹黒でツルペタ。副会長は、おっとりの巨乳美人。生徒会補佐は、吊り片眼鏡の美人で巨乳……だけどポンコツっぽいですね」
”巨乳”という言葉にヒルターさんは、素早く反応する。
「ほ、本当かね!?巽君!?」
スケベそうな顔で聞いてくるヒルターさん。実は、この人かなりの巨乳好きだったりする。
「ええ、生徒会以外にも戦車道に参加した女子の何人かは巨乳ですよ」
再び嬉しそうな顔をするヒルターさん。いい人ではあるのだが、ドスケベなのがたまに傷だ。
こうして、ヒルターさんと今後の事を話し合いながらの食事をし終えた後、俺は、自分の家へと戻る道すがら夜空を軽く見上げた。
「カマかけてみるか……」
そして、次の日、俺は生徒会室の扉に背を持たれて待っていた。
「そこの男子生徒。何をしている!」
片メガネをかけた生徒会役員が、書類を持ちながらこちらへとやって来る。確か、広報の河嶋という人だったな。
「桃ちゃん。落ち着いて……えーと、生徒会に何か用があるの?」
たゆんたゆんとゆれる胸を持つ……確か副会長の小山って人だったな。本当に胸がでかいな。
河嶋って役員の人もでかいが、小山副会長の胸はさらにでかい。
「おや、なーんかよう?」
次にやって来たのは、胸囲の格差社会を体現するような、ツルペタ体型で二人よりもチッコイ生徒会長である。角谷っていう名前だったな。いつも、干し芋ばっか食ってないのか?
三人そろうのを確認すると、俺は三人へとゆっくりと歩を進めた。
そして、副会長と広報の2人に挟まれている生徒会長に目を向ける。しかし、見ていると、「胸囲の格差社会」、「いともたやすく行われるえげつない行為」にしか見えなくて、不思議でしょうがなかった。
「おはようございます。生徒会の皆さん。この前の文科省の学園艦教育局との会合ご苦労様です」
「「「!!!」」」
ここで、思いっきってカマをかけてみたところ、三人の表情が厳しいものへと変わった。やはり・・悪い予感は当たりそうだなと感じた。
「な……何の事だ!?貴様。一体どうして、そのことを知っている!?」
広報の川嶋さんが、慌てた口調で叫ぶ。
「どうして、それを!?」
あのおっとりした副会長も慌てている。
「………………」
生徒会長だけが、無言で俺をジーっと見つめてきた。俺はそれを無視して話を続けた。
「何でも文科省主導で学園艦の統廃合の動きがあるとか。他校でもあちこちでこの学園艦に関する”達の悪い噂”が流れてるみたいで…それも、”廃校”という」
生徒会長を初め二人は、黙ったままだった。
河嶋さんは、辛そうに唇を噛みしめながら俯き、副会長の小山さんは、悲しそうな表情をしていた。しかし、会長は面白そうな表情を浮かべていた。
「ここからは、俺の独り言です」
ここでいったん区切り、生徒会長の方を見つめた。
「俺は、黙ってこの学園を文科省の連中の言う通りに”達の悪い噂”通りされるわけにはいきません……あがくだけあがくつもりです。ありとあらゆるどんな”手”を使ってでも・・ね」
「「「……」」」
三人は、ジーっと俺の事を見てきた。
「俺、結構ここを気に入っているんです。この学校と学園艦を」
そう言うと、俺は軽く息をついた。陸もいいが、海で過ごすのもいい。
「おまえ……」
「あなたは……一体」
川嶋先輩や小山先輩が、驚いたように口を開いた。生徒会長は、黙ったままだが、ニヤリと笑みを浮かべているだけだった。
「近いうち、”いい事”がありますよ。この大洗戦車道にとって……では失礼します。後、無理に問題を自分達だけで背負い込まないように」
生徒会が、周りに要らぬ心配をかけまいと自分達を”悪者”に徹した事を俺は察していた。だが・・背負い込みすぎるのはよくない。
そう言って、生徒会三人衆に自分の連絡先のメモを渡し、背を向け去ろうとした時、生徒会長から声をかけられた。
「君の名前は?」
「巽志郎。ただのミリタリー研究会の部長ですよ……戦車好きの」
と、俺はニヤリと笑った。
「へえ~。じゃあ、待ってるわよ」
そう言って会長はニコリと笑った。
いきなり襲ってきた衝撃の原因である野球部のラム巡航戦車を見ながら、俺は思わず唾をごくりと飲み込んだ。
そりゃそうだ、自分達の乗る5式から僅か15メートルと言う近距離に居るのだから。
っいうか、|お前ら《野球部》……、蝶野教官が言っていたポイント間違ってないか?
地図だと俺らより、左後方に約60メートルぐらい距離あったような気がるんだけど?
っていうか、何だ?野球部の連中は俺に恨みであるのか?
さっきも教官が来るまでの間にキャッチボールしていたけど、”5回程、俺の頭にデッドボール”食らわしてなかったか?
5式に向けられたラムの主砲を見ながら、そんな考えを胸の内で巡らせていると再びラムの主砲が凄まじい砲声と共に砲弾を放つ。
「うぉっ!?」
その光景を見た瞬間、俺は思わずそう叫びながらキューポラの中に頭を引っ込める。
瞬間、凄まじい6ポンド砲の着弾による凄まじい衝撃が5式と俺達を襲う。
『ぐわっ!?』、『うぉっ!?』、『わっ!?』、『でちょっ!?』
「くっ!!」
その衝撃に慣れない裕也達が困惑しながら、必死に5式の車内に捕まる側で俺はキューポラを閉じながら、戦車長として裕也達に戦闘指示を出す。
「木場、戦車前進だ!!1時の方向、俺が次の指示を出すまで、走らせろ!!」
『えっ!?』
「いいから、前進しろ!!」
『わ……、分かった!!』
俺の出した指示に木場は困惑を隠しきれない様子ながらも、アクセルを思いっきり踏み込んで5式を急発進させる。
その際の反動で俺は激しく揺さぶられながらも、必死にキューポラの覗き窓を掴んで堪える。
っていうか、久々に乗るけど戦車ってこんなに揺れるものだったか?
そんな考えが胸のうちを過ぎったのもほんの一瞬。
再び5式の後方に居るラムが威勢よく砲撃を加え、5式を三度激しく揺らす。
「ぐっ!!」
同じ様にキューポラの覗き窓を掴んで堪えていると、痺れを切らした玄田が怒鳴り散らしながら問い掛けてくる。
『龍、反撃しないのかよ!?このまま|嬲り殺し《なぶりごろし》にされるつもりか!?』
「うっさい!!黙れ!!」
玄田に対し、俺も怒鳴り散らして黙らせる。
そりゃ玄田が怒鳴りたくなる気持ちも分からんことは無いよ、だけど今反撃したところで返り討ちにあうだけなんだよ!!
胸の内でそう呟きながら、俺は裕也と葵、玄田の3人に向けて次なる指示を出す。
「裕也、葵、砲のセーフティーを解除!!戦闘用意!!玄田は砲弾ラックから砲弾を取り出せ!!マニュアルどおりにやれ!!」
『『『りょ、了解!!』』』
俺の指示に裕也と葵、玄田の3人は少しもたつく手つきながらも、前日に読んだマニュアル通りに安全装置の解除、次弾を砲弾ラックから取り出して戦闘態勢を整える。
「ふぅ……」
その様子を見ながら、俺はこれから始まる戦車戦を思い描きながら息を吐くのであった。
そんな俺とは打って変わって、俺達を攻撃していたラム巡航戦車の中でクルーの牧達はこう言葉を交わす。
「今のは凄いストレートだったな……」
『あぁ、優に100キロ以上は出ていたな……』
戦車長を務める牧と砲手を務める風間の二人が唖然とした様子で初砲撃の感想を交わす側で、興奮した様子の本城がこう言い放つ。
『うほほほ……、牧、ありゃ試合で投げたら”三振王”は確実だぜ!!』
『いや……、三振王以前に取る身にもなれ……、下手したら死ぬぞ……』
そう想像を爆発させるかのように言い放つ本城とは打って変わり、ピッチャーの倉本がピッチャーと言う己の立場からか、本城の言った事に対して素で反論を述べる。
そんな4人に対し、北条が操縦主席の覗き窓から外の様子を伺いながら問い掛ける。
『あのさぁ……、5式が逃げるんだけど……、追うか?』
『『『『当たり前だろ!!』』』』
『やっぱりねぇー!!』
そう呟きながら、北条はラムのアクセルを踏み込んでラムを前進させ5式を追撃するべく前進させる。
その様子を影で見ていたM3リーに乗る一年生の澤達も車内でこう言葉を交わす。
「ねぇ、牧先輩達、行っちゃったよ?」
『とりあえず付いて行く?』
『そうしよう、そうしよう!!』
そう澤、山郷、宇津木達もM3リーの車内で言葉を交わすとラムの後に次いで、5式を追いかけるのだった……。
…
……
………
<龍Side>
そんな感じで移動する事、約10分ほど経った頃。
俺は激しく揺れる5式の車内で外の様子を確認するべくキューポラの覗き窓を覗きこむと、俺の視界には一段と開けた草原の景色が飛び込んでくる。
よし……、周辺をくまなく見渡す事の出来るココなら有効な反撃が出来るな……。
それでは反撃開始としゃれ込むか!!
胸の内でそう思った俺は一回息を吸うと木場に向けて、大声で指示を出す。
「木場、戦車停止!!同時に戦車旋回、6時の方向!!」
『えっ、えっ!?』
「急げ!!」
突然の俺の指示に困惑する木場に対し、俺はそう尻を叩くように言い放つと木場は困惑を隠しきれない様子ながらも『了解!!』と言いながら、ブレーキを踏み込み停止させる。
それと同時に5式の右履帯レバーを倒し、右履帯を固定するなり、再びアクセルを踏み込む。
瞬間、5式は『ギャリ、ギャリ、ギャリッ!!』と言う金属音と共に草原を抉りながら”新地旋回”していく。
『うぉっ!?』
『何だ、何だ!?』
『な、何これ!?』
『おひょ、おひょ、おひょーっ!?』
始めて体験する新地旋回の感覚に裕也達が”各々の感想(?)”を述べる。
まぁ、確かに新地旋回する車両って戦車以外ではブルドーザーとかパワーショベルとか普段の生活で乗らないような特殊車両ばっかりだしな……、そりゃ多少なりとも困惑するよな……。
っていうか、今はそんな事を艦が手居る場合じゃなかった!!
裕也達の反応を聞いて、そんな考えが一瞬だけ俺の胸の内を過ぎるが直ぐに振り払って次なる指示を出す。
「裕也、安全装置解除!!」
『わ、分かった!!』
そう俺の出した指示に対して、裕也が慣れない手つきながらも前日に読んだマニュアル通りに主砲の安全装置に手を掛け、安全装置を解除する。
その間にも俺達を狙う野球部のラムが6ポンド砲の砲声を上げつつ、5式に向けて6ポンド砲弾を撃ち込み、着弾の衝撃で俺達を激しく揺さぶる。
『うおっ!!』
『ぎゃっ!?』
『うわっ!!』
『むひょーっ!?』
この衝撃に裕也、玄田、木場、葵の4人が思わず身構えるを見て俺は”戦場に配備され、初めての実戦に怯える新兵を指揮する軍の小隊長”の様に怒鳴り散らす。
「全員、怯むな!!怯んだら、やられるぞ!!」
『『『『りょ、了解!!』』』』
この俺の激に裕也、玄田、木場、葵の4人はそれに答えるかの様に再び戦闘態勢を体制を整える。
その様子を見ながら、俺は次なる指示を玄田と葵に飛ばす。
「葵、37ミリ砲弾装填!!玄田は砲弾装填!!」
『お、おうっ!!』
『分かった!!』
二人はこの指示を聞くなり、間髪入れる事無く作業に取り掛かる。
まず玄田は砲弾ラックより戦車の装甲を貫く砲弾である”徹甲弾”を取り出し、5式の最大の特徴とも言える”自動装填装置”の上に置く。
それと同時に玄田は素早く側に置かれた装填ボタンを押し込み、自動装填装置を起動させる。
すると、起動した自動装填装置は「ウィーン!!」と言う機械音と共に徹甲弾を主砲に装填していく。
いやぁー……、敗戦寸前だった戦時中の日本が当時としてはココまでハイテクな戦車を作っていたのかー……。
資源さえあれば実戦に投入&少なからず活躍したんだろうな……、本当に『戦いは数だよ、兄貴!!』とは良くぞ言ったものだな……。
いやいや、それはどうでも良いから葵はどうなっている!?
5式の自動装填装置を見て思わず感慨につかるが、俺は直ぐに思考を切り替えて葵に顔を向ける。
すると当の本人は裕也や玄田、木場とは違って、手馴れた様にテキパキと37ミリ砲弾を砲弾ラックより取り出し、37ミリ副砲の砲尾を開けて、慣れた手つきで装填する……。
この天才肌が。
何故か知らないが、そんな考えが一瞬胸のうちを過ぎった。何でだろう?
まぁ、それは良いとして戦闘態勢は整ったな……。
裕也達の様子を見て俺が胸の内でそう思うと同時に各自準備を整えた裕也達が報告してくる。
『龍、主砲の装填完了だ!!』
『同じく副砲の準備よし!!』
「よし……」
準備は完了……、あとはやるだけだ……。
そう胸の内で覚悟を決めた俺は一回息を吸うと大声で指示を出す。
「全員、戦闘開始だ!!」
『『『『了解!!』』』』
そう俺が戦闘開示の合図を大声で叫ぶと、それに続くように裕也達も大声で復唱する。
それを聞きながら、俺は間髪入れる事無く次なる指示を飛ばす。
「裕也、葵、照準を定めろ!!目標、正面1時のラム巡航戦車!!」
『分かった!!』
『OK!!』
そう言って裕也は主砲旋回レバーを操作し、ゆっくりと主砲をラムに向ける。
同時に葵も裕也の後に続くように照準機を覗き込んで副砲の照準をラムへと定めていく。
その照準が向けられているラムの中では、クルーの牧達が自身達が狙われている事に慌てふためいている。
『お、おい!!5式がこっち向いたぞ!!』
『うわっ、こっち見んな!!』
主砲の照準機越しに風間が自身の戦車が狙われている事を叫ぶと、釣られる様に本城も慌てふためいた様子で車載機関銃の”M1919”のコッキングハンドルを引くなり、5式に向けてM1919のトリガーを引く。
その瞬間、「ズババババッ!!」と言う連続した銃声と共にM1919の銃口から30-06弾が勢い良く5式を目掛けて飛んで行く。
同時に5式に次々と着弾し、連続した金属音、火花と共に銃弾は5式の装甲の上を飛びまわる。
結構派手にやって来てるな、野球部の奴ら……。
だけどよ……、WW2後期の戦車は銃弾程度ではやられないんだよ!!
言って差し上げよう……、このド素人が!!
外から聞こえてくる銃弾の着弾音を聞きながら、思わずそんな考えが胸の内から沸いてくるのを感じていると裕也と葵の二人が俺に大声で報告してくる。
『龍、主砲の照準良し!!』
『同じく副砲、準備、照準共にOKだ!!』
「よし……」
反撃開始だ……、胸が熱いな……。
二人の報告を聞いてそんな感情を胸の内で抱きながら俺は一回息を吸う。
そして数秒程、目を閉じて体の中の全神経を集中させると俺は目を大きく見開き大声で叫ぶ。
「主砲、副砲、共に撃てぇーッ!!」
5式の車内で俺がそう大声で叫んだ瞬間、裕也と葵の二人は同時に砲のトリガーを引いた。
その瞬間、5式の車内に「ズドォォォーン!!」と言う2発の凄まじい砲声が鳴り響く。
同時に物凄い勢いで弾頭を発射した徹甲弾の金色の空薬莢が勢い良く砲尾より吐き出され、5式の車内に転がる。
それとは反対に2発の弾頭は勢い良く主砲から飛び出し、ラムを目掛けて飛んで行く。
そして……、2発の砲弾は「ドガァァァン!!」と言う衝撃音と共にラムに命中。
この命中弾を喰らったラムは真っ黒な煙とオレンジ色の爆縁に包まれる。
命中だ。
キューポラ越しに見えたこの光景に俺はそう確信する。
その確信が間違いではなかった事を証明するかの様に、煙と炎に包まれていたラムが再び俺の視界に入ると”撃破を示す白旗”がラムの砲塔頭上に掲げられていた。
よし……、やった……、やったぞ!!敵戦車撃破だ!!
胸の内から沸いてくる歓喜の感情を抑えながら、俺は裕也達に向けてこの事を報告する。
「命中並びに敵戦車の撃破を確認!!」
『『『『うおぉぉぉっ!!』』』』
この俺の報告に裕也、玄田、木場、葵の4人も歓喜に沸く。
そりゃそうだ、初めての砲撃で見事、敵戦車を撃破して見せたのだから歓喜しない訳が無い。
っていうか、逆に喜ばない人が珍しいんじゃないのかね?
まぁ、正直言って俺も裕也達の様に叫びたい気分だね。ヒィヤッホォーッ!!
そんな感情を胸の内で感じながら、撃破されたラムを見つめていた時だった。
ラムの近くの茂みが突如として、ガサゴソと不自然に揺れるのが視界に飛び込んで来る。
何だ別の戦車か?そうだとしたら……、ラムの近くに居た1年生達のM3の可能性があるな……。
そう思いながら、俺はラム撃破の熱が冷めないながらも次の戦闘指示を飛ばす。
「玄田、葵、別の戦車が居る!!次弾装填、急げ!!」
この俺の指示にラム撃破に沸く玄田、葵は一瞬驚き困惑が直ぐに『『了解!!』』と威勢良い返事を返すと次なる砲弾の再装填に取り掛かる。
いやぁー……、この様子を見ていると蝶野教官の”ぶっつけ本番で練習試合”と言うのも間違っては居ないんだな……。
……と言っても、親父の陸上自衛隊における”変人ぶり”を挽回する要素にはならないけどな!!
そう思いながら、キューポラの覗き窓から敵戦車が居ると思われる茂みを見つめていた丁度その時。
遂に茂みの中から、隠れていた敵戦車が正体を現す。
その敵戦車の正体は俺の予想して通りに一年生の澤達が登場するM3リーであった。
「来たぞ!!敵戦車1時の方向だ!!裕也、葵、照準を定めろ!!」
『『了解!!』』
M3リーを覗き窓越しに確認した俺はそう大声で叫び、裕也と葵に対して目標指示を出す。
この俺が出した指示に答える様に裕也と葵の二人は再び照準機を覗き込んで、M3に狙いを定めていく。
『やばいよ、やばいよ!!狙われているよ!!』
『逃げよ、逃げよ!!』
『そうしよう、そうしよう!!』
ラムに乗っていた牧達と同様に狙われている事に気付いた澤達が大慌てで逃げようとした時には、もう時既に遅し。
裕也と葵の二人は揃ってM3に主砲と副砲の照準を定めていたのだから。
『主砲、照準良し!!』
『副砲、同じく照準良し!!』
「撃てぇっ!!」
裕也と葵の報告を聞いた俺は間髪入れる事無く砲撃を指示、コレに答えるように裕也と葵は一気にトリガーを引く。
その瞬間、先程と同じ様に凄まじい爆音と共に主砲から勢い良く砲弾が放たれ、M3を目掛けて一直線に飛んで行き、最終的には轟音と共に命中し、撃破を示す白旗が上がるのであった。
「M3リーの撃破を確認!!」
『しゃあっ!!』
『よし!!』
このM3撃破の報告に裕也と葵が歓喜に沸く側では、木場と玄田の二人も笑顔で2つ目の戦果達成に沸いている。
うーん……、俺も沸こうかな?
裕也達を見て、そんな考えが沸いたのもほんの一瞬だけだ。
その理由は簡単だ。
ズドォォォーンッ!!
この様に俺達のいる場所から、そう遠くない場所から別の砲声が鳴り響いたからだ。
つーか……、この砲声は……、みほ達の4号戦車だよな……?
聞こえてきた砲声から、俺の脳内に保存された戦車の砲声を重ね合わせて、どの戦車か判断していると裕也が話し掛けて来る。
『龍、今の砲声は4号か?』
「可能性は高いな……、それも結構近くからだ……」
距離的に約5キロ以内の範囲から聞こえてきたような気もするし……。
裕也の問い掛けに対し、そう返しながら今の状況を分析していると操縦主席から顔を出した木場が何かに気付いたらしく、少し慌てた様子で俺に報告してくる。
『龍、3時の方向で黒煙が上がっているぞ!!』
「なんだって……!?」
この木場の報告を聞いた俺は慌てて、キューポラを開けて外の様子並びに木場の言っていた方向に顔を向ける。
すると、そこには確かに木場の報告通りに一筋の黒煙がもうもうと上がっている光景があった。
どうやら、みほ達の4号が敵戦車を撃破したと見て間違いないな……。
そう胸の内で思いながら、もうもうと上がる黒煙を見つめていると裕也達が俺に話し掛けて来る。
『龍、どうするんだ?西住達を相手にするのか?』
「そうだな……」
みほ達を相手にするか……、ハッキリ言って決め難いものがある。
だって相手は”天下の西住流”の師範の娘のみほだ、強力な敵である事は間違いない。
正直に言って勝てる可能性は低い……、”完全に0”って訳じゃないんだけどさ……。
でも、正直勝てるとは思わないんだよなぁー……。
そんな考えが脳内を過ぎる中、俺が決断を出さないことに痺れを切らした玄田が怒り交じりにこう言い放ってくる。
『龍!!迷っている暇があるなら、さっさとやっつけちまおうぜ!!』
『そうそう、どうせバトルロワイヤル制なんだしさ!!』
「ふむ……」
玄田に続くように言い放った葵の言葉を聴いて、俺は思わず考え込んでしまう。
確かに葵の言う様にバトルロワイヤル制だし、どの道にしても戦わないといけないからな……。
ここは覚悟と腹を決め、いっそ派手にみほと撃ち合うか……。よし、そうしよう!!
そう覚悟を決めた俺は裕也達に向けて、こう指示を飛ばす。
「今から、みほ達の相手をする!!全員、戦闘用意だ!!木場、3時の方向に向け、戦車前進!!」
『『『『了解!!』』』』
そう俺が威勢よく言い放つと裕也達は戦闘態勢を整えながら、みほが居るであろう3時の方向に向けて5式を向かわせるのだった。
…
……
………
<龍Side>
そんな感じで俺達が5式を走らせている一方で、当の4号に乗るみほ達は途中で拾った(?)麻子と共に自身達が撃破した89式、38t、3突の3両を見つめていた。
「ふぅ……」
「流石です、西住殿!!3両も戦車を撃破ですよぉー!!」
「あはは……」
そう一仕事を終えた様に一息を付くみほの隣では、興奮した様子の秋山がみほを褒め称え、抱きついてくる。
この余りのベッタリぶりに当のみほ本人も少なからず困った様な笑顔で抱きついてくる秋山の頭を撫でるしか出来ない様だ。
「はいはい……、落ち着いて……」
そんな秋山とみほの様子を見て、佐織がみほから引き離す様な形で秋山を掴む。
その表情は「全くもー」と言わんばかりの表情ながらも、満面の笑みである。
だが、みほ達がそんな事が出来るのも一瞬だけ。
4号の操縦主席から顔を出して様子を外の確認していた麻子が冷静な声で淡々とみほ達に報告する。
「盛り上がっている所を悪いが、新しい敵だ」
「えっ?麻子さん、それはどういう事ですか?」
麻子の言葉に驚き問い掛ける華に対し、麻子が「あれ」と言いながら指を指した方向を華が見つめる。
すると、そこには土煙と共にみほ達の4号に向かって前進してくる龍達の5式の姿があった。
「あ、あれは……」
「西住さんの幼馴染の乗る戦車だな」
麻子の示した方向を見て5式に気付いた華に対し、麻子がそう言い放つのを聞いたみほは他の4人に聞こえないような小さな声で「龍君……」と一言呟いた後、一回息を吐くなり続け様にこう言い放つ。
「今から迎撃します!!全員、準備して!!」
「「「「了解!!」」」」
みほの出したこの指示に対し、沙織達はすばやく戦闘態勢を再び整える。
その一方で当の俺達は敵戦車2両撃破と言う事実から来る”謎のハイテンション”で、前進していた。
「見えた、4号だ!!」
『よっしゃ!!仕留めてやるぜ!!』
キューポラの覗き窓越しに4号戦車を確認し、そう裕也達に報告すると葵がハイテンションでそう返してきた。
っていうか……、何度も言いますけど……、何だろう……、この謎テンション?
強いて近いものを上げるなら”深夜の残業でヤケクソ状態になった際のテンション”?
いや、今はそれ所じゃないな……。
この5式の車内に流れる謎めいた空気に対し、無駄な憶測を脳内で交わしていたが、直ぐに取りやめると俺は覗き窓を確認する。
すると、そこには俺達と同様に自分達を補足して砲塔を俺達に向けながら前進する4号であった。
っていうか、気付かれているのか……、不味い……、先手も取られたも同然だな……。
そう思いながら、5式に向けられる4号の主砲を見ながら俺は頭をフル回転させて作戦を考える。
……とりあえず回避するのが先だな!!それもみほ達が狙いを定めるよりも早く!!
ゆっくりと向けられる4号の主砲を見て、そう確信した俺は木場に向けて大声で指示を飛ばす。
「木場、回避行動だ!!2時の方向に前進!!」
『了解!!』
そう俺の指示に対し、木場が答える様に操縦桿を倒して少し荒々しくながらも、5式の進行方向を変更する。
その進行方向が変わる感覚を体全体で感じながら、俺は次なる指示を裕也と葵に飛ばす。
「裕也、葵、砲撃用意!!」
『『了解っ!!』』
この指示に間髪居れずに裕也と葵が揃って照準機を除き込み、何時でも砲撃できるように体制を整える。
その様子を見ながら、俺は覗き窓を覗きこんで砲撃のタイミングを伺う。
今すぐにでも撃ちたい所だが……、今じゃない、今撃った所で有効弾は喰らわせられないんだ……っ!!
そう強く胸の内で思いながら、覗き窓を覗き込んで攻撃のタイミングを伺う俺の目の前で次の瞬間、みほ達の4号が”脇腹”が視界に飛び込んでくるのが見えた。
戦車における装甲の厚さが後部に次いで2番目に薄い脇腹は敵戦車を撃破する”最大のチャンス”とも言える、これを逃すわけにはいかない!!
「木場、戦車停止!!それと車体正面を12時方向に向けるんだ、急げ!!」
『了解!!』
そう俺の出した指示に答えるように木場はブレーキを踏み込み、5式を荒々しく停車させると操縦桿を倒し、5式の車体を12時方向に向けて移動させていく。
え?何で「わざわざ、車体正面を向けるのか?」って?
さっきも言ったように戦車の装甲は薄い順に後部、両脇腹、正面となっている訳だ。
つまり正面装甲が一番厚い、だから撃ち合うんだったら正面装甲を向けるのが戦車戦の基本なんだよ!!
胸の内でそう思っている間に5式は木場の操縦によって、正面装甲を4号に向けていた。
よし……、これで行けるな……!!
正面に向けられた車体正面とみほの4号が一直線上にある事を感じつつ、俺は軽く息を吸うと大声で叫ぶ。
「撃てぇーっ!!」
この俺の叫びと共に裕也と葵はラムとM3に対して、行った様に発射機のトリガーを引いて砲声と共に砲弾を放つ。
そうして放たれた砲弾はみほ達の4号を一直線に目掛けて飛んで行き、撃破する……、はずだった……。
そんな俺達の予想を裏切るように聞こえてきたのは爆音では無く「ガキィン!!ガキィン!!」と言う鈍い金属音だ。
『『『『!?!?』』』』
「っ!?」
この俺以外は聞きなれない金属音に裕也、玄田、木場、葵の4人が車内で顔を見合わせる側で俺は慌ててキューポラの覗き窓を覗きこむ。
つーか、今の音って|兆弾《ちょうだん》の音だよな!?
つまりは弾かれたって事になるわけだが、どう言う事だ!?
距離、威力は共に4号を撃破するのに問題無かったよな!?
そんな考えが脳内を駆け巡る中、覗き窓から見えたのは”車体をとっさに斜めにして俺達の砲弾を弾いた4号の姿”であった。
ちっ……、車体を斜めにして敵弾の弾きを良くするとは……、流石は西住流の師範の娘と言った所だな!!みほ!!
俺達の砲弾を弾いた4号を見て、そんな考えが頭の中を駆け巡る。
え?「何で車体を斜めにしたら敵弾の弾きが良くなるの?」ってか?
簡単に説明するとだな”厚さ5cmの装甲を垂直にしたら、そのままの装甲厚は5cmになるけど、装甲を斜めにする事によって約7cmの厚さの装甲と同様の厚さになる”って仕組みなんだよ。
これは第二次世界大戦並びに冷戦初期・中期では一般的だったが、今では砲弾の改良等によって意味を成さなくなったから廃止されているけどな。
まぁ、詳しい事は軍事関連の書籍かネットで調べてくれ。
んで、それは良いとして状況はどうなってやがる!?
そう思いながら覗き窓を三度覗きこんだ俺の視界には、ゆっくりとながらもこちらに向けて正面装甲を向ける4号の姿があった。
ちっ、みほ達も反撃の態勢を整えたな!!ココは一度後退するのが賢い選択だな!!
4号の動きを見て、そう確信した俺は大声で木場に指示を飛ばす。
「木場、戦車後退!!狙われてるぞ、急げ!!」
『りょ、了解っ!!』
この俺の指示に木場が緊張感に満ちた顔で慌てて、ギアをバックに入れて5式を後退させる。
だが、それよりも先にみほの4号の方が先に砲弾を放つのが早かった。
そして……、キューポラの覗き窓越しにみほの乗る4号の主砲が光ったと思った矢先には5式に凄まじい衝撃が走った。
「っ!!」
『うおっ!?』
『ぐおおぉっ!!』
『うわっ!?』
『さらだっ!?』
この衝撃に俺や裕也達が叫ぶと同時に一直線に後退していた5式はグルン!!と荒々しく回転し、最終的には地面を激しくえぐりながら停止する。
クソッタレ!!どうやら履帯を吹き飛ばされたみたいだ!!
激しく回転する感覚からそう思ったのも一瞬、次の瞬間には間髪を入れずに再び4号の砲声が鳴り響く。
それから数秒も経たない内に5式は「ドガァァァン!!」と言う爆音と共に再び激しく揺さぶられる。
どうやら、俺達は撃破されたみたいだな……。
この衝撃から俺がそう予想した次の瞬間には、その予想を肯定するようにシュパッ!!と言う音と共に5式の砲塔上部に白旗が掲げられる。
これと入れ替わるようにして、無線機から蝶野教官の声が聞こえてくる。
『Bチーム 89式、Cチーム 3突、Dチーム M3、Eチーム 38t、Fチーム 5式、Dチーム ラム。いずれも行動不能……、よってAチーム 4号の勝利!!』
この無線連絡が示す事はただ一つ……、みほ達がこのバトルロワイヤルの勝者になったと言う事だ。
「ふぅ……、負けたのか……」
この蝶野教官の無線連絡を聞いて、俺はそう呟きながら戦車長席に持たれる。
何故だかは知らないが……、ここに来て疲れがどっと出て来たなぁー……。
そう体全体に纏わり付く疲れを感じながら、溜め息を付く側で玄田が不満げな表情で俺に向けてこう言い放ってくる。
『おい、敗けたじゃねぇかよ!!』
『そう切れたって仕方ないだろ……、西住さんはプロだよ……、相手が悪い……』
木場の言う通りだ流石はみほが指揮するチームと言った所だな……、勝者になってもおかしくは無いな……。
そう玄田を宥める木場の言葉を聞きつつ、俺はキューポラを開けてみほ達の様子を確認する。
すると、そこには秋山、沙織、華、何処で合流したのかは知らないが今朝あった麻子と共に喜び合うみほの姿あった。
「……大洗での初勝利、おめでとう。みほ……」
俺は5式のキューポラから上半身を出した状態で、仲間と共に勝利を喜び合うみほを見て、そう呟く。
こうして、大洗学園における”余りにも劇的”な戦車道の授業初日は過ぎていくのであった……。
…
……
………
<巽Side>
「五式中戦車か。……珍しいな。後は、Ⅳ号戦車D型、M3リー中戦車、38(t)B/C型、八九式中戦車乙型、3号突撃砲F型、ラム巡航戦車か……」
俺は、練習試合が終わった直後の戦車倉庫近くの茂みで倉庫の前にあちこちから探しかき集められた戦車を払い下げの軍用双眼鏡で覗きながらつぶやいた。
まさか、旧日本軍最後の戦車である五式中戦車が出てくるとは思っていなかった。よくて四式中戦車ぐらいまでだろうと予想していた。
「でも、我々6人乗るのに1台~2台足りないですね・・・・・・」
同じく払い下げの軍用双眼鏡で見ていた反田が口を開いた。
確かに、戦車は7台ほどあるが、もう乗員の割り当ては決まっている。
今、俺達が参加したところで迷惑になるのは目に見えて分かっている。
しかし、学園艦のどこかを探せばでてくる可能性は高いが、一体どこにあるのやら。
歴女達の乗る三突なんか沼の中から出てきたという有様だ。
で、俺と反田の二名は何をしているかというと、どんな戦車が見つかったのか少し気になって偵察という名の観察をしていた。
まあ、この様子なら大丈夫だろう。
「しかし、自動車部も4人しかいないのに、たった一晩で修理するなんてたいしたもんだ。榊原のおやっさんが見たら、ベタほめ間違いなしだ。」
わずか4人しかいない自動車部なのに、よく7台も稼働状態に持っていけるとは本当に勲章ものだ。本当にいい腕をしている。
榊原のおやっさん(おやじさん)というのは、俺の下宿の近くのお隣さんで放出品なのか整備工場なのか分からない店を営業をしており、人数はそれほど多くないが、そこで働く従業員達も多国籍で、国際色豊かである。
ありとあらゆる”面”でだが。どう見ても昔、”軍関係””諜報関係”に所属していたのではないかと思われる人間がいる。時折、日雇いのバイトをしているが結構バイト料が良かったりする。
「そういえば、”例の事”は、榊原さん達にも話したんですか?」
双眼鏡に目をやりながら、反田が聞いてきた。”例の事”とは、大洗学園の廃校危機と、俺達が戦車道に参加するかもしれないことの二つだ。
この前の夜、そのことを榊原の親父さんと”もう一人”のお隣さんに話した。おやっさんは、話を聞くや二つ返事で協力に同意してくれた。
あと…・・・もう一人のドイツからやって来たお隣さんは、「ありとあらゆる方面」で「スポンサー」になると言ってくれた。結構、やる気満々だったのは覚えている。
そのお隣さんに関しては、後で説明しようと思う。
「まあいい。それで、室戸達からの報告は?」
一旦話を切り上げ、双眼鏡から目を離し別の話題に移した。
「はい、どうやら数日前に生徒会と文科省の学園艦教育局の担当官と会合があったのは確かです。どんな話し合いが行われたかはまだ不明で調査中です。後、達の悪いことに、他校でウチが廃校になるという話があちこちで流れているみたいです」
「胸糞悪い話だな。だが、それが事実ならしょうがない。まったく・・・・・・他には?」
まだほんの数日しか立ってないのに、よく集めたもんだ。
しかし、一体どうやって集めてんだ?さすがに恐ろしくて聞けない。
そんな、俺の思考をよそに、双眼鏡には、皆嬉しそうに笑顔で戦車に取り付いている生徒達がいた。
「室戸が、あの”ドイツのお隣さん”の協力を得て、調査を続行するとの事です。本当に、大丈夫ですかね?どんな手を使ってるのやら・・」
本当に頼りになる幼馴染とお隣さんだ……というか普通ない!TVドラマ、アニメや漫画などで、主人公の自宅の隣に仲の良い女子(男子)の幼馴染がいて、後々になって両想いになるというあり得ない設定と同じくらい。
「まあ、”餅は餅屋”だ。任せるしか他はない」
そう言って俺は、再び双眼鏡に目をやった。
すると、Ⅳ号戦車の近くにモジャ毛の女子がはしゃいでいるのが見えた。
確か、秋山優香里って娘で……女子にしては珍しく度が付く戦車オタクだったはず。
犬耳と尻尾つけたら絶対に似合いそうだ。絶対に。何故かそう思った。
そんな様子に気付いたのか、反田が同じように俺が見ている方向を見る。
「あの戦車オタクの秋山優香里も参加するみたいですね?彼女も戦車に興味深々でしたから・・・・・・楽しそうですね」
「そうだな…裏の事情を知ったらどんな顔をするやら」
どのメンバーの顔を見たが、皆楽しそうな顔をしていた。なぜか、M3リーの搭乗員らしき一年の女子は、ポケ~ッと空を眺めていたが(後に1年の丸山沙希だと分かった)。
「結果がどうなるにせよ・・・・・・あがくだけあがく。今の俺達にはそれしかできない。辛いもんだな、反田。」
「そうですね。そういえば・・・・・・親の方には戦車道に参加する事は、連絡はしたんですんか?こっちは、今日の夜にでも電話して伝えてみるつもりですが」
ふと思い出したように口にする反田。
「しても無駄だ。教えて一体何になる?」
俺の家族は、父親はおらず母親しかいない。父親の顔は覚えていないというか見た事もない。後は、母方の祖父母・・。それも本当なのかどうか分からないが。ちなみに母親の職業は、自衛官。それも戦車の天敵である対戦車ヘリ部隊に居る。
「そうですか・・・・・・では、今日はここまでで・・・・・・?」
「そうだな」
こうして、俺達二人は別れ帰路についた。
そして、下校後の帰り道に、サンクスに寄った後、俺は、榊原のおやっさんが経営してる整備工場なのか放出品専門店なのかミリタリーショップなのか分からない店だった。
本当に、ここは何の店なんだろうか?
レジ番をしているグラサンをかけたジェイクさんに挨拶して、店を見回す。店は、結構広く「せんしゃ倶楽部」より少し大きい程度だが品数も多い。
中には一般では流通していない物も扱っている。何でもおやっさんの”独自ルート”で仕入れているらしい。
おかげで中々手に入らないレアものを手に入れることが出来る。
自分が持っているグッズも大抵ここでそろえている。中には、ただでもらったものもある。
なので、この店はマニアにとっての隠れ名所でもある。寄港したら県外からの客が来たりもする。
だが、この店の万引きしようもなら行方知れずになると噂もされている。
「よお、シロー。学校帰りか?」
商品を陳列していたスミスさんが、声をかけてきた。
この人は、元アメリカ軍の軍人だったのだがとある事情で辞めたのだが、偶然、アメリカに商品の仕入れに来ていたおやっさんと出会って意気投合。
日本に渡りこの学園艦にある店で働くことになったのだという。
時々、俺はこの人から軍隊格闘とか体験話などを教えて貰ったりしている。
連休には、アメリカに渡って射撃のコーチをしてもらったこともある。ここら辺のいきさつは秘密という事で・・・・・・
「ええ、おやっさんに用があって。今、おやっさんはどこに?」
「確か整備場にいたぞ。払い下げのハンヴィーの整備をしてたはずだ」
俺は、スミスさんに礼を言うと隣にある整備工場へと向かった。
整備場へ入ると、機械で部品を削る音、溶接の音、掛け声が耳に入り、焼けた鉄のにおいが辺りに充満していた。
目的の人物おやっさんは、すぐに見つかった。
「おう、志郎じゃねえか。学校帰りか?」
整備帽にサングラスをかけた初老の男性。この人が俺の事を孫か息子のように可愛がってくれてる”榊原のおやっさん”だ。
何でも、昔、自衛隊だか米軍関係だかで働いたのち、海外などでミリタリー関係の仕事を行っていたとの事・・・・・・内容からするにヤバいことだったのではないかと思う。
おやっさんに言ったら「グレーゾーンだから大丈夫よ!」と言った。本当に大丈夫なんだろうか・・・・・・
「おやっさん。昨日の話の事なんだが…・・・」
「大丈夫、任せておけ!どんな戦車でも部品でも手に入れてやる。おめえは、気にすんな!」
やれやれ、この人にだけは本当にかなわない。こちらが考えてる事もすべてお見通しだ。
「あと、戦車の操縦のことで……」
「ああ!!戦車ならトラクターと同じレバー操作だから大丈夫だ。おめえも田舎で、トラクター運転したり、海外でハンニバルに教えてもらってるなら問題ないだろよ。もし、心配なら資材運搬や牽引に使ってるやつだが、昔警視庁が装甲車代わりに使ってた一式中戦車(砲塔なし)で練習させてやる」
一体どこでそんなレアものをてにいれたのやら知るのが怖かった。
そして、軽くうち合わせをしたあと自宅へと戻り、”もう一人のお隣さん”と食べる晩飯を作るのだった。
それから二時間後……
俺は、ドイツ料理の一つ?ジャガイモとベーコンたっぷりで塩辛いポトフを作り、”ドイツからやって来たお隣さん”の家を訪ねた。
家は、どこにでもある一軒家だが、そこの家の主はかなりの金持ちだ……なんでも会社をいくつか経営しているらしいがそれ以上の事は教えてくれなかった。
しかし、なぜドイツからわざわざここへ?と思うかもしれない。それには、理由があった。それは……
「どうも、巽です」
俺は、鍋をそばに置きインターホンを押す。すると、すぐにドアを開けて外に出てきたのは……顔がアドルフ・ヒットラーそっくりの「ヒルターさん」だ。
そう、わざわざ逃げるようにドイツを飛び出してきた理由は”顔”だった。
ドイツでは、ナチスやヒトラーはタブーだ。顔のせいで、ろくな目に合わなかったらしい。
「おお、来てくれたか。待ってたよ!さあ、中へ」
こうして、家の中へ案内された俺は、二人で温めなおした塩辛いポトフに舌鼓をうつしながら会話を行った。
「今回は、本当にありがとうございます。ヒルターさん」
「とんでもない!君には、どれだかお世話になったか……ここで恩を返さねばドイツ人としての誇りが!……うう……」
男泣きしながら俺に感謝するヒルターさん。この学園艦に来たとき、色々と困ってるところを俺が見かねて助けてあげたのがきっかけで、知り合いになった。時々、相談に乗ったり、乗ってもらったり……という関係だ。
連休の時に、ハンニバルさん達と一緒にタダで海外旅行に連れて行ってもらったりすることもあったりする。
「大洗の戦車道のスポンサーの件は、前にも言ったが私に任せてくれ。こっそりと支援させてもらうよ。あと、室戸君たちのお手伝いもね……」
と、胸張って宣言してくれた。本当にありがたい。多額の寄付金に顔を呆然と焦る生徒会三人の顔が見ものだ。まあ、ないよりはましだ。
戦車の維持費には、莫大な金がかかるからな。
「話しは変わるが、生徒会の3人はどんな子達かね」
「生徒会長は、策士で腹黒でツルペタ。副会長は、おっとりの巨乳美人。生徒会補佐は、吊り片眼鏡の美人で巨乳……だけどポンコツっぽいですね」
”巨乳”という言葉にヒルターさんは、素早く反応する。
「ほ、本当かね!?巽君!?」
スケベそうな顔で聞いてくるヒルターさん。実は、この人かなりの巨乳好きだったりする。
「ええ、生徒会以外にも戦車道に参加した女子の何人かは巨乳ですよ」
再び嬉しそうな顔をするヒルターさん。いい人ではあるのだが、ドスケベなのがたまに傷だ。
こうして、ヒルターさんと今後の事を話し合いながらの食事をし終えた後、俺は、自分の家へと戻る道すがら夜空を軽く見上げた。
「カマかけてみるか……」
そして、次の日、俺は生徒会室の扉に背を持たれて待っていた。
「そこの男子生徒。何をしている!」
片メガネをかけた生徒会役員が、書類を持ちながらこちらへとやって来る。確か、広報の河嶋という人だったな。
「桃ちゃん。落ち着いて……えーと、生徒会に何か用があるの?」
たゆんたゆんとゆれる胸を持つ……確か副会長の小山って人だったな。本当に胸がでかいな。
河嶋って役員の人もでかいが、小山副会長の胸はさらにでかい。
「おや、なーんかよう?」
次にやって来たのは、胸囲の格差社会を体現するような、ツルペタ体型で二人よりもチッコイ生徒会長である。角谷っていう名前だったな。いつも、干し芋ばっか食ってないのか?
三人そろうのを確認すると、俺は三人へとゆっくりと歩を進めた。
そして、副会長と広報の2人に挟まれている生徒会長に目を向ける。しかし、見ていると、「胸囲の格差社会」、「いともたやすく行われるえげつない行為」にしか見えなくて、不思議でしょうがなかった。
「おはようございます。生徒会の皆さん。この前の文科省の学園艦教育局との会合ご苦労様です」
「「「!!!」」」
ここで、思いっきってカマをかけてみたところ、三人の表情が厳しいものへと変わった。やはり・・悪い予感は当たりそうだなと感じた。
「な……何の事だ!?貴様。一体どうして、そのことを知っている!?」
広報の川嶋さんが、慌てた口調で叫ぶ。
「どうして、それを!?」
あのおっとりした副会長も慌てている。
「………………」
生徒会長だけが、無言で俺をジーっと見つめてきた。俺はそれを無視して話を続けた。
「何でも文科省主導で学園艦の統廃合の動きがあるとか。他校でもあちこちでこの学園艦に関する”達の悪い噂”が流れてるみたいで…それも、”廃校”という」
生徒会長を初め二人は、黙ったままだった。
河嶋さんは、辛そうに唇を噛みしめながら俯き、副会長の小山さんは、悲しそうな表情をしていた。しかし、会長は面白そうな表情を浮かべていた。
「ここからは、俺の独り言です」
ここでいったん区切り、生徒会長の方を見つめた。
「俺は、黙ってこの学園を文科省の連中の言う通りに”達の悪い噂”通りされるわけにはいきません……あがくだけあがくつもりです。ありとあらゆるどんな”手”を使ってでも・・ね」
「「「……」」」
三人は、ジーっと俺の事を見てきた。
「俺、結構ここを気に入っているんです。この学校と学園艦を」
そう言うと、俺は軽く息をついた。陸もいいが、海で過ごすのもいい。
「おまえ……」
「あなたは……一体」
川嶋先輩や小山先輩が、驚いたように口を開いた。生徒会長は、黙ったままだが、ニヤリと笑みを浮かべているだけだった。
「近いうち、”いい事”がありますよ。この大洗戦車道にとって……では失礼します。後、無理に問題を自分達だけで背負い込まないように」
生徒会が、周りに要らぬ心配をかけまいと自分達を”悪者”に徹した事を俺は察していた。だが・・背負い込みすぎるのはよくない。
そう言って、生徒会三人衆に自分の連絡先のメモを渡し、背を向け去ろうとした時、生徒会長から声をかけられた。
「君の名前は?」
「巽志郎。ただのミリタリー研究会の部長ですよ……戦車好きの」
と、俺はニヤリと笑った。
「へえ~。じゃあ、待ってるわよ」
そう言って会長はニコリと笑った。