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悲しき再開とチキチキ潜入大作戦!?

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<龍Side>
聖グロリアーナとの練習試合が終結して、1週間が経った。
この1週間の間で俺達は練習試合で発覚した問題点の改良にいそしんでいた。
まず最初に改良したのは、会長達の38tや1年生達のM3リーに施されていたド派手なカラーリングだ。
練習試合でもハッキリした様に、ド派手なカラーリングの戦車達は『タダの的』に過ぎない。
だから、少しでも的で無くなる様にピンクや金色と言った塗装をオリジナルの色に塗り替えるのは勿論の事、バレー部の89式&野球部のラムに書かれていたペイント等も全て塗りつぶして、最初に発見した当初の様子に近いカラーリングに変更する。
ちなみに、この塗りつぶし作業を前に「勿体なーい」、「折角、苦労したのに……」と言った声も聞かれた。
まぁ……、確かに何かとも思い入れのあるカラーリングなのは確かだろう……。
だが、「思い入れがある」だけでは戦いに勝つ事は出来ない。
なので、多少は心を鬼してでも俺達は戦車の色を塗り替えるのだった。
それと同時に行われたのは、「チーム名の変更」だ。
今までは、「Aチームから、Bチームへ」と言った感じで無線連絡を行っていたが、この度のパンター&3式と言う更なる戦力追加によって「アルファベットでは少なからず混乱を招く」と言う事が訓練で発覚したからだ。
んで、コレに対処するべく俺やみほ、巽達と言った各チームの戦車長達の会議によって決まった新チーム名は次の様な物だ。

みほ達の4号は「あんこうチーム」、俺達の5式は「カニさんチーム」、巽達のパンターは「ヒョウさんチーム」、会長達の38tは「カメさんチーム」、歴女達の3突は「カバさんチーム」、バレー部の89式は「アヒルさんチーム」、野球部のラムは「カブトムシチーム」、1年生達のM3リーは「ウサギさんチーム」、黒崎達の3式は「アリクイさんチーム」

コレが新しく決まった、俺達のチーム名だ。
え、何で全部のチーム名が「動物関連」なのかって?
まぁ、上で触れた会議で「あーだ、こーだ」、「いや、それは違う」、「いいや、コレがいいだろ」みたいな感じで話し合って、最終的に「当たり障りの無いチーム名」と言う事で動物になったわけだ。
とりあえず、この新チーム名決定に関する会議はやたらとカオスだったな……。
んでもって……、正直に言うと”余りにもカオス過ぎて、どんな様子で進んでいたかなんてスッカリ忘れてしまった”ぜ……。
まぁ、そんな物凄いカオスな会議の末に決まったこのチーム名には、1年生の澤達によって書かれたチーム名に因んだマスコットキャラ(?)達も付いている。
みほ達は”ピンク色のあんこう”、俺達は”軍用ヘルメットを被り、オートマチック拳銃を二丁拳銃しているカニ”と言った感じでな。


とまぁ……、こんな感じで着々と全国大会に向けて準備を進める中、俺達は揃ってマードックさんの操縦するヘリに乗って”とある場所”に向かうのだった……。





……

………



そして、やって来た場所とは『日本戦車道連盟』本部の一角にある特別会場だ。
現在、この特別会場にて”第63回戦車道全国高校生大会”のトーナメント決めが行われているのだ。


日本戦車道連盟……日本における戦車道の活動を統括し、俺達がこれから参加する高校生大会を含む全国戦車道大会を運営している組織だ。
公益財団法人として認可されており、雌型、雄型問わず戦車道の普及と振興、指導及び監督を主たる事業とする他、様々な大会の開催、戦車道を通じた国際交流並びに相互理解の推進を行っている。
また、戦車道に関する調査や研究を常に行っており、講習会や研修会等も開催(※そう言や、親父も何度か特別ゲストで呼ばれてたっけ?)。
関係諸団体とも連携し、健全な戦車道の維持に努めている……。


そんな連盟の開催する第63回戦車道全国高校生大会のシーズンが遂にやって来たのだ!!
まぁ……、色々と不安はあるが中学生以来の戦車道全国大会と言う事もあって、ワクワクしている所もある訳だ。
「おぉー……、テレビで見たことある光景だな……」
「本当ですよ、玄田殿!!」
「って事は、今の様子も中継されているの!?」
「それは無いな……」
っていうか、沙織や裕也達は”初めての全国大会”と言う事もあって少なからず興奮している。
と言うか、沙織はテレビ中継で「彼氏募集中でーす!!」とか言うつもりなのか?
恥ずかしいって言うか、学校の恥になりそうだから止めてくれ!!
そう胸の内で思いながら、沙織を見つめていると側にいた会長が俺とみほに対し、こう問いかけてくるのだった。
「ねぇ、西住ちゃん、喜田川ちゃん。全国大会って、どんなルールのなの?」
「い……、今になって聞くんですか!?」
この会長の問い掛けに対し、みほが驚いた様子で言葉を返す。
それもそうだ……、「全国大会のルールを知らない状態で全国大会のトーナメント決めに来る」って……。
『スパイスの入ってないカレー』や『タコの入ってないタコ焼き』も同然……、要は「全ての物事が成り立たない」って事だ……。
っていうか、全国大会に参加する以上はルールぐらい学習してきてくださいよ……。


そう胸の内で少なからず呆れながら、俺は会長に全国大会のルールを説明する。
「会長、全国大会のルールは全て”フラッグ戦”です」
「フラッグ戦?」
「えぇ、要は『試合を行う双方のチームの戦車の内、1両をフラッグ車として、それを撃破すれば勝利』と言うルールです」
この俺の説明に対し、会長は少なからず納得した様子で「ほぉ~っ」と呟きながら、会場におかれたトーナメント表を見つめる。
少しぐらい、礼ぐらい言って欲しいものだな……。
え?「何で練習試合の殲滅戦と違って全国大会ではフラッグ戦の形式が採用されてるのか?」って?「別に殲滅戦でも良いんじゃね?」とか思ってる諸君・・・ハッキリ言おう、「何にも分かってねーなこのド素人共!!」と。
戦術と腕も然る事ながら戦力差が物を言う殲滅戦と違い、チームの中から1輌のフラッグ車を決めてそれを撃破すれば勝ちとなるフラッグ戦は、喩え戦力差が圧倒的でもそれを覆して逆転出来る可能性がある。

公式戦でこの方式が採用されているのはその為だ!!

そう……、フラッグ戦とはッ!!
先の聖グロみたいな全国常連の強豪とも俺達みたいな無名の弱小校が互角に渡り合え、付け入る隙こそあれ、勝ちすら奪えるチャンスが探せば転がっている……、言わば俺達の様な弱者に残された"最大最後の平等"なのだッ!!
他のサッカーや「確率のスポーツ」と呼ばれるバスケみたいな球技を見ると良い。
点差はそのまま純粋に実力の差であり、短期間で大量得点して逆転出来る術も無い。
結果、差が大きく開いたら見ている観客もプレイする選手達も白けるだろう。
差が大きく開いた時の、そうした競技の試合程つまらない物は無い……。
だが、戦車道のフラッグ戦は違う!戦力の差が必ずしも結果とイコールにならないと言う先の読めなさ、喩え圧倒されても、其処から相手のフラッグ車を仕留める逆転劇・・・そう言う最後までどうなるか分からない先の不透明さによって、観客達も夢中になる。それもまたフラッグ戦の醍醐味と言えるだろう。
そしてフラッグ戦を勝つその為には殲滅戦以上に、先にみほの言った"戦術と腕"が必要になって来る訳だが、俺の役目はもう既に決まっている……。
みほが”戦術”なら俺は”腕”だ!戦車乗りとして……、前線指揮官として……、みほの分まで俺がチーム全体の"腕"となって皆を勝ちに導く!!
みほ……何度も言うが"戦術"は任せたぜ。悪いが俺はそう言うのは苦手だ。
だから、お前の分まで指揮官としての"腕"を振るう!だからお前は安心して参謀の役に専念してくれ!!


冷静になって見返すと、何故ココまで俺は熱くなっているのだろうか?
コレじゃまるで、元日本を代表する”超熱血プロテニスプレイヤー”じゃないか……。
うーん……、この原因は唯一つ……、”みほがトーナメント表を決めるくじを引く”って事だな……。
すっかり熱の冷めた頭で、そう分析していると当のみほを呼ぶアナウンスが会場中に鳴り響く。
『続きまして……、大洗学園……、西住みほさん』
「はわわ……、どうしよう……」
「落ち着け、みほ。ただ単にくじを引くだけだ」
この呼び出しにみほは動揺した様子でアタフタしている……。
みほ……、お前も隊長なんだから、少しは冷静さを保つようにしようぜ……。
偉く感情的な一面がある俺が言えた立場じゃないと思うけど……、そこ「じゃあ、言うなや」とか言うな!!
みほの様子を見て、俺が胸の内でそう思う側で沙織がみほを落ち着かせる様にこう言い放つ。
「そうだよ、みぽりん。落ち着いて」
「う、うん……」
この沙織の言葉に少なからず冷静さを取り戻したみほは、席から立ち上がって会場に上がる。
そして、連盟の用意したくじ箱に手を突っ込んで、暫くガサゴソとあさぐると1枚のくじを引く。
直ぐに委員会の役員がくじを確認し、アナウンサーにくじの結果を伝える。
その結果を聞いた、アナウンサーはこう言い放つのだった。
『大洗学園、8番』
このアナウンスに従って俺達がトーナメント表を見ると、その隣の7番に書かれていたのは戦車道全国大会で第一回戦で戦う相手である、『サンダース大学附属高校』の名があった……。





……

………



そんな、トーナメント決めから約数日後……。
大洗学園戦車道チームの整備班長である榊さんが、自動車部と共に戦車の一斉メンテナンスを行うと言う為、何時もより早めに練習を切り上げた。
榊さん曰く……「メカも人間と同じなんだよ。腹も減れば、疲れもするんだ。それを理解しないで無茶をさせると、メカが過労死しちまうからな。」との事……。
いやぁー……、”整備員としての長き経験(※ちょっと怪しいけど)”を積んできたベテラン中の大ベテランだから、言える渋く、ありがたいお言葉である。
自動車部の連中が揃いも揃って、「「「「榊さんに、一生付いていきます!!」」」」とか言いたくなる訳だよ。
んで、そんな榊さん&自動車部が行う一斉メンテナンスの為に練習を早めに切り上げた、俺とみほ、裕也と巽に沙織、華、麻子は、秋山が「ぜひ一緒に行きたい場所があるんですよ!!」と言う事で”とある場所”にやって来ていた。

その場所とは、『戦車喫茶 ルクレール』だ。

『戦車喫茶』と言う名の通り、学生時代に戦車道をやっていたオーナーが「戦車」をテーマに始めた喫茶店で、秋山の様な戦車マニアには、もはや「聖地」とも言える人気の場所だ。
勿論、この店の魅力は戦車だけでは無い……と言うか、戦車だけなら1年足らずで潰れているだろう。
本格的なのにリーズナブルな価格で上手いコーヒーや、手間隙掛けた手作りのケーキを提供してる事もあっての人気だ。
因みに店名の後ろにある『ルクレール』は、、店主の一番好きな戦車にして、フランス軍で現在使用されている主力戦車”ルクレール”から来ている。
と言うか、店主さん……、余りにも好きなのか店名だけじゃなく、店先のオブジェにもルクレール戦車の置物を採用しちゃってるよ……。
何処で見つけてきたんだろう……、と言うか……、何か秋山の戦車グッズの中にも近い内に入りそうな気がするな……。
ふと、俺達が座る席から見える、店先のルクレール戦車の置物を見て、そう思っていると反対側の席に座っていた沙織が俺に向け、こう言い放つ。
「ねぇ、龍は何にするか決めたの?」
「あぁ……、いや……、まだだ……」
「もー……、早く決めてよね」
あちゃー……、店中に漂う戦車の雰囲気に完全に飲み込まれて、メニュー決める事をすっかり忘れていたわ……。
沙織の指摘で思い出した俺は急いでメニューに目を通すが、如何せん数が何気に多いものだから……。
うーん……、ココは素直に秋山に聞いた方がよさそうだ……、ココでの出費は各自の自腹だし。


びっしりと書かれたメニューを見て、思った俺は秋や正に早速問い掛ける。
「秋山、お前のお勧めって何だ?」
「そうですねぇ……、チョコキングタイガーなんて如何でしょうか?300円とリーズナブルなのに、ボリューム満点で私なんか食べ切るのに一苦労しましたよ」
「じゃあ、それにしよう」
「では、注文しますわね」
そう秋山のお勧めするメニューを俺が選ぶと、秋山の隣に居た華が”第一次世界大戦時のイタリア軍で試作された多砲塔戦車”である『FIAT2000』を模した、呼び出しボタンを押す。
瞬間、「ズドォーン!!」と言う爆音が店内中に鳴り響く……っていうか、何処かで聞いたな、この砲声……。
「うぅ~ん……、溜まりませんねぇ……」
そう砲声を聞き、そう思っていると側で、同じ様に砲声を聞いた秋山が「うっとり」とした表情で呟き、こう言葉を続けた。
「何度聞いても、良いですよねぇ~……、90式戦車の砲声は」
「あぁ、これ90式か。どっかで聞いたと思ったわ」
そうだった、この砲声は90式だ……、親父の発足&指揮する陸上自衛隊の新機甲部隊『福岡 第12機甲大隊』が発足し、それに伴う転勤で過ごした福岡でよーく聞いた音だ。
と、まぁ、こんな感じで俺が胸の内で過去の思い出を思い返していると俺の言葉を聞いた、秋山が本当に羨ましそうな表情で俺に顔を向けてこう言い放つ。
「喜多川殿の父上は、機甲科の最高司令官ですものね!!羨ましいです!!」
「そうかぁー、ただの変人だぞ?」
「そんな事無いですよー!!私、喜田川殿の父上のファンみたいな者ですし……、サインとか貰えるなら欲しいですよ。福岡 第12機甲大隊の隊歌も数ある陸上自衛隊の隊歌の中でもカッコイイですし!!」
「マジで?」
おーい、福岡に居る親父ー、聞えているかー?
九州は福岡から、遠く遠く離れた関東は茨城の大洗に親父の隊歌のファンが居るよー!!
っていうか……、陸上自衛官に『ファン』なんて付くものなんだな……。
航空自衛隊のアクロバットチームである『ブルーインパルス』のパイロットには”熱狂的なファン”が居るから、その延長線上みたいな物なんだろうけどさ……。
因みに戦闘機パイロット志願の木場だが、本人曰く「ブルーインパルス隊はカッコイイと思うけど、僕は戦闘機部隊の方が良いな」との事である。
何だ、”万が一の時”は「青空か、布団のどちらかで……」って事か?


秋山の口から飛び出した、まさかの”親父のファン”と言う言葉にそんな考えが胸の内を過ぎる中、第二次世界大戦時のドイツ国防軍の戦車兵の制服に似たウェイトレス服を来たウェイトレスが俺達の席に注文を取りにやって来る。
「お待たせしました、ご注文をどうぞ」
このウェイトレスに対し、華が俺達を代表して注文を伝える。
「いちごのショートケーキとレモンパイ、ミルクレープ、ベリータルトにチョコキングタイガー、グレープフルーツゼリー、イエロー&ブラウン・モンブラン、ブラッディオレンジのタルトをお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちください!!」
そう華が告げた注文に対し、ウェイトレスは敬礼を返すと同時にキッチンに注文を伝えに行く。
そんなウェイトレスの後ろ姿を見ている間にも、店内には90式の砲声が止む事無く次々と鳴り響く。
この店は陸上自衛隊の実弾射撃演習場かよ……。
「うぅ~ん!!」
鳴り響く砲声を聞き、胸の内でそう思っていると沙織が先程の秋山と同じ様にうっとりとした表情でこう言い放つ。
「この音が快感になっている自分が怖い~!!」
「確かに……、軍隊だと精神病院行きだな……」
そう皮肉る様に裕也が言い放つと、沙織は光悦の表情から一転。
若干と言うか、少なからずと言うか……、目に見える位に顔を青くしながらこう言い放つ。
「ちょっと怖い事言わないでよ……、裕也……、前に出た戦争映画でそういった感じの兵隊を連行したりしていたでしょ……」
「俺はリアルで|MP《憲兵》じゃねぇよ……」
この沙織の指摘に対し、裕也も少なからず呆れ顔で言葉を返す。
まぁ……、コレの元を辿れば、少し前に裕也がお姉さんの付き添い&スタントマンのバイトで出演したベトナム戦争を舞台とした”日、米、香港、フィリピン合作”の戦争映画『サイゴン 1968』に出演したからだろう。
それも、ミリタリーマニアから見れば結構マニアックな『アメリカ陸軍の軍警察隊に所属する日系人伍長』と言う役で。


んで、沙織が言っているシーンはこの映画の冒頭にて「苛酷な最前線でPTSDになり、精神が崩壊した兵士が入院していた病院から脱走。武器庫から盗み出したM16A1自動小銃とM26A1手榴弾を武器にサイゴンの酒場に人質を取って立ってこもり、フルオートでM16を乱射し、人質数名を射殺した為、出動した軍警察隊が鎮圧の為に突入する」と言ったシーンだ。
裕也はこのシーンで”主演のハリウッド俳優(※誰だか、忘れたけど)”と共に酒場の裏口から、回り込んで突入し、コルトガバメントを発砲して鎮圧する……と言った感じの活躍をしている。
この他にも『アメリカ軍司令部に潜入していた北ベトナム軍のスパイとの格闘戦』や、『ベトコンゲリラに占拠された、日本大使館にM113兵員輸送車&陸軍特殊部隊と共に突入する』シーンでM16A1をフルオートで撃ちまくったり、クライマックスの『”悪の親玉”に当たるアメリカ軍の内通者である将軍&手下との戦闘』じゃあ、”元祖ワンマンアーミー”よろしくM60軽機関銃を腰貯め、フルオートで撃ちまくった挙句に、手榴弾を投げ付けて悪の手下を吹き飛ばしたりと……物凄く暴れている。
んでもって、この”一連の活躍”を沙織もテレビで見ているから、顔を青ざめてそう言うのだろう。
まぁ……、それ以前に出演した映画やテレビドラマなんかと比べたら、明らかに『最大のはまり役』だった事もあるけどな。
沙織と裕也のやり取りを聞き、ふとそう思った矢先だった。
俺達の座る席の隣に置かれたレーンから、35分の1サイズプラモデル程の大きさの”M25戦車運搬車”が注文したケーキやアイスを載せてやって来る。
よく最近の回転寿司で見かける『タッチパネルで注文したら、新幹線やF1レーシングカーが注文した品を運んでくるシステム』のミリタリーバージョンってとこだな。
そう思いながら、モーター音と共にやって来たM25戦車運搬車を見つめているとみほ達は「「「うわぁ~!!」」」と声を揃え、こう言い放つ。
「何これ~?」
「可愛い~」
「ドランクワゴンです。この店の名物なんですよ」
感嘆の声を沙織とみほが上げるのを聞き、秋山が解説しながら運ばれてきたケーキやコーヒーを配っていく。
それが一通り終わると、俺達は揃って注文したケーキやコーヒーを食べ始める。


とまぁ、こんな感じでケーキを食べていると沙織がふと思い出した様にこう言い放つ。
「そう言えば、強いの?サンダース高校って?」
そう沙織が頭に疑問符を浮かべながら問い掛けると”戦車型いちごのタルト”を食べていた秋山がフォークを置き、口をナプキンで拭き、沙織に向けて説明する。
「強いと言うよりは”お金持ち”の学校ですね」
「戦車の数は300両、一軍から三軍まである……、これだから金持ちは嫌いなんだよ……」
この秋山の説明を更に敷き詰めて説明する様に裕也がスマホを片手に苦笑しつつ言葉を続けると、裕也の言葉を聞いた秋山も「神崎殿の気持ちよーく分かります」と笑いながら言って、再びタルトを食べだす。
まぁ……、確かに……、俗に元祖リアルロボットアニメでも『戦いは数だよ、兄貴!!』って言われるぐらいだしな……。
それを考えると、サンダース高校は|経済戦争《マネー・ウォー》では、俺達に圧勝しているだろう。
だが、それ以上に俺には”気になっている事”があった……、それは……。
「個人的には”サンダース海兵隊”が気になるな……」
「何だ、それは?」
そう俺がポツリと呟くとケーキを口に咥えた状態の麻子がそう問い掛けて来る。
と言うか、麻子だけじゃなくて沙織や華、裕也(※巽は除く)も揃って頭に疑問符を浮かべている。
そりゃなぁ……、戦車道を始めて、まだ間もないお前達からすれば「サンダース海兵隊、なんのこっちゃ?」でしか無いよなぁー……。
揃いも揃って疑問符を浮かべている沙織達を見て、そう思っていると高校生らしかぬ雰囲気&情報を持っている巽が俺に変わって”サンダース海兵隊”に関しての説明を始める。
「サンダース海兵隊って言うのは、サンダース高校雄型戦車道チームで、雄型隊長が仕切っているM26パーシング部隊の名前だ」
「M26パーシング……、私の好きな戦車だ」
「へぇ、以外だな」
「うん」
そう巽の言葉を聞いた瞬間、沙織が言い放ったこの一言に思わず目が点になってしまった。
だって、乙女脳の沙織だぞ?アメリカのM3スチュアートとか、日本の95式軽戦車と言った軽戦車を「可愛い~!!」とか言ってそうだからな……。
ふと胸の内でそんな考えが過ぎる中、沙織は「M26パーシングが好きな理由」を説明する。
「だって、如何にも怪獣映画とかに出てきそうな格好じゃーん!!だから、怪獣映画が好きそうな男の子もきっと好きそうだよなー……って、ね」
「武部殿、怪獣映画に出てくる戦車なら61式や74式と言った自衛隊戦車のほうがピッタリであります」
「え、そうなの?」
あぁ、たまには恋愛以外の事を考えるのかと思ったら、何時もの乙女脳だったよ……。
秋山の指摘を受けて、素で呆然としている沙織を見て俺はそう思った。
っていうか、M26パーシングが出てくる怪獣映画って……、1957年公開のアメリカ映画『恐怖の巨大サソリ メキシコを襲撃す!!』ぐらいじゃないのか?
まぁ、時期的には朝鮮戦争が終わった頃だからパーシングの機動力改良型の”M46パットン”の可能性もあるけど……。
つーか、蜘蛛ほどじゃないけど……、サソリやムカデとかも無理なんだよなー……。
というか、更に言ったら|キャメルスパイダー《ヒヨケムシ》、ウデムシ、ヤスデ、ゲジゲジと言った節足動物全部アウトだよ……。
うぅ……、考えただけでも背中に悪寒が走るよ……、この店のどっかに潜んでない?
あと、これらの節足動物は全部『観閲注意』レベルの”グロテスクな外見”しているから……、間違っても検索しない方が良いよ……。
検索して気分を害しても、責任は取らないからね?
そんな事をふと思っていると、今度は華が巽に対して問い掛ける。
「それで何故、海兵隊って呼ばれているのですか?」
『あぁ、正式には『|アニマルハンティング・マリーンズ《猛獣狩りする、海兵共》』と言って、アメリカ海兵隊式の訓練や規律が敷かれているから、俗に『サンダース海兵隊』なんて言われているんだよ。まぁ、他にも『|デビルドッグズ《地獄の犬共》』とか、『|クレイジー・マリーンズ《狂った海兵態共》』とか言われてるな」
「それは随分とスパルタそうですね……」
そう巽から帰ってきた回答を前に華は何処と無く感慨深そうな声で、そう言い放つ。
確かに……、世界最強の軍隊であるアメリカ軍が誇る『殴りこみ部隊』をモチーフにした訓練や規律なんて、「これぞ、スパルタ!!」と言った所だろうしな。
そんな考えと同時に、ふと頭の中を”某有名ベトナム戦争映画”に登場する新兵訓練所の鬼軍曹教官の罵倒が脳内を飛び交う。
あの映画も一度見たけど、本当に「滑舌どうなってるの!?」ってレベルのマシンガントークで罵倒していたよな……。


アメリカ海兵隊と聞き、ふとそんな事が頭の中を過ぎる側で沙織がコーヒーの入ったカップを手にこう言い放つ。
「ん~……、そんな相手に勝てるのかなぁ~?」
そう沙織が少なからず心配そうな表情で呟くと、側に居たみほが本当に申し訳なさそうな声でこう言い放つ。
「ごめんね……、私がそんな所を引いちゃったから……」
「みほ、気にするな……、どうせクジだ」
このみほの言葉に対し、俺は間髪入れる事無くそう言い放つ。
だって、そうだろ?トーナメントはクジで決まったんだ、結果なんて神のみが知るレベルだ。
それを悔やんだって、どうにもならない訳し、時間の無駄以外の何物でも無い。
「そうですよ、みほさんのせいじゃありませんよ」
俺が胸の内でそう思っている側で、華も続く様にみほを慰める。
そんな俺達の励ましを受けた西住が微笑みながら「うん」と言葉を返すと、反対側でレモンパイを食べていた沙織が話題を変える様にこう言い放つ。
「所でさ、全国大会って生中継されるんでしょ?モテモテになったらどうしよう~!!」
「「知らんがな」」
俺と裕也が間髪入れずに沙織の発言に対して、突っ込みを入れる。
先程のパーシングのくだりといい、コイツは本当に脳みその中身は恋愛しか入ってないよなぁ……。
っていうか、この「「知らんがな」」突っ込み……、前にもやってなかった?
そう俺が胸の内で思い出している側で沙織はバックに「キーッ!!」と言った漫画調の文字が見えかねない勢いでこう言い放つ。
「何よ、2人揃って!?」
葵もそうだけど、沙織も結構安定しているよなぁー……。
怒りマークを頭に浮かべながら、俺と裕也に対して怒鳴り散らす沙織に対し、華が食べていたミルククレープの生クリームをナプキンで拭いながら、こう告げる。
「生中継は決勝戦だけですよ」
「ふぅ~ん……」
そんな五十鈴の言葉を聞き、冷静になった沙織は一言そう呟いた後、再びレモンパイをフォークに刺すと一言、こう言い放つ。
「じゃあ、決勝戦を目指して頑張ろう!!」
この野朗、俺とみほの苦労も知らないで、簡単に言ってくれやがる……。
まぁ……、勿論……、俺とみほだって決勝戦に行く為に奮闘するけどな。
そう微笑みながら、レモンパイを口に運んだ武部を見て、そう思いながら、俺も頼んだケーキを食べ始めようとした時であった。

「あら、副隊長……?」

とまぁ、聞えてきたみほ、沙織、華、秋山、麻子の誰の者でも無い女子の声。
「あぁ……、元副隊長でしたね」
この女子の声に俺達が揃って声のした方に顔を向けると、そこに居たのは大洗学園の物では無い制服を身に纏った女子の姿だ。
あれ……?よく見ると、この女子の着ている制服はみほが前に在籍していた学校である”黒森峰学園”の制服じゃないか……。
こんな生徒ばかりじゃあ……、みほが転校する訳だよ……。
ふと、胸の内でそう思いながら言って来た女子の方に顔を向けると、その女子はまるで俺達を馬鹿にしたかの様な表情でこう言葉を続けた。
「何時の間にか、居なくなったと思ったら……、こんな無名校に居たのね。てっきり自殺でもしたんじゃないかと思っていたわ」
この尼……、みほの事を言っているのか……?
だとしたら、許しちゃおけねぇぞ……、このクソアマァ……。
女子の言い放った一言に対し、ふと胸の奥底からどす黒い感情が湧き上がってくる側で裕也が女子に対して、苦虫を潰したような表情でこう言い放つ。
「おい、お前、何処の誰だか知らんけど常識って物を考えろよ……」
「はっ……、こんな最低野朗に……、常識なんて必要ないわ……」
おいおい……、この尼……、ゲロの方がマシなレベルな程に極悪人だな……。
裕也の注意すら踏み躙り、悪びれる様子も無くそう言い放った女子に対して、再びどす黒い感情が湧いてくる中だった。
「あぁ、あんな所に……」
と、言う男子の声が聞えて来たかと思ったら、左肩に『ブラックパンサーズ』とドイツ語で書かれ、『左の横顔を向けて吼える黒豹のエンブレムマーク』が付いている黒森峰の男子用制服を着た一人の男子が、第二次世界大戦中にドイツ軍で使用されたオートマチック拳銃である”ワルサーP38”を腰からぶら下げたホルスターに入れた状態でやってくる。
その男子に対し、俺やみほ達が顔を向けた瞬間、俺とみほに衝撃が走った。
「た……、玉田!?」
「玉田君!?」
それもそのはずだ……、だって今、来た男子は親父の同期の息子にして、俺とみほの幼馴染の一人……、|玉田恭平《たまだきょうへい》なのだから……。
みほは去年まで共に同じチームメイトとして共闘し、俺は小学校5年の時まで一緒にみほや俺と共に戦車に乗ったり、馬鹿やったりした仲のコイツとこんな形で再開するとは……、なんと皮肉な運命だ……。
俺は勿論、みほも同じ事を思っただろう……、そして玉田も……。
「み、みほ!?それに龍も!?」
当然と言うか……、必然と言うべきか……、物凄く驚いている……。
つーか、玉田の驚きぶりに隣に居る”クソ&ゲロ以下女子”も目玉が飛び出すんじゃないかって言う勢いで唖然としているじゃないか……


俺が胸の内でそう思っている側で、玉田が感慨深そうな声でこう言い放つ。
「久しぶりだなぁ……、二人とも……」
「うん……」
「あぁ……、俺もだぜ……、それにしても……、出世したな……、ブラックパンサーズの隊長か……」
そう言って俺とみほ、玉田は再会の握手を交わす。素直に喜ぶ事の出来る再開じゃないけどな……。
なぁ、神様よぉ……、愚痴言うわけじゃないが……、もう少しマトモなシュチュエーションを考えて欲しかったぜ……。
色々とバックに黒い物を置かずに、ただ純粋な『感動の再開』って感じでねぇ……。
っていうか……、コイツが黒森峰の誇る精鋭部隊の1つ”ブラックパンサーズ”を率いているとはな……。
まぁ、でも……、こいつの優れた実力なら、ある意味では”当然”と言った所だな……。
胸の内でそう思いながら、みほと共に俺が玉田と握手を交わしていると、玉田の隣に居る”クソ&ゲロ以下女子”が不機嫌そうな声で問い掛ける。
「玉田、アンタ、副隊長は兎も角として、この『熱血暴走馬鹿』とは、どういう関係なの?」
「誰が『熱血暴走馬鹿』だ!!」
「龍、落ち着けって……、エリカもだ……、発言には気をつけろ」
そう俺がクソ&ゲロ以下女子の発言にブチ切れる側で玉田が俺と女子を宥める様に言い放つ。
っていうか、クソ&ゲロ以下女子の名前……、エリカって言うのか……。
覚えておこう……、後々に利息つけて倍返しにして地獄の果てに叩き込む為にな……。
「龍、ドス黒い考えは止めておけ……」
「何で分かった!?」
「表情に出てるんだよ……、付き合いが長いからな……」
流石は玉田&幼馴染だぜ……、おっとり屋のみほとは違って”キッチリした常識人”だからな……。
っていうか、玉田の奴は昔から俺の考える事を見抜いていたよなぁー……。


胸の内で懐かしい思い出と共に、ふとそんな考えが沸いてくる中だった。
「おい、エリカ、玉田」
「二人とも、何をやってるの?」
そんな言葉と共に再び別の男子と女子が揃って、俺達の元へとやって来る。
コレに対し、俺やみほ、沙織、裕也、玉田達は揃って顔を向けると俺とみほは再び衝撃に襲われるのだった。
何故なら……、そこに居た女子が”みほの実の姉”である”西住まほ(※以下、まほさん)”なのだから……。
って言うか、一日で幼馴染と幼馴染の姉に再会するなんて……、なんて日だッ!!
「お姉ちゃん……」
「久しぶりだな……、みほ……、龍……」
「えぇ……、本当に……」
まほさんの言葉にそう一言返すが、この状況を前に言葉が続かない……。
次はなんと言えば良いのか分からないでいるうちに、辺りは息も詰まりそうな重々しい空気に包まれていた……。
だろうな……、現にみほは事実上における”実家からの追放状態”にあるんだから……。
俺も幼馴染として何とかしてやりたいんだが……、如何せんデリケートな問題だからな……。
歯痒くて溜まらないけど……、幼馴染でしか無い俺は成す術も無いんだよな……。
みほとまほさんの間に流れる気まずい空気を前に、そんな事を思っているとまほさんが重い口を開く。
「みほ……、まだ、戦車道をやっていたとはな……」
「……」
血の通ってないロボットの様な、冷徹な口調でまほさんがそう言い放つとみほは黙り込んでしまう……。
そりゃそうだ……、実の姉からこんな事を言われるんだからな……、反論なんて出来たものじゃないだろ……。
そんなみほを庇う様に秋山が立ち上がると語尾を強めながら、まほさんに対して、こう言い放つ。
「お言葉でありますが、あの時のみほ殿の判断は間違ってません!!」
「黙りなさい、メス犬野朗!!アンタに私達の置かれた状況の何が分かるって言うの!?」
「す……、スイマセン……」
この殺意交じりのエリカの反論に対し、秋山はシュンとした様子で席に座る……。
まぁ……、現にみほの行動が原因で黒森峰は”直視することすら出来ない悲惨な状況”に置かれたと言う……。
だから、エリカの言う事も間違ってはいないのだ……、言い方は大間違いってレベルじゃないけどな。
つーか、秋山の印象って……、基本的に「犬」なんだな……。
ふとエリカの殺意交じりの言葉を聞き、俺がそう思う側で
「おい……、エリカ……、少しは考えてくれよ……」
「何よ、アンタ!?幼馴染だからって、この野朗を庇うつもり!?」
「そう言うつもりじゃないけど……、頼むから、少しは常識を考えてくれよ……」
そう玉田がエリカを宥める様に言い放つが、当のエリカは「はぁ?」と悪びれた様な口調で言い放つと、こう言葉を続ける。
「こんなクソ野朗に人権なんて無いわよ……、そこらに転がっている小石のほうがまだマシよ」
「おい、流石にそれは言い過ぎだぞ」
テメェ……、みほが小石以下だって……、ふざけるも大概にしろよ……。
これ以上、みほを咎める様な事を言ったら容赦なく首の骨を叩き折ってやる……っ!!


そう玉田がエリカを注意し、俺の胸の奥底から、どす黒い感情が湧いてくる中だった。
「はぁ……、いい加減にしろ二人とも……、これ以上やったら、二人揃って降格させるからな!!」
そう言って、口喧嘩を交わす玉田とエリカをまほさんと共にやって来た男子が止める。
この男子の制服の左肩には『レッドタイガー』とドイツ語で書かれ、玉田のエンブレムマークとは正反対に『右の横顔を向けて吼える赤いトラのエンブレムマーク』が付いており、肩からは、第1次世界大戦&第二次世界大戦でドイツ軍によって使用されたオートマチック拳銃の”ルガーP08(※4インチ)”が入った、茶色の牛皮製のショルダーホルスターをぶら下げている。
「「「!!」」」
裕也と巽、秋山はこのエンブレムマークとルガーP08を見て、何かに気付いたらしくコソコソ話でこう言葉を交わす……。
「おいおいマジかよ……、レッドタイガー小隊の隊長……、|武沢竹一《たけざわたけいち》じゃないか……」
「あぁ、通りで何処かで見たような気がすると思った訳だ……」
「こ、この方が……、あの「最強」と名高いレッドタイガー小隊の隊長でありますか……」
「となると……、隣に居る玉田って奴が……、『ブラックパンサーズ』の隊長か……」
マジかよ……、この男子が全国高校戦車道における『最強チーム』と名高い『レッドタイガー小隊』の隊長……、武沢竹一かよ……。
裕也と巽、秋山の会話を聞き、俺はそう思った。だって、そうだろ?
レッドタイガー小隊は数ある全国高校戦車道チームの中で、最も『最強』と言わしめる程の”超精鋭部隊”だ。
いや……、超精鋭部隊なんてものじゃない……、事実上の『特殊部隊』とも言える存在だ。
そんな最強、特殊部隊の隊長が目の前に居るんだぜ……。
んでもって……、コレだけでも十分にビックリする情報だが……、実は俺……、この竹一隊長とは個人的に深い関係がある……。
と言っても、まぁ……、酒に酔って良い気分になっていた親父の口から聞いた話だが……。

どうやら……、この竹一隊長のお父さん……、”親父に敗れたライバルの元陸上自衛官”らしい……。
つまり、親父がかつて東西冷戦終結に伴う、陸上自衛隊内部の派閥争い(?)で親父に敗れたライバルが自衛隊から去った数十年後……、主役を父から息子に移し、戦いの場を自衛隊から戦車道に移して立ち塞がる事となったって訳だ……。

まぁ、簡単にまとめるとだな……、竹一隊長と俺は「親子2世代に渡る因縁のライバル関係」って事だ……。
いやぁー……、待ったく……、人生って何とも皮肉な物だな……。
父親世代に行われた対決が息子にも引き継がれる……、神様って残酷なことするよな……。
とまぁ……、内心複雑な心境でしながら竹一隊長を見ていると、当の本人は深く溜め息を付きながら、こう言葉を続けた。
「お前が父さんの言っていた、自衛官時代のライバルの息子……、喜田川龍か……」
「えぇ……、その通りで……」
話し掛けて来た竹一隊長に対し、俺が若干引き気味に頭を下げて答える。
それを見た竹一隊長は、俺をしばしジッと見つめた後、こう言い放つ。
「父さんから、お前のお父さん共々噂は聞いている……、もし試合で戦う事になるかもしれないな……」
「は……、はぁ……、そうですか……」
何処と無く考え深そうに竹一隊長に対し、俺は戸惑いながら返事を返す。
いやぁー、だってさぁ……、何の心構えもなしに親子2世代因縁の相手に対面したんだよ……、返す言葉が無いに決まっているじゃないのよ……。
っていうか、沙織達……、「えっ、どういう関係?」みたいな視線で見ないでくれよ……。
さっきも言った様に俺も酒に酔った親父から聞いただけで、詳しい事はまだ一切知らないんだよ……。


ジーっと向けられる沙織たちの視線を前に、俺が胸の内でそう思っていると側で竹一隊長は腕時計を見ると、まほさん達に向け、こう言い放つのだった。
「もう時間だ、連絡艦に戻るぞ」
「えぇ……」
「分かりました」
「了解です。じゃあな……、龍、みほ」
そう竹一隊長の言葉に従う様にして、店を出るべく歩き出す。
はぁ……、玉田とまほさん、竹一隊長は兎も角……、エリカの奴はさっさと眼中から消えて欲しいぜ……。
ふと店を出るべく歩いて行く黒森峰陣の後ろ姿を見て、そう思っていると当のエリカが突如として俺達の方に振り返ると、嫌味たっぷりにこう言い放つ。
「そう言えば、あなた達大洗学園の一回戦の相手はサンダースだって?無様な戦いをして、これ以上、戦車道と西住流に泥を塗る事はやめなさいよ」
「お前、言い過ぎだぞ……」
この差別的とも言えるエリカの発言に対して、玉田が三度咎める側では怒り心頭の武部と五十鈴が立ち上がりざまにこう言い放つ。
「ちょっと言い過ぎよ!!」
「幾らなんでも酷すぎます!!」
「はぁ……?」
この五十鈴と武部の怒りの声に対してエリカと嘲笑いながらこう返す。
「アタシ達はこの最低の隊長のせいで名誉ある10連勝を逃したのよ……、コレぐらい言われて当然よ……、それに本来、彼女は『殺されるべき存在』なのよ……」
「いい加減しろ!!流石の俺でも、これ以上の発言は許さんぞ!!」
エリカの言い放った『彼女は殺されるべき存在』と言う言葉に流石の玉田も堪忍袋の緒が切れたらしく、ワルサーをホルスターから引き抜き、エリカの顔面に突きつける。
だが、そんな光景も俺の眼中には入ってこなかった……。
と言うか……、それよりも先に今まで感じた事も無い様なドス黒いペンキ……、いや……、”カーボンナノチューブ黒体(※ギネスブックにも登録されるかもしれない、現時点で「地球上に存在する物体で最も黒い」物体)”の様にドス黒いな感情が胸の奥底から湧いていた。

何だと……、みほが殺されるべき存在だと……?
ふざけんじゃねぇぞ……、ふざけんじゃねぇぞ……、ふざけんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉーーーっ!!

そんな怒りの感情と共に俺は手にしたフォークを指先でへし曲げると、机をバンッ!!とグーで殴りつけ、跳ね上がる様に立ち上がるなり、エリカに向け、こう言い放つ。
「おい、テメェ……、確かエリカとかいった?テメェの言っている「やれ、9連勝」だの、「やれ、鬼の黒森峰」だが知らんがよぉ……、コチラとて部外者のアンタ達にゴタゴタ言われる筋合いはねぇ!!」
「お、おい、龍……、落ち着け……、コイツの事は俺達の方で……」
「うっせぇ!!玉田、お前はすっこんでろ!!コレは俺と|コイツ《エリカ》の問題だ!!」
完全にブチ切れている俺を玉田が、エリカにワルサーを突きつけた状態で宥めようとする。
そりゃなぁ、お前の所の身内が起した問題だから、お前自身が責任を持って裁きたいって言うのは分かるぜ……。
だけどよぉ……、玉田……、今のコイツは俺を本気で怒らせたんだよ!!
そんな感情を再び大爆発させながら、俺はエリカに対して罵声を浴びせる。
「それにテメェ……、よく言ってくれたな……、みほを『殺されるべき存在』だって……、それだけの事を言うって事はそれ相応の覚悟決めて言ってんだろ!?そんな覚悟も無いまま、言ってるのか!?このアバズレ女がぁっ!!そんな覚悟も無いんで言ったんだら、今すぐにでも首の骨へし折って、海に叩き込むぞ!!」
「何よアンタ!?玉田の幼馴染で、今は副隊長の彼氏か何か!?よくわかんないけど、部外者は口を閉じて、すっこんでなさい!!」
「そっちこそ、黙りやがれ!!見ず知らずのアンタに幼馴染の存在を否定される筋合いはコチラとて、ねぇ!!」
そう周囲の視線を気にする事も無くヒートアップする俺とエリカの口喧嘩。
この野朗……、決着が付くのは来年のクリスマスか!?
そんな感情と共にエリカに対して、言葉を返そうとしたときだった……。
「龍……、お前は少しだまってろ……」
と、言う巽の高校生らしかぬハードボイルドな口調が俺とエリカの口喧嘩に割って入るのだった……。





……

………



<巽Side>
「龍……、お前は少しだまってろ……」
いきり立つ龍を座らせた俺は、逸見エリカを殺気を込めた眼で睨んだ。
「黙ってりゃいい気になりやがって。この雌犬が!黒森峰は、こんなの”雌犬”のしつけも出来てないらしいな」
あまりの毒舌に、周りはドン引きしていた。逸見に至っては、俺に”雌犬”呼ばわりされたので怒りでわなわなと震えている。
こちらのメンバーは、全て”ドン引きに近い状態”である。
「な、なんですって!!あ、あんた!」
雌犬発言に切れる逸見。この程度の挑発にのってくるとなるとたかが知れる。
「ほう、やっと本性むき出しにしたか。副隊長が、こんな挑発でキャンキャン吠えるようじゃ黒森峰も落ちたもんだ」
「無名校の分際で……。いい!戦車道には暗黙のルールがあってね、戦車道のイメージダウンにつながるような学校は試合に参加しないのが当たり前なのよ!負けて精々恥でもかいてなさい!」
怒りをむき出しにしながら暗黙のルールとやらを持ち出してくる。
「勝手にほざいてるんだな。この馬鹿が」
「ふざじゃけんじゃないわよ!無名校の癖に!!」
有名校は、何かとつけて無名校を馬鹿にしてくる。これがその一例だなと思う。
「それに、いつまでも同じTV番組を毎日見せられるより、たまには、別のTV番組を見させてもらってもいいはずだしな」
一部の人間は、俺の言っている言葉の真意に気付いてハッとした表情をする。
要約すれば、こちらが優勝させてもらうという事だ。
「調子に乗って……!」
その言葉の真意に気が付いた逸見は、俺をにらみ殺さらんとばかりに殺気をぶつけてくるが、俺はそれを無視し席に戻った。





……

………



<龍Side>
とまぁ……、こんな感じで高校生らしかぬ”ハードボイル”を俺達&エリカ達に見つけた巽は席に戻るなり、注文したコーヒーを飲んでいく。
うーん……、この作品を読んでいる読者の中には多分、同じ事を思っている人も少なからず居ると思う……。

|こいつ《巽》、高校生か?

巽の一連の行動と共にそんな感情が胸の内にドッと湧いてきて、先程までの凄まじい怒りがスッカリ消沈していた。
そんな俺とは裏腹にエリカの奴は、「グルルルッ!!」と唸って、威嚇する野犬の様な表情で俺達を見つめてくる。
確かに……、こう言った行為を見ると……、巽の言っている「メス犬」も間違いじゃないな……。
完全に怒り心頭と言った様子で怒りマークを多数、頭に浮かべるエリカを見て、そう思っていると竹一隊長がエリカの元へとやって来る。
「おい……、エリカ……」
「………」
「行くぞ、エリカ!!」
そう言って竹一隊長が多少荒っぽく、エリカの腕を掴んで連れて行こうとした瞬間だった。
俺と巽の反論から沸いて来たエリカの怒りが間髪を入れる事無く大爆発する。
「ですが、竹一隊長!!」
だが、その怒りは周りに広がる事無く沈められる。
理由は簡単……、何故なら”エリカの奴が発言するよりも先に、竹一隊長が彼女の顔面にアイアンクローを決めたから”だ。


っていうか……、アイアンクローの決まった、エリカの髄骸骨からメキメキ言ってるのが聞えてきているけど……、大丈夫なのか?
エリカの体(※と言うか、頭蓋骨)から聞えてくる”人体から鳴っちゃ、いけない音”を前にそんな事を思っている側で、竹一隊長はエリカの顔面をアイアンクローで掴んだ状態で15cmぐらい持ち上げ、”低くドスの聞いた声”でこう言い放つ。
「エリカ……、貴様……、副隊長の身分で隊長に逆らうつもりか……?」
「も、申し訳ありません……っ!!」
こんな殺気ムンムンな竹一の声を聞き、スッカリ恐怖のどん底に突き落とされたエリカが態度を180度一転させて、謝罪する側で竹一は更にエリカの髄骸骨を粉砕せんとばかりにアイアンクローの力を増強させながら、こう言い放つ。
「今度、逆らって見ろ!!容赦なく、その場で副隊長の職を解任すると同時にチームから追放してやるからな!!よーく覚えておけ!!」
「わ……、分かりましたぁぁぁっ!!痛い、痛い、痛い、痛いッ!!痛いです、竹一隊長殿ぉぉっ!!」
悲鳴を上げながら、竹一の言葉に復唱を返すエリカを見ながら竹一は「ちっ!!」と明らかに聞える様な舌打ちをすると、アイアンクローで持ち上げていたエリカを降ろす。
降ろされたエリカは「先程までの威勢は、どこ言った?」と聞きたくなる様な弱りぶりで、ヘロヘロとまほさんの元へと歩いていく。
「玉田、行くぞ……」
「了解です」
そんなエリカを見て、竹一隊長は玉田に対し、こう言い放つ。
玉田はこの竹一隊長の指示に復唱を帰すと、俺に顔を向けてこう言い放つ。
「龍……、みほ……、迷惑掛けたな……」
「玉田、お前が誤る事はねぇよ……」
「うん……、そうだよ……」
「そう言ってもらえて、気が楽なるよ……、じゃあ……、今度はゆっくりと茶でも飲みながらな……」
この俺とみほの返事を聞き、玉田は少なからずホッとした様な表情を浮かべ、竹一隊長達の元へと歩いていく。
そんな竹一隊長は玉田がまほさん達と共に店を出るを見た後、俺達に顔を向け、こう言い放つ。
「確か……、大洗学園の初戦はサンダースだったよな?サンダースの海兵隊共には気をつけろ……、奴らは『死すら恐れない地獄の番犬共』だぞ」
せめてもの罪滅ぼしなのか、竹一隊長はサンダース戦を迎える俺達に一言、”アドバイス(?)”を告げて、後ろを振り返る。
そして更にこう言い放つのだった。
「あと、部下が迷惑掛けたな……、隊長として言わせてもらう……、悪かったな……」
一言、そう言い放って竹一隊長はまほさん、玉田の後に続く様に店を後にするだった。
その背中から、”少なからず悪い人で無い”と思わせる様な雰囲気を漂わせながら……。





……

………



そんな一連の出来事の後、俺とみほは揃って学園艦にある海の見える公園で夕日に赤く染められながら、たそがれていた。
「玉田の奴と、まほさん……、元気そうだったな……
「……そうだね」
海から匂う塩のしょっぱい匂いを感じながら、俺はみほに、そう言葉を掛けるが、みほは気力の無い声で弱弱しく返すだけだ。
やはり……、”敵となった、まほさん&玉田との喜べない再会”と”エリカの野朗に言われた事”が相当来ているのだろう……。
”暴走・熱血漢な性格(※と、両親&裕也達は言う)”の俺は特に大した事は無いが……、心優しい性格のみほなら、無理も無い事だ……。
「エリカの馬鹿が言った事なんて、気にするなよ……」
「……うん」
そう胸の内で思いながら、俺はみほの気を少しでも楽にしてやろうと、そう優しく諭すが、今の状態のみほには全くの無意味だ……。
うーん……、みほが自殺しないか見張る為にも、今日はずっと側にみほの居てあげた方が良いかな
生気の感じられないみほの様子を見て、そんな考えが脳内を駆け巡っている中だった。
「あ、西住殿と喜田川殿」
「うん?」
俺とみほの後ろから、ふと聞き覚えのある女子の声が掛けられる。
その声に俺とみほが揃って振り返ると、そこには自販機で購入したと思われるホットの缶コーヒーを3つ持った秋山の姿があった。
「寒いでしょうから、コーヒーを買って来ました。どうぞ、飲んでください」
「おっ、悪いな」
「秋山さん、ありがとうね」
秋山が差し出したコーヒーを俺とみほは揃って受け取ると、プシッ!!と言う音と共にプルタブを開け、コーヒーを飲んでいく。
そして暫くコーヒーを飲んだ後、俺達3人は揃って「「「ふぅ……」」」と一息付く。
さっきの戦車喫茶店でもコーヒーは飲んだけど、あんな事があったからな……、正直言って……、不味いと言ったらありゃしないかったぜ……。
口の中に広がるコーヒーのほろ苦い味と共にそう思っている側で秋山は公園の柵に手を置き、夕日によって真っ赤に染まった海を見ながら、感慨深そうにこう言い放つ。
「西住殿、喜多川殿……、私は全国大会に出られるだけ幸せです……」
「へぇ……?」
一瞬、疑問が湧くが、冷静になって考えると理解できるな……。
元々、人付き合いが苦手で、戦車しか友達が居なかった秋山がみほや俺達と共に戦車道をやって、更に戦車道の全国大会に出るなんて夢の様な出来事なんだろう……。
感慨深そうな表情を見せる秋山を見て、そう思っていると当の本人はこう言葉を続けた。
「他校の試合も見れますし……、大事なのはベストを尽くす事です、たとえ負けたとしても……「それじゃぁ、駄目なんだよねぇ~」えっ?」
と、その言葉は完全に秋山が言い切る前に、これまた何処かで聞き覚えのある事によって中断される。
つーか、「人の会話にイキナリ割って入って中断させる」って事を平気でする人って言ったら、身近に居る人では、タダ一人だ……。
そう思いながら、俺とみほ、秋山が揃って振り返ると、そこには予想通りと言わんばかりに両脇に小山先輩と河島先輩を引き連れた状態で、角谷会長が仁王立ちしていた。
つーか、もう見慣れたよな……、この光景……。


もはやテンプレートと言わんばかりの会長達の状態を前にして、そんな感情が湧いてくる。
そんな俺を始め、みほと秋山を含めた俺達3人に対して会長達は少なからず複雑そうな表情で淡々とこう言い放つ。
「絶対に勝て!!我々には勝利しか許されてないのだ!!」
「そうなんですよ~、もし負けたら……」
河嶋先輩の発言に続く様に小山先輩が何かを言おうとした瞬間、会長が「しっ!!」と言って口の前に指を立てて、小山先輩の発言を中止させる。
何だ……、この会長達の行動はちょっと不自然過ぎやしないか……?
ひょっとしたら、この戦車道に裏に大事には出来ない事情でもあるのかね?
うーん……、流石にそれは我ながら考え過ぎか……。
小山先輩と会長のやり取りを見て、ふとそんな考えが胸の内を過ぎる中、会長は何時もの不敵な笑みを浮かべると俺達3人に顔をグイッ!!と近づけながら、こう言い放つ。
「とりあえず、全ては西住ちゃんと、喜多川ちゃんに掛かっているからね、絶対に勝ってね!!」
「そりゃぁ……、俺とみほだってムザムザと負けるの前提で戦うつもりは満更無いですよ……」
俺とみほとて、最初から負ける事を前提で指揮を取っている訳じゃないからな……。
勝てる試合ならば、相手が有名校だろうとお構い無しに、徹底的にトコトン勝ってやるつもりだ。
そんな考えと共に俺が代表して、会長にそう言葉を返すと会長は再び「ふ、ふぅん♪」と言う不適な笑い声で笑いながら、こう言い放った。
「今度、負けたら何してもらおっかな~?考えとくね~♪」
「出来れば……、生命に関わらないのでお願いします……」
そう俺が頼み込むと会長は「はい、はい、分かったよ~……」と、俺の言ってる事を全く気にも留めない口調で返し、河島先輩と小山先輩を引き連れて、鼻歌交じりに帰っていく。
はぁ……、全く……、会長達も会長達で通常運転だなぁー……。


去っていく会長達の後ろ姿を見て、ふとそんな事を思いながら、俺は一回息を吐きながら、みほに問い掛ける。
「んで……、みほ。お前はサンダースの奴らが、どう出てくると思う?」
この俺の問い掛けに対し、みほは「うん」と言って相槌をしながら頷くとこう言葉を続けた。
「初戦だから主力はシャーマンで、ファイヤフライやパーシングは出てこないと思うけど……」
「だが、サンダースが誇る”殴りこみ部隊”である、サンダース海兵隊共が「初戦だから、俺達休み!!」なんて黙ってるとは思えないぞ……」
「うん……、その可能性も否定できないんだよね……」
「万が一、出てきたら不味い事になるな……、俺の5式やみほの4号は愚か、巽達のパンターですら一撃だ……、手を焼く相手である事には間違いからな……」
そう俺がみほの言ってきた予想に対し、そう言葉を返す側で、みほは更に言葉を続ける。
「それに……、シャーマンはシャーマンでも、イージーエイトやジャンボはかなりの強敵だからね……」
「あぁ、それも心配だな……」
確かにみほの言う通り……、シャーマンのバリュエーションの1つである『イージーエイト』&『ジャンボ』は間違いなく強敵だろう。
イージーエイトは数あるシャーマン戦車のバリュエーションの中でも”決定版”と言わしめる程の高性能であり、1950年から1953年に掛けて行われた、朝鮮戦争ではアメリカを始めとする連合軍の主力戦車として、M26パーシング&M46パットンと共に、北朝鮮&中国の主力戦車であるT-34/85と放火を交え、多数を撃破している。
そして、ジャンボはシャーマンシリーズの中で一番の重装甲を誇るタイプであり、ドイツ軍の対戦車砲や駆逐戦車が待ち伏せている可能性が高い前線において先陣を切って活躍したタイプだ。
この2種類のシャーマンはいずれも、サンダース海兵隊……もとい、アニマルハンター部隊で使用されているM26パーシング程では無いにせよ、敵に回したくない戦車あるのは間違いない……。
それ以前にサンダースの主力戦車であるシャーマン戦車は、『第二次世界大戦における連合軍の勝利に、ソ連のT-34戦車シリーズと共に大きく貢献した戦車』と言わしめる程に優れた戦車だ。
ハッキリ言って普通のシャーマンでも、5式や4号、そしてパンターと言った一部の車両を除いて、殆ど貧弱な装備しか持たない俺達からすれば十分脅威に当たるのだ……。
はぁ……、全く……、戦う前から涙が出てきそうだぜ……。
「せめて……、部隊編成だけでも、分かればなぁ……、少なからず手のうち用があるってもんだが……」
「うん……、そうだよねぇ……」
思わずそんな弱音がポロッと俺とみほの口からこぼれた瞬間だった。
「つまり……」
俺とみほのやり取りを聞いていた秋山が突如として、口を開いたかと俺とみほが思った次の瞬間には、秋山はこう言葉を続けた。
「西住殿と喜田川殿は、サンダースに関する情報が欲しいと言う事ですね?」
「……うん」
この秋山の問い掛けに対し、みほが少なからず弱った感じで頷くと秋山は一回息を吸うなり、大きな声でこう言い放つ。
「分かりました!!待っていて下さい!!この秋山優香里、西住殿と喜田川殿のお役に立てるように頑張って参ります!!」
「「え?」」
俺とみほがこの宣言に対して、呆然としてしまう側で秋山は猛ダッシュで何処かへと走っていく。
「アイツは、一体何をするつもりだ?」
「さぁ……?」
小さくなっていく秋山の背中を見て、俺とみほはそう呆然としながら、言葉を交わすだけしか出来なかった……。
なぉ、後に”巽達も秋山と同じ事を考え、実行していた事”を知ったのは随分と後になってからだった……。





……

………



<巽Side>
「巽。サンダースは、どう動くと思う?隊長さんは、サンダースはウチを弱小校となめてかかって『ファイアフライ』や『シャーマンジャンボ』はださんだろう予測しているがな」
学園艦に戻った俺と室戸はサンダース対策について話ながら、おやっさんの店へと足を延ばしていた。
「甘い予測だな。俺なら全力で叩き潰す」
ウチの隊長は、分析の面では少し甘い面があるみたいだった。それは、仕方がない。
まあ、経験を積んでもらうだけしかないと俺は思った。
「しかし、負けたら俺達には明日はない。それだけは、分かっているがな」
そう言い室戸は軽くため息をつくのだった。
そして、どうこう会話しているうちに目的地であるおっ屋さんの店にたどり着いた。
レジには、相変わらずグラサンをかけたジェイクさんがレジ番をしている。
この人は、昔、東欧なのかどこか知らないが傭兵をやっていたのだが…窮地に陥ったところをおやっさん(達)に助けられて今に至るらしい。
時々、メンバー交えて一緒に飯食ったり、格闘を指導してもらったりもする。
「どうも、ジェイクさん。おやっさんは?」
「まだ、学園の方にいるみたいだ。それと、おまえのとこの戦車道の1年の女子が事務所に居るぞ」
それを聞いたとき、流石の俺でもドキッとした。ま……まさか万引きか!?と最悪の事態が頭に浮かんだ。
そんな俺に気が付いたのかジェイクさんは、笑いながらこんなことを言った。
「お前が考えてるようなことじゃない。安心しろ。なぜか、分からんが戦車帽コーナーで戦車帽をジーッと見つめて立ってたんで気になってな。今、シェリーとイカレ野郎・・じゃなかったマードックが面倒見てる」
そう言われ俺は、事務所に入るとそこには……のほほん?とした光景が広がっていた。
「キンツバおいしい?こぶ茶飲む?いっぱいあるよ~ほ~ら」
「キンツバは、たくさんあるから遠慮せずに食べていいわよ」
「………」(笑顔でコクコク)
シェリーさんとマードックさんの間にキンツバを美味しそうに食べる一年の女子が居た。その顔には見覚えがあった。確かM3リーの搭乗員の一人で丸山紗希だったはず。
いつも、どこかを見上げている女の子で無言だ。誰かがしゃべっていてもボケッーとどこかを見上げていることが多い。
心配になって、うさぎさんチームのメンバーに尋ねてみたところ「チャンと聞いてくれている」、「聞き上手だから大丈夫」と教えてくれた。
話を戻すが、シェリーさんは事務員としてここで働いている。いわゆる金髪美人のお姉さんでジェイクさんの恋人?らしい。
マードックさんは、ハンニバルさんの部下で凄腕のパイロットなのだが……精神をやられているらしく意味不明な行動をする。
スミスさんが軍をやめる時一緒についてきたとのこと。ついでに、後2人程スミスさんと共に軍を除隊してここで働いている。
まず1人目は、”テンプルトン”さん。通称”フェイス”さん。
イケメンの白人のお兄さんなのだが……女性関係でいつもトラブルを起こしている。
根回しが得意でどんなものでも手に入れてくれる調達の達人。
本人曰く「ミサイルから、ブラジャーまで何でも揃えてみせるぜ」との事。
そして、2人目は”バラカス”さん。大柄の黒人で”メカの天才”。
どんなものでも修理・改造してしまう。時々、阿仁屋にメカニックを教えてくれている。
しかし、ときどき4人とも居なくなる。なぜだろう?以前、おやっさんに聞いても、ニヤリと笑うだけで教えてくれなかった。


俺と室戸は、近くの椅子に座り丸山に話しかけた。
「なんでこの店に?女の子一人で来るには珍しいが?」
室戸がキンツバを手に取りながら聞く。
「………」
しかし、丸山は喋らなかった。こちらをぽけ~っと無言で見てるだけだった。
「「??」」
なぜ喋らないのだろうと不思議に思ったところ、マードックさんが口を開いた。
「この子は、戦車帽を探してたんだよ。自分達のチームのメンバーが被るための戦車帽を!ね、紗希ちゃん!」
それに対し丸山の反応はコクリと頭を縦にさげた。
なんで分かったんだろうか?思わず聞いてみた。
「なぜ、分かったて?それはテレパシーだよ!テレパシー!彼女に見つめられた途端頭の中に丸山ちゃんの言いたいことが頭にわいてきたんだよ。彼女は、エスパー少女なんだよ!!アハハハハ!」
と大笑いした。この人は本当に不思議でしょうがない。
念の為、テレパシーが使えるのかエスパー少女なのかと聞いてみると、困った顔をした丸山は頭を左右に振るだけだった。
「世の中は、摩訶不思議だな」
室戸は、そう言って天井を仰いだ。
そうやってなんやかんやしていると、事務所にハンニバルさんとコングさん、フェイスさんが入って来た。
「おや、この子は?確か……コング。名前はなんてたっけ?」
「ハンニバル。M3リーの装填手やってる丸山ちゃんだよ」
「へえ、この子が丸山ちゃんか……本当に不思議ちゃんだねえ」
どうやら丸山は、この3人の間でも興味をもたらす魅力?みたいなのがそなわってるらしい。
注目を集めている丸山自身も、ハンニバルさん達3人を無言で見つめている。
「そういえば、今度の対戦相手はサンダースだって?どこかの軍曹みたいな名前の?」
ふとなにか思い出したようにスミスさんが話し始めた。
「ええ、そうです。近いうちに偵察に行こうかと……でも、潜入するにもあちらさん(サンダース)の制服がまだ手に入らなくて」
『偵察』という言葉を聞いてスミスさんは、何やら悪だくみを思いついた子供のようにニヤリと笑みを浮かべこう言った。
「ほう偵察か。俺達の”18番”だな。おい、フェイス。”あれ”を持ってこい」
「りょ~かい。ハンニバル」
そう言うとフェイスさんは、奥へ引っ込んだと思ったら目的の物を持って俺達の元へとやって来た。それを机の上に置いた。
「おいおいおい!」
室戸が思わず声を上げる。そうそれは、俺達が手に入れようとしても中々手に入らなかった「サンダースの男子制服」(1着だけだった)。


本当どうやって手に入れたんだ!?と感心したが
「中古の制服をネットで先に手に入れただけだ」
という言葉に頭を抱えそうになった。
なるほど……いくらネットで中古の制服を探しても見つからんわけだ、やれやれ……。
「まあ、いいじゃないか。さあ、どうする?巽。」
答えは決まっていた。
「俺が偵察に行ってくる。いざという時は、室戸。お前が車長やってくれ」
戦車道のルールで、試合前の対抗校の偵察は認められている。しかし、捕まったら試合終了まで軟禁である。
「でも、どうやってサンダースに行くんだ?定期便か?連絡船?それとも他の手か?」
しかし、相手の学園艦に行って偵察しなきゃ意味はない。しかし、どうやって行くかが問題だ。
「心配ない。小型機で相手の学園艦に向かう。直ぐにチャーターさせる」
とスミスさんは、葉巻を咥えながら再びニヤリと笑った。本当にハードボイルドだった。
「でも、相手にばれた時はどうやって脱出するんだ」
「ヘリで迎えに来よう。携帯で連絡してくれ」
と、ハンニバルさんはそう言った。
「ヘリで迎えに来てくれるとは言っても・・航続距離が足らなきゃ海にドボンですよ」
「角谷君に連絡して出来るだけ、サンダース艦に近づけてもらうよう頼むさ。大丈夫。OKしてくれるはずさ」
そう言ってにやりと笑った。この人の笑顔には、なぜか人を引き付ける何かがある。不思議だ。
「これ、発煙筒。何かあったら使ってくれ」
と、フェイスさんが発煙筒数本と隠しカメラを渡してくれた。
「さあ、出発の準備だ。善は急げだ」
こうして、俺はハンニバルさんに促され、急いで侵入の支度をし出発の準備を始めるのだった。
ついでにだが、この場に居た丸山は、いつのまにか頭にリボンのついたウサ耳とピンクの尻尾を誰かに付けられていた。
そのおかげで丸山は、事務所に入って来た他の女性事務・従業員に抱きつかれたり、写真撮られたり、なでなでされたりと大人気だった。
丸山自身は、嫌がっている様子はないが顔を赤らめて困ったような表情をしていた。





……

………



そして、数時間後
チャーター機でサンダースの学園艦に俺は到着した。
「まさに”金持ち艦”とアメリカって感じだ」
グロリアーナもでかかったがサンダースもでかい。
まるで、日本の中のアメリカに居るみたいだ。
もしかしたら、この学園艦で使われる通貨は円でなくドルかも知れない。
「金がなきゃ何も出来ない国だけどなあ」
とぼそりと呟いた。
「まあ、これから”状況”によっては金持ち艦になるかもな」
と、ぶつぶつと独り言を言いながら歩く。
すると、携帯にメールの着信を知らせるバイブがなった。
送り相手は、反田からだった。内容は、黒崎が恋人であるぴよたんの胸を揉みながらいちゃついてる所を運悪く”風紀委員”3人組に見つかり連行されたとの事。
一体、学園でナニやってるんだと頭を抱えたくなった。あのお調子者のスナイパーには、時々頭を抱えさせられるから困る。
”この馬鹿が”と伝えておけとメールすると近くの公衆トイレに入りサンダースの制服に着替えるのだった。
戦車道のルールで、試合前の他校の偵察行為は認められているが、拘束されたら試合終了まで拘束だ。捕まるへまを犯すわけにはいかない。
こうして、すんなりと俺はサンダース校の中に侵入したのだった。
そして、掲示板で格納庫の場所を確認しそこへ向かうのだった。





……

………



「嫌になるほどシャーマンばっかりだな」
格納庫に入り込んだ俺は、さまざまな種類のシャーマンを見ながら呟いた。
シャーマンとは言ってもさまざまな種類があるが……。
怪しまれないよう注意深く辺りを偵察していたところ、見覚えのある人影が見えた。
「なんで秋山がここに?あいつも俺達と同じように偵察にきたのか?たいしたタマだ」
俺は、一応念の為に秋山が偵察に来ていたことを伝えたところ、皆驚いていたが……無茶しなきゃいいがと心配してしまった。
秋山が格納庫を出て行ったのを確認した時だった。
「今度の試合じゃ何をだすのかな?」
「そういえば、ファイアフライを出すみたいなことをアリサさんが言ってたよ」
どうやら会話の内容からすると、今度の試合に出場する戦車に関しての話で間違いないみたいだった。
「あと、パーシングも出すってバーニィ隊長が言ってた。カリオペ付で」
”パーシング”という言葉を聞いた時、俺はすぐさま反応した。第二次大戦末期に登場し、あのティガーやパンターを倒すために作られた戦車だったはず。
ファイアフライだけでなく、パーシングとなると厳しい戦いになるのは間違いなさそうだった。
また、よりよってロケットの発射機まで装備してくるとは。
試合開始と同時に、ロケット弾による面制圧攻撃をかけられる可能性が高い。
その時、気になる会話が聞こえた。
「そうそう、アリサさんが”例のアレ”を用意してておいてと言ってたけど大丈夫かなあ」
「ばれなきゃOK!って言ってたけどいいのかなあ。フェアじゃないってケイさん怒りそうだけど」
少し気になる話が聞こえてきたので、耳を澄まして聞いてみる。アリサという少女に関する事(男関係)ばかりで、肝心の”例のアレ”に関しての肝心な話しが出てこない。
そして、急いで俺は重要と思われる情報を頭にインプットした後、試合に関する発表が行われる会場へと向かった。





……

………



発表会場にも案外すんなりと入れたことに驚きつつも、敵の戦車の概要やフラッグ車の種類も分かったので万々歳だった。
用も済んだのでさっさと帰ろうかと思ったのだが
なんと、秋山が堂々と質問し始めたのだった。おかげでフラッグ車の防御は無し、小隊編成も分かったので万事問題なしだったが……、ナオミという長身ボーイッシュな女子生徒が立て続けに質問する秋山を不審に思ったらしく、所属と階級を聞いてきた。
なんて答えるのかとドキドキしたが……。
「第六機甲師団、オットボール三等軍曹であります!」
思わずこけそうになった。おまけに壇上に居る”ケイ”と”マックシェイク野郎(※後に彼がサンダース雄型チーム隊長の”バーニィー”だと判明)”なんか腹を抱えて馬鹿笑いしている。
仕方無いので俺も行動にうつすことにする。
「偽も……、「そして、もう一人!!」え!?」
壇上や周りの視線も俺に集中する秋山もだ。
「第2SS師団『ダス・ライヒ』所属、エルンスト・バルクマン軍曹!」
そして、驚いて突っ立ったままの秋山をお姫様抱っこする。
一部の女子が黄色い声をあげるが無視して逃げる。
そして、出入り口の扉を閉める際に発煙筒を放り込んどいた。
「べらべらと質問しすぎで尻尾掴まれたな。秋山!」
秋山の手を引っ張って走りながら叫ぶ。それに対し秋山は、顔を赤らめながら「す、すみません!」と答える。うん、可愛い。
辺りがぎゃあぎゃあと騒がしくなってきた。どうやらこちらのスパイ騒ぎが学園艦中にばれたらしい。全く厄介なことだ。
「いたぞ!あそこに大洗のスパイが居るぞ!!捕まえろー!!」
「あの二人を捕まえなさい!」
「止まれ、止まらないと撃つぞおぉっー!!」
アリサとナオミっていう名の女子の声が聞こえる。
それと同時に雄型の”副隊長と思われる男子(※これも後にサンダース雄型チーム副隊長の”ジェームズ”と判明)”の声と共に、「ズギュン!!ズギュン!!」と言った2発の銃声が聞える。
これに後ろを振り返ると、その副隊長と思われし男子が第一次世界大戦に採用され、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争において、アメリカ軍の主力拳銃として活躍した”コルトガバメント”のペイントガンを宙に向けて、威嚇射撃していた。
いかにもアメリカらしい行動……って言うか、もう既に「撃っている」という突っ込みは野暮なんだろうか?
んで、つかっまたらヤバそうなので懐から携帯を取出し電話する。
「ハンニバルさん!ヘリで救出お願いします!」
『もう準備は出来ているからな。サンダース艦との距離も近づいてるから何とかヘリで迎えにいける』
「流石は、生徒会長ですねぇ……」
『話の分かる生徒会長で助かるよ。だが、救援要請がくるのは意外と早いな。何があったんだ?』
「俺以外に侵入している人間が居て……ぼろ出してバレタので一緒に逃げてます」
『分かった!直ぐにヘリで救出に向かう。待ってろ20分で着く。それまで、逃げ回れ!』
「はい!」
そう言って、電話を切ると秋山に向かってこう言った。
「さあ、逃げるぞ!秋山!捕まったらアウトだ!」
「は、はい//!」





……

………



そして、建物を抜け出したが、もう警報が出されているらしく辺りは大騒ぎになっている。
蝶野教官……いや、「亜美ねえ」が見たら「おもしろいわ~w」と胡坐かきながら言うだろう。
俺自身、小さい時、一緒に遊んでもらったことがある。今となっては、いい思い出だ。
そんな事を考えながら戦車格納庫へ走っていると、近くにジープが停車してあった。船の上だが、逃げるには便利だ。
ヘリが来るまでのアシとして使わせてもらう事にした。幸い、カギはささったままだった。
「秋山。乗れ!」
「は、はいい!?でも、いいんですか!?勝手に乗っちゃって!」
「非常事態だから仕方がないさ」
そう言って、エンジンを始動させると軍用車らしいエンジン音を響かせる。うん、これはいいものだ。
「ちょ!?ちょっと!そこのあんた。そのジープはウチの隊長のよおお!!!」
会場に居たそばかすっ娘が怒りながら叫ぶが気にせず、猛スピードでその場を急発進した。
途中、カーチェイスをしつつ、ハンニバルさんから電話があったが運転中だったので、秋山にとらせて要件を聞く。
「巽殿!発煙筒でスモークしてくれとの事です!!」
「分かった!しかし、ヘリが着陸できる場所は……あった!」
数百メートル先に、グラウンドらしきものが見えてきた。
勢いよく、ジープをグラウンドに滑り込ませると発煙筒を放り投げる。煙がもくもくと立ち上がる。
しかし、後方から……「みつけたわよおお!!」、「そこよ!捕まえろー!!」などの声と多数のエンジン音が聞こえてきた。
「やべえ……」
「巽殿……」
捕まったら‥終わりだ。そう思った時、空から”救い”がやってきた。
聞き覚えのあるヘリのローター音が耳に聞こえてきた。
追いかけてきたサンダースの連中も驚愕に包まれ固まっている。UH-1が俺達の近くに着陸すると、ドアを開いてハンニバルさんが出てきた。
中には、フェイスさんとマードックさんが居た。
「いそげ!早く乗れ!」
そう促され慌ててヘリに乗り込むも、ハンニバルさんは”何か”に気が付いたらしく俺達が乗って来たジープの後部に向かって走る。
「ハンニバルさん!?」
何事かと思ったら、ハンニバルさんが両脇に何かの箱を抱えていた。
「志郎!戦利品を忘れてるぞ!第二次大戦中の復刻版レーションだ!いい手土産になる。まだ、あるからとって来い!」
なるほど、米軍のレーション(MREでない)か。確かに手土産にいい。


そう思いながらヘリから飛び出し、レーションが詰まった箱をヘリに急いで運んでいく。
何故か、秋山も一緒だった。でも、そんなことしている内に、サンダースの連中が近づいてきた。
「では、脱出だ!でも……、その前に……」
そう言って、ハンニバルさんは、ヘリの助手席に座っているフェイスさんの方を見る。
「ん?なに?」
なんでこちらを見るのか分からないのだろうフェイスさんは不思議そうな顔をする。
「戦利品を積んだから、へりが飛び立つのに時間がかかる。そこで、フェイス……、お前は、ここで降りろ。囮になれ」
「えっ!?」
そこから先は、あっという間だった。ぽかんとしてるフェイスさんをマードックさんにより放り出され置き去りにしたのだった。
上空から見ると……フェイスさんは、周りを取り囲まれ……あっという間に見えなくなった。
まるで、ゾンビ映画のワンシーンだった。取り囲んでいた人間は、主に”女子”だったが。
フェイスさんを置き去りにしつつ、俺達はヘリで学園艦へ帰投するのだった……。