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バルクマンコーナー再来!! (後編)

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  3. バルクマンコーナー再来!! (後編)
<龍Side>
『敵フラッグ車を0765地点で発見!!ですが、こっちも見つかりました!!』
「こちら副隊長。了解、そのまま全力で退避しろ!!」
突如として、膠着状態を破る様に聞こえてきた磯部のフラッグ車発見の報告を受け、俺は磯部に対し、そう指示を出しながら、五式の車内で地図を広げると同時に携帯をいじり、みほに大急ぎで連絡を取る。
「みほ、今の聞いたか!?」
電話がつながるなり、開口一番でそう聞くと、みほは『うん!!』と返すと続けて、こう言い放つ。
『0765地点は、ここから約10キロぐらいだね……』
「あぁ、ココは広い場所に誘き出して一気に叩く作戦で行くか?」
『そうだね』
そう電話越しで作戦会議をしながら、俺とみほは共に互いの戦車の中で地図を広げて、サンダースのフラッグ車を叩く場所を探していく。
この選んだ場所の良し悪しで、俺達の勝敗が決まると言っても何ら過言では無い為、慎重ながらも早く決定しないと……。


そう思いながら、目を皿にして地図を食い入る様に見ていると携帯越しに、みほが話しかけてくる。
『ココからだと0615地点が一番近いね……。龍君、そこで仕留めよう!!』
みほが指摘を受け、俺は素早く0615地点を確認すると、みほが言う様に現在、俺達がいる地点から一番近くにある開けた場所だ。
確かに今の状況で、フラッグ車を仕留めるにはここしか最適な場所は無いと言っても何ら可笑しくないだろうな……。
「OKだ……他の車両にも伝えてくれ、頼むぞ!!」
『う!!』
そうみほに返事を返し、電話を切ろうとした瞬間だった。
『龍、不味いことになったぞ!!』
「ど、どうした葵!?」
普段なら絶対にしない青ざめた表情で叫びながら、割り込んでくる葵。その手には携帯が握られている。
何時もヘラヘラした表情が青ざめて叫ぶなんて、余程の事じゃないとあり得ないぜ……。
そんな只ならぬ事態を前に、心臓がバクバクと激しく鼓動するのを感じながら、俺は葵に問い掛けると葵はこう言い放つ。
『218高地のサンダース本隊を監視している牧達カブトムシチームからの連絡だが、サンダースの奴ら、予想以上のスピードで進撃している!!それも運が悪い事に向かっている進撃先が0615地点の方向だ!!このままだと、俺達がフラッグ車と同時に本隊と鉢合わせする事になるぞ!!』
「な、何だと!?」
葵から伝えられた、このサンダースの動向に俺は驚きを隠せなかった。
なぜなら、現在、サンダースの連中を誘き寄せた218高地は下りでも約25分は掛かる距離だ。それをどうやって短縮したんだ!?
そんな考えが頭の中をよぎる中、葵は携帯を耳に押し付けながら、その俺の疑問の答えを言い放つ。
『どうやらサンダースの連中、設置された道じゃなくて、その脇の斜面を戦車で滑って下りているらしい!!』
「はぁ!?」
この葵の報告を聞いて、一瞬、脳内で「そんな馬鹿な!?」と思ったが、それよりも先にテレビで見た“とある記録”が脳内を過ぎる。


歴史上の戦車戦をテーマにしたドキュメンタリー番組の朝鮮戦争をテーマにした回で、当時、従軍したアメリカ軍戦車兵の証言に、この“状況に似た物があった”はずだ!!
確か……朝鮮戦争で中国が参戦した頃の話だ。圧倒的な戦力でアメリカや韓国軍を包囲しようとする中国軍の包囲から逃れる際に山道を下っていたアメリカ軍のM26パーシングが山道に設置された地雷を発見して、処理班を要請して処理する時間が無いと判断して、その山道の斜面を500m程、パーシングで滑り落ちつつ、走り抜けた。
そして、その直後にそのパーシングを含めた3両の戦車に後続する部隊は中国軍の猛攻撃を受けて壊滅した……って奴だ。
クソッ、まさかこの証言と同じ事をサンダースの連中が、やったって言うのか!?


そんな考えが頭の中を過ぎる中、俺はこの事実をみほに伝える。
「みほ、落ち着いて聞け……。マズイ事になったぞ。218高地に居るサンダースの本隊が0615地点の方向に向かって猛スピードで進撃しているとカブトムシチームから報告があった」
『え、それじゃ……』
俺の報告を聞いて、一瞬で状況を察したのみほが信じられない口調で俺に問い掛けるのを聞きながら、俺も否定した気持ちで一杯ながらも、事実を伝える。
「あぁ、最悪の場合、フラッグ車と共にサンダース本隊と鉢合わせになるぞ!!」
『そ、そんな……』
携帯越しに、これを聞いたみほが愕然とした口調で、そう言い放つ。
そりゃ誰だって、こんな“最悪の状況”に出くわしたら愕然とするだろうな……。
今の俺たちが置かれた状況は「宝箱をあけたら、罠だった」って、感じの状況だ。全く最悪だぜ!!
クソッ、どうすりゃ良いんだ!?どうやって、この最悪の状況を回避すればいいんだ!?
そんな考えが俺の頭の中を猛スピードで駆け抜け、普段は絶対に使わない脳細胞をフル回転させて解決策を見出そうとする。
だがしかし、もはや”打つ手なし”と言わんばかりにサッパリ思いつかない。我ながら、役に立たない脳みそである事をつくづく恨むぜ!!
『どうしよう?どうすれば……』
みほも必死になってこの状況を打開しようとしているが、みほもこのハプニングを前に手が出ない様子らしい。
そりゃそうだろうな……。こんな状況を前に直ぐにパッと答えが思いつくもんじゃない……。


携帯越しに聞こえて来るみほの声に対して、そんな考えが胸の中をよぎる中、俺の頭の中を“ある事”が過ぎる。
「そういえば、巽達は今、遊撃に向かってるんだったな……」
この俺の指摘を受けて、みほも思い出した様に『う、うんっ!!』と呟く。
そのみほの言葉を聞きながら、俺はみほに問い掛ける。
「確か、この報告は巽達も聞いてるのか?」
『そ、そこまでは分からないけど……牧さん達にも何かあったら、巽さん達にも伝える様に指示はしているよ……』
『……そうか』
みほの言葉を聞き、俺はそうつぶやきながら、まるで“大一番の賭けに出るギャンブラーの様に”こう言い放つ。
「巽達に賭けてみよう……」
『ど、どういう事?』
俺の言葉を聞き、言葉の意味が理解できない様子のみほがオドオドしながら問い掛けてくる。
「巽達がこの報告を聞いてるなら、きっと巽達が迎撃に向かっているはずだ……そんな気がする……」
『巽さん達が……』
みほの問いに対し、俺は何故だか分からないが、どこか“絶対的な確信”を得た様な気分を胸に覚えながら、みほに言葉を返す。
(頼むぞ、巽……)
それと同時に俺は、殆ど無意識のうちに、離れた場所で危険な作戦に出るチームメイトの武運を祈ってるのだった……。






……

………



<審判Side>
『相変わらずサンダースは攻撃も贅沢よね~……。』
『あぁ、全くだぜ。あんだけの装備と戦車の維持費ってだけで、俺等の給料軽く超えんじゃねぇのか?』
櫓の上で先程のサンダースの制圧砲撃の後の景色を見ながら、雌型審判のレミと雄型審判の黛が無線越しにそうボヤいている。おいおい、良いのかそんな事話してて……?
『2人とも、試合中なんだから私語は禁止よ!』
そんな2人を叱り付ける雌型主審の香音の声を他所にこの俺、雄型主審の|溝渕《みぞぶち》ダンは大洗の八九式と鬼ごっこをするフラッグ車のシャーマンを眺めていた。最初は大洗の手の内が分かる様に動いていたサンダースだが、どうせ金持ち校のガキ共のやる事だ。大方たんまり貰ったお小遣いで無線傍受機でも買ったんだろう。某這い寄る混沌の宇宙人や魂の収集が趣味のギャンブラー曰く、「犯罪やイカサマはバレなきゃそれじゃない」そうだから、公にならない分には別に俺達も何も言わない。だが、バレたらお前等の学校なんざ即出場停止処分にしてやるから覚悟しとけよ!?

まぁ尤も、それで先にシャーマン2輛やられて今度は的外れな制圧砲撃とはな……。恐らくは大洗側にカラクリがバレて逆手に取られたんだろう。無名校で此処までやれんのは、|単《ひとえ》に指揮官の腕が良いからに他ならない。
流石は西住流の次女さんと、喜多川一佐の息子の龍君だな。あ、言い忘れたが俺は普段自衛官やってんだぜ。特技はダンスで誕生日は1月30日。所属は福岡第12機甲大隊で喜多川一佐は俺の上司だ。だから龍君の事も前から知ってるぜ。一佐の変人ぶりもな。
因みに黛は海自で特技はバスケとオーバークロック。趣味は読書(※主にラノベ)。影が薄いのが悩みの種だ。有坂は蝶野一尉の部下の技術曹でプログラマーとしては天才的。眼鏡とハンカチが欠かせず自分のアイデンティティだとさえ言い切り、何故か「○○で、××で、△△だ」と三つの言葉を並べて物事を形容する癖が有る。俺達3人は普段自衛隊の仕事で忙しいけど、審判の資格を持ってるお陰で戦車道の試合が有ると、日本戦車道連盟からの依頼でこうやって審判に早変わりって訳さ!喜多川一佐もあっさりOKしてくれるから大助かりだよ。
「さーて、此処からどう出んのかな龍君達は……?」
聖グロリアーナ、そしてマジノとの練習試合でも次女さんと龍君の活躍は見させて貰ったが、どっちも無名校で良く頑張ってるよな。成長すら感じさせてくれるぜ。

さて……、八九式とフラッグ車のシャーマンの鬼ごっこだが、これは流れ的に大洗側へ引きずり込んで袋にするって肚だろう。だがそう上手く行くモンかねぇ?サンダースも馬鹿じゃないからそろそろ本腰上げて来る頃だが……おっ?どうやら聖グロの次の練習試合であるマジノ戦でデビューした、あのパンターが動き出すみたいだ。
あのパンターに乗ってる連中……、戦車越しでも只物じゃない雰囲気漂わせてたが、此処から打って出るのか?
あいつ等の事だから何かデカい事やらかしそうな勢いだな。そう直観した俺は有坂とひびき達に連絡を入れた。
「有坂、ひびき!回収車のスタンバイだ!黛、もしかしたらお前も出て貰う事になる。今の内に準備しておけ!」『『了解!!』』
『おいおい、俺もかよ……。』
櫓で俺がそう指示を飛ばすと、黛は不承不承M74戦車回収車とM26装甲戦車回収車の2輛と一緒に配備されていたM25戦車運搬車へと向かって行く。俺は櫓の上からパンターと、同じくサンダースへ向かって行く三式の動きに目を光らせながら、気付いたらこう呟いていた……。

「此処からは大洗のステージだ……。」





……

………



<巽Side>
「ほう、これは願ったりかなったりの状況だな」
カブトムシチームからの連絡で、サンダース本隊が0128高地を攻撃させている際、0765地点で偶然アヒルチームが敵フラッグ車を発見したのだが追い掛け回されており、0615地点にて誘い込み撃破という形をとる……筈だったのだが。
偶然なのか分からないが0128高地に居たサンダース本隊が動きだしたとの事。ついでに、その本隊が0615地点に向かっているという有様。これはヤバい。
「サンダースの本隊が動き出したぞ!0128高地から0615地点に向かってる。よって、中間地点あたりで待ち伏せ遅延攻撃を行う!黒崎、砲弾は“特甲”を使え」
『特甲ですね!一式で距離1000で撃破は難しいですからね。一撃でやるならそれが一番ですね』
三式の砲弾である一式の貫通力は、距離1000で70、500で80という感じだ。被弾傾始の関係でシャーマンを正面からやるには距離600まで近付かなきゃならない。
だが、特甲なら距離1000で80、距離500で100で抜ける。資料が少なくで詳しい事はまだ分からないが、材質を改善した一式徹甲弾や弾頭をソリッド式にした四式徹甲弾があるらしい。
「戦車前進!パンツァー・フォー!」
俺の登場するパンターと黒崎の三式は、エンジンを勢いよくふかし目的地へと急行させる。
さあ、連中に一泡吹かせてやるか。





……

………



<?Side>
その頃、巽達が時間稼ぎの為に待ち伏せている事を知らないサンダース戦車道チームは、0128高地でアリサの企みを知っていながらも、それを止めなかったという罰で先行部隊の指揮を執る事になったジェームズが指揮官として、自身の愛車でもあるイージエイト2両と合流したカリオペ、ケイの部隊から派遣された1両のM4A3を引き連れて0128高地の脇道を滑り降りるなり、0615地点の方向に向けて猛スピードで進撃していた。
「ったく、アリサのヤロー……何が完璧な作戦だよ!!」
「いや、マジで悲惨な事になってますからねぇ~……」
「ホントだよ!!」
愚痴の止まらないジェームズに対し、双眼鏡をのぞき込みながらジェームズと共に索敵にあたっていた装填主が彼のボヤキに答えると、ジェームズは首から掛けていた双眼鏡のガラスカバーを外しつつ、こう言葉を続ける。
「大体、何で先行部隊がパーシングじゃなくて、シャーマンなんだよ……パンターが相手じゃ役不足だ」
「まぁ、最初の位置でケツについていた分、その逆となる以上は自然と位置が頭になりますからねぇ~……って言うか、パーシングを回して貰う様に言わなかったんですか?」
ジェームズの言葉に対して、装填主が疑問交じりに答えるのを聞き、ジェームズは装填主の疑問に答えて行く。
「そりゃ俺だって言ったよ。だけど、あの|海兵隊《バーニィ》とケイ隊長曰く『『フェアプレーに反する事をした奴を止めなかった奴が、贅沢言うな』』ってさ……」
「ははっ……、直接関係の無い副隊長ですらコレですか……。後で当の本人のアリサ隊長は相当悲惨な事になりそうですねぇ~……」
そう苦笑する装填主に対し、ジェームズは覗いていた双眼鏡を下ろすと、更にこう言葉を続ける。
「つーか、あの|海兵隊《バーニィ》の事だからな……アリサが無線傍受しなくても、『お前等のシャーマンは工場から納車したてのピッカピカの新車だろうが!!こっちのパーシングなんか、東京タワーの鉄材にもなれない鉄屑に金出して買って直してんだよ!!お前等の方が恵まれた状態の癖して、贅沢言うな、この陸軍野郎!!』って言って終わりだろうしな……」
「確かに言いそうですね……って、バーニィ隊長達のパーシング中古なんですか?」
ジェームズの言葉に対して、再び疑問を投げかける装填主に対し、短く「あぁ」と呟くと更に言葉を続ける。
「|バーニィ隊長のパーシング《ハンター1》の右フェンダーに『GANHED』、左フェンダーに『507』って書かれているだろ?あれ、元のユーザーが書いていたものらしいぜ」
「へぇ……じゃあ、|2号車の《ハンター2》の『508』って言うのも、同じユーザーだった証拠なんですかね?」
「あぁ、そうらしいな」
そう装填主の言葉に返しながらジェームズは、自分達の前を行くイージーエイトに索敵状況を問い掛ける。
「こちらホーナーよりホースンへ、先頭の状況を報告せよ」
『こちらホースン。現在、敵影は無いですが、右の道幅が若干狭いです。転落に注意』
これに対して、ジェームズは「了解」と返すと先頭車両から伝えられた路面の状況を他のシャーマンの戦車長達に伝達する。
「全車、右の道幅が狭いぞ、転落に注意せよ」
そう伝達しながら後ろを振り返ったジェームズは、後続のM4A3の速度が他のシャーマンより遅い事を確認すると、そのM4A3の戦車長である女子に向け、軍隊に置ける基本的な戦い方を示す”教科書”に当たる存在の”戦闘教練”通りに車間距離を詰める様に指示を飛ばす。
「ホースンよりバドリオへ。スピードが5ヤード遅いぞ、増速せよ。繰り返す。5ヤード増速せよ」
『こちらバドリオ、了解。操縦手、直ちに5ヤード増速せよ!!』
ジェームズから、速度を上げるように指示されたM4A3の車長の指示を受けて、M4A3の操縦主は『了解』と復唱を返しながらギアをチェンジし、アクセルを踏み込むとM4A3のエンジンが唸りを上げて回転し、スピードを上げていく。
その様子を見たジェームズは「良し……」と短く呟きながら、三度双眼鏡をのぞき込み、索敵を開始する。
「まぁ……、タイガーやパンター相手の戦闘訓練には3か月分の時間を投入しているんだ、何時もの訓練通りにやれば何の問題無いよな……」
双眼鏡をのぞき込みながら、自身に言い聞かせる様にそう呟くジェームズの表情には若干の余裕すら感じられる。
しかし、その余裕は木っ端微塵に打ち砕かれる事になるのだった……。





……

………



<巽Side>
茂みに上手い事車体を隠した俺達は、双眼鏡を覗きながらこちらの方へと向かってくるサンダース校の部隊を観察する。
「隊長車やパーシングがいないとなると……こいつらは先遣隊か別働隊か」
カリオペを撃ち尽くしたと思われるシャーマン。その後ろから続くイージエイト、M4A3の隊列が見える。警戒しているのか砲塔を左右にむけて警戒している。
今のところ此方を見つけれていないようだった。
「イージエイトが2、カリオペが2、M4A3。残りのパーシング2両、隊長車のM4A3、ファイアフライは後からって感じか」
「隊長。どうやら、フラッグ車は別行動を取ってるみたいですね。後、あのイージーエイトには気を付けといたほうがよさそうですよ。HAVPを使われたら危険ですし」
俺の隣で同じように双眼鏡を覗く黒崎が言う。
「そうだな。攻撃をかけるのは距離1000を切った時だが、お前の三式の攻撃力のこともあるから800ぐらいだな」
「タイミングはどうします?」
「まあ、攻撃する前に一余興かました後すぐだ。一撃加えた後、適当に連中を牽制してくれ……。そろそろ戻るぞ」
そう指示すると、俺達2人はそれぞれの車両に急いで戻る。
黒崎も車両に乗り込んで配置に付いたのを確認すると、室戸に車内無線である事を持ちかけた。
「室戸。タイミングは指示するから無線を流せ。サンダースの連中にも分かる様にな」
俺の思わぬ提案に車内に居るメンバーの視線が俺に向けられる。
「おい、一体何を考えてんだ?巽。」
「俺達を散々コケにしてくれたもんだから、サンダースの連中にたっぷり礼をしないといけないと思ってな」
軽く笑みを浮かべそう返すと、他のメンバーも成る程と言う表情をする。
「結構過激だな」
そう言うと室戸は、せっせ通信機を操作する。
「良し……そろそろ頃合いだ。総員戦闘用意!弾種徹甲(Pzgr.39)!」
その瞬間、車内の空気が変わりは張り詰めたものに変わり、戦闘モードに入ったメンバーは各自己の作業に没頭し始める。
徹甲弾が砲に装填され閉鎖機が閉まる音が聞こえる。そして砲塔がゆっくりと敵の方へと回転するのが分かった。
サンダースの先遣隊との距離がどんどんと近づいて来る。
「照準良し……。何時でも、撃てます」
伏が照準器を覗きながら言う。
「分かった。俺の合図で撃て。黒崎の方は……あちらに任す」





……

………



<黒崎Side>
「い……いよいよ、初実戦だにゃ。」
「時間は余り無かったけど、練習したからには頑張るなり!」
「みんなで、頑張るだっちゃ!」
「その通り、みんなやれるだけの事はやろう!」
砲弾は装填し終わり、狙いもつけている。後は発射のタイミングを待つだけだ。
しかし、この三式中戦車の戦車砲の撃ちにくさには頭が痛い。砲手側に発射装置が無くて装填手側にあって、しかも”紐”という有様だ。
戦争末期の急造とは言え、九〇式野砲を改造した物をそのまま搭載しているのだから仕方が無い。
砲手と発射担当の人間との息が合わないと中々上手く行かないが……、でも隣で紐を握っている”ぴよたん”こと俺の恋人との息はあってるから大丈夫だが。
この事を部長こと隊長に話したら「ったく」と悪態なのか呆れなのか分からない返事を返された。
「狙いと装填は、こちらに任せてくれ。合図したら紐引いて撃ってくれ。頼んだぜ。マイハニー」
「勿論だっちゃ。ダーリン」
そう言うと、車内の温度が少し上がった様な気がする。
「あ、甘~い!」
「熱いんだなあ~~!!」
他の二名の様子がおかしい。どうしたのだろう?その時、俺達の耳に、無線で声が流れる。
『よお、サンダース!』





……

………



<?Side>
「全車、今から茂みの付近を通過する。待ち伏せ攻撃には絶好のポイントだ、周囲に最大限警戒しろ」
イージーエイトのキューポラから半分程、顔を出しつつ無線マイクを握りしめながらジェームズが指示を飛ばす。
その彼の指示に全車両の戦車長たちが『『『了解!!』』』と復唱を返すのを聞きつつ、ジェームズが茂みの方に視線を向けた瞬間だった。
『よお、サンダース!さっきはよくも汚い手を使ってくれたな。これからやる事を英語で教えてやる“Kill them all!”だ!テェー!』
「!?」
突然自分達の無線機から、パンターの戦車長である巽の声が聞こえたかと思った瞬間、宙を裂く様な音が辺りに流れ、それから数秒も立たない内に轟音と共に自身の目の前を走っていたイージーエイトが爆炎に包まれる。
その光景を目の当たりにして、ジェームズが「やられた!!」と思った瞬間には、前方のイージーエイトが炎に包まれながら道の路肩脇へと流され、そこに生えていた木に激突して停車する。
「敵襲、敵襲、戦闘用意!!」
木に激突して停車したイージーエイトを見ながらそう叫んだジェームズは、指揮官として間髪入れずに次の指揮を飛ばす。
「全車、後退!!左後方の窪地に退避しr……」
そう次の攻撃を回避する為の指示を飛ばそうとした瞬間、また別の砲声が鳴り響き、今度は最後尾についていたカリオペが轟音と共に撃破され、ジェームズ達は退路を断たれる。
『ケツをやられたぞ!!』
『何処だ、出て来いクソったれええええええええええ!!!』
只でさえ奇襲された事で混乱している中、退路を断たれた事で完全に脳内がパニックに陥ったシャーマンのクルー達の反応は様々だ。
ある戦車長は絶望交じりに叫び、ある砲主は堪忍袋の緒が切れた様子で砲撃された方向に向けて、機銃を撃ちまくりもう滅茶苦茶だ。
「全員落ち着け、焦ったら向こうの思う壺だぞ!!」
そんなクルー達の様子を横目で見ながら、自身の乗るイージーエイトの近くに着弾した榴弾の衝撃波を感じながら、ジェームズは冷静にクルー達に落ち着く様に檄を飛ばす。
同時に素早く砲撃された方向を確認すると、無線マイクを握り締め、指示を飛ばしていく。
「俺とバドリオは前方、残りは後方を相手しろ!!数ではこっちが勝っている!!常に動き続いて、索敵し、発見次第、左右から奴らを包囲しろ!!絶対に止まるな、止まったら良い的になるぞ!!主砲と機銃を撃ちまくって、相手をひるませた上で徹甲弾か、高性能爆薬で履帯を狙って撃破しろ!!必要に応じては、煙幕も使って奴らの視線を潰すんだ!!」
『『『了解!!』』』
「行くぞ!!」
この指示に返ってきた各クルー達の復唱を聞きつつ、ジェームズはそう叫ぶと、勢い良くイージーエイトのハッチを閉め、交戦を開始する……。





……

………



<巽Side>
「良し、室戸。傍受されてもいいから連中に派手に流せ」
「あいよ」
室戸が俺の指示に対し、すぐさま無線機器を操作し始めた。
「良いぞ、やれ!」
大きく息を吸いマイクに声をあてる。
「よお、サンダース!さっきはよくも汚い手を使ってくれたな。これからやる事を英語で教えてやる“Kill them all!”だ!テェー!」
サンダースの連中に挨拶と宣告を終えた途端、パンターの主砲が轟音とともに鳴り響き空薬莢が金属音を立てながら薬莢受けの中に転がる。
轟音と共に徹甲弾は先頭を走行していたイージーエイトの正面装甲にもろに命中し・・そのまま撃破となる。続けてパンターとは違う砲声が近くで鳴り響き、混乱状態のカリオペ無しのシャーマンに命中撃破したのが見えた。
「命中!!」
奇襲攻撃で慌てふためいている連中が更に混乱しているのが見える。中には砲を撃って反撃してくる者も居るが、牽制目的なのか混乱しているのか分からないが命中弾は無い。
「連中混乱してやがるぞ。おい、機銃を打ち込んでやれ」
車体前方と同軸機銃が火を噴き、サンダース側の車体に火花を散らさせる。三式も相手を混乱させる為か、場所を変えながら榴弾を打ち込む。
「ひゅう!すげえ迫力だ!まるで、“戦争”だな!!巽!」
機銃を辺り構わず乱射しながら室戸が叫ぶ。
そう……大洗の戦車道参加者にとって、これは普通の“試合”かもしれないが、“俺達と生徒会”の一部人間にとっちゃ、これは生き残りをかけた『戦争』に間違いない。負けたら後はない。待ってるのは、破滅のみだ。
そして、こちらがいる場所に気が付いたのか一両のM4A3がスピードを上げて突っ込んで来た。パンターを撃破するには、至近距離にまで近づかなきゃならない。
「次、前方のM4A3!撃てっ!」
再びパンターの主砲が鳴り響き退避しようとしていたM4A3が撃破されるのが見える。これで2:2。
「後は、イージーエイトとカリオペシャーマンが一両ずつか……お、煙幕か」
目眩ましたのために煙幕弾?が発射され辺りを煙幕で覆いつくす。その他に、撃破した戦車の煙などで視界がさらに悪くなっている。
ハッチから上半身を出し周りを観察しながら言う。近くにやってきた三式も黒崎がハッチから俺と同じように上半身を出して周囲を観察している。
「どうやら、教範通りに左右から迂回して攻撃を仕掛けるつもりだな。黒崎!ここは、俺達に任せてお前達は、一旦離脱しろ!」
そう叫ぶとすぐさま黒崎は、反応を示すのが分かった。後退しながら少し大きな声で叫んできた。
「了解!独自行動とりつつ偵察活動を行います!しかし、本当に大丈夫なんですか!?」
「連中は、教範通りのやり方で撃破を試みる筈だ。ここは、俺に任せろ」
不安な表情をしつつも、黒崎達アリクイチームは、この場を去っていった。
そう言うと、俺は車内無線で阿仁屋に指示を出す。
「車両をここから後退。俺が良いって言う所まで後退させろ」
『分かった』
そう言うと、マインバッハエンジンの轟音と共にパンターは車体をガクンッと揺らしつつ後退し始める。周りの景色が前方に流れて行く。


さっき居た場所から600程離れた場所に車体を隠す事にした。照準をさっきまで待ち伏せした場所に合わせ、エンジン音を落とす様に指示を出すと周囲に耳を澄ます。
すると、両耳に左右から木々を薙ぎ倒しこちらへ向かって来る音が聞こえて来た。やはり、迂回し左右から攻撃して撃破を狙っていたか。
カリオペとイージーエイトの砲声が聞こえ、最初に潜んでいた辺りに連続して砲弾が叩き込んでいた。
「良し、連中が見えたら攻撃だ。戦車微速前進」
相手に気付かれない様ゆっくりと戦車を前進させる。案の定、走りながら砲撃してきたカリオペが眼に入る。
「撃てっ!」
俺の指示に直ぐ様反応した伏が主砲を発射、砲塔に命中撃破に成功した。
「急速後退!」
そして、再び車両を後退させる様指示を出した。同じ場所に留まっていると奇襲を受けてやられる可能性が高い。その瞬間だった。
さっき発砲した場所に、砲弾がぶち当たって土煙を立ったと思ったら、猛スピードでイージエイトがその場に突っ込んで来た。
側面攻撃が失敗した場合に備えて、至近距離からの射撃で側面をぶち抜こうとでも思ってたのだろうが、運良くこちらが急速後退した所為か、側面を晒すという有様になってしまったと言う状態だった……。
「ウオッ!?」
その光景を目にした瞬間、パンターの主砲が鳴り響きそれに驚いた俺は、思わずバランスを崩しかけた。
反射的に発砲した所為なのか、砲弾はイージエイトの車体に命中せず主砲に命中し、根元から耳障りな音と共にへし折ってしまった。
「おいおい。まじかよ。主砲をへし折りやがった」
目の前の光景に思わず思った事を口にしている俺を尻目に、生き残ったイージーエイトは猛スピードでその場を撤収する。
『撃ちますか?』
と、反田が聞いて来る。滅多に有り得ない光景を目にしつつも、何時も通りの様子の様だ。
「いや、良い。どうせ主砲も使えないし、特別な事が無い限り脅威にはならん。俺達も撤収するぞ」
『了解』
「さて……ヒョウさんからあんこうへ。サンダースの先遣部隊の撃破に成功。戦果はイージエイト1。カリオペ2。A3が1。後、イージエイト1両の主砲を破壊」
『え!?巽君達だけで4両も!?て事は。サンダースの戦力は…』
『先遣隊を全滅させただって!?』
少数の戦力で得た戦果に対し、隊長さんや龍は驚きを隠せないようだ。当然だ。殆ど試合を経験した事の無い俺達が、サンダースの戦力の大半?を潰したのだから。
「殆ど全滅に近い状態になったって訳だ。後から合流する。以上通信終わり」
サンダースの先遣隊を壊滅させた俺達は、隊長に先遣隊の撃破を通信し、撤退行動に移すのだった。