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バルクマンコーナー再来!! (前編)

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<?Side>
「凄ぇ!!大洗がサンダースのシャーマンを2輛も撃破しやがった!!」
「この展開はもしかしてもしかすると……」
第63回戦車道全国高校生大会のトーナメント第1回戦・大洗学園VSサンダース大学付属高校の試合、大洗がサンダース雌型のシャーマンを2輛も撃破した事を受け、観客席は興奮と熱狂に包まれていた。無名校が優勝候補の一角にまさかの先制点を決めたのだから無理も無い。

「ホラ、早く来なよ千紘ちゃん!もう試合は始まってるよ!!」
「もう、ツー君急ぎ過ぎ!まだこれからなのに張り切り過ぎだよ!」

そんな会場の観客席に2人の高校生位の男女が急いで入って来る。
1人は髪をポニーテールに結った、ボーイッシュな印象の泣きボクロの女子。もう1人は爽やかそうな顔立ちの黒髪の男子だ。
「龍君がみほちゃんと一緒に試合に出てるんだ。この試合は見逃せないよ!」
「ツー君」と呼ばれた少年・|三浦翼《みうらつばさ》の言葉に一緒に来た少女・|遊佐千紘《ゆさちひろ》は「そうだね。」と感慨深げに答え、Ⅳ号戦車が映し出された巨大モニターに目を向ける。
「みほちゃんって確か、去年の大会の後、色々大変だったんだよね……。」
「そうみたいだね。下手したら戦車が嫌いになるんじゃないかって言う様な辛い目に遭って、元居た学校から転校したって聞いて心配だったけど、龍君と一緒に戦車やってる姿がまた見れてホッとしたよ。」
千紘の言葉にそう返すと、少し寂しそうな目をして翼もⅣ号に目を向けた。その画面は直ぐに違う戦車に映り替わってしまったが……。
「あ~あ、出来たらひーちゃんとエミちゃんと宏一君とライト君と玉田君を誘って皆で観たかったな~……。」
残念そうに漏らす千紘に翼がフォローを入れる。
「仕方無いだろう?エミちゃんは今ドイツに居るんだし、玉田君はそのみほちゃんの元居た学校の選手なんだ。瞳ちゃんと宏一君とライト君は学校が凄い荒れてて大変なのを何とかしようと頑張ってる。俺達に出来るのは、皆の分まで2人を応援する事だよ千紘ちゃん!」
「うん、そうだねツー君!良しっ(スゥ~ッ……)、みほちゃぁぁぁぁん!!龍君ぅぅぅぅん!!2人とも!!頑張れぇぇぇぇぇぇッ!!!」
三浦翼と遊佐千紘……。小学時代にみほと龍の2人と共に砲手として戦車に乗った旧友達は、共に隊長、副隊長としてチームを率いている親友達のこれからの戦いぶりを、懐かしさと嬉しさを込めて見守るのだった。





……

………



一方その頃、とある高校の学生寮の一室では……。

『大洗学園、優勝候補の一角と名高いサンダースのシャーマンを2輛も撃破!!これは大金星だ!!』

1人の男子生徒がテレビでこの試合の中継を観戦していた。
「よっしゃ!やるじゃんか龍!!」
興奮に沸き立つ男子の部屋のベッドには、龍の部屋に合ったのと同じ『チャーフィーを背にスクラムを組むクルー達』の写真が飾られていた。するとそんな男子のスマホに突如着信が入る。画面を見ると『|古川来人《ふるかわらいと》』と言う名が書かれていた。
「もしもしライトか?何だよ今……」
『宏一、瞳から連絡が有った。またキャプテン候補のあいつ等が戦車倉庫前で暴れてるぞ。直ぐに出動だ!』
その言葉に宏一と呼ばれた男子は「またか……。」と思わず溜息を吐いた。
彼の名は|高見宏一《たかみこういち》。龍の幼馴染の1人であり、チャーフィーに乗ってパンターを撃破した元操縦手だ。
今彼の居る学校では去年、雌型、雄型の両隊長が突然居なくなったのを切っ掛けに、隊長候補達が後継者争いと称して日々抗争を繰り広げており、それを鎮圧するのが彼とその仲間の古川来人(※以下、ライト)達の役目だ。
「ったく…これで何度目だよ?いい加減にして欲しいぜ全く…、今戦車道大会が良いとこだってのに……。」
『録画予約ならしてあるから安心しろ。分かったらさっさと来い!』
そう言い終ると同時にライトからの電話が切れると、宏一は「やれやれ、じゃあ行きますか……。」と面倒臭そうに準備して部屋を後にするのだった……。





……

………



<?Side>
龍達がサンダースから先制で相手のシャーマン2輛を撃破して次の手を考えていた頃、黒森峰とも聖グロリアーナとも、観客席とも距離を隔てた小高い丘で、聴き慣れない2つの旋律が響いていた。
フィンランドの民族楽器、“カンテレ”と“ヨウヒッコ”だ。カンテレの調べは軍用トラック“GAZ-AA”、通称ポルトルカ(※ПОЛУТОРКА 1.5の意。積載量が1.5トンだった為)から、
ヨウヒッコの演奏はⅢ号突撃砲G型・フィンランド軍仕様からそれぞれ流れている。

「あ~…大洗って言ったかあの学校……?何かヤバそうな予感しかしないな~。」
「最初シャーマン2輌倒したのは所詮は只のビギナーズラックかよ……。」
「って言うかミカ、何で私達まで無名校の試合見なきゃいけないの?」
「そうだよ!イルヤの中学時代の後輩の応援なんだから、イルヤ達だけで勝手に見れば良いじゃんか!」
三突に搭乗している、金髪を後ろに結った男子“シニ”と、跳ねた茶髪の男子“ソイレ”がそうぼやく横で、ポルトルカに乗った白色の髪を二つに結った大人しそうな女子“アキ”と、赤茶色い髪を同じく二つに結った生意気そうな女子“ミッコ”が口々に文句を言う。

「別にイルヤ達に付き合って来ている訳じゃ無い。ただ風と雲に呼ばれて気付いたら此処に居ただけさ。」
水色と白のストライプが入り、まるでス○フ○ンを思わせるチューリップハットを被ったのロングヘアーの女子……、“ミカ”は澄ました様にそう言って、膝に乗せたカンテレの弦を再び爪弾く。彼女こそ継続高校の雌型隊長である。
「全く、俺達だって別に来たくて来た訳じゃないってのに、お前の中学の頃の後輩が出てるからって理由でわざわざ……って、おいイルヤ?」
突然ヨウヒッコの音が聞こえなくなったのを訝しく思った黒髪の男子“キーラ”が「イルヤ」と呼ばれた男子に話し掛けると……、

「これがカードの答え……これが今の大洗の…、敬愛なる我が後輩、喜多川龍の運命……。」

そう言って先程からヨウヒッコを隣に置いてタロットカードで占いをしていた、水色のシルクハットを被る黒髪の男子……継続高校の雄型隊長“イルヤ”はそう言って立ち上がり、キューポラから顔を出す。
「一体カードはどんな答えを君に示したんだいイルヤ?」
ミカの問い掛けにイルヤはこう返す。
「カードが俺に示した答え……それは正位置の『|世界《マーイルマ》』だ!」

「世界……、確か正位置じゃ『個性を発揮する事が成功に繋がる』暗示で……。」
「逆位置だと確か『中途半端では何時までも何も掴めない』ってそれか。お前と付き合ってて良い加減覚えちまったよ!」
「フッ、流石だな。俺の占いを理解するとは……。」
「「褒められたって嬉しくねーよ!」」
シニとソイレが容赦なくイルヤに突っ込みを炸裂させる横でアキがその意味を分析して答える。
「要するに、自分の持てる力を最大限に発揮するのが大洗の勝ちに繋がるって事?」
「けどよ、この状況で大洗の連中に何が出来るって……おっ、何だか|パンター《パンテッリ》の方に動きが有るみたいだぜ?」
「一緒に|三式《ティッピ3》も動き出したみたいだぞ?」
そう言ってキーラとミッコが口を揃えてモニターに映し出されたパンターと三式のマーカーの動きを指摘する。
「でも、あれだけ数や性能に差が有ってピンチなのにたった2輛で何とか出来るの?」
アキの問い掛けにミカとイルヤはこう語る。
「危機の裏側には、何時だって同じ大きさのチャンスが眠っている物さ。だけど、それを揺り起こすだけの力が無ければ意味は無いよ。」
「果たして大洗に起死回生の一手は有るのか?勝利と運命の女神は誰に微笑むのか?全てはそう……、あの|豹《パンテッリ》の爪牙に掛かっている!」
「2人して噛み合ってんのか噛み合って無いのか分かんねぇ会話してんなよ……。」
継続の雌雄両隊長の遣り取りにそう呆れるキーラを他所に、サンダースと大洗の戦いは佳境へ向け、着々と動き始めて行く。






……

………



<?Side>
周囲を山に囲まれ、戦国時代の歴史を現代に伝える街があった。其処に建つ1軒の高校の武道場に、今日も竹刀の打ち合う音が響く…。

「オォォォォッ!!面ェェェェン(バァァァンッ!!!)!!!」
「面有り!一本!!」

剣道部の部室で今日も練習に励む俺の名は|菊竹清光《きくたけきよみつ》。武道が盛んな此処、|楯無高校《たてなしこうこう》の2年生だ。先程練習相手の|山崎《やまざき》から面を奪った俺に、その審判をして下さった剣道部3年の部長・|藤田綜明《ふじたそうめい》先輩が話し掛けて来る。

「また腕を上げた様だな菊竹。お前のその尽きない闘志には、何時もながら感心させられるよ。」
頭の防具を取ってアイシング(※アイスノンや冷却スプレーで火照った体を冷やす事)しながら俺は藤田先輩にこう返した。
「いいえ、俺はまだ先輩の域には達しておりません。これ位じゃ全然足りませんよ。」
「おい!まるで俺じゃ取るに足らないみたいな言い方じゃねーか!!」
そう言って山崎が背後に「ムキーッ!!」と言う字幕が見えんばかりの勢いで俺に詰め寄る。
「まるでじゃなくて実際そうだろ。」
歯に衣着せぬ俺の物言いにこいつは「何だってんだよコンチクショーーーーッ!!!」と叫びながら地団太を踏む。って言うか山崎の奴、さっきの身のこなしと言い剣道よりバドミントンの方が合ってる様な気がするんだよな。尤も、「バドミントン部に転部したらどうだ?」と勧めたらこいつは「馬鹿言え!俺は剣道一本でやってくって決めたんだ!!」とその可能性を全否定していたが……。
「って言うかお前こそ、昔戦車道やってたって話じゃねーか!!だったらそっち移れよ!!」
「馬鹿言え。戦車道は|楯無《ここ》じゃもう10年前に廃止されてんだから無理に決まってんだろ。それに身内に勧められてやってただけだし、将来自衛官とかになる訳じゃ無いんだからもうやる理由だって無ぇよ。」
そう言って山崎を黙らせると、俺は藤田先輩に「じゃあ次は先輩がお願いします。」と言って再び防具を被る。
って言うかこいつ、何で俺が昔戦車やってた事知ってるんだ?もしかして顔を覚えてないだけで俺やあいつ等と|同中《オナチュー》だったんだろうか?まァそんな事は良い。今は藤田先輩との練習に集中せねば……!!
「練習熱心なのは良いが、余り根詰め過ぎるなよ。」
そう言って同じく防具を被り、竹刀を手に取る藤田先輩。そして互いに見合って打ち合おうとしたその時……。

「清光!!清光は居るか!?」

突然眼鏡を掛けたベージュ色の髪の1人の男子が乱入して来る。
俺の友人で非公認な歴史同好会“|刀嵐倶楽部《とらんくらぶ》”を立ち上げる歴史オタクの|藤沢赤兎《ふじさわせきと》だ(※特に三国志推し)。
「なッ、赤兎!?どうしたでござるか突然……」
思わぬ来客に思わず「ござる」口調になってしまう俺を他所に赤兎は、
「今戦車道の大会が凄い事になってんだ!!お前、昔戦車乗ってたんだろ!?一緒に観た方が絶対面白いって!!ホラ、早く来い!!」
そう言って俺の腕を掴んで無理矢理引っ張って行く。
「つー訳で先輩、失礼ですがこいつ借りて行きますんで宜しく!」
「あ、あぁ……。」
「おっ、おい離せ!!俺は別に……」
「良いからさっさと来い!!」
話も聞かずに俺を同好会の部室(?)に連行する赤兎。途中廊下ですれ違ったクラスメイトの女子の|松風鈴《まつかぜりん》と|遠藤《えんどう》はるか(※通称エンドー)が「何?」と唖然とした表情で俺達を見る。

そして連れ込まれた部室には既に先客が2人も居た様だ。
「おっ、赤兎!漸く菊竹連れて来たか。待ちかねたぜ。」
1人は後頭部からアホ毛が伸びた紺色の髪が特徴の男子で名は|司馬師宣《しばもろのぶ》。赤兎と一緒に同人サークル“|赤騎士団《あかきしだん》”を立ち上げて軍記物の同人誌の作画を担当している。そしてもう1人は……

「藤沢君、汝が修練を中断させてまで私に見せたき物とは|是《これ》なるか?」

ウチのクラスの中で1番のマドンナだが、侍趣味の変人と名高い|鶴姫《つるき》しずか、通称しずか姫だ。
実家は酒造を営んでおり、何でも武田信玄にまで起源を遡る由緒正しき武士の家系らしい。まぁ、俺も由緒正しいかどうかは知らないが、一応武士の家系だけどな……。

「あぁ、そうだぜしずか姫!清光にもそうだがお前にもこれを見せたかったんだよ!!で、どうだしずか姫、この戦車“戦”は?」
「私は“道”と名の付く物は好かぬ……。だが、この“戦”は確かに面白き哉。」
「ってか何でお前まで居るんだよしずか……?」
そんな俺達の突っ込みを華麗にスルーして赤兎は「良いから黙って見ろ!!」と言って、先程から何やら|鬨《とき》の声や砲撃音が響くテレビの画面に俺達の視線を向けさせた。そこに映っていたのは、毎年この時期に開催される戦車道大会の中継だったのだが……、その画面に映る懐かしい顔を見て、俺は直ぐに釘付けになった!!
「龍…?龍なのか!?」
無理も無い。其処には忘れもしない、共にチャーフィーに乗ってパンターを討った戦友・喜多川龍の姿が在ったのだから……。

「おっ?どうやらお前の昔の友達でも居たか?」
「あぁ、忘れもしない中学時代の仲間の喜多川龍が……、あいつが映ってたんだ!!確かあいつの学校ってウチと同じで戦車道やってないって聞いたが、まさかあいつが戦車に乗って大会に出てる所を見る事になるとは思わなかったよ……。」
懐かしさと驚きの入り混じった感情で、俺は大会の中継画面を見つめる。その横でしずかと赤兎がこんな遣り取りを交わしていた。

「して、菊竹君には一見の価値在りの様だが、何を以て私まで観戦する意義が有らんとする|也《なり》か?戦は確かに見ていて面白い。瞠目に値すると思うが……。」
「分からないかよ?この無名の弱小校は、あの西住流の妹が指揮してんだ。性能で劣る戦車の一団を率いて、優勝校の一角のシャーマンを撃破して出鼻をくじいたんだぜ。まさに今川軍相手の織田信長の初陣みたいだろ?」
「ふむ……そう言われれば……。」
言い忘れていたが、赤兎は母が歴史学者である事も有って歴史にとても興味が有り、同じ戦国趣味のしずかとも仲はかなり良い。

「もしかしたら、このまま桶狭間か豊薩合戦、有田中井手の戦いの様な伝説の逆転劇が繰り広げられるかも知れねぇだろ!その生き証人に俺達これからなれるかも知れないんだぜ!?それだけでもワクワクして来るじゃないか!」
どうでも良いが最初の桶狭間は微妙に外してないか?あれは逆転劇とは言い難い部分が有るぞ。まぁ話の流れ的に並べざるを得なかったのは分かるが…。
「それは結構なれど、|件《くだん》の大洗なる学校が敗れたら、お主は如何様にして我等に責任を取る心算ぞ?」
しずかの鋭い指摘に赤兎は面食らうも「えっ?そん時は……」と返そうとする……が!
「良いから黙って見てろ!!気が散って集中出来ないじゃないか!!」
と言う俺の一喝で2人は直ぐに「う、うむ!」、「お、おう…」と押し黙り、共に中継の方に目を向ける。その横では、司馬が黙って試合の様子を持っていたスケッチブックで丁寧に写していた。

(見せてみろよ龍……。中学の時は色々あったけど、それでも自衛官を目指すお前のこれからを……、この戦いで!)
目の前の中継に俺は1人、此処には居ない遠くの戦友にそう心で語り掛けるのだった……。





……

………



<暁Side>
「先ずは2輛……か。良い出だしだな。」
大洗側の生徒が最も密集している観客席で、俺は一言そう呟く。角谷からの勧めも有って聖グロ、そしてマジノと練習試合であいつ等の戦う様子はずっと見て来たが、回を重ねる毎にあいつ等、中々良い戦い方する様になったじゃないか……。
「けどこの試合って、旗の付いた奴がやられると負けなんですよね?今までの練習試合の時と違って……」
「確か公式戦のルールでフラッグ戦って言いましたよね?」
瀬那と雷門が口々にそう言う中、俺と栗田は画面に映る角谷達の乗る戦車(※確か38tっつったっけか?)を見てこう返す。
「あぁ、確かそんなルールだったが……」
「責任重大な役目を任されて、角谷達は大丈夫かな?」
栗田の言う事は尤もだ。どうせ角谷は車内でロクに働きもしないで干し芋ばっかパクついて河嶋も基本ヒステリックなだけの木偶の棒。小山の苦労が偲ばれるな……。
だが、そんな中で違う車輛に目を遣る奴が1人居た。俺達の中で唯一の2年である高倉だ。
「気になるのか高倉?あのパンターとか言う戦車が」
「はい……、俺の中学の同級生が乗ってますので……。あいつがこの試合でどんな活躍をするのか、目が離せません……」
そう呟きながら出店で買ったコーラを口にする高倉を横目に、雷門と瀬那も口を開く。
「澤達は大丈夫なのかよ?一応2回目の時は逃げねぇで頑張ったけど、相手は一応優勝候補なんだろ?」
「心配無いと思うよ瀬那。梓ちゃんもあれから頑張ってるみたいだし、桂利奈ちゃんだって“やればできる子”なんだから」
「けど丸山と宇津木と大野がなぁ~……」とボヤく瀬那を横目に、俺は角谷達の戦いの行く末を静かに見守るのだった(つーか何だよ近くの席のあの強面の外人のおっさん達は)……。




……

………



<?Side>
「さて、ここからどう動くか見物だな」
会場のモニターに映る映像を見ながら儂は、紙コップに入ったビールを軽く煽った。
「おやっさん。本当に大丈夫?心配なんだけどさあ」
と、隣に座っている元スペツナズのサーシャがたこ焼きを早食いしながら心配そうに呟く。
食いっぷりだけなら、五十鈴の嬢ちゃんといい勝負だ。もう10皿以上食ってやがる。
「大丈夫さ。彼等なら出来る」
ハンニバルが葉巻咥えて笑みを浮かべながら言う。だが、その葉巻がハンニバルの口元から消える。
「ここは、禁煙よ」
全くという表情で、ハンニバルの葉巻を取り上げたジルが言う。流石、デルタの訓練課程をクリアしただけの事はある。
「分かったよ。ジル」
やれやれといった表情で降参のジェスチャーをとる。
「そう言やあ、ヒルターさんよ。大洗にどんだけ”寄付”したんだ?」
思い出したように儂は、隣で観戦しているヒルターに小声で話し掛ける。
絆創膏だらけの顔にサングラスをかけてる違和感がありまくりで意味が無い。しかし、周りの人間は気にしない。不思議だ。
「ざっと、日本円にして数百億ってとこかね」
と真面目な表情で、小声でぬやしやがったヒルター。数百億ねぇ……。
「海外からの億単位の寄付か。文科省の官僚共も腰抜かしてるだろうよ」
通常、寄付と言っても億は行かない。良いとこ数千万ってとこだろう。学園長も腰抜かしているだろうし、生徒会の嬢ちゃん達も同じだろう。
「数百億ねえ。学園艦の運営にも金を回せて万々歳だな」
話しを聞いていたハンニバルが口を開く。
「それに、学園から色々と便宜を図ってもらう事が可能だ。何しろ、スポンサーだからな」
ヒルターが笑みを浮かべ満足そうな顔をする。
「でも、情報収集だけは密にやっておかないといけないんじゃ?」
同じくフランクフルトを頬ばってるフェイスが言う。当然だ。何かあってからでは遅い。
「それよりもあの西住の嬢ちゃん、サンダースの無線傍受に気付いて逆手に取ってるみたいだな」
儂は、モニターの方を再び目をやり、試合の様子を観察する。さっきまでは、押されてはいたが持ち直す事に成功したようだ。
「そういえば、今度新しい人が入るって聞いたけど本当?」
ジルが思い出したように聞いてきた。
「ああ、今のままじゃ少し人手不足だから2~3人ほど見つけてきた。まあ、今度、紹介してやるから楽しみにしていな」
さあ、試合を楽しもう。





……

………



<龍Side>
試合中に鳴り響いた形態の着信アラーム。
最初はてっきり、みほからの新しい指示かと思ったが、それは中学時代に所属していた戦車道チームの偵察小隊の隊長だったイルヤ先輩からだった。
中学を卒業した今も、たまにメールのやり取りをする俺の恩師とも言える先輩だが、こんなタイミングで一体何だろう……?
そう思いながら形態を操作し、メールを開いた瞬間、画面に正位置の「世界」のタロットカードの暗示がメールで写真と共に映し出される。
「何だよこれ……?」
思わず画面を見て、そうつぶやきながら、下にスクロールしていくうちに表示された文面には……。
『個性を発揮する事が成功への秘訣だ。戦え龍よ、勝利を抱く明日の為に!!』
「意味分かんねっす……、イルヤ先輩……。」
「バーン!!」と画面に映し出されるこの文面を見て、俺は一言呟かざるを得なかった……。
元々イルヤ先輩、キャラが掴めないって言うか、何かその……、池の主を釣ろうとして釣竿を池に落としてしまって、そこから出てきた女神に「あなたが落としたのは、ゼリーの阿修羅像ですか、それとも鋼の阿修羅像ですか?」と聞かれて、「どっちも違う」ち答えたら、女神に「よろしい、正直者の貴方にはこれをあげましょう」とか言って渡される様な人だしなぁ……。
え、何?「よくわからん説明するな、主人公」って?いや、そうは言うけど、この先輩マジで説明するならこんな感じになってしまう位にキャラが掴めないのよ!!


……とまぁ、そんなキャラの掴めない嘗ての先輩からのメールを前に呆然としている俺に対して、五式の車内で俺たちの作戦によって撃破され、もくもくと黒煙を上げるサンダース高校のシャーマンを見ながら、木場と葵がこう言葉を交わす。
「いやぁ~……意外とあっさり行けたな」
「うん……何というか、その……逆にテンポ良すぎて怖いね……」
この木場の言葉に対し、葵が「あぁ」と短く返すを聞きながら、装填主席でスポーツドリンクを飲んでいた玄田が俺に対して口を開く。
「でも、龍、この試合はフラッグ車を仕留めないと勝てないんだろ?」
「……まぁな」
玄田にしては珍しくまともな指摘に対し、素っ気無く返す俺の足元の砲主席では裕也が愛用のスマホを弄って、“G(※ピー)マップ”にて、試合会場の航空写真を見ながら、フラッグ車の隠れていそうな場所を探している。
これを見て「試合中に何やってんだお前は……」と思うかもしれないが、裕也は人気アイドルにして、実の姉である神崎智明が庁が何百と付く程の方向音痴らしく、そんな姉を事務所の依頼などで捜索する際にスマホを使う為、最早スマホの扱いはプロレベルらしい。
うーん……こう言った我ながら「スマホのプロ」って何だろうな?今は亡き“リンゴ社”のジ〇ブスさんとか?まぁ、良いや……。


って言うか、会長から連絡があったが、巽が黒崎を連れて独自に偵察&遊撃に向かっているらしい……。
全く、会長じゃなく俺達に一声ぐらい掛けてから行けよ!!あのハードボイルド野郎共がぁ……。
つーかパンターを遊撃に向かわせるって、他じゃ黒森峰とかでしかやらない様な贅沢な使い方だよな……。
無論、この状況で巽達がフラッグ車を見つけ砲撃し、撃破する可能性も十分にあるのだが、あくまで”可能性”の話だ。
フラッグ車を仕留めるどころか、逆に”返り討ちに遭う”事も考えられる……そうなれば、俺たちは戦力の要を失う事になるだろうな……。
とは言え、フラッグ車が見つからない以上、少しでも発見次第、撃破出来る体制をとる必要もあるから、“敢えて強力な戦力を偵察&遊撃+奇襲に向かわせる”……って考えもできないことは無いからな……。
まぁ……現在進行形で戦闘が行われている戦場に何が正解、不正解っていうのは無いから、どの道何とも言い難いんだよな……。
あー……ホント難しいわ、戦略って……。つーか、これを日常的に業務としてやっている親父ってスゲェ有能なんだな……。絶対に認めたく無いけど……。


胸の内でそう思いながら、俺はみほからの指示を仰ぐべく、携帯をいじりメールから電話に切り替え、みほに電話をかける。
数秒程、機械的な着信待ちの音の後、ガチャリと言う音と共に『もしもし』と、みほの声が携帯のスピーカー越しに聞こえてくるなり、間髪入れずに俺は指示を仰ぐ。
「みほ、次はどうする?裕也がスマホでフラッグ車の隠れそうな場所を探しているが……」
『まだ分からないの?』
このみほの言葉を聞きつつ、俺が目で裕也に対して問い掛けるが、裕也は俺と同じく目で否定しながら、首を横に振る。
そんな裕也の様子を見ながら、俺が「あぁ」と返すと、同じ様にみほも携帯越しに『そっか……』と一言返す。
やはりみほとしても、フラッグ車の発見がこの試合に勝つ一番のポイントだと確信しているからだろう……。
だがしかし、見つからない以上、逆に俺達が敗北する危険性も十二分ある……だから、まず最初に俺とみほが指揮官としてやるべき事は……。


そう頭の中で少し考えた後、頭の中に浮かんだアイディアを俺はみほに伝える。
「みほ。取り敢えずサンダースのフラッグ車を発見するまで、本隊を遠ざける必要があるぞ。もし先に発見されたら、圧倒的にこちらが不利だ」
『うん、それが最優先だね』
この俺の提案にみほも同意すると同時に、Ⅳ号の中で地図を広げたのか、「バサッ」と言う音が携帯のスピーカー越しに聞こえて来る。
そんな音を聞きつつ、俺もみほと同様に車長席の側においてあった地図を広げ、現在地点を確認する。どうやら、今俺達がいるのは地図上ではB4098E6地点らしい。
その事を確認した俺は、携帯電話を片手にみほとの会話を再開する。
「みほ、現在、俺たちが居るのがB4098E6地点だ」
『そこから一番遠い所は……218高地かな?』
「あぁ……」
俺はみほの言葉を聞くと共に、直ぐ様地図で218高地を探すなり、俺達がいるB4098E6地点からの距離を形態のアプリで測る。どうやら約15キロ程度の距離らしい。
確かにこの距離なら時間との勝負にはなるが、サンダースの連中を右往左往させるには十分な距離だろう。


地図を見ながらそう思った俺は、みほに対してこう言い放つ。
「良し……、直ぐにサンダースに対して偽情報を流すんだ」
俺のこの言葉に対し、みほは一言『うん』と言うと続けてこう言い放つ。
『じゃあ、今からファイヤフライとM26パーシングを撃破する目的で偽情報を流すね』
「あぁ……それと同時に俺達はこの隙にフラッグ車を捜索し、発見次第速やかに撃破する事も沙織にメールさせろ。後、この作戦が時間との勝負だと言う事もな」
『うん、分かった。それじゃあ作戦内容に関して振り返って確認するよ……』
そう俺の提案に対してみほが言葉を返すと、実行する前に今一度作戦内容を振り返って確認する。
『今から私達が流す偽情報を元にサンダースの本隊が218高地に向けて進撃するのを確認すると同時に、私達はフラッグ車を防衛しつつ、可能な限り早く敵フラッグ車を捜索し発見次第、速やかに撃破……それでOKだよね、龍君?』
「あぁ、それでOKだ」
みほの言葉に対して、俺はそう返すと地図と同様に車長席の側においてあったペットボトルを手に取り、喉へスポーツドリンクを流し込む。
喉の渇きが収まると同時に、俺はみほに対し、こう言葉を続ける。
「さっきも言ったが、この作戦は時間との勝負だ。サンダースが混乱から立ち直ったら勝機は無いも同然だ」
『うん、イチかバチかの賭けだね……。まぁ……今の私達には、これしか手が無いのも事実なんだけどね……』
「……まぁな」
戦車道を始めたばかりの素人集団の俺達には、こう言った手でしか立ち向かえないのが事実なだけに泣けて来るぜ……。
みほの言葉を聞いてそんな感情が胸の奥底から湧いてくる中、みほは携帯越しにこう言い放つ。
『じゃあ、今から、この作戦の内容を全車に伝えるから、それが終わり次第、偽情報を流して作戦を始めるね』
「あぁ、分かった。じゃあ」
俺のこの返しに、みほは一言『うん、じゃあ』と短く返すと同時に電話を切った。


それから、数分後、無線機からはみほの声でサンダースに向けて作戦の肝と言える”偽情報”が流れるのだった……。





……

………



<巽Side>
時は大洗の作戦が開始される少し前……。
「黒崎。俺達に付いて来い。状況開始だ……行くぞ!」
パンターを黒崎の三式のそばに寄せ、身を出している黒崎に指示する。
「!了解。ももがー、戦車前進!部長達のパンターに付いていってくれ」
「了解ずら!」
と、黒崎とももがーのやり取りが聞こえてくる。
「阿仁屋。出してくれ」
「分かった。良いのか?巽。最悪の場合、すれ違うか遭遇出来ない。もしくは鉢合わせして全滅って事もあり得るぞ」
「確かにな。だが、やるしかない。俺達、2両で出来るとこまでやるだけだ」
そう言いつつ、キューポラから身を出しながら後ろに三式が付いてきているのを確認をしておく。
ギアが上手く入らないと動かない戦車だが、訓練のお陰か今のところ問題はなさそうだった。
しかし、戦車を動かす訓練を始めたばかりの黒崎を除くアリクイさんチームのメンバーは、心配の種だった。
「隊長。俺達の2両で一体どうするつもりなんですか?フラッグ車でも探しに行くんですか?」
考え事をしていると黒崎が質問してきた。
「サンダース本隊の攪乱……ゲリラ攻撃して時間を稼ぐってとこだな」
「しかし、連中がどこにいるか分かりませんよ?」
確かに、今、混乱している連中が何処にいるかは分からない。だが、そんなに遠くはない筈だ。
「確かに。だが、あの逃げて行ったパーシングの方向に向かえば大体目星はつく」
『成る程、確かにそうですね。履帯の跡をつければ……自ずと』
車内無線で、反田が口を開いて聞いてきた。
「まあ、行き当たりばったりだがしょうがないな。後は、地図と武部からの連絡と自分の目と耳で判断するしか無いな」
そう言い終えると、首にかけている双眼鏡を取り辺りを見回してみる。
この独自の行動が吉と出るか凶と出るかは、まだ分からない。
「安仁屋。カブトムシやアヒルとのメールで連絡とっとけ。連絡絶やすな」
『了解』
こうして、俺達、別働隊はサンダースに遊撃戦を仕掛けるべく戦車を前進させるのだった。
パーシングの轍の跡をつけて本隊を見つけて叩くという手もあるが、逆に本隊と別行動を取っている可能性もある。
その時、俺達の無線に隊長からの無線が鳴り響く。その内容を聞くと俺は地図を拡げ場所を確認。おもわず笑みを浮かべるのだった。
連中の場所は、分かった。






……

………



<?Said>
その頃、サンダース陣営では雄型副隊長のジェームズが愛車のイージーエイトのキューポラから顔を出し、周囲を警戒しつつボヤいていた。
因みに、彼の愛車であるイージーエイトの主砲には、少し前に公開していた戦争映画を見て影響されたケイによって『F〇RY』の文字が書かれていたりする。
「ったく……、アリサの奴め……何が『これは完璧な作戦よ!!』だ……。返り討ちに遭ってんじゃないかよ……」
そうボヤキつつ、双眼鏡をのぞき込むジェームズの側にいた彼のクルーにして、イージーエイトの装填主が彼のボヤキを聞き、こう言い放つ。
「もしかして、またアリサ副隊長は無線傍受を?」
装填主のこの問いに対し、ジェームズは「あぁ」と短く返しつつ、覗き込んだ双眼鏡を下ろしながら、こう言葉を続ける。
「試合前の最終ブリーディングが終わった直後にあいつ自身が、俺に『使う』って言ってきたんだよ……。ったく、少し前にケイ隊長とバーニィ隊長に絞られたの忘れたのかよ、あの馬鹿は?」
「あぁ、確かに二人揃って頭ごなしに叱ってましたよねぇ……」
そう思い返した様に呟く装填主に対し、再びジェームズは「あぁ」と返すと更にこう言い放つ。
「あの時はバーニィ隊長に『次やったら、業務用ウィスキー1ボトルまるまる一気飲みさせた後にパーシングの砲身に縛り付けて、思いっきり振り回してゲロ吐かせてから、そのゲロをケツの穴で一滴残らず吸わせてやるからな!!』とか言ってたよな……」
「バーニィ隊長ならやりかねないですね……」
「あぁ、そうなりゃアリサは意中の男……確か、タカシでしたっけ?そいつとの恋が結ばれる前に、女としての人生が終了するぜ」
「悲惨ってレベルじゃないですね……」
ジェームズの発言に装填主が呟きながら再び双眼鏡をのぞき込むと同時に、ジェームズも首にかけていた双眼鏡を手に取り、周囲を警戒する。


一方で、当の本人であるアリサはケイとバーニィ、ジェームズ、ナオミ達が戦っている後方で無線傍受機を載せたM4A1シャーマン76ミリ砲搭載型の中で、愚痴りながら無線傍受機のチャンネル変更ハンドルを回していた。
「全く……、良い気になるなよ……、大洗めぇ……!!」
そう愚痴りながらヘッドホンを耳に押さえ付け、ハンドルを回すアリサ。
すると、ホワイトノイズ音(※テレビの砂嵐の音)に交じって、みほの声が聞こえてきたのでアリサは更に慎重に傍受期のハンドルを操作し、遂にハッキリとした音質で流れるみほの声をキャッチする。
「しゃっ!!」
この事に小さくガッツポーズしながら、アリサが聞き耳を立てると聞こえて来たのは……。
『全車、128高地に向かって下さい。高所からファイヤフライとパーシングを撃破します。危険な作戦ですが……』
「フフフ……あーハッハッハッ!!」
「「!?」」
これが偽作戦だと知らないアリサはこの情報を聞くなり、まるで宝くじの一等を当てたかの様なテンションで高笑いする。
その笑い声に驚いた表情の装填主と砲主が振り返るのも気にしないで、まるで勝利を確信したかの様にアリサはこう言い放った。
「捨て身の作戦に出たわねー!!でも、これでお終い……、高い所じゃ良い的だもの……」
アリサは砲主と装填主の視線を気にする事なくそう言い捨てた後、無線機を手に取りスイッチを入れるなり、ケイとバーニィ達に連絡を入れる。
「ケイ隊長、バーニィ隊長、直ちに128高地に向かって下さい」
『あぁ?』
このアリサの指摘に対し、バーニィがパーシングの車長席の側に置いてあった愛用のクーラーボックスにギッシリと詰め込まれたマ〇クシェイクを取り出してストローを差すなり、それを口に加えつつ不満げな口調でこう言い放つ。
『128高地だぁ?何を根拠にそんなボケジジィみたいな事を抜かしてるんだテメェ?根拠無く言ってんだったら、この場で頭を45口径でぶち抜いた上で、クビ切り落としてクソ流し込むぞ!!』
バーニィがそう言い放つ同時に、パーシングの中で愛用のコルトガバメントをホルスターから抜き、スライドを引いたのか無線機のスピーカー越しに「ガチャリ」と言う音が聞こえてきたものだから、一瞬、凍りつくアリサ。


それと同時に今もバーニィと共に行動していたケイも、愛車であるM4A3のキューポラから顔を出しながら、バーニィと同様、彼女に問い掛ける。
『バーニィの言う通りよ、一体どういう事?』
「敵の戦車が一斉に集まるそうです」
(無線傍受でつかんだ情報か……)
このケイの問い掛けに対し、アリサはフッと不敵な笑みを浮かべつつ、自信満々に無線機越しにこう返すのを聞き、ジェームズが呆れ交じりに「はぁ……」と深く息を吐く。
そんなアリサの悪企みも、呆れるジェームズの様子も知る筈も無いケイは再びアリサに問い掛ける。
『でも、何で、そんな事分かっちゃうの~?』
『嘘だったら、今すぐその場で全裸と丸坊主にして南極大陸に放り込むぞ、ゴラアァァァァァーッ!!』
ケイの問いかけに続く様に咆哮するバーニィ対して、アリサは再び不敵な笑みを浮かべつつこう返す。
「ご安心を……、私の情報は確実です……!!」
『『!!』』
この言葉を聞いたケイとバーニィは彼女の言う事を信用する事を決め、無線機を手に言葉を交わす。
『OK……バーニィ、一気に218高地を攻めるわよ!!カリオペ隊に制圧砲撃の指示をお願い!!』
『Roger、 カリオペの支援砲撃の下で一気に3方向から攻め落とすぞ!!』
『Roger, Commander!!』
そう言葉を交わした二人は共に一回、深く息を吸うと無線機のマイクに向け、こう言い放つ。

『『全車、Go ahead!!』』

このケイとバーニィの指示が無線機から飛び出すなり、アリサの搭乗するM4A1を除いた全ての車両が一斉にスピードを上げ、全速力で218高地に向けて進撃を開始するのだった……。





……

………



<龍Side>
その頃、俺達はフラッグ車である38tを警護しつつ、フラッグ車を捜索していた。
「どうだ葵?」
「いやぁ~、全く見つからん……」
キューポラから顔を出し、双眼鏡を覗き込みながらフラッグ車を捜索していた俺が、同じ様に通信主席のハッチから顔を出して双眼鏡を覗き込み、フラッグ車を捜索していた葵に問い掛ける。だが、帰って来るのはずっとその一点張りだ……。
ったく……、サンダースの連中はどこにフラッグ車を隠したんだよ……?もしかして、サンダースの連中も知らない内に崖下にでも落ちて、爆発炎上してんじゃないのか?
余りにも音沙汰が無さ過ぎるが故に、そんな考えすら湧いてくる中、俺は携帯電話を手に取り、みほに対して現在の捜索状況を報告する。
「もしもし、みほか?」
『あっ、龍君?』
暫くの着信町の音の後に、スピーカーから聞こえて来たみほの声に対し、俺は素早くこう言い放つ。
「今の所、俺たちの方ではフラッグ車を発見できてない。そっちはどうだ?」
『こっちもまだ見つからないね……』
「そうか……」
みほの返事に対して、そう短く返つつ、俺は再び地図を手に取り広げ、フラッグ車を隠せそうな場所を探していく。
地図上には幾つかフラッグ車を隠すのに最適そうな場所があるが、その中でも今現在、俺達の居る地点からそう遠くない場所に竹藪があるみたいだ。
確かに生い茂るの竹の中に、偽装ネットやその場に生えている竹や笹で上手く偽装したフラッグ車を隠している可能性もあるな……。
そう思った俺は、地図を手に携帯でみほに対しこう提案する。
「みほ、今現在、俺達のいる近くに竹藪がある。そこに偵察を出してみるか?」
『うん、そうだね。それと218高地に居るサンダースの本隊も見張らないと……牧さん達に向かってもらおうか?』
「そうだな……牧達には何かあったら、全員に連絡する様に伝えといてくれ」
俺の提案に肯定すると同時に、そう指摘するみほ、
確かに、みほの言う通り今現在の状況としては、あと少ししたら恐らく偽情報を元に218高地へと向かったサンダースの本隊が情報が嘘だと気づき戻って来るかも知れない状況だ。
もしそうなったら、俺達がかなり不利になるのは火を見るよりも明らかだ。
「いずれにせよ、フラッグ車を見つけるのが先決だな……」
そう思った俺が、そう言った瞬間、突如として、試合会場中に轟音が鳴り響く。
この轟音に驚き、肝っ玉を抜かれた表情で轟音のする方に顔を向ける。
すると、そこには218高地に向け、カリオペや雄型隊長のパーシングの砲塔左右のロケットランチャーから放たれるロケット弾が次々と着弾し、凄まじい威力で218高地の地面を抉り、木々や岩を吹き飛ばす光景が広がっていた。
「うわぁ……」
「エグい事しやがって……」
操縦主ハッチと砲主席のすぐ側にあるピストルポートから顔を出すと、ロケット弾が着弾して次々と凄まじい土煙の上がる218高地の様子を眺めていた木場と裕也がそう言葉を交わすと共に、同じく装填主ハッチと通信主ハッチから顔を出した玄田と葵がこう言葉を交わす。
「俺……この試合終わったら、エロ本の最新刊買うわ……」
「あぁ……、バニーガール特集だしな」
「何を下らない事を言ってるんだ、このバーロー共!!」
真面目な試合中に交わされる玄田と葵のしょうもないやり取りに、俺は間髪入れずに突っ込みを飛ばす。
ホント、このアホ二人の性に関する興味だけは人一倍強いんだからよぉ、ったく!!
つーか、バニーガールとか言ってるけどさぁ……。俺はバニーガールって言葉が世界一嫌いなんだよ!!
このセリフで「何を言ってるんだ、この主人公?」と思っている読者の皆様に理由を伝えるぜ……、だってな……、だってな……、俺の母さん元バニーガールなんだよ!!

はい、ちくしょーめ!!

玄田と葵の発言を聞き、内心で炸裂する両親への不満を胸に感じながら、未だに終わらない218高地への砲撃を見つめるのだった……。




……

………



<?Side>
その頃、当のサンダース陣営は218高地から少し離れた場所から、2両のシャーマンカリオペが凄まじい轟音を上げて、218高地にロケット弾を次々と発射し、叩き込んで行く。
218高地に叩き込まれたロケット弾は凄まじいスピードで着弾するなり、轟音と共にオレンジ色の爆炎を挙げて炸裂し、218高地に生えていた木々や岩々を吹き飛ばすと同時に地面に次々と大穴を開けて行く。
そんな凄まじい勢いで行われる砲撃の爆炎と轟音を聞きつつ、バーニィとケイはカリオペ隊から少し離れた場所から、互いの愛車の上から双眼鏡でその光景を見ていた。
因みに、バーニィのパーシングに搭載されたロケット弾でもこの218高地への砲撃を行っており、現在バーニィを除いた他のクルーは慣れて手つきで新しいロケット弾を装填している。
「流石にあれだけ撃ち込めば、大洗も根を上げるわね」
「あぁ、俺としては、もう一週間程は撃ち込んでやりたいけどな」
「イオウジマやオキナワにでも上陸するつもり?」
「まっ、そんな所だな」
互いの愛車の上でそう言葉を交わし、「「HAHAHA」」と笑いあっていると、4つあるロケット弾の1つの再装填を終えたバーニィのパーシングの砲主がパーシングの上に登りつつ報告する。
「バーニィ隊長、3番ロケット弾の再装填完了しました!!」
「よし、次に4番ロケットだ!!もたもたするなよ!!もたついたらその役に立たない工場廃液レベルの〇ーメ〇吐き出す核汚染物質同然のキ〇タマをパーシングの牽引ワイヤーに縛り付けて引っこ抜いて、強制的に性転換手術だからな!!分かったな!?分かったら、さっさと仕事に書かれ、この腐れセックス&クソ製造機が!!」
初対面の人が聞いたら確実にドン引きするか、憤慨するかのどっちかでしかないバーニィの台詞にも「Roger, Commander!!」と返し、作業に戻る所は流石|彼《バーニィ》のクルーと言った所だろう。
「さっすが、|海兵《マリーン》は慣れたもんねぇ~」
そんなバーニィたちの様子を見てケイがそう一言呟いた瞬間、今度は彼女のシャーマンの通信主がハッチを開けて顔を出すなり、こう報告する
「ケイ隊長、カリオペ隊より報告。砲撃完了したとの事です!!」
「OK。バーニィ、そっちは大丈夫?」
通信主の報告にそう短く返事を返しつつ、バーニィに問い掛けるケイ。
ケイの問い掛けに対し、バーニィは下にいる自身のクルー達に視線を向けると、視線を向けられたクルー達は揃って親指を立てる。
それを見たバーニィはニヤリと笑いながら、ケイに対し言葉を返す。
「こっちも準備完了だ……じゃあ、始めるぞ」
「OK、O~K!!」
そうバーニィと言葉を交わしたケイがシャーマンの車内に入ると同時に、同じ様にバーニィもパーシングの車内に入る。
車内に入ったバーニィは無線機を手に取り、通信主に車体前面機関銃の射撃準備の指示を出す。
「通信主、機関銃射撃用意!!」
『了解!!』
そうバーニィの指示を受け、通信主が車載機銃のM1919A4のコッキングハンドルを引き音がパーシングの車内に響き渡る中、バーニィは再びケイと無線通信を交わす。
「じゃあ、行くとするか……」
『えぇ……パーティやりましょ。それじゃ、パーティ開始の音頭お願い』
「OK……」
ケイの言葉に対してそう呟いたバーニィは一回息を大きく吸うと、大声で無線機越しに全車両に向けて叫ぶ。

「全車突撃、Chaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaarge!!」

バーニィの突撃命令がサンダース陣営の戦車の無線機から飛び出すと同時に、バーニィのパーシングが先陣を切る様に一斉に車体前面機銃と同軸機関銃を撃ちまくりつつ、一気に218高地を駆け上がっていく。
続く様にケイの乗るM4A3、ジェームズのイージーエイト、ナオミのファイヤフライと言ったサンダース陣営の車両も機銃を撃ちまくりつつ、フルスピードで一斉に218高地を登っていく。
そんなバーニィ、ケイ、ナオミ、ジェームズ達の脳内には、218高地で殆どがスクラップと化し、僅かばかりに生き残った大洗学園の戦車達の反撃と、それを容赦無く撃破して自分達が勝利する光景を想像していた。

しかし、待ち受けていた現実はその様な“華々しい勝利とは正反対の光景”だった。

218高地を登り切ったバーニィとケイ達が見たのは、自分たちの想像した様なスクラップと化した大洗側の戦車ではなく、“真っ赤に燃え盛る木々”と“木っ端微塵に吹き飛んだ岩”、地面を抉る様に開いたカリオペとパーシングの放った“ロケット弾の着弾痕”だけだ。
「あ、あれ……?」
「What the f〇ck……?」
この予想だにしなかった光景を見て、シャーマンとパーシングのキューポラから顔を出した状態で呆然とするバーニィとケイ。
何時もはクールなキャラであるナオミさえも、この状況を呑み込めない様子で「えっ?」と言わんばかりに呆然と表情でファイヤフライのクルー達と顔を見合わせている。
そんな中、イージエイトのキューポラから顔を出したジェームズは「あちゃ~……」と言わんばかりの表情で頭を抑えていた。
こうしてサンダース陣営に暫しの沈黙が流れた後に、少し我を取り戻したケイが覗き込んでいた双眼鏡を下ろすと同時に変わる様に、無線機を手に取り、アリサに対して無線通信を入れる。
「アリサ、聞こえる……?」
『はい、聞こえてますが。どうしました、ケイ隊長?』
218高地から離れた場所にいるが故に、このケイ達の遭遇した状況なんぞ知る由も無いアリサが素っ頓狂な声でケイの声に復唱を返した瞬間、ケイは大声で叫ぶ。

「何も無いよー!!」
『えっ、えええええええええええええええええええええええっ!?そっ、そんな筈は……』

このケイからの報告を聞いたアリサが驚き、慌てふためきながら否定しようとした瞬間、堪忍袋の緒が盛大ブチ切れたバーニィの凄まじい怒号が無線機より飛び出す。

「アリサあぁあああああああああああああああああああああああああ!!テメエって奴はあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
『ひいいいいいいいいいいいいいいいっー!!ごめんなさぁああああああーいっ!!』

このバーニィの怒号にアリサが悲鳴も近い声で謝罪するが、怒りの収まる事を知らないバーニィは、続け様に本家ハー〇マ〇軍曹さながらにアリサを罵倒する。
「試合が終わったら、俺とケイのオフィスに来い!!その場で全裸にして、テメェの役に立たないガバガバの腐ったちくわの様に腐れマ〇コにセメント流し込んで、使用不能にした上で、好きな人の顔写真貼ったダッチワイフと共に学園艦から海に放り込んでやる!!」
『それだけはご勘弁おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
もはや悲鳴にしか聞こえないアリサの懇願が無線機から飛び出す側で、ケイとバーニィの後方にいるジェームズがイージーエイトの上でボヤく。
「あーあぁ、やっちまったよ……」
「「あ゛?」」
「あ……あのですねぇ~……」
ジェームズのボヤキを聞いたケイとバーニィが揃って、ギラリと目を光らせながら、ジェームズを見つめる。
それに気づいたジェームズが口を開くよりも先に、バーニィが“死刑宣告”とも言える事を彼に向け、言い放つ。
「お前も後で、俺とケイのオフィスに来い!!」
「逃げたら……分かるわね……?」
「……はい」
バーニィに続くように言い放ったケイの“死刑宣告”を受けて、ジェームズはガックリとイージーエイトの上で項垂れた。
そんな、“この世の終わりを迎えた人”の様な表情のジェームズなんぞ、「ドブにでも、捨てておけ」と言わんばかりに、次なる指示を飛ばしていく。
「ともかく、全車両、この高地から下りるぞ!!」
「下り次第、直ちに散会し、大洗のフラッグ車の捜索よ!!」
『『『了解!!』』』
「りょ……了解……」
そう二人の指示に対し、残るメンバーが復唱を返し、そこから少し遅れて気落ちしたジェームズの復唱が返ってくるのを聞き、バーニィとケイはさらにこう言い放つ。
「ジェームズ、お前が先行しろ」
「アリサと同罪だからね」
「What!?」
「「………」」
「……はい」
この二人の隊長の指示に対し、思わず素っ頓狂な声を上げるジェームズだったが、二人にギラリと睨まれるなり、反論の余地がないジェームズは再びガックリと項垂れながら、弱々しい声で返す事しかできないのだった。


そんなジェームズの事など知る由もないアリサは、疑問を隠せない表情でM4A1のキューポラから顔を出すなり、周囲を見回しながらボヤく。
「まさか嵌められたって言うの?それじゃ……、大洗の車両は一体何処へ……?」
車内から顔を出すなり、アリサはそうボヤキつつ、首から掛けていた双眼鏡を手に取り、周囲をさらに見渡そうとした瞬間だった。
メリメリと音を立てて、M4A1の前にあった竹垣を倒しながら磯辺達の89式が正に“ドンピシャ”と言う言葉が似合う程の鉢合わせをする。
「「あ……、どうも……」」
このトンデモナイ状況に対して、どうリアクションすれば良いのか分からない磯辺とアリサが思わず挨拶を交わす。
そして、数秒の何とも表現し難い沈黙が竹藪の中に流れていく……。
「「………」」
暫くそんな沈黙に飲まれた二人が見つめ合う中、先に動いたのは磯部の方だ。
沈黙を破る様に、自身の乗る89式の天井を拳で軽く3回コンコンと叩くと彼女は思いっきり、愛するバレーの試合でも出さない様な大声で叫んだ。
「右に展開、急げーっ!!」
磯辺がそう叫ぶと同時に、89式の車内に居る操縦主の忍は大急ぎで左操縦桿を引いて左キャタピラを固定すると思いっきりアクセルを踏み込んだ。そうして凄まじい履帯と地面の摩擦音と共に土煙を起こしながら89式を右に向けさせると、同時に一気にアクセルを踏み込み、上に居る磯辺を振り落としかねないスピードを出しながら本体を急発進させる。
そんな89式を見て、アリサも普段の生活では絶対に出さない様な大声で叫び、車内のクルーに指示を飛ばす。
「蹂躙してやりなさーい!!っていうか、ぶっ殺せぇぇ!!」
『隊長達に連絡しますか!?』
変なスイッチが入ったアリサの怒鳴り声を聞きつつ、彼女のクルーの通信主が指示を仰ぐ。
それに対して、アリサは「必要ないわ!!」と一喝すると続け様に戦闘指示を飛ばしていく。
「砲手、直ぐに砲塔9時の方向に旋回して照準定め!!」
『照準よし!!』
「撃て、撃てぇーっ!!」
アリサがそう叫んだ瞬間、照準器を覗き込んでいた砲主がトリガーを引き、轟音と共に76mm砲弾を放つ。
そして、放たれた76ミリ砲弾は89式を目がけて、勢い良く飛んで行き、500m程飛んだ所で、地面に落下し、凄まじい轟音と共に炸裂する。
「くっ!!」
凄まじい衝撃に顔を歪めながら、磯部は喉の咽頭マイクを押して、無線通信を繋げる。
「敵フラッグ車を0765地点で発見!!ですが、こっちも見つかりました!!」
そして、龍達にフラッグ車発見の報告を叫ぶのだった……。