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え?練習試合?俺、聞いてないんですけど?

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<龍Side>
あの怒涛の練習試合から数日が経ったある日。
「わぁ……」
「……なんじゃこりゃ?」
戦車道の授業が始まる前の戦車倉庫で俺とみほは揃って呆然としていた。
俺とみほが揃って呆然としている理由の説明は超が30個以上付く程、簡単。
何故なら、目の前に俺の5式とみほの4号を除いて、”見た事も無いようなハイカラな戦車達が勢ぞろいしている”からだよ!!
そう心の中で呟くの俺の前には上でも言ったように見たことも無い様なハイカラな戦車達がズラッと並んでいた。
もう揃いも揃って突っ込み所に困ってしまうが、簡単に説明すると次のような感じだ。
まずバレー部の89式。横に『バレー部、復活!!』とか書いてるけどソ連軍のT-34かよ?
それとも、1944年の12月に行われた”バルジの戦い”でアメリカ陸軍の第101空挺師団が防衛するバストーニュに救援部隊として突入したアメリカ陸軍第3機甲師団のシャーマンジャンボかよ。
続いて歴女達の3突……、もう何だよコレ?
カラーリングもそうだが、何で戦国時代やらローマ時代の軍旗が立っているの?
もはや『名状しがたい3突みたいな物』といわざるを得ないぜ……。
んで、1年生達のM3リーだが……、何で全部ピンクなの!?
確かに全部ピンク色の戦車は実在けどさぁ……、『アメリカ陸軍の射撃訓練の目標』だぞ!?
縁起悪いってレベルじゃないぞ……、後輩達……。
そんで……、生徒会の38t……、何で『某有名ギンギラソング』よろしくゴールドなのっ!?
確かに1年達のM3リーみたいにイラク戦争で見つかった”AK-47”とか、少し前に殺害されたリビアの独裁者が持っていた”ブローニングハイパワー自動拳銃”と言った形で”金色の軍事兵器は実在する”んですよ。
だけど、それはあくまで独裁者とかが個人的な私欲を満たす&権威を示す為に持っているのであって戦闘用では無いんですよぉーっ!!(※自衛用ではある?)
はぁ……、それで最後は野球部のラムだが……、うーん……。
牧達よぉ……、確かにアメリカ軍で運用されていたシャーマン戦車には星マークが書いてあるけどさぁ……。
それを全部野球ボールに変更するのは……、個人的に頂けないんだけど……、うん……。


もはや突っ込むの面倒くさくなってきた心情の俺の事など知らないで、側に裕也&秋山達と共に立っていた佐織が「むー……っ」と頬を含ませたかと思った瞬間には不満を爆発させる。
「私達も色塗り替えればよかったじゃーん!!」
「……あんな感じにか?俺は真っ平ごめんだぜ……」
不満をぶちまける沙織に対して、少なからずハイカラ戦車を見て顔が引きって居る裕也がそうギコチナイ声で沙織に突っ込む側で、秋山が絶望に近い声でこう叫んだ。
「うあぁぁぁぁーっ!!89式が、3突が、M3が、38tが、ラムが何と別の物にぃぃぃっ!!あァァァンまりですゥゥううゥ~!!」
「えー、平和で良いと思うよ?」
何処かで聞いたような県議会議員の号泣会見の様に泣き叫んでいる秋山に対し、木場が頭をかきながら呟いた。
っていうか、あの号泣県議会議員のニュース……、朝から晩までやっているよな……。正直、ウザイワー……。
秋山の言葉を聞きながら、ふとそんな考えが過ぎるが一瞬だけだ。
俺の注目はふと横目に入ってきたみほに切り替わる。
そんなみほだが、先程からずーっと目の前に並ぶハイカラ戦車達に釘付けになっている。
やっぱり天下の西住流の血を引いている者として複雑な心境なんだろうか……。
そんな事を思いながら、みほの横顔を見つめていたときだった。
「ふっ……、うふふふっ」
そんな俺の予想に反し、噴き出し笑い出すみほ。
この予想外なみほの反応に俺だけじゃなく裕也や佐織達も拍子抜けした表情だ。
そりゃそうだ……、誰もが苦虫をかんだような表情をすると思っていたんだから。
胸の内でそう思いながら、笑っているみほを見つめる俺の側で秋山が頭に疑問符を浮かべながら問い掛ける。
「どうしたんでありますか、西住殿?」
「いや……、戦車をこんな風にしちゃうなんて……、考えられないけど……、なんか楽しいね。戦車で楽しいなんて、初めて」
「「「……」」」
そう微笑みながら言い放つみほを見て、自然と俺や裕也、佐織達も微笑んでいた。
そりゃ……、少し前まで戦車道にアレルギー反応とも言える程に拒絶していたみほが今ではすっかり大洗学園の戦車道に馴染んでいるのだから、共に戦車に乗る身としては嬉しい所があるからな。
胸の内でそう思う俺達の側で金ピカ38tを見つめていた角谷会長と河島、小山先輩達がこう言葉を交わすのが聞こえてくる。
「イイネェ~……、行けるねぇー……、この調子で”例の計画”行っちゃおうか?」
「はい、分かりました。直ちに手配をかけます」
「えっ?い、今ですか?」
そう小山先輩が困惑する側では、角谷会長の指示を受けた河島先輩が足早に校舎へと向かうのが視界に飛び込んでくる。
っていうか、会長……、例の計画って何ですか……、少しはまともなものでお願いしますよ……。
俺はそう思いながら角谷会長達を見つめるのであった……。



ちなみに余談だが、この後の練習で5式に乗り込んだ際に玄田と葵のバカコンビがソ連製のアサルトライフル”AK-47”の戦車・ヘリパイロット&特殊部隊・空挺部隊モデルである”AKS-47”を持ち込んでいた。
無論、直後にそれを見つけた俺がその銃で玄田と葵を”問答無用で蜂の巣にした”のは言うまでも無い……。
っていうか、更にその後に”華がAKS-47を俺から借りて乱射していた”のは驚きだぜ……、目の前でリアル『セー○ー服と機○銃』が行われているんだからな……。






……

………



<?Side>
大洗学園で龍が”バカコンビに向けて、怒りのAKS-47乱射”を行っている頃、校舎に戻った河島先輩が掛けた電話を掛けていた。
その電話の相手は、戦車道において華々しい成績を上げている名門校の1つである”聖グロリアーナ学園”。
学園の一角にあるイギリス式の茶室の中に聖グロリアーナ学園の雌型戦車道隊長を勤める女生徒の”ダージリン”と副隊長の”アッサム”、彼女達の戦車の装填主を務める”オレンジペコ”はティータイムを楽しみながら、河島先輩の電話を受け取っていた。
「大洗学園?共学化してから戦車道を復活させたのですね、おめでとうございます。練習試合?結構ですわ。受けた勝負は逃げませんので……、それでは」
河島と通話を終えたダージリンは受話器を置きながら、入れ替わりに机の上に置いてあった紅茶の入ったティーカップを手に取ると紅茶を一口喉へと流し込む。
そんなダージリンと同じ様にティーカップを持ちながら、アッサムは彼女に問い掛ける。
「練習試合の申し込みですか?」
「えぇ。ペコ、彼に伝えて頂戴」
「分かりました」
そうアッサムの問いかけに答えながら、ダージリンはオレンジペコにそう指示を出す。
このダージリンの指示を受けたオレンジペコはティーカップを机に置くと、携帯電話を手にダージリンが連絡をとる様に指示した人物に連絡を取るのであった……。
所変わって、聖グロリアーナ学園の戦車倉庫の近くを1台の”SASジープ”が走っていた。
そのSASジープの助手席に座るのは、聖グロリアーナ雄型戦車道チームの隊長を務める”ジッダパハール 通称:ジッパー”である。
「今度の週末に練習試合……、それも相手は20年ぶりに戦車道を復活させた大洗学園か……」
SASジープの助手席に座りながら、自身の携帯に届いたオレンジペコからの練習試合の連絡を見ながらそう呟く。
そんな彼に対し、聖グロリアーナ雄型戦車道チームの副隊長である”ドアーズ”がSASジープを運転しながら問い掛ける。
「しかし疑問ですね、ジッパー隊長……、大洗学園は何で20年ぶりに戦車道を復活させたのでしょうか?」
「それは俺にも分からないな……。まぁ、向こうにも事情があるんだろう。だが、どの様な事情があろうと我々は全力で戦うだけだ」
そうジッパーがドアーズに問いを返すと同時に二人を乗せたSASジープは目的の場所である戦車倉庫へと到着する。


着くなり足早に二人はSASジープから降り、倉庫の中へと入っていく。
その倉庫の中では、”チャーチルMk.VII”や”マチルダII”と言った歩兵戦車を始め、”クロムウェル巡航戦車”、イギリス軍仕様の”M4A2シャーマン”、敵トーチカ等の障害物を破壊する為に280mmペタード迫撃砲を搭載した”チャーチルAVRE”や”セントー巡航戦車”に”コメット巡航戦車”、そしてジッパーとドアーズの搭乗車両である”トータス重駆逐戦車”等と言ったイギリス軍戦車がズラッと並んでいた。
そんな戦車達をバックに聖グロリアーナ戦車道チームの生徒達がジッパーとドアーズの二人を待っていた。
その視線を感じつつ、二人は生徒達の前に立つとドアーズの方が生徒達に向け、号令をかける。
「起立、ジッパー隊長に敬礼!!」
ドアーズがこう言い放つと同時に生徒達は一斉にジッパーに向け、イギリス軍式の敬礼を行う。
その敬礼を向けられたジッパーもイギリス軍式の敬礼で返すと、手を下に振って敬礼を止めさせ、こう言葉を続けた。
「えー、ここに居る殆どの諸君らも知っているように今週の週末に練習試合を行う事になった。相手は20年ぶりに戦車道を復活させた大洗学園だ」
このジッパーの発言を聴いた瞬間、聖グロリアーナの生徒達は一斉にざわめき出す。
「大洗学園、聞いたこと無いぞ?」
「それ以前に20年ぶりに戦車道を復活って……」
「何で今更になって……」
この様なざわめきが倉庫中を飛び交う中、ドアーズが一言「静かに」と冷静に告げると同時に倉庫は再び静かになる。
その静けさを確認したドアーズがジッパーにアイコンタクトを送ると、ジッパーは「ん……」と呟きながら、こう言葉を続けた。
「諸君らがざわめくのは無理も無い話しだ。なんせ、20年前に廃止した戦車道を復活させたというのは前代未聞だからな。だが、我々は大洗学園にどの様な事情があろうとも、決して手を抜く事無く全力でぶつかり勝利を収めるだけだ」
こうジッパーが指揮官として、生徒達に向けてそう言い放つと続け様にこう言い放つ。
「それでは諸君、これより練習試合に向けての作戦会議を始める」
「「「了解!!」」」
そうジッパーが作戦会議の開始を宣言すると同時に聖グロリアーナの生徒達の復唱が倉庫中に響き渡るのであった……。





……

………



<龍Side>
再び所変わって、大洗学園。
この日の戦車道の授業を終えた俺達は夕日の暮れる校庭で練習の終わりを迎えていた。
もう俺や裕也達だけじゃなく、みほや沙織達も3時間以上に渡って行われた戦車道の授業に疲労困憊だ……。
全く……、帰りながら角の肉屋で夕飯のコロッケ買って、寮に帰ってあっつーいシャワーを浴びたら、コロッケ食いながらサイダーでも飲みたいぜ……。
「皆、練習ご苦労であった」
「「「お疲れ様でしたー……」」」
そう胸の内で放課後の予定を立てながら、俺は裕也やみほ達と共に倉庫の前に並ぶと河島先輩の挨拶と共に頭を下げる。
やっとコレで終わりだ……、さぁーて、裕也やみほ達と喋りながら、コロッケ買いに行くかな……。
そう思いながら裕也、みほ達と共に帰ろうとした時だった。
「あ、ちょっと皆待って。まだ、話があるの」
「え?」
「あんだよー……」
そう言い放った小山先輩の言葉に対し、沙織が唖然とした様子で振り返る側では玄田が不満げな表情で振り返る。
お前の気持ちは分かるけどさぁー……、そう堂々とボヤくなよ……。
玄田の表情を見て、俺は胸の内でそう思いながら、裕也、みほ達に続く様に振り返った。
そんな俺達に対し、河島先輩がこう言い放つ。
「さて、急ではあるが今度の週末に練習試合を行う事になった。相手は聖グロリアーナ学園」
「「「えっ!?」」」
この河島先輩が言い放った”聖グロリアーナ学園”と言う言葉を聴いた瞬間、俺とみほ、秋山の3人は思わず驚いてしまった。
そりゃそうだろ……、いきなりの練習試合……、それだけでも驚きなのに……、相手がよりにもよって……、こりゃ負けたも同然だ……。
様々な感情や考えが胸や頭の中を駆け巡る中、自分達が立たされた状況を理解していない沙織が秋山に問い掛ける。
「どうしたの?」
「練習試合の相手である聖グロリアーナは戦車道全国大会で準優勝した事もある学校なんです……」
「おいおい……、マジかよ……」
沙織に返した秋山の返答を聞いた裕也が少なからず愕然とした様子で呟く。
そりゃなぁー……、まだ20年ぶりに戦車道が復活させて間もない俺達の初練習試合の相手が戦車道全国大会で準優勝した事もある学校……、この状況を聞いて唖然としない人がこの世に居るのだろうか?
裕也の反応を見て、胸の内でそう思う俺の側で河島先輩はメガホンを片手にこう言い放つ。
「これより作戦及びフォーメーションの計画を立てるので各戦車長は生徒会室に来るように!!」
「はぁー……っ」
この河島先輩の言葉に対し、俺は深く溜め息を付きながらみほ達と共に生徒会室へと向かうのだった……。





……

………



んで、三度場所は変わって、大洗学園の生徒会室。
俺やみほ達が長いすに座り、小山先輩と会長が個人用の椅子に座る中、ホワイトボードをバックに河島先輩が練習試合で行う作戦を説明する。
「いいか、相手の聖グロリアーナ学園は榴弾砲を搭載した戦車による支援砲撃の元、強固な装甲と連携力を生かした教習浸透戦術を得意としている」
そう言いながら、河島先輩がホワイトボードに貼り付けたのは榴弾砲の砲撃を行っている聖グロリアーナ戦車道チームに所属するチャーチルAVREの写真だ。
どうやら戦車道を取り扱っている雑誌からの流用だろう。
ホワイトボードに貼り付けられた写真を見て、そう憶測をめぐらせる俺の事など知る由も無い河島先輩はこう言葉を続けた。
「とにかく相手の戦車は固い。主力のマチルダに対し、我々の戦車の砲撃は200メートルまで接近しないと通用しないと思え。だから、我々の作戦は2両を囮にして、キルゾーンに引き摺り出した所を一斉に攻撃し、殲滅する!!」
「わぁー……」
「うむ」
「よし!!」
「おおっ!!」
そうホワイトボードをバン!!と叩きながら、言い放った河島先輩の作戦プランに対し、俺とみほを除く磯辺、澤、カエサル、牧達が歓喜する。
「……龍君」
「あぁ……」
だが、俺とみほは浮かない表情で顔を見合わせた。
その理由は、この一見して完璧そうな河島先輩の作戦は”大きな落とし穴”があるかだ。
俺とみほは共にこの落とし穴の事が気になって仕方が無い……、本当にこの落とし穴をほったらかしで良いのだろうか……。
みほと共に胸の内でそう不信感を隠しきれない様子で居ると、それに感ずいた角谷会長がこう問い掛けて来る。
「西住ちゃん、喜田川ちゃん、どうしたの?言いたい事があるならいいなよ~!!」
「「……」」
この会長の言葉に促される様に俺とみほは顔を見合わせた後、河島先輩に対して素直な意見をぶつける。
「お言葉ですが、聖グロリアーナ学園はこちらが囮を使ってくることを予想しているはずです。今の作戦では、それを逆手に取られて逆包囲される可能性が……」
「あぁー、なるほどぉー……」
みほが率直に言い放った俺との共通意見に対し、小山先輩がそう呟いた瞬間だった。
河島先輩が声を荒立てみほに噛み付いた。
「黙れ!!そんなに言うんだったら、お前が作戦を考えろ!!」
「す、スイマセン……」
そうシュンとしてしまうみほを見た瞬間、俺の中で”決定的な何か”がブチンと言う音を立てて切れた。


つーか、ふざけんなよ!!


そんなドス黒い感情が胸から湧き上がってきたと思った瞬間には、俺は殆ど無意識の内に立ち上がると同時に河島先輩に向かって怒鳴り散らす。
「では、お言葉ですが河島先輩!!過去に自分の親父の指揮する戦車部隊が参加した日米合同軍事演習で行われた模擬戦では、河島先輩が立てた作戦と殆ど同じ作戦を立てたアメリカ陸軍の戦車隊が親父の指揮する戦車体を前に逆包囲され、30分も立たない内に全滅した記録があります!!あの『世・界・最・強!!』と名高いアメリカ軍が30分で全滅したんですよ!?世界最強の軍隊であるアメリカ軍ですら逆包囲され全滅するのに我々が全滅しないという保障が何処にあるのでしょうか!?説明してくださいよ!!」
「えー……、えーっとぉ……」
無意識のうちとは言え、”戦艦クラスの眼光”で詰め寄ってきた俺に対して河島先輩が困惑する後ろではみほ達の唖然とした声が聞こえてくる。
「りゅ、龍君……。お、落ち着いて……」
「そういうキャラだったっけ?」
「暴君ネロも逃げ出しそうな気迫だな……」
「アイツ、戦争映画だと絶対上官に反抗するタイプの兵士だな……」
「喜田川先輩って……」
そんな感じでみほ達が各々の反応を見せる側で会長が俺を宥める様にこう言い放つ。
「まぁ、まぁ、喜田川ちゃん。クールダウン、クールダウン、落ち着きなって」
「……スイマセン」
この会長の言葉に我を取り戻した俺は涙目な河島先輩をバックに自分の席に座ると側においてあったドリンクを一口喉へと流し込む。
確かに我ながら年甲斐無い行為だったな……、反省……。
喉を流れるドリンクの感覚を感じつつ、少なからず反省していた時だった。
会長が椅子の背もたれにもたれながら、俺とみほに向けてこう言い放つ。
「でも、まぁ、隊長は西住ちゃん、副隊長は喜田川ちゃんが良いよね。二人が打ちのチームの指揮とってよ」
「「えっ?」」
この会長の発言に俺とみほは拍子抜けしたような声を上げる。
だっていきなり隊長と副隊長になれって言うんだよ……、この生徒会長……、何がしたいんだろう?
そんな考えで胸が埋め尽くされる中、呆然としている俺とみほを側に会長はパチパチと拍手を始めると、コレに続くように磯部たちも拍手を行う。


おいおい、ますます状況が理解できなくなってきたぞ……。
みほ……、お前はこの状況理解できているのか?
拍手を聞きつつ、そんな感情が俺とみほの胸の内で湧いて来る中、会長はニヤッと笑いながら副隊長の俺と隊長のみほに向け、こう言い放つ。
「頑張ってねぇ~、二人共。勝ったら良い物上げるからねぇ~」
「え?」
「良い物?」
会長なりに俺とみほに指揮官職を押し付けた事に対する”お詫び”と言った所だろうか?
だけど、この会長の事だ……、ろくな物は期待できないだろうな……。
唖然とした様子で会長の顔を見るみほの側で、そう胸の内で思考を駆け巡らせる俺。
そんな俺とみほに対して、会長はニヤッと笑うなり良い物の正体を発表する。
「何と豪華に干し芋3日分!!」
「「「「……」」」」
この会長の発表に対し、俺やみほだけでは無く小山先輩、河島先輩、カエサルや牧達も開いた口が塞がらない……、と言うよりは殆ど絶句と言った状態だ。
そりゃそうだろ……、3日分の干し芋って一体なんだよ?想像しようにも想像ができんぞ……。
って言うか、俺は芋(※ここでは”サツマイモ”の事を指す)を使った食品なら、大学芋とかスイートポテトの方が好きだし、貰って嬉しいぞ。
と、そうは言っても、本当に大学芋やスイートポテトを3日分貰った所で困惑するだけだがな……。


会長の言い放った『干し芋』と言うワードを元に脳内妄想を膨らませている俺の側で磯辺が恐る恐る会長に話しかける。
「あのぉー……、もし負けたら……?」
「ん?そうだねぇー……、んー……」
この磯辺の問い掛けに対し、会長はそう呟きながら顎に指を当てながら宙を見て考える。
そうして数秒程度考えると何かアイディアが思いつたらしく、「あっ」と呟いたかと思った矢先には”ゲスイ笑顔”で生徒会室にいる俺達全員に向け、こう言い放つ。
「男子は大洗祭りで”プロレスショーの余興で殴られる”って言うので」
「会長、思いっきり殺すつもりですよね!?」
俺はプロレスショーで殴られると提案を聴いた瞬間に思わず条件反射的に問い詰める。
そりゃそうだろ!!
元々、様々な格闘技に優れている&お姉さんの関係で映画のアクションシーンをやった事のある裕也なら兎も角、素人の俺達がプロレスラーニ殴られるなんて『死刑宣告』も同然だろ!!
そんな俺の直訴に対し、会長はこれまたゲスイ笑顔で「ないない」と返す。
本当に何でこんな人が生徒会長に生徒会選挙で選ばれるんだろうか……、先の超号泣議員じゃないが……、日本の政治制度が本気で心配になってきたぞ……。
ゲスイ笑顔の会長を見ながら、そんな考えが俺の脳内を駆け巡る中、当の会長本人は続け様に女子の罰ゲームを発表する。
「んで、女子は『あんこう踊り』でもやってもらおうかな」
「「「「えっ!?」」」」
会長の口から出たこの『あんこう踊り』と言う言葉に男子である俺と牧、そして、みほを除く全ての女子達の表情が固まる。
どうやら……、”10代の女子がやるような芸じゃ無い”のは確実だ……。
みほを除く女子達の反応を見て、そんな考えが俺の胸の内を駆け巡る中、当のみほは『あんこう踊り』が分からず、ただただ呆然としていた……。






……

………



んで、んで、三度場所を移動して、今は学園艦にある学校近くの総合広場。
生徒会室で言われた俺とみほの隊長&副隊長就任の報告と共にプロレスとあんこう踊りの事を裕也、沙織達に伝えると……。
「「「「ええぇええぇぇぇぇっ!?」」」」」
基本的にバラバラな裕也と沙織達が珍しく同じ反応を見せる……、それ程までに嫌なんだな……。
と、言っても先に述べた様に格闘技のプロ&スタントマンの経験もある裕也は「ふーん」と呟くだけだ。
お前、本当に人間か?実は人間の皮を被ったエイリアン、サイボーグ、ロボットとかじゃないよな?
そうじゃなくても、もはや”アクション俳優”の領域に達してるんじゃないのか、お前?
裕也……、もう自衛隊行かないでアクション俳優として芸能界デビューした方が良いんじゃ……、あぁ、自衛隊に言ってから芸能界デビューした方がアクション俳優としては魅力的だよな。
ハリウッドスターのプロフィールでも『アメリカ陸軍に勤務&ベトナム戦争を従軍』とか売りにしている様な俳優も居るし、日本の芸能ニュースとかでも『元自衛官だから出来るスタント一切無しの超大スケールのアクション!!』とか、お姉さんである『神崎智明の弟』って事も話題に出来るしな。
そんなクールな反応を見せる裕也を見ながら、心でそう呟く側で沙織、玄田達は絶望にくれていた。
「もうお終いだよぉ……、一生お嫁に行けないよぉー……、だから木場君、私をお嫁に迎えて!!そして、子供作ろう!!」
「アイェェェ!?ナンデェーッ!?」
アンコウ踊りの絶望から来るパニック状態から木場に”全く持って意味不明な逆プロポーズ”をしてきた沙織に対し、木場が4オクターブぐらい高音で困惑の声を上げる。
そりゃなぁ……、困惑するよなぁ……。
っていうか、沙織……、お前の今の行為って……、何気に逆プロポーズ&”夜戦のお誘い(※と言うか、強制参加)”だよな?
下手したら、ワールドカップで負けた国のチームの選手じゃないけど、お前に殺害予告とか来かね無いぞ……、沙織……。
まぁ……、とりあえず木場……、南無三&日本の少子高齢化解消の為に頑張って来い。
っていうか、『人間は追い込まれるとトンでもない行動を取る』って言うけど本当なんだな……。
目がマジの沙織に睨まれ、困惑の表情を見せる木場の側では秋山と華が絶望にくれていた。
「ネットにアップされて全国的な晒し者になってしまいます……」
「末代の恥です……」
「そんなに嫌なんだ……」
暴走している沙織とそれに絡まれている木場を少なからず横目に見ながら、みほも苦笑いで言葉を返すしか出来ない。
どうやらみほ自身も『アンコウ踊り』が相当やばい物と言う事を痛感した様だ。
そんなみほ達を横目に見ながら、俺は裕也達に顔を向ける。
そこでは相変わらず殴られる事には慣れており、今回のプロレスにも困惑する事無くクールな裕也と沙織に襲われている木場の隣で秋山と華と同じ様に絶望にくれている玄田と葵の姿があった。(※木場も別の意味で絶望にくれている?)
「罰ゲームってレベルじゃねぇぞ、あのクソ会長!!」
「うわぁー……、俺、童貞で死ぬのかよぉー……。せめて一人ぐらい女抱きたかったぜぇー……」
うーん……、こいつらは相変わらずと言った所だな……。
っていうか、葵……、お前の脳内はどうなっているんだよ……?
死ぬ時ぐらいは真面目に家族とか事を考えろよ……、最後ぐらいは己の欲望を捨てろよ……、お前、絶対に綺麗な死に方しないぜ……。
葵の言葉を聞き、そんな考えが沸いて来る中で少なからず木場に諭され、冷静さを取り戻した沙織がこう言い放つ。
「っていうか、勝とうよ!!勝てば、踊らなくて済むし、木場君達も殴られないんでしょ!?」
「分かりました!!もし負けたら、私もアンコウ踊りを踊ります!!西住殿、一人に辱めは受けさせられません!!」
「私もやります!!」
「「俺も!!」」
「僕も!!」
「お……、おうっ……!!」
「皆が団結すれば、きっと勝てるよ!!」
そう沙織に続くように秋山、華、玄田、葵、木場、少し遅れて裕也も勝利への誓いを口にする。
ここに居るメンバー全員が団結して、アンコウ踊りとプロレスを回避したいんだな……。
そりゃ……、俺もプロレスで殴られる事だけは何としても回避したいしな……、副隊長として全力を挙げねば……。
「皆……、ありがとう……」
そんな感情が沙織達の勝利への誓いを聞いて湧いてくる中、側に立っているみほは真剣な沙織達の表情を見て嬉しそうな表情でそう呟くのであった。





……

………



<巽Side>
「で、どうだ。室戸?」
聖グロリアーナとの練習試合の始まる少し前、俺は部室で室戸からの報告を聞いていた。
「まだ、完全に詳しいとこまではつかめちゃいないが、どうやら統廃合の対象に入っている可能性はかなり高いな。巽、お前の方はどうだった?生徒会に”カマ”かけたんだろ」
それに対し、お前の方はどうだとばかり室戸が聞き返してきた。
「生徒会長補佐の二人は、激しく動揺していたな。可能性は高い」
「だが”確実な証拠”を自分の目で見ない限り信じることは出来ない……というのがお前のポリシーみたいなものだったな」
そう、俺は、自分の目で見たものでないと信じないタイプの人間だった。気になったら気が済むまで調べるそれが、俺の信念だった。
「なんとか”目に見える証拠”を手に入れてみるさ。俺の持ってるコネや伝手を使ってな。まあ、ヒルターさんのおかげでだいぶ楽にはなったが」
そう言って、室戸は近くに置いてあったコーラを飲んだ。どう見ても高校生の会話には見えなかったが……。
「そういえば他のメンバーはどうしてる。情報収集以外で?」
思い出したかのように室戸が他のメンバーの様子を確認してきた。実のところ、まだ戦車も用意も出来ていないので仕方なく荷物牽引用?の一式中戦車で操縦訓練をしているところだった。
ヒルターさんやおやっさんも必死に戦車を探してくれているが、そう簡単には見つからないという状態だ。海外に行った際に、退役した戦車を乗り回したり、対戦車砲をぶっ放すというツアー?もどきをやった経験があるので

経験0ではないが……”実戦”経験は全くない。

戦車がなければ、ただの足手まといにはなるわけにはいかなった。皆真剣にやっていた。
「お前と同じように情報収集をやっている。が、芳しくない。俺もだがな……お前には敵わんよ。集まるのは、信ぴょう性のない噂ばかりだ。内容は悪いものばかりだがな」
皆、可能な限り情報集してくれているが、なかなかこれといった情報が集まらない。
「そうか……分かった。そっちの方面は俺に任せておけ。俺の方でなんとかしてみる」
と、俺の返答を聞いた室戸が、そう言った。
「そういえば、この前の偵察の時、同学年の女子に見とれてたんだって?確か、秋山っていう女子には珍しい戦車マニアだったけ」
反田の奴から漏れたな。確かに知らんうちに見とれてたのは事実だったが。
「ああ、そうだったかな」
ややこしいので適当な言葉を口にするが、多分こいつに、ごまかしなんて効かないだろう。
「惚れたのか?」
「なんでそうなるんだ。室戸」
惚れてるにせよ、惚れてないにせよ、今の俺には関係ないことだと思っていた。
「だが、そういうお前の方はどうなんだ?室戸。カエサルとはどういう関係で?」
そこで、俺はお返しとばかりに質問をかましてやった。
珍しくニヤリと笑った室戸が、何か言おうとした。その時、俺の携帯が鳴った。


着信番号を見たところ、見覚えのない番号だったが、誰が電話をかけて来たかは検討が付いていた。
俺は、冷静に電話を取った。
「はい、巽です」
『おー!巽君~。直ぐ出てくれてありがとう~』
俺の耳に明るい声が響いてきた。誰かと思えば生徒会長からだった。
「誰からだ?声からして女の様だが……」
携帯から声が漏れたのか室戸が聞いてきたので、小声で
「この前、俺が接触した角谷生徒会長だ」
と言った。すると、室戸の奴がこんなことを言いやがった。
「あの胸囲の格差社会を体現するようなツルペタの生徒会長からか?」
小声で言ったつもりだったようだったが、運悪く相手に聞こえてしまった。
『今、ツルペタとか胸囲の格差社会って言わなかったかなあ……巽君~』
声は明るいが何故か寒気を感じた。
すったもんだ挙句、おれはこれからの生徒会の関係の事も考え正直に言った。
「すまない。今のうちのメンバーの室戸が言った」
正直にさっきの発言の犯人を教えてやった。
「……ひでえな」
「今後の生徒会との関係の為だ。今のは、自暴自得だ……残念だがあきらめろ」
『へえ~室戸君ね。ありがとう……で話変わるけど、今日学校に、うちの戦車道復活を聞いて、戦車の修理や整備なんかの支援をしたいって人が来てね。いや~、うちとしては凄く助かることになったんだよねえ~自動車部だけじゃ負担大きいし』
流石、おやっさん。行動が早いな。自動車部の4人だけでは体力的にもきつい。一人でも応援は多い方がいい。
『確か榊原っていう初老のおじさんだったよ。もしかして、これが、あなたが言ってた大洗戦車道に対する朗報なのかな~?』
ついでに、クスクスと笑う声が聞こえてきた。こういう生徒会長も悪くないとさえ思った。
「さあ、それはどうだか……あと、生徒会長。」
ここで、いったん会話を俺は、区切った。そう本題に入る為に。


そばに居る室戸も俺の雰囲気が変わり、これから大事な話をする事に気が付いたのか。奴も顔つきも真剣なものに変わった。
『なあに、巽っち。雰囲気かわったわね…』
電話の向こうの会長もお、俺の雰囲気が変わった事を声で気づいたらしく、あちらも口調が代わった。
「近いうち……我々ミリ研6名が戦車道に参加するかもしれない。いや、絶対に参加することになる。だから・・そちらも受け入れ『準備』しておいてほしいんです」
そして、数秒の沈黙が流れた。
『分かった。こちらもあなた達ミリ研を、いつでも受け入れるように準備しておくから。でも、まだ、あなた達の乗る戦車ないから、予備人員として扱うかもしれないけどいい?』
「それでも構いませんよ。生徒会長。あともう一つ」
最後に、こちら側の条件を生徒会長に伝えることにした。
「西住隊長の指揮下に入るのは俺達としても問題ない。独だが、いざという時の遊撃部隊…いや独立部隊としての行動の自由がほしい…まあ、そこらへんについては後でゆっくりと話し合いたい」
『分かったわ。それじゃ、これで……って思ったけど室戸君に伝言!』
会話が終了すると思ったら、室戸に伝言・・こりゃ何かあるなと感じた。
『私の事を、ツルペタと言ったのを許してほしかったら干し芋をたくさん用意しろってね。もし用意しなかったら……大変なことになるよ~って伝えといて。じゃ~ね~』
そう言って会長は電話を切りやがった。
俺は、会長からの伝言をそのまま室戸に伝えたところ、目の前で軽くため息をつくのだった。
本当に口は災いの元だと、俺は改めて思った。





……

………



<龍Side>
そして遂にやってきた聖グロリアーナとの練習試合の日。
先に大洗の試合会場入りした俺達、大洗学園戦車道チームは横一列に並べた戦車の前で対戦相手の聖グロリアーナの面々を待っていた。
「そうそろですね……」
「あぁ……」
携帯電話の時計で時刻を確認しながら呟いた小山先輩に対し、河島先輩がそう返した瞬間だった。
試合会場中に俺達の戦車とは違う戦車のエンジン音が聞こえてきて、俺達は聖グロリアーナの面々が来た事を悟った。
「来たみたいだな」
「そうみたいだね……って、何あれ!?」
聞こえて来たエンジン音に対し、5式の上でエンジン音の聞こえてきた方を見ながら呟いた裕也に言葉を返していた木場が驚愕する。
一見すると彼らしくない行為だが、その行為の理由を俺やみほ達も直ぐに理解する。
何故なら、こちらにやって来るチャーチルやマチルダ、セントーと言った聖グロリアーナの戦車達の中に一台だけスケール違いの”超巨大戦車”がいるからだよ!!
っていうか、超巨大戦車ってイギリス軍が第二次世界大戦末期にドイツ軍のジークフリード防衛線を突破する為に開発した”トータス重駆逐戦車”だよな!?
一番投入する切り札的な存在の戦車が”センチュリオン巡航戦車”ぐらいだと思っていただけに、奴らトンでもない品を持ってきやがったぜ!!
「うわぁ……」
「な、何だあれは……」
「おい……、コレは一体何の冗談だ?」
「「……」」
まるで小山が動いてるかの様に近づいてくるトータスを前にただ愕然としている俺達の側では、みほ達もトータスのインパクト溢れる姿に驚きを隠しきれない様子だ。
そうだよなぁー……、イギリス軍が作り出した超重量級の重駆逐戦車が出てきたんだからなぁー……。


みほ達の表情を見ながらそう思っていると、チャーチルとトータスのハッチがパカッと開く。
「キャーッ!!ダージリン様ーッ!!ジッパー様ーッ!!」
そして聖グロリアーナの雌型、雄型両隊長と思われる男子と女子がハッチから顔を出すと、その場にいた女子達が一斉に黄色い歓声を挙げる。
それぞれチャーチルとトータスから降りてくると、狙い澄ましたかの様にメイド達が駆け付け、それぞれ「お姉様」、「お兄様」と呼んで紅茶を差し出す。
「有難う」と言って茶髪の男子がカップを受け取ると、優しく微笑む。その笑顔に再び女子達が割れんばかりの歓声を挙げた。
「キャーッ!!アッサム様ーッ!!オレンジペコ様ーッ!!ドアーズ様までーッ!!」
「聖グロリアーナ学園のノーブルシスターズとノーブルブラザーズの登場よーッ!!」
続いて戦車のハッチから乗員の女子2名と男子1名が顔を出すと再びそれぞれの名前を呼んで歓声が上がり、同じ様にメイド達が駆け付けるとそれぞれ「アッサムお姉様」、「オレンジペコお姉様」、「ドアーズお兄様」と相手の名を呼んで紅茶を差し出す。
3人もカップを受け取ると、5人は事もあろうに優雅なティータイムと洒落込みやがった。
その姿は俺が言うのも何だがとても美しくて瀟洒で、非常に絵になっていた。
顔立ちも端正で整ってるし、如何にも英国の紳士淑女って感じだな。
心無しか背後に赤い薔薇や白い薔薇、青い薔薇の幻が見えるぜ。


因みに赤い薔薇の花言葉は「情熱」、「あなたを愛してます」、白は「あなたに身を捧げます」だが、青い薔薇は何て言うかご存知だろうか?
それまで作る事が出来なかったから「不可能」が最初の花言葉だったのを、最近になって品種改良に成功して作れる様になり、その発売をきっかけに「不可能を可能にする」と言う意味から新たに「奇跡」、「神の祝福」、「夢が叶う」って花言葉が青い薔薇には付けられたんだぜ。


まァ無駄知識は此処までにしておいて、まさか聖グロリアーナの隊長達がこんな美男美女とは夢にも思わなかったよ。
こりゃ木場以上の綺麗所じゃねェか・・・って何相手に呑まれてんだ俺は!?俺とみほだって隊長、副隊長なんだ!戦う前からこんな貴公子然のナルシスト共になんて喰われてたまるかよ!!


だがそんな俺の強がりとは裏腹に大洗、聖グロ両校の女子達は「キャー!!」とか「死んじゃうー!!」とか「大好きー!!」とか「格好良いー!!」とか黄色い歓声を尚も挙げてやがる・・・・・・。
「何!?あの人達・・・・・・?」
まァ沙織もドン引きする気持ちは分からなくもないが・・・・・・ってコラ、1年のヒヨっ子共!!
「キャー素敵ー!!」とか「負けちゃうー!!」とか言ってんじゃねェ!!
敵のシンパに成り下がるなんざ良い度胸してんじゃねーか!!戦前なら銃殺モンだぞ!!
見ろ!!みほだって困惑してるじゃねーか!!これからお前等を引っ張ってく隊長困らせるなんて副隊長として俺が許さねェぞ!!
みほ「えっ!?ウチの1年まで・・・・・・」
ったくこのミーハー女子共め・・・こんな奴等の何が良いってんだ!?
確かに「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」って言葉はあいつ等の為にある言葉だろうし、見ていて眼福っつーか目の保養にはなるだろうが、俺に言わせりゃそれ全部あいつ等なんかよりみほの方が遥かに相応しいよ!お前等なんかにゃ勿体無いぜ!!みほー、今日も美人だな!!どんな顔のお前も素敵で最高だぜ!!


そう脳内反論する横で何やら呪詛の様な言葉が聞こえて来たかと思うと、其処にはドス黒い嫉妬の炎を巨大な柱の様に燃え上がらせる葵の姿があった……。
「メシマズ国家かぶれの癖しやがって……、あのクソ紅茶野郎どもがぁ……」
まぁ……、確かに告白しまくって結局玉砕してばっかの非モテのこいつには、確かに聖グロのあの隊長達は敵以外の何者でもないわな……って言うか、あの5人は学校でも相応に青春を謳歌してまさにリア充なんだろうな……。
嫉妬に燃え狂う葵を見てそう思っていると、木場が少なからず唖然とした様子でこう呟く。
「でも女子の皆が喜ぶのも何と無く分かるなァ。あの人達、かなり気品のある雰囲気だし、顔立ちも端正で凄く絵になってるから・・・」
あー木場……お前もう少し空気読んで発言しろよ……、お前まであいつ等に呑まれてどうすんだ……、本当に大丈夫かこのチーム……。
いよいよあんこう踊りとプロレスが現実味を帯びてきやがった……そんな考えが脳内を過ぎった瞬間、葵の嫉妬の炎とは別なドス黒い負のオーラを感じる。
そのドス黒い負のオーラを辿って行くと、そこには葵と同じかそれ以上に嫉妬に燃え狂う沙織の姿があった。

「木場君……、何で浮気しているの……?私と言うお嫁さんが居るのに……」

ぎゃあああああああああああああっ!!
ヤンデレだ、リアルにヤンデレがここに居やがった!!
つーか、沙織!!お前、今、完全にダークサイドに落ちてるぞ!!
っていうか、「私と言うお嫁さんが居るのに……」って、お前は木場の何なんだよ!?
というか、木場!!お前は試合が終わったら全力で逃げた方が良いぞ!!
出来ればアメリカとか中国、ヨーロッパと言った国外に!!


嫉妬に燃え狂う沙織を見て、そんな考えが頭の中を駆け巡る中、河島先輩が代表として聖グロリアーナの隊長達と対面する。
「聖グロリアーナ戦車道チーム、雄型隊長のジッパーだ。今回は宜しく頼む」
「同じく聖グロリアーナ戦車道チームの雌型隊長のダージリンですわ」
「大洗学園の河島と申します。この度は急な申し込みにも試合を関わらず受けて頂き、心より感謝します」
河島先輩はそう言ってジッパー隊長とダージリン隊長と軽い握手を交わす。
そんな握手を交わしたダージリン隊長はチラッと河島先輩の後ろに並ぶ俺達の戦車を見て、こう言い放つ。
「それにしても……、随分と個性的な戦車たちですわね……」
軽くププっと笑いながら、そう言い放つ聖グロリアーナのダージリン隊長。
うーん……、彼女の言っている事が否定できないのが、何だか悔しいやら、虚しいやら……、複雑な心境だな……。
やたらとド派手な新入部員勧誘やら、旗頭やら、ゴールドやら、ピンクやら……、普通なら突っ込みが追いつかないだろうな……。
そう思いながら、ダージリン隊長の言葉を聴いていると彼女はこう言葉を続けた。
「ですが、ご安心ください。ライオンはウサギを狩るときも全力を尽くすと申しますもの……、我々はサンダースやプラウダみたいに下品に戦いをする事無く全力で闘わせていただきますわ」
「それはありがたい……」
このダージリン隊長の”宣戦布告”とも受け取れる発言を聞いた会長がカチンと来たのか、ダージリン隊長の前に立つと嫌味(?)たっぷりにこう言い放つ。
「我々が鳶か鷹か、見極めてもらうことにしましょうかねぇー……」
「「ふっ……」」
この会長の発言に対し、ダージリン隊長とジッパー隊長は共に軽くほくそ笑んだ後にこう返す。
「それは当然の事ですよ……、角谷会長。騎士道精神で共に頑張りましょう、それでは……」
ジッパー隊長はそう会長に言葉を返すとダージリン隊長と共に振り返り、再び自分達の戦車に乗り込んでいくのであった。

それにしても会長……、随分とまぁ……、派手に喧嘩売ったものだ……、これで負けたら笑い者確実だな……。
そうならない様にチームの副隊長として、みほと共に全力を挙げて、この試合に勝たねば……。

胸の内でそう思い、気を引き締めながら、俺はみほ達と共に聖グロリアーナと同じ様に自分達の戦車に乗り込み、試合開始地点へと向かう。





……

………



それから数十分後、移動した試合開始地点で俺達は試合開始の時を待っていた。
ここに来て何だが、俺は胸の高鳴りを抑え切れなかった。
初めての対外試合……、みほと共に俺に与えられた副隊長……、指揮官としての使命……、みほの為……、チームの為に全力を挙げねば……。
そう思いながら激しく躍動する心臓の鼓動と早くなる脈拍を感じていると無線機より河島先輩の無線通信が聞こえてくる。
『隊長、副隊長、聞こえるか?』
『は、はいっ!!』
「聞こえます」
そう俺とみほが無線機越しに河島先輩に返事を返すと、先輩はこう言葉を続ける。
『この試合の全ては貴様達に掛かっている。しっかり、頼むぞ!!』
『はい……』
「了解です」
そう言って俺とみほが河島先輩との無線連絡を終えた数秒後……。


『試合開始!!』


そう試合会場中に鳴り響く審判団の試合開始の合図。
これを合図としてみほと俺は隊長並びに副隊長に任命されてから初の命令を飛ばす。
『全戦車、パンツァー・フォーッ!!』
『総員、隊長の後に続けぇー!!』
そうみほと俺が出した指示を受け、一斉に大洗学園戦車道チームの戦車達は一斉に前進を開始するのであった……。