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速報:我、聖グロリアーナとの戦闘に突入す!!

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<?Side>
遂に火蓋が切って落とされた大洗学園と聖グロリアーナによる練習試合。
その練習試合の行く末を見ようと多くの地元住民や両校の生徒達によって埋め尽くされた観客席。
試合開始の合図と共に走り出した両校の戦車を見て盛り上がりは早くも一気に最高潮へと達する。
「始まったぞ!!」
「動いた!!」
その空気で包まれる観客席の中では、現在の大洗学園において野球部・バレー部と共に”廃部寸前の部活”だったりする”大洗学園アメリカンフットボール部(※以下、アメフト部)”の面々も試合の行く末を見つめていた。
「……始まりましたね」
「そうだねぇ、この試合の行く末はどうなるのかなぁー?」
アメフト部の副部長にして”クォーターバック”である|高倉祥寺《たかくらしょうじ》が出店で買ったコーラを片手にそう呟くのを聞き、”センター(ライン)”を担当する|栗田陽一《くりたよういち》が同じく出店で購入した山盛りのソース焼きそばを食べながら言葉を返す。
そんな二人のやり取りを聞きながら、アメフト部の部長にして、アメフトのポジションでは一番の華形と言える”ランニングバック”を担当する|蛭田暁《ひるたあかつき》に対し、アメフト部員の一人にして”タックル(ライン)”を担当する|雷門学《らいもんまなぶ》が暁に対し、こう言い放つ。
「部長……、本当に僕達は戦車道に参加しないんですか?」
この問い掛けに対し、暁は「あぁ……」と一言呟き、首を立てに振った後にこう言葉を続けた。
「俺は簡単に”決められたレールを走るだけ”の様な事はしたくないんだよ……」
「だけど……、部長……、こうして戦車道の試合を見に来ているという事は……」
「ちょっと……、瀬名……」
「気にするな雷門。言いたい事をハッキリ言うのがコイツのいい所でもあるんだ」
暁の回答にそんな言葉を返したのは、雷門と同じくアメフト部の一部員にして”ワイドレシーバー”を担当する|小早川瀬那《こばやかわせな》だ。
人によっては失礼な問いになるかもしれないこの瀬名の問いに対し、雷門は苦言を述べるが、暁は気にしてない様子で手にした雷門にそう言葉を返しながら、ミネラルウォーターを一口飲むと瀬名と雷門にこう言葉を返す。
「勿論……、やらないって訳じゃない……、あくまで”最終手段”だ……」
そう瀬名と雷門に言葉を返した暁はミネラルウォーターのペットボトルのふたを閉めながら、観客席前に用意された大型ディスプレイ……、角谷・小山・河島の3人が乗る38tに視線を向けた。
(角谷……、お前が俺に対して『アメフト部の廃部を回避する為の最後の切り札だよー』といってきた戦車道……、得と見させてもらうぜ……)
胸の内でそう呟きながら……。





……

………



<龍Side>
んで、遂に始まった聖グロリアーナとの練習試合。
あー……、俺にとって初の副隊長としての責務……、ハッキリ言って胃が痛いぜ……。
こうなるんだったら前もって胃薬でも飲んでれば良かったとつくづく思うぜ……、はぁー……。
そんな副隊長として責務から発生する胃痛を感じながら、俺は裕也、玄田、葵、木場の4人と共に5式の車内で揺れながらみほ達と共に前進する。
「遂に始まったな!!」
「あぁ、派手に暴れてやるとしますか!!」
胃がキリキリと痛む俺に対し、玄田と葵のバカコンビは殺る気……、じゃくなくて”やる気”マンマンだ……。
ったく……、お前らを生きて家に帰さないと行けない前線指揮官の立場である俺の気持ちと現状を少しは察して欲しいぜ……。
お前らだって、棺おけに入って国に帰るよりは五体満足で国に帰りたいだろー?
そうバカコンビのやり取りを聞き、そう胸の内で思いながら再び5式に揺さ振られていると無線機からピー、ピーと言う着信音と共にDチームのメンバーである宇津木の声が聞こえてくる。
『あのぉー……、それでどうするんでしたっけ~?』
おいゆとり教育世代、作戦内容はちゃんと覚えろよ……って、俺もゆとり教育世代に当たる世代なのか?
そんな考えが俺の胸の内を過ぎる中、宇津木の問い掛けに返す&作戦内容を再確認する様に俺は腰のベルトに巻きつけた無線機の応答ボタンを押し、首につけている咽頭マイクを押しながらこう返す。
「宇津木、先程も説明したように今回は殲滅戦。つまり、練習試合と同じルールだ。俺達か聖グロリアーナのどちらかが全滅した時点で試合終了だ」
『そうなんですかぁ~、それで作戦はー?』
俺の問い掛けに対し、宇津木は緊張感0の声でそう返してくる。お前も少しは緊張感を持てよ……。
そんな宇津木の次なる問いに対し、今度はみほが無線機越しに作戦内容を伝える。
『えっと……、まずAチームとFチームが先行して偵察に向かいますので、その後にAチームとFチームで聖グロリアーナを誘き出した所を全車で一気に攻撃しますので、各チームは100m程前進した所で待機して下さい』
『分かりました!!』『はーい』『御衣!!』『おーっす!!』
そう磯部、澤、エルヴィン、牧達が各々の返事を返す側でただ一人、会長が相変わらず能天気な様子でみほに対し、こう問い掛ける。
『西住ちゃーん、なんか作戦名とか無いのー?』
『えっ?作戦名ですか?』
無茶振り以外の何者でも無いこの会長の問い掛けに対し、みほは困惑している。
だろうなー……、作戦名を考えるなんて事を想定すらしていなかったんだから……、これが無茶振りじゃなければ何が無茶振りなんだよ?
そんな考えがみほの困惑する声を聞いて沸きあがってくる中、俺は助け舟を出す様に会長に話しかける。
「会長……、お言葉ですが……、作戦名なんて……」
『こそこそ隠れて相手の出方を見て攻撃を仕掛けるので”こそこそ作戦”です!!』
「お前、作戦名を考えるの早いなー……」
俺が助け舟を出すよりも先に作戦名を俺と会長の会話に対し、割り込む様に言い放ったみほに対し俺はそう呟く。
しかし、みほ……、ケチ着ける訳じゃないけど”こそこそ作戦”ってもう少しマトモな言い方は無かったかな?
『ステルスオペレーション』とか『サイレンサー作戦』とかさぁ……、次から作戦を考える時は作戦名も一緒に考えないとないけんなこりゃ……。
そう胸の内で思いながら、俺はみほ達と共に5式に揺られ作戦地点へと向かうのだった……。





……

………



その頃、俺達を迎え撃つ聖グロリアーナ戦車道チームは試合が始まって数分たった現在も開始地点から動いていなかった。
理由は簡単、聖グロリアーナ雌型戦車道チーム隊長のダージリンが自身の搭乗車両であるチャーチルの上でティータイムを取っているからだ。
トータスのキューポラからその様子を見ていたジッパーは首から掛けた懐中時計の示す時間を確認すると無線機のマイクを手に取り、ダージリンに話しかける。
「ダージリン、そろそろ良い頃合だ……、始めるとするか」
『了解ですわ』
ジッパーの呼びかけに対し、ダージリンはそう返すと紅茶の入ったティーカップを片手にチャーチルの中に入ると、無線機を手にこう一言呟く。
『全車前進』
このダージリンの指示を合図に一斉にチャーチル、マチルダが隊列を整えながら走り出す。
その様子をトータスの上で見ていたジッパーも一回息を吸った後にこう指示を出す。
「ドアーズ、前進開始だ。|ゴッドハンマー隊《神の金槌》も我、|スナッパータートル《ワニガメ》に続け」
『『サー!!コマンダー、サー!!』』
ジッパーがそう指示をすると同時に彼の乗るトータスもダージリン達の後に続く様に走り出し、更にその後に続く様にしてゴッドハンマー隊……、もとい2台のセントー巡航戦車もワニガメ……、もといトータスと共に隊列を組みながら走り出すのであった。
その様子を少し離れた場所で見ていた俺とみほ達は残りのチームに待ち伏せ地点に移動する様に指示した後、狙撃地点へと向かっていた。
にしても……、あんな馬鹿でかいトータスを無名校である俺達との練習試合に持ち込んでくるとは……、たまげたもんだぜ……。
せめて持ってくるとしたら”センチュリオン巡航戦車”ぐらいだと思っていたんだけどなー……、明らかに適役だと思うし……。
そう思いながら、キューポラの覗き窓を覗きこんだ俺の視界には狙撃地点の様子が飛び込んできていた。
『龍君、狙撃用意。お願い』
「OK」
その様子を確認すると同時に無線機からみほの指示が聞こえて来る。


俺はこの指示に答える様に裕也達に対し、戦闘指示を飛ばす。
「玄田、砲弾装填!!裕也と葵はは照準を定め、急げ!!」
『『了解!!』』
そう俺の指示に答えるように玄田が砲弾を砲弾ラックから取り出し、装填する側では裕也が主砲の操作ハンドルをキコキコと音を立てながら回し、トータスへ照準を定めていく。
『え~と、1目盛りが50mだから……トータスの幅が3.912m……』
『距離810mだな』
『葵、お前、計算早いな……』
砲撃距離を計算していた裕也に対し、副砲の照準を定めつつ、スーパーコンピューター並みの速度で計算結果を出した葵に対し裕也が唖然とした様子で突っ込みながら照準を定めていく。
本当にコイツ、普段は”地元の野球チームが優勝した喜びのあまりに川に飛び込む人の様なテンション”なのに頭脳はキレッキレなんだからなー……、そりゃ唖然としたくなるよな……。
裕也の様子を見ながらそう思っていると、当の本人は照準を定め終えたらしく照準機を除きこみながら俺に向けて、こう報告してくる。
『主砲、照準良し、何時でも撃てるぞ』
『副砲、同じく照準OKだぜ』
『こちらも大丈夫です』
そう裕也と葵の報告に続くように4号の砲手である華も無線機越しに照準を定めた事を伝えてくる。
この3人の報告を聞いた俺とみほはキューポラから顔を出して互いに見つめあいながら、無線連絡を交わす。
「よし……。みほ、始めるぞ」
『うん!!』
そう顔を見合わせながら、無線機越しに言葉を交わした俺とみほは共に一回息を吸うと二人してこう叫ぶ。
『撃てっ!!』
「主砲、副砲、共に撃て!!」
俺とみほが共に裕也、葵、華に対してそう指示を飛ばすと3人は一斉にトリガーを引く。
同時にその瞬間、3発の砲声が続け様に鳴り響き、砲口から勢い良く3発の砲弾がトータス、マチルダ、チャーチルを目掛けて飛んで行く。
しかし、その砲弾は命中する事無くズドン!!、ズドン!!と言う爆音と共に地面に大穴を開けるだけであった。
『龍、悪りぃ。外した』
「気にするな。俺達の任務は聖グロリアーナをおびき出すのが目的だ、撃破じゃない」
裕也が詫びる様にそう言って来たのに対し、そう言葉を俺は返すと続け様に玄田に向けて次なる指示を出す。
「玄田、煙幕弾装填!!装填完了次第、報告しろ!!」
『おうっ!!』
そう俺の指示を聞いた玄田が砲弾ラックより煙幕弾を取り出すと続け様に砲尾を開き、煙幕弾を勢いよく押し込み装填する。
『装填完了!!』
「撃て!!」
玄田の指示を聞いた俺は間髪入れることなく裕也に砲撃指示を飛ばし、裕也もこれに答えるように再びトリガーを引いて轟音と共に煙幕弾を放つ。
放たれた煙幕弾は地面に轟音と共に着弾すると同時に炸裂、白い煙幕を噴き出し辺り一面を白く染め上げていく。
その様子を見ながら、俺は休む暇もなく今度は木場に向けて指示を飛ばす。
「木場、戦車回頭。直ぐに後退するんだ!!」
『了解!!』
この指示を聞いた木場は素早く右履帯の操縦桿を倒して固定するとアクセルを踏み込み、戦車を180度ぐるりと回転させていく。
そして完全に180度回転すると右履帯の操縦桿を起こして固定を解除し、みほ達の4号に続くように5式を走らせる。


その様子を見ていた聖グロリアーナ雌型戦車道隊長のダージリンは紅茶の入ったティーカップを片手にこう呟く。
『仕掛けてきたわね……』
ダージリンはそう呟き紅茶を一口飲むと無線機を手に取り、ジッパーに対して話しかける。
『ジッパー、お相手しますわよ』
「了解、Mrs.ダージリン。セントー隊、直ちにダージリン隊と共に攻撃せよ」
『『サー!!コマンダー!!サー!!』』
このダージリンの提案に答える様にジッパーは直属の部下であるセントー隊に対し、砲撃指示を飛ばす。
同時に指示を受けたセントー隊は素早く激しく揺れるセントーの車内にて砲弾を装填したり、砲手の俯角ハンドルを回す等して砲撃準備を整える。
またセントー隊と同様にトータス、マチルダ、チャーチルの中でも各搭乗員が砲撃準備を整える。
『ゴッドハンマー1、砲撃準備よし!!』
『雌型3号車、同じく砲撃準備OKです!!』
『スナッパータートル、砲撃準備完了です!!』
砲撃準備を整えた各車の砲手達が報告してくるの聞き、ダージリンは再び紅茶を一口飲むと一回息を吸い、こう指示を飛ばす。
『ゴッドハンマー隊並びにマチルダ隊へ……、10時の方向の4号と5式に対して砲撃開始!!』
ダージリンが無線機越しにそう指示を飛ばすと同時に一斉にゴッドハンマー隊、マチルダ隊の砲手達はトリガーを引いて砲弾を放つ。
それと同時にズドォーン!!、ズドォーン!!、ズドォーン!!という砲声が次々と5式と4号の後方で鳴り響く。

どうやら……、本格的に始まった様だな!!

砲声を聞き、胸の内で俺はそう思いながら後方をのぞき込み、飛んでくる聖グロリアーナの砲撃の様子を伺いながらみほ達に向けて報告を飛ばす。
「敵は砲撃を開始!!来るぞ、構えろ!!」
そう俺が声を張り上げて報告した瞬間、キルゾーンへと誘導する俺達に向けられて放たれた聖グロリアーナの砲撃の一部が近くに轟音と共に着弾し、凄まじい衝撃波を走らせる。
っていうか、アブねぇ!!マジで死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!!コレはマジで楽に死ねるわ!!
飛んでくる砲撃に思わず・・・・・・、と言うか必然的に死の予感を感じた俺は大急ぎでキューポラの中に頭を引っ込める。
「はぁ……、はぁ……」
『大丈夫か?』
「マジで死ぬかと思った……」
息を荒げながら引っ込んだ俺の様子を見て、裕也がそう問いかけてくる。大丈夫じゃないのは確かだぜ……。
そう胸の内で思いながら、裕也に言葉を返しながら俺はキューポラをのぞき込んで外の様子を確認する。
すると、そこには聖グロリアーナからの砲撃で次々と砲煙が舞い起こり、地面が吹き飛ぶ様子であった。
全く……、こちらが撃ち返さなければやりたい放題やりやがって……、騎士道精神もありゃしないじゃないか……。
そんな考えが胸の内で沸いてくる中、ふと俺は4号の方に視線を向ける。

みほは大丈夫なんだろうか……。

そんな考えが元になった行動だったが、俺のこの考えは間違っていたことを痛感する……。
理由は簡単。”みほが砲撃飛び交う中、何の躊躇いもなくキューポラから顔出して外を確認しているから”だよ!!
男の俺ですら、ビビって顔を引っ込めるのに……、女であるお前が平然と顔出しているんだからな……、ビックリだよ!!
っていうか、流石は西住流の血を引く者と言った所だぜ……。


そう思いながら、また俺はキューポラ越しに後方の聖グロリアーナの様子を確認する。
すると、そこにあったのは俺達を追撃&撃破するべく増速する聖グロリアーナの戦車達の姿であった。
っていうか、マチルダとトータスってあんなに早かったっけ?そんな事、考えている場合じゃないな。
そんな考えが一瞬沸くが直ぐに振り切ると俺は直ぐにみほ、裕也達に向けて報告する。
「みほ!!敵戦車の増速を確認!!」
『了解!!こっちでも確認したよ、龍君!!!!冷泉さん、木場さん、なるべくジグザグに戦車を動かして下さい!!コチラの戦車は装甲が薄いのでマトモに喰らったら終わりだよ!!』
そう俺の報告を受けて、みほが出した指示に対して麻子と木場の二人は共に『『了解(!!)』』と復唱を返すなり、操縦桿を握り締めて4号と5式を左右にジグザグ走行させる。
『おい、木場。もうちょっとマイルドな運転は出来ないのか?ゲロをぶちまけそうだ』
『無茶言わないでよ!!撃破されない為にはこうするしか無いんだよ!!』
そう言って葵と木場が口喧嘩を交わすのが聞こえてくる。葵の奴はまだ戦車に慣れないのか?
前の練習試合で始めて戦車に乗った時も「ゲロ吐きそう」とか言っていたよな?
うーん、やっぱり”海の男(※海上自衛隊志願)”である葵には『陸上兵器の雄』とも言うべき戦車は相性が悪いかね?
でも、そうなると”空のエリート(※航空自衛隊志願)”の木場が何で馴染んでいるんだ?って話になるよなー……。
あー、何だ?つまりこう言う仮説か?
木場の志願する戦闘機パイロットは常にマッハのスピードで飛行&空中戦を行う訳だから、戦車のスピードは戦闘機のスピードに及ばないから問題ないって所か?
んでもって、陸上自衛官志願の俺と裕也、玄田に至っては”陸上戦闘に特化済み”と言う事か。
葵と木場の口喧嘩を聞きながら、そんな考えが胸の内を駆け巡っていたその時だった……。


ズドォォォォォーーンッ!!


トータス重駆逐戦車の主砲である”オードナンス QF 32ポンド砲”が俺達に向け、マチルダやセントー、チャーチルとは余りにも桁が違いすぎる爆音を上げて砲撃する。
っていうか、怖えええっ!!
あんなのマジで喰らったら、ベトナム戦争中のアメリカ軍の空挺戦車である”M551シェリダン”宜しく木っ端微塵になって”戦死を通り越して行方不明”になっちまうぜ!!
え?どういう事だって?
ベトナム戦争中、北ベトナム軍&ベトコンゲリラは強力なアメリカ軍の機甲部隊に対し、対戦車地雷やRPG-7と言った対戦車ロケット弾で対抗した訳だ。
その威力が余りにも凄まじいから、飛行機からの空挺降下が可能な様にアルミで出来ていたM551シェリダン戦車は被弾すると文字通りに『木っ端微塵』になって、搭乗員の死体が見つからなかった事もしばしばあったんだよ。
だから、上で言った様に『M551に乗って戦死すると死亡が確認されたのに「行方不明」の扱いになる』と言ったブラックジョークが前線の兵士達の間で広まったんだよ!!


それは良いとして……、トータスの32ポンド砲から放たれた砲弾は地面に着弾するなり、チュドォォォーーン!!と言う、桁違いの爆音と衝撃波を空気中に走らせる。
『うおっ!?』
『マジかよっ!?』
『ひえーっ!?』
『おびょーっ!?』
この着弾の際に鳴り響いた爆音と衝撃波に裕也達は「何があった!?」と言わんばかりの表情だ。
だよなー、戦車道の経験者である俺ですら体験した事の無い砲撃なんだから……。
裕也達の反応を聞き、そんな考えが沸いて来ると同時に裕也達と同じ様にトータスの砲撃の凄まじさに呆気に取られる沙織達の呟きが無線機より聞こえてくる。
『何!?何、今の!?』
『強烈ですね……!!』
『これがトータスの威力ですか……』
やっぱり皆、同じ反応するよねー……。だけど、今は落ち着いてもらわないと……。
そう思った俺は驚愕し、慌てふためく裕也と沙織達を落ち着かせる為に無線機を手に取るとこう言い放つ。
「全員、落ち着け!!走りながら撃った所で滅多に当たるもんじゃない!!」
『皆、龍君の言う通りだよ!!それに、トータスの砲撃は強力だけど簡単に装填できる物じゃないから、次の砲撃までの時間は余裕があるよ』
『そ、そうなんだ……』
俺の言葉に続くように言い放ったみほの言葉を聞き、沙織が無線機越しにそう呟く側では裕也達も少なからず落ち着きを取り戻していた。
みほ、ナイスフォーローだ。助かったぜ……。
そう思いながら、俺は喉の咽頭マイクを押してみほに無線通信を入れる。
「みほ、合流地点まで残り800mだ。そろそろ無線機で待機地点に連絡した方が」
『そうだね、龍君。直ぐに連絡するね。沙織さん、無線機のチャンネルを変更して』
そう言ってみほが沙織に無線チャンネルの変更を指示する側でも、木場と冷泉は5式と4号とジグザグ走行で走らせながら飛来する聖グロリアーナの砲弾を岩を盾にする様にして回避走行を行うのだった……。





……

………



その頃、待機地点並びにキルゾーンでは俺とみほ達が戻って来るまでの間、各自で暇を潰していた。
「何時も心にバレーボールを!!」
「そーれっ!!」
そう言ってバレーボールの練習をするBチーム。
「革命!!」
「あー、しまったぁー」
M3リーの上でトランプをしながら暇を潰すDチーム。
「「「「……」」」」
3突の上で仁王立ちして時が来るのを見張るCチーム。
「まだか……、まだなのか!?」
「待つのも作戦のうちだよー」
38tの上で苛立つ河島と、それを宥めながら干し芋を齧る会長とそれを見つめる小山先輩達のEチーム。
「やっぱり星崎は凄いよなー、170キロだぜ、170キロ」
「えー、それよりはサンローの逆転満塁ホームランの方が俺は凄いと思うけどな」
キャッチボールをしながら、昨夜行われた野球中継を肴に野球対談に沸く野球部……、もといDチーム。
そんなメンバー達に向けて、俺とみほは揃って聖グロリアーナを引き付けて戻ってきた事を報告する。
『こちらAチーム、あと5分で待機地点に到着します。あと600メートルで、敵車両射程内です!』
「こちらFチーム、Aチームと同じく5分後に待機地点に到着する!!総員、戦闘用意!!」
「了解、AチームとFチームが戻ってくるぞ!!全員、戦車に乗り込め!!」
そう無線機越しに俺とみほが報告すると38tの上で報告を聞いた河島先輩が声を張り上げて叫ぶ。
「了解!!」
「え~!!せっかく革命起こしたのにぃー……」
「急げ、駆け足!!」
この河島先輩の指示を聞いたメンバー達はざわめき、後ろ髪を引かれる様な思いでやっていた事を中断すると駆け足で戦車に乗り込んでいく。
そして各車の砲手は素早く照準機を除き込み、聖グロリアーナがやって来る方向に主砲を向ける。


その一方で聖グロリアーナを引き付けつつ、待機地点へと向かう5式と4号の中で俺とみほは無線機越しにこう言葉を交わす。
「みほ、そろそろ待機地点だな……」
『うん、到着と同時に素早く配置について頂戴』
「あぁ、分かった」
次に取る作戦行動を確認しながら、俺がキューポラの覗き窓越しに待機地点の様子を覗き込んだ時だった。
一瞬、ピカッと光る点の様な物が見えると同時に38tの砲声と共に砲弾が俺達を目掛けて飛んでくる。
「うおっ!?」『!?』『えっ、ちょ!?』『オマッ!?』『ファーッ!?』
それに俺が驚き見開いた瞬間には砲弾は5式の正面装甲に命中し、ガキィーン!!と言う轟音と共に5式の中に居る俺や裕也達も激しく揺さぶられる。
っていうか、フレンドリーファイヤーかよ!!誰がこんなアホな指示を出しやがった!?
どす黒い怒りの感情と共にそんな考えが胸のうちを埋め尽くす中、ヘッドフォンからは完全に頭に血が上った河島先輩の叫び声が聞こえてくる。
『撃て!!撃て!!』
『ちょ、ちょっと待ってください!!砲撃を中止してください!!』
『撃ちまくれー!!敵は全て皆殺しだぁーっ!!ウアアアアアアアアアアアッ!!』
こんな有様の河島先輩を止めようとみほが話しかけるが、もう河島先輩は完全に聞く耳を持たない。
この野郎……、マジでいい加減しやがれよ……!!
そんな考えと共にブチッと音を立てて、堪忍袋の緒が切れた俺は無線機越しにこう怒鳴りつける。
「総員、砲撃中止だ!!特に河島先輩、今のうちに砲撃を止めないと後で打ん殴りますよ!!」
そう俺が殺意交じりに叫んで、やっと砲撃が止まる。
はぁー……、この調子が勝つなんて夢のまた夢だな……。
っていうか、今ので完全に聖グロリアーナの連中はこちらの作戦を知ってしまっただろうな……。
俺は胸の内でそう思いながら、みほと先程確認した作戦地点に移動するのであった。


その一方で俺達を追撃していた聖グロリアーナの雌型隊長であるダージリンはチャーチルの中でその様子を見ると、「ふっ」と含み笑いをしながら、紅茶を飲むとこう言い放つ。
『こんな、安直なおとり作戦、我々には通用しませんわ。ジッパー、砲撃を』
『あぁ、ゴッドハンマー隊。支援砲撃準備!!準備が完了次第、支援砲撃を開始せよ!!』
『『サー!!』』
ダージリンの言葉を元にジッパーの出した指示を砲撃準備の指示を受け、ゴッドハンマー隊は停止すると同時に主砲を起こしていき支援砲撃の準備を整える。
ゴッドハンマー隊の様子をチャーチルのキューポラ越しに確認したダージリンもジッパーと同じ様にマチルダ隊に指示を出す。
『マチルダ各車へ、1号車と2号車は私と右側に展開、3号車と4号車はジッパーと共に左側に展開して前進しなさい』
『『『サー!!』』』
ダージリンの指示にマチルダの戦車長達がそう返事を返した次の瞬間には、俺達を包囲するべく素早く展開していく。
『全車両、砲撃開始!!』
「了解、砲撃開始!!」
待機地点のポジションでその様子を確認したみほが砲撃を指示し、俺はこれに従い各車に向けて聖グロリアーナに向けての砲撃開始の指示を飛ばす。
そして、俺とみほの指示を受けると一斉に大洗学園戦車道チームの戦車が主砲から火を噴き、聖グロリアーナに向けて砲弾を次々と放っていく。
しかし、その砲撃は全て滅茶苦茶としか言いようが無いお粗末な物だ。
そんなお粗末な砲撃が聖グロリアーナの戦車に当たるはずも無く、結果は次々と空振りして地面や崖に大穴を開けるだけだ。

あぁ、もう出来レースじゃないか……、この練習試合……。

完全敗北を予想する中、俺とみほは僅かばかりの希望(?)を信じて他のメンバーに指示を飛ばす。
『そんなバラバラに撃っても……、落ち着いてください』
「全車、落ち着け!!落ち着いて、履帯を狙って攻撃するんだ!!」
そう俺とみほが揃って履帯を狙う様に指示を飛ばすが、もうメンバー全員完全に頭に血が上ってやがる……。
俺とみほの出す指示なんてそっちのけで滅茶苦茶な砲撃を続けている……、あぁ、もう、クソッ!!
予想以上のお粗末さに怒りを通り越し、呆れにも近い感情が湧いてくる中、俺はみほに向けてこう言い放つ。
「くそっ!!みほは右側を援護してくれ!!俺は左側を援護する!!」
『わ、分かった……、龍君!!』
そう言って西住の乗る4号戦車が右側に居るラムとⅢ突、89式を援護する為に、右側に向かうのをキューポラの覗き窓から見ながら、俺は神崎、木場、玄田、葵に向けてこう指示を飛ばす。
「木場、38tとM3の方に向けて前進!!裕也、目標1時のマチルダ!!玄田、次弾装填!!」
「「「了解!!」」」」
俺の指示にそう返すと、木場はアクセルを踏み込み5式を前進させ、同時に玄田は素早く砲弾ラックから徹甲弾を取り出して戦車砲に装填し、裕也は砲塔回転レバーを回して、砲塔を1時のマチルダに向けて行く。
『龍、照準OK!!』
「撃てっ!!」
俺が裕也の報告に対し、砲撃指示を出すと裕也は間髪入れずにトリガーを引く。
瞬間、砲声と共に砲弾が発射されマチルダを目掛けて飛んでいくが、命中する事は無く轟音を立てて岩盤に大穴を開けるだけだ。
その直ぐ近くでは、みほ達の4号がマチルダに向けて砲撃を行い、命中させるがマチルダの分厚い装甲の前に効果は一切見られない。
流石はマチルダと言った所か……、その装甲の厚さゆえに敵航空機を撃墜する為の火砲である高射砲の1つ、”88ミリ高射砲”でしか撃破出来ない戦車は伊達じゃないな……。
っていうか、上のに因んだエピソードとして下の様な話があるしな……。

捕虜になったイギリス兵「高射砲で戦車を撃つなんて卑怯ですな」
捕虜にしたドイツ兵「高射砲でしか、撃破出来ない戦車で攻めてくる方がもっと卑怯だ」

この状況を体験すると、本当に捕虜にしたドイツ兵の気持ちがよーく分かるぜ……。
マジで88ミリ砲&それを搭載したタイガー戦車が喉から手が出るまでに欲しいよ!!
そんな感情が胸の底から湧いてくる中、俺は状況の報告と次なる戦闘指示を飛ばす。
「撃破失敗!!玄田、次弾の装填を……」
俺が玄田に次弾装填の指示を出そうとした瞬間、セントーから放たれた支援砲撃が次々と着弾し、ズドォーン!!ズドォーン!!と言う凄まじい爆音と衝撃波が連続して俺達に襲い掛かる。
「うおっ!?」
『ぬああっ!!』『ウゴォォーッ!?』『ひゃー!!』『ヴォーッ!?』
この支援砲撃の余りの凄まじさに俺達が揃って驚愕の声を上げる側では、同じ様に支援砲撃を喰らっているみほや河島先輩達の悲痛な声が無線機から聞こえてくる。
『キャー!!』『うわぁー!!』『ぐぅぅ!!』『ぬわぁ!!』『なぁぁぁ!?』
クソッタレ……、みほに傷でも付けよう物ならセントーの搭乗員を八つ裂きにしてやるぜ!!
聞こえてきたみほ達の悲痛な声を聞いて、そんな感情が湧いてくる中で俺は何とかして反撃出来ないかキューポラの覗き窓を覗き込む。
だが、しかし、セントーによって行われる支援砲撃は非常に激しく下手に動こう物なら一瞬で撃破されか無い程だ。
それに、余りの支援砲撃で巻き上がった土煙で視界が完全に遮られて敵を目視する事すら出来やしない!!
全く……、聖グロリアーナの支援砲撃要員は嫌なまでに優秀だな!!優秀過ぎて敵にしたら、困るぜ!!


そんな俺達とは打って変わって、対する聖グロリアーナの方は的確な支援砲撃を受けながら素早く左右に展開し、岩を盾にして俺達の攻撃を回避しながら、攻撃の準備を着々と進めていく。
『こちらマチルダ1号車、配置完了です』
『こちらマチルダ2号車、同じく配置完了です』
そうして攻撃態勢を整えたマチルダの戦車長達が次々と告げる報告を聞き、ジッパーとダージリンの二人は無線機越しにこう言葉を交わす。
『ダージリン、時は来たと言った所だな』
『そうですわね……、では始めましょうか……』
ジッパーとそう言葉を交わしたダージリンは一口紅茶を飲むと無線機を手にマチルダ隊に対し、こう指示する。
『前進、及びに攻撃を開始』
ダージリンが前進&攻撃指示を出すとマチルダ隊はダージリンの指示通りに前進及びに俺達に向けて一斉攻撃を開始する。
それと同時にジッパーは無線機越しに、支援砲撃を続行していたゴッドハンマー隊に対して別の指示と飛ばす。
『ゴッドハンマー隊へ、支援砲撃を中止して攻撃に参加せよ。ゴッドハンマー1は俺に、ゴッドハンマー2はダージリンの後に続く様に』
『『サー・コマンダー、サー!!』』
そうジッパーの指示に対して返事を返したゴッドハンマー隊は素早く主砲の俯角を水平射撃の体制に変更するなり、エンジン音を上げて前進してジッパーの指示通り展開していく。
この間にも聖グロリアーナの砲撃は凄まじい勢いで衰えるどころか、逆にますます激しさを増していた……。
っていうか、聖グロリアーナの皆さん。少しは手加減してくれよー!!
こっちは俺を含めた2名除いて殆ど『ド』が付く程の初心者なんだぞ、コノヤロー!!


そんな感じで、胸の内で一人虚しく叫んでいる俺の側では混乱と恐怖に駆られるメンバー達に”阿鼻叫喚の叫び”が無線機よりこだましている。
『凄いアタックだ!!』
『ありえない!!』
『新手の千本ノックかよ!?』
磯部、澤、牧達が困惑と恐怖に駆られた様な声で無線機越しに叫ぶのが聞こえてくる。
これを聞いたみほは皆を落ち着ける為に大きな声でパニック状態に陥っているメンバーに対し、無線機越しに話しかける。
『皆、落ち着いて下さい!!砲撃をやめないで!!』
『むりですうぅぅっ!!』
『もうイヤァァァーっ!!』
だが、みほの言ったと同時に言った事を完全否定するかの如く、山郷と宇津木の叫びが聞こえてきたかと思った矢先にはM3リーから1年生達が飛び出すなり、脱兎の勢いで逃げ出す様子がキューポラの覗き窓から見えた……。
って……、おい、おい、おい、おいいいいっ!!
マジで!?目の前の光景はリアルなの!?えーっ、うそでしょおぉぉーっ!?
目の前で行われた間違っても現実とは思えない光景に俺が唖然としている側では、ヘッドフォンからみほの慌てた様な叫びが聞こえてくる。
『あっ!逃げちゃダメだってばっ!!』
そう呼び止めるみほの声が虚しくこだました瞬間、無人になったM3はマチルダの砲撃を喰らうと同時に撃破され、燃え上がる。
っていうか、さっきの光景はマジかよ……、白昼夢だと思ってすら居たのに……、おいおい……。
「1年生の連中……、マジで敵前逃亡しやがった……」
『『『『はぁっ!?』』』』
心の声が思わず口からポロッと出た瞬間、裕也達も揃って驚愕する。
そりゃそうだろうな……、普通に考えて”敵前逃亡”と言う事自体が銃殺刑物の行為……、基本的にはしない行為だろう……。
っていうか、それ以前の問題として……、ココは銃砲弾が飛び交う戦場……、鋼鉄で出来た戦車の中ほど安全な場所は無いと言っても良いだろう。
それなのに恐怖の余り、パニックに陥ったとは言えど外に飛び出すのかよ……。
余りの衝撃に俺と裕也達は唖然とする事しか出来ずに居た……。





……

………



<巽Side>
「あのバカが。死ぬ気か」
目の前の巨大スクリーンを見つめながら反田が悪態をついた。
砲撃が行われる中、ピンク色のM3リーから逃げ出す1年生達を観ながら流石に呆れてしまった。
「まあ、訓練不足と実戦経験がゼロだからとはいえ……、こんな状態で逃げ出すなんて危ないじゃないか」
流石の俺も、この敵前逃亡には少し?呆れてしまった。
「まぁ、次はそういうことがねえよぉにしないとな」
グラサンをかけたおやっさんが、ビールをグイッとあおりながら言う。
「うさぎさんチームの子達は貧乳が多い……」
ヒルターさんがイケナイ発言をしている。何かやらかして捕まらなきゃいいが……。
「しかし、セントグロリアーナとまともに戦える戦車が、ラム、三突、五式、四号だけなのは痛いな。トータスだと後ろか側面から出ないと撃破は不可能だな」
同じくヒルターさんの隣に座っているハンニバルさんが、スクリーンを見ながら呟く。
「そういやあ、他の連中はどうしたんだ?」
おやっさんが二本目のビールを煽りながら聞いてくる。
こんなのを見せられると俺も飲みたくなってしまいそうだ……。
「室戸と安仁屋、伏は、情報収集。黒崎は黒崎で、学園艦で何かを探ってるみたいです」
「そうか……、こちらも戦車の予備部品をあちこちからかき集めてるから心配しなくていいぞ」
この前、戦車の部品やらなんやらを積んだC-130が学園艦にやって来たのを思い出した。一体、あんなのどこで手に入れたんだ?
「そういえば、部長。そろそろ行かなくちゃいけないんじゃ。久しぶりに親御さんに会う予定だったはずったのでは?」
「!もう、こんな時間か。悪い。反田。後は頼む」
そう言うと、俺は観客席を後にして待ち合わせ場所に行くのだった。
俺の母親は、陸自の戦闘ヘリのパイロットでコブラに乗っている。階級は、蝶野教官と同じ一尉だった。
実は、蝶野さんとは先輩、後輩みたいな関係だったらしい。この学園艦に来る前に何回か会ったことがあった。
何でも、近いうちに昇進するかしないとか……。
そんな事を考えつつ、俺は待ち合わせ場所に向かった。





……

………


<龍Side>
「命中確認……、効果無し!!次弾装填急げ!!」
『クッソーっ!!』
そう巽達がぼやいている頃、俺達は相変わらず流れの変わる事が無い戦車戦を繰り広げていた。
っていうか、勝ち目無いだろ!!この戦い!!
胸の内でそう思いながら、玄田が砲弾を再装填するのを見ていた時だった。
もうこの練習試合中に何度も聞いた凄まじいトータスの砲撃が5式の近くで鳴り響く。

ズドォォォーン!!

あぁ、もう!!戦車道委員会はトータスの使用禁止を聖グロリアーナに命じてくれよ!!
鳴り響くトータスの砲撃音を前にそんな感情が胸のそこから湧いてくる。
それと同時に相変わらずギャーギャー叫んでいる河島先輩の怒鳴り声も無線機から飛び込んでくる。
『撃て、撃て!!皆殺しにしろぉーっ……、って!?柚子、お前は何処に行こうとしているんだ!?』
『ち、違うの桃ちゃん!!操縦が聞かないの!!』
『「桃ちゃん」言うなー!!』
そう河島先輩を「桃ちゃん」と呼びながら、小山先輩が困惑した声で状況を報告している。
当の河島先輩は「桃ちゃん」呼ばわりに怒り心頭で報告の内容どころじゃないが……。
はぁー……、何でこんなヒステリー起こす様な先輩が生徒会役人なんだろう?
河島先輩のキーキー声を聞き、そんな考えが脳内を駆け巡る中で角谷会長は動じる事無く相変わらずのマイペースぶりを発揮しながら、俺に話し掛けて来る。
『喜田川ちゃーん、ちょっと38tの様子を外から見てくれないかなぁー?』
マイペースにも程がありますぜ会長……、会長の声を聞いて俺は深く思う。
それと同時に過去に親父が言っていた『リーダーの素質』が脳内の奥から蘇って来る。

親父:「リーダーの素質に必要な者は色々あるけどな……、その基本は何事にも動じない図太い精神力だ」

福岡にて陸上自衛隊の機甲部隊の指揮を取っている親父よ……。
これが俺に言っていたリーダーとしての素質か……?
複雑な心境でそう思いながら、俺は会長に頼まれた38tの様子の確認を行うべくキューポラの覗き窓を覗き込む。
すると、俺に視界に飛び込んできたのは片方の履帯が外れて地面を抉りながら半回転している38tの姿であった。
「会長、片方の履帯が外れています」
『ありゃー』
俺の報告に対して、そう腑抜けた声で会長は一瞬呟くが直ぐに開き直った様な声でこう言葉を続けるのであった。
『仕方ないねー。38tの履帯は外れやすいしね』
そう会長が呟くと同時に38tは後ろの溝にはまり込んで行動不能となるのであった。
親父……、親父が言っていたリーダーの素質を持つ人が指揮する(?)戦車が溝にはまったんですけどー……、どういう事?
無線機から完全パニック状態の河島先輩と困惑を隠しきれない小山先輩のやり取りが聞こえてくる中、俺は父親の言った事の意味に頭を痛めていた……。


因みに親父が指揮している機甲部隊に配備されている車両だが、”10式戦車と90式戦車”をメインに戦車の補助を行う戦闘車両として”機動戦闘車”が配備されているぞ。


そんな事を思いながら、俺はキューポラの覗き窓から外の様子を確認する。
全く……、状況がここまで変わらない事ってある物なんだな!!クソッタレー!!
先程から、全く変わる事が無く行われている聖グロリアーナによる砲弾の雨あられを覗き窓越しに見てそんな感情が湧いてくる。
そんな中、沙織が隊長&戦車長であるみほの指示で俺達の状況を確認するべく俺達を含めた全チームに対し、無線通信を入れる。
『Aチームより、Bチームへ!!そちらはどうですか?」
『何とか大丈夫です!!』
『Cチームは?』
『言うに及ばず!!』
『Dチーム』
『………』
『Eチーム』
『駄目っぽいね』
『無事な車両は撃ちかえせ!!奴らを血祭りに上げろおぉぉ!!』
河島先輩……、さっきからうるせえなぁー……。
もはやパニックの余り、意味不明な事を叫んでいる河島先輩の声を聞いて俺がそう思っている側では沙織が野球部……もといGチームに連絡を入れていた。
『Gチーム』
『何とか大丈夫です!!(ズドドドドッ!!)』
そう言ってラムの通信主&機関銃主を担当している本城が撃っていると思われる車載機関銃である”M1919A4”の銃声混じりにそう返すと、沙織は続け様に5式の通信主である葵に対して話し掛けて来る。
『Fチーム』
『まだ無事よー!!めっちゃ撃たれてるけどねー!!』
そう言って葵は無線機越しに言葉を沙織に返し終えるなり、素早く37ミリ砲弾を装填する。
うーん……、普段のバカ行為からは想像もつかない様な作業ぶりだな……。


葵の行動を見て、そう思ったのも一瞬だ。
もう何度目なのか分からないが、俺達の乗る5式はまたまた激しく聖グロリアーナの砲撃によって揺さ振られる。
あー、もー、マジで嫌になってくるぅぅぅー!!
っていうか、このままだとマジでチーム揃って仲良く全滅するな……。
殆どヤケクソに近い感情が胸のうちを埋め尽くす中、そんな考えが沸いて来た俺はみほに対して無線通信を入れる。
「みほ、最悪の状況だ。このままじゃ全滅する可能性もあるぞ」
『うん……、良くて10分……、5分も持たないかも……』
俺の声に対して、そう静かに何かを考えているかの様な声でみほがそう呟く側では無線機越しに磯部達が俺とみほに対して指示を仰いでくる。
『隊長、副隊長、私達どうすれば!?』
『指示をお願いします!!隊長、副隊長!!』
『ここで戦うんですか!?移動するんですか!?』
「………」
『如何すれば……』
悲痛な叫びとも受け取れる磯辺、エルヴィン、牧達の指示を仰ぐ声を聞いて俺とみほは指揮官として頭を悩ませた。
今の状況は言わなくても分かる様に明らかに俺達の圧倒的不利……、みほの言う様に良くて10分持ち堪えられるかどうかも分からない。
いや……、持ち堪えられるのが、10分だろうが、5分だろうが、1時間だろうが、1日だろうが構わない。
問題なのは、このままの状況で俺達を待ち構えているのは『俺達が全滅する』と言う事実だ。
それだけは何としてでも回避しないと行けない……、このままムザムザとあんこう踊りを踊らされる&プロレス技を掛けられる事になるのは死んでもゴメンだ!!
だから、今やるべき事は……、現在の状況の再確認だ!!


そう胸の内で思った俺はキューポラの覗き窓を覗きこみながら、素早く状況を脳内で整理していく。
現在、俺達が戦っている場所は広い採石場の跡地。視界を遮る物は基本的に何も無い訳だ。
よって、戦いなれている聖グロリアーナからすれば、この場は”射撃訓練場”な様な場所と言える訳だ。
それに『視界を遮る物が無い=作戦に支障を来たす程の障害物が無い』とも受け取れる。
これらの点を配慮した上で俺達がどうすれば勝利を掴めるか、俺は必死に脳をフル回転させて考え、”1つの結論”を誕生させる。
俺はその結論を思いつくと同時に素早く無線機を手に取り、みほに対して提案するのであった。
流石にみほは否定しないよな……、この作戦プラン……。
っていうか、これじゃ俺は最前線で戦っている部隊の指揮官……、”前線指揮官”みたいだな……。
そうなると、みほは作戦司令部で作戦を考える”作戦参謀”と言った所かね?
「葵、みほに通信を入れてくれ」
『了解!!』
胸の内でそう思いながら、俺は葵に指示を飛ばして無線通信を入れさせる。
すると、ガガッ!!と言う雑音が聞こえてくると同時にみほの声が無線機から飛び出してくる。
『何、龍君!?』
「みほ、ココに留まっていても全滅するだけだ!!それよりは市街地に後退し、第2前線を張った方が良いと俺は思うんだが、お前はどう思う!?」
『市街地に後退……』
みほは俺の言葉を聞き、しばらく黙り込んで考えると『うん……』と一言呟き、こう俺に言葉を返す。
『ココは龍君の言う様に市街地に後退して戦おう!!龍君、直ぐに指示を出して!!』
「OKだ!!」
流石はみほ、ヒステリー河島とは違って話が分かるから、助かるぜ!!


みほの言葉を聞いて、俺は胸の内でそう思いながら、無線機を手に取るとチームメンバーに向けて大声で指示を飛ばす。
「こちら副隊長!!総員に告ぐ!!これより我々は市街地に後退して第2前線と張る!!」
『えっ!?』
『どういう事!?』
この俺の指示を聞いてメンバーがざわめくが、直ぐにそれを沈める様にみほが言葉を続ける。
『市街地なら相手の戦車の動きをかなり制限できるので、反撃のチャンスがあります!!全チーム、私と龍君の後に続いてください!!』
そう、みほが大きな声で指示を飛ばすと磯部、エルヴィン、牧達は待ちに待った指示に対してやる気マンマンと言った声でこう言い放つ。
『分かりました!!』
『心得た!!』
『おーっす!!』
『何ぃ!?撤退は許さんぞ!!撤退するなら、ぶち殺してやる!!』
河島先輩は完全にパニック状態に陥っている為か、何が何だか分からない意味不明な事を言っている……。
この人、本当に将来就職した際なんかに大きなヘマをやらしかしそうだなー……。
そう思いながら、河島先輩の発言を聞いていると入れ替わり様にみほは大きな声でこう言い放つのだった。
『”もっと、コソコソ作戦”を開始します!!』
「全車両、隊長の後に続け!!木場、4号に続け!!」
『了解!!』
新たなる作戦を告げるみほに続く様に俺はそう言い放ち、木場に指示を出す。
木場は俺の出した、この指示を聞くと同時に操縦桿を握り締め、アクセルを踏み込み、4号の後に続く様にして、5式を走らせる。
それと同時に磯部達の89式、エルヴィン達の3突、牧達のラムも市街地に向けて走り出すのであった……。