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戦いを前に……

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<黒崎Side>
<黒崎>
「まったく!この学校内で何をやってるのよ!!!!じょ、じょ……女子の胸を……しかも制服の下から揉むなんて!!ふ、ふ、不純異性交遊よ///////!!!!」
目の前で、座敷童……じゃなかったおかっぱ頭の風紀委員が顔を赤らめつつキレまくっていた。
そりゃそうだ。学校内で(※人気のない場所で)、ぴよたんのおっぱいを揉みながら、いちゃついていた所を目の前でわめいている秘密警察……じゃなかった、風紀委員「園みどり子」こと「そど子」に観られてしまったのだから。
お付の2人さんも同じように顔を赤らめている。
「ふぇぇぇぇ///」
ついでに、身元引き受け人?としてやって来た隊長さん(※西住)は、恥ずかしさのあまりパニック状態になっていた。
「やれやれ~。お熱いカップルだねぇ~くろちゃんw」
なぜか、この場に居て干し芋かじりながらニヤニヤしながら見物する生徒会長。
部長からは、会長には気を許すなと言われているが……やれやれと言ったところだ。
「ダーリンと私は、付き合ってるから問題ないっちゃ!」
と、ぴよたんことマイハニーが抗議するが、そど子の怒りの炎に油を注いでしまうのに等しい。
その言葉に、烈火のごとく怒りまくるそど子。
「それとこれとは別!ここは、学校よ!不純異性は駄目よ!分かった!」
「黒崎君、ぴよたんさん……お願いね//」
風紀委員と隊長さんのお説教を言う通りに聞く。
「「はい……」」
俺とマイハニーは、トホホな状態で返事して西住隊長と生徒会長と共に風紀委員室を後にした。
今度は、見つからないようにとの決意を胸にして……。





……

………



<龍Side>
場所は変わって、大洗学園の近くにあるラーメン屋『|華僑《ホアチャオ 中国国籍を持つ流浪人の事》』。
カブトムシチームの装填主である風間の実家であり、リーズナブルな値段で、味、量、共に上々……と、言う事もあって、大洗学園の学生や、仕事帰りのサラリーマンに人気のある店だ。
この店の店内で、俺はみほと共に夕飯を食いながら、みほから黒崎&ぴよたんの起こした珍騒動の経緯を聞いていた。
つーか……、沙織と葵が聞こう物なら、確実にショック死するレベルの話だな……、こりゃ……。
と、言うか、それ以前に、何でみほが呼ばれたのか、謎だ……。
「……って、感じで」
「そりゃ、大変だったな……」
そんな話の一通り話したみほは、少なからず疲れた様子でテーブルに置かれた水を飲む。
俺は、それを見ながら、注文した店一番の人気メニューの五目ラーメンを啜る。うん、相変わらずウマい。
口の中に広がる五目ラーメンの味を噛み締めていると、みほがコップを置き、箸で餃子を掴み、この店特製のタレにつけながら、こう言い放つ。
「所で、沙織さんや裕也さん達の錬度は、どうなっているの?今日、ちょっと、この件で練習を抜けていたから……」
黒崎&ぴよたんの件で、暫く練習を離れていた間の様子を俺に問い掛けながら、餃子を口へと運ぶみほ。
それに対し、俺は「あぁ……」と一言呟きながら、こう言葉を続ける。
「前よりは段々と確実に腕を上げてきているな。今日の”自衛隊式模擬戦”でも、中々の成績だ」
「そう……、それは良かった」
俺からの報告を聞き、少なからず安堵した様な表情になるみほ。
指揮官として、仲間の錬度を上げなければならない立場ゆえに、錬度の向上は、彼女にとって気になる物であり、プレッシャーの種だ。
そんな彼女のプレッシャーを少しでも減らすのが、副隊長の俺の仕事である。
彼女を支える為に、俺も全身全霊で職務を遂行しないとな……。
安堵した表情になるみほに対し、俺は何処と無く身が引き締まる思いだ。
そんな思いを胸に、器の底に沈んでいたうずらの卵を箸で掴み、俺は口へと運んでいく。


因みに”自衛隊式模擬戦”って言うのは、俺が、親父から譲り受けた昭和60年代の『陸上自衛隊 機甲部隊基本教練』を元に行っている、本格的な実戦訓練だ。
え、何?「軍事機密の流失じゃないのか?」って?それに関しては、大丈夫だ、問題無い(※少し前に流行った某ゲーム的な感じ)。
だって、この教練に書いてある運用法や攻撃方法などは、もう殆どが使われなくなった物……と言うか、親父が全部変えたんだよな~……。
それどころか、この教練の中で使われている戦車がM24チャーフィー、M4シャーマン・イージーエイト、M41ウォーカーブルドッグ(※因みに、この戦車が親父が初めて乗った戦車)、61式と言った、自衛隊から退役済みの戦車だけ。
現在、主力として使われている90式や10式の運用方法なんて、論外中の論外な品物だ。
まぁ……、当時は、まだ開発中だった74式戦車(※コード『STB-1』)に関しては、多少触れられているけどな……。
因みに、M41ウォーカーブルドッグは、親父が人生で初めて乗った戦車で、機甲部隊訓練学校での、訓練用戦車だったそうだ。


教練の一部に書かれていた事を思い返しつつ、サイドで頼んだ半チャーハンをレンゲで、切り崩す。
その時、定食の卵スープを啜っていたみほが思い出した様に、こう言い放つ。
「あ……、そう言えば、秋山さんと巽さん、今日は来なかったね……」
「あぁ~……、そう言えば、そうだな……」
みほにそう言われて、俺も、今日は練習に巽と秋山が居なかった事を思い返す。
簡単に風邪を引く様な2人では無いから、体調不良って事は無いと思うが……と言うか、そうだったら事前に連絡が来るはずだ。
その連絡すら俺とみほに届いてないのだから、ますます分からなくなる。
うーん……、一体どうしたものか……?
「あ……」
そう胸の内で思った瞬間、俺の脳内に、少し前に聞いた秋山の言葉がよみがえる。
確か……、『2人のお役に立てる様、頑張ってきます!!』とかだっけ?
そう断言した秋山の奴は、一体、何をするつもり何だか……。
脳内に浮かんだ、この疑問の問いが、そう遠くない日に判明する事になるとは、この時は予想しなかった……。


あと、話は変わるけど、上の黒崎&ぴよたん関連の話に、内容が近いから、この場を借りて、1つ話をさせてもらうぜ……。
まぁ……、その話って言うのが、華と裕也の”砲手カップル”の話だ。
当の本人達は、「「そんな関係では無い」」と口を揃えていっているけどさぁ~……、放課後に2人で下校していたり、カフェに寄ったり、夕飯一緒に食ったりって……、もう恋人関係以外の何者でも無いかと思うんだ……。
あと噂だけどさぁ……、華と裕也……、俗に言う『夜戦(※意味深)』&『ベッドで「バアアアアニングゥ!ラアアアアブ!!」』+『それに伴う二人のアダルティーな声を聞いた』って、言った感じの”噂(※コレは、あくまで『噂』であって、”確証はありません”、絶対に:by 龍)”がチラホラと……。
う~ん……、裕也と華よぉ……、お前達2人の恋愛に関して、友人&チームメイトとして、どうこう文句付けるつもりは更々無いよ……、無いんだけどさぁ~……。
まぁ……、とりあえず……、少子高齢化の世の中だけど、そういう行為は、計画的に……なっ?
あぁ、あと……、佐織&葵コンビには、間違っても話さない事を肝に銘じておけよ……。
友人&チームメイトとしての、アドバイス(※と言うか、警告?)だぞっ☆





……

………



<巽Side>
サンダースでの潜入作戦を終え、フェイスさんの操縦するヘリに乗り、ハンニバルさんと共に、大洗学園の学園艦へと帰還する俺と秋山。
ヘリの窓から見える海の様子を見ながら、俺は、ハンニバルさんがくれたコーラを、喉へと流し込む。
正直に言うと、サンダースに潜入してから、脱出するまで、一切の飲み物を飲まないでいたから、喉がカラカラだった。
だから、今飲んでいるコーラが本当に美味しくて堪らない。
たぶん、今までの人生の中で、飲んだコーラの中で、一番上手いコーラと言っても過言じゃないな。
「あのぉ……」
そんなコーラの味を口の中で感じていると、同じ様にコーラを飲んでいた秋山が、少なからず気まずそうな感じで、こう口を開いた。
「私が言うのも何だと思うのですが……、本当に置いてきて良かったんですかねぇ……?」
「んん~……?」
そう問い掛けた秋山に対して、ハンニバルさんは、「プハァ……」と葉巻の煙を吐きつつ、物の見事に嵌った絵図らで、秋山の質問に、軽く笑いながら、こう返す。
「あぁ、|アイツ《フェイス》は、現役の時から、女癖が荒くてなぁ、それでしょっちゅう俺たちに迷惑を掛けていたんだ。あれぐらいの罰は受けて当然さ。ハハハッ」
「は、はぁ……」
葉巻を片手に「ざまあみろ」と言わんばかりに笑っているハンニバルさんを見て、秋山の表情が若干引きつっている気がする。
まぁ……、ハンニバルさん達との付き合いが長い俺は慣れているが、今回が初対面の秋山からすれば、表情が引きつるのは無理も無いよなぁ……。
完全に引きつった秋山の表情を見て、そう思いながら、再びコーラを喉へと流し込んでいく。
そんな俺の姿をバックに、ヘリの操縦パネルを確認&操作しながら、マードックさんがこう言い放つ。
「しっかし……、やるねぇお嬢ちゃん。敵の学校に女手1人に忍び込むなんて、CIAの女スパイみたいだねぇ~!!」
「そんな……、女スパイだなんて……」
フェイスさんの言った、この『女スパイ』と言う単語に、どことなく恥ずかしそうな表情で、何と返したら良いのか、分からない秋山。
確かに、『「女スパイ」みたいだねぇ~……』なんてセリフ。日常生活じゃ、絶対に聞かないワードだし。
そもそも、”その種の業界”で働いてる人すら、現役の間に言うか、言わないかレベルのセリフかもしれないよなぁ……。
ふと、そんな考えが涌いてくる中、秋山は照れくさそうに、頭を撫でながら、こうマードックさんに言葉を返す。
「でも、私は……、私を信頼してくれる西住殿やチームメイトの為なら、どんな事だってして見せますよ」
そう言い放ち、俺やハンニバルさん達に見せた秋山の笑顔。
彼女の見せた、その笑顔を見た俺は、再び”ドキッ!!”と心臓が高鳴るのを感じた。
この心臓の高鳴りには、覚えがある……。これは俺が、『秋山の事が好き』と言う事を自覚した時の高鳴りだ。
やっぱり……、俺は彼女……、秋山の事が好きなんだな……。俺は胸の高鳴りと共に、その事を再認識するのだった……。





……

………



<龍Side>
あっと言う間に週末の休日は終わりを迎え、俺たちは月曜日を迎えていた。
その月曜日の5時限目の戦車道の授業……。ここで俺達は、秋山の言っていた『2人のお役に立てる様、頑張ってきます!!』と言う言葉の意味を知る事となった……。
理由は簡単……、だって目の前のテレビで流れているDVDの映像が、秋山&巽の撮影した『サンダース大学付属高校の潜入映像』だからだよ!!
いやぁ~……、秋山と巽の奴……、たった2人でサンダース大学付属高校に潜入して、こんな重要な情報をつかんでくるなんて……、お前達、本当に高校生か?
そんな考えがふと、胸の奥底から涌いてくる中、巽にお姫様抱っこされながら、秋山の『以上で、レポートを終了したいと思いますっ!!』と言う声と共にDVDが終わる。
いや、本当に……、凄い映像だったぜ……。
「「ンッッッギィィィイィィアァ……」」
「この2人……、大丈夫なのかなぁ……」
「いつものことだろ……」
DVD中に出てきた、”「巽が秋山をお姫様抱っこ」する映像”に対して、佐織と葵が揃って凄まじい声&表情で、壊れたロボットか、どっかの”まな板空母”みたいになっているけど、コレは勿論、さっき言った「凄い」とは、例外だぜ?
沙織と葵に対し、木場が心配気味に突っ込み、麻子が気にも留めず、サラリと受け流す……。
そんな何時もの光景(?)が繰り広げられている中、何時もの様に能天気と言うか……、”馬鹿を発揮”しているのか、沙織と葵の異常なオーラを気にする事も無い様子で、玄田が、こう言い放つ。
「でもさぁ~……、こんな事やっていいのかよ?下手したら、後で大問題にならないか?」
バカ一筋の玄田にしては、珍しく天才的な問い掛けである。
まぁ、確かに敵の学校に入ってスパイ活動する……、状況によっては大問題になりかねない行為だろう。
玄田の様な疑問は、誰しも一回は脳内を過ぎっても、何ら可笑しくは無い。
そんな疑問に対する答えを、華と共にベンチに座って、スマホを弄っていた裕也が述べる。
「一応、戦車道連盟によって、認められている行為ではあるな。」
「ふ~ん……、意外とやる事、ワイルドなんだなぁ……、戦車道って」
裕也のスマホで、戦車道連盟の公式ホームページにある『潜入偵察行為』に関するページを見ながら、感嘆じみた声を上げる玄田。まぁ、確かにそう思うわな……。


んでもって、話を元に戻すとしよう。
「おい、喜田川。ちょっと良いか?」
「「はい」」
裕也が華とそんな”夫婦の会話”を交わしているのを見ていると、河島先輩が俺に対して、話し掛けて来る。
その話し掛けに対し、俺は座っていた席から立ち上がると共に河島先輩に返事を返す。
「あっ、はい……、何ですか?」
俺とみほが2人揃って、そう河島先輩に、呼ばれた理由を聞くと、河島先輩は、俺に対して、こう告げた。
「本日から、我々の戦車道の常駐コーチ並びに、関連する事務作業を担当してくれる方々が来る。だから、今日は練習を前に、コーチ達の挨拶があるから、その事を西住にも伝えてくれ」
「じょ、常駐コーチですか……」
河島先輩から、『常駐コーチ』と聞き、思わず呆気に取られたような声が出た。
だってねぇ……、|ウチ《大洗学園》みたいな無名校に常駐コーチが付くなんてねぇ……。
あぁ……、お前ら、そもそも常駐コーチの意味自体が分からないよな?簡単に説明してやるよ。


と言っても、殆どは、字のまんま。学園に常駐して、指導を行うコーチの事だ。
これは戦車道に限らず野球、サッカー、バスケなどの他の競技でも見られる存在だが、特に戦車道で多く見られる。
その理由だが、戦車道は戦車と言う”特殊な機材を使う競技”である事を始め、”戦車が1人で操縦する事が出来ない乗り物の為、必ず複数の人材が、どうしても必要となる”……と言った点から、蝶野教官の様に自衛隊や、大学の戦車道チームの監督など、戦車を操縦できる人を数名程、引き連れてきてもらった上で、コーチをしてもらう……と言うのが一般的だ。
なので、黒森峰などの戦車道に力を入れている強豪校などでは、複数のコーチを常駐させ、徹底的な訓練を行っている。
まぁ……、ざっくりまとめると「常駐コーチが置ける学校は、強い」って事だな。
勿論、常駐コーチを置いている、置いてないかが、チームの強さを決める要素ではない。
だって、さっき紹介したパンダ学園だって、常駐コーチが居ない学校ながら、あの大活躍なのだ。
まぁ……、どっかの有名ロボットアニメ風に言うなれば、「常駐コーチの有無が、戦車道の勝敗を決める決定的要素では無い!!」って事なのだな。


そう胸の内で思いながら、俺は「あ、分かりました」と、言って河島先輩に返事を返しながら、俺は、みほに横目で視線を向ける。
俺の向けた視線の先に居た、当の本人は、秋山から終わったばかりのDVDを受け取っている。
「西住殿、ぜひ参考にしてくださいね!!」
「うん……、本当にありがとう……、秋山さん……」
まるで尻尾を振って主人に寄り添う賢犬の様に、DVDを渡す秋山。
そんな彼女からDVDを受け取ったみほ、何処と無く嬉しそうな表情を浮かべている。
少し前まで、戦車道に関する事では、絶対に浮かべる事が無かった表情だ……。
かつて、みほの行動で黒森峰が10連覇を逃して以降、彼女に同情し、味方する物は誰1人もなく、むしろ敵意を持たれ、いつ殺されても何ら可笑しくない状況に、みほは立たされた……。
そんな彼女を庇おう物なら、庇った者すら、みほと一緒に殺害される……、そんな噂もあって、「みほを庇う者は現れなかった」と聞いた事がある。
現に黒森峰に関する黒い噂として、「みほの殺害計画」が計画され、実行されようとしていたとか……、いなかったとか……。


まぁ……、そもそも、この計画自体、コンビニの本棚で売られている様な、内容の薄いスキャンダル雑誌に書かれているゴシップ記事に書かれている、証拠の一切無い記事がソースだ。
記事を書いたライターが、1から作り上げた根も葉も無い話であっても、何ら可笑しくない。
それに、高校生の考える殺害計画なんて、所詮は高校生の考えた計画だ。
どっかで教師陣にばれて、こっぴどく叱られて終わり……、所詮はそんな物だろう……。
だが、こんな状況に置かれたみほは、戦車道が「好きじゃない」を通り越して、「嫌い」と言っても何ら可笑しくない物になっていたはずだ。
それが、俺との再会や、秋山や沙織、裕也、巽達との出会い……、そこから始まった彼女の知らない新しい戦車道が、みほを優しく包み、黒森峰で負った傷を癒していったのだろう……。
そうしてせっかく立ち直ろうとしている彼女を支える為に、俺は努力しないといけないのだろう……。


胸の内で強く思いながら、俺は練習を始める為にチーム全員に対して、号令を飛ばす。
「全員集合!!直ちにチームごとに並んで、整列!!」
「「「「はいっ!!」」」」
俺の飛ばした号令を聞き、沙織や裕也を始め、全員がチームごとに一斉に並び、この間にみほも俺の横へとやってくる。
それを確認した俺は、副隊長として改めて、ついさっき、河島先輩から聞いた事をチームのメンバーに対して、告げる。
「えー……、本日より、常駐コーチが、我が校にも着くことになった。その事に関して、河島先輩の方から、詳しく説明してもらいます。では、お願いします」
そう俺の紹介&呼び出しを受け、河島先輩は「あぁ……」と一言言葉を返すと、続け様にこう言い放つ。
「本日より、我が校に着任した常駐コーチは、ヒョウさんチーム指揮官である巽の知り合いだ。戦車道の経験も豊富なので、よーく指示を聞くんだぞ~!!」
河島先輩の説明を受け、「「「はぁーい!!」」」と言う返事が返ってくる。
「では、巽。後は頼んだ」
「はい、分かりました」
そんなどことなく間延びした返事を聞きながら、河島先輩は常駐コーチの知り合いである巽にバトンタッチする。
つーか、今回、着任した常駐コーチって、巽の知り合いなんだな……。
全く……、前々から高校生らしくないとは思っていたけど……、ここまでとはな……。
そう胸の内で思いながら、俺は前に出る巽を見つめるのだった……。





……

………



《巽Side》
皆が集まった中、俺は榊原のおやっさんの店の従業員……ハンニバルさん達の紹介を行う事になった。
「では、お願いします。入ってきてください」
他の連中がどんな人が来るのかとわくわくしているのが見える。
武部なんか「イケメンの外国人の人が来るのかな~♪」と言っている。ウサギさんチームも似たような感じだった。
そうして、ハンニバルさん達(女性陣は、最後)がゾロゾロと中へ入って来た。皆いかつい”元軍人”さん達のお出ましだ。
その光景に、皆呆然としていた。そりゃそうだ。モロ軍人の雰囲気を丸出しの方々のお出ましなのだから。
「「「…………」」」
皆、完全に固まっていた。特にウサギさんチームなんかは、丸山を覗いてガクブル状態だったりする。
それ以外の他のチームのメンバーの反応は、様々だったが。
「凄いぜよ……」
「こ、こわそう……」
「ひぇぇぇ」
「すげえ」
そうこうしている内に、ハンニバルさん達の自己紹介が始まった。
「私は、ハンニバル・スミス。元第75レンジャーの大佐だ。よろしく」
と、火のついた葉巻を咥えたままニコリと笑った。うーん、ハードボイルドだ。
「H・Mマードック!元大尉さ!ヘリコプターのパイロットだけど、他にも色んなものをそうじゅうできるよ~!!みんな宜しく~アハハハハ!!!」
と言うと意味不明なことをし始めた。完全に逝っちゃってる……一部除いて引いている有様だ。
「B.Aバラカス。元伍長だ。メカの事なら俺に任せな。修理・改造・設計はお手の物だ。ただし、飛行機だけは簡便な‥」
少し低めの声で自己紹介するバラカスさん。一年は、丸山除いてビビっていたり震えていたりする。
「ニコライ・ラチェンコ。元スペツナズ……。階級……忘れた」
バラカスさんの時と同じく皆ビビっている。2m近い身長と立派な体格をしているもんだから威圧感は十分だ。
「俺は、ジェイク・ミュラー。元傭兵だ……よろしくな」
うっすらと傷が残っている顔で言うもんだから‥怖いと言った方がいいだろう。
「俺は、カルロス・オリヴェイラ。元企業の傭兵さ。カルロスって呼んでくれ」
と、ラテン系のハーフであるカルロスさんが笑顔で言う。そのせいか、少しばかりだが空気が和らいだ。


そして、最後に女性陣3名が遅れて格納庫に入って来た。一部の男達は嬉しそうな表情をする。
「やっと来たか。彼女達は、事務員兼ヘルプ要員のメンバーだ。自己紹介してくれ」
ハンニバルさんは、そう言って入って来た3人に促した。
「ジル・バレンタイン。元警察官よ。宜しくね」
そう言ってウィンクをする。葵がだらしなさそうな表情をする。
そりゃ、ジルさんはスタイルがいいからな。武部なんかは、目をキラキラさせている。
「シェリー・バーキンよ。元アメリカの公務員。みんな、よろしくね」
と、シェリーさんは笑顔を浮かべて挨拶する。1年は、嬉しそうに「は~い」と返事している。
アメリカの公務員?……きっと政府関係だろう。気にしてはいけない。
「私は、アレクサンドラ。元ロシアのスペツナズの上級曹長。サーシャと呼んでくれ。宜しく~」
と、のんびりと親しみやすい口調で自己紹介するサーシャさん。
過去の事は、あまり話してくれなかったけれど凄腕のスナイパーとだけは聞いている。
ついでに、大食いである。大食い勝負では、五十鈴とは、いい勝負になりそうな気がする。
朝・昼・夜の食事量でも断トツに消費量が多かったりする。


続けて、そばにいた河嶋さんが口を開いた。
「ハンニバルさんは、蝶野教官がこちらに来られない間に我々の訓練を見てくださる。また、戦車の操縦などの訓練はマードックさんに見てもらう事になっている。心してかかるように!」
「「「はい!!」」」
皆そう返事すると、各々の作業に取り掛かる。その時、思い出したように生徒会長が口を開いた。
「あ~。後、うさぎさんチームは、ハンニバルさん達に、特別訓練をしてもらうからねえ~頑張ってね~」
と、干し芋かじりながら楽しそうに言う会長。
「「「えええ!?」」」
「だ~いじょうぶ!だいじょう~ぶ!僕が一緒に乗ってあげるから!」
マードックさんが優しそうに言うが、丸山を除いて1年生たちは不安そうだ。
そりゃそうだ頭のイ○レタ大人には指導しては貰いたくない。
「マードックだけじゃ心配というか危険だから、私達も交代で一緒に乗ってあげるから大丈夫よ」
と、ジルさんが助け舟を出すが、不安そうでしょうがない。
まあ、これも運命だ。頑張れ……一年生。





……

………



《龍Side》
と言う感じで、常駐コーチ……もとい、ハンニバルさん達の自己紹介が終わったのだが……。
いやぁー……、正直な感想を言うと「マジかー……(棒)」としか言い様が無いというのが、正直な感想だ。
だってねぇ……、常駐コーチと聞いて、普通は、民間の戦車道道場の先生とか、元戦車道選手と言った感じで、普通の青年やご婦人の方人を想像するだろう?
だが、実際は揃いも揃って、元米軍&元ロシア軍特殊部隊隊員だの、元傭兵だの、元アメリカの公務員だの……、予想の斜め上を飛ぶ人達ばっかりだ……。
元米軍特殊部隊隊員のハンニバルさんや、マードックさん、コングさんは、”俺の場合”はまだ分かるよ。
だって、親父が陸上自衛隊の最新機甲部隊の指揮官と言う事もあって、年末、福岡にある実家に、在日アメリカ海兵隊やアメリカ陸軍の人……それも、結構偉い立場の人がやってくるからな。
とまぁ、こんな感じで特殊ながらも、俺の場合は、米軍(※正しくは「元」)の人と言うのは、決して珍しくない。
だけど、その敵とも言えるロシア軍特殊部隊……スペツナズの隊員だの、傭兵だの、アメリカの公務員と言うのは、いくら俺でも珍しいったらありゃしない立場の人だ。
つーか、そもそも狭い日本。更に言ったら、大洗学園艦と言う超特定の場所の一角に、この様な人達が揃いも揃って、ズラズラ~と居るのは、ハッキリ言って普通じゃないぞ……。
いやぁー……、全く世の中、何がなんだか分からない物だぜ……。


そう胸の内で思いながら、ハンニバルさん達を見つめていると、呆然としたようで玄田達が、こう言葉を交わすのがふと聞こえてくる。
「ま、マジで、こんな事ってあるのかよ……」
「世の中何がなんだか、分からない物だね……」
裕也が珍しく動揺した感じの声を上げ、その声に対し、冷静ながらも、唖然とした口調で木場が同意する。
そんな二人の側では、ジルさん達を見て、馬鹿みたいにヨダレを、だらだらと口から溢れさせている葵。
裕也と木場とは違い、「ほあぁ~……」と呆気に取られた様子で、ハンニバルさん達を見つめる玄田。
バカでリアクションのデカイ玄田が、冷静で居るのが、以外と言うか、珍しいというか……、何というか……。
つーか、葵のリアクションというか、行動が……、もうねぇ……、酷いとしか言い様がないぜ……、まぁ、とりあえずヨダレふけや……。
相変わらずヨダレだらだらな葵を見て、そう胸の内で思っていると、葵と同じ様に相変わらず唖然とした様子の玄田が、こう言い放つ。
「いやぁー……、久々にインパクトのある出来事だな……、こりゃ……。”鉄○2○号の操作方法が、リモコン式だと知ったとき”か、”オレンジやリンゴ味のミネラルウォーターを、初めて飲んだとき”以来の衝撃だわ……」
「お前は何を言ってるんだ?」
唖然として言い放った玄田に対して、間髪入れることなく裕也がナイスつっこみをかます。
いや、ホント、マジで裕也の言う通り。玄田、お前はいったい何を言ってるんだ?
お前が上げた衝撃と、今回のハンニバルさん達の邂逅が、どうやったら同じになるんだ?


いや勿論、玄田、お前が上げた二つの例(?)も決して分からんことはないよ……。
まず最初に上げた「鉄○2○号(※以下、鉄○)の操作方法が、リモコン式だと知った時」は、俺も確かに子供心に衝撃を受けたよ。
いやそりゃ、前々から鉄○の存在は、小学校に置いてあったロボットの本で知っていたけど、てっきり同じ時期にあった日本の漫画界におけるロボット漫画のパイオニア『鉄○ア○ム』の主人公と同じ様に、”自立回路で動いている”と思っていたからな。
つーか、同じ作者だと小学生の頃の俺は、ずーっと信じていたからな!!
んでもって、その鉄○がリモコン式だと知ったときの衝撃は、確かに玄田の言う様に、平成生まれのガキの子供心には、大変インパクトの強い物だったぜ。
と言うか、コレを踏まえた上で考えると……『ゆけ、鉄人!!』とか言いながら、自分でリモコン操作してるんだぜ。冷静に考えたら、「アホか、テメェ」と言いたくなる様な絵図らじゃね?
それ以前に鉄○のやっている攻撃や、移動パターンが、小学生の落書きレベルでも書けそうな程、簡単なリモコンで出来る物なのか?
うーん……、ここまで言って、ふと思ったんだが……、これは俺が通信技術を始め、ロボット工学が偉く発展した平成に生まれたガキだからこその突っ込みかな……。
まぁ、まだアポロ13号が月にも行ってなかった昭和30年代の頃にガキで、この作品を見ていた親父世代からすれば、とても革新的な作品だったんだろうけどさぁ……。
先にも行ったけど、平成生まれのガキから見れば、かなり突っ込みどころのある名作だよね……、この作品……。
んでもって、後者のミネラルウォーターの件も、確かに分からんこともないよ。
だって見た目は完全に透明なのに、オレンジやリンゴの味がするんだぜ?
メーカーの人には悪いけど、初めて飲んだときの素直な感想を言うとだな……「怖ええぇ!!」の一言につきる。
このとき、マジで冗談抜きで、『食品加工技術&食品添加物の凄まじさ』って奴を肌……って言うか、喉で感じたぜ……。
つーかさ……、ミネラルウォーターに、ハッキリと「オレンジだ」、「リンゴだ」と分かる味が付いている時点で、それはもうミネラルウォーターじゃなくて、ジュースじゃないのか?
全く国の定めた基準がどうなってるのか、知りたくなってくるぜ……。


まぁ、それは良いとして、玄田のアホ発言に対して、胸の内で突っ込み連発させている側で、河島先輩が、ざわつくメンバーを宥める様に、こう言い放つ。
「みんな、静かにしろ!!常駐コーチ達の前でみっともない姿を見せるな!!」
そう河島先輩の檄が飛ぶと、自然とざわついていたメンバー達が落ち着きを取り戻していく。
意外とやるじゃないか、河島先輩……。
後ろで、会長と小山先輩が「「河島(桃ちゃん)が、言える身かなぁ~……」」とか、言っているけど、気にしないであげよう……。
河島先輩の本人の名誉の為に、そう胸の内でこっそりと誓う中、当の河島先輩は、こう言葉を続ける。
「今回、我が校に着任した常駐コーチは、非常に経験が豊富だ。コーチの言う事はしっかりと聞き、反映させるように!!」
河島先輩がそう言い放つと、「「「はーい」」」と言った感じで1年生達が、間延びした返事を返す。
それを聞いた河島先輩は、振り返りざまにみほに対して、こう指示を飛ばす。
「では、これより練習に入る!!西住、後は頼んだぞ!!」
「はっ、はい……!!」
そう河島先輩に言われて、みほが拍子抜けしたような声で復唱を返す。
こりゃ……、インパクト抜群のハンニバルさん達に対して、気を取られていたな……。
まぁ、あんなインパクト抜群の人達が、急に来たら、誰だって気を取られて当たり前だよな……。
だが、コレが実戦なら、取り返しの付かない事にも繋がりかねない訳だ。
その繋がりを副隊長して、俺が断たねばならないのだろう。
全国大会……並びにサンダースとの試合も、迫ってきているわけだし、改めて気を引き締めねば……。
俺は、一回、「ふんっ!!」と鼻息を付きながら、練習内容をメンバーに伝えるみほに視線を向けながら、胸の内で、改めてそう思い、ハンニバルさん達との邂逅で、ゆるんだ緊張の糸を改めて引き締めるのだった。


だが、しかし……、数日もしない内に、これまた強烈な出会いを、経験する事になるとは、俺達はまだ知る由も無かった……。
言って身で言うのも何だが……、これは、どこの安いB級ホラー映画のナレーションだよ?





……

………



んでもって、ハンニバルさん達との邂逅から、数日後……。
俺達は、強烈な邂逅を果たした、常駐コーチのハンニバルさん達の立てた練習プランに沿って、本日の練習を始めようとしていた。
因みに本日の練習内容は、『タイガー等と言った、強力な敵戦車に遭遇した際における対処法』と言ったものだ。
「……以上が、本日の練習計画の内容だ。分かったな?」
ハンニバルさん達から渡された練習内容の書かれたプレートを手に、そう告げると「「「はーい」」」と言うメンバーからの返事が返ってくる。
「では、皆さん、早速準備に入ってください」
そんな返事を聞きつつ、みほが続け様にメンバーに対し、練習前の準備を整えるように指示を出した、その時、外から「ブロロロ……」と言った感じで、凄まじい機械音が聞こえてくる。
ふと思えば、今日は昼休みの時から、たびたび、こんな機械音が聞こえていたな。
うーん……、「学校を工事します」なんて、先生達から、一言も聞いてないから、絶対に工事って事は無いと思うが……。
だとしたら……、戦車関連か?こんな馬鹿でかいエンジン音を出す車両なんて、ブルドーザーやドラグショベルと言った重機以外じゃ、戦車しか無いと思うし……。
仮にそうだとしても、いったい何だろう……チームに加わる新しい戦車の納入か?
それは、確かに嬉しい。現にタイガーとか、スターリンとか、センチュリオンとか、パーシングと言った重戦車は、今すぐにでも、喉から手が出る程に欲しいよ。
だけど、ウチのチームの主力は中戦車や軽戦車であり、重戦車の運用に関する経験やノウハウが一切無い。
勿論、ハンニバルさん達から、それらに関する運用の知識をもらって、運用する事も出来るが、そもそも人数不足だ。
重装甲かつ、高火力な重戦車は、最低でも5人体制じゃないと動かせない。
それに火力を求める故に、使用する砲弾がスターリンの様に、弾頭と薬莢部分に分かれる「分離式」だったり、それ以前の問題として、1人の装填主……それも、ゴリマッチョなアメリカ人やロシア人、ヨーロッパ人の軍人ですら、装填不可能な程の馬鹿でかさだったりする訳だ。
また、重戦車は、その誇るべき火力や装甲によって、『動かす為のエンジンやサスペンションが自然に壊れる』……と言った感じで、その火力と装甲によって立ち塞がる敵を全て粉砕する『無敵の戦車』と言った、華々しい一般的なイメージとは裏腹に、まるでガラス細工の様に、繊細な物だったりする。
これらの点からも、今の俺達が重戦車を配備しても、所詮は『宝の持ち腐れ』になってしまうのが、悲しいながらも現状だ。
いやぁ~……、自分で言って、悲しくなってくるぜ……。思わず涙出てきちゃうよ……。


そんな感じで、思わずあふれ出そうになる涙で、じんと熱くなる目頭を押さえていると、俺と同じ事を思ったらしい沙織が、こう言い放つ。
「なんか今日は、昼休みから、ずっとエンジン音が聞こえてくるけど、戦車の整備かな?」
「それだったら、練習できないだろ」
そう問い掛ける沙織に対し、麻子が冷静に返答を返すと、沙織は「あぁ……、そうかぁ……」と呟くばかりだ。
こりゃ、沙織自身も言われて気付いたんだな……。多分、彼女が男を逃す原因もコレだったりするの……。
「何よ?」
「いや、何でも無い……」
やべぇ……、沙織に気付かれたっぽい……、うっかり口に出していたのか……?
それは兎も角、この話題は止めておこう……、自分の命の為にもね……、うん……。
向けられた沙織の視線から、顔を外しながら、再び練習内容の書かれたボードの中にある、各車両への弾薬配分に関する情報に目を通そうとした時だった。
ふと、突然、バターンッ!!と言う凄まじい音と共に戦車倉庫のドアが荒々しく開く。
この音を前に全員が「一体なんだ!?」と言わんばかりの表情で、ドアの方に顔を向けると、そこには珍しく困惑した表情で、肩を上下に動かして、肩で息をしている葵の姿だ。
頭脳こそ超一流だが、やることなすこと全てがアホのコイツが、ここまで動揺する事って、一体……?
玄田みたいに宿題を忘れたとか、ズルしていたのがバレた……と言った感じの事をする様な奴じゃないしなぁ~……。
うーん……他にも、考えられない事は無いが、どれもコイツが、こんな状態になる程のレベルって物でも無いからなぁ……。
そうなると、考えられる可能性のは、唯一つだ。
「葵、馬鹿の発作か?腕の良い、脳外科医紹介するから、診てもらえ」
「頭部ダメージに定評のある主人公に言われたくねぇーっ!!」
「ありゃ、違った?」
「うっせえ、バカ野朗!!」
俺の発言に対して、これまた珍しく本気で怒りを露にする葵。
このマジ切れぶりか見る限り、どうやら本当に馬鹿の発作ではないみたいだ。
っていうか、「頭部ダメージに定評のある主人公」って、マジレスするなよぉ~……、自分でも自覚しているんだしさぁ……。


そう胸の内で、そんな考えが沸いてくる中、俺に変わって裕也が、葵に問い掛ける。
「一体、何があったんだよ?お前らしくない」
木場が頭に疑問符を浮かべつつ、そう問い掛けると葵はゼハー、ゼハーと荒い息を整えながら、「あぁ……」と一言、呟くと続け様に校言い放つ。
「聞いて驚くなよ……、居たんだよ……」
「居たって、誰だよ?誰が居たんだよ?」
そう裕也が、葵の発言に対し、さらに掘り下げる様に、さらに葵に対して、問い掛けると、葵は超真剣な表情で、衝撃の一言を言い放つ。

「ヒトラーだよ!!第二次世界大戦中におけるナチス・ドイツの主導者、アドルフ・ヒトラー!!」
「「「……」」」

葵の発言によって、周りの空気が凍る。
だが、これはヒトラーが生きていたという事への衝撃では無く、葵が余りにも突拍子の無い事を言った事が原因だ。
「な、何だよ……、皆、揃いも揃って死んだ魚の様な眼をして……」
「いや……、そりゃねぇ……」
「流石にヒトラー生存するなんてのは、安い都市伝説レベルだよ……」
「だよねぇ~……って!?」
そう葵の発言に対して、沙織や裕也が呆れた様に突っ込みを入れ、その二人の突っ込みに同意しながら、ふと葵が来たドアの方を見つめた木場が絶句した。
ヤンデレ化した沙織と対峙したときぐらいにしか、見せないような表情の木場を見て、俺は木場に問い掛ける。
「ど、どうした木場?そんな沙織に色々と求められた時みたいな顔して……」
「ちょっと龍、どういう事!?私、そんなに木場君に求めないわよ!!」
「この前、思いっきり『赤ちゃん作ろう』とか言って、”セミドン”していたくせに……」
「それは言わないで!!」
俺の問いかけにあった沙織に関する発言に対し、当の沙織本人が切れ気味に言い放つ側で、珍しい玄田の真面目な指摘を聞き、沙織は、ぐぅの音も出ない様子で、逆ギレする。
「あ……、あれ……」
「ん……?」
そんな沙織を気にしない様子で、木場は、油の切れたロボットか、錆びた自転車の様に「ギギギ……」と言う、さび付いた機械音が聞こえてきそうな程、ぎこちない様子で、ドアの方に指を指した。
その示された方向に俺を始め、みほや沙織、裕也や玄田だけでは無く、全てのチームメイト達が視線を向ける。
「「「「「きゃああああ!!!!」」」」
「「「「ぎゃあああ!!」」」
んでもって、全員揃って絶叫した。何故なら、そこには葵の言った様に、確かに”アドルフ・ヒトラー”が居たのだから……。





……

………



<?Side>
今日は、素晴らしい朝だ。食事も美味しく体調もいい。最高だ。
私こと「ヒルター」の気分は、絶好調に達していた。
今日は、生徒会長の角谷君によるスポンサーの紹介を行うという事で学園に招待されることになった。
サングラスを取り、輝かしい太陽の下を歩くのはいい気分だ。戦車道に参加している男子はともかく、女子はおっぱいのある女子が多いとか。幸せだ。
生徒会の柚子ちゃんと桃ちゃんのバストは素晴らしいが、生徒会長の角谷君の胸は残念な状態だ。格差社会だ。まな板だ。
そんな事を考えながら、メモに記された地図を見て格納庫へ向かう。
途中、頭の悪そうな男子がこちらを見て奇声みたいな悲鳴を挙げながら格納庫へと走っていくのが見えた。
全く……この顔のせいでロクなことがない……。
そうこう考えている内に、格納庫へと着いた。この中へ一歩踏み出せば、私の新しい一歩が始まる。
そう!ここから、私の新たな栄光の始まりなのだ!


そう思い浮かべ、私は格納庫の扉を開けて、中に入った。
「「「「「きゃああああ!!!!」」」」
「「「「ぎゃあああ!!」」」
中に入ったその途端…歓迎の声ではなく‥‥恐怖の悲鳴が響き渡った。
「ヒットラーだ!アドルフ・ヒットラーだ!」
「そんな……!?生存説は、本当だったんだ!?」
「年齢が合わないぞ!」
「戦後のナチスと言えば、アイアンスカイぜよ!」
「「「それだ!」」」
「南米にナチスの残党が居たのは知ってるが……本人だとは!」
「こわいよー!!」
「殺されちゃうよ!!」


……なんだか、泣きたくなってきた。


思わずブワっと溢れ出てくる涙を必死にこらえていると、私のことを知っている巽君が弁明してくれる。
「全員、落ち着いて……、俺の知り合いだ……」
「お前、ヒットラーが知り合いなのか!?」
「だから違うって……」
この巽君の弁明に対して、これまた頭の悪そうな男子(※脳筋ぽいっ)が驚きを持って聞き返している。
そんなやり取りが、この男子の後にも、いかにも野球部員やバレー部の男子、女子等によって、連続し、巽君が必死になって説明していた。
いやぁ~……、本当に良い知り合いを持ったものだ。うん、うん。
「あぁ、来ましたか」
そう胸の内で思いながら、頷いていると後ろから、聞き覚えのある女子の声が掛けられる。
んで、それに振り返ると、そこにいたのは桃ちゃんと、角谷君、柚子ちゃんの大洗学園生徒会3人組だ。
「待ちましたか?」
「いや、丁度付いたところだ」
そう問い掛けてきた桃ちゃんに対し、私はそう言葉を返すと、桃ちゃんは「それは良かったです」と一言呟くと、相変わらずざわついている男子、女子達に向かって、私のことを説明してくれる。
「全員、この方が、我々のスポンサーを担当してくれる、ヒルターさんだ。ヒルターさんのおかげで、我々は戦車を動かせると言うことを決して忘れるな!!」
「「「はーい……」」」
そう桃ちゃんが言いはなった言葉に対して、みんな揃って復唱を返すが、やっぱり顔のせいなのか、若干引き気味……、もう本当に泣いちゃいそうだ……(泣)
再び溢れそうになる涙をこらえていると、角谷君が、干し芋をかじりながら、こう言い放つのだった。
「じゃあ、本人さんから、少し挨拶してもらいますかねぇ~」
「あのぉ、大丈夫ですか……?」
そう悪そうな笑顔で言い放つ角谷君に対して、申し訳なさそうな表情の柚子ちゃん。
いやぁー……、本当に素晴らしい!!角谷君は、少し寂しいけどね……。
んで、こんな女子達に頼まれた私の返事は、この一言しかない。
「勿論、構いませんよ」
「では、こちらへ……」
私の承認をもらった桃ちゃんが用意した、簡易なお立ち台の木箱……元は、4号戦車か、パンターの搭載機銃であるMG34汎用機関銃、ラム巡航戦車かM3リーに搭載されているM1919軽機関銃の弾丸箱だったのだろう。
その上に私は立つと、私に視線を向ける男子、女子達を前にして、私は一回「ごほん」と咳払いをする。


そして、私は演説を始めた。
「君達はまだ戦車道を始めてわずかばかり……、まるで女子中学生のひんny……、じゃなくて生まれたての赤ん坊の様に
そのようなひんny……、じゃなくて赤ん坊である君達がでかく偉大なきょny……、あwせdrf、巨象の様なライバル校を相手にするのは骨を折るような苦労をするだろう
しかし、私には分かる!!君達には戦車道の素質がある事を!!まるで成長期を向かえ、青年の身長が伸び、少女の胸がAからBに成長するよう……、あwせdrft、心も体も大きく成長していくかのように……、きっと大きく育つでしょう!!」
そして、その成長の末に君達は素晴らしい物を手にするだろう!!芋虫が美しい蝶になるように!!か弱き少女が、豊満なバス……、では無く!!美しき母となるように!!」
本当におっぱいが大きい女子が多い。柚子ちゃんをはじめとし、胸の大きい女子たちのおっぱいを見ると心が癒される。
そういえば・・黒崎君は、彼女(ぴよたん)のおっぱいを毎日揉んでいるらしいが。私は、女子メンバーらのおっぱいを見詰めて顔をにやけさせたり、悲しい表情をする。その時、私の背筋に、寒気が走った。
後ろには、いつの間にか冷たい目をした生徒会長が立っていた。よく見ると、胸が貧しい女子達も居た。皆、目が怖い…
「ヒルターさん。今の演説は?」
角谷君が冷たい声で聞いてくる。怖い。
「胸の素晴らしさ……じゃなかった。戦車道についてだよ」
「ふ~ん。そい……言い残すのはそれだけ」
それだけ言うと、角谷君達は私に飛び掛かって来たのだった。私は、意識を失った。





……

………



<?Side>
現在進行形で、ヒルターが血祭りに上げられている頃……。
近いうちに、大洗学園との第1回戦を控えたサンダース学園では、戦車道チームの隊長オフィスの中で、雄型隊長のバーニィと、雌型隊長のケイが、会話を交わしていた。
「ねぇ、バーニィ。今回の相手はどう思う?」
バーニィ用の机の上に腰掛けながら、そう一言呟きながら、メロンサイダーを喉へと流し込んでいくケイに対して、バーニィはシェイクを「ズズズッ……」と言う音と共にストローで飲みながら、こう言い放つ。
「大洗学園とか言う、まだママのおっぱいをしゃぶることしか脳みそを使わない、小便垂れな赤ん坊共だろ?」
大洗学園を貶すように言い放つバーニィに対して、ケイは「おぉ、言うねぇ~」と意地悪そうな笑みを浮かべながら、言い放つ。
そんなケイの言葉を聞き、バーニィは更に言葉を続ける。
「ふん……、相手が赤ん坊じゃなくて、脳みそスッカスカのボケジジィだろうが、何千何億人を次々と血祭りに上げて喜ぶ筋金入りのサイコパス野郎の集団だろうと、遠慮はいらねぇ……。俺達、海兵隊の任務はただ1つ……、立ちふさがる敵を全力で粉砕するのみだ。この世に細胞1つ残してやらねぇ……。俺達、|海兵《マリーン》の通った後には、雑草1つ生えさせねぇよ」
「いつも通りねぇ~」
普通の人なら、ドン引き確実なバーニィの発言に対して、そう受け流すような対応をケイが出来るのは、彼女がバーニィとは、幼稚園の頃からの、幼馴染みであるからだ。
そんな経緯も元に、ケイは更に彼に対して、こう言い放つ。
「でも、チームの中には『無名校を相手をに本気出し過ぎじゃ?』って声も有るみたいよ?」
「誰が言ってるんだ?」
「主に、ジェームズ」
「またあの陸軍野郎か……」
ケイの言い放ったことに対して、バーニィが問い掛けると、ケイはケロッとした表情で、雄型副隊長のジェームズの名を出す。
そんなケロッとした表情のケイとは対象に、バーニィはジェームズの名を聞くなり、不機嫌そうな表情かつ、頭に怒りマークを浮かべながら、ジェームズを貶すと、続け様にまるでマシンガンのような勢いで次々とこう言い放つ
「全く……、口と脳内シュミレーションだけは立派な物だぜ!!前にも同じ様なことを言ってフルボッコにされたことをもう忘れてやがるぜ、あの脳みそスカスカのはな垂れ&寝小便野朗!!全く持って学習しねぇなぁ……!!まぁ、どうせ梅毒持ちのフ○ッ○ンビ○チなチアガールの彼女とフ○ッ○する以外に脳みそ無いから、真面目に説教したところで無駄なんだろうけどな。どうせ、この間にも、その梅毒持ちでフ○ッ○ンビ○チな彼女と『昨夜はお楽しみでしたね』ってか所だろうけどな!!そもそも、あんな短小&早漏+イ○ポな”大砲”で彼女の冷凍マ○庫を、フ○○ク出来る物だぜ!!あの野郎、いっそ”血塗れの空挺部隊”みたいになってしまえば、良いんだよ!!」
「用は、『くたばれ、この野郎!!』って事ね」
「その通り!!」
この圧倒的なバーニィの罵倒を聞き、ケイが軽く「WAO」と呟く側で、バーニィは再びシェイクを飲みながら、こう言い放つのだった。
「まぁ……、あの梅毒持ちフ○ッ○ンビ○チの彼氏で、陸軍野郎は、どうでも良い……。俺達はただ単に敵を粉砕するだけだ」
「やっぱりそれよね」
と、バーニィの言葉に応えるようにケイも呟き、喉へとコーラ流し込むのだった……。





……

………



<龍Side>
ヒルターさんフルボッコ騒動から、数日後……。
その日の練習を終えた俺達は、倉庫の前に一斉に並んでいた。
「……では、本日の練習は終了とする」
「「「お疲れ様でした!!」」」
ハンニバルさんの号令を聴き、俺達は一斉に号令を返し、頭を下げ、その日の練習を終える。
これを合図に榊さんと自動車部が揃って、パンター戦車のバリュエーションの1つであり、戦車回収車モデルのベルゲパンターに乗り、俺達の戦車の整備を行う為、ベルゲパンターを走らせる。
この前の、謎のエンジン音の正体はコイツだったのだ。
因みに、この車両はヒルターさんの提供だ。
いやぁー……、こういっては何だと思うが、あんな顔と性癖なのに、よくもまぁ、こんな車両をポンと提供できるだけの、資金ぶりだよなぁ……。
俺が、戦車の元へと走っていくベルゲパンターを見て、胸の内でそう思っていると、沙織が笑顔で、こう言い放つ。
「ねぇ、ねぇ、この後、皆でアイス食べに行かない?」
「あ、良いね」
「「そうしましょ、そうしましょ!!」」
そう沙織の提案に対して、みほが頷く側で、玄田と葵が下心満載な表情&口調で、みほと同じ様に頷く。
こいつら揃って、ぶっ飛ばしてやろうかな……俗に言う『ミンチより、ひでぇや!!』ぐらいのレベルになるまで。
下心溢れる2人の表情を見て、そんな考えが胸沸いた瞬間だった。
「沙織さん」
「おい、お前ら……」
と、華と裕也の新婚夫婦が、3人を止める。
っていうかさぁ……、もう|お前ら《華と裕也》、新婚夫婦で良いよな。うん、異論は認めないんだNA☆
どうせ今週末の土日の夜には、『フェードイン』の上で、『バアアアアニングゥ!ラアアアアブ!!』だろ?
そんな考えが胸の内で涌いている俺とは裏腹に、新婚夫婦に止められた3人は揃ってハッとした表情になると、俺とみほに顔を向けて、こう言い放つ。
「あ、そういえば、今日、私や木場君たちは、この後に用事があるんだった……、みぽりんと龍は先に帰っていて」
「え、お前達もか?」
どういう事だ?当の本人達からは、何も一切聞かされていなからなぞ……。
まぁ……、ただ単に特に俺に言わなくても良いような事が、俺を除く裕也、玄田、木場、葵の4人に偶然にも、今日揃ってあった……と、言う事なんだろう。
いやぁ~……、本当にこんな事ってあるんだな……。
そう胸の内で思いながら、裕也、玄田、木場、葵の4人に顔を向けていると、当の本人達は、「あぁ、そうなんだよね~」とか、「ちょっとな……」とか言った感じで、茶を濁すだけで、特に詳しくは話さない。
うーん……、本当に一体何が、何だが……と言ったところだな……。
「あぁ、分かった……。んじゃあ、お先に……」
「じゃあ、明日ね……」
胸の内でそう思いながらも、俺とみほは裕也や沙織達の言葉に従うようにして、帰宅の路に付くのだった……。


んでもって、俺とみほは揃って、帰宅の路に付いていた。
「いやぁー、珍しいこともある物なんだな」
「そうだね。沙織さんや裕也さん達が揃って、用事有るなんて」
「ホントそれだよな」
先ほどの沙織と裕也達の件を話の肴として、俺とみほは2人で会話しながら、夕暮れ時の帰宅路を歩く。
っていうか、なにげに気づいた……、思い返せば……、俺とみほの二人きりって言うシチュエーションは、本当に久しぶりだ……。
最近はもっぱら、帰宅時には、沙織や裕也達も居るから、二人きりでの帰宅は、少なくなってきているからな。
つーかさ……、久々に二人きりの下校だから、気づいたんだけどさ……、この状況って……、端から見れば、”カップルの下校”以外の何者でも、無いよな……。
いやぁー……、このシュチュエーションを沙織と葵が観ていたら、確実に襲われそうだな……。あぁ、恐ろしやったら、恐ろしや~……。
そんな俺の心中とは裏腹に、みほは何処かホッとしたような柔らかい表情で、俺に向けて、こう言い放つのだった。
「でも良かった……」
「……何が?」
「沙織さんや裕也さん達が、戦車道に慣れてきたみたいで……」
「それは、まぁ……、確かだよな……」
本当にみほの言う通りだ。
俺達……、大洗学園が、戦車道を始めたばかりの頃は、本当に右も左も分からない、完全な手探り状態の戦車道だった。
現に、それがもろに現れたのは、少し前にやった、聖グロリアーナとの練習試合だろう……。
あれはぶっちゃけ、このチームの汚点……、そんなレベルの試合だったよなぁー……。
試合中に戦車を捨てて逃げたりとか、敵に堂々と居場所を示して狙い撃ちされたりとかねぇ~……。
それと比較すれば、目を見張る程の腕になってきているのは、確かだ。


だけど、それでも「まだマシ」って感じであって、全国大会レベルとは、言い難い……。
そんなチームでも、全国大会に勝つ為に、俺とみほは指揮官として頑張らないといけないんだろう……。
「ここからが腕の見せ所だな……」
「全国大会?」
俺の呟きに対し、問い掛けてくるみほに対して、俺は「あぁ」と短く言葉を返しながら、顔を正面に向ける。
この俺の様子と返事に対し、みほも俺と同じ用に正面に顔を向けながら、こう言葉を返す。
「そうだね……って、あれ?あれ、あれ、あれ?」
俺の言葉にそう返しながら、鞄をのぞき込んだみほが、何か気づいたらしく、困惑した声を上げる。
その様子を確認した俺は、すぐさま、みほに話し掛ける。
「ん、どうした?」
「私の作戦ノートと、龍君の自衛隊教練を学校に忘れてきちゃったみたい……」
「あぁ、あれか……」
みほが言った”作戦ノート”って言うのは、みほが全国大会に向けて、ハンニバルさん達の助言も得て、みほの立てたオリジナル作戦が書かれたノートであり、このノートは、俗に言う”最高軍事機密レベル”……と、言っても過言じゃない代物だ。
先に言った、キムチ学園やパンダ学園と言った学園の情報収集専門部隊の潜入要員……所謂、”スパイ(※軍隊や諜報機関の業界用語としては『インテリジェンスオフィサー』が、正しいらしい)”が、本気で盗みに来るかもしれない……、流石に考え過ぎか?
んで、自衛隊教練だが、コレは先に言ったものだ。
まぁ……、古いながらも、実戦を想定した戦車運用に関する知識や技術などが、ギュッと詰まった濃厚な資料として、作戦ノート製作に生かされている。
そんな物を忘れたみほは、携帯で時間を確認すると、俺に対し、こう言い放つ。
「私、学校に戻って、取って来るから、龍君は先に帰っていて……」
「あぁ、別に良いよ。俺も付いていくさ」
そう返した俺の返事に対して、みほは「え……?」と拍子抜けしたような表情だ。
この様子を見た限り、みほは「あぁ、分かった。じゃあ、先になるわ」とか言って、先に帰る俺を予想していたのだろう。
まぁ、そうしても良かったのだが、別に家に帰っても特にやることはないし、宿題も比較的、楽だし、今日は面白いテレビ番組も無い上から、暇なだけだ。
だから、これぐらいの方が、丁度良い時間つぶしになる。
勿論、コンビニ行って、漫画を立ち読みする……と言う手もあるが、それでも30分も暇を潰せるか、潰せないかだ。
ただし、みほと共にコンビニに行ったときは例外中の例外だ。普通に2時間ぐらいコンビニに居るからなぁ~……。
みほが、何かとコンビニ好きなのは、幼馴染み故に知ってはいるのだが、それでも未だにコンビニで2時間も過ごせる理由は、未だに分からない……。


んで、こんな理由もあるが、本音をぶっちゃけると、「みほをちょっと1人にしておけない」……って言うのが、本音だな。
実の所、最近、”学校周辺で不審者が目撃された”と言う情報が、先生の口から告げられている。
なので、この不審者にみほが襲われないのか、内心ぶっちゃけ不安なのだ……。
え?「何をそこまで心配して居るんだ主人公?」、「ストーカーとしての、目覚めか?」だって?うっせぇ!!
個人的に不審者って聞いたら、どうもみほのことが心配になるんだよ!!
え、何故って?そりゃあ……、先に言った”みほの黒森峰時代関連が理由”って、言ったらいいのかな……?
ソースが、信頼性一切0のゴシップ雑誌とはいえ、黒森峰が10連覇を逃した原因を作った張本人であるみほを恨んでいる黒森峰の生徒が、「今は居ない」とは、言えないだろう。
現に少し前にあったエリカとの対面がその典型的な例だろう。それ程までに、黒森峰で、みほは嫌われ者なのだ。
そして、そのゴシップ雑誌の記事で書いてあったように、みほに少なからず殺意を持っている生徒が居ても何ら可笑しくはない。
んで、先生の言っていた不審者が、このみほに対して、殺意を持った黒森峰の生徒……又は、その生徒に雇われた|アサシン《暗殺者》や、ヒットマン……と言う可能性も決して0では無い。
まぁ……、流石に我ながら考えすぎだと思うよ……。
だけど、警視庁の記録で、年間提出された行方不明者の数が、3万人を超えた……って、記録のが有る訳だし……。可能性が、決して0では無い……と言う事だな。
勿論、みほに対して恨みを持つ黒森峰生徒で無いとしても、不審者が居るかもしれない状況で、女子1人を放っておく……と言う状況は、個人的に”男が廃る”行為だしな。
っていうか、最近、ふと思ったのは……、この不審者の正体……、実はリア充カップルを観てヤンデレ化した沙織or葵か、ヒルターさんじゃ無いかと思うんだ……。


まぁ、それは置いておいて、この俺の発言に対して、みほは少なからず意表を付かれたような表情を一瞬浮かべるが、直ぐに表情を軟らかくし、こう言葉を続けた。
「そう……、じゃあ一緒に行こうか?」
「あぁ」
そう短く言葉を交わした俺とみほは、再び学校へと足を向けるのだった……。





……

………



んでもって、学校に戻ってきた俺とみほ。
「あ、あった」
「あっさり見つかる物なんだな……」
その最大の目的である忘れ物の、作戦ノートと自衛隊教練は、思っていた以上のスピードで、直ぐに見つかった。
ただ単に、教室のみほの机の上に置いてあったのだ。「ポツーン……」と言う祇園が聞こえかねない程……。
いやぁ~……、この状況、普通なら、直ぐにでも気づくと思うのだけど……。
まぁ……、古くから、”灯台もと暗し”と言うことわざもある事だし、世の中、意外と単純なんだろう。
「はい、龍君の」
「あぁ、ありがとう」
そんな事をふと思いながら、俺はみほから自衛隊教練を受け取り、リュックの中へと入れていく。
同様にみほも、作戦ノートを鞄の中に入れ、鞄のチャックを閉める。
「じゃあ、帰るか……ん?」
その様子を見ながら、俺がみほに帰ろうと告げようとした時、ふと俺の耳に、戦車のエンジン音が聞こえてくる。
一瞬、自動車部と榊さんの乗るベルゲパンターかと思ったが、どうやら違うみたいだ……。
このエンジン音は……、確か……、みほの乗る4号戦車のか……?
それに俺の乗る5式のエンジン音も聞こえる……、これは一体どういう事だ?
そんな疑問が俺の胸の内でわいてくる中、みほが問い掛けてくる。
「どうしたの、龍君?」
「いや……、ちょっと……」
そんな疑問を胸に、問い掛けてきたみほに対して、そう言葉を返した瞬間、みほも俺と同じ様に、戦車のエンジン音を聞き、「あれ?」と言わんばかりの表情で、こう言い放つ。
「このエンジンって……、4号と5式の……」
「あぁ……、そうみたいだが……、いったい何だ?」
確認する様に言い放つみほの言葉に対して、俺も茶を濁すような言葉で返事を帰す。
返事を返した我ながら、答えになっていないと思うが、実際、こんなでしか返事を返せないんだよなぁ……。
そんな事を胸の内で思いながら、俺はみほに対して、こう言い放つ。
「ちょっと確認してくるから、みほは、ここで待っていて」
「あぁ、良いよ。私も付いていくよ、さっきのお返し」
と……、俺の提案に対して、みほは笑いながら、これを拒否する。
うーん……、俗に言う『出鼻をくじかれた』事は、この事を言うのか……。
「じゃあ、一緒に行くか……」
「うん」
そう胸の内で思いながらも、みほの提案を否定する要素も無いので、俺はみほの提案を受け入れ、共に確認に向かうのだった……。





……

………



んで、戦車のエンジン音に導かれ、おれとみほがやって来たのは、戦車倉庫近くのグラウンドだ。
ここから、4号と5式のエンジン音が聞こえるのは、間違いない。しっかし……、一体、何だが?
「ここみたいだな……」
「うん……、そうだね……」
胸の内で、そう思いながら、俺は、みほと短く言葉を交わすと、まるで浮気現場を覗き見する探偵の様に、倉庫の壁から、ちらっとグラウンドの方を覗き込む。
んでもって、覗き込んだ俺とみほの視界に飛び込んできたのは、エンジン音を立てて、ハンニバルさんの立てたフォーメーションの訓練方法に従って、フォーメーション移動する4号と5式の姿であった。
っていうか、何で動いているんだ!?まさか……、戦車泥棒か!?
グラウンドをフォーメーション走行する4号と5式を観て、な考えが俺の胸の中を過ぎる。


えっ、何故かって?過去に親父の指揮する陸自の戦車部隊が、この戦車泥棒の件で、出動したからだよ!!
簡単に説明すると、俺が生まれる一昔前の1980年代。
当時、若かりし、新人機甲部隊指揮官だった頃の親父が駐屯していた北海道で、確かロシア人で構成された外国人強盗団が、旧ソ連(※当時)製の自動小銃”AK-47”で武装したあげく、夜な夜な、戦車道をやっていた高校から、盗み出した戦車道用のT-34/85で、銀行や現金輸送車を襲撃する大暴れをしたのだ。
こんな80年代にお茶の間を賑わせたドッカン、ドッカンやっている刑事ドラマみたいな、事件がリアルに起きたんだぜ……、信じられるか?
でもって、こんな状況を前に”角刈りでショットガンをぶっ放す刑事”とかが居ない現実の警察(※更に詳しく言うと、北海道道警察)は、パトカーや白バイのお巡りさんや刑事は勿論、特型警備車や放水警備車とかで武装した機動隊員とか、豪快に蹴散らす……というか、ほぼ全滅させるぐらいに、大暴れ。
んで、作戦本部により、『もはや、警察では対応不可能な領域に達している&このままでは、民間人にも死者が出る可能性がある』と判断され、超特例措置によって、北海道に駐屯する陸上自衛隊が出動。
その中の部隊の1つに、親父が指揮する61式戦車の小隊も居て、出動して現場に到着するなり、戦争映画さながらの市街地戦を繰り広げ、T-34/85を撃破、強盗団の逮捕に協力した……って感じだ。
いやぁ~……、これと災害派遣の活躍だけ観れば、十分に尊敬できる父親なんだけど、如何せん変人なんだよなぁ~……。
っていうか、警察を呼ぶべきか!?いや、それとも親父に電話して自衛隊を治安出動させるべきか!?


そんな考えが胸の内を過ぎる中、みほが何かに気づいた様子で、こう言い放つ。
「あ、2台とも、ハッチが開くよ」
「何?」
戦車泥棒にしては、堂々すぎる行動じゃないか……。
みほの言葉を聞き、俺はそう思いながら、4号と5式ハッチの方を見つめるみほと同じ様に、4号と5式のハッチに視線を向ける。
すると、視線に飛び込んできたのは、4号と5式のハッチを開けて、戦車の中から出てくる沙織と裕也達の姿であった。
あれ……?お前達、用事有るんじゃなかったのか?何で、ここに居るんだ?
「このフォーメーションは、ほぼOKだな」
「うん……、じゃあ次は……」
沙織や裕也達の姿を見て、そんな考えが胸の内にドッと涌いてくる中、会話を交わしていた沙織や裕也達も、俺とみほの存在に気づいたしく、みんな、揃って珍しく……。
「「「「「「「あっ……」」」」」」」
と……、麻子を除いた全員が、揃って唖然とした声を上げるのだった。
っていうか、本当に珍しく揃ったな、お前達……。
「さ、沙織さん……?それに裕也さん達も……?」
そんな考えが俺の胸の内にどっと涌く中、俺の側に居たみほが沙織達の名を呼ぶ。
その呼びかけに対し、沙織と裕也達は、「しょうがない……」と言わんばかりの表情だ。
いや、いや……、何がしょうがないの?こっちとりゃ、何が、何だかだよ……。


沙織&裕也達の表情を前に、そんな考えの俺に対して、みほが、俺の代わりにこう言い放つ。
「みんな、まだ練習していたんだ……」
「っていうか……、用事って……、それか?」
そう話し掛けるみほの後に俺も続く様に、そう問い掛けると、4号から、降りた沙織が、頭をかきながら、こう言い放つ。
「いやぁ~……、いつも、いつも、みぽりんや龍の足を引っ張ってばかりも、居られないから……」
何処と無く申し訳なさそうに言う沙織とは違い、何処か吹っ切れた様な表情の葵が、こう言葉を続ける。
「そ、それじゃ日本男児が腐るって物だ」
「お前の何処に、男として腐る部分があるんだよ……」
そう葵の発言に対して、俺は思わず間髪入れずに突っ込みを入れる。
だって、こいつの普段の行動を見た限り……、とても”日本男児”なんて部分はないぞ……。
むしろ、日本男児と言うより、イタリア人男性じゃないのか?ナンパ好きだし、海上自衛隊志願だし……。
え、何で「海上自衛隊志願だから、イタリアなんだ?」って?
イタリア軍って『某漫画の影響』で、第二次世界大戦では『連戦連敗』で『弱い、超弱い』みたいなイメージがある。
実際の所、イタリア陸軍は、その某漫画に書かれた様なヘタレぶりを見せたらしいが、イタリア海軍は、その逆で、結構勇ましかったらしく、連合軍海軍にも恐れられたそうだ。
現に人間魚雷……と言っても、日本海軍の『回天』みたいな完全な体当たり兵器じゃないけど、それに近い兵器で連合軍の艦船を撃沈させて、生きて帰った強者も居るぐらいだし……。つーか、今の時代でもイタリア海軍の特殊部隊『COMSUBIN(※Comando Subacquei ed Incursori:潜水奇襲攻撃部隊)』は、数ある海軍特殊部隊の中でも、トップレベルの実力と評価されて居るぞ。


んで、話を本題に戻すとして……、そんな葵に対して、突っ込みを俺が入れている側で、華と裕也の新婚夫婦が、こう言い放つ。
「お姉さん達を見返してやりましょうね!!」
「あぁ、全くだぜ!!」
「みんな……」
そう決意満々に言い放った華と裕也の言葉を聞き、みほは目に涙をウルウル……と浮かばせながら、呟く。
きっと、みほの今までの経験では、決して居なかった寄り添い、共に助け合う仲間……、その存在が、今のみほにはある……。
黒森峰では決して手に入れることの出来なかった、かけがえの無い大切な仲間……。
その存在に、黒森峰で負ったみほの深い傷が癒されてきているのは、間違いの無い事実だ。
だから、今、ここにいるみほは、涙を浮かべているのだろう……、黒森峰では決して流すことの出来なかった、優しい涙を……。


みほの様子を見ながら、そう思うと同時に、俺は新たに胸の内で強く誓う。
どんな事があっても、みほや、ここにいる素晴らしい仲間達を守ろう……。
全身全霊を上げ、強くなって、守るんだ……。
決して、この身が明日、死んで、滅びようとも……、絶対にみほや仲間達を守る……。
それが、大洗学園戦車道チーム副隊長、雄型隊長として……、1人の人間として……、俺に与えられた指名なのだ。
だから、この指名を果たすために、俺はやるぞ、やってやるぜ!!


みほや沙織、裕也達と共に、オレンジ色の美しい夕焼けに包まれながら、俺はそう強く誓うのだった……。