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激突・・・・・・・、そして始まる戦車道

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あの後、完全に虚ろ目で魂が体から抜けて呆然としていた、みほを引っ張って教室に戻った俺は7校時目の数学の授業を受けていた。
っていうか、この地球上で数学なんて思い付いた奴はどこ野郎だ!?
とまぁ、勉強が出来ない学生がよーくボヤいていそうな恨み節を心の中でボヤきつつ、数学に対応していない自分の脳みそをフル回転させて目の前のプリントに書かれた問題と向き合う。
しかし……、数秒後には原子力発電所のメルトダウンよろしく、俺の脳はボンッ!!と爆発音と立ててオーバーヒートの後に活動を停止する。
っもうヤダ……、本当に数学考えた奴は地獄の業火に焼かれろよ……。
そう胸の内で一人虚しく叫びながら、白煙の上がる頭を冷やす為にふと顔を上げて周りの様子を確認した俺の目に飛び込んできたのは”せっかく逃げてきた戦車道をまたやらねばならない”と言う現実を突き付けられ、先程から茫然自失&虚ろ目でただ椅子に座っているみほの姿であった。
っていうか……、みほ……、お前本当に大丈夫か……?
まさか……、戦車道履修を突きつけられたショックの余りに心臓が止まって、椅子に座った状態で死んでしまったって事なんて無いよな!?
完全に体から魂が抜けきったみほを見て、そんな考えが俺の胸の内で湧いてくると同時に額に大量の冷や汗が吹き出る中、黒板に数学の問題を書いていた先生が振り返りざまにこう言い放つ。
「じゃあ、皆。解き終わったかしら?」
へ?解き終わったかしら・・・・・・?
げっ……!!、やば……!!みほの事に気を取られていて、スッカリ目の前の問題を解く事を忘れていたぜ……、みほが生きている事と共に先生に指摘されない事を天に祈ろう……。
そう思いながら、”第二次大戦におけるノルマンディーの戦いを描いた某有名戦争映画”におけるラストシーン(※確か……、”重症を負った主人公に迫り来るタイガー戦車に対して、コルトガバメントを撃ちまくる”と言った感じだっかな?)さながらの最後の抵抗と言わんばかりに問題に食らいつくが……、無駄骨以外の何物でもなかった……。
さっぱり分からん……、もう泣きたい……、っていうか、泣いていいですか?


そう胸の内で”大玉砕”している俺の事など知る由も無い先生は、俺達の様子を見ると教科書とチョークを手にこう問い掛けてくる。
「さぁ、皆さん出来ましたか?それでは代表として、みほさん。前に出て問いてくれる?」
そう言ってみほに先生から指摘が飛ぶが、みほはコレにも反応する事無く茫然自失&虚ろ目で呆然としてただ座っているだけだ……。
畜生……、余りにもショックが強すぎたんだ……、完全に魂が抜けきっている……、あのクソ生徒会共めぇぇぇっ!!
内心で会長達に向け、火炎放射器以上の怒りの業火を燃やす俺の側では、”先生の問い掛けに反応しない”と言う気づいた裕也、沙織、先生達が不思議そうにみほに視線を向けていた。
「西住さん?どうかしました?」
「………」
完全に目からハイライトが消え、心ここにあらずのみほ。
こうなる気持ちはよく分かるが……、流石にコレ以上、茫然自失とさせる訳には行かないよなぁ……。
そう思った俺はシャーペンでみほの肩を軽く叩きながら、みほの我を戻すことにする。
「みほ……、みほ……」
「ほぇ……?」
俺に肩を叩かれてやっとこそ行方不明になっていた自我が戻ってくるが、相変わらず目は虚ろ目である。
うーん……、本当に大丈夫かなぁ……。
みほ……、寮に帰ったら、自殺とかしないよな……?
もしそうなりそうだったら……、俺の部屋にでも泊めて寝ずに見張る必要があるかもな……。


そう心の中でみほを心配する俺に視線もくれず、先生は流石に様子がおかしいと思ったらしく、みほにこう告げた。
「西住さん、どうしたの?具合が悪いなら保健室に行きなさい。保健室の先生は今、居るわよ」
「………」
先生にそう言われてみほは立ち上がるが、先程と同じ様に”心ここにあらず”の状態であり、完全に目の照準は合わず、ゾンビの様に足もふらつき、完全に魂が抜けきった状態で保健室へと向かっていく。
「おいおい……、本当に大丈夫か?」
「新型インフルエンザとか?」
(みほ……)
クラスに居る誰も彼もが、みほの様子を見てタダ事では無いと思ってざわめく中、俺は心配のあまりみほの名前を心の中で呟く。
そんな俺に対して、裕也がシャーペンの芯を交換しながら少なからず疑問を隠し切れない様子で問い掛けてくる。
「彼女、大丈夫か……?」
「大丈夫じゃないのは確かだな……」
前から振り返りざまに俺に問い掛ける裕也に俺はシャーペンをくるくると回しながら返した、丁度、その時であった。
「先生、私もお腹の調子が……」
「持病の癪が……」
と言って沙織と華が手を上げて保健室に行く許可をもらい、保健室へと向かって行く。
まぁ……本当は体調が悪いのではなく、みほの事が心配で行くのだろう……。
本心としては俺も行きたいのだが、この授業を受けるとたださえ苦手な数学が更にキツくなるので辞めておく。
それに沙織と華が代わりに行ってくるのなら……、多少ならずとも大丈夫……、だろう……。
俺のも念の為にこの授業が終わったら、様子見に行くか……。
そう胸の内で思いながら俺は全く答えの出ない数学の問題に頭を悩ませるのであった……






……

………



「……はい、本日はココまで。明日はココの続きから始めるから、シッカリ予習するのよー」
「「「ありがとうございました!!」」」
7校時目の授業を終えた俺は終了の挨拶と共に足早に保健室へと向う。
もちろん、保健室に行く目的はみほの様子を確かめる為だ。
先程のみほの様子を見た限り、簡単に回復するようなダメージでは無いのは確かな事実……、速球に状況を確認して速やかに適正な処置を取らないと”最悪の事態”すらありえるからな……。
みほ……、そう思いつめるなよ……、幼馴染として何とかして支えてやらないと……。
「失礼します。入って良いですか?」
「はい、どうぞ」
「失礼します」
そう胸の内で強く心配しつつ、保健室に付いた俺はドアをノックした上で保健室の先生の許可をもらい中に入る。
同時に俺の視界に飛び込んで来たのは、保健室のベッドの上で沙織と華と共に毛布に包まっているみほの姿であった。
目が虚ろ目じゃない所からして、多少なりともみほの気分は落ち着いた様だな……、ちょっとホッとしたな……。
みほの目にハイライトが戻ったのを見て、少なからず胸を撫で下ろしながら俺はみほ達に問い掛ける。
「おい、みほ、沙織、華、大丈夫か?」
「あ……、龍君……」
「本当に大丈夫か?」
俺の問いかけにみほは俺に心配を掛けないようにか微笑みながらこう返す。
「うん……、大丈夫だよ……」
「はぁ~……、ホントに無茶しないでよねぇ……」
「えぇ、倒れてしまったら本末転倒ですよ」
「………」
そう言って沙織と華が言葉を続けるとみほは二人の方に顔を向けて「うん」と一言微笑みながら返す。
短い付き合いとは言えない幼馴染から見て、軽く胸がズキッと痛むような感覚を覚えた……。
せっかく出来た友達に心配を掛けないようにするのは分かる……、だけど……、無茶はしないでくれよ……。


その思いながら、俺は一回息を吸った後、みほ達に向けてこう言い放つ。
「じゃあ、教室戻るぞ」
「うん」
「そうだね」
「えぇ」
俺のこの言葉にみほ、沙織、華が首を縦に振って肯定した、その時であった。
突如として、保健室の壁に設けられたスピーカーからチャイムが鳴る。
そのチャイムに俺とみほ、沙織と華が顔をスピーカーに向けると同時だった。
『全校生徒に告ぐ、繰り返す全校生徒に告ぐ、直ちに体育館に集合せよ』
俺とみほに戦車道を選択するように言ってきた生徒会広報の声がスピーカーから鳴り響く。
今度は一体何なんだ?ナチス・ドイツ並みのファシズム野郎共の生徒会め……。
そう生徒会広報の声を聞いて、恨み節を胸の内でボヤく俺の側で華が首を傾げながら問い掛けてくる。
「一体何でしょうか……?」
「さぁ……?」
沙織と華が顔を見合わせて疑問に思うの様子をみほが見ている側で、俺は思わず胸の内で思っていたことを呟くのであった。
「何か、嫌な予感が……」
そう呟く俺を観て「あはは……」と苦笑いするみほがベッドから出て体育館に歩み始めると俺と沙織、華も続くように体育館へと歩き始める。
本当に嫌な予感しか無いんだよな……、あのファシズム生徒会共が考える事だからな……、絶対ろくな事じゃない……。
そう思いながら、体育館へと俺はみほ達と共に足を向ける。


そして、俺達を始めとして大洗学園の全生徒達が集まってガヤガヤと騒がしい体育館内では、各クラスの委員長が並び、その後ろに生徒会の3人が立っており、更にその後ろに馬鹿デカイスクリーンと投影機が設置されていた。
よくもまぁ……、こんな馬鹿でっかいスクリーンなんぞ学校が買った物だな……。
このスクリーンを買う為の購入予算はどっから出てたんだろ?
ケタ違いのデカさのスクリーンを観て、そう思う俺ことなど知る由も無く生徒会広報の川島先輩は全生徒が体育館に集まったことを確認するなり、メガホンを片手にこう言い放つ。
「全員静かに、今から必修選択科目のオリエンテーションビデオを上映する」
そう言う川島先輩の声に俺達がスクリーンに顔を向けると、生徒会の3人が去ると同時に体育館の電気が消え、オリエンテーションビデオがスクリーンに映しだされていく。
そのオリエンテーションビデオの始まりと同時にスクリーンに映し出されたのは……。

『戦車道入門!!』

オリエンテーションビデオの内容が”戦車道”ねぇ……、どうりで嫌な予感がする訳だ……。
スクリーンに映し出されたタイトルを見て、俺は胸の内でそう思うのだった。




……

………


流れ始めた戦車道のビデオから、先程の不愉快な出来事を思い出して思わず顔がふて腐れる。
全く……、あんな事までして俺とみほに戦車道を選択させようとした挙句にこんな大規模な事までして戦車道をやりたいのかね?
そう思いながら、見ていたスクリーンにまず最初に映し出された光景は軽快な音楽と共にエンジンの轟音を上げ、履帯を軋ませつつ走行し、88ミリ砲の凄まじい砲声と共に標的のT-34/76を砲撃し撃破するタイガーⅠ重戦車と言う迫力満点の映像である。
うむ、確かに迫力のある映像だな。戦争映画でコストの都合上、T-34やらM4シャーマンなんぞを改造して作った”なんちゃってタイガー”とは格が違い過ぎる。
この迫力のある映像に体育館の中でざわめく生徒達に対して、川島先輩が「静かに」と言って黙らせる。
その側でナレーションによる説明が始まる。
『戦車道は女性の行う雌型、男性の行う雄型の2つがあります。ここでは、まず一般的な雌型の説明を行います』
そう言ってナレーションが説明すると場面は青い画面に赤い文字で『第1部 戦車道雌型』と言う場面が、数秒表示された後、画面が切り替わる。
『戦車道雌型……。それは伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきました。礼節のある淑やかで慎ましく、そして凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸でもあります』
そう言ってナレーションの流れるビデオの中では5人の女声がカメラの方と後ろにある3号戦車L型に礼をして乗り込んでいく様子だ。
ビデオに写る5人の女性はいずれも凛として美しい女性ばかりである。
まぁ、個人的な女性のタイプではないのだが……。
そう胸の内で思いながら、見ていると映像が切り替わり、3号戦車に乗り込んだ女性の指揮官に当たる戦車長が戦車前進の指示を出し、3号戦車を走らせる映像と共に再びナレーションの声が聞こえて来る。
『戦車道雌型を学ぶことは、女子としての道を極める事でもあります---。鉄のように厚く強く---、無限軌道にカタカタと愛らしい---、そして大砲のように情熱的で必殺命中!!』
ナレーションがそう言うと同時に3号戦車L型がズドォーン!!と言う砲撃音を立てながら砲撃し、この砲撃音に「うわぁ!!」と生徒たちが驚く。
うーん……、小学生の頃からみほと一緒に戦車に乗ったり、陸上自衛隊の戦車部隊の最高指揮官と言う親父の仕事柄で昔から聞いていた俺からすれば、聞き慣れた音なのだが、やっぱり聞き慣れない人が聞いたらビビる物なのか……。
そう思いながら、砲撃音にビビっている生徒達の様子を横目に見る俺に構う事無くビデオの映像は隊列を組んで前進する3号戦車に切り替わる。
『戦車道雌型を学べば、必ずや良き妻。良き母、良き職業婦人になれる事でしょう。健康的で優しく逞しい貴女は、多くの男性に好意を持って受け入れられるはずです』
このナレーションの流れる場面では30台以上の3号戦車L型が隊列を組み前進し、脇にいる男性達から歓迎される様子である。
そんな場面が数秒表示された後、ナレーションがこう言葉を続けた。
『さぁ!!、皆さんもぜひ戦車道を学び、心身ともに健やかで美しい女性になりましょう!!』
そう言ってナレーションが終わると再び画面は青い画面に切り替わる。


その数秒後、画面には赤い文字で『第2部 戦車道雄型』と表示される。
そして、画面が切り替わると同時にスピーカーからは先程の戦車の砲撃音とは違った爆音が鳴り響く。
どうやら……、映像の中にM16A1を持った兵士が居る所から見てベトナム戦争の映像の様だな……、数秒前まで流れていた映像とは大違いだ。
そう映像の中で映し出されるナパーム弾の業火と共に鳴り響く爆音に「うわぁ!!」、「きゃあ!!」と言った声が上がる。
正直言って、俺もいきなり鳴った時は軽くビビったしな……。
そう胸の内で思う中、再びナレーションがベトナム戦争の戦場で激しい戦闘を繰り広げるアメリカ海兵隊の映像と共に聞こえてくる。
『人類の歴史は戦争の歴史でもありました……』
そう言ったナレーションが流れる中、スクリーンに映し出された次の映像は第二次世界大戦中の沖縄戦でアメリカ海軍による一斉砲撃の様子であった。
こんなに派手にドカドカ撃ちこむだけの弾があるんじゃ……、日本は負けて当然だな……。
そう思うと同時に画面が再び切り、今度は硫黄島の戦いにおいてナパーム弾を投下し、日本軍陣地を爆撃するアメリカ海軍の爆撃機から取られた空中映像へと切り替わる。
相変わらずエゲツナイな物だな、ナパーム弾による攻撃は……。
有名な戦争映画で『朝のナパームは最高だ』なんて言っているアメリカ陸軍の中佐が居たが……、俺も親父も少なくとも彼のような軍人にはなれないだろう……。
そう胸の内で思う中、再びスピーカーからはナレーションが聞こえてくる。
『人類が起こした戦争は数多くの悲劇を生みました。中でもナチスドイツによるユダヤ人の虐殺は最も最悪だと言えるでしょう』
そう言って画面はアメリカ軍によって開放されたユダヤ人の強制収容所の映像になる。
うーむ……、モザイク処理がされているが……、結構これは来る物があるな……。
そう思いながら、見ている映像の中では殺されたユダヤ人の靴が山のように積まれた写真や、収容所を開放したアメリカ軍のM10駆逐戦車をバックにアメリカ軍の衛生兵からケガや病気の治療を受けるやせ細ったユダヤ人など衝撃の強い映像な流れる。
「うわぁ……」
「ひっどーい……」
悲惨な映像を見て、そう言った生徒達の声が聞こえる中でナレーションがこう言葉を続けた。
『戦争を防ぐ事が難しい事であっても、この様な悲劇を防ぐた為、「戦争反対」の主張と共に「もっと教養のある軍人や政治家が必要だと」言う主張がベトナム戦争後の1970年台から世界中で高まりました』
そう言って画面はベトナム戦争の反戦デモの映像などであった。
っていうか、「戦争反対」では無く「もっと教養のある軍人や政治家が必要だと」と言う意見が出るのは”世界の警察”を名乗る軍事大国であるアメリカ&当時が東西冷戦の真っ只中だったと言う歴史背景ならではと言った所か?


そう俺の目の前で三度、画面が切り替わる。
そして流れる映像は現代の物であり、それと同時に三度ナレーションが流れ始める。
『そこで、考えられたのは「戦車道」を通して更なる深みある教養を士官たちに学ばせると言う物で、アメリカ陸軍の士官学校であるウェストポイント士官学校で始まった事を切っ掛けに世界中の士官学校で行われ、現在の『戦車道雄型』の原型になりました』
その映像の中ではウェストポイント士官で、最新鋭のM1A1エイブラムスに乗り込む士官候補生達の様子で、続いて切り替わった次の場面では相手チームより砲撃を受けたM1A1エイブラムスがピコーン!!と言う音を立ててハッチから白旗を出すという、”武道としての戦車道”と変わる事の無い”訓練の戦車道”の様子であった。
つーか、湾岸戦争でイラク軍のT-72を一方的に撃破して”世界最強”の称号を得た戦車であるM1エイブラムスがハッチから白旗を上げるなんて、よくよく考えるとシュール過ぎる光景だな……。
映し出された映像の中で白旗を上げて、戦車回収車に回収されるM1A1エイブラムスを見てそう思う俺の耳には、またナレーションの声が聞こえてくる。
『戦車道雄型では、仲間同士の強いチームワークと礼儀正しさ、いざという時はどんな状況にも恐る事なく勇敢に立ち向かい、そして戦いが終われば傷つけた敵にさえ救いの手を伸ばすと言う強さと優しさを育くむ事ができます』
そういうものなのかね?そう思いつつ、スクリーンを見つめていると男性達がパンター戦車に乗り込む映像へと切り替わり、ナレーションがこう言葉を続けた。
『決して戦車道雄型は軍人や自衛官を志す者だけではありません。企業の経営者や、良き夫、父として誰からも求められる才能を育む事が出来るのです!!』
そして走行していたパンター戦車のキューポラから顔を出していた男性が中に入ると同時にこうナレーションが流れる。
『さぁ!!男子の皆さんも戦車道を学んで、強く、優しい男になりましょう!!』
そうナレーションが流れる当時に映像の中のパンター戦車がズドォーン!!と言う、砲声を立てて砲撃する場面でビデオが終わる。
その瞬間にドカーン!!とスクリーンの周りでセットされた爆薬が爆発する。


一言言って良いですか。
意味あるのか、この演出は?


んで、オリエンテーションビデオ終了後の生徒会3人組による説明によると、数年後に戦車道の世界大会が日本で行われる事が国際戦車道委員会によって決定。
これを受けて開催国の日本では、文部科学省が全国の高校や大学に戦車道に力を入れるように指示。
そして、この文科省の指示に答えるように、この大洗学園も20年前に廃止した戦車道を復活を決定し、現在に至るという訳である……。
んで、んで、生徒会副会長の小山先輩によると戦車道を選択し、優秀な成績を取った生徒には”食堂の食券100枚。遅刻見逃し200日、さらに通常授業の三倍の単位を与える”との事……、深夜番組の通信販売の売りつけ文句かよ……。





……

………




そんな話を聞いてホームルームの為に教室に戻る俺とみほ、裕也、沙織、華の5人。
いやぁー……、マジで色々と衝撃的な内容だったな……、戦車道のオリエンテーション……。
っていうか……、あー……、なんでかは知らないが……、クソッタレな迄に疲れたぜ……。
俺は何故か”妙な疲労感(※例えるなら全力でプールで遊んだ後の様な感じ?)”にどっぷり浸かりながら、教室に戻る為にトボトボと歩いているとみほの隣に居た沙織が妙に良い笑顔でこう言い放つ。
「私、やる!!」
「何を?」
沙織の隣を歩く裕也が問い掛けると沙織はこう裕也に言葉を返した。
「戦車道。最近の男子は強くて頼れる女の子が好きなんだって、それに戦車道やればモテモテなんでしょ?」
「「知らんがな」」
男子代表として俺と裕也が80年台のコンビ物の刑事ドラマの刑事の様に声を被らせて返す。
つーか、お前……、本当に恋がしたいんだな……、何だ?早い内に結婚しないと嫁にでも飛ばされるのか?
そう思いながら、沙織に顔を向けると当の本人は俺と裕也の言葉にカチンと来たのか「むっ~!!」と数秒頬を膨らました後、みほに顔を向けてこう言う。
「みほもやろうよ!!家元なんでしょ?」
「うん……、私は……」
沙織の誘いにみほは顔を暗くし、下を俯むきながら返す。
無理も無いな……、この学校に来て初めて出来た友達の頼みなんだから……、今のお前は断れない気持ちなんだろな……。


そんな事を思う俺と下を俯きながら返したみほの声を聞き、みほの隣に居る華がこう言う。
「その気持ち分かります……、私も実家が華道の家元なので」
「へぇー、そうなんだ」
そう言ってみほが華に顔を向けたその時、華は一回気を吸った後、こう言い放つ。
「でも、素敵じゃないですか戦車道」
「「「え?」」」
俺とみほと裕也が予想だにしなかった発言に思わず呆然とする。
っていうか、……、お前そんな事を考えていたの?
そりゃよく”人は見かけによらない”と言うけど、予想の斜め上を行く予想外ぷりっですね……、アンタ……。
そう思う俺と呆然とするみほの側で華はこう言葉を続ける。
「私、実は華道よりアクティブな事がしたかったんです」
「まぁ……、確かにアクティブだよね……」
そう言って裕也が言うのを聞きながら俺は頭のなかで華道と戦車道の様子を想像する。
確かに華道とは比べ物にならない程、戦車道はアクティブを極め尽くしている。
つーか、個人的に華道のイメージって静かに品よくと言う感じでアクティブの『ア』の文字なんてどこにも見つからない。
それ以前に”アクティブな華道”って何だよ?
そんな事を脳内で思い浮かばせながら青空を観ていると華が立ち止まり、俺とみほに顔を向けてこう言い放つ。
「私も戦車道やります!!」
「はぁっ!?」
「ほぇぇ!?」
俺とみほの驚き、裕也が「人は見かけによらないねぇー……」とボヤく側で華はこう言葉を続ける。
「西角さんもやりましょうよ!!色々、ご指導下さい」
そう言って深々と頭を下げる華に対して、頭を下げられたみほはどうしたら良いのか分からず、助けを求めるように俺の顔を見つめてくる。
いやいや……、お前が俺に助けを求めたい気持ちはよーく分かるけど……、正直言って俺もどうしたら良いのか分からん……。


みほの顔を見て俺はそう思うと同時に何と言って助けたらいいのか分からず華と沙織、裕也の顔を交互に見ていると、みほの背中に沙織が抱きつきながらこう言い放つ。
「やろうよ!!みほと一緒ならブッチギリでトップになれるよ!!」
「うぇぇ……」
「はぁ~……」
その様子を観てみほの事情を知る俺は溜息をつきながらこう言い放つ。
「おい、昼食時間の話聞いていたか?」
「「あ……」」
俺の言葉にみほの実家との関係を思い出した沙織と華はそう言って、みほから離れる。
この様子を見た限りでは……、どうやらスッカリ忘れていた様だな……。
うーむ……、少なからず気をつけて欲しいものだなこう言う事には……。
「ご、ごめんね……」
「す、すいません……」
そう俺が胸の内で思っている側で沙織と華は二人揃って謝罪を述べるが、やはり「戦車道をやりたい!!」と言う気持ちが捨てきれないのか、沙織は俺に顔を向けるとこう言い放つ。
「でも、龍も戦車道の雄型取るんでしょ?将来、自衛官になるんだし」
「うっ!!」
俺はこの沙織に発言によってグサッ!!と言う字幕が見えそうな程、かなり痛い指摘をされる。
そう、実際に自衛官を志す俺からすれば戦車道雄型の選択は”海外の軍隊で言う士官学校”に辺り、”幹部自衛官を育成する為の学校”である防衛大学校への推薦が取れる方法であり、「”自衛官になる”と言う俺の目標」の実現に大きな力となる。
だから、実の所はオリエンテーションビデオを見ながら真剣に悩んでいた……。
自分で言うのも何だが、俺自身……、そんなに頭は良くないんだよな……。
だから防衛大学校に入るには推薦があった方が安全ルートなのは確かだ……、だけど推薦を取る為に戦車道を選択したらみほを見捨てる様な事になりかねない……。
本当にどうすればいいんだ……?
「ま、まぁな……」
解答に困った俺はそう言って返答をボヤカしていると同じ様に自衛官志願の裕也が俺の今の立場に気づいたらしく、助け舟を出す様にこう言い放つ。
「まぁ、まぁ、ここは自分がやりたいものを素直に選ぶことにしようぜ、それが一番、平和、平和」
「そうだよね。ごめんね」
「えぇ、スイマセンでした。」
そう言って軽く笑いながら言い放つ裕也の言葉を聞いて沙織と華はそう言ってみほに再び謝罪を述べる。
「気にしてないよ」
この沙織と華の謝罪に対し、みほはそう言って笑顔を作るが、その顔を観て俺は溜息を付いた。
みほ頼むから……、本当に無茶だけはしないでくれよ……。





……

………



その日の夜、寮の部屋に戻った俺はホームルームで渡された選択必修科目の紙を見ながら悩んでいた。
戦車道雄型を取り、自衛官としての自分の未来を掴み取るか……、幼馴染としてみほを助けるべきか……。
ドッチも捨てがたい所があって決めるに決められないな……、はぁ……、頭が痛くなってきそうだ……。
「はぁ……」
そう思うと同時に深いため息を付きながら、机にその紙を筆箱を置いた状態で明日の学校の準備として教科書やノート、資料集をリュックサックに入れていく、そんな作業をしていた、その時であった。
机の上に置いてあった携帯が着信音を鳴らし、ブルブルと震え始める。
こんな時間に電話?もう夜の9時だっていうのに……、裕也や沙織、華がするとは思えないし……、一体誰だろう?
ジャスト9時を示す時計を見て、俺はそう思いながら携帯を手に取るとパカッ!!と携帯を開き着信先を見る。
すると、ディスプレイに書いてあった着信主の名は『西住みほ』であった。
「みほから……、か……」
やっぱりみほの戦車道に関して、どうしたら良いのか分からないのだろう……、だから俺に電話してきたんだろうな……。
そう思いながら、俺は携帯の着信ボタンを押して電話に出る。
「もしもし?」
『龍くん……?』
「あぁ、そうだが。どうした、みほ?」
俺がそう電話越しに問い掛けると電話の向こう側に居るみほが泣きそうな声でこう返してくる。
『私……、どうしたの良いの……?』
「戦車道……か?」
『……うん』
数秒の沈黙の後、再び聞こえて来たみほの声は涙声になりつつあった。
自分の中にある戦車道への確執と友情のドチラかを取るかで、もうみほの精神は限界になりつつある……。
電話越しに聞こえてくるみほの声でそう悟った俺の胸がズキッと痛む中、みほは涙声で言葉を続けた。
『私……、あの時の事がキッカケで……、お母さんにも愛想を尽かされて……、それで戦車道が嫌になってここま来たの……、でも、また戦車道をやらないといけないなんて……』
「みほ……」
『でも……、大洗に一人でやってきた私に……、龍くんと同じ様に手を差し伸べてくれた武部さんと五十鈴さんを……、裏切るような事なんて出来ないよ……』
「……」
みほはそう電話越しに俺に言うと遂に『ひっ……、あああ……、ああ……』と泣き出してしまうみほの声が聞こえてくる。


これは……、もう腹をくくる覚悟を決めるしか無いな……。


みほの声を聞いて、そう覚悟を決めた俺は深くため息を付くと必修選択科目の紙を手に取り、深く深呼吸をした後に電話越しにみほに向かってこう返す。
「みほ……、俺が戦車道を取るからお前は好きなのを選べ」
『え?それって……』
「あぁ、俺が犠牲になる」
俺がそう言い放つと携帯越しにみほが慌てたようにこう返してくる。
『そ、そんな!!私の為に!!』
……沙織や華だけじゃなく、俺の事まで心配してくれるなんて……、お前は本当に優しいな……。
そう思いながら、俺は一回息を吸ってこう告げる。
「気にするな、幼馴染を守れなくて国を守るなんて自衛官として本末転倒だぜ。沙織や華、生徒会には俺の方から説明しておく。だから、安心して他のを選んでくれ」
『………』
俺がそう言うとみほは携帯越しに黙りこんでしまう。
「おい……、みほ……?」
反応しないみほに対して、そう問いかけた瞬間だった。
『龍くん……』
「ん?」
小さいな声で俺の名前を言ったみほに対して、俺がそう聞き返すとみほは優しい口調でこう言い放つのであった。
『……ありがとう』
「どうも……。じゃあ、明日な」
『うん、じゃあ、明日ね』
携帯越しに笑顔を浮かべているみほを想像しながら俺はみほとの電話を切ったのである……。






……

………



翌日、俺とみほは揃って沙織と華に対して、みほが戦車道をやりたく無い事を説明する。
まぁ……、理解してくれない事は無いと思うが……、万が一と言う事もあり得る……、それだけが心配だった……。
そう思いながら、俺とみほは沙織と華に頭を深々と下げてこう述べる。
「ごめんね……。私……、やっぱり、どうしても戦車道をやりたくなくてここまで来たの……」
「俺からも頼む。どうか、みほの気持ちを分かってやってくれ……」
俺とみほが頼み込むようにそう言うのを見ながら沙織と華、少し離れた場所でその様子を見ていた裕也は互いの顔を見合わせると再び俺とみほに顔を向けてこう言い放つ。
「分かった、じゃあ私もみほと同じのにする」
「ごめんなさいね、悩ませてね」
「じゃあ、俺は戦車道を取るかな」
そう言って沙織と華と裕也は、必修選択科目の紙に書かれた戦車道の選択を消し、みほが選択した華道を選び直し、裕也は白紙の必修選択科目の紙の選択肢の戦車道に丸を付ける。
えー……、これは……、ちょっと別の意味で予想外の展開なんですけど……。
それを観て胸の内でそう思う俺の側でみほは慌てふためいた様子でこう言い放つ。
「そ、そんな!!3人とも好きなのを選んで!!」
「裕也、お前も戦車道をやる必要は無いんだぞ?」
俺とみほがそう言い放つと3人は笑いながら俺とみほにこう返す。
「良いよ!!だって一緒がいいじゃん!!」
「それに、私達が戦車道をとったら西住さんが嫌な事を思い出してしまうかもしれませんし」
そう沙織と華が言うのに続くように裕也がこう言う。
「つーか、男子でお前一人が戦車道選択して他の男子が取らなかったら、お前ハーレム状態じゃん、全男子に殺されるぞ」
「流石にそれは無いと思うが……」
俺が引きつった笑顔で裕也に返すとそれを観てみほと沙織、華も笑うのであった。


その後、学食に向かい俺達は昼食を取る。
本日の昼食は俺が担々麺、その隣のみほが海鮮丼、裕也がチャーハン、沙織が日替わり和食定食、華がチーズハンバーグ2枚にご飯大盛りと言った内容だ。
っていうか、華……、お前は本当にど偉い大食らいだな……、俺の母さんといい勝負じゃないのか?
ちなみに俺の母さんだが、職業は福岡で全国チェーンの”ファミレスの店長を務めているが、出来る仕事はレジ打ちだけ、そんでもって何時もファミレスの食材を食らっている”親父に引けを取らない『変人』だ。
まぁ……、外見こそはスレンダーで比較的スタイルも良いクルービューティーなので美人の領域には居る……かもしれないのだが……。
そんな感じで福岡に居る母さんの事を思い返しつつ、昼食を食べる俺達の周りでは昨日の放課後に行われた戦車道のオリエンテーションの影響もあってか、戦車道の話題が聞こえてくる。
「必修選択科目どうした?」
「悩んだけど、私、戦車にした」
「うっそ~!?私も~!!」
そう言う女子もいれば、反対に。
「戦車道やる男なんて、自衛官かよっぽどのモノ好きだよな~」
「あるいはオカマだな」
そう言って笑う男子も居る。
っていうか、お前らが馬鹿にしている自衛官のお陰で今の日本の安全が保たれてるんだぞ……、ぶち殺したろか?
自衛官の息子としてそう思いつつ、笑っていた男子に軽く殺意の滲み出る視線を向けるとその男子も只ならぬ殺意に感づいたのか、ゾッとした様な表情になる。
まぁ……、いずれにせよ戦車道の話題で持ちきりという現状に変わりは無い。
「……」
こんな場の空気にみほの表情が沈む。
そりゃそうだろ……、自分が嫌だと思う話がそこら中でされているんだからな……。
そんな、みほの表情観て、沙織がこう話を切り出す。
「帰り、皆でさついまいもアイス食べに行かない?」
「あぁ、あれ旨いよな」
そう言って裕也が沙織に続くように言うと華も言葉を続ける。
「大洗はさついまいもが名産なんですよ」
「あ、知ってる。干し芋とか有名だよね」
「一部の地域では乾燥芋とも言うらしいぜ」
「そうなんだ」
俺に続くようにみほそう言った瞬間、スピーカーから生徒会広報の川島先輩の声が聞こえてくる。
『普通1科 2年A組 西住みほ、大至急、生徒会室に来るように。以上』
この呼出に俺はこう呟く。
「何かやべぇぞコレは……」
「あぁ、嫌な予感がする」
裕也が俺に続くようにそう言う側でみほはどうしたら良いのか分からず沙織、華、俺や裕也に顔を向けながらこう言う。
「ど、ど、どうしよう……」
「私達も一緒に行くから」
「落ち着いて下さい」
そう言って沙織と華がみほを落ち着かすように手をとるのを見ながら、俺は隣の裕也にこう告げる。
「お前も来てくれ、味方は一人でも多い方がいい」
「分かってるって」
俺の頼みに裕也がそう言って笑うのを観た後、俺は生徒会室へと向かうみほ、沙織、華、裕也の背中を観てこう思った。


こりゃ、一騒動起きるな……。




……

………


「これは、どういう事だ?」
そう言って川島先輩が生徒会室へとやってきた俺達に付き出したのは、戦車道では無く、華道が選択されているみほの必修選択科目の紙であった。
「何で選択しないかな~?」
ムスッと不貞腐れた様子の角谷会長の声を聞いて川島先輩が角谷会長の方を振り向きながらこう言う。
「我が校、喜多川龍と西住みほを除いて戦車経験者は皆無です」
「終了です……我が校は終了です!!」
そう言う小山先輩に対して最初に反論したのは沙織であった。
「勝手なこと言わないでよ!!」
「そうです。やりたくないと言っているのに無理にやらせる気なのですか」
「会長達は、一体何があって彼女に無理やりにでも戦車道を選択させたいのですか?」
沙織に続くように華、裕也が反論すると会長がふてぶてしい態度でこう返す。
「黙って選択してりゃこんなことにならなかったのに……」
黙って選択してりゃ……?つまり、みほに犠牲になれって事か……?
ふざけんじゃねぇぞ……、ふざけんじゃねぇぞ……!!
そう胸の底で沸き起こるドス黒い感情を噛み締めつつ、俺は会長達に対して低い声でこう問い掛ける。
「何故……、彼女が犠牲にならないといけないんですか……?」
「彼女がお前と同じ戦車道の経験者だからだ」
そんな理由なだけで無理矢理でも、みほに戦車道を選択させるっていうのか……?
それを聞いて俺の中で決定的な何かがブチン!!と音を立てて切れると同時に、まるで獲物に食らいつく猛獣の様に俺は川島先輩に対して殆ど無意識の内に噛み付いた。
「まだ……、まだ……、犠牲が足りないというのですか!?」
「!?」
「彼女はやりたく無いと言っている!!だが、アナタ達は無理やりにでもやらそうとする!!どういうことなんですか!!説明してくださいよ!!」
そう怒号を上げて怒り心頭で生徒会メンバーに食らい付く俺を観て生徒会長メンバーを始めとし、みほ、沙織、華が呆然と見ている側で裕也が俺を止めに入る。
「龍、落ち着けって……」
「これで落ち着いてられるか!?ふざけんじゃねぇよ!!このクソ生徒か……」
「落ち着け!!」
「ぬほっ!?」
突然、ガシッ!!と両脇を掴まれる様な感覚を覚えて、ふと横を見てみたら裕也がガッチリと羽交い絞めを決めていた。
お前凄いな……、どうモガイても外れる気配すら見せやしない……。


そう思う俺に羽交い絞めを決めつつ、裕也は生徒会メンバーに向けてこう言い放つ。
「コイツの暴走は謝りますが、彼女を無理やりにでも戦車道に選択させるアナタ達の考えには俺も龍も同意出来ません」
「そうよ!!みほは戦車やらないから!」
「西住さんの事は諦めて下さい」
そう裕也、沙織、華が生徒会メンバーに懇願するが、会長は不貞腐れ顔でこう言い放つ。
「そんな事言ってるとあんた達この学校に居られなくしちゃうよ?」
そう言う会長の表情をソファーの上から見ると実際にやり兼ねない表情をしている。
この明らかなる脅しに対して裕也達も反論する。
「っ!?」
「それは、会長たちに何の権限があっての発言ですか!!」
「脅すなんて卑怯です!」
沙織、華、裕也の反論に生徒会のメンバーは聞く耳を持たない、いや、持つつもりも無い。
生徒会メンバーからは後輩がワガママを言ってるようにしか聞こえないのだ。
そんな生徒会メンバーの一人である川島先輩が冷徹にこう返す。
「脅しじゃない。会長はいつだって本気だ」
「そうそう」
「今のうちに謝ったほうがいいと思うよ? ね、ね?」
川島先輩に続くように会長と小山先輩が諦めるようにそう言うが、この発言は火に油を注ぐ様な物だ。
ある意味当然ともいうべきか沙織、華、裕也達も声を荒げて生徒会メンバーに反論する。
「酷い!!」
「横暴すぎます」
「ホントですよ!!」
「横暴は生徒会に与えられた権利だ」
「何ですか、そりゃぁぁ!!」
ずっと平行線の言い争いが続く中、俺は裕也に羽交い締めされながらみほを見る。
顔を俯け底が見えない程、何処までも暗い表情で、沙織と華の手を握りしめ、体を震わせる。
だが、何かを訴えたいのかみほの瞳にはしっかりと意志が宿っている。
みほは一体何を訴えたいんだ……?
それにしても……、クソ……、これじゃキリがない……、とりあえず……、一度落ち着いて裕也達の列に加わるか……。


みほの表情を見て、俺はそう思いながら、裕也、沙織達と共に反論を言おうとした瞬間であった。
目を瞑り、一段と体の震えを大きくし、沙織と華の手を力強く握りしめたみほは覚悟を決めた様に一回、息を吸った後、大声でこう言い放つ。
「あの!!私!!」
「「「ん?」」」


「っ……戦車道、やります!」


「「「「ええええええええ!?」」」」
みほ……、お前……、それ……、本当に言ってるのか……!?
このみほの発言に思わずソファーから飛び起き、驚愕する俺の視線の先では、同じ様にみほの発言に驚愕する沙織、華、裕也の姿があった……。






……

………



生徒会とのやり取りの末にみほが戦車道を選択するという結末を迎えた俺達は、放課後の帰り道でアイスクリーム店に寄り道し、さついまいもアイスやアイスフロートに舌鼓を打っていた。
「裕也……、さっきの羽交い締め・・・・・・、何気に関節技決めていただろ・・・・・・、地味に効いたぞ……」
「まぁね」
そう言ってさついまいもアイスのかぼちゃ味を食べる裕也。
まぁね……、って……、喰らった俺は未だに体の関節が痛むんだけど・・・・・・。
レントゲン撮ったら「骨折れてますね」なんて事とかはないよな?
折れていたら、保険料並びに治療費をびた一文まけることなく払わせるぞ・・・・・・。
そう思いつつ、俺が裕也を睨みつける俺の側でみほが俺に問い掛ける。
「そんなに凄かったの?」
「あぁ、コイツ|(裕也)空手の黒帯だからな・・・・・・、体中の骨にひび入っているかもしれないぜ・・・・・・」
「そんなに……?」
みほの問い掛けにそう返事を返すと、みほが若干引き気味の表情になる。
みほ……、お前の顔が引きつるような例えなのは俺自身もよーく分かっている……、だけど例えがそれしか無いんだよ……。
「西住さん、大丈夫。俺、男は締めても女は締めない主義だから」
「あはは……」
俺に続く様にそう言い放った裕也の言葉を聞いてみほは軽く笑う。
そりゃなぁ……、もう笑うしか無いよな……、ここまで来ると……。


そう俺の側でみほを見ながら華が話しかける。
「でも、本当に良かったんですか……?」
「無理しなくても良かったんだよ?」
華に続くように沙織がそう言い放つとみほは首を横に振ってこう言い放つ。
「大丈夫……」
そう一言ポツリと呟くアイスクリームコーンを握りしめながらみほはこう言葉を続ける。
「私……、嬉しかった……。4人が私の為に一生懸命……、私そんなの初めてだった……」
そう言うみほの言葉を聞きながら俺がコーラの上にさつま芋アイスバニラの浮かぶ、フロートをズズッーと飲む側でみほは言葉を続ける。
「ずっと私の気持ちなんて誰も考えてくれなくて、お母さんとお姉ちゃんも家元だから戦車道するのは当然って感じで。まぁ、あの二人は才能あるからいいけど。でも……、駄目な私は、いつも……」
「「「「……」」」」
そう言い放ちみほが下を俯くとしばらくの沈黙が俺達を包み込む。
それを打ち破るかのように沙織は自信のアイスをスプーンですくうとこう言い放つ。
「私のさつま芋アイス、チョコチップ入りぃ~!!」
「私のはミント入りです」
「うわぁ~、美味しい」
沙織と華から渡されたさつま芋をアイスを口にしたみほは微笑みながらそう返す。
まぁ……、案外……、これで良かったのかもしれないな……。
そんなみほを見ながら俺はこう思ういつつ、コーラフロートをズズッー!!と喉へ流しこむのであった。






……

………



その翌日、遂に戦車道の授業が始まった。
20年以上前に立てられた戦車道用の戦車格納庫の前には戦車道を選択した生徒たちが集まっている。
その人数は俺とみほ、沙織、華、裕也、生徒会の3人の他に女子が14人に、男子が俺と裕也の他に7人居た。
っていうか、予想以上に男子が居るな……。
下手したら俺と裕也だけの”ハーレム状態”すら、あり得ると思っていただけにチョット意外だ。
「案外……、雄型選択する奴居る物なんだな……」
「あぁ、多くはB組の連中だぜ……」
俺と裕也がそう言葉を交わす側で固まっていた3人の男子が俺と裕也に気づき歩み寄ってくるなり、話しかけてくる。
その3人の男子に俺と裕也は見覚えがあった……。
「何だよ、お前らも取っていたのか?」
「うるせよ、玄田」
そう言って俺が返す相手はB組の男子生徒である玄田高次|(げんだこうじ)。
世間一般で言う”細マッチョ”とは言い難いぐらいにマッチョな体、それと共に脳みそまで筋肉な為か一言でまとめると”脳筋&バカ”。
あー……、よくよく考えると意味は同じか……。


そんな事を思いながら、玄田の顔を見ていた俺はこう問い掛ける。
「んで……、お前も戦車道を選択したの?」
「あぁ、防衛大学校志願だからな」
「「あっそ……」」
玄田の口から出るとは思わなかった”防衛大学校”と言う言葉に俺と裕也は半場、呆然としながら言葉を返す。
実はこのガリマッチョ&脳筋野郎も俺と裕也と同じく自衛官志願で進路では俺と裕也と同じ防衛大学校を志願している。
ちなみに自衛隊での志願先は陸上自衛隊の”レンジャー隊員”だとの事。
正直言わせてもらうが、こいつが行けるとは俺も裕也も到底思っていない。
こんな”猪突猛進”、”単純明快脳筋野郎”が奇襲部隊の隊員になったら、日本の国防はガタガタだと言わざるを得ないぜ、ハッ!!
そんな事を思って裕也と二人で苦笑いしていると玄田がカチン!!と来たのかこう言い放つ。
「何だよその目はぁぁ!?」
「落ち着け」
「くそっ!!離せ!!」
そう言いながら殴りかかろうしてくる玄田に裕也がガッチリと羽交い絞めを決める。
それから逃れようと必死に玄田はもがくが、武道の達人である裕也の羽交い絞めが簡単に外れるわけが無い。
全く……、これだから脳筋は……、少しは脳みそを動かして物事を考えろっての……、お前も”一応は”自然界の頂点に立つ人間だろ?
俺がそう思うと同時に玄田はバッテリー切れなのか「ゼーハー……、ゼーハー……」と肩で息をしていた。


そんな玄田を見ていると、残る2人の男子が俺と裕也の元にやってくる。
「いやぁ~、相変わらずだねぇ~」
「おい玄田、大丈夫?」
「イケメンに心配されたくないわ……」
「僕の扱い酷くない?」
一人は玄田と同じくB組に在籍する男子生徒の葵直政|(あおいなおまさ)。
年中”お祭り騒ぎ&お馬鹿野郎”。と言っても、成績は意外や意外で優秀枠。
なーぜーかー、学年2位の成績を叩き出す優れた頭脳の持ち主……、一体世界はどうなってやがる!?
こんなおバカ野郎が学年2位の成績優秀者だと!?神が作るものを間違えたとした言い様が無いぜ!!
そんでもって、残るもう一人の男子は木場正純|(きばまさずみ)。
学園全部の男子生徒の中で唯一の”透き通る様な美しい銀髪”をしており、その銀髪に相応しい美貌を持つ”超イケメン”。
そんでもって性格良し、頭脳も上々と非の打ち所が無い”完璧野郎”だ。
だから当然とも言うべきか学園に居る全部の女子が注目する存在であるのと同時に、全男子生徒から敵意並びに殺意を向けられるという悲惨なやつでもある。
ちなみに、沙織も当然というべきかコイツを狙っており、ここまでやって来て木場の姿を見つけた時なんか……
「キャー!!木場君よー!!キャー!!」
無駄にハイテンションになってみほや華にキャー!!キャー!!言っていた。
沙織……、お前は某有名アイドル事務所に所属するアイドルのファンかよ……、音楽番組で歌っていてファンの声援が大きすぎて曲が聞こえなくなる程度の音量だぞ……。
まぁ、そんな沙織は側に置いておくことにして……、次いでに言うとこの二人も自衛官並びに防衛大学校を志願している。
と言っても、自衛隊における志願先は俺、裕也、玄田の様に陸上自衛隊では無い。
葵は海上自衛隊並びにダイバー、そして木場は航空自衛隊の戦闘機パイロットだそうだ。



そんな2人&ダウンより復帰した玄田と共に途方も無い会話を交わしていると河嶋先輩の声が聞こえてくる。
「全員静かに、これより戦車道の授業を始める」
川島先輩がそう言うと一人の女子が川島先輩に問い掛ける。
「あの~?戦車は?ティーガーですか、シャーマンですか?それとも……」
「さぁ~、何だっけ?あ、小山、川島、ドア開けて」
そう言いながら会長が倉庫のドアを小山先輩と川島先輩に開けさせる。
すると、そこにあったのはボロボロの4号戦車D型であった
「うえぇ~……」
「ボロボロ~」
「何コレェ~?」
「ありえな~い」
そう1年の女子達が愚痴をこぼす側で木場の隣にいる玄田もこう言い放つ。
「何だコレ?完全に撃破状態じゃねぇか」
「完全に撃破……とまでは行かなくても修理は必須だね、こりゃ」
そう言う玄田の木場の言葉を聞きながら華と沙織も言葉をかわす。
「侘び寂びがあって良いじゃないですか」
「いや、あれは鉄さび」
そんな感じで各自、ボロボロの4号戦車を観て各々が抱く考えを口にする側で、みほがゆっくりと4号戦車に歩み寄り、車体側面装甲板に手を置き4号戦車を見渡し、微笑みながらこう呟く。
「装甲も転輪も大丈夫そう、これでいけるかも」
「「「「おおおおおお」」」」
戦車格納庫に選択した生徒たちの声が響くのを聞きながら俺は自分たちの戦車道が始まった事を再認識するのであった……。